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17-10.若竜の庇護下にあると周知すること(前編)

前回のあらすじ:色々と割込みもあって先延ばしになっていた、若竜達への短期集中教育もやっとスタートしました。一柱目を終えてみると、これまでロングヒルに来ていた竜達との違いや、説明で必要な部分、殆ど不要な部分なども見えてきたので、二柱目以降はペースアップできそうです。(アキ視点)


午前三柱、午後三柱と心話で短期集中教育を実施して二日目が終わり、安定したパターンに入って来たんだけど、即答しにくい問題が出てきた。


それは、竜神子とは長い付き合いになるのと、竜と竜神子は基本一対となる方針ということもあって、竜神子の人格を判断してからとはなるけど、合格であれば加護を与えたいと話す若竜が少なくなかったからだ。


()()竜神子だ、と他の竜にアピールすること、それと他の種族に対しても、竜神子の裏には天空竜がいると示すことで、ちょっとしたお守り効果も期待できる。


ただ、僕やリア姉のように加護を貰っても打ち消してしまう事は無いけど、あまり強くない人だと、加護が重荷になってしまうこともある。加護を受けると、自身の持つ魔力感知の技能が悪影響を受けるからと辞退した例もある。


なので、竜の加護は与えられないなら、僕やリア姉のように庇護下にあると周知したい、と言い出したんだ。


主張は妥当だけど、どう周知するか、もう少し具体的に詰めていく必要がある。ケイティさんからも若竜達の裁量に任せるのは避けるべきと言われ、それならばと、信頼できる面々に相談することにしたのだった。まぁ、加護なしだけど庇護下なんてのは竜神子を見ても分からないのだから、周知は必須。後はどうやるかってだけだから、さほど揉めないで済むと思う。





翌朝、僕をそっと呼ぶ声が聞こえて目覚めると、耳元に顔を寄せているリア姉と目が合った。


「アキ、おはよう」


「リア姉、おはよう。思ったより早かったね」


「昨日、竜神子に加護を与える件で相談の場を設けると話してただろう? それに私も参加したくてね。手早く片付けて朝一で戻ってきたんだ」


そんな話をしながら、いつもはケイティさん担当の診察をしてくれた。手慣れた手付きだけど、僕の世話をする事を楽しんでる感じだね。まぁ、喜んで貰えて、僕も悪い気はしない。


「それじゃ、この魔導具にも触れてみて」


リア姉が指し示したのは、薄い板を積み上げた塔に対して、ずんぐりした木樵きこり人形が斧を振り上げてる、そんな玩具だった。人形の足元にあるレバーを指で押し下げろ、ということらしい。


「これは?」


「アキや私が魔法陣に触れると壊してしまうだろう? 自己イメージ強化でどの程度、変化しているか計測したいけど、毎回、魔法陣を壊すのはコスパが悪い。そこでこの魔導具だ。地球あちらのブレーカーを参考にしてみた。以前の魔法陣が使い捨てのヒューズで、この人形は何度でも計測できるのさ」


「使い方は人形の後ろに付いているレバーを指で押し下げるだけです。私が行っても、この通り、板は割れませんが、お二人であれば、以前の魔方陣と同様、ある程度まで割れる筈です」


ケイティさんがレバーを下げると、木樵きこり人形が斧を振り下ろしたけど、積み上げた板の塔に当たると、一枚も割れずそこで止まった。人形の腕を振り上げた状態に戻して貰って、それならば、と僕も試してみることに。


僕がレバーを下げると、木樵きこり人形が斧を振り下ろし、重ねて置かれていた板に当たると、パタパタと板が割れていき、中程で止まった。もう良いと言われたので、レバーから指を離す。


「左右からピッタリ寄せた状態で固定してる板は、斧を通じて浸透してきた魔力が限界を超えると、ブレーカーが落ちるように固定を解除して離れるんだ。上の方が弱く、下の方が強い。だから、割れた枚数で定量的に私達の魔力を計測できる訳さ」


ケイティさんが結果を診察記録に書き記すと、手早く板割り木樵きこり人形を片付けた。


「お二人の枚数に違いがあるのは、自己イメージ強化の進展の差でしょうか。いずれにせよ、やはり、以前と比べると五割増し状態です」


そう言われてもピンとこない。


「何か問題がありそう?」


「魔導人形達の抗魔力機能を強化したほうが良さそうだ。別邸にいる者なら平気だけど、強化してない人形だと機能不全に陥るかもしれない。魔導具も触らないほうがいいね」


むぅ。


「実力を伸ばして不便が増えるってのは、なんか微妙な気分だよ」


そう不満を漏らすと、ポンポンと頭を撫でられた。


「私達にはスタッフもいるから、支えてもらえばいいさ。後は、依代の君にでも助力を願って、私達向けの魔導具を創るのも良いかもしれない。薄い膜で体を覆って、直接触れるのを防ぐとか」


