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17-8.交流祭りの近況とか、リア姉への報告とか

前回のあらすじ:交流祭りの関係者と、度量衡や規格の統一について忌憚なき意見交換を行うことができました。皆さん、何とかリア姉の発案を残そうとあれこれ考えてくれて、ほんと嬉しかったです。(アキ視点)

皆との意見交換も終わって、その後は交流祭りの準備がどんな具合か雑談がてら聞くことができた。

会場全体図とブースの割り当てに合うように、今は会場整備に大忙しとのこと。何せ開催まで日がない。第三演習場は土手に囲われた演習場はもとより、その周辺もある程度のところまでは、大勢が活動できるよう、予め、平らに整地されてはいた。なので、そこに道やブースの区切りとなるように、枠石を敷き詰めていってるそうだ。


大勢が集まることを見越したトイレスペースは、日本あちらのイベント会場にあるような仮設トイレのような一つで完結しているユニットを想定人数分並べるといった感じだ。仮設感を減らす為に、外装をちょっとお洒落にして、お祭り風に飾り付け(デコレーション)してるから、工事現場っぽい安っぽさはだいぶ抑えられそう。


街エルフの喫茶店ブースは、組み立て式喫茶店を設置する場所の整地は終わり、今は併設の庭に煉瓦や砂利を敷き詰めたり、樹木などを持ち込んでるそうだ。一悶着あったのはここで、今回のコンセプトだと、店内での利用が難しい鬼族に、庭先のテーブルスペースを使って貰うつもりだったけど、鬼族の体躯でゆったり利用できるようにすると、街エルフ達が考えた配置だとちと狭く、地盤も固めておかないと使っているうちに波打ってしまう、ということだった。


……ここで、双方が道幅がどれくらい、植木の高さは視線を遮るならこれくらい、などと意見を交わし、その中で基本単位が違ったり、荷重に関する基準が鬼族はかなり厳密で、日本あちらでのピアノ設置の為の床補強みたいな思考が基本になってる事が明らかになった。鬼族の足は体に見合って大きいから面積辺りの荷重はそう極端に跳ね上がる訳じゃないけど、それでも巨躯の重さが消える訳じゃない。開催期間中、朝から晩まで大勢の鬼族が利用するスペースなら、確かに鬼族基準で頑強に作っておかないと、せっかく敷き詰めた煉瓦の小道も波打って魅力半減になっちゃうだろう。


そんな訳で、度量衡の話がどーんとクローズアップされた、と。


小鬼族に合わせた室内の工夫は、子供基準で考えればいいから、鬼族程ではないけど、それでも椅子やカトラリー、食器なども体の大きさに合わせた既製品だと子供向けになっちゃうから、彼ら向けのサイズの大人用をオーダーメイドで用意したそうだ。身長だけならドワーフ族のものでもいいかと思ったけど、ドワーフは頑健な体躯なこともあって体重も重いし、沢山食べるから、器は人族用より大きいくらいだったりと、色々と合わなかったり、という話も面白く聞かせてくれた。


妖精族の軽食スペースも小鬼、人、鬼それぞれが利用できるエリアを設けて、給仕しないといけないから三種類の食器セットが混ざることになり、当初用意していたよりも厨房を大きくする必要が出てきたそうだ。妖精向けのカトラリーセットは専用の洗い場を設けないと、小さいから簡単に失くしちゃうなんて話もあったり。妖精さん達の休憩スペースなんてのも設けられるそうだ。いくら時間限定で殆ど接客し続けると言っても、引っ込んで休める場所は欲しいそうで。彼らの審美眼に合った木を植えて、そこに妖精さん達がいつもの3D制作で作った妖精さんサイズのデッキチェアを備え付けたりしてるとのこと。誰も使ってない時には眺められるようにしたい、という意見が多く、始めは渋ったものの、必要に応じて客の視線を遮ることのできるカーテンを設けることで、基本、眺めてもよいことに決まった。妖精さんのツリーハウスなんて、それだけでも子供達も大興奮ってとこだろうからね。プライベートエリアを一般公開するのを渋る気持ちもわかるけど。


