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16-19.イベント企画・運営への誘い(前編)

前回のあらすじ:「死の大地」の祟り神との状況は、今が一番危うい、という点について、関係者と合意を得ることができました。浄化作戦の全体イメージと、呪いの闇を払う前段作戦についても話ができたので良かったです。それらのうち、登山関連の近々の関係部分だけ、雄竜達に話を方針となりました。(アキ視点)

翌日、日程的に余裕がないこともあり、登山に向かう雄竜三柱に言付けとそれに付随する資料運搬をお願いする件は、僕が起きる前から、別邸の庭先で、小型召喚した三柱を相手にリア姉が詰め込み教育をする形でスタートした。


「ここに小型召喚体で来てるって事は、第二演習場でリア姉が小型召喚をしてから、こちらに来たんですか?」


「はい。アキ様の移動の手間を省く為に、そのような措置となりました」


急げ、急げと、ケイティさんに手伝って貰いながら身支度をして、軽く食べられるベーコンレタスサンドを頬張りながら、詰め込み教育の状況を確認する。


「それで三柱ですけど、色々と消化不良はあるとして、持参する資料に関連する概念について、何処なら自分達が話せそうか、アタリはついた感じですか?」


「そちらの最低ラインは何とか。ただ、それより根本的な問題が露呈して、そちらへの対応が必要です」


「根本的な問題?」


「登山先に訪問した際に、皆様、少しだけなら良いだろうと、尾根から顔を出して、海の彼方にある「死の大地」を視たそうなのです」


 ふむ。


「前回の許可取れた報告の時には触れてなかったから、特に何も感じなかったのかと思ってたんですけど、違いました?」


「先日は許可を取れた喜びだけ話して楽しい気分で終えたかったから、とのことでした。それで皆様ですが、こちらで弧状列島の全体図をご覧になっており、水平線に浮かぶ「死の大地」がほんの一部、その縁に過ぎないと識ってます。だからこそ、相手の巨大さを理解できてしまったそうです。視界を埋め尽くす呪いの闇が、単なる自然現象ではなく、生けるモノを蝕む害悪、敵だと」


 おやおや。


「圧倒的な格上どころか、並ぶ敵すらいない竜族ならではの悩み、初々しい反応といったところでしょうか。幼竜の頃には、格上の相手もいたでしょうに。忘れるほど昔とは思えませんけど、温い環境で鈍ってたかな?」


そう話すと、ケイティさんが眉を顰めた。


「アキ様、あまり不用意に煽るような真似はなさならないで下さい。雄竜の皆様は、私達を信頼して、怖ろしいと胸の内を明かしてくれたのですから」


なるほど。向かうところ敵なし、最強と自他共に認める竜族が危機意識を持った相手、そう感じた事は軽く評価してはいけない、と。


「揶揄うつもりは勿論ありません。恐ろしい存在を、恐ろしいと感じられないのは、危機意識が麻痺しているだけですからね。しかし、そうですか。心話の方は可能ですか?」


「こちらの準備はできています。心話で何を話されるつもりですか?」


「それぞれの視た光景と、その時に感じた生の感情に触れてみてからですけど、少しフォローできるかなと思ってます。知識が足りないことで、正しく恐れる事ができていないかもしれません」


「……決して無理をなさらないと約束してくれますか?」


「約束します。不味いと感じたらすぐ離れます」


今回は禁断の知識に触れる流れではないから、平気だとは思う。だけど、激し過ぎる感情に触れると、こちらへの影響も半端ないから、確かに軽く考えては駄目だ。







庭先に行くと、僕の伝えたい事と、それに連なる概念ツリーの書かれた畳大の資料が貼り出されていて、○☓マークが一通り付けられていて、三柱の雄竜達とリア姉がやっと来た、といった表情で出迎えてくれた。


「皆さん、出発まで日のない中、言付けをお願いする件について、話を聞いていただけてありがとうございます。やはり、登山計画で多種族との対話を学ばれていただけあって、良いカバー率ですね。これなら、縄張りの主達も耳を傾けてくれるでしょう」


