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第十六章の施設、道具、魔術

掲載順を、勢力→技術→人物の順に変更してます。

今回は、十六章でいろいろと施設や道具、魔術が登場したので整理してみました。

◆施設、機材、道具

【秋に竜と交流を行う三十箇所の立体地図】

秋に、列島の各地で、天空竜と現地の為政者が交流の場を設ける、両者を繋ぐ立場として竜神子達が立ちあう件は、竜の側が、もし天災に気付いたら教えてあげよう、という話だから、竜が地の種族が使う地図の用語を理解しておく必要性があった。眼下に見える風景は知ってても、それを言葉で伝えるには、地の種族が命名した地名を知らないと伝えられないからである。

各地の領地について、その高さ成分を強調し、ランドマークとなる街や砦などの人工物を置いた立体地図の制作は急ピッチで進められていた。ちなみに一地域につき、二セット作られる。一つは別邸に、もう一つは現地の竜神子の元に届ける為だ。


この作業は、通常のスタッフ達だけでは到底間に合わず、街エルフ達の中で、立体模型の制作を趣味とするグループに声を掛けて、大々的に参加して貰うことで解決していった。


【弧状列島の立体地図】

こちらもまた、アキが帝国や連邦を訪問したことや、列島全域を見据えた話をすることも多いことから、有志を集めて作り上げた逸品である。あくまでも竜族に示すことが狙いなので、高さ成分を強調し、空からでも目立つランドマークを置く、などといった工夫はしているが、各勢力内の国割などの情報は意図的に省いている。それよりは、河川であるとか、池や沼、印象的な山などを重視した作りだ。


【神力の計測機器】

神力とは、途中経過を経ず、世界の(ことわり)を捻じ曲げて結果を得る力であり、魔力もまた世界を捻じ曲げて望んだ結果を出す分、区別するのはなかなか難しい。神官が用いる術式は神術と呼ばれ、魔導師が使う術式は魔術と呼ばれているが、一般人からすれば、どちらも凄い力ってだけだからだ。

また、神官の術式行使であれば、自身の魔力は信仰する神と己を繋ぐ経路(パス)を形成するのに用いられるだけで、神官の信仰心=引き出せる神力量といった具合に、信仰する神から神力を授かって術式を発動する、といったように、魔導師の術式発動とは過程が異なっている。

……ところが、同じ神力を用いるにしても、依代の君の場合、術式発動時に誰かとの経路(パス)を形成したり、信仰心の助けを借りる必要がない。自身が纏う神力で直接、世界を望むがままに書き換えてしまうのだ。

魔導師が自身の魔力を発動基点生成に使用し、実際の効果生成については周辺魔力を活用するのとはまるで違うのだ。

その為、神力の計測機器を創ると言っても、神力を直接計測するのではなく、周囲の魔力の揺らぎや乱れを観測して、そこから影響を及ぼしているであろう神力の強さを推定する、といった手段が今は必要だ。

魔力自体を計測する機器はあり、依代の君が纏う神力に触れたアキが、ちゃんとそれを感知できていることから、既存の機器を手直しすれば、恐らく神力の計測にも利用できるとは考えられているが。まぁ、その予想が正しいかどうかは、実際に作ってみて試してみないとわからない。


【浄化の歌(共鳴バージョン)】

アキも提案しているように、浄化に適した波長、音程の歌を、二柱の竜が共鳴させる場合、ある程度の時間、共鳴し続ける形で声を出し続けることになるので、それならば意味のある歌詞を音程に乗せて同じリズムで歌う、というのが理に適っている。「俺の歌を聴けぇ!」って訳で、「死の大地」浄化作戦においては、戦域中に歌声が響き渡るという、どっかの超時空世界のような状況が創り出されることになりそうだ。

