第十六章の各勢力について
掲載順を勢力→技術→人物の順に変更します。
十六章は、二週間という短期間ですが、各勢力で色々と動きがあったので整理してみました。アキが忙しくて他勢力の話まで意識が回ってないのと、情報が入ってくるのにタイムラグもあるので、十七章で詳細が語られるってとこも多めです。
各勢力の基本説明は八章の「第八章の各勢力について」をご覧ください。このページでは、十六章での状況を中心に記載してます。
【ミアの財閥】
依代の君の移住は、新たな依代を用いることで、共和国に移住はしてくるものの、神力は半減、活動時間もロングヒルとどちらか一方ということで半減する見込みとなり、前提条件が大きく変わることとなった。
何かあったら、異種族との交流実績のあるロングヒルの面々を頼れるという事は心強い話だ。それにロングヒル側が活動している間は、共和国側は寝ているのと同じだから、即応が無理なら、一旦、切り替えて貰って時間を稼ぐ、という策も使える。
それに、気心の知れたロングヒルの面々とも頻繁に交流が続くなら、孤立感に苛まれたり、ストレスを溜めるような事も避けられるだろう。
極論だが、ロゼッタが対応している時間以外は、ロングヒル側での活動に専念して貰えば、増員しなくてもいい、とも言えるのだから。
おかげで、マサトもロゼッタも依代の君のサポートメンバー確保の条件を下げることができると胸を撫で下ろすことになった。……常時活動することを前提とするなら、できればケイティ級の魔導師が望ましい、などと条件を設定したせいで、人選が暗礁に乗り上げてしまっていたからである。
【共和国(街エルフの国)】
依代の君が移住してくる件で、財閥がサポートメンバーの選抜に苦慮していることに気を揉んでいたが、依代をもう一体使い、ロングヒルと共和国で切り替えつつ活動する方針が示されたことで目処が立った、と報告を受けた。同一存在が共和国とロングヒルで活動の場を任意に切り替えられる、というのは、情報をいくらでも流し放題となることを意味するが、そもそも相手が現身を得た神なのだから、ある程度は仕方ないと諦め気味だ。依代の君の性格からして、そういった方向で悪知恵を働かせる可能性は低いと考えたというのもあった。
登山計画では、アキの活躍に影響を受けたようで、未成年層が参加させろ、と陳情してくる騒ぎもあったが、大使館領でないところに未成年を向かわせることは認めない、これはアキとて例外ではない、と伝えることで一応沈静化できた。
それよりは、引き籠り傾向の強い街エルフ達の中に、激動する外に向けて出て行こうと考える人々が増えてきたことは、長老達にとっても嬉しい傾向だった。共和国の島の中では平和が保たれているせいで、未知に挑もうとする者が少ない問題があったからだ。無理をせずとも豊かな暮らしが保てるとあっては、なかなか重い腰を上げない者も多かった。しかし、激動の時代においては、今の暮らし、常識とていつ覆るかわからない。そこに敢えて前に出る人材こそが今は求められているのだ。
弧状列島交流祭りでは、持ち運び可能な茶室を用いた喫茶店を開くことにしたが、スタッフを少しずつ入れ替えることで、できるだけ多くの者、人形達に他種族との交流を経験させようと画策している。元より技量面では問題はなく、料理も保管庫を用いれば、事前に作っておくこともできるので、想定外のことに慌てることもない。それよりは皆が納得する抽選方法をどうするか決める方が悩ましかった。
【探索船団】
「死の大地」に対する三大勢力の協力という話は、まだやっと担当者達がロングヒルに集って意見交換を始めたところだ。ただ、それぞれが互いの帆船について、概要を伝え合った時点で、それぞれが異なる地域を分担して担当すること、船団に参加する帆船に対しては、各勢力の港は、必要に応じて補給を行う程度の緩い連携に留めるしかない、という結論に達した。
まぁ、無理もない。船にとって出入口は、水が船内に入り込んでしまう開口部であって、できるだけ小さくしたい訳だが、小鬼族用の扉は人族にはかなりきつく、鬼族では利用できない狭さだ。そして、鬼族の船であれば、人族にとっては扉を開けるだけでも一苦労であり、小鬼族からすれば、洞窟の入り口みたいなモノだからだ。お客さんとして中を視察する程度ならともかく、共に運用する、というのは現実的ではなかった。
