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16-28.士別れて三日なれば刮目して相待すべし(前編)

前回のあらすじ:自己イメージの強化関連で、条件を満たしたということでミア姉からの手紙を久しぶりに読むことができました。やっぱり、読めると嬉しいですね。(アキ視点)

自己イメージ強化についての検討結果を携えてからの方がいいからと、後回しにされていたけど、依代の君の神力制御に関する中間報告会が開かれることになった。場所は前回同様、第二演習場。立ち会うのは自己イメージ強化繋がりで雲取様だ。


席配置は前回同様、というか、始めに他の皆が障壁で囲われたエリアのテーブル席にいて、僕と依代の君は、離れた位置、雲取様の前で、前回同様、三メートルほど距離を空けて対面してるって辺り、何を想定されているのか、薄々感じられる。


「お待たせ。前回より落ち着いた感じだね。こちらの生活も楽しんでるようで何よりだよ」


麦藁帽子にTシャツ、短パンという元気な男の子って感じの服装だけど、整った顔立ちと華奢な体躯、それに長く伸びた髪が少女っぽさを強く主張していて、独特の雰囲気があって、まぁ可愛い。


雲取様も何度となく彼のお守りをしてたからか、気安い雰囲気で見守ってくれている。といっても、魔力を抑えることなく、身体を起こして、即応できる姿勢ではあるけれど。


そして、依代の君だけど、雲取様の圧にも負けず、ちゃんと彼の魔力も感じ取れて、それに触れていると、最初に会った時に比べると、明らかに強靭さやしなやかさが増したように感じられた。自己がしっかりしてて、雲取様の圧を受けてもまったく揺らいでないのは良い傾向と思う。


「害意が微塵も感じられないのは相変わらず、か。――敢えて聞こう」


僕が示した好意に、嬉しさ半分、悔しさ半分って感じかな。……だけど、あー、これは何か仕掛けてきそうだ。目がウキウキしてるから、表情が解りやすい。


()()()()()()() ()()()()()


試す気持ちが強く言葉に乗って、心の奥底まで浸透してくるような不思議さがあるね。始めて会った時にやられたら、多少は動揺したかもしれない。


 もう、その程度で揺れ惑うことは無いけど。


『父ハヤト、母アヤの三女、アキだよ。君とは幼い頃に分かれた双子の片割れってとこかな』


込められた意思と同程度の思いを乗せて、僕の自己認識のイメージも含めて返した。


彼も、ほぉ、と感心しながらも、同時に、そんなところだろう、と納得した表情を見せる。


<依代の君よ、声はどうしても対象を絞るのが難しい。そのような試しは時と場を選ぶのだ>


雲取様の思念波からは、理解してやってるのだろうが、と苦笑する雰囲気も感じられる。声、というか音に指向性を持たせるのは難しいからね。どうしたって周囲に広がっていくし、対象でない者が聞いても、彼のような意思を乗せた声は、心に大きく響くことになる。


「前回とあまりに変わっているので、どの程度か測りたくなった。成長する者を見ると深く知りたくなるのが性分なのだ。大目に見て欲しい。心配せずとも、確認は終えたからもうしない」


ごめんなさい、と素直に謝る態度は、何とも子供っぽい純真さが感じられるね。一発試して、やりたいことを終えてから、という辺り、良い性格してるけど。


「鏡に自身を映して、その姿に対して、お前は誰だ、と問い続けると、当たり前として理解してた事の認識が鈍くなって揺らいでいき、それが波及していって人格まで崩壊してしまうそうだよ。ここに来てる人達なら問題ないと思うけど、自重してね」


始めは自分の振舞いを馬鹿らしく思う程度で実害はないんだけど、漢字とかでも、あれ? この文字ってなんだっけ? 何でそう読むんだった? みたいに思えてきて、なぜ、そう読めていたのか、という部分にまで疑念が及び始めるとかなり不味い。ゲシュタルト崩壊と呼ばれる知覚に関する現象で、鏡に映る自分は自分自身の筈なのに、あれ、こう話している姿が見えるけど、なんでこれが自分なんだ? みたいに揺らぎ出して、他人のようにふらりと感じ出したら、その試みはそれ以上、続けてはいけない。


