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16-29.士別れて三日なれば刮目して相待すべし(後編)

前回のあらすじ:依代の君の神力を制する件について中間発表を聞くことになりました。ただ、依代の君は、面白そうと思うと安易にボタンを押すタイプのようで、言葉に強めの意思を乗せて僕の事を試してきました。自己イメージの強化をしてなかったら、ちょっとグラついたかも。まったく困った子です。(アキ視点)

研究組の中間報告とのことだけど、おや、珍しい。発表は鬼族の研究者トウセイさんだ。


「――以上のことから、現状の技術では、依代の君の神力を抑える魔導具は、船舶用途の大きさ、重量となってしまい、運用目的にそぐわない状況です」


皆で話し合ってたこともあり、大型幻影には開発経緯、検討内容、各分野からの検討結果、結論までがきちんと映し出されていた。それにトウセイさんもただ、表示されている文字を読み上げる、といった無駄な事はせず、ポインタで示された項目について、理解しやすいように簡単な言い回しにしたり、比喩をしてみたりと、なかなか話し方が上手かった。


結論はシンプルで、依代の君の神力が強過ぎて、それに対応する強固な障壁を創り出すには、船舶用宝珠の膨大な魔力と、それに耐えうる頑強で嵩張る大型の魔導具が必要、という訳だ。


創るのも大変、創ったとしても依代の君が持ち歩けないのでは、運用で回避という策も使えない。トウセイさんが補足で話してくれた内容によると、そもそも大出力と小型化の両立は至難とのことだった。そりゃまぁ、そうだよね。


例えば、タンカー級船舶用の十二気筒エンジンなんて三階建て公民館サイズ、重量も二千トンある代わりに十万馬力とか出るし、大型SUV用のエンジンなら一立方メートル程度、重量二百キロ、四百馬力って具合だ。人型ロボットに十万馬力を乗せられるのは遥かな未来だろう。


「トウセイさん、発表ありがとうございました。とても分かりやすかったです。強い力を強いまま何とかしようとするのは無茶とわかりましたけど、そうなると依代の君の力を削ぐか、竜族の皆さんのように抑えることで、外への影響を小さくするしかなさそうですね」


お、師匠が手を上げた。


「神力を抑える方は、竜族の方々の指導と、依代の君の熱心な姿勢もあって、力の大きさに見合った抑制をできるようになったよ」


 ほぉ。


って、対面してる時も、こうして同じテーブルに座っている今も、抑制されてる感じがしないけど。


「窮屈なのでボクは好かない。皆も魔力を抑えている竜族には敬意と、その配慮をする思いに感謝の念を抱くべきだ」


そう言いながら、僅かな時間だけ神力を抑えてくれたけど、すぐにぽよん、と元の圧に戻してしまった。圧縮率は元の一割ってとこか。


「結構減った感がありますけど、これじゃ駄目なんですか?」


今度は妖精族の賢者さんが答えてくれた。


「抑えた状態であっても、まだ依代の君が持ち歩けるサイズの魔導具とはできぬ。それに、魔導具を稼働中に神力を抑えることを止めたなら、魔導具が過負荷で壊れる。だから、それでは解決策にはならないのだ」


 なるほど。


さっきの感じからすると、依代の君が竜族の皆さんのように、長時間、ずっと神力を抑えられるようになるのは、当面は無理そうだ。それに神力から伝わってくる感じだと、我儘や不快感などから戻した、というより、抑え続ける方が危険と感じて圧を開放したようにも思える。


「依代の君、抑えた状態で神力が増えると破裂しちゃう感じ?」


「抑えるのは、身体を強固な膜で覆うようなモノだ。だが、竜族と違い、ボクはまだ、「マコトくん」からの神力の流入が、ペースは落ちているが完全に止まっている訳ではない。同じ器に無理に水を押し込めば、器は破裂してしまう」


