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16-27.記録から視たミアとアキ(後編)

前回のあらすじ:リア姉、ミア姉、それと僕の過去の幻影記録を皆で観ました。それにしても、第三者視点で観ると、僕が相手の反応を楽しんでるのってかなりバレバレでしたね。うーん。でもまぁ騙したい訳でもないので、このままで良しとしましょう。自己イメージの精緻化と、そこを改めるかどうかは別ですから。(アキ視点)

他の皆さんはまだ話足りないとのことで、僕とケイティさんは馬車で別邸へと先に帰ることになった。


「ケイティさん、得るものはありました?」


「アキ様やリア様が雲取様から負荷を与えられる様子を観ているだけでも、十分な経験となりました。引き締まった雲取様の魔力を感知しているだけで、自己が揺らぐのを自覚し、それを制することで苦労に見合った手応えも得られたのです」


 なるほど。


「普段の思念波と同じで、直接向けられる前にワンステップ置くのも良さそうですね。ジョージさんはどうでした?」


壁越しに御者台に話しかけると、ジョージさんが答えてくれた。


「俺も同意見だ。ただ、俺は魔導師じゃない。竜の圧への対抗はそう簡単には乗り越えられない試練と言えるだろう」


そう言いながらも、そんな試練に挑めることを喜んでる気持ちが感じられる。


「探索者気質って奴でしょうか。いいですね。ところで、天空竜が放つ圧に対抗するのと、自身の揺らぎを制するのって、己を保つという結果は同じでもアプローチは別ですよね?」


僕の指摘にお爺ちゃんも頷いた。


「対抗は強固な守りを形成して全体として己を保つ、揺らぎを制するのは、風に身を揺られながらも受け流してその場に留まるといったところじゃろう。そもそも、ある程度の強さがなければ受け流すことも叶わない。じゃから、どちらが良いというより、どちらも収めねばならん必須技能といったところじゃな」


流石、お爺ちゃん、年の功って奴かな。本質を掴むのが上手い。


「アキ様は如何でしたか?」


「僕の方も、程よく雲取様が圧を調整してくれていたから、自身の揺らぎ、弱み……というか認識の甘い部分を意識することができて、かなり濃い体験ができました。ミア姉とやってた頃を思い出しましたよ」


出来るか、できないかの見極めがまた絶妙で、常に頑張ってギリギリのラインを試される緊張感がとても良かった、と感想を話すと、ケイティさんが微笑んでくれた。


「アキ様も、探索者気質をお持ちのようですね。私達もそれを求め、そして疲れて、安住の場を求めましたが、いざ安定すれば、また求めてしまうのです。難儀ですね」


何でこんなことやってるんだろう、と、ふと限界に挑む自身が馬鹿らしく思えたり、と僕もとても頷ける話をあれこれ聞けて、とても楽しい帰路となった。






別邸に戻ると、父さん、母さんが出迎えてくれた。


第二演習場で経験したこと、帰りにケイティさん達と話したことなどを伝えると、二人は感慨深い表情を浮かべながらも、手元から手紙を取り出した。表紙に簡素に数字が書いてあるだけの封書、ミア姉の残してくれた手紙だ!


「書かれた条件からすると、これはもっと早い段階で読まれることを想定した手紙のようにも思える。内容も現状にそぐわないことも多いかもしれないから、そのつもりで読むといい」


父さんが懸念を示した。なるほど。


「後で問題のない範囲で教えてちょうだい」


母さんがそう言って、封がされたままの手紙を渡してくれた。先に中身を見ることもなく、記された条件が満たされたか厳密に判断して渡してくれる、その行為自体が、ミア姉への信頼と愛の深さの表れであって、二人の誠実さが感じられて、心の中がぽかぽかしてくる。


「はい。ミア姉が想定していた未来からだいぶズレてきているのは理解してるので大丈夫です。では失礼します」


早く読みたい、という抑えきれない欲求が表情や態度に出てたようで、二人は苦笑しながらも、快く送り出してくれた。






お爺ちゃんもリビングに残って、いつも通り、自室にはトラ吉さんが一緒に来てくれた。ケイティさんが渡してくれたふわふわタオルもあるから、準備は万端だ。


僕は、手紙の封を切った。




【百十一】

あなたは、こちらの世界に魂入替えという異質な術式でやってきた。だからこそ、身体がミア、魂がマコトというズレが生じてしまい、それが様々な弊害を生んでしまっていた。日本あちらとこちらを繋ぐ研究を進めて行けば、縁の深いマコト自身が術式の開発、研究、発動に深く携わって行かざるを得ない。だが、その進みは到底納得できるものではなかった。


 理由はわかっている。


身体と魂の合一を拒むのは、身体がミアのものである、と遠慮する意識なのだ。


……だが、成功の果実を得る為にはもう、そんな半端な姿勢は改めるしかない。何より貴重な時が刻々と失われて行っているのだから。この身体がミアのものではなく自身のものだと、それこそが今の自分と認める時が来た。




さて、この手紙を読んでいるということは、身体と魂の合一性を高める覚悟を決めた、ということだね。マコトのことだから、私に遠慮して、その影響で、身体と魂のズレが続いて、悪影響を引き摺っているんじゃないか、と思う。だけど、私は魂入替えを行った時点で、その身体はマコトのものであり、こちらの身体も私のものと割り切ったから、マコトもそのつもりでいて欲しい。