登山者達を運ぶ為、鬼族の帆船がロングヒルの港湾都市ベイハーバーに立ち寄ることとなり、そこで、街エルフの帆船、鬼族の帆船が揃い、これを各種族の担当者が観る事が決まった。ただし、担当者が直接入ることはできないので、妖精達が周囲や船内を飛んで魔導具に記録し、各担当者には記録を配布するという塩梅である。担当する妖精は、母国で飛行船の建造に関わってる技術者から選ばれた。この記録データは十七章でアキの元にも届くことだろう。
【探索者支援機構】
登山参加に伴い、森エルフの精霊使いが一時的に抜けることにはなるが、全体としては前倒しに進んでいる状況なので、大勢に影響はなく、秋には予定を達成できるだろう。
【対樹木の精霊交渉機構】
交流、交渉の対象となる樹木の精霊達も着々と増加しており、日々、新たな発見がある状況ではあるが、担当者間の情報共有が進んでいることもあって、大きな問題の発生は回避できている。ただ、樹木の精霊達が増えたことで、膨大な量の情報を分析し、必要な部分だけを抽出できる専門家達が必要にもなってきた。近隣の担当者間で、手紙をやり取りするだけでは、やはり限度があったのだ。その為、大量の文官が必要となり、人材獲得合戦の様相を呈してきてもいる。
【竜神子支援機構】
秋の本番を前に、若竜達と竜神子達の事前交流を促す件は、いくつかの問い合わせはあったものの、特に揉めることなく各勢力から了承された。これは、若雄竜達との交流に苦慮したロングヒル駐在組からの嘆願が添えられていたことも大きかった。竜族との交流などというものについて、誰もノウハウを持っていないのだから、経験者の意見は貴重だった。
事前交流の前に、地の種族に関する一般的な知識をアキとリアが心話で教育する件も、やはり歓迎されることとなった。選抜された聡いとされる若雄竜達ですら、一年の経験を持つ面々が対応に苦慮したくらいだ。少しでも齟齬が減るなら、万々歳な話だった。
ちなみに、竜神子達だが、事前交流の件を聞いても、不平を言う者はいなかった。逆に前倒しな分、足りないところもある、と互いに理解した上で対面できることを歓迎する向きもあるくらいだった。彼らも合宿やアキと語り合った経験を経て、図太さを手に入れたようである。
【ロングヒル王国】
今年の総武演は、これまでの総武演と弧状列島交流祭りの二つに分けることが決まり、ほっと胸を撫で下ろすこととなった。場所を確保し、全体は取り仕切るものの、検討から運用まで、参加する各勢力から人を出して貰い、支援を受けられることになったからだ。
大規模で長期間開催のイベントについても、マコト文書の知を多く持つ街エルフ達が率先することで、ノウハウ不足に悩むことは避けられた。
交流祭りではロングヒルは前面に出ることなく、あくまでも全体の調整、裏方に徹して、参加している各勢力こそが主役、そして祭りに集う人々同士が交流することにこそ意味がある、というのだから。
次々とやってくるブース、一般、運営の各参加者達を上手く入れ替える為に、隣国との調整も始まった。人や物の動線を国単位で考えなくてはならず、共和国から提供された詳細な地図を用いた綿密な打ち合わせは、関係者達の意識に強い衝撃を与えることとなった。
……何せ、大勢が移動できるルート、注意すべき難所、宿泊可能な拠点、規模というのは、軍事行動にもそのまま利用できる話なのだ。
喫緊の課題だった依代の君については、新たに依代を用いることで、共和国とロングヒルにそれぞれ、依代の君が活動する方向性が打ち出される、という悩ましい流れとなった。望んだ結果ではないが、神に対して否とは言えないから仕方なかった。
【人類連合】
全種族の集った登山の話からさほど間を置かず、今度は弧状列島の諸勢力と妖精達の交流を目的とした、弧状列島交流祭りの開催が発表された。一ヶ月の常設会場を設置し、各勢力のブースが集い、様々な催しや交流を促す仕掛けが連日行われるというのだ。同時に届いた開催の冊子には、会場の全体図や、参加方法、ロングヒルでの混雑を回避する為、周辺国の宿泊施設まで含めた来場者調整など、その規模は前代未聞であり、であるにも関わらず、明らかにその準備、運営の手際の良さは熟練のそれであり、財閥お抱えの絵師達による扉絵や挿絵などは、冊子を手に取った者達の心をがっしりと掴んで離さなかった。
