表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
455/769

16-18.隣の芝生は青く見える

前回のあらすじ:千キロ×七百キロの超広域を舞台とした空前絶後の地上戦、バグラチオン作戦をベースに、多くの航空機がそれぞれ役割をこなすことで侵攻を果たす、攻勢作戦編成ストライクパッケージを用いた、呪いの闇を払い、祟り神の正体を露わにする前段作戦について説明をしました。流れへの問題指摘はなかったのに、ならばそれベースで他の竜に説明をするといったら、非難轟々、とにかく待て、と止められました。ぶーぶー。(アキ視点)

連邦大使館の奥に移った僕は、二つの部隊の片方が防御しつつ、もう片方が背面や側面から挟撃して敵を撃破する鉄床かなとこ戦術について、お爺ちゃんが追加召喚したシャーリスさんに説明していた。


「つまり、アキの言いたい事はこういうことか。『片手で防ぎ、片手で叩く格闘技の連携に似た概念ではあるが、戦技、戦術、戦略と拡大していくと、状況認識、情報伝達、移動距離と時間、補給への影響が大きく変わる』と」


 おー、さすがシャーリスさん。女王様なだけあって、軍勢を広域展開させる話まではさくっと理解してくれた。


ケイティさんが、空になったカップに紅茶を注いでくれた。喉が渇いていたので助かった。


「そうなんですよ。金槌と鉄床かなとこはちょっと妖精族には馴染が薄いと思いますけど、徒手格闘技の両手を用いた連携技とやってることは同じです。片手で防ぎつつ、攻撃することで疎かになったところをもう一方の手で叩く。格闘技なら、全体を把握して、右手と左手を意のままに動かすのは簡単で、思ってから手が動くまでの時間差もありません。一人が防御に徹しつつ、相手を釘付けにして、その間にもう一人が挟撃して倒す、近距離での集団戦でも同じでしょう」


「それが見える範囲を超えてくると話は変わってくる。敵も味方も距離が離れれば、全体の俯瞰は難しくなり、情報の伝達も遅れ、移動にも時間がかかるようになり、不確定要素、アキの言う『戦場の霧』が増えるのじゃな」


「です。そして、更に部隊の規模が大きくなり、戦域も大きくなって、移動だけで何日もかかるようになると、休憩や補給も考えることになり、大勢が動くとなれば軍勢として統制された動きができないと、その戦力を十全に発揮できなくなってきます」


「その辺りまでは妾達の置かれている状況でも理解できる。国の周囲にある緩衝地帯まで兵を派遣すれば、日数もかかる、糧食も用意せねばならぬ、いくら魔術で連絡をしても、目に見える範囲を眺めるのに比べれば、情報量は大きく落ちてしまう。地の種族にとっては「死の大地」はそうした戦略で語る距離となり、妾達、妖精族であっても弧状列島の規模ともなれば、やはり戦略で語る距離となろう」


「皆さんは空を移動できる分、スケール感は大きいですからね。これが竜族だと飛行速度が速いこともあって、弧状列島全域ですら当日移動ができてしまうから、範囲が広がることの影響は更に抑えられます。それでも状況認識と情報伝達部分の苦労は同じなので、雲取様達も戦略の重要性は認識してくれてました」


シャーリスさんはふわりと飛んで、ケーキのクリームをスプーンで掬い取って、ぱくりと口に含んだ。


妖精さんの食べる量は誤差みたいなモノだから、僕のケーキを一緒に食べる感じ。


「竜が強くとも、同じ竜が相手であれば数の差は簡単には覆せまい。老竜が強くとも、同じ老竜が相手であれば苦戦は必至。魔力を回復できる巣の数も回復ペースも限度があり、道具を用いない彼らは、特定地域に集められる数も自然と頭打ちになる。そういった制約を緩和できるのは、道具を使える我らの有意な点よな」


妖精さんは地の種族と同じで道具を駆使するからね。だからこそ物資の集約とか補給の話も理解してくれる。


「双方が大軍となると、離れた軍同士の連携を乱し、軍勢の統率を崩し、時間と距離を上手くコントロールできるかが鍵になってきます。目の前の軍勢を相手に圧勝できても、盤面全体でみると、戦っている間に大軍に包囲されていて、逃げ道を塞がれていた、なんてことになりかねません。できるなら相手に偽情報を渡して、こちらは全体を把握したいとこです」


