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17-4.ヤーポン滅ぶべし(前編)

前回のあらすじ:小一時間かけて、ヴィオさんや神官さん達に、「死の大地」浄化作戦の粗筋を説明しました。ただ、連樹の神様は将棋を嗜んでなく、その巫女であるヴィオさんもよく知らない、ってことが判明しました。ただ説明すればいいって話じゃなく、先を読むことを楽しむ、それを伝える必要があるってのが難度高いですよね。(アキ視点)

連樹の社で食べた西瓜も美味しく、依代の君も、僕も手を付けてない将棋を学べる、それもクール寄りでリアル巫女なお姉さんと一緒に楽しく学べると、見た目の年相応に喜んでたりしたので、楽しい気分で帰り支度を始めることができた。


 できたんだけど。


知識はあっても自身の経験がない畳水練な分野ではなく、ルールの概要くらいは把握してても、マコト自身に経験がない分野ってことで、依代の君はかなりのやる気を見せていた。ただ、少し迷いのようなものも感じたのでそこを聞いてみた。


「どんな先生になるか気になるとか?」


「人選に心配はない。ただ、ボクの目的はミア姉の救出、次元門構築が第一だ。そしてこの身に必要なのは、マコトに近しい存在、ミア姉との深い縁を持ち、より繊細な力で世界の間を繋ぐ者だ。……マコトが修めていない分野に手を伸ばしたボクは、その目的から外れないか、少し懸念がある」


誰も判定などしてはくれないが、などと彼は、らしくない苦笑をしてみせた。


なるほど。限りなく本物に肉薄する偽物フェイク、それを目指すなら、オリジナルにない要素は蛇足そのモノ、そう思えるってとこか。


今の僕達には正解は出せず、きっと神に答えを求めても、こちらにいる神様達の在り方からすると答えられない。というか、依代の君自身が現身を得た神様だしね。


ただ、まぁ僕の考えは伝えられるかな。


「その話だと、ミア姉と入れ替わった状態で一年間の経験を経た僕も、日本あちらの高校二年生だった誠とは随分違ってきてると思うよ。もし体が入れ替わって無かったとしても、一年生きて、学年だけなら高校三年生だよ。子供の時期の一年は、ある程度、人格が固まった大人の一年とは違うと言うからね」


「一理ある」


手を胸の前で組んで、足を肩幅に広げて見上げるポーズが何とも背伸びしてるようで可愛らしい。


「僕の考えではあるけど、人の人生は樹木の年輪のようなモノだと思うんだよね。経験を積むと外側に新たな年輪が増えるけど、既にあるそれまでの幹の部分は変わらない。君も僕も過去の部分は同じで、僕は新たな年輪を得た。君も知識だけの過去をなぞる新たな経験をすることで、過去の知識を感覚質クオリアへと変えていってる。感覚質クオリアを育てて嵐に遭っても折れないしなやかさを得た君は、きっとこの世界で僕の次か、リア姉の次くらいには近しい存在になるよ」


何も接点がなく、名前すら知らない人と、誠がいるとして、依代の君がどっちにどれだけ近いかって話だね。


「そうだろうか」


おや、珍しく、自信なさげだね。


「君が次元門を構築して、ミア姉を助けたいと思う、その気持ちは、ミア姉から対価が貰えなかったら、立ち消えてしまうようなモノじゃないよね?」


「当然だ」


少し、自分に言い聞かせているところもあるけど、強く輝く良い目だ。


「なら、きっと大丈夫。もし、ちょっと不都合があっても、君なら何とかできるよ。神様がそうあれ、と決めるのだから。それに、幸い、困った時に頼れそうな方々もいるでしょ。君は子供なんだから、困った時には頼っていいんだよ。助けてっ、てね」