小鬼族の斜面への植樹を体験できるアトラクション施設も、着々と建設が始まったそうだ。こちらは以前の話の通り、鬼族以外が利用することを前提に設計されたんだけど、ここでも一悶着あった。当初、小鬼族が作成したプランだと、身軽な小鬼族でないと厳しい難度設定になってて、一般市民からすれば楽しめるレベルになってなかった事が判明して、大きく見直しが入ることになった。小鬼族の軽量な体躯だと、僅かな取っ掛かりがあれば、それを伝って登る勢いを維持したまま、道を走るように急傾斜も移動できてしまう。だけど、そんなスポーツクライミングの妙技を他の種族が真似できる訳がなかった。森エルフは精霊魔術を使えば、体を軽くしてやはり苦も無く登れるらしいけど、こういったアトラクションに魔術まで使うのはどうか、って話にもなった。精霊魔術抜きの森エルフは、普通の人よりはよほど登り慣れてるけど、それでも小鬼族には遠く及ばない結果となった。なので、ロングヒルにいる人、ドワーフ、森エルフに協力を仰いで、上にいくほど難度が上がるようにして、市民が誰でもそこそこのところまでは登れるように、再設計が行われたそうだ。

ここでも、負荷に対する余裕率の算出とかで、基準に対する考え方の違いとかが出たそうだ。


エリー達、人族のスペースも、ロングヒルを紹介する展示物は、小鬼族でも見やすいように補助段を設けたりと、仮設置しながら、小鬼族や鬼族を招いて、彼らの意見を取り入れてその場で手直ししているそうだ。説明文書の文言も各種族に合わせてロゼッタストーンのように併記する気の配りようで、更に説明役には小鬼族、鬼族の助っ人も頼んでいた。先行で一年間、交流を支えてきただけのことはあって、細かい配慮が嬉しいところだね。


会場では様々な種族が出入りして工事が始まってて、その作業も手探り状態、事あるごとに他の種族を呼んで相談したり、試して貰ったりと、職人同士の交流も活発化しているそうで、とても良いことと思う。お互い、技術という共通目線があるから、目指すところさえ明確になれば、話も通じやすそうだ。


その場で、僕もまだ聞いてなかった竜族の幻影表示ブースの設置案を、ケイティさんが紹介してくれた。円形の幻影表示エリアをぐるりと周回できる道で囲って、説明員の話が一通り終わるまでの間、自由な位置から観るというスタイルだ。一度に入れる人数を絞るのと、種族毎に分ける工夫をするそうで、前者は万一の事態に備えている医療スタッフの人数に合わせる為、後者は観るのに気を取られて観客同士がぶつかったりするトラブルを防ぐ為、とのこと。あと説明する際の言語を種族毎に変えるから、という条件もあるから分けざるを得ないそうだ。天空竜の幻影は上空に現れてゆっくりと降りてくる姿と、洗礼の儀のように身を起こした姿、それと僕達に配慮して尻尾の上に首を載せてくれる落ち着いた姿の三パターンを用意するという。しかも、雲取様と七柱の雌竜の皆さんの幻影を日ごとに切り替えていく工夫もすると。

確かに、雲取様だけだと、天空竜のイメージが固定化され過ぎる気もするけど、全種類コンプリートを狙う人が出てこないか、気になるところだ。僕なら全部観ると主張したら、そんな変わり者はさほど多くないと呆れられた。こればっかりは開催してみないことには、観客の動向なんてわからないけど、皆が思ってるよりは多くなる、と主張しておいた。だって、天空竜はあんなに格好良くて綺麗なんだもの。圧さえ無ければ、飽きることなく眺めるような子だって出てくると思う。





そんな楽しい話を終えて、後は寝るまでのいつもの日課ルーティンをやるだけ、というタイミングで、本国とのレーザー通信が割り込んできた。相手は共和国に帰国してるリア姉。今日、ヤスケさんと話をしたり、皆の話を聞く件を知って、その結果をいち早く知りたくなったそうだ。