実物大の天空竜の幻影展示と解説が行われ、小鬼族は参加型アトラクションを、鬼族は彼らの実際の家屋を模した建物を、妖精族は軽食を摘まみつつ同じテーブルでの語らいを、街エルフ達は女中人形達が給仕する喫茶店を展開するといった事も書かれており、人族も一定期間で入れ替わるブースを複数確保し、参加各国が趣向を凝らした催しを行う、ともあり、諸侯達は色めき立った。
詳細については、諸勢力代表に問い合わせるようにと記載されていたことから、ニコラス大統領の元には、どこが参加するのか、禁止事項は何か、何人派遣できるのか、など問い合わせが殺到することになり、彼は急遽、重要な議題を決める時に用いられる大会議場に連合所属国の全代表を集めて、この件についての説明会を開催して、何とか加熱する空気を制御下に置く事に成功した。
そこで彼は、開催まであまり時間がないこと、調度品全てが魔導具といった街エルフに豪華さで競おうとしたり、実物大の動く細密幻影の天空竜より驚愕させようと張り合うのは無意味であり、だからこそ連合のブースは同じ大きさ、同じ予算、スタッフ人数も揃え、他の勢力にはない多様さこそが連合の特色と示そう、と自論を述べた。話が決まったのは直近であり、だからこそ他の勢力も今ある設備を流用するなどして間に合わせる方針であり、勢力間で競うのが目的ではない、とも。
……ニコラスの発言には、勿論、あれこれ異論も出たものの、だからといって皆が納得できる落としどころが他に生まれる筈もなく、彼の示した方針で祭りに参加する方針が確定したのだった。
なお、同会議において、近日中に、秋の天空竜と竜神子の交流を前倒しすること、一、二週間以内に全三十拠点、三大勢力のそれぞれの地域に天空竜が舞い降りることも伝えられ、各代表達は戸惑いを隠せなかった。あくまでも親睦を深めるための個人的な訪問であることと、ニコラスは竜神の巫女アキの発言として「秋に若竜と国の代表が竜神子の立ち合いの元で交流を始める事、それが御伽噺ではなく現実に起こる事と該当国の民に示す意味もある」も伝えられた。
天空竜の各地への訪問、諸勢力の集った交流促進イベント、それらが帝国が秋の収穫後に行うと宣言している成人の儀と称する限定戦争に先だって行われることの意味、影響について、代表達とて理解しない訳がない。彼らからは、竜の介入や、従属の強制、搾取、それに竜族を意のままに操るアキへの恐れなど、様々な意見が出た。
それに対してニコラスは、竜神の巫女は竜と地の種族の間に立ち、両者を繋ぐ役であり、どちらの側にも加担せず、まして、竜神の巫女が竜を従える、などという事はないと説明した。また、竜族は地の種族の争いに対して不介入の方針も崩していないと。
ニコラスは動揺が収まらない代表達に、だからこそ、信頼できる者を祭りに派遣すれば良い、一般参加枠は十分にあるとして、ロングヒルに行け、三大勢力の代表も集うのだから、何なら自身が赴けばよい、と誘いすらした。
戦支度と祭りの参加、両方やればばいい、と笑みを浮かべるニコラスに対して、各国の代表達は、昨年までの彼とはまるで別物、化けた、それも大化けした、と感じたのだった。
【鬼族連邦】
鬼王レイゼンの示した、先に動き、対象国側に受け入れさせる策は、帝国に向けた、呪い研究チーム派遣、治水事業協力チーム派遣、大型外洋帆船を用いた、登山参加メンバー派遣、弧状列島交流祭りに向けて、解体した家屋一棟を空間鞄に入れた祭り参加者達の派遣といったように、これまでの消極的な姿勢が嘘のように、どの勢力よりも積極的なモノとなった。
それぞれのチームは少数精鋭なのだが、何せ鬼族は見上げるような巨躯だ。その存在感は数人であっても圧倒的で、連邦は、交流と支援に積極的な勢力との印象を強く与えることとなった。
熟考してから動くのではなく、自分達から動くことで、場を有利に動かす姿勢の切り替えは、今のところ効果的に機能しており、その論は手腕は見事と言えるだろう。
天空竜、竜神の巫女、妖精、魔導人形達がふらりと空から舞い降りた半日ばかりの訪問は、連邦の人々の意識を大きく変えることとなった。
連邦は安定しているのではなく、停滞していたのであって、激動の時代に背を向けていれば、取り残されて没落していくのみ。そんな理解が広がっていくことにもなったのだ。
