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16-24.霞んでいた自己イメージ(後編)

前回のあらすじ:登山先の主×3が声を揃えて、僕の自己イメージをちゃんとするよう提案して、三柱がこれまでにロングヒルに訪れていた竜達と違って、同じ職業に就いてる人みたいに共通の雰囲気を持ってたりすることもあって、その理由が何故か念の為確認しました。まぁ転ばぬ先の杖、準備ができてるならやっておけ、程度の話で良かったです。(アキ視点)

翌日、雲取様、師匠と自己イメージの強化について話し合う為に、第二演習場へと集まった。

竜眼で視るだけなら、小型召喚でもよい気もしたんだけど、雲取様から、召喚体でなく直接視たいと申し出があったので、久しぶりに本体との対面だ。


師匠がエリーを伴って先に来てて、雲取様に竜眼で視て貰い、熱心に話し込んでいた。


「おはようございます、何やら楽しそうですね」


<ソフィアから、先に二人を視るよう提案があってな。これまで試したことが無かっただけに、これはこれで面白い試みと話していたのだ>


雲取様にじっと視られて、エリーはかなり緊張してる感じだけど、師匠はある意味、達観してるようで、落ち着いた表情をしていた。


「アキ達がくるまで、ただ待っているのも暇だったからね。雲取様に私らのことを視て貰ってたのさ」


 ほぉ。


「普段、竜眼で視るのとは何か違うんですか?」


<普段は魔力の動きや身体の緊張などを視る。あくまでも変に緊張していないか、見た目との差異がないか、といったところの確認が主な目的だ。それに対して、今回は、様々に体を動かし、身体操作術式を併用し、そして外に向けた術式を行使する時の身体に纏う魔力の変化を視る。自己イメージが高いほど、魔力は揺らぐことなく安定するものなのだ>


「あくまでも視るのは、発動した外の術式じゃなく、身体を覆ってる魔力の方なんですね」


<そこまで視て安定しておれば、次は外から思念波を当てて揺らぎを視る。その次は空に浮かんでいるところに思念波を当てる、といったように、徐々に段階を引き上げていくのが基本となる>


 うわ。


「流石に、自己イメージの確認と言っても、心を直接視るのは無理だから、変化を視るんですね」


<そうだ。そうして成竜に魔力を視て貰う時には、普段と違って緊張感があってな。幼竜はその中で、己を乱すことなく制するだけでも難儀するのだ>


思念波から伝わってきたのは、厳しい目で自分を視る成竜を前に、縮み上がった幼き頃の様。自分の昔話を教えてくれるなんて大盤振る舞いだ。っと、単なるサービスじゃなく、先に視て貰った二人に配慮するように、という思いもあるようだ。


実際、エリーはといえば、雲取様の幼い頃と同様、雲取様が放つ緊張感にかなり圧倒されていた。


「エリー、視て貰ってどうだった?」


「……普段、雲取様がどれだけ、私達の為に意識を穏やかにしてくれていたか解ったわ」


矜持にかけて無様な真似は見せない、という意気込みがエリーを支えている感じだ。そんなエリーをぽんぽんと師匠が叩いて、笑みを浮かべた。


「私も視て貰ったが、背中に氷柱を入れられるような気分だったよ。雲取様も話されていたように、自己イメージはいくら竜眼でも直接視ることはできない。けれど、目指すところが、外がどうであろうと揺らがない己であるなら、段階を踏んで、揺らぐような状況に遭わせてみればいい。合理的だね」


師匠も、老人にはキツイ話さ、と笑ってたけど、本当にきつかったようで、スタッフさんが用意した椅子にさっさと座り込んだ。


そういえば、昔、ミア姉に自己イメージの様子を確認して貰った時は、普段と違って、意識に緊張感を伴う鋭さがあって、僕も結構、気を引き締めたものだった。それでも、真面目に取り組めば、終わった後に抱きしめてギュッとして、褒めてくれたから、それが嬉しくて頑張ったんだよね。


「僕もミア姉に視て貰ってた時は緊張したものでしたからね。竜族も確認作業の後は、幼竜と遊んであげたりしてます?」


<それはな。そのままにして怖がられると、自己イメージ確立を妨げることすら起こる。そういった心遣いができる成竜でなければ、導き手には選ばれないのだ>


ただ優しい、甘いだけでは、緊張感を示せない。けれど、幼竜が頑張れる限度を超えては、その成竜の存在自体が、余計な揺らぎを与えてしまうってとこか。


それに、雲取様は選ばれていることへの誇りも持ってる感じだね。


「雲取様に視て貰えて嬉しいです。それなら、終わった後にお肌の触れ合いタイムとか設けて貰えます?」


そう提案すると、雲取様が驚いたように目を細めた。


<我らが幼竜に例えるからと言って、幼竜の真似までしないでもいいのだが。まぁ、アキがそうしたいというのなら、そういった時間を設けるとしよう>


雲取様は快諾してくれたけど、今日集まってくれた皆さんは、リア姉も含めて、触れ合いタイムが楽しみ、と賛同してくれる人は一人もいなかった。


……残念。





スタッフさん達が用意してくれた二つのテーブル席、一つは僕とリア姉が座る側、もう一つは障壁の魔導具に囲われた他の皆さん、師匠、エリー、ケイティさん、ジョージさんが座る側だ。