 うわぁ。


「神力の総量に応じて、抑え方を変えていくのは?」


「それだけに専念すればできるが、それではボクは活動できなくなってしまい意味がない」


 ふむふむ。


「僕達の方では、登山先の主達の勧めもあって、自己イメージの強化について取り組んでみたんですけど――」


ざっと、取り組んだ経緯、やったことによる手応え、影響については、僕が声に意思を乗せた時に五割増しになった、と言われたからそれなりに効能はあったんだろう、と説明してみた。皆から出た意見としては、依代の君が様々な経験を重ねて感覚質クオリアを育てることと、自己イメージの強化は併用できて、その流れを加速することが期待できる、とまぁ前向きな感じ。

ただ、即効性はないし、彼の既に増えている神力を減らす効能はないから、近々の問題を片付けるのには役立ちそうにはない、って意見が大半を占めた。


 でも、その割には皆さん、悲壮感はないね。


「手詰まり感がありますけど、もしかして、何か策があるんですか?」


僕の問いに、依代の君が自信ありげに頷いた。


「アキが先ほど話したもう一つ、ボクの力を削ぐ良い策を思いつけたのだ。ボクの神力を大きく減らし、神器の扱いに困ることもなく、共和国の島で生活すると、ロングヒルでの様々な活動に参加し辛い問題も解決できる、一石三鳥の名案だ」


凄いだろ、と自慢する気持ちが神力から伝わってきた。彼の仕草も当初の人形っぽさはだいぶ薄れてきた。まぁ、その分、子供っぽさが増えたけど。


「神力をごっそり減らすなら、大きな宝珠を用意してそこに神力を移せばいいけど、それだと取扱いに困る神器が増えちゃう。でも、扱いに困らない? それに共和国の館でロゼッタさんと生活するのと、ロングヒルでの活動を両立するとなると……自身を召喚することで、神力をその維持に費やすとか?」


僕の思いついた策は、師匠がそれじゃ駄目なんだよ、と教えてくれた。


「召喚される者自身の魔力、神力を用いて、自分を対象とした術式を用いるというのは、云わば、関係性のループを生じさせることになる。術式の基本は一方通行の流れであって、ループが生じるようなパターンは上手く行った試しがない。あちらで言えば、永久機関を創ろうとするようなもんさ」


 うわ。


「術式の発動分のロスがあるから持続性がない、入力と出力が拮抗するからそもそも発動しないとか?」


これは、小鬼族の研究者達の代表、ガイウスさんが答えてくれた。


「そうなります。依代の君の場合は、「マコトくん」からの神力の流入があるから、拮抗を崩す流れはある訳ですが、今のところ、理論上でも成立させる方法は無いのです」


つまり、次元門と同レベルの無理筋と。


そして、二人の説明を聞いて、でも解決できる、と依代の君は自信満々な顔をしてる。というか、神力からは凄いだろ、褒めろ、驚け、と伝わってきた。表情を見るだけでもわかるけどね。ほんとわかりやすい。


「降参か?」


ちらりと、皆を見ると、種明かしは依代の君に一任するようだ。


「降参。凄い名案を閃いたんだね。教えてくれる?」


両の掌を見せて、降参のジェスチャーを示した。それに心底感心した、といった気持ちを声色に込めたことで、依代の君も満足げに頷いた。


「ならば話すとしよう。一石三鳥の案とは、残っている二つの依代、世界樹の枝から創り出した三つのうち、今、ボクが降りている依代より強度の劣るそれを用いて、ボクの一部を降ろすのだ。ボクの力の三、四割を新たな依代に降ろすことで力を減らし、新たな依代が自立することで神器の管理問題も発生せず、新たな依代を協和国に、ボクは引き続きロングヒルに留まることで、共和国とロングヒル間の移動問題も解消だ」


 ほぉ。


ん、ダニエルさんが話を補足してくれた。


「集団儀式の対象を「マコトくん」から依代の君に変エテ、改めて降臨の儀式を行いマス。ただ、儀式に参加できる神官は、依代の君の神託を聞ける者に限られマス」


というか、神降しの多段構造が有りとは思わなかった。


「例の同一視できるか、という話ですね。依代の君が前回の儀式に参加した神官達の皆さんに対して、改めて降臨の儀式をやるからロングヒルに集え、と神託を出して、聞こえて集まってくれた方々に降臨の儀式を行って貰うとか?」