ショックを受けて戦意喪失どころか、大地を覆う呪いが浄化されて消えていくのだから、きっと、後世、多くの詩人にも歌われる名シーンとなるに違いない。

なお、歌い方とか、声の強さとか、抑揚とか、或いは歌っている歌詞や、歌い手の魔力属性、歌う際のイメージなど、色々と確認しないといけないことがあるので、各地の呪いに対して、歌声を聴かせるという何ともメルヘンな感じの光景が暫く見られることともなるのだった。きっと、クラシック音楽、ジャズやロックによっても影響が違ったりして、それぞれを推す派閥が生まれたりするんだろう。


【雲取様の魔力、依代の君の神力】

彼らの力は、その総量に応じて、ある程度離れた位置からでも感知することが可能である。また、雲取様の場合、総量がとても大きいことから、魔力域が体の何倍といった広さであり、その中に入れば、魔力に直に触れて感知もできるようになる。アキは包まれていて幸せ、などと言っていたが、一般人からすれば強過ぎる魔力は害にしかならず、自身の魔力が乱されてしまい、心身の不調を起こしてしまうだろう。

依代の君の神力も同様で、こちらも小さな身体の何倍にもなる範囲に神力が広がっている状態だ。雲取様の魔力域の中にあっても、確固とした強い領域を形成しており、感知することも可能だ。ただ、雲取様のそれと同様、一般人からすれば、強過ぎる神力は害にしかならず、例え信者であったとしても、信仰する神の力を感じた、などと感動しているどころではないだろう。強い信仰力を持った神官が己が心を強く律した状態であって何とか、といったレベルだった。


【二体目、三体目の依代】

世界樹の枝を用いて作られた、「マコトくん」を降ろすための依代人形であり、合計三体が創られた。十六章の時点では最上位の依代は使用中であり、質の劣る二体目、三体目が残っている状態である。依代の君の提案で、二体目には依代の君を降ろす方向で検討がスタートした。三体目は予備扱いだが、この分なら、竜族が遠隔操作人形として共同利用する件に回せそうである。


【妖精の国初の飛行船】

試作の小型飛行船がごろごろとあるので、正式運用という意味での初飛行船となるが、本編でも語られているように内部に骨組みを持つ硬式飛行船であり、魔術で生成したヘリウムによって浮力を得て、魔導推進器によって移動を行う仕組みだ。

巨大な船体全体が陽光から魔力を得る機構を備えており、昼間の間に貯めた魔力で夜間に飛行を続けられることから、やろうと思えば無補給で世界一周なんてのも可能だろう。

装甲もついてはいるが、そもそも妖精の文化として、重量で耐えるといったモノがないので、あくまでも鳥との衝突に耐えるといった方向からの防備だ。

まぁ、妖精界に地対空ミサイルの類はないし、雲の高さまで届くような戦略級魔術もそうそう簡単には使えない。空は竜達の領域であって、地の種族の力は及ばないのだから、そこまで装甲に重きを置く必要もないだろう。竜族の攻撃の前には、城レベルの防壁だって豆腐のように簡単に崩されるのだから。

ちなみに攻撃兵装は積んでない。妖精の国に固定式の大型兵装を作り、運用する文化自体がないからだ。火力が欲しければ集団術式で足りている、というのもあった。


本船の扱いとしては、観測船或いは探査船といったところであり、輸送力、戦闘力は重視されず、それよりは無補給での長期単独行動を行えるよう配慮されているところに特徴がある。いちいち本国に戻っていては、活動範囲が限定されてしまうからだ。まぁ、固定武装を搭載してないのは、乗員の妖精達自身がやたらと強く、竜とて追い払う程度ならさほど手間でもない、というのもあるだろう。輸送力も重視されないと言っても空間鞄があるので、街エルフ達の大型帆船と同様、ある程度の修理資材の持参も問題がない。


正式運用に用いるのと、将来的な拡張性を考慮して、船体構造にはかなりの余裕がある。ただ、創ってみれば、やはり高コスト過ぎたようで、運用で得た知見を元に弐番艦を創るとしても、そちらは低コスト化が第一目標とされるだろう。