ちょっと釘を刺しておこう、くらいな気持ちでそう話したんだけど、思わぬところから増援が来た。シャーリスさんだ。


「アキ、それは我らを高く評価し過ぎだ。実際、試しに入れた防壁も貫かれて、妖精界の本体、妾自身の心まで届いた。自分に向けられたモノではなくても、危機意識すら覚えたほどじゃ」


 なんと。


「お爺ちゃんは?」


「儂も同じじゃよ。もっとも儂は積み重ねた年月の重みがあるからのぉ。今の程度ならさほどの揺れでもないが。セイケンはどうじゃ?」


困った時のセイケン頼み。鬼族のセイケンは良くも悪くも、何かあった時の基準として意見を求められやすいんだよね。


「私は何かあるだろうと、予め備えていたから、さほどの影響は受けなかった。だが、雲取様の圧を軽減する緩和障壁は、声に乗せられた力の軽減には何ら寄与しないようだ。それこそ、大気を操って音自体を消さないと効果を打ち消せないと思う」


強大な魔力との差によって起こる圧とは根本的に違う現象、と。


ん、師匠も手を上げた。


「ここにいる者達はいずれも導師級か、それに準ずる力量があるから、実害は無かったのは確かかね。ただ、対象から外れていてさえコレだ。敬老の心を忘れず、周りはもっと気にしておくれ」


老骨にはキツイんだよ、と師匠が言うと、依代の君も済まなかった、と謝ってくれた。


 ふぅ。


彼からすれば軽い試しでも、一応、距離を離して障壁を展開してても影響が出るってのはなかなか怖い話だよね。特に召喚の経路(パス)を通じて、妖精界の本体、その心にまで届いたと言ってたのは不味そうだ。試しに入れた防壁も貫かれた、と言ってたから多少でも役立つようにもっと改良する必要もありそうだ。


……なんて考えていたら、師匠が呆れた視線を向けてきた。


「何、他人事って顔をしてるんだい。アキの意思を乗せた声も同じだよ。内容が依代の君向けであった分、影響は確かに少なかったけどね、以前に比べて、心への響き方が五割増しってとこだ。自己イメージ強化の成果だろうが、これまで以上に使う時は注意するんだ、いいね」


 ぐぅ。


「すみません、気を付けます」


申し開きもしようがないので素直に謝ったけど、依代の君が、口にこそしないものの、ざまーみろって表情を向けて笑ってた。子供っぽいなぁ。





そんな僕達を雲取様は温かく見守ってくれてて、そんな姿勢もまた好ましい。というか、僕達の声を聞いても雲取様の魔力は揺らぐことなく落ち着いてたね。


「雲取様は揺らぐことなくどっしり構えてる感じですけど、自己イメージの強化を達成できてる成竜さん達は慌てたり、混乱することもなく沈着冷静でいられる感じですか? これまでの交流からすると、感情の変化で、心も結構、ダイナミックに動く印象があるんですけど」


<周りに影響されず、自己を保てることと、己に関する事に心が乱れることは両立するのだ。我も以前話したが、他の術式を展開しつつ、空間跳躍テレポートを行うのは無理だ。アキと心話を長時間行って、すぐ休みたいほど疲れている時もやはり難しいだろう>


竜だって感情が乱れ、慌てることもある、と思念波で、僕が前に精神的に疲弊した頃の思い出を渡してくれた。ペットが寝込んでるのを心配そうに覗き込む飼い主って感はあるけど、まぁ、それでもやっぱり嬉しい。


「高負荷時にも空間跳躍テレポートを行えるよう、試してみるのはどうだ? 祟り神は生きる者を蝕んでいくと言う。派手な攻撃系術式への対策ばかりでは片手落ちともなる。ボクが意識して語り掛ければ、それなりの負担ともなろう」


依代の君がなかなか面白い提案をしてきた。……一見すると確かに研究者視点というか、前向きな話なんだけど、触れている魔力、というか神力から伝わってくる印象からすると、どれくらい安定してるか試してみようという稚気が感じられた。


「いずれ、「死の大地」の浄化作戦を行うなら、確かに落ち着いた状態でだけ、空間跳躍テレポートができるよりは、多少慌てても使えるくらいに訓練しておいた方がいいとは思うけど。意図的に相手の心を乱すって手法は、後に引き摺りそうじゃない?」


