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17-11.若竜の庇護下にあると周知すること(後編)

前回のあらすじ:魔法陣を壊すことなく、定量的かつ簡単に調べられる魔導具が、玩具みたいな可愛い動きをするので面白かったです。あと、若竜達と対になる竜神子達に対して、若竜が加護を与えるか、庇護下にあると周知したいとの要望が出てきたので、それをいつものメンバーを集めて話し合いました。大筋は決まってて後は微調整だよね、と思ったら、全然そんなことはなくてボコボコに凹むことになりました。泣きたい気分です。(アキ視点)

ベリルさんが、周知をする件について、ホワイトボードに箇条書きにしてくれた。


分けてみると、①若竜が竜神子を庇護下に置いたと周知すること、②周知の為に若竜が各地を訪問すること、③竜が竜神子と親しい関係にあるとアピールすること、④竜神子が不慮の事故に遭わないように末端まで竜神子の容姿を把握すること、⑤若竜が幻影で竜神子を示すのは周知方法としては不適切、⑥幻影を表示する魔導具を配るだけでは天空竜との関係強調の点に不満、といった感じになった。


こうして並ぶと、色々と欲張り過ぎなのと、整理されてない感があるとわかる。


お、ケイティさんが手を上げた。


「皆様にはあまり馴染みのないことと思いますので、私の方から補足しますと、特定の人物を探すといった依頼、例えば犯罪者を捉えるといった場合、本人の写真や写実的な絵よりも、線画で描いた似顔絵の方が発見に繋がりやすいといったことがあります。似顔絵は特徴を誇張して書いているのでイメージしやすいのです」


これにはジョウさんも同意した。


「箇条書きの④に記されているように、竜神子が不慮の事故に遭う、つまり、この秋の成人の儀の戦いに巻き込まれたとしても無事であることを実質的に担保したいなら、従軍する軍人全員に対して、似顔絵や背丈、特徴などを記した指示書を配布した方が現実的だろう。幻影を見せるだけでは、戦場で似た人物を見かけた時に、その場で確認する術がない。それに記憶は悪意がなくとも霞み、変化していくものだ。そもそも従軍する兵士達の第一目標は竜神子の確保ではない。他に優先すべき目標がある中、遠目で区別できる特徴でもなければ、それをいちいち気にしてなどいられまい」


それはまぁ、理解できる。


地球(あちら)の場合も、傷病者救助活動を行う赤十字社という人道支援団体がいて、その名の通り、白地に赤い十字の描かれた旗やマークを掲げていて、一応、世界中の国々が赤十字を掲げた施設やスタッフには攻撃しない、という条約を批准してるんですけど、実際の戦場においてそれが徹底されているかというと微妙ですからね。それでも無いよりはマシなので、竜神子を示す標章とかを用意するのも良いかもしれません」


ベリルさんがホワイトボードに赤十字マークを描いてくれた。合わせて簡単なテントの絵と、そこに赤十字マークが描かれているパターンとか、旗を立ててるパターンも示してくれて、皆も具体的なイメージを掴むことができた。


「竜神子は竜族と地の種族の間に立ち、両者を繋ぐ存在であり、どちらにも肩入れしない。地の種族は誰だって竜族に睨まれたくはないのだから、竜神子支援機構は誰に対しても中立であるとするのは良いアイデアね。その旗みたいにシンプルなら、周知の徹底もできそうだわ」


エリーは賛成、ガイウスさんはどうかな?


「特定の人物を庇護下にあると識別するよりも、屋敷やテントのような施設に、そういった標章が目立つ形で描かれていれば、夜間や遠間でも識別がしやすいかと思います。異種族の人物を認識させるのは憲兵隊に限ったとしても難しいと感じていますが、標章の識別であれば末端まで認識させることもできると思います」


ん、いいね。セイケンはどうだろ?


「鬼族の戦い方は、体躯を活かした長射程武器による遠距離攻撃や、敵集団を纏めて薙ぎ払うといった形となるから、個人を識別しろ、というのは難しい。だから、竜神子がそれと分かる屋敷にいて中立を宣言してくれているなら、我々としても受け入れやすいな」


ラスト、ジョウさんは?