【神力を抑える魔導具】

本編で語られているように、実用的なレベルで構築するとしたら、船舶用の大型宝珠や、それに見合った大きな魔導具がないと、求める抑制効果は得られそうにない。そして、本編時点では、まだ抑制効果のある術式の目処も立ってなかったりする。神力とは、人の域を超えた位階の術式に相当するので、弱い力で強い力を制するには、よほど工夫しないと、押し負けるだけなのだ。そして依代の君の持つ神力は規模こそ劣るが、その位階は竜族に並ぶ。

要求されていることは、竜の吐息(ドラゴンブレス)を防ぐ盾を作れ、というようなレベルなのだ。普通ならそもそも検討されることすらない、考えるだけ無駄な域の話である。




◆魔術、技術




空間跳躍テレポート

落ち着いた状態かつ、魔力も十分にあるなら、空間跳躍テレポートは成功するが、不利な条件が増えれば、成竜であっても、発動に失敗してしまうようだ。発動自体に失敗するのか、発動できるが、跳躍後の場所が望んだ地点からズレているとか、或いは「石の中にいる」となるかは、まだ本編では明かされていない。一時的に経由するだけの「世界の外」に長時間留まる、などという事は誰も望んでやったことはない。今後、竜族に希望者がいれば、不利な条件下での空間跳躍テレポート発動実験も試されるかもしれない。長命種で安全寄り思考な彼らの事だから、何か代替案を考える方向に行きそうだが。


【力術】

望んだ対象を任意の位置に移動させる、そんな術式であり、その使い手は多い。発動しさえすれば、維持している間は魔力消費は不要というコスパの良さもある。十六章では、エリーとアキがそれぞれ、煉瓦を宙に持ち上げて、目一杯な力で押し付け合う、という訓練を行っていた。押し付ける力が強過ぎて、煉瓦が耐えられず崩れていたが、そもそも一般的な術者ではそれほど強く物体を移動させることはできず、相手の方も押し付けてきて、負けないように拮抗する力で押す、という繊細な制御も、並みの術者には行えない妙技である。

二人はこれに加えて、持ち上げた煉瓦の上に別の煉瓦を乗せて、それも合わせてバランスを取っていたが、これはもう大道芸の域である。


ちなみに、アキは煉瓦を持ち上げるたびに、新たに術式を発動していたが、エリーの方は術式が維持できてる間は待機状態に変更することで、術式の新たな発動と、それに伴う魔力消費を回避していた。この辺りの器用さはさすが姉弟子といったところだ。


煉瓦が崩れるのは、全方位から力を加えて保持しているアキだからであって、一般的な術者であれば、押しているベクトルが狂って煉瓦が制御不能状態で飛んでいく程度だ。押す力が強ければ斜め前方に飛んでいくだろうし、弱ければ、押し負けて力場からすっぽ抜けた煉瓦が自分の側に飛んでくる、といった具合である。


エリーも話していたように、単に煉瓦を二人がそれぞれ持ち上げて、宙で横並びにする程度ならまぁ、そこらの術者でも可能な範囲だが、相手の煉瓦を砕く勢いで目一杯押し合い、しかもそれで拮抗した状態を長時間維持する、というのは制御と観察の力に長けた者同士でなくては、危なくてやってられないだろう。エリーやアキは、最悪の事態でも、翁が何とかしてくれると安心しているので、訓練に取り組んでいたが、これとて、何かあったら自前で何とかしてみろ、と言われたら、耐弾障壁の護符でも持ち出さなくては、やる気になれなかったに違いない。


【自己イメージの確立、補正】

人は連続性のある自己を自認しながらも、日々の経験を経て、その変化が留まることはない。そして、魔導師は術式を発動する基盤としての自己をしっかりと確立することが求められる。土台が揺らいでいては、そこから紡いだ術式の出来も期待できないからだ。身体操作術式を用いる兵士にも同じ事が言えるので、この技法はある意味、一般的であって誰でも、それなりに習得はしているモノだ。ただその精度は一般人のそれと魔導師のそれでは大きな差があり、そして同じ魔導師でも、拠り所となる身体に頼れない心話を主な活躍の場とする心話術師達のそれは、一線を画すものがあった。