「そう難しく考えずとも、雲取殿なら、雌竜の何柱かに協力を仰いで、私達のうち誰が好きか、と語り掛けて貰うだけでも、十分な負荷となるだろう」


 うわ、このガキんちょ、エグいことを考えるなぁ。


雲取様の魔力もはっきりとわかるくらいに揺らいで、不快そうに目の辺りがピクっと動いた。


「二人ともそこまでだよ。まったく、火薬庫で火遊びする本質は二人とも変わらないってとこかね。秋に向けて、竜神子と交流を行う予定の若竜達への事前教育もスケジュールが詰まってて、時間が無い中、関係者を集めてるってことを思い出しておくれ。負荷がある中での空間跳躍テレポートも興味深い話題だが、今、話す内容じゃない」


 師匠がぴしゃりと言い放つ。


そういえば、確かになんだかんだとあれこれ立て込んでで、やる事が積みあがってるんだった。


おや、エリーが手を上げた。


「雲取様、二人は興味のある方に逸れる悪癖があり、ギリギリまで踏み込んでくる図太さまであるので、必要とあればビシッと叱ってあげてください。二人とも雲取様に甘えすぎです」


わざわざ、ジェスチャーまで加えてビシッと叱れ、と後押ししてきた。


雲取様も僕と依代の君、それにお爺ちゃんを見てから、ゆっくり頷いた。


<確かに、反目し合うところもあるが、同じ方向に意識が揃った時の二人は、意気投合したアキと翁を見ているかのようだ。過熱気味な時には、少し落ち着かせるよう働きかけるとしよう。……ところで、アキの先々の予定はそれほど詰まっているのか?>


雲取様の問いに、ケイティさんが大型幻影に今後のスケジュール表を出してくれた。


そもそも活動時間が限られていることもあって、一日にできることが少ないのもあるけど、合計三十柱の若竜に心話でレクチャーする件とか、登山先の主達に先々のことを話す件とか、登山から戻ってきた雄竜達のフォローをするとか、うん、竜族絡みの話だけでずっと詰まってて、秋に三大勢力の代表達がやってくる間際まで、もう予定表は埋まってる感じだ。心話もリア姉が半分は受け持ってくれる前提だけど、それでもパンパンだ。


勿論、何かあった時の為の予備枠は毎日確保してくれてるけど、そこはいざという時、身動きが取れなくなっても困るから、先に手を付ける訳にもいかない。


そんなスケジュール表を眺めて、雲取様は目を丸くして驚いた。


<これほどとは知らなかった。やはりこうして表にすると一目で理解できて良いな。二人とも、今日は、依代の君の神力を制する件だけに話題を絞るのだ。それとザッカリー、話が逸れそうになったら割り込んで欲しい。其方が仕切れば安心だ>


雲取様に話を振られて、ザッカリーさんもお任せあれ、と頷いてくれた。


「それでは、二人も席について貰い、中間報告を始めましょう」


ケイティさんが、良いですよね、と笑顔で同意を求めてきて、僕と依代の君は、迷うことなくどちらからともなく頷いた。依代の君が、お前のせいだ、って恨みがましい視線を向けてきて、つい、反発する気持ちが湧いてきたけど、そこはぐっと我慢して、落ち着いた態度で、スタッフさんが用意してくれた席に座った。


あまり接点がない依代の君はまだまだラインの認識が甘い。ケイティさんのあの笑顔は、怒る半歩手前だ。僕が率先して、大人しく席についた事で、一応、彼にも危機意識は伝わったようで何よりだった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字、脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないものなので助かります。


十六章もラスト、依代の君の神力制御に関する中間発表会スタートです。とは言うものの、まぁアキと依代の君が会えば、スムーズにスタートとはなかなかなりません。二人とも前回に比べて、互いに驚き、感心するくらいには変化してもいましたから。


依代の君も、前回のような根絶攻撃じゃなく、意思を乗せた言葉で揺さぶりを掛ける、という軽いジャブ程度のつもりで仕掛けました。本人からすればじゃれ合いといったレベルで、実際、やられた方のアキも、その程度といった感じで軽くやり返しました。


……ただ、依代の君は感覚質クオリアを育んだことで、アキは自己イメージ精緻化に伴い遠慮を吹っ切った事で、二人とも大きく変化することになりました。同じ調子でも、ソフィア曰く、以前の五割増しとか言ってるくらいで、何とも傍迷惑な話です。


という訳で、波乱はありましたが、次パートから中間報告と、それに伴う依代の君の提案へと進みます。


次回の投稿は、七月二十四日(日)二十一時五分予定です。

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