「もう意見は出尽くした感があるが、各種族で装いの文化も違う中、竜神子を遠間でそれと認識できるような共通的な姿とするのは難しいだろう。施設単位で中立となっていてくれれば、事故は減りそうだ。ただ、安全を求める市民が竜神子の屋敷に、助けてくれ、と殺到するような状況が考えられるが、そのような事態は誰にとっても不幸だ。まぁ、その辺りはおいおい考えればいいだろう。竜神子支援機構は組織としての活動を始めてはいるが、庶民まで含めた周知はまだ行ってはいない。関係する諸勢力が中立を認める条約、ロングヒルで締結するならロングヒル条約といったところだろうか」


ん、なんかいい感じだ。


エリーはちょいと頭が痛いってポーズを取ったけど、否定する感じではない。


「ちょうど、この秋、成人の儀の戦争が行われる前に、三大勢力の代表もロングヒルに集うから、そこで条約締結する方向で提案すれば良さそうですね。標章は目立つことを考えると、赤十字と同様、白地にシンプルなマークというパターンが良いでしょう。各勢力から案を持ち寄って貰って、文化的に許容できないマークもあれば出して貰って、その場で決める感じで。それくらいシンプルなら、戦争前に竜神子の屋敷に掲げる旗も用意できるでしょう」


これで、竜神子の安全確保、中立アピールまではOKだ。





「今の話だと、若竜が幻影を示す必要はなくなるんですけど、若竜が竜神子と親しいと示すこと、竜と地の種族が共に歩む時代がきた、と示す為にも、周辺国やまつりごとでの上位国に若竜を訪問させたい、という思いはあります。帝国や連邦を訪問した時もそうでしたけど、話に聞いただけなのと、実際に現れるのではまるでインパクトが違うと思うので、ここは何とかしたいです」


せっかく、ふらりと寄れるのだから、顔見世くらいしておきたい。……まぁ、前例もあるので、皆も渋い顔をしながらも、その意味は理解してくれていた。


ただ、竜神子無しで天空竜が訪問する、というのがやっぱりネックだった。


「帝国や連邦の訪問に倣って、共和国から緩和障壁の魔導具を貸し出すというのはどうでしょう?」


そう切り出してみたけど、ジョウさんがそれを否定した。


「そもそも、貸し出せる緩和障壁の魔導具は一セットしかない。アキの話では、三十人の竜神子が住む国、その周辺国を概算で十か所としても、合計三百か所か。一日で移送して設置して、天空竜の訪問に利用するとしても、合計三百日、時間がかかり過ぎて現実的ではないだろう。それにそれだけ日数が経過したら、来年度の竜神子達も増える。ちなみに緩和障壁の魔導具にそんなペースで魔力を注入し、問題なく稼働させるのは容易ではなく、数を増やすのも簡単な話ではない、とは思ってくれ」


 あぅ。


セイケンも否定的な意見だ。


「アキが求める周知は、一部の為政者達だけでなく、市民まで含めて広く知らしめたいのだろう? それに、連邦だけでなく、帝国や連合も、各地の為政者達は既にどこかのタイミングで、天空竜と間近で対面する機会を持った者も多い。洗礼の儀をやるのではないのだから、間近での対面を可能とする緩和障壁に拘る意味は薄いと思うぞ」


 むぅ。


お、ガイウスさんが手を上げた。


「市民に周知することに目標を絞るのであれば、若竜の皆さんが都市の上空をゆっくり飛びながら、思念波で人々に語り掛ければよいのではないでしょうか? 帝都訪問の際も雲取様が去り際に、拡散型の思念波で強く語り掛けた様は、未だに多くの人々の語り草になっている程です」