そして、そんな心話術師の中でも、並ぶ者なしとして、別格扱いされていたのがミアであり、神のような高位存在と交流を行えるには、その域に至る必要があるようだ。自己イメージの破綻、崩壊は、事実上、精神的な死にも繋がるだけに、よほどの事がない限り、そんな人外の域に挑もうとする者はいないのも当然だった。


しかし、竜族の言う自己イメージの確立とは、そんなミアのような域を当たり前のように要求してきており、何があっても崩れない強さまで含めると、更なる高みにあると言えた。


リアも自己イメージが甘い、もっと頑張れ、と言われた訳だが、魔導師達の中でもリアは十分高みにあって、その身体操作は達人の域にあった。ただ、それでもまだ伸びしろがあると見切られたように、リアはミア程には極めようとはしていなかった。生来の完全無色透明な属性と達人域の身体操作を組み合わることで、同世代の街エルフ達を、配下の人形達も含めて、地べたに這いつくばらせて、苦い地面を味合わせることができてしまったからだ。対外戦争もない中で、更なる研鑽を必要と思わなかったのも無理は無かった。


なお、一度、自己イメージを確立しても、心身は日々、変化していくので補正は欠かせない。アキはこれをさほど意識することなく習慣的に行う域にあるが、魔導師ですら、そんな習慣を持つ者は少ない。ミアのプロ意識が垣間見える話である。


竜族が幼竜の自己イメージ強化を教える場合、本編にもあるように成竜が圧を加えることで、揺らいだ己の魔力を自覚させて、それを繰り返していくことで、自己イメージの確立、強化を行っていくことになる。ミアはこれを心話において、相手の心に負荷を与えることで同様のことを行っていた。ミアの場合、魔力の観察ではなく、心を直接触れ合わせることで、その揺らぎや変化を把握しており、その精度は竜眼の観察に並びこそすれ劣るものではないと言えるだろう。


あまり厳しく行うと幼竜が怯えたり泣き出してしまったりするので、教えることを認められること自体もまた、成竜になるための重要なステップだったりする。ミアも幼いマコトに教えるのはかなり苦労したようだ。子供も好きなことには集中するものだが、ならマコトが自己イメージ強化が大好きで没頭するほどか、といえば、まぁそんな訳がない。なので、あの手、この手でやる気を引き出し、褒めて、引き締めるところは締めて、場合によっては気分転換優先にしたり、と頑張ったようだ。おかげで、アキの記憶では長期間取り組んだものの、大好きなお姉さんと行った遊びの一環といった思い出となっている。


それと強化と精緻化は意味合いが異なる。強化は何があっても揺らがない自己イメージの強さであり、精緻化は描かれる自己イメージの漠然とした部分、認識不足な部分を無くすことを指す。ただ、竜族もミアも、どちらもできること=基礎だよ、と言ってるので、本編においては意味合いはあまり変わらなかったりする。


【永続的な変質術式】

簡単に言うと元素変換の術式である。水素からヘリウムにするか、リチウムからヘリウムにするか、といった話であり、地球(あちら)ではまだ手の届かない超技術である。膨大な魔力と高位術者を必要とするものの、変質は一時的なものではないので、術式を解除すれば元の物質に戻る、といった事もない。ただ、本編でも語れているようにコスパは最悪で、生成したヘリウムを詰めた気嚢は天衣無縫な作りと織り込まれた呪紋によって、一切漏らさないぞ、と言わんばかりに徹底して密閉されている。この密封率も地球(あちら)には到底真似のできない域にあり、物理的な損傷がなければ、漏洩はほぼゼロと看做せるくらいだ。


【依代の君の呪言「お前は誰だ!?」】

単なる問い掛けなのだが、神力を持つ彼が強い意図を持って、放った問い掛けは、最高レベルの精神攻撃呪文に匹敵する効果を発揮した。表面的に叩くのではなく、全方位から内の深いところまで浸透していく問い掛けは、対象の心を激しく揺さぶり、自己認識に迷いを生じさせて、場合によっては心神喪失状態にすら陥らせる強さがあった。半端な実力の魔導師程度なら、錯乱状態に陥ったりしても不思議ではない神の与えし試練である。