今のところ、何でも取り入れよう、古いものは全部捨てよう、等という極端な思想は見られず、とにかく出ていくこと、外で見聞きしたことを持ち帰り、皆に広めることが重要といった風潮なのは、良い傾向だろう。
アキが示した、「死の大地」浄化に向けた大戦略の話は、連邦中枢を担う者達に衝撃を持って迎えられた。何せ、作戦規模が桁違いだ。必要戦力の一割もあれば、連邦を短期間で更地に変えられるのだ。アキは自分の示した案は、単なる叩き台なので、戦略と大軍の運用に長けた専門家を集って、現実的な作戦案に落として下さい、と話していた事も伝わった。
……確かにアキは軍事の専門家ではなく、兵士としても新兵未満なのは間違いない。だが、それなら、鬼族の中から、「死の大地」浄化の大戦略が先に示せたかといえば、どう贔屓目に見ても、無理だった。
そして、アキが示した仮説の数珠繋ぎ、その道筋はそれなりの説得力があることは否定できなかった。
今、連邦中枢の為政者達が頭を悩ませているのは、大戦略の検討チームに誰を派遣するか、という難問だった。戦技に優れた者ならいくらでもいる。戦術に明るく、戦功を重ねた者もそれなりにいる。……だが、戦略となるとかなり少なくなり、大戦略となると経験者が居なかった。
ここで彼らが勘違いしていたのは、個として他種族を圧倒し、人数が少ない事もあって、個人の才覚で自軍を指揮できてしまっており、個人の限界を打破する参謀本部を必要としてこなかったのが大きな要因だと言えるだろう。参謀本部に匹敵する突出した天才、ナポレオンのような英傑が必要なのだ、と思い込んでいたのだ。
彼らが自分達が視野狭窄に陥っていたと気付くのはもう暫く時が必要だった。
【小鬼帝国】
帝国は秋の成人の儀に向けて、実行と中止の間で方針を決めかねていた。帝都で、天空竜や妖精、魔導人形、それに竜神の巫女の来訪を経験した人々は、戦争をやってるどころの話ではない、と理解していた。しかし、帝国は広く、天空竜達は遥か彼方を飛び関わることのない存在としか認識していない国民が大半を占めていた。この認識の落差は余りに大きく、これまでの伝統、死生観などもあって、成人の儀を求める風潮は根強かった。
そこに届いた、若竜と竜神子の交流前倒しの提案であり、ユリウス帝だけでなく諸王もまた、その提案を歓迎した。
結局のところ、魂を凍らせるような天空竜の圧は、言葉を重ねるよりも、体験させた方が心底、理解させるのは早いのだ。それも自身で無くとも、身近な者が体験し、その経験を自身の言葉で語れば、説得力は段違いなものとなる。
各地に降り立つ若竜と竜神子の交流は、帝国の民に、これまでに無かった、新たな時代の姿を見せ付ける事になる。その結果は秋にロングヒルへとやってくるユリウス帝の口から語られることになるだろう。
アキの示した、「死の大地」浄化の大戦略について、帝国では早々に、全体の検討や指揮が個人の限界を遥かに超えていることを理解した。
これは、元々、小鬼族が敵と戦うのに常に数的優勢を必要としていること、浸透・撹乱戦術を基本としていることから、兵士達は末端に至るまで、作戦の目的と制約条件を理解させて、各部隊の指揮官達に大きな裁量権を与える、目的遂行型の組織化を成し遂げているのが主な要因だった。
「死の大地」はあまりに広く、魔術を駆使しても、各方面軍同士が緩く連携するのがせいぜいであり、そのくせ、戦力である天空竜の行動範囲は広く、移動速度も速く、刻々と変化していくであろう戦況は、命じられてから動く等という悠長な事は言ってられないのだ。
全体の検討、準備は参謀達の集団力で対応し、実戦段階では各方面軍の目的と制約条件を明確にした上で、大きな裁量権を与えて、それぞれの判断に任せるしかない、と。
そうと見切れば、夜の闇に紛れて、多数の部隊を広域に浸透させて、独自裁量で作戦を遂行させる小鬼族の流儀こそが最適解だと答えも出せた。
準備は万端に、実行は大胆に。
ユリウス帝は、全体の検討を行う参謀達と、それとは別に目的を遂行するためのチーム作りを担当している教導隊のメンバー達の派遣を決めた。そして、この判断が正しかった事は、諸勢力から集った参謀本部を立ち上げる際に証明されることになる。
【森エルフの国】