そう話すと、彼は皮肉交じりの笑みを返してくれた。


「都合よく子供と大人を使い分けてて小狡い奴だ」


「足りない分は大人になってから返すから、前借りみたいなモノだよ。それにほら、大人だって、子供が自身の限界を理解して、大人に頼るのを悪とは思わないし、頼られるってことは信頼されているって事だから、それを嬉しく思ったりもするって話してたし」


彼も知ってるであろうエピソードに触れると、彼もそれもそうだ、と頷いてくれた。


「それならボクも遠慮なくヴィオ殿に頼るとしよう」


「目的は将棋に強くなることじゃない。前提条件を元に仮定を積み重ねていってより良い結果を得ること、そうして思考を巡らせることを面白いと思えるようになること、面白いと連樹の神様が思えることが目的だからね?」


「……ボクとヴィオ殿が楽しむだけでは駄目か」


「ん、それは最低条件であって、十分条件ではないかな。ほら、連樹の神様って、樹木の精霊(ドライアド)系でしょ。ってことは、将棋みたいに群れで敵を倒す動物的思考への共感性は薄い気がするんだ。でも、少しでも陽当たりのいいところ、土壌の豊かなところ、風水害に遭わないだろう良地を得ようと、他の植物相手に季節単位、年単位の陣取り合戦を行ったりはするし、虫や獣が悪さをしてきた時にそれを速やかに排除する振舞いもあるし、馴染みのある他の生き物と取引をしたり、助けを求めたりもするから、共感性ゼロってこともないと思う。そんな訳で、単に将棋を嗜むだけじゃなく、ヴィオさんと沢山話して、連樹の神様への理解を深めてね。あ、もしかしたら連樹の神官さん達に話を聞いたりするのも必要かも」


思いついたことをあれこれ話していたら、彼はわかった、わかったとオーバーな身振りで話を遮ってきた。


「皆まで言わずともよい。連樹の神の浄化作戦への勧誘は任せておけ」


「宜しくね。それじゃ、ヴィオさん、神官さん達もこの子をお願いします」


僕達を見送る為に集まってくれていた皆さんに話を振ると、諦めの気持ちが混ざりながらも頷いてくれたのだった。





依代の君とシャーリスさんは、後から歩いて帰るそうなので、僕は慎重な足取りで石段を下りて、馬車に乗り込んだ。今回は登りの時と同様、ヨーゲルさんが隣を歩きながら、足の裏にかかる重みに注意すること、武術の訓練と同じように、内面の感覚を隅々まで意識することなどを話してくれたこともあって、だいぶ足取りも安定できたと思う。ヨーゲルさん曰く、視力の良さ故に遥か彼方まで見えてしまい、足元や内面への意識が疎かになってる、とのこと。誠の頃に比べてはっきり違いが判るくらいに視力がいいからね。視界が広くなると、先々までつい視てしまう癖は注意した方がよさそうだ。


帰りの馬車の中では、神様絡みだと話を振れる相手が限られていたから、依代の君が手を上げてくれたのは良かった、彼なら安心して任せられるから、って話をしたんだけど、同乗してる皆の反応は微妙だった。


「依代の君は、可能性が感じられると、試してみる癖がある。精神的な修練を積んでいるマコト文書の神官達も、心を揺さぶられておった。丸投げせず、誰か同席させるべきじゃろう」


ヨーゲルさんの認識はそんなところか。


「それなら、近衛を同席させるかのぉ。奴なら何かあったとしても無難に収められる。それに奴も任務を全うするだけでなく、後任を育てる力も伸ばしていかねば、な。選抜された兵士達とて、楽しく学べるなら、それに越したことはなかろう」


ふむふむ。


「妖精さん達は将棋は嗜まないの?」


「儂らの戦い方に合ってるのは強いて言えばチェスの方じゃな。取った駒を再利用できるというのは、ほれ、調略して仲間に引き入れることを模したルールじゃろう? 儂らの場合、周辺国は倒す対象ではあっても味方に引き入れたり、同盟を結ぼうという相手では無かったんじゃよ」