リア姉にも、朝からお疲れ様と労うと、よく来た、と肩をガシッと掴まれた。


「やれるところまではやったから、後は任せたよ。「死の大地」を視た件は、言葉を重ねても、なかなか伝えにくいからね。……無理はしないように」


「任せて」


リア姉は僕の返事に満足したようで、僕が寝る前には説明を引き取ると告げると、別邸の中へと引っ込んだ。移動に召喚、あの興味暴走気味な三柱の雄竜達相手の朝からの説明会と、疲れることが続いたんだろうね。リア姉は、暫く休憩する、と話してたけど、ほんと心身共に休みを欲してる感じだった。


板書をしていたベリルさんがリア姉に付き添ってくれるそうなので安心だけど、しっかり休んで欲しい。多分、僕が起きてる間にフォローしても、全部綺麗にスッキリとはならないだろうから。


 ……さて。


小型召喚された三柱の若い雄竜達だけど、僕が演台に立つと、ちょっとだけ身構えてきた。勿論、少し茶目っ気を出して、ポージングしてる感じだけどね。まったく、ノリが軽い男子高校生みたいだ。


「そんなに警戒しなくても良いと思いますけど。僕は見ての通り、人畜無害な子供ですから」


<そうは言うが、登山に行くついでに資料を運んでくれと言われ、軽く引き受けて、蓋を開けてみればコレだ。まだ何かあるのではないかと勘繰りたくなる気持ちも理解してくれ>


炎竜さんが少しお疲れな感じに、あれこれ書かれてスペースが埋まってるホワイトボードを指差しながら答えてくれた。


「ではご安心ください、僕から更に何か話す訳じゃありませんから。ざっと見た限り、大雑把な観点での補足は不要なようですので、「死の大地」を視た事に伴う精神的なケアと、知識不足に起因する誤解、正しく恐れる事ができていないようであれば、そこをフォローすることで、安心に繫げようと思います」


それぞれと短時間だけど、心話で記憶に触れることで、言語化しにくい部分を共有しよう、と話すと、三柱とも表情に迷いが浮かんだ。


「呪いを視たと言っても水平線距離と聞いてます。それなら呪いに触れたことによる気持ち悪さを覚えた訳ではなく、視界を埋め尽くす呪いの一部、その縁に過ぎない部分と認識したことて、あれこれ想像が止まらなくなって、感情がそれに引き摺られたんですよね? それなら禁断の知識には絡まないと思ってます」


そう伝えたけど、どうにも三柱の表情はスッキリしない。


 んー。


「もしかして、祟り神を倒すイメージが湧かないとか、呪いを浄化し、緑豊かな地となった未来が思い描けない、とかでしょうか?」


<……その通りだが。何故解った?>


うわー、氷竜さんの思念波からは、僕は相手の思考を読むサトリの化け物かと訝しむ雰囲気すら感じられた。


「別に思考は読めませんけど、皆さんは個としては向かうところ敵無しな事もあって、格上で巨大な敵と向き合う機会が少ないと予想しました。それにこちらには地球あちらレベルのコンピュータはまだありませんからね。言葉だけ重ねても、草木も生えない、命の感じられない大地がゆっくりと、しかし着実に生態系を取り戻していく様は想像できなくても仕方ないかな、と思っただけです」


<アキはそれを思い描けるのか?>


 ふむ、ある程度は当たりっぽい。だけど鋼竜さんも半信半疑って感じだ。


地球あちらでは積み重ねた科学的な検証に沿った検討を行い、単に想像するだけでなく、止め絵でイメージを膨らませるのでもなく、まるで時の流れを加速して、遥か上空から眺めたかのような光景を映像化してましたから。なので、互いの記憶に触れてみましょう」


嫌なところには互いに深入りしないよう注意して、と補足すると、彼らも一応、心話を承諾してくれた。





庭の一角にケイティさんが、常世の闇のエリアを創り出してくれて、心話をする竜はそこに入って視界を封ずる事とした。第二演習場に居る本体は闇に覆われてるけど、小型召喚体経由で視覚情報が入ると混乱するからね。