登山の件は、森エルフ達を大いに悩ませる事となり、結局、探索者チームに派遣されていた精霊使いから三人が選抜されることとなった。彼らは人族ではあるが、他の種族と共にチームを組んで活動し、良好な成果を収めた実績があったからだ。
それだけ、限られた短い日数に、多種族と親睦を深めて、仲間としての意識を確立する、というのは困難な任務と考えられていた。ロングヒルに常駐しているイズレンディアの元に集い、学びの時間を設けた程だった。
また、弧状列島交流祭りでの出し物も悩ましかった。不特定多数の多様な種族を相手に、限られたスペースと短い時間で、森エルフらしさ、精霊使いらしさをアピールしろ、というのだ。この一報を受けて、本国では国中の者達が集められて、知恵を絞ることとなった。
結局、ノウハウの乏しい彼らが誰を頼ることとなったのかは、十七章でイズレンディアから語られることとなるだろう。
【ドワーフの国】
物作りにはあれこれ関わっていることに変わりはないが、この期間に新たな動きが三つ生じた。
一つ目は、依代の君の神力を制する術式や魔導具に関する検討への参加で、これはドワーフ達にとっても未知の領域だった。何せ魔術というのは位階が高くなるほど、そこに介入する難度は跳ね上がっていくからだ。低い位階の火球なら防げる障壁も、妖精族の投槍の前では、豆腐に箸を挿すように簡単に貫通されてしまう。位階が違うということは、単に出力を上げればいい、というほど単純なものでもないのである。
……そして、神力とは、地の種族が精一杯高めた位階の更に上だ。見た目が蝋燭の火のように小さくとも、それがもし神火であれば、水をかけても消えず、水の中に沈めても、周りの水すら燃やし尽くしていくだろう。神の力は直接、結果を引き出すのだ。燃えよと神が望めば、この世の全てのモノは燃えるだろう。
とまぁ、そんな具合なので、この検討は至難を極めた。結局のところ、最低限、これくらいは無いと話にならない、という下限ラインを見極めるのが精々で、魔導具の実際の設計に入れる段階まで進むことはできなかった、というのが実情だった。
二つ目は、アキが示した「死の大地」攻略の大戦略、その序盤となる浄化作戦で、「死の大地」を覆い隠している、漂う呪いを消し去り、露わになった呪いの分布、強度、種類を記録する魔導具が必要であることが明らかになった。求められる性能はかなりのものであり、それをどう実現するのか、あれこれ考えることとなった。何せ、一つ作ればいい話ではなく、同じ魔導具を数十は製造しなくてはならないのだ。これもまた、連絡を受けた本国のドワーフ技師達を悩ませることとなった。観測機器をただ作ればいい訳ではないという話について、十七章でヨーゲルから語られることになるだろう。
三つ目は、弧状列島交流祭りでの出し物だった。限られたスペースで、あまり時間をかけずにドワーフの事を伝えなくてはならない。それも一般人から同業者まで含めて、わかりやすく、しかし嫌味にならないように、だ。これもまた担当者達にとっては悩ましい話となった。
山登りの件は、人選こそ揉めたものの、登山検討チームから趣旨もきっちり説明があり、その準備は万端だった。
【妖精の国】
ロングヒルを訪れる妖精達もかなり人数が抑制された状態が継続している。彼らも自国の滞った様々な作業を片付けるのに手一杯なのだ。それでも、依代の君の面倒を見る要員を派遣したり、彼の神力を抑制する為の研究に賢者が参加するなど、最低ラインはキープしている。
今年の総武演は、以前の総武演と、弧状列島交流祭りに分けられることになり、鬼族連邦で行ったように、テーブルで軽食を楽しみつつ市民同士の交流をする、といった程度で済ませる方針となり、演出を指示されていた者達は安堵していた。
より良いモノとはしたいが、より派手に、大規模に、というのは妖精達の気風にも合わないからだ。できるだけ小さな力で最高の成果を。ただ、その為には熟考する期間も欲しかった。
それと、登山に参加する三人の妖精は、現地で一泊することが確定していることもあって、人々の期待を一身に受けて、人生最高の時を迎えていた。女中人形達が用意した道具セットと同じモノを妖精の国でも用意し、何かあった時にはそれらと自前の術式発動だけで対処できることを考えるバックアップチームまで用意する徹底ぶりだ。
単に個人を三か所に派遣するのではなく、常時、連絡可能な支援体制付きで異世界で、多くの種族と旅をしよう、という訳だ。