「なるほど」


それに、短時間で決着がつく航空戦が主体だと、地上戦を模して、陣形を組んで削り合うチェスも合わないだろうね。いっそ、更に抽象化を進めて、目まぐるしく盤面が変化していくリバーシの方が合ってそうだ。後で紹介しておこう。


「彼はアキ様のように活動を支える専属のサポーター達を擁していません。それだけに物事の見方に偏りが生じてしまう恐れがあります。客観視できる、信頼できる者を傍に置くべきでしょう」


「今の流れなら、彼が二人目の依代に力を分けて、共和国の館とこちらの別邸、二か所で活動するように変わり、育てた感覚質クオリアと力を減らしたことで神力を律することができる状態になってる訳だから、連樹の社に行くのに合わせて、ロゼッタさんと触れ合う機会を設ければ、そこは何とかなる気がするけどどうでしょう?」


「今はそれがベストの選択でしょう」


ケイティさんの認識だと、満額回答じゃないと。


「何か気になります?」


「いえ。私も家政婦長ハウスキーパーとして雇用されてからの交流しかなく、ロゼッタ殿を手放しで信頼できるほど知らないというだけです。把握している範囲では問題ないと思います。念の為、彼女に近しい方々にも気を配っていただければ、何かあっても小さな火種のうちに消せるでしょう」


なるほど。


「私もケイティ様の意見に賛成デス。毎日、その日の話を聞かせて下さるのデスガ、同行されている方の影響を強く受けている印象がありマス。ロゼッタ様はとても()()ノデ、影響を受け過ぎないか心配デス」


ダニエルさんも、そこを懸念してるか。んー。


「ウォルコットさんはどう思います?」


話を振ると、苦笑されてしまった。


「ロゼッタ殿は雇用主でもあるので答えにくい話題ですな。ただ、リア様が乗り気のようですので、頼られても良いかと思います」


ほー。というかリア姉か。義姉と慕ってくる子だから、お姉ちゃんとして頑張ろうとか、そんなとこかも。


「ジョージさんは?」


「連樹の神様を浄化作戦に引き入れる話が、子供に丸投げしていい案件とは思えない。だから周りが見守るのは賛成だ。ロゼッタ殿については、俺もケイティと同じで語れるほど詳しく知らない、というのが正直なところだ。まぁ、そこは今から心配しても仕方が無いだろう。まぁ、強いて言うなら、他の誰かが導くだろうから自分は程々で良い、という意識にだけは陥らないよう注意するといったところか。船頭多くして船山に上る、とも言う。彼を導く主軸をロゼッタ殿と決めたのなら、他の関係者は彼女が全体の統制を取れるよう、時折、報告を上げる体制くらいは欲しいか」


確かに、指導者メンターとしてブレない幹があって、他の枝葉が茂るって感じにしないと、不安定になりそうだ。それにチェックする人が二人までなら安全性は高まるけど、三人になると他の誰かがやるだろうから自分の確認は程々でヨシって感じで、逆に安全性が落ちるとも言うからね。


「ではケイティさん、ちょっとその方向で調整をお願いします。僕も彼が連樹の社に通い出したら、ロゼッタさんと話せるようスケジューリングをしてください。五分、十分程度の時間で構いません」


「ではそのように」


ケイティさんも、ある程度の算段は立ったようで、静かに頷いてくれた。





それで、別邸へと戻ってきたんだけど、ヨーゲルさんも見送って、居間に入るなり、出迎えてくれたのは、不機嫌そうな顔をしたリア姉だった。


「ただいま。リア姉どうしたの?」


そう聞くと、よくぞ聞いてくれた、と訳を話してくれた。


「弧状列島交流祭りで、各勢力がそれぞれブースを開設することになって、その打ち合わせに参加してきたんだけどさ。それぞれが用いる度量衡がバラバラなせいで、いちいち変換するのが面倒臭いし、間違いの元になるし、何かあった時に互いに融通しにくくもなることが明らかになってね。どうせなら、先々を見越して統一する方向で行こうって話をしたら、予想以上に食いつきが悪くてね。なんでバラバラの規格で非効率な道を固辞するんだか――」