ケイティさんに魔導具を操作して貰うと、幻影のリア姉が現れた。


「こうして幻影で見るのも久しぶりだね」


「皆がロングヒルに来てくれたからね。偶にはいいけど、やっぱり対面した方がいいかな」


「同感だ。さて、貴重な回線だから残念だけど、本題に入ろうか。わざわざ私を追い出してまで話し合った結果はどうなった?」


「んー、ヤスケさんはこの範囲ならリア姉の好きにしていい、でも近くにいるんだから予め相談しろってデレてたのと、交流祭りに参加してる皆さんから聞いた感じだと、帝国領で行う呪いの解析作業は、まだまともな評価基準もない、競争相手が少ない場所(ブルーオーシャン)だから、共通基準を制定していく試金石に丁度いいだろうって話になったよ。もう鬼族の研究者も先発隊が現地入りしているというし、分析技術では他より一歩抜きんでてる共和国も、ここは積極的に基準制定に向けて動きたいよね。後で竜族が呪いの研究成果を聞いた時に、誰に聞いても、街エルフの尽力があったからこそ迅速に結果を出す事ができた、と語られるのがベストかな」


呪われた地は全部で百箇所あるから、先発チームが決めた基準を決めて、順次、研究チームを増やして行って、チーム間で密なやり取りをするようになるから、基準制定が纏まるのは早ければ早いほどいい、とも補足しておいた。


だけど、僕の話を聞いたリア姉は、予想外って感じの顔をして、ちょっとぽかんとした顔をしてた。


「ヤスケ殿がデレ……た?」


「うん。ヤスケさん、底無し沼のような目と厳つい雰囲気で損してるよね。アレはどう見ても、孫を可愛がるお爺ちゃんって感じだったよ」


「あ、うん」


 可愛いなぁ。


っと、のんびりしてる暇はないんだった。


「妖精族は、3D製造で一体成型しちゃうから、工具は殆ど使わないし、妖精サイズを他の種族が使うことも殆どないから、共通化する利点が薄いなーって話はあったよ。通貨もあちらに持ち運べない以上、こちらの通貨への統一って訳にも行かないし、だからといって、弧状列島に時間通貨を導入するのも時期尚早だから、妖精族は時間通貨のままで、こちらとは為替レートを決めて取引するしかないなー、とか」


そんな話をしていると、リア姉が掌を向けて、そこまで、と止めてきた。


「妖精族は立ち位置が特殊過ぎるから、私も統一対象には考えてなかったよ。……それにしても結構、深いところまで話してたんだね。私はもっと、日本あちらのJIS規格とか、ISO規格みたいなのの制定イメージで考えてたんだ。そっちの感触は?」


リア姉はまだそっちに未練があるか。


「JIS規格にも、紙のサイズがB版はISO規格のそれとは違ったりして、普及しちゃってるものを合わせるのはその労に見合う恩恵が必要だからね。例えば、マコト文書の本にしたって、小鬼族用、鬼族用もダニエルさんに見せて貰ったけど、それぞれの種族に合わせた大きさになってて、人族用のそれと合わせて三種類の大きさになってたよ。きっと本棚一つにしたって、鬼族用の本棚は、小鬼族からすれば大判専用で普段使いには合わないよね。そんな感じで、互いがバラバラに生活する段階では、規格統一の恩恵はなくはないけど、弧状列島統一辺りまでは労に見合うものではなさそう、って意見が多かったよ」


「うーん、そんなもんか」


地球(あちら)の話を参考に、高度な体系化と量産体制の確立まで達成してる街エルフの規格は優れてると思うんだけどなぁ、とまだ未練ありありだけど、僕の言うこともまぁ理解はできる、と言った感じだ。


「こっちに戻ってきた時にその辺りは詳しく話すね。ダニエルさんが議事録も作ってくれてるから、それを見ながら話を聞けば、リア姉もきっとなるほどーって思えるよ。それで、えっと、つまり結論としては、少し出遅れたけど、呪いの研究チームに街エルフの研究者達も早めに合流すべきで、どうせならその時に基準を決めていける、マネジメントに優れた人とか、基準制定に詳しい人とか、呪いの計測、分析に使えそうな魔導具もあらかた持ち込んで、白紙の表に街エルフが率先して基準に繋がる情報を書き込んでいける体制で臨めれば最高だと思うんだ。リア姉、そっちにいるなら、マサトさんやロゼッタさんとその辺り、詰めてくれば良くない?」