 ふむふむ。


「えっと、例えば、若竜が、人々がその存在を強く意識する程度の高度でゆっくりと城塞都市を周回飛行して、思念波で、自身の竜神子が決まったこと、それを喜ぶ思い、竜神子が中立であり竜も中立であること、それを各勢力がこの秋に条約で認めること、後は、共に歩めることを好ましく思う、とか語ればいい感じでしょうか?」


僕の提案に、エリーも条件付きだけど賛成してくれた。


「若竜の訪問する日時は予め連絡をすること、周回高度については竜の圧を感じられながらも負担にならないよう慎重に調整すること、語り掛ける思念波も、雲取様がされたように、穏やかな思いとすること、辺りは必要でしょうね。ロングヒルの事例は示せるから、それを参考に各国は、若竜の遊説飛行を受け入れれば良いと思うわ。そうね、少しずつ高度を下げて貰って、止めて欲しいタイミングに信号弾で合図をするとかで良いんじゃないかしら」


ん、いい感じだね。


「それなら、市民の皆さんの負担も少なそうだし、弱い人は予め避難所シェルターに入るなり、他の都市に避けて貰うなりできそう。思念波だから、竜の感情もきっちり伝わるし、竜が身近にも感じられるし、話し終えたら飛び去るから負担もさほどではない、必要事項はクリアできるね。あ、竜神子のいる国の上位が被ってると、何回も訪問されて手間かな? それならタイミングを合わせて重なってる若竜が纏めて訪問した方が――」


その方が楽かと思ったけど、ガイウスさんに駄目出しされた。


「雲取様が帝都を訪問された際、雌竜の皆様が距離を離してはいたものの周回飛行されており、それだけでも市民に強い印象を与えることになりました。確かにロングヒルのように七柱の雌竜の方々が訪問してきた事例もありますが、そこまでする意味は薄いと思います」


 ふむ。


それにはエリーも深く頷いた。


「あの時は今ほど竜族への理解も深くなかったから、我が国は共和国の大使館領も含めて、臨戦態勢に移行して一触即発の事態となっていたわ。避難所シェルターへの移動がスムーズに行えたのは、我が国が最前線を担っているからであって、どの国でも同じことができるとは期待しない方がいいわね。それと、七柱もきたことで、対応した兵士達だけでなく、避難所シェルターに逃げ込んだ人々も疲弊することになった。訪問は一度に一柱とすべきよ」


その時の話はジョウさんも補足してくれた。


「七柱襲来の際は、普段は空間鞄内にいる魔導人形達も全員出して、対空戦闘配備をすることになった。結局、争いは起きなかったが、極度の緊張に晒された者達は、人形遣いも、魔導人形も精神的に大きな負担を受け、平静を取り戻すまで多くの時間を費やした。決死の覚悟を強いられれば、それを任務とする兵士であっても、やはり軽く流せるものではないのだ」


いくら、何千人という人数で投槍ジャベリンを持ってても、それは傷つけられる武器を持ってるだけで、竜から逃げ切れる機動力はないし、竜の攻撃に耐える防御力もない訳だからね。攻撃をして仕留められなければ、反撃で全員消し炭になる。そんな状況は、いくら訓練を積んだ兵士であっても平静ではいられない、と。


「では、重複する場合、若竜の誰かが代表する形で訪問する方向で打診しましょう。周回する半径とか高度については各勢力のご要望に沿う形で、ロングヒルの事例もセットで渡して検討して貰うことに。魔導具の貸し借りも不要になるから、遊説飛行も各地で並行実施して、秋の戦い前には一通り終えられるでしょう」


そう締めると、皆もまぁ、そうだね、と一応頷いてくれた。





ベリルさんが板書してくれた内容を見る限り、この話し合いで一応、各勢力から無理なく同意を得られそうな案を提示できるところまでは辿り着けたと思う。


「お爺ちゃん、さっきの条約だけど、妖精さん達も批准はできるかな?」


「国交は弧状列島が統一してから、というのが儂らの方針じゃが、全国百箇所での呪い研究の件もあるからのぉ。いざという時の事を考えると批准した方が良いじゃろう。呪い研究チームも各勢力の合同であって、まつりごとのごたごたからは離れるべき存在でもある。いっそ、呪い研究チーム自体の所属も竜神子支援機構の下とした方が良いかもしれん。仕事の内容は異なるが、いちいち別の旗を用意しても混乱するじゃろう? どうせ、中立であって手出し無用、とする点は同じじゃ。……研究には竜族も参加するのだから、研究チームも竜族の庇護下、と宣言する手もあるじゃろうが、それは固有の竜と竜神子の関係ではなく、竜族と研究チームという関係になるから、ちと竜族側の調整もいるじゃろう」