ここまでの用意周到さは、マコト文書の一つ、アポロの書の内容を、翁経由で色々と情報を仕入れることができたからだったりする。特にアポロ十三号の事故からの奇跡の生還については、翁も大いに関心し、後方支援体制の重要性を強く認識させることになった。
この辺りの話も十七章で語られることになるだろう。
【竜族達】
多くの種族が集って山に登って「死の大地」を眺める件は、一部の竜達の注目を集めてはいるものの、せいぜい雑談ネタといったところであって、それも全体としての話題にはなっていない。しかし、登山に携わる若雄竜達にアキが示した長期プランの話は長にも伝わることになり、各地の長達も、確実起こるだろう未来、その変化の兆しとして、考えを巡らせているようだ。雲取や紅竜に話をした、「死の大地」攻略の大戦略については、かなりざっくりと、若竜達が数十頭単位でチームを組み、そのチームを更に数十、合計数千頭の若竜が参加する、かなり複雑なものとなるだろう、といったレベルで福慈にも報告された。十七章では登山先の主達や、福慈に対して、アキが大戦略と近々に行うべき内容を話すことになる。それとは別に、秋の地の種族との交流に向けて、各地の若竜達と竜神子が話をする前に、アキやリアが事前教育を行う件もある。これから冬にかけては、竜族にとってもかなり濃密な期間となるに違いない。
【樹木の精霊達】
十五章ラストから二週間しか経過してないこともあり、樹木の精霊達の行動に特に変化はなく、新たな共存相手としての地の種族に興味を向ける個体が増えてきた、といった程度だ。
【「マコトくん」の信者達】
信者達や、「マコトくん」降臨に関わらなかった神官達にとっては、続々と増刷されるマコト文書抜粋版を手に入れて喜んでいる新しい信者達が増えた程度の変化があった程度だったが、「マコトくん」降臨に携わった神官達は、予想していなかった神託に驚くことになった。
前回の降臨で、現身を得た「マコトくん」改め、依代の君が語ったように、様々なことを実際に経験することで、自分だけの記憶を育てていく最中であり、それもまだ道半ば、予定期間の半分を過ぎた程度の時期だったからだ。
依代の君から届いた新たな神託は、ある意味、シンプルな内容だ。「新しい依代に対して、依代の君を降ろす儀式を執り行え」という、降ろす対象が変わっただけで、神降しの集団儀式の手順が入らない、そんな内容だった。
ただ、手順が同じであっても、信仰する神である「マコトくん」と明確に異なる存在として、依代の君を認識しなければ、彼を対象とした神降しが成立する訳もない。
信仰する神でありながら、異なる存在。神託を受けた神官達が何を考え、どう動くのかは十七章で語られることになるだろう。
ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。
時系列表を更新したり、勢力という視点、技術的視点、人物視点と経ることで、頭の中も整理できる感じです。……結構、十六章で紹介するとしていた奴で、時間軸がそこまで進まず、十七章送りという項目も多かったですね。
ただ、十六章は各種族に足りない知識を補うことで「死の大地」浄化の大戦略を、これまでよりもう一段、具体的にしていく流れがあったり、アキが遠慮をまた一つ吹っ切るなど、大きなポイントがちらほらあったので、丁寧に描写しました。
しかし、確認したつもりが、十四、十五章の技術→勢力→人物の順番と別にアナウンスしてたのに後から気付きました。まぁ、本編と違って補足設定集なので順番はさほど問題とならないと思うので、今回は勢力を先にします。
<今後の投稿予定>
第十六章の施設、道具、魔術 七月三十一日(日) 二十一時五分
第十六章の人物について 八月三日(水) 二十一時五分
第十七章スタート 八月七日(日)二十一時五分
<活動報告>
以下の内容で、活動報告を記載してます。ネタバレ内容を含むのでご注意ください。
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雑記2:映画「トップガン マーヴェリック」
雑記3:映画「シン・ウルトラマン」
雑記4:献血「「魔女の旅々」× 献血コラボ 特製クリアファイルプレゼント!!」
雑記5:バーミヤンの猫型配膳ロボット、祭りカラーに