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16-26.記録から視たミアとアキ(中編)

前回のあらすじ:昔、記録した幻影を魔導具で観ることになりました。エリーと師匠の昔の姿を見ることになりましたが、やはり公務ということで、外向きのイメージでしたね。なかなか面白かったです。(アキ視点)

過去記録を眺めるのも次で三人目。リア姉の番だ。


話している内容は、リア姉が代表を務めているという研究所の仕事を紹介って感じだ。きっちりした服装で眼鏡をかけていて知的なイメージだね。やっぱり外向きということもあって、キリっとした印象が強めかな。普段より低めの声で話してて、大人の女って雰囲気マシマシだ。


「リア姉、声低いね」


「私達、街エルフはただでさえ、体格が小柄で年齢より若く見られがちだから、女性は意識して低めの声を出すんだよ」


「そっかー。……って、僕は別にそんな指導受けてないけど?」


「アキ様はまだ学ばれている身ですので、発声だけ整えても他とのバランスが悪いと判断しました」


ケイティさんが理由を教えてくれた。なるほど。確かに記録の中のリア姉は、視線一つ、話し方の間の取り方とかにしても、かなりの円熟味が感じられる。僕が声だけ真似しても、背伸びして、ちぐはぐな感じが増しちゃうだけだろう。


それはそうと、あと、気になったことが一つ。


「リア姉、この眼鏡、度が入ってないよね?」


「イメージ戦略って奴。眼鏡をかけていると知的に見えるとか言う連中が結構いるんだ」


<年配者に眼鏡をかけている者が多いのもあるか>


「お爺ちゃんは眼鏡かけてないね」


「儂らに眼鏡の文化はないからのぉ」


妖精さんの身体のサイズになってくると、眼鏡のレンズが小さくて、暗くなってしまうから効果が薄いんだろうね。飛び回るから、形状もゴーグルみたいにきっちり頭に固定するようにしないと不安があるし。あと、魔力豊富な世界だから、対象を良く見たい時には拡大術式を使えばいい、というのもありそう。





次は……っと、ミア姉か。


「にゃ」


トラ吉さんが、自分はここにいるぞ、ってアピールしてきた。


 ん、ありがと。


背中を撫でながら、映し出された幻影の中のミア姉に注意を向ける。金色の髪と蒼い瞳が印象的で、品の良い装身具と街エルフ定番の公式な装いが特別なイベント感を演出してくれている。というか、話してる内容からすると、これ、結構、古い記録なのかな? 連合全域への郵便網整備とそこに賭ける財閥代表としての意気込み、狙いなんかを話している。


「リア姉、この記録、かなり古くない?」


「ミア姉は必要最小限しか、表に出たがらない人だから公式記録が少ないんだよ。これはその数少ない記録の一つ」


 ふむふむ。


ミア姉の後方には、秘書人形のロゼッタさんや、その部下と思われる女中人形さん達が控えているのも映っていた。説明に幻影を用いてたり、音楽も流していたりと、なかなか凝った感じなのは、企業群の総力を結集した野心的なサービス提供だったからなんだろうね。


さっきのリア姉の記録と比較すると、リア姉は技術者としての面を見せているのに対して、ミア姉は多くの人に夢と希望と利益を与える財閥の代表として、魅せる事を徹底していて、その差は歴然としている。リア姉は研究所代表として安心して見ていられる企業代表ってところだけど、ミア姉は新たな分野を切り開き、皆を巻き込んでいく先駆者パイオニアって感じだ。二人とも低めの声ではあるけれど、聴衆の心に働きかけて、大きく揺さぶること自体を目的としているミア姉の語り口は、決して声を荒げている訳じゃないのに、生み出す熱量が違い過ぎた。


「よーし、一緒に頑張ろーって気にさせるいい演説だったね。それにしてもミア姉ってこんな感じに話すんだね。ちょっと意外だった」


そう感想を話すと、雲取様がほぉ、と驚いた顔をした。


<十年間、毎日のように話をしてきたと聞いているが、演説を聞いたのは初めてなのか?>


「あ、そういう意味じゃなくて。心話の場合、姿は仮想の部屋に形作っていたけれど、声までは再現してなかったんですよ。お互い、心話で直接、心を触れ合わせていたから、思いとか感情とかがもっと直接響く感じで。あと、声の低さとか、抑揚とか、間の取り方とか、どこをとっても隅々まで気が行き届いてる丁寧さは、音への拘りが感じられて、そっちもかなり新鮮だったなー、と」


心話は、そういう演出染みた真似は不得手だから、と補足すると、師匠も頷いてくれた。


「心話は、余計な虚飾を取っ払って心を触れ合わせられる利点がある代わりに、振舞いや姿、声といった部分を用いた演出の利点を捨ててるからね。何事も一長一短、心話があれば全て良しとはならんさ」


 なるほど。


ん、エリーも公務に携わっている人として、思うところがあるようだ。


「ミア様の演説は初めて観たけれど、短い時間に衝撃を与え、魅せる事に注力されている感じね。そうそう観ることのない名演説と思ったわ。ただ、稀にしか姿を現さないからこそできる手法とも思う。観終わったらそれでもう聴衆は満足しきっちゃう密度の濃さも、長時間になったら疲れに繋がりそうね」


 それはそうだ。


「リア様の先ほどの記録は毎年行われている定期発表時のモノ、ミア様のそれは財閥が総力を結集した時のような、数える程度しか行われていない稀な発表時のモノ。その違いはあるのでしょう」