アイリーンさんが用意してくれたパンケーキセットを食べつつ、延々と続くリア姉の愚痴を宥め、ベリルさんにも参加して貰って、話の要点を箇条書きにして貰ったりしていると、だんだん、話の全体像が見えてきた。


リア姉は良かれと思って話してるし、規格が統一されれば良いことも多いのは間違いない。というか規格がバラバラなんてのは、狙って定着させるモノでもないからね。


 ……ただ、話を聞いてて、なんで食いつきが悪いのかもわかった。


リア姉、というか共和国、街エルフの人々にとっては、膨大な魔導人形を運用できる、高度にシステム化された社会、それを可能とする規格化と高品質こそが正解、世界の規範であって、他は劣った規格、仕組みだと微塵も疑ってないんだ。


 え? 世界ってアメリカでしょ


という、ヤード・ポンド法に未だに拘ってるアメリカ人みたいな発想だね。規格が違うと困るよね、だから世界=自分達に合わせようよ、って意識が強く感じ取れた。確かに魔力の測定器で圧倒的なシェアを誇ってる研究所を抱えてるリア姉からすれば、魔力に限ると、共和国規格に沿うのが正しかったりするからね。


ただ、それなら万事、それが良いかというと。うーん。


話を聞いた限りでは、食いつきの悪さに多少苛つくところはあっても、それでロングヒルにいる各勢力の皆さんとの仲が悪化した、という訳ではなさそうなので、僕もその話には興味があるなーって切り口にして、リア姉以外の面々と話をする機会を設けて貰うことにした。


リア姉の為に頑張りたいって面を推したら、それなら仕方ないなぁ、なんて言いながら抱きしめたり、頬をぷにぷにしてきたりと、なんか嬉しそうな反応を示してくれて、一応、軟着陸できた。


頼りになる姉の筈なんだけどなぁ、とも思ったけど、考えてみれば、日本あちらでも姉は、頼りになるけれど、我儘で我を通すところもあったし、万事上手くこなす訳でもなく、僕があれこれフォローすることもあった訳で。


 こっちに来てからずっと頼ってばかりだったし、互いに支える健全な関係となるよう頑張っていこう。


そんな気持ちになった。そして、そんな意識で見たら、デレるリア姉も可愛く思えてきて、暫くスキンシップを楽しんだのだった。

評価、いいね、ありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。


一難去ってまた一難、難というほどでもないんですが、リアが新たな地雷を踏みつけることになりました。「よーし、お姉ちゃんもちょっと頑張っちゃうぞー」ってくらいの軽いノリではあるんですが、「軽い=共和国基準に他が合わせる=共和国側の負担はほぼ無い」ってとこで、根の深い話だったりします。


次パート、ヤスケと話す際に触れることになりますが、地獄への道は善意で舗装されている、と言う言葉を思い出すくらいには、ヤスケも苦々しい思いを語ってくれることでしょう。

ゴールは悪くないんです、ゴールは。ただ、そこに至るまでの過程が大変で、しかもその過程は担当者=他人に丸投げってとこが、被害甚大、一面焼け野原になっちゃうだけで。


街エルフは長命種らしく、まぁ今は大変だけど先々を考えれば良い選択だよね、みたいな思考がベースだったりするし、終わり良ければ全て良し、みたいに考える悪癖もあるので、ヤスケだって人のことを言えるか? ってとこはありますが。

ただ、それでも延々とミアの後始末をしてきたヤスケなら、ボヤくくらいの権利はあるでしょう。


次回の投稿は、八月二十一日(日)二十一時五分です。

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