「神器級の魔導具も、彼なら創れるもんね。僕達の魔力をそのまま使わないのは、パワー調整が効かないから?」


「そういうこと。私達の魔力は常に全力だから、それに耐えうる魔導具となると、かなりゴツくなるのが避けられない。困った話さ」


さっきの人形も長く触ると、僕の魔力が浸透して測定結果に影響が出るから、触るのは必要最低限でないといけないそうだ。





朝食を取りながら、リア姉が共和国で何をしてきたか色々と聞くことができた。


鬼族の帆船をファウスト船長と共に迎い入れて、召喚した妖精さんにあちこち撮影してもらい、その映像を見ながら、鬼族の船員達から説明を受けたそうだ。街エルフの帆船も同様に見せた事で、互いに理解も深めることができたと好評価だったとのこと。


他にも溜まっていた仕事を片付けたり、度量衡の件で、呪いの研究に参加するメンバーの人選について、マサトさん、ロゼッタさんともしっかり打ち合わせをしてきたそうだ。


「研究者はニ名程度だけど、規格制定に向けた要員を含めると十名は必要で、最初の研究チームの活動が安定するまでは、妖精族にも参加をして貰うことにしたよ」


ここはお爺ちゃんが補足してくれた。


「小型召喚の竜族が参加するのはチームの活動が安定してからで良いと思っておる。儂らは種族混合チームがちゃんと機能するまでの守役も兼ねとる訳じゃ。同行させる妖精は、簡易召喚タイプで、儂と違い、同期率を下げてるときは寝てる感じになる。儂に続く継続召喚でもあり、その運用検証も兼ねる。そうは言っても、一ヶ月程度で人員は入れ替えるつもりだがのぉ」


「それは嬉しいね。そうなると、登山が始まると、小型召喚の竜が三柱、簡易召喚の妖精さんが登山に三人、呪い研究に一人、と。召喚枠もあまり余裕が無くなるから運用には注意していかないとね」


「天空竜なら第二演習場から飛んで行っても、大して時間は掛からないとは思うけど、妖精と同じように、継続召喚を試してみてもいいかもしれない」


「同期率を下げてる間に、自分の巣にも帰れるならかなり便利だね」


「召喚体が十分離れた位置にいれば、自身を見て自己同一性に迷う事もないじゃろ」


 ふむふむ。


そんな話をしているうちに朝食も終わり、服装も整えて準備良し。シャンタールさんが、庭先に皆が揃っていることを教えてくれた。


「にゃ」


脚に体を擦り付けて、最後に尻尾で撫でてくれたトラ吉さんが、いくぞーって声を掛けてきた。


では、皆に合流しよう。





庭先には、既に連合枠からはエリー、連邦枠からはセイケン、帝国枠からはガイウスさん、共和国からはジョウ大使が集まってテーブルを囲んでいた。和やかな雰囲気で談笑してて、良い感じだ。


「お待たせしました。急な話に集まって貰えて助かります」


「声を掛けて貰えたほうが安心できるから、そこは気にしないでいいわよ」


エリーがスパッと答えてくれた。やはり、こういう時の自然な振る舞いは、なかなか他の人には真似はできない。


そして、皆の視線が自然と隣りにいるリア姉に集まった。


「私は今回は同席はさせて貰うけれど、発言は控えると思って欲しい。ちょっと学ばせて貰おうと思ったんだ。アキと相談すると皆は忌憚なく意見を話す傾向があるからね。私との差は何か確かめたい。あと、この場での発言には、この場限りとすることを誓うよ。嫌われたくないから。だから、私のことは置き物とでも思ってくれればいい」


 おや。


「確かに、今日の議題からすると共和国枠だとジョウさんと被るとは思ってたけど、そういうことだったんだね。んー、それじゃ、必要があれば意見を求めるって事で、話を始めましょう」


リア姉はテーブルから少し離れた位置に席を移して、気にしないでいいよ、と言いながら、トラ吉さんを招いて膝に抱えたりしてる。


ならいいか、と話を始める事にしたけど、皆さん、ちょっとだけ苦笑した顔を見せた。置き物でいいよと言われて、はいそうですか、と意識を切り替えるのは簡単じゃないもんね。