早速、別邸奥にある心話用魔方陣のある部屋へと移動して、外と連絡を取りながら、対応する雄竜の所縁ゆかりの品をセットして、心話スタート。


三柱と順番に心話を行って、それぞれが視た光景やそれに付随する感情、記憶にも触れさせて貰ったけど、予想通り、底知れぬ巨大な相手、超遠距離からではその実態は何も解らず、力溢れる己がとても小さく感じられて、漠然と生じた不安。解らないからこそ解消できない気味の悪さ、生者が穢れに向ける忌避感、それらが上手く区切りを付けられずグルグルと思考がループしている感じだった。


それに雲の高さまで埋め尽くす呪いの闇というのは、確かにビジュアル的にインパクトがあって、豪雨間近な暗雲よりもっと禍々しく、絶えずゆっくりと蠢く様子は霧や雲と言うよりは、もっとドロドロとした粘りのある淀んだ沼のようで確かに印象は悪い。


禁断の知識、世界の外、ことわりの及ばぬ領域といった知識には掠ってもいないようで、そちらは一安心。


ならばと、「死の大地」から、高い位階、竜に届く力を持ちそうな拠点を感知できたか、と問い掛けてみた。水平線距離でも感知できる相手となれば、かなりの強敵ってとこだろうけど、三柱の記憶には、他の竜を同じ距離で感知する時のように、何かを見つけた、ということは無い事がわかった。


低い位階の力、呪いならば、天空竜にとっては脅威たり得ず、どれだけ多くとも烏合の勢に過ぎない事を強調して、地の種族にとっては毒でも、竜族なら気持ち悪いで済むのだから、いくら量が多くても、そう恐れるモノじゃないよ、と。


呪いの闇が視界を邪魔して、その奥を見通せないのは確か。だけど、居るかもしれないというだけで恐れるのは気が早い。闇を払って、実態を確認するまでは、慎重であるのは良いけれど、先走って考えすぎるのは杞憂というモノだ、と伝えた。


知らないことを問題視するのはいい、けれど、根拠なく想像の敵を手に負えないほど強く想定して恐れるのは、幾つかステップを飛ばしているでしょう?と話して、相手が大きかろうと、強かろうと、観察して、相手の力量を正しく見積もって、対策を考えるのが筋だと思い出して貰った。


心を触れ合わせていると、雄竜達の思考には、あるがままにそのまま塊として認識する癖が感じられたから、あくまでも相手は集合体であって、構成している個に分けて、どんな存在なのか分析する視点、大き過ぎる対象は、分けて考えていく思考をなぞって貰った。


僕もミア姉にやって貰った事だけど、そうして、それはそれ、これはこれ、と個別に考えていって、それから全体を俯瞰すると、理解が進むことが多いんだよね。


そして、雄竜達も、そうした思考をなぞっていくうちに、コツを掴んでくれたようだった。


いやー、凄いなー。僕は幼い頃だったから仕方ないところはあるけど、身に付くまでに年単位でかかったのに。


それから、何もない荒涼とした大地が復活していく様、生態系が再構築されていく流れについては、西ノ島が噴火を繰り返して既存の生態系が壊滅し、そこから回復していくイメージ動画の記憶に触れて貰った。地衣類が地表を覆い、少しずつ土壌が作られていき、草が生え、乏しい栄養でも育つ裸子植物の森に変わり、実りの豊かな被子植物の森へとなって、昆虫達が増え、それを餌とする鳥や獣達がやってきて、長い年月を経て島の生態系が回復する様をはインパクトがあったようだ。


というか、普段、何気なく観ている自然も、高速再生すると、実は互いにエグイ陣取り合戦をしていたり、より早く高みに辿り着いて、陽光をより多く取り入れようとしているのが見て取れて、植物と動物の時間感覚の違いは、どの竜も興味津々といった具合となった。


あと、再生に至る年月の長さも、人ならば生涯をかけても、その流れの一部しか見届けられないけれど、長命種な竜族ならば、豊かに蘇った姿を見ることも叶うだろうとも。


草木が根を張るのに難儀する固い岩を砕き、ある程度育った苗と栄養のある土をセットにして、簡単に流れないように植えていくなどすれば、全てを自然に任せるよりも、ずっと早く再生していくよう手助けもできる事を示した。