アキ自身も語っているように、始めて会った時にやられていれば、ミアの体を間借りしているという負い目などもあり、結構、心を揺さぶられる事態に陥っていたことだろう。

まぁ、今回の場合、依代の君も、大きく成長し、この程度の試しに揺らぐことなどないと思ったからこそのじゃれつきであった。


本編でも語られているように、力を乗せた声に過ぎないので、声の特徴、指向性が低い、遠方まで届かせにくい、対象を限定できない、といった問題がある。


彼からすればちょいと意識して強く問い掛けた程度であり、費やした神力も自然回復する範囲に過ぎなかった。


なお、音声といいつつ、召喚体が聞いて、本体がそれを認識してしまえば、妖精界のシャーリス女王の心にまで直接響く、というのだから質が悪い。召喚術式に噛ました防壁も軽く貫通されてしまい意味がなかったくらいで、まだ本編では試されていないが、魔導具などを用いて間接的に認識している対象であっても、この影響を免れることはできないだろう。


呪言系は、竜族の膨大な圧を軽減する緩和障壁で防ぐことはできない事も語られているように、専用の術式を用意しなくては対処はできないだろう。ちなみに既存の精神攻撃への対抗術式は、基本的に自己を強化して揺らぎを抑える原理で成立している。攻撃を受けても影響が出ないようにする訳だ。これに対して、そもそも攻撃を受けないように止める、逸らすという新しい仕組みが必要だろう。


ソフィアが突っ込みを入れていたように、原理的には言葉に意識を乗せる、という妖精族の伝話系の技にカテゴライズされるものであって、だからこそ、アキも他人事じゃない、と注意されることにもなった。恐らくアキも真似ようと思えば、似たことはできるだろうが、そこまで相手を試したい、力量を見極めたい、限界を観てみたい、といった意欲がないので、同じ結果は出せないだろう。


【神力の抑制】

原理的には、竜族が自身の魔力を抑えるのと変わらず、一時的になら、依代の君も、その力に見合った抑制、元の一割程度にまで抑えることができた。しかし、彼は「マコトくん」との経路(パス)から、常に神力が流れてきている状態であり、本編でも語られたように、同じ大きさの瓶に無理やり、圧力を加えて液体を押し込むような事態になってしまう。その為、抑えるのも一時的に行うのが精々といったところだ。

ただ、二体目の依代に自身の四割程度を降ろして、神力の総量を大きく減らし、経験を積んで自身の感覚質クオリアを育てて独自性を高めて、アキもやっている自己イメージの強化、精緻化を併用すれば、完全な制御下に置くことも夢ではなさそうだ。

二体目の依代に変化の術を習得させて、その術式維持に大きく流入量の減った「マコトくん」からの神力を割り当てれば、依代の君の神力も大きな安定性も得られるに違いない。そうなれば、今の数パーセント、高位魔導師程度の域で保てもするだろう。そこまで行けば、アキのように館で竜族や妖精族の監視無しに過ごせる。……まぁ、まだ暫くはかかるだろう。




◆その他




経路(パス)

信者が祈りと共に魔力を捧げる時、神と信者を繋ぐ経路(パス)は一方通行であり、神から信者に魔力が逆流してくることはない。同様に、召喚術式によって術者と召喚体の間には、経路(パス)が確立され、術者から召喚状態を維持しようと魔力が供給されるが、これもまた逆流することはない。


【神の居る地】

概念的な話で言えば、神界といったところになるだろうが、それが具体的にどこなのか、というのはこれまで語れてくることはなかった。祈る者の信仰心に応じて、神は常に身近に感じられるのだから、神とは常に身近に寄り添う存在なのは確か。しかし、誰にとっても近い場所、などというのは、通常の世界であれば、在り得ない特徴だ。誰かに近いなら、誰かからは遠くなるのが(ことわり)なのだから。

アキが仮説として話した「世界と世界の外の間、(ことわり)のあやふやになる世界の渚=神域」なのかもしれないし、地球(あちら)とすら心話が行えるくらいなのだから、妖精界や地球(あちら)と同様、神々のいる世界というのも個別に存在しているのかもしれなかった。