理論上でも繋ぐ方法がわからないところがスタートラインだから、長期戦になると考えて、互いにベストな状態とするよう努めていこう。


追伸:多分、マコトの高校生活は休まざるを得ないと思う。こちらに魔術は無いから、ボロが出ない程度には、マコトらしく振る舞う必要があるけど、マコトから聞いてる知識だけで振る舞うのは厳しいだろうから。


追伸二:身体と魂の合一性を高めるなら、リアを頼るのが良いと思う。完全無色透明の魔力についてノウハウがあるのはリアだけだ。他の者を師とする場合もリアの助けは受けるように。


追伸三:私が使っていた魔導具は、私との密な経路(パス)を構築しているけれど、それはマコトが使うのではなく、こちらと繋ぐ研究や術式への利用に用いた方がいい。魔力属性が変わったことで、その身体との経路(パス)は乱れているだろうから。


追伸四:私が教えた自己イメージ強化方法を自分だけで行うのは難しいから、必ず誰か指導者を得ること。ただ、完全無色透明なリアやマコトと心話を行うことができたのは私だけだったから、他の方法を何か考えざるを得ないと思う。自己イメージの幻影を映す術式を使うことである程度は補えるんじゃないかな。


追伸五:自己イメージの幻影は、親しくなった複数人に視て貰うことで歪みを見つけて正していけると思う。ただ、結局のところ、誰かの意見はその人の認識を通している分、どれだけ誠実であったとしても、補助の域は超えないことを忘れないように。あくまでも彼らの意見を参考に、自己イメージを突き詰めていくのはマコト自身だ。


追伸六:マコトはマコトであって、姿が私でもマコトでしかない。だから、私の真似は控えるように。長年私を観てきたマコトなら、それなりに上手く演じられるとは思うけれど、それはマコトの為にならないし、私に近しい人達の目には不快な姿と映ってしまうから。


追伸七:マコトが私の真似をした方が相手に効果的だと思うなら、好きにやっていいよ。ただ、ちゃんとフォローはするように。あくまでも拙い一発芸として、相手が嫌がったら控えること。




 ……なるほど。


読み終えて思ったのは、父さんが予想した通り、ミア姉はかなり早い段階、多分、共和国のある島、始めの館にいた頃に読むと想定していたようだ。他の種族の事が何も書かれていない事からしても、その認識で間違いないと思う。


日本あちらにいるミア姉と繋ぐのに、ミア姉が愛用していた品々、魔導具を所縁ゆかりの品として、術式に組み込む、というのは、ちょっと考えてなかった。心話なんだから、僕が直接繋げばいいと思ったからね。でも、僕がミア姉の身体とマコトの魂のセットになったように、ミア姉も、マコトの身体にミア姉の魂のセットに変わったのだから、経路(パス)がそのままとは考えない方が良さそうだ。それでも一本のロープで切れるなら、ロープをもっと増やせばいい。そうすれば、繋がる率も上がるだろう。


幻影を創る術式かぁ。これも師匠にちょっと相談してみよう。創造系術式はいつ消えるか分からないから駄目と言われてるけど、幻影は見た目は本物でも、中身はないから、試せるかもしれない。あー、でも、いつまでも消えない幻影っていうのも結構ウザい気もする。


 ぺしぺし


トラ吉さんが話を聞かせろ、と肉球で叩いてきたので、中身をざっと説明してみたんだけど、僕がアキの幻影を投影するという部分は、微妙な顔をしてた。どうも乗り気じゃないっぽかった。


「にゃー」


だけど、リビングに行こうぜ、と誘いの鳴き声を掛けて、猫用扉から一旦出た後、こちらに戻って催促までしてきたから、僕も手紙を持ってリビングに戻った。


父さん、母さん、それにお爺ちゃんが内容を聞きたそうだったので、かいつまんで内容を話し、感じたこと、思ったことを話すと、三人もそれぞれに自身の思いを語ってくれた。それに父さん、母さんは僕が観た幻影に関する身内ならではのエピソードもあれこれ語ってくれて、ミア姉の別の視点を見たようでとても嬉しかった。


僕は僕であって、ミア姉はミア姉だ、と心に区切りもついたから、今後はちょっとずつでもミア姉の過去の記録とかも見せて貰うようにしよう。……これまでは意図的に避けてるところもあったから。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


久しぶりのミアからの手紙でした。やはりミアの想定した未来と、現在のズレはかなり大きくなってきました。それでも今回大泣きしなかったのは、アキもまた少しずつですが成長しているということなのでしょう。

それとアキは何気に、負荷を与えて相手を試す雲取様とミアを同列に語ってますが、これは常識からかなり逸脱した話で、ミアが高位存在達と心話を行える強さを持っていたことを示す証左と言えるでしょう。

ただ、これは章末の技術紹介に記載しますが、ミアが与えた負荷を受けていたのはマコトであって、雲取様が負荷を与えてたのは、リアとの魔力共鳴で魔力が限界突破しているアキである、という点は重要です。相対的には同じように困難な負荷であったとしても、絶対的観点から行けば……ってことです。


次パートからは、久しぶりに、依代の君の神力に関する意見交換会になります。


次回の投稿は、七月二十日(水)二十一時五分予定です。


<雑記>

活動報告に以下の内容を書いています。

・録画データが全滅した

・梅雨末期を思わせる大雨

・節電チャレンジ

・百発百中の一門、百発一中の百門に対抗しえる?

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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