 ふむふむ。


「小型召喚の竜が参加する研究チームなら、その竜が庇護下に入れる、としてもいいけど、召喚枠は妖精さん達を考えると、最大でも五枠、でも何かに備えて一枠は空けておきたいから四柱が限度。研究チームが何チームになるかわからないけど、竜のいない研究チームを、竜族全体として庇護下とするって話は確かに簡単には行きそうにないね」


お、リア姉が手を上げた。


「そこだけちょっと割り込むね。研究チームだけど、鬼族の先行メンバーが帝国入りしているけど、今年度中はどうやっても、他の種族が合流してチームを結成して運用し始めるのが精一杯で、チームを増やすどころじゃない。だから、近々で言えば、研究チームには小型召喚竜もいるから、チームが増えるまでは、その竜の庇護下にある、とすればいい。さっきの話だと、竜族の各部族の意見を調整して、研究チームも含めて中立、と周知するんだろう? 中立や条約締結の概念を伝えたり、竜族の全ての竜に中立を示す標章を覚えて貰うのは、結構時間がかかるだろうさ」


確かに。


今年の秋の戦争さえ乗り切れば、次は来年だから時間的にも猶予がある。


「その辺りは雲取様と相談してみましょう。後は登山を終えた後になるけど、若雄竜の三柱に動いて貰うのも手ですね。新たなルールの締結と徹底には丁度いい話でしょう。小型召喚竜だと圧がなくて、襲撃を避ける効能は少ないから、竜神子支援機構の標章を掲げておく感じかな」


小さく始めるのに丁度いいですよね、と皆に同意を求めたけど、皆は諦観の感じられる眼差しで苦笑した。


「えっと?」


否定するでもなく、同意するでもなく、というか仕方ない、といった雰囲気に何を言えばいいかわからず、誰かしらの反応を求めてみた。これにはリア姉が答えてくれた。


「色々と、ほんと、色々と思うところはあるんだけど、きっと話を振られる雲取様や若雄竜達、各勢力の代表も含めて、どこまでが計算尽くなのかと頭を悩ませるだろうと思ったのさ」


待て、それは竜神の巫女の罠だ、なんてリア姉が揶揄ってきた。


「それは、こうして皆さんに相談して、色々と考えが穴だらけだったことを指摘されてる通り、そんな先々まで考えてないし、こちらに合わせて実行力がある施策に落とす部分はお願いするしかないよ?」


だから頭を悩ませたりしないでしょ、と抗弁してみたけど、ケイティさんが笑顔で否定した。


「アキ様、確かに本日のように内々の話し合いに参加されている方は、誤解することは少ないでしょう。ですが、公に竜神の巫女が発する提案だけを聞いている方々はどうでしょう? 三大勢力が合同で停戦を宣言したのも、弧状列島統一に向けた取り組みに動き出したのも、アキ様が現れてからです。二つの勢力間での条約締結や調整は確かにありました。でも、弧状列島全体、竜族や妖精族まで含めた視点を示したのはアキ様が初めてなのです」


 う。


「だって、外に向けた活動でミスがあれば多くの人に迷惑が掛かるじゃないですか。そうならないためにも内々では、忌憚なき意見を出し尽くして、良さげな落し処を見つけて行かないと」