ただ、神々が住まう地があるなら、神々同士は顔見知りであったり交流がありそうなものだが、信仰によって生まれた神同士が交流をしている事を示す事例は存在していないのが実情だ。


【依代日記】

依代の君が毎日せっせと書いている絵日記だが、誰からともなくこう呼ばれるようになった。色鉛筆で時間をさほどかけずにシンプルに描かれた光景は、少ない線と色で簡略化された画風ではあるが、特徴をよく捉えており、日を追うごとに品質クオリティが上がっていくのが見て取れる。絵に添えられた文章も、少ない文字数で体験したことを残そう、という工夫が感じられる。実は、絵日記という形で、アキやその家族に渡している本とは別に、試し書きをしたり、文章を書いて推敲したりもしていたりする。そちらも別途、依代ノートという形で管理されていたりする。ミアが望んだ、資料はできるだけ残して、という願いは十分叶えられそうだ。


【総合武力演習、総武演】

昨年が例外だった、ということで、今年は例年通り、ロングヒル王国の兵達が主体となって、その武を紹介するイベントに戻すことになった。勿論、小鬼人形達の参加も無し。小鬼を模した人形や的を置いて、そこに斬りつけたり、矢で射抜いたりといった具合である。

代わりに、一般人参加型ということで、鎧を着て動いてみようとか、ボウガンを撃ってみよう、などという内容も増やすそうだ。大いに盛り上がりそうである。


また、三大勢力代表達から要望があったので、魔導甲冑、鬼族の武、街エルフの集団戦を街エルフの仮想敵部隊アグレッサーを相手に見せる催しも行われるが、これも別枠。一般人に見せるには刺激が強過ぎるのと、ロングヒルの一般兵の演目と並べるのも、差があり過ぎて適切ではないと判断された為だ。


【弧状列島交流祭り】

アキの提案とマコト文書関連活動を支援する魔導人形達の尽力もあって、他種族が集い、それぞれが何かを催して、市民同士の交流を行う、というイベントが開催されることになった。場所の提供はロングヒル王国が、スタッフは参加する各勢力から集い、運用ノウハウは、街エルフ達が提供するといった具合である。

運用ノウハウは、マコト文書のコミケの書から提供されることとなった。

運営スタッフ、一般参加者、ブース参加者のいずれも等しく、参加者であり、お客様ではない、というスタンスであり、この概念自体がこちらには、存在しないものだった。


 皆が平等であり、皆が参加者であり、交流する仲間である、と。


この趣旨は人々に鮮烈な印象を受け付けることとなった。異なる勢力が集って、どこが上だ、下だだとか、優劣を競うとか、そんなのは下種な考えだ、と言うわけである。


勿論、各勢力からの参加者の人選は厳粛に行われており、開催期間中は、ロングヒル王国だけでなく、その周辺国も含めて、不埒な輩が入り込まないよう、その警備は厳重に行われる予定であって、形式はコミケであっても、その実態は、要人が集まる国際会議、開催期間の長さは万博といったところだろう。


【バグラチオン作戦】

大筋としては本編で語られている通りだが、アキが敢えて触れてない部分の話として、実は赤軍は華々しい戦果を余裕を持って得られた訳ではなかった。何せ、125万人(※本編では簡略化けのため130万とした)が参戦したうち、戦死者約18万人、負傷、戦病者約六十万人という被害を受けていたからだ。対ドイツ戦=大祖国戦争は確かに勝利を収め、敗北したドイツは首都も灰燼と化した。ソビエト連邦は大怪我を負ったが、相手よりも大きな体躯(=国力)と、共産主義故の人命軽視で乗り切った感が強かった。社会の中核を担う労働人口に受けたあまりに酷い被害と、人口構成の歪さは、1989年秋の冷戦終結まで尾を引くことになる。