でも、それなりに場数を踏んできている面々と言うこともあって、しっかり僕に注目してくれた。





「概要は聞いているかと思いますが、確認を兼ねてもう一度、今日の議題について話しますね。今年の秋に竜神子と交流を始める若竜達への短期集中教育も十二柱を終えましたが、彼らから、竜神子に加護を与えたい、或いは庇護下にあると周知したいとの意見が幾つもありました。師匠の話では高位魔導師に準じる力がないと、加護は負担になるとの事だったので、実際には識別のために竜の鱗を用いた装身具アクセサリーを身に付けるのと、庇護下にあることの周知を行うことになるでしょう」


加護は無理でも、竜の鱗くらいなら負担も少ないだろうし、それでも他の人に竜の気配を感じさせる程度の効能は得られると思う。


あと、周知は、僕やリア姉に加護を与えても消えるだけなので、庇護下にあると雲取様が宣言して、皆にそれを伝えた事例に倣うだろうとも話した。


「簡単に言ってくれるわね。確かに今年の竜神子で加護を与えられても支障がないのは鬼族だけで、殆どは庇護下にあると宣言する事になるとは思う。竜の鱗を用いた装身具アクセサリーは、鱗の大きさがマチマチだから、受け取ってからそれに合わせて制作する事になる。それは各国の職人に頑張って貰いましょう。貰えると確定してはいなくても、先にデザインと材料、職人の手配はしておくべきね」


エリーの意見はシンプルだ。


「本番の時に身に着けて参加したほうが、若竜の竜神子だとアピールもできるからね。若竜が渡してもいいといつ判断するかにもよるけど、その話だと、会う間隔を縮めてでも前に詰めた方が良さそうかな。時間がないと職人さんも大変でしょ?」


「それはそうよ。半端なものは作れないわ。材料も量はいらないけど、竜の鱗の色合いに合わせて、それと、渡された竜神子が身に付けてこそ映えるデザインにしないといけない。それを身に着けた竜神子を観て、若竜がその出来栄えに満足すること。……かなりの難度よ」


「それは大変そうだね。ケイティさん、僕の装身具アクセサリーも大変でした?」


「創り上げた職人は、アキ様の髪や肌、瞳の色だけでなく、立ち振る舞いの印象まで考慮して、デザインを決めたと話してました。試作品を幾つも創ってましたね」


うわ、ほんと、一切妥協無しだ。


「我々、鬼族の場合、体との兼ね合いで、ピンバッジのようなデザインになるだろう」


「私達、小鬼族であれば装身具ブローチでしょうか。ただ、大き目になるので服装の方を合わせる必要が出てくるでしょう」


 ふむふむ。


「多分、雲取様よりは、登山に行く若雄竜達の鱗のほうがサイズは近いでしょう。所縁(ゆかり)の品の鱗のサイズや色合いを記録して、渡してあげれば、光の当たり加減で変化する色合いとかもイメージしやすそうですね」


どの竜の鱗も金属的な光沢があって、とっても綺麗なんだよね。


「それでは、職人の意見も参考に、所縁(ゆかり)の品の記録を行う魔導具を用意しておきます。汎用品でいけるので、数日あれば発送まで行けると思います」


ケイティさんがそう言うなら安心だ。


「今回の件について、各勢力に確認の書簡を送るときに同梱すべきだ。返事が来てから送ることで時間を失うのが惜しい」


「まぁ、先走りだと言うなら、送り返して貰えばいいだけですからね。では、一緒に送りましょう」


そう纏めると、皆もそれでいいと頷いてくれた。





「次は本題、竜神子を庇護下とすると周知する件か。アキはどう考えてるんだ?」


セイケンが話を振ってくれた。


「竜神子が住む国に対しての宣言だけでは、十分ではないと思いました。最低でも近隣国、できれば、その上位に当たる地方の王都、各勢力の代表の次くらいの位置にいる方の都市にも、一声掛けておくべきでしょう」


中間に位置する為政者達が天空竜に接することがないと、机上の空論を振りかざして台無しにしかねないから、と補足した。


各勢力について、代表から竜神子までの権力の階層の全てが天空竜と対面した共通経験を得てこそ、想定外の事態を避けられる、とも。


ん、ガイウスさんが手を上げた。


「アキ様、若竜の皆様は、どう周知するか話されてましたか?」


「竜神子を見ながら、そっくりになるよう幻影を創る練習をして、それを各地に訪問して見せればいいだろうって話してました」


日本あちらで、自分の可愛い、可愛いペットの動画を取って、スマホに映して見せびらかすようなイメージがぴったりと思ったんだよね。強面こわもてで犬猫にも怖がられて逃げられる人が、自分に懐く犬猫に出会って、有頂天になって自慢して回るみたいな。