「手間も省けて良い策だろ」


「神託のロスは気にしないでいいの?」


「日々増える神力からすれば微々たるモノだ」


 なるほど。あ、でも気になるところがある。


「そうして、新しい依代に、依代の君ジュニアが創られたとして、それって、「マコトくん」に対する依代の君のように、別の存在になっちゃわない?」


「そこは翁が行っている召喚術式のように、どちらか一方だけが活動する運用とし、同時運用する場合は、その都度、情報の同期を行えば同一性を維持できると思う」


 ふむ。


この件は、お爺ちゃんが補足してくれた。


「依代の君は、日中の記憶を整理する為に、意図的に睡眠を模した状態で過ごしておる。それを休ませる側が行うことで、異なる経験の積み重ねによる乖離を避けられるじゃろう」


ここで、雲取様が発言してきた。


<聞いている限りでは、神力を半減できそうだ。それに日々の経験の積み重ねで「マコトくん」からの神力の流入量も減少してきている。三体目は念の為、予備としておけば良かろう>


神力の流入ペース減少が思うように進まない時は三体目の降臨か。


「三体目は、依代の君とジュニアのどちらからでしょう?」


<召喚を複数同時に行うことは試したことがない。召喚と降臨の違いがあるとは思うが、行うならジュニアからだろう>


確かに、同時に複数は何か新しい問題が発生しそうだ。


んー、雲取様の思念波から伝わってきた感じだと、この件は重要だから、選択肢としてはそうなるのも仕方ないけれど、自分達が使える分の依代が無くなるのを残念がる思いもあるね。


何とかならないかと考えてる時に、発表者のトウセイさんを見て、ふとアイデアが閃いた。


「トウセイさん、ジュニアに変化の術を習得して貰うことは可能でしょうか? 微増する神力を変化の術の維持に使えれば、三体目は不要になるし、トウセイさんに続く二人目の変化の術遣いの誕生ともなり、研究の飛躍にもなるかなーって思うんですけど」


僕の思い付きに、トウセイさんは始め、驚いた顔をしたけど、門前払いにするような話でも無かったようで、顔付きが次第に変わっていった。


セイケンが身振りで、皆に静かに待つよう指示し、僕達は全員がトウセイさんの思考が纏まるのを待った。





小さな物音を出すことも控えて待つこと十五分。



そんな沈黙の時間は、トウセイさんが内なる思考の渦から意識を外に向けたことで終わりを告げた。


「……おや。あ、済みません、考え事をしていると夢中になってしまうもので」


<研究者とはそういうモノなのだろう? 気にせずとも良い。それで、アキの思い付きは実りに繋がりそうか?>


雲取様の問いに、トウセイさんはゆっくりと頷いた。


「これが召喚体であったなら、術式同士の干渉が生じて実現の可能性は無かったでしょう。しかし、今の案であれば、降りてきた存在は依代によって状態を保つだけで、その維持に術式は絡まない。鬼族と神族の違いとその影響については研究で明確にせねばなりませんが、原理的に否定する要素はないと考えます!」


彼は静かに自論を述べたけど、その言葉は皆の心に強く響いた。


依代の君も、大好物を前にしたような笑顔で賛同の思いを告げる。


「話に聞いていたが、別の姿に変身するというのは興味があった。ボクの在り方が変わるなら同意できない話だが、変化の術は自身を変えるのではなく、用意した別の身体を操るだけで本質には影響は与えまい。変化の術は先々、竜族や鬼族が共に暮らす礎と期待されているとも聞く。その発展にボクが関われるのは光栄だ」