戦死者数は数千万と言われ、これは当時のソビエト連邦で六人に一人が死んだ計算だ。これに対して、国土が灰燼と化したドイツは六~七百万、十人に一人が死んだ計算である。日本、当時の大日本帝国は三百万、二十人に一人が死んだ計算であり、欧州戦線の地獄っぷりは突出していた。


攻勢作戦編成ストライクパッケージ

爆弾を抱えた攻撃機なんてのは、速度が遅く、動きも鈍く、攻撃を受けてしまえば簡単に撃ち落とされるし、攻撃を回避するために爆弾を捨てれば、その時点で攻勢作戦は失敗となってしまう。その為、攻撃目標まで如何に攻撃機部隊を安全にエスコートするか、という視点で、お膳立てをする支援部隊をあれこれ用意していった、その編成が攻勢作戦編成ストライクパッケージである。なので、攻撃する部隊のよりずっと多い露払い、護衛、情報偵察、空中管制といった役割が必要となってくる。


これに対して、湾岸戦争後に重視されるようになったステルス機は、相手に発見されにくく、予め綿密に決めた敵レーダー網を掻い潜れるルートをそっと飛んで、目標地点まで到達すると誘導爆弾を落として一撃必殺といった具合に目的を達成して、どこにいるか悟らせず飛び去っていくので、支援機群の随伴を必要としない。結局、やりたいことは目標地点に爆弾を叩き込むことなので、いらないものを取っ払えれば、運用機数も減らせて良い事尽くめなのだ。

当初からアキが言っている、小型召喚体の竜+管制妖精+空間鞄を利用した地中貫通爆弾バンカーバスター運用は、アキの完全無色透明な属性のおかげで、ステルス機風の運用が可能だったりする。


あと、いずれ本編で語れる事になるが、竜族が魔力を抑えてる技は、相手に感知されにくくなることも意味し、これは現代戦闘機の低ステルス性能付与と意味は同じだ。戦力を低く誤解させる効果もあったりする。妖精達が当たり前のように行っている透明化の技もそうだが、実は「死の大地」攻略のための駒は着々と揃いつつあるのだ。

……ただ、どれだけ優れた技も所詮は戦技レベルの工夫に過ぎない。それをどう戦術、戦略、大戦略に反映していくのか。それが今後、設立される参謀本部に求められる課題である。


<補足>

レーダーに探知されにくいステルス機は、敵レーダー網の探知距離を大きく減らし、敵防空網に生じる見えない範囲を飛ぶことで、一方的に攻撃できる特徴がある。ただ、それなら無敵かというとそんなことは無い。

飛び方に気を付けないと飛行機雲を引いて位置ばバレるし、爆音を撒き散らす衝撃波ソニックブームを生じないよう亜音速までしか出せないし、探知を避けるためにレーダーは使わないから、敵に視認されないよう夜間に飛ぶと、自身も目隠しで飛んでるようなものだったりする。高ステルス状態を達成する為、爆弾やミサイルは全て機内に格納しておく必要があり、そのせいで大した量を積んでいけない。飛ぶたびにステルスを維持するために機体表面の塗装を平滑に塗り直したりと、とってもデリケートで維持コストも馬鹿高い、というかそもそも機体自体の価格がめっちゃ高い、とまぁ、確かに強いのだが、誰でも買える兵器ではなくなってきている。


【参謀本部】

昔の戦いは規模が小さく、指揮官が個人の裁量で全体を指揮、統制することができた。しかし、それもナポレオンが登場した時代に限界を迎えた。戦域が広がり、あまりに多くの軍勢が動くので、個人が処理できる難度、量を超えてしまったのだ。その為、指揮官を補佐する、専門家集団が創られた。それが参謀本部であり、彼らに指揮権はなく、指揮官が判断する為に情報を取り纏め、分析するのが仕事である。参謀を纏める総長、一般の参謀は行政、情報、作戦、後方、企画、通信といった具合にそれぞれが特定の分野の仕事を担う。現代の自衛隊もそうだが、超エリート集団である。現代米軍においては五軍(陸、海、空、宇宙、海兵隊)を束ねる統合参謀本部なんてのもあり、あらゆる兵科が高効率に連携させることを求められる。