ケイティさんが補足してくれた。毎日食べる家庭料理と、宴会料理の差みたいなものかな。確かにミア姉の発表は魅力的ではあるけど、頻繁に観てたら演出過多で疲れそうだ。



ミア姉の記録は、目新しい音の演出や声が入ってたこともあって、懐かしさよりも、新鮮さを感じて、楽しく観ることができた。ケイティさんがそっと用意しておいてくれたふわふわタオルも必要なくて良かった。それに、短い時間に詰め込んだ祭典イベントって感じだったのも、あるがままに受け入れるのが精一杯って感じで、ミア姉の手紙のように、書き記したミア姉の心に思いを馳せるような間が無かったのも、逆に良かったのかもしれなかった。





さて、残りは僕の記録、か。二本あるんだね。


一本目は、あー、海を渡ってロングヒルに行く事が決まって、館の前に皆が集まって話をした時の奴か。というか、記録を残してたんだね。ミア姉がイベントはできるだけ情報を残しておけ、と言ってたからそれもあるかも。


銀髪、赤眼ということもあって、第一印象の時点でミア姉に似ているけど別人って感じがする。それに立ち振る舞いも、表情も声も、ミア姉とはまるで違う……というか共通点が全然無い。


「こうして見比べると、アキは立ち振る舞いに躍動感があって、声の響きも初々しさがあるわね」


エリーがなんか新鮮って表情を浮かべた。


「僕が大勢に話してる姿なら、エリーも結構観てると思うけど?」


「言葉一つ、話し方や目線にしたって、今とは随分違うわ。一年前だっけ?」


「街エルフの国を出発する時の記録だからそうだね。そんなに違うかな」


「次の記録と比較されると違いが明確になるでしょう」


ケイティさんがそう言って、次の記録を映し出してくれた。ん? おー、この記録は帝都訪問時の奴だ!


「ケイティさん、ユリウス様から記録を貰えてたんですか?」


「弧状列島の歴史に残る大きな出来事として、帝国側で記録したデータが先日届きました」


映し出された映像は、背後に立つ雲取様や、周囲にいる護衛人形さん達、背後にいるケイティさんやジョージさん、女中三姉妹の皆さんといった姿も見て取れるけど、演説している僕の姿や声もばっちり記録されていて、アングルとか全体のバランスもプロって感じの見事な仕上がりだった。


それに、沢山、練習した甲斐あって、即興で挨拶を求められた出発時の奴に比べると、安心して観ていられるかな。


僕の、他人が聞くアキの声ってこんな感じなんだね。なんか不思議な気分だ。


「彫刻家が、すまし顔の彫像ではアキらしさが表現できてない、と言っておったのがわかるのぉ。それに竜と共にある姿も、とても似合っておるぞ」


お爺ちゃんが指摘してくれた通り、僕らしさは動いてこそ、話してこそ、なんだろうね。すまし顔で黙って並べば、ミア姉とアキは姉妹とは認識して貰えるだろうけど、少し話せば、誰もが別人と思うだろう。


「そう言って貰えるのは嬉しいね。あと、こうして見比べると、一年前はまだミア姉っぽさが残ってた気がするけど、帝都訪問時の奴なんて、顔付きも違ってきてる感じだよね。表情の違いも大きいとは思う」


自分で言うのもなんだけど、何をするにも若々しさというか、感情が素直に乗ってる力強さ、躍動感みたいなのは増しているように感じた。リア姉やミア姉、それにジョウ大使のような大人の街エルフとまるで違う、と言われたのも納得だ。


「アキは表情がすぐ表に出るからねぇ。顔の筋肉も随分鍛えられたんだろうさ。顔にはその人の生き方、内面が現れると言う。ついでだから、アキが企んでる時の表情とか、相手をひっかけようとしてる表情も出せないかい?」


「登山に向かわれる雄竜の方々と話された時のモノであれば出せます」


「なら、見せておくれ。アキも第三者視点で見れば、なんで内心がバレるのかわかるってもんさ」


師匠に促されて、ケイティさんが雄竜達と話をしている時の記録を映してくれたけど、あー、うん。これは誰が観ても企んでる顔だってわかる。わくわくしている内心が全然抑えられてないや。まぁ、楽しそうな笑みを浮かべてもいるから、悪意は無さそうだけど。


<幻影だけでもわかりやすいが、我らが予想した通りの反応を返した時のアキは、竜眼で視ると喜んでる様がもっと良くわかるぞ>


 え゛……


「そんなにわかりやすかったですか?」


<こちらを気遣う気持ちと、罠に導く稚気、喜ぶ気持ちを隠しておこうという演技が揃うと、あぁ、また何か、予想外の何かがあるのだな、とな>


おまけに思念波で、雄竜達が登山に行く前に雲取様に会って、その時に僕の事を話題に盛り上がった様子まで伝えてくれた。仲直りしてる感じは良かったとは思うけど、四柱とも悪乗りしてる感マシマシだった。



その後は、魔導具の記録の持つ利点と限界について意見交換が行われ、第三者視点を用いた自己イメージ強化の方法論とか、記録された時点の記憶と併用することで、単なる表層的な理解でなく、心の奥底まで見据えた多層的な視点を持つことの重要性について説明が行われて、突然始まった過去幻影鑑賞会は終わりを迎えたのだった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


過去の記録幻影を観てあれこれ語るだけの話でしたが、かなり難産でした。今回の1パートを書くくらいなら、バグラチオン作戦の3パートを書く方がよほど楽でした。あっちは説明する元ネタ情報は山ほどあるから、どう紹介するか、どう本作に取り入れるか考える程度なので、ある意味、楽なんです。

それに比べると、心話という本作独自の概念を絡めて過去の出来事を紹介するほうがなんぼか大変で……。


次パートは、久しぶりにミアからの手紙になります。アキも色々とフラグを立てて、開放条件をクリアしました。


次回の投稿は、七月十七日(日)二十一時五分予定です。

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