変身ヒーローは男の子の夢だもんね。依代の君もイメージを崩さないように頑張って話してるけど、うきうきする気持ちが駄々洩れで、僕まで楽しい気分になってきた。


雲取様にとっても彼の浮かれ具合は、予想を超えるレベルだったっぽい。


<依代の君よ、別の姿に成れることはそれほど喜ばしい事なのか?>


「ふむ。雲取殿も幼き頃には、成竜の力強い姿を見て、自分もそうなりたいと憧れた事もあっただろう? それが成長の長い時を経ることなく、幼い頃に短い時間ではあっても叶ったなら? 小さな時とは違う、樹々を見下ろす視点や、雲のある高みまで飛ぶ自由さを体験できたなら、その日は興奮して眠れないほど衝撃的な体験だとは思わないか? 変身というのは、自身をゆっくりと変えていくのではなく、到達点に一足飛びに辿り着き、その果実を得られる奇跡なんだ。幼い頃にはあれこれと出来ないことが多く――」


あー、なんか依代の君のスイッチが入ったようで、自分自身が今、小さな身体だということもあってか、子供達の持つ熱い思いを切々と語り出した。同時に、トウセイさんに対して、変化の術が如何に素晴らしいか、なんてことまで熱く語って、其方は全種族の宝、未来への希望だ、などと褒めちぎる始末だった。


雲取様も、二体目の依代と変化の術の併用が成功すれば、三体目の依代はフリーとなって竜族が遠隔操作用に使えそうとわかって、不満もだいぶ解消されたっぽい。


それからは面倒見にいいお兄ちゃんといった感じに、後から後から溢れてくる熱量を口にする依代の君の振舞いにも、辛抱強く付き合ってあげたのだった。




日本あちらでは先々まで予想がつく安全な国、人生に閉塞感を強く覚えていた。そんな昔を思い出し、そこに「変身できるようにするから、僕と契約してよ」とか誘惑されたら、確かに食いついたかもなー、なんてことを考えたりもした。実現までの道は平坦ではないけれど、きっと辿り着けそう、多少の無理は、神力を使ってでもごり押しして、何が何でも辿り着く、その手応えを確かに感じ取れた。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないものなので助かります。


キリがいいので十六章は本パートで終了とします。


依代の君が物語に加わったことで、場が動き出した感がありますね。今までもアキが大勢巻き込んで、激動の時代を迎えるに至った訳ですが、アキも色々と遠慮してるところがありましたから。


依代の君は、アキと同じ、マコトを源流としながらも、人々を見守り、試し、そっと後押しする「マコトくん」としての神性や、光と闇の性格のバランスが光側に偏ってることで、良い結果を期待して踏み出す感覚がアキよりずっと軽いなど、個性と言える違いが明確に表れてきています。


おまけにアキと相性が悪い、というか彼が一方的にアキを敵視、というかライバル視してることもあって、混ぜれば、簡単に火花を散らしてくれます。


周りからすれば、更に厄介事が増えた訳で、頭が痛いことでしょう。強力な存在は、ただそこにいるだけで、周囲に影響を与えていくのだから……。


あと、補足としては、変化の術を依代の君ジュニアに使わせるアイデアは、アキだから出せた、というモノではなく、発言したのが一番早かったという程度です。他の人達は専門家としての知識が豊富な分、漏れが無いか、他の案はないかなど、自問自答してて出遅れますからね。

アキは、良さげなら、とにかく発言して、専門家にぶん投げてみる、というのが基本なので、発言の出は早いんですよね。あぁ行けそうだな、と感じたら、発言しつつ考えて、なんて事もよくやってますし。なので「関係性のループ」のように他の人には常識な部分が抜けてて、発言して、すぐぺちゃんと潰されたりもします。アキは軽く壁に当たった程度にしか思わないし、それによって相手にどう思われるか、なんてのも気にしてないのでノーダメージですが、各分野の専門家として研鑽を積んできた人達であればあるほど、アキほど気軽には発言できなくなっていくものでしょう。


次回からの投稿予定は以下の通りです。


第十六章の各勢力について          七月二十七日(水)二十一時五分

第十六章の施設、道具、魔術         七月三十一日(日) 二十一時五分

第十六章の人物について           八月三日(水) 二十一時五分

第十七章スタート              八月七日(日)二十一時五分


十六章も終わってキリも良いので、感想、ブックマーク、評価、いいねなど何らかのアクションをしていただければ幸いです。それらは執筆意欲のチャージに繋がりますので。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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