雲取様もいつものように、尻尾の上に首を乗せた姿勢にして、魔力も抑えてくれた。


四人は個人用の護符も身に付けているけど、更に障壁を重ねることで負担を減らしていた。


「さて、それじゃ時間も惜しいから、話を始めようかね。我々には竜眼はなく、だからこそ直接、触れ合うことで詳細を把握できる心話、そこを活かしてきた。ただ、心話には相性があり、そこまで自己イメージの精緻化をする必要性もあるとは考えられてこなかった」


師匠の言葉に、雲取様は興味深そうに耳を傾けていた。


「あれ? でも、ミア姉は精緻化こそが心話の基礎を固めるって話してましたよ?。頻繁に心を触れ合わせるからこそ、互いにきっちり確立した自己がないと、影響を受け過ぎて自己イメージが揺らいでしまうって。かなりみっちり修業したんですけど」


年単位で特訓してたもんね。入れ物を小さなハンマーでとんとん叩いて問題個所を見つけるように、ミア姉は心を色々なパターンで触れ合わせて、僕の心の変化を見極めてくれてたんだ。


「心話は相性問題があって、互いの深い協力も必要だからこそ、そこまで深く突き詰めようとする魔導師はいなかった。いたとしても極僅かだった。それにミア殿は、他人に教える気がない部分は、マコト文書の書き方もかなり粗くてね。一応、用意してくれた分は目を通して見たけれど、感性全振りな記述で、手に負えなかったよ」


 ありゃ。


「リア姉は? 一通り読んでたなら、意味が伝わりにくいところは、ミア姉に直接聞いたりしてたんでしょう?」


期待を込めて話を振ってみたけど、残念、リア姉は否定的な表情を示した。


「一応聞いたけどね。『心を触れ合わせてると、柔らかいところがあるから、そこを程よく丸い意識で、上手く力加減をして叩いて、相手に意識させる』とか言われても、そもそも、私が心話を行うことができたのはミア姉だけで、そのミア姉の心は心話術師としては最高峰に到達してたからね。だから、ミア姉の言う事を実際に試せた事が無いんだ。自身の心で色々と導いて貰ったから、指導される側の方は知ってるんだけどね」


 あー、なるほど。


「そもそも、僕とミア姉ほど頻繁に心話をするような術者がいなかったんですね。となると、今すぐできるのは、雲取様と僕かリア姉のペアと、僕とケイティさんのペアで心話を試しつつ、雲取様に竜族らしい作法で指導して貰い、自己イメージを高めていく感じでしょうか?」


<ソフィア、エリー、ジョージの三人は心話の併用はできぬが、そこは心話のできる魔導師を探せば良かろう。そうして、皆が心を鍛えていき、互いの経験を伝え合えば、単独で行うよりも多くの知見を得られるに違いない>


 うん、うん。


「ちなみに、伸ばせる余地がある部分だった訳ですけど、ロングヒルに来ている竜族の皆さんから、特に鍛えようと話が無かったのって、何か理由があったりします?」


<いや。そう焦らずとも、アキの起きていられる時間が伸びてから手を出せばよいと思っていた>


思念波からすると、季節が何回か廻るくらいまでは様子見だ、って感じが伝わってきた。そもそも、鍛える必要性を感じてなかったってとこかな。


「お爺ちゃんの予想が当たりだったね」


<ほぉ>


雲取様が疑問に思ったので、昨日、お爺ちゃんと話した内容をざっと説明した。


<心の在り様の差か。我もあの方々から同じような気質を感じていたが。確かに、やれることは先延ばしせず済ませておく、という思いには大きな違いがあるのだろう>


雲取様から見た、登山先の主達って、署の入り口で周囲に目を配っている警官みたいな感じなんだね。仕事をしている特有の緊張感があって、ご近所さん達とは明らかに違う、と。


「雲取様も、僕やリア姉が竜族で言うところの幼竜の次、若竜のステップに進むのが妥当と思われますか?」


雲取様はちょっと僕達を竜眼で眺めてから頷いてくれた。


<二人とも、次に進む資格はあるだろう。もう少し早く始めても良かったくらいだ>


「他の皆はどうです?」


<翁は何か別の方法を考えねば難しいだろう。召喚体は良くできているが、やはり本体には大きく劣る。他の者達は、我の抑えていない魔力に触れることで、揺れる己の心や魔力と向き合うのが良かろう。無理のない範囲で敢えて己を揺らし、脆いところ、自身が意識を逸らしているところを知り、その状態をあるがままに受け入れるのだ。変えずとも良い。だが目を背けてはならぬ>