そうして見せて回れば、若竜の思い入れも一緒に伝わるから一石二鳥と思ったんだけど、皆の認識は違ったようだった。


「アキ、それは一見良さそうだけど、種族の違いへの認識がすっぽり抜け落ちてるわ。周辺国、例えば連合なら、近隣の連合の国と、帝国領の国々が対象よね?」


「そうなるね」


「人族の誰かの幻影を見せられて、小鬼族はそれで個人を識別できるかしら? その逆もそう。私もユリウス様やガイウス殿なら何度も見ているから区別は付くわ。でも、小鬼人形の誰かを見せられて、小鬼人形達の中から見つけろと言われたら多分、無理」


「セイケンはどう?」


「魔力感知も含めればある程度は行けるが、例えば、街エルフの人形遣い達の区別を見た目だけでするのは難しいだろう。皆が等しく、一通りの訓練を終えてることもあって、立ち振る舞いや気配がかなり似通ってるんだ」


おや。


「アキ様、私も同様です。並んでいれば違いはわかります。しかし、一人だけ抜き出して、それと同じ人物を探す、それも服装や髪型が違うことも考慮するとなると、お手上げです」


むむ、ガイウスさんもそうなのか。ジョウ大使なら、相手の識別は本業だし、大丈夫では?


「期待を裏切るようで悪いが、近い距離で相手をじっくり観察し、姿だけでなく、立ち振る舞い、声、魔力属性や強さなどを複合的に捉えるから、相手を認識できるものだ。背格好と魔力属性が似ていれば、遠目には判断できない。だからこそ影武者も成立するんだ」


あー、言われてみれば確かに。


「ただ、地球あちらの話ですけど、戦争で敵国側に、稀代の天才であるアルキメデスという老人がいて、軍の指揮官は部下達に、生きたまま捉えよと厳命していたんですけど、アルキメデスの反抗的な態度に怒った兵士に斬り殺されちゃったなんて事もあったんですよね。で、竜神子の場合、間違えて怪我させちゃった、なんて話になると、()()竜神子、と言ってる若竜は、それ相応の報復をすると思うんです。若い竜個人の感情的にも、竜族の面子からしても」


判ってて襲った相手には、その考えが誤りだと悟れるよう、天空竜の怒りを見せねばなるまい、と。


観衆の面前で、マフィアに喧嘩を売ったような話だ。そこでヌルい対応をすれば、マフィアを甘くみる風潮が生まれかねない。それは恐怖で観衆に睨みを効かせるマフィアには到底許容できない話だ。


……しかし、種族の違いか。確かに僕も連邦訪問時に並んでいた鬼族の誰かの幻影を見せられて、群衆からその人を探せと言われたら厳しいと思う。


むぅ。打開策を誰も思いつかないせいで、重苦しい沈黙だけが続く。


ちょい、違う話にしよう。


「難しそうなので、判断しやすい話から片付けましょう。こちらでも、連邦や帝国の都市は把握してますが、統治の階層構造は知らないので、竜神子のいる都市の上位、地方の王都がどこにあるのか判りません。規模が大きくても、まつりごとの中枢は別というのはよくある話です。ですから、近隣国は判断できるとして、その上位がどこか教えて貰いたいんですけど、どうでしょう? あ、連合も形式的な上位と実質が違う場合は教えて欲しいかな」


そう話題を振ったけど、皆さん、渋い顔をしていた。


「取り敢えず、連合について言うなら、私、というかロングヒル王家では答えられないわ。遠方の国々の上下関係なんて把握する必要性は無かったから。ニコラス大統領にお願いするしかないわね」


ふむふむ。


「連邦も即答は無理だ。前回の訪問で各地の王や主だった者達は既に白岩様との対面を済ませている。その上で、更に周知させるとしたらどこが良いか。それはレイゼン様でなくては判断できん」


なるほど。


「アキ様、帝国も私には答えられません。帝国の全体像ではなく、各地方の統治となると、一研究者に過ぎない私が知る必要の無かった話なのです。ユリウス様に問い合わせをしていただければ、適切な回答を得られるでしょう」


それは、確かに。


「共和国は少し意味合いが変わってくる。そもそも隣国は海を挟んだ連合の国々しか居らず、共和国内の地方都市に周知する必要が本当にあるのか、それは私の裁量を超える案件だ」


むぅ、なんと、全員即答は無理か。


「共和国は同じ国内なのと、海を挟んでいて連合との行き来がまず無いから、ちょっと別枠っぽいですね。聞いた感じでは、周知自体を否定する話は出なかったので、竜神子支援機構からの相談って形で、各勢力向けに、訪問しておくべき都市と順番の情報提供をお願いしてみますね。一柱につき十都市、合計三百都市を若竜が訪問して、自身の竜神子を示せば、十分丁寧な対応でしょう」


若竜なら、十ヶ所程度、一日手間で回れると思います、と話を締めると、皆の表情が固まった。


 あれ?