競争相手が少ない場所(ブルーオーシャン)だからこそ先行者特典が大きいこと、研究場所は帝国、小鬼族のホームグラウンドであって、集団研究に長けた小鬼族にリードを許したくないなら、こちらは魔導人形達を含めた統率力と高性能な魔導具を活かすのがいいと思うんだ、と補足した。


……リア姉が、わざわざ額に手を当てて頭が痛いって顔をしてる。


「私達の規格体系を普及させていく手伝いをしていけば便利になるし事故も減るくらいの考えだったのに、いつのまにやら競争相手が少ない場所(ブルーオーシャン)を切り開いていく専属チームを結成して次代の規格を勝ち取ろうって話になってるのは、控えめに言って頭が痛いよ」


 むぅ。嫌がってる感じではないけど、気が滅入る~って顔をしてる。


「んー、でも、地の種族が横並びで、呪いの研究がんばりました、って竜族に示すのと、不俱戴天の関係である街エルフがどの種族よりも率先して呪いの分析に尽力した、それは竜族の遭う危険を減らすものだ、って方が、好印象が与えられるよ? 街エルフと竜が争ってきた歴史なんて、これから続く未来に比べればずっと短いんだから、未来を考えればコスパはいいと思うんだ」


争ってた時代を覚えている人がまだ存命している程度の期間なのだから、これからの未来、もうそんな時代を年表の中でしか皆が知らない時代になれば、それは僅かな期間だった、と思えるようになる、とも話してみた。


「アキの視点は、時折、私達、街エルフよりずっと長命種寄りな気がしてくるね。地学や天文学の専門家みたいだ。――しかし、呪いの研究は、競争相手が少ない場所(ブルーオーシャン)か。その表現は、公の場では気を悪くする人もいるから使わないように」


「それは意識しておくよ」


「さて、そろそろ時間切れだ。ほんとはすぐ戻るつもりだったんだけど、今の話もあるから、ちょっと滞在期間が伸びそうだ。秋に向けた若竜達への短期集中教育の方は暫く任せるよ。一応、毎日、情報共有はしていこう。それと、今回は色々と私の為に頑張ってくれてありがとう」


リア姉が素直な笑顔を向けてくれた。


「どういたしまして。それじゃ、無理せず、でも早めに帰ってきてね」


そんな会話をした辺りで、レーザー通信は終了となった。話したい内容は伝えあえたし、必要に応じてケイティさんがフォローしてくれるだろうから、これで、規格統一の件はひとまず終了だ。明日からは、若竜達への短期集中教育をしていかないと。……割込みばっかで、だいぶ予備期間を食い潰しちゃったし、これからはテンポよく進めていこう。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


今回は、近況確認だったり、リアへの報告だったりと、ちょっとした休憩回でした。


リアも語ってたように、リアがイメージしていた統一規格制定とは、だいぶズレた話に着地しましたが、長い目で見れば、リアの考えてたところにも向かうので、大筋では問題なしってとこでしょう。リアから話を受けるマサトやロゼッタの表情が目に浮かぶようです。その辺りの顛末は、リアがロングヒルに戻ってきた際に聞ける、聞かせる、いいから聞けって感じになります。


時間軸がなかなか進みませんが、次からは、文末でも語っているように、若竜達への短期集中教育スタートです。と言っても、いちいち一柱ずつ描写するようなことはないので淡々と進んで行く感じになるかなー、とか考えてるとこです。肉付けしていくと当初イメージとズレる事が多いですけど。


次回の投稿は、九月四日(日)二十一時五分です。


<活動報告>

以下の内容で活動報告を書いてます。


雑記1:声優「清川元夢」さん死去

雑記2:政治家「ミハエル・ゴルバチョフ」氏死去

雑記3:Co2濃度測定器が焼き溶けた件

雑記4:猛烈な台風11号

雑記5:『大阪・関西万博』の公式キャラクター「ミャクミャク様」

雑記6:ヨーロッパの大干ばつと原発

雑記7:アニメ「異世界おじさん」の衝撃

雑記8:パキスタン大洪水

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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