「そこは手探りで進めるとしますよ。私らだって素人じゃない。エリーは脆いところを探す前に、全体をもっと強固にする方が先だね。できる範囲で護符の強度を弱めて、心を強く持つ訓練をすればいい」


師匠に言われ、エリーも逃げ場がないと理解して、覚悟を決めた顔をした。ケイティさん、ジョージさんも、仕事を抱えてない状態で、竜族の圧に心を向けることの効能を理解し、やる気に満ちた表情を浮かべていた。


師匠も、弟子達だけにやらせたりはせず、自身も鍛える旨を告げた。さっきの感じだと、このまま続けるのは大変そうだけど、師匠ならきっと何か負担を軽減しつつも自己イメージ強化の果実を得る方策を編み出すに違いない。


んー、他に聞いておくことは何かあるかな。あ、そうだ。


「雲取様、自己イメージ強化の指導ですけど、召喚体で行わないのは、さっき、お爺ちゃんの指導が難しいと話したのと同じ理由ですか?」


<召喚体を通すと、薄霧を通すように感覚が僅かだが鈍る。それに本体であれば、我の魔力にアキ達が触れている事で、完全無色透明であっても、多少は変化を捉えられる。この差は大きいのだ>


「それって、鬼族の武術で、体に纏う魔力の範囲を広げて、その中での動きを察知するというのがありましたけど、それと似た話でしょうか?」


<我では、観察だけに専念せねば感知できぬが、な。それにそんな事をしてみようと考えたのは、アキ達を視る事の困難さに直面したからだ。普通ならこんな迂遠な真似はしないだろう>


なるほど。


「魔力は誰でも体に纏っているものだが、雲取様は力が強い分、その範囲も広い。だからこそ、鬼族のようにその範囲を広げる技を使わずとも、視る対象を範囲に入れられるんだよ」


<ソフィアの指摘した通り、我には魔力の範囲を広げる真似はできぬ>


「んー、それなら、鬼族、例えばセイケンにお願いして、魔力の範囲を広げて貰って、その中で僕やリア姉が魔術を使えば、感知できない完全無色透明の属性問題も少しは解決の糸口を掴めるかも」


そう話すと、リア姉は微妙な顔をした。


「雲取様、セイケン殿と二つの視点が得られることは確かに良いね。ただ、やっぱり、いずれは魔導具で定量的に計測できるようにしたいよ」


<道具で測れるようになれば、指導者による認識の揺れも補えそうだ。この話も興味深いが、そろそろ、本題に入らぬか?>


「あ、はい。宜しくお願いします」


その後、僕とリア姉は、雲取様に視て貰うことになった。緊張感のある意識や圧を向けられて、久しぶりの緊張感に楽しくなって自然と笑みが零れて、雲取様が怪訝そうな顔で竜眼で確認したりと、なかなか濃い時間を設けることができた。指摘されて、ミア姉と心を触れ合わせてた時に比べて見ると、確かにこの身体に対する認識がかなり浅かったことに気付いた。


まぁ、実は気付いたというより、意図的にそうしてたところがあったんだけどね。


だってほら、この身体ってミア姉のモノだし、遠慮する気持ちはどうしたって拭いきれなかったから。


そんな僕の意識も雲取様にはしっかりバレて、もっとしっかり向き合うように、と注意されてしまった。こうして訓練に付き合ってくれている雲取様に対して、確かに誠実な態度では無かったと詫びて、その後は覚悟を決めて意識を切り替えたんだ。


終わった頃にはリア姉はかなりお疲れな感じで、一応、雲取様との触れ合いタイムへの参加を誘ってみたけど、丁重だけど断固とした態度で辞退してた。僕はいつものように穏やかな意識に切り替えてくれた雲取様の身体にぺたっと全身で触れて、少し冷たい感触を楽しんだりと、緊張感の埋め合わせはたっぷり満喫できたと思う。


途中から触れ合うのが楽しくなって、あちこち触れ回って遊んで貰っているうちに、結構な時間が経過してたらしい。雲取様からも、そろそろ良かろう、と遠回しに終わりを告げられるくらいだった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


訓練にかこつけて、雲取様とたっぷりハグして、ご満悦なアキですが、実は結構、色々と重要情報が出たり、回帰不能点ポイント・オブ・ノー・リターンを超えた話だったりと、伏線ごろごろだったりします。まぁ外からわかる分は、依代の君が指摘してくれるでしょう。

本人はその辺り、無頓着なところがありますからね。


次回の投稿は、七月十日(日)二十一時五分予定です。


<雑記>

活動報告に「ガソリン代高騰?」を書いてます。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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