【指揮官】

羊の群れを率いる狼になるか、狼の群れを率いる羊になるか。良くも悪くも、指揮官というのは軍の強さを左右する存在だ。誰が指揮しても同じなどということは絶対にあり得ず、あらゆる資質が試される役職である。現代においては、コンピュータ群を連携することで、巨大な仮想戦場を創り出して、陸・海・空・宇宙全てを連携させたような大規模演習も可能となった。その為、現有戦力を用いた戦いという面に限れば、無能な指揮官を簡単に炙り出して首を挿げ替えることも可能になったと言えるだろう。

 ※西側先進諸国の場合。


ただ、指揮官は平時においては兵を育成していく任があり、防衛費全体のパイが限られる事から、他部署、他方面軍とのパイの奪い合い、勢力争いなどと無縁ではいられなかったりする。


本作においては、毎年のように行われる小鬼族との戦いもあって、指揮官の水準は一定以上に保たれている。無能に率いられれば国ごと滅びかねないのだから、末端に至るまで戦いに賭ける本気度合いは半端ないのだ。そんな訳で軍人達は血の気が多いし、一般市民にしたって、国民皆兵の兵役制度があり、いざという時に備えて、予備役の兵達も熱心に訓練に参加していたりする。ロングヒル男子はその身に狂気を宿すと言うが、それなら他の国の者達が弱い羊かと言えば、そんなことは無いのだ。


【竜族の社会構造】

竜族は基本的に個で完結しており、広大な縄張りをそれぞれが確保して、そこで生活は閉じている。しかし、彼らの飛行能力は縄張りよりも遥かに遠くまで赴くことを可能としている為、どうしても衝突を回避する社会的な仕組みが必要となった。それが部族であり長を中心とした緩やかな集まりである。

道具の運用もなく、農業をするでもなく、力を合わせて何かを行う必然性もない。そんな彼らに貨幣経済は不要で、物々交換というか、贈り物の文化がある程度だ。だから、地の種族と違って仕事という概念も生まれなかった。


ただ、仕事はないが役割はある。部族を束ねる長がそれであり、つがいとなる雄竜と雌竜、幼竜達の面倒を見る若竜達といった具合だ。そして、そんな彼らの中でも、特異な役割、それが「死の大地」の監視である。炭鉱のカナリア、国境警備兵といったところであり、「死の大地」に面した縄張りを持つ者の持つ責務として、同地の監視を行っている。ただ仕事ではないので、細かい規定がある訳でもないし、給与が出る訳でもなく、かなり緩い取り決めだ。それでも、ある程度の観察眼と変化が乏しくとも定期的に観察を行う律義さなど、一定レベルを満たさないと縄張りの主と認められない事から、彼らは同一職業に就いている者のように似た気質を持つに至ったのだ。


彼らに求められた資質もあって、彼らは森林警備員レンジャーのような気質を持っていると言えるだろう。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分では気付けないことが多いので助かります。

それにしても「いいね」機能いいですね。過去記録を振り返ってみたところ、同機能がない頃は、投稿2回に1回反応(感想、ブックマーク、評価のいずれか)があるかどうかといったところで、無反応(&無言)の観客を前に一人芝居をしてるような気分になってましたから。


作品の中では経過時間は二週間でしたが、結構盛り沢山になりましたね。書いてて思ったんですが、「死の大地」浄化作戦の担当宜しく~と仕事を任される参謀本部の人達に期待される事の山盛り具合は、アキをして「かなり大変」ってレベルじゃないかという気がしてきました。ほぼ地上戦のみ、規模師団級程度、指揮命令系統は魔術交信(=電信導入初期段階)+使い魔(=ドローン)一部導入程度というレベルから、最低でも湾岸戦争時の多国籍軍くらいの統合作戦運用はやれ、って話ですから……。


<今後の投稿予定>

第十六章の人物について           八月三日(水)二十一時五分

第十七章スタート              八月七日(日)二十一時五分


<活動報告>

以下の内容を書いてます。

・マンションの壁や天井が暑かった件

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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