「そうだね。だからアキもこうして、涙目になりながらも良い経験を積んだ訳だ」


リア姉が意地の悪い顔をした。ちらりと他の人を見ると、ケイティさんが計画通りって顔をしてる。


「もしかしてケイティさん、今日、こうなるのを見通してました?」


「若竜達への教育が立て込んでいることもあり、浅い思考に留まっているとは感じていました」


 むぅ。


それなら、忠告してくれともいいのに、と恨みがましい視線を向けたけど、ケイティさんはそれも予想通りといった余裕の表情で微笑んだ。


「失敗できない外向けと、失敗が許容できる内向けの話があり、内向けの場で失敗をすることを恥じることはない。それを許容される立場にあることを喜び、活用すべき。そう、アキ様も話されていたので丁度良い機会と判断しました」


 ぐ、ブーメランがまた刺さった。


「代表の方々に送る書面には、私信で苦労した話も暴露しておくことね。遠方にいる相手からすれば、アキからの書と、ロングヒルにいる人々からの報告書だけが頼り。適切に伝えないと誤解が広がるわ」


エリーも目を細めながら、そんな忠告をしてくれた。


ガイウスさんもその通りと頷く。


「アキ様、我々が本国に送る報告書ですが、それはあくまでも我々の視点で書いた内容に過ぎません。外からみてどう感じたか、何が予想できるかは書いても、それはアキ様自身の告白とは同じではないのです」


ジョウさんもこの意見には同意した。


「アキやケイティ、マコト文書に精通した面々には当然の帰結であっても、そういった知識がない者達にとっては、論理の飛躍と感じられることも多い。なぜ他のパターンでは駄目なのか、その提案が妥当なのか。説明されればなるほどと思える。だが、全てが語られる事はなく、疑問は尽きない。共に話し合ってもソレだと忘れないことだ。心の内を察してくれ、などという無茶を求めてはいけないぞ」


共感がそもそも難しいのだ、とも言われた。


皆の意見を受けて、セイケンに視線を向けると、なんか微笑ましいものを見るような温かい眼差しをされた。


「確か、子供なのだから大人を頼ればいい、だったか。良い意見と思う。足りないと自覚してるなら、誰かの手を借りればいい。幸い、アキの周りには、一緒に悩もうと言う者達も多い。だから、安心して失敗すればいい。勿論、同じミスを繰り返すような横着をしたら皆が叱るが」


 うー。


依代の君に語った話がもう伝わってる。またもやブーメランだ。もう刺さるところがないと泣きたい。


「皆さん、なんか愛が重いですよ」


ちょっと不満を込めて恨みがましい視線を向けてみた。


「甘やかすのだけが愛じゃないよ」


リア姉がそういって、僕の頭を撫でてくれた。





色々と身に染みる経験ではあったけど、一応、各勢力への提案を取り纏めることはできた。皆さんの愛が少し重い気もするけど、大切に思われてることは理解してるから、感謝しよう。


それはそれとして、殆ど聞き役に徹していたリア姉だけど、得るモノはあったんだろうか?


「えっと、皆さん、今日は相談に乗っていただけてありがとうございました。朧気だったアイデアも、現実味のある提案へと昇華することもできました。ところで、リア姉。話し合ってる様子を観察して、何か気付くところとかあった?」


そう話を振ると、リア姉は納得できる答えを得た、と頷いた。


「先ずは、立ち会わせて貰えたことを皆さんに感謝したい。それで気付き、だったね。身も蓋もない話だけど、アキに対して、皆が忌憚なき意見を言えるのは、①アキが子供である、②アキが竜族視点、弧状列島全体視点で語っている、③アキがどこにも肩入れしないと理解している、といったことが理由と感じたよ。アキも竜神子支援機構や探索者支援機構といったしがらみはあるけれど、アキが絡むところは常にどの種族、勢力にも力点を置かない組織、視点という特徴がある。竜神の巫女として、私もどの竜とも心話を行えはするけど、この違いは如何ともし難い。残念だけど、こればかりは仕方ない。無いものねだり、隣の芝生は青く見える、って話さ」