なんかミスったっぽい。





口火を切ったのはエリーだった。


「そもそも、天空竜と対峙するのが困難で、両者の間を取り持つ竜神子が必要って話なのに、周知のために天空竜が竜神子のいない各地を訪問したら、大混乱間違いなしよ」


「そこはほら、昔は竜神子無しでも為政者は対峙した訳だから、気合で何とか」


そんな僕の言葉もズバッとセイケンに否定された。


「竜神子もいない中、フラリと降りて、幻影を見せて、これが我が竜神子だ、と告げて天空竜は去っていくとして、一体、どれだけ、その姿を覚えていられるか。何度でも見返せる魔導具にして置いていくくらいせねば、下々の兵士にまで周知など無理だ。それとて困難だが」


「竜が普通の魔導具を持ったら壊れちゃうから、例えば別便で送るとか」


僕の意見に、ガイウスさんがそもそも論を示してきた。


「それでしたら、幻影を記録した魔導具を対象国に送り届ければ周知に事足りるのではありませんか?」


「でも、遠い空を飛んでるだけだった天空竜が身近なところにきた、もう永遠に交わらない関係は終わったと示すためにも、顔見せと意思表示はしたほうがいいですよね」


ただ幻影の魔導具を送っても、時代の変化は感じ取れないと、食い下がる僕に、ジョウさんが駄目押ししてきた。


「アキ、エリザベス殿が指摘したように、竜神子無しでの周知は前提からして破綻してる。普通の民は、為政者であっても、天空竜の前に立つだけで決死の覚悟が必要なんだ。不測の事態に備えて、若竜に事前教育を行い、竜神子との親睦を深めさせるのは何のためだったか、忘れてないか?」


 あぅあぅ、なんかボコボコのぺちゃんこだ。



そんな僕に、コロコロとホワイトボードを押してきたベリルさんが救いの手を差し伸べてくれた。


「アキ様、纏めて考えるから手詰まりに思えるのデス。分けて考えて行きまショウ。難しい問題は分けて簡単にするのデス」


うわー。この前、若雄竜達に偉そうに話した事がブーメランで返ってきた。もうグサグサだ。


ベリルさんが箇条書きにしてくれるペンの音を聞きながら、火照った顔に手を当てて、早く冷えるようにと祈る気持ちだった。


横着するからよ、とエリーに頬を突かれたけど、申開きのしようがなかった。

評価、いいね、ありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。


若竜達への短期集中教育も12柱まで進みました。今回の話も大きな意味では短期集中教育の一環だけど、独立した扱いにする内容、ボリュームなのでタイトルを変えました。


今回はアキも涙目になってるように、投げたブーメランがぐさぐさ刺さってる失敗パート(前後編)です。エリーに突っ込まれていたように、横着したからこそ起きたミスですけど。


竜族の文化的には、加護を与える=個人に加護を施す、他の竜への目印付与&自慢、ってところであり、庇護下に入れる=縄張り内に住むことを認める、縄張り維持の行動はするが特別、何か守るような行動を取る訳ではない、といったところなので、実は縄張りの外にいる個人に対して「庇護下に入れる」というのは、竜族の文化には無い行動でした。


昨年一年間は、雲取様がアキ&リアを庇護下に、アイリーンに加護を与えただけだったので、対竜族向けの周知だけでも問題とはなりませんでした。アキ&リアには街エルフの多層護衛も構築されていましたから。アキ&リアは魔力が完全無色透明と他にない特徴もあったので、竜神の巫女の話を聞いた事がある人なら識別は容易でしょう。


しかし、今後、竜神子が増えると、対竜向けは竜の鱗の装身具アクセサリーを身に付けていて、竜の傍らに立てることで識別できるとしても、竜神子への護衛はさほど厳重にはならない=できない=そこまでする余力はない、のと、他の種族に対する周知はなかなか難しい話です。


……とまぁ、何気に根深い問題ではあるんですが、今回は地の種族しかいない場なので、竜族視点で新たに生まれた、地の種族の地域にいる庇護下対象への識別問題については、別の機会に語っていくことにします。そっちもいきなり竜神子が三十人も増えて、問題がなければ三十人もどこかの竜の庇護下となる訳で、そんな数を覚えるのは竜族とて手間です。今後はもっともっと増えていって、個人単位での識別は無理となるのは見えてますからね。


次回の投稿は、九月十一日(日)二十一時五分です。

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