草木が望む土や水の量、日当たりなどを助けてあげれば、途中で枯れたりすることも減り、すくすく育つだろうと。生物学の知識を駆使し、古気候学や古生物学の視点から、呪いが増えてしまう負のループの原因を突き止めて、その流れを断ち切って逆転し、呪いが減る正のループを生み出すのだ、と伝えると、彼らは古い地層や化石、琥珀に含まれた大気組成等から過去を知るという、地球あちらの知に衝撃を受けていた。


そうして、科学的な視点、要素を分解して客観的な基準で評価するという思考、再現性のある事実を積み上げていくことで、遠い過去や未来すら見通す、地球(あちら)の学問の威力を知り、それら無しで眺めてきた自分達が、如何に対象を視ていなかったか、理解してくれたのだった。


「次は登山の時、仲間と共に視ることになります。見終わった後に皆で少し感想を伝え合うのも良いでしょう。思った事を言葉にすると、自分が何を感じたのか、どこに注目したのか、くっきりすることもありますから」


<次は。次こそは視てこよう。感想を伝え合った後に、もう一度眺めてみるのも良いかもしれん>


<先入観を持って視ると認識が歪むとも言うが、今回の場合は知識があった方が良さそうだ>


<登山者達は秘密保持の術式を受け入れる予定だ。ならば、()()()()()()()点も含めて、情報を伝えるとしよう。その方がより仲間意識も育めるだろう>


おやおや、三柱とも、浄化作戦の前段は竜族主体と知った後でも、全体としてみれば、全種族が力を出し合わないと、豊穣の地への道は険しく遠いことをちゃんと意識してくれてるっぽい。登山仲間達にも危機意識だけでなく、目的意識もしっかり持たせようと考えるのは凄い。


これなら、登山の方も実りあるラストを迎えられそうだ。登山先の主達への地の種族に関する知識を伝える件もしっかり担ってくれるだろう。


 さて。


 じゃ、ちょうどいい機会だからオマケを話しておこう。


「では、心話でフォローもできたので、もう安心です。時間もあるので、ちょっとズレた話ですけど、ついでに、皆さんに耳寄りの話をしておきましょう。ここだけの話で、判断するまでの期間も短めですけど、とってもお得な情報です」


今から三十分以内に意見表明すれば、サービスも付けちゃうよ、といった軽いノリと、彼らの先に広がる選択肢を楽しく聞けるように満面の笑みで話し掛けてみた。


 あれ?


三柱とも、なんか少し目を細めると、わざわざ身構えるポーズまで示した。


<その顔は、何か企んでる顔だ>


<アキの師匠、ソフィア殿も話してたぞ。貴方だけです、今だけ限定、というのは詐欺師の常套句だと>


<竜眼で観ても悪意がまるで感じられないのが逆に胡散臭い>


 ……なんか、三柱とも遠慮がないなぁ。


でも、まぁ、心話をする前、少し余裕がない顔よりはだいぶマシだね。前に進もうとする男の顔だ。心話も思ったより時間をかけずにサクサク終えられて余裕もあるから、恰好いい三柱には、耳寄り情報を教えてあげよう。好意三割増しってとこで。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


そんな訳で、登山に向かう前の忙しい最中に、雄竜達に鮨詰め教育をすることになりました。説明の方はリアが殆ど引き受けてたのでそちらは問題なし。

ただ実は、雄竜達が実は登山調整で足を伸ばした際に、「死の大地」の呪いを観てたこと、それにショックを受けてたことが判明して、そのフォローを慌てて行う流れとなりました。

まぁ、軽い話で良かったです。


視る意識もちゃんとなって、浄化作戦の全体イメージも把握してくれたので、アキは、ちょうどよい、耳寄り話をしてあげることにしました。期間限定、貴方達だけへのお得情報ですよ、と。

本人はノリノリですけど「まぁ、それってどんな話なの、聞いてみたいわ」みたいな食いつきの良さにはなりませんでした。まぁ日本あちらの文化を知らない竜族に、日本あちらのTVショッピングのノリを期待するほうがどうかとは思いますよね。


次回の投稿は、六月二十二日(水)二十一時五分です。

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