 むぅ。


「その割には、サッパリした顔をしてるね?」


「アキが二人いても仕方ない。私は先ほどの三点で言えば真逆だ。大人であり、どうしても共和国、街エルフとして、財閥としての視点も考慮せざるを得ず、肩入れしないといいつつも自分の勢力に不利にはならないよう振る舞うしかない。でも、だからこそ、私にだからこそ語れる、語り合える話もある。アキが示す方向性に実現性を加える話し合いなら、それこそ私の得意とするところだからね。……という訳で、少し羨ましくも思ったけど、当たり前の結論に辿り着いた。その流れを私自身が納得できたよ」


 まぁ、そうだよね。僕に財閥が担ってくれてる話を振られても困るだけだし。


「それは良かった。じゃ、立ち位置の違う竜神の巫女、ってことで、調整中の話ではあるけど、僕との短期集中教育の一巡目を終えた若竜達に対して、先に伝えておいてくれる? 僕が残り十八柱を終えてから話すより、リア姉の存在もアピールできるし、期間も前倒しできるから」


「はいはい、そうするよ。若竜達への教育をアキだけに任せるつもりはなかったし、私がアキの次に何を語ればいいか悩んでるところでもあったから、丁度いい。三大勢力への文面はこの後、皆で考えようか。それこそ漏れがないように詰めておくべき話だから」


リア姉の提案に異論はなく皆も引き締まった表情で頷いてくれた。僕が今回感じたこと、思ったことは私信で伝えるとしても、公の提案を竜神子支援機構の代表として出すとなれば、下手なことは出せないからね。時間も限られる中、ロスなく要件を伝えなくてはならないのだから。


結局、話し合いはお昼休憩を挟んで午後も続けることになったけど、おかげで十分な内容とすることができた。私信の方も、どうせ検閲されるのだからと、ベリルさんに口述筆記して貰う形にして、せっせと書き連ねることにしたのだった。……結果、公式の提案書より私信の方が分厚くなった。

評価、いいね、ありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。


竜神子を庇護下に置く件の周知徹底ですが、皆で案を出し合った結果、いい感じの原案が決まりました。

竜神子×30人のところに若竜がやってくる件が、肉付けしたら300国への遊説飛行に化けたけど宜しくね♪って話を振られる三大勢力代表達の苦悩っぷりを考えると、何か差し入れを持っていきたい気分になります。


航空兵力も、無線通信網もない明治初期のような時代に、航空兵力による国土全域への大規模侵攻作戦が行われるようなノリですからね。防ぐというか抗う術はなく、こちらが一手動く間に、相手は十手、百手と動かす感じです。


各勢力側から、今回の提案について話が先に出てこないのは、やはり現代のように全国が通信網で常時接続されていて、簡単に連絡し合える状況にない事がネックとなっています。何か指示を出したとしても、返事が返ってくるまでにどんなに急いでも数日、普通なら一週間とか十日とか掛かりますからね。


帝国も連邦もアキ達の訪問を受けて、その結果を見聞きした者達が地方へと帰って、話を皆に広めて、その反応を集めて……辺りまで辿り着ければ御の字でしょう。何せそれまでの常識には無いことだらけで、さっと話を聞いても、一地方単位が精々の視点を、弧状列島全域にまで広げられる人材など、そう多くはないのだから。


それに比べて、アキの方は心話で簡単に各地の竜達と話ができるので、この速度差はちょっとやそっとでは覆ることはないでしょう。


何にせよ、ちょっと割り込みの入った若竜達への短期集中教育も次回から再開です。残りから言ってアキの分があと三日、リアの分を一日遅れとしても四日あれば終わるでしょう。若竜と竜神子の間の交流準備は順風満帆です。


暫くしたら、各代表からの返事、というか恨み節が返ってくるでしょう。あと、街エルフに対して、早くロングヒルとの直通回線=レーザー通信網を連合、連邦、帝国の首都と開通させてくれ、という嘆願もきっとセットです。


次回の投稿は、九月十四日(水)二十一時五分です。


<活動報告>

以下の内容を本日、投稿しました。

・ウクライナ軍の反攻により、ロシア東部方面軍総崩れ

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