紙に書いた概念図で、見える範囲が狭いと、その中で最適解であっても、見える範囲を広げると窮地に追い込まれることを示した。見える範囲を手で覆って見せただけだけど、相手より少数の側の見える範囲が狭い事の危険性は理解して貰えた。


シャーリスさんが、力術でちょいちょいとペンを動かして、狭い範囲を囲う二つの円を描く。


一つは自軍駒とそれが置かれた小さな円。次の広い円には敵軍駒が一つ。そして、その円の外側には、自軍を囲うように置かれた敵軍駒がいくつもある、といった具合だ。


「こうして、円を描いて広い視点に立つと、中央は我が国、次の円は緩衝地帯、その外は隣国とも看做せる。軍勢ならば不利な位置を脱することもできるが、いくら妾達とて、国を担いでおいそれと移動はできぬ。耳の痛い話だ。妾達の視界は狭いのだから」


あー、なるほど。他国と国交がない妖精の国は、孤立した砦と看做すこともできる訳だ。援軍はこないし、移動もできない。戦力的に強いし、外からの補給がなくても飢える心配はないけれど、戦略的に不利な状況は変わらないってことだね。


「妖精さんの国の場合、周囲の敵軍の駒がいくつあるのか、そもそも一枚岩なのか、そこの確認からのスタートですからね。まぁ相手もこちらの情報を殆ど掴んでないのは確かでしょうから、そこまで危機意識は必要ない気はしますよ。あと、飛行船の運用が始まれば、相手の国土を高い視点から眺めるだけでも多くの事を把握できます。流石に国同士の敵対関係とかまではわかりませんけど」


「互いに睨み合うように砦を築いていれば、対峙している可能性は高いが、争いの時代に別れを告げて、砦に戦力を置くことを終えたかどうかまではわからないし、放棄された砦だとしても高空から眺めただけでは、それが現役かどうかも判断は難しかろう」


「ですよね。遠見の術式で多少は補えるでしょうけど、上から見られていると気付けば、欺瞞ダミー設備を置いたりもし始めるから、そこは地球(あちら)でも、騙し合いの世界です」


「相手は知らず、誤解し、こちらは知っている。妾達の好む在り方よ」


そんな話をしていると、トラ吉さんがひょいと太腿の上に乗ってきた。


「にゃー」


撫でろ、と催促されたので、おざなりにならないように撫でてると、シャーリスさんもふわりと飛んできて肩の上に座った。


「それで、こうして妾と話をしていて、少しは寂しさも癒されたかぇ?」


わかってるんぞ、って感じの笑顔が眩しい。


ふと、窓の外を見ると、庭先では、小型召喚体の雲取様達やセイケンといった会議の参加者達、それにお爺ちゃんも一緒にホワイトボードにあれこれ書き込んで、熱心に議論している様子が見える。


 なんか楽しそう。


お爺ちゃんがシャーリスさんを追加召喚して子守妖精役を代わって貰い、僕は議論の邪魔になるからと奥の部屋に追い出されることになったんだよね。


それというのも、皆さんがあれこれ疑問や不満があるようだから、それなら質疑応答の時間でも設けようかとしたところをザッカリーさんに止められたんだ。


 曰く、「答えを先に知っては皆の糧とならない」とかで。


言いたい事はわかるんだけどね。僕も細部まで考えた訳じゃないけど、大筋としては多少問題があっても目標達成できると思うからこそ説明をしてた訳だし、呪いの詳細を知らず、竜族は集団戦ができず、祟り神は地脈から力を得ることで時間経過と共に勢力を拡大すると言っても、喫緊の問題というほどでもないとも理解してる。


たどたどしいからと、親が手を出しては、子は学ぶ機会を失い、育つこともできない。庭先にいる皆さんは僕より年上だから、ちょっとズレた話ではあるけど、言いたいことはそういうことだ。


「見守ることの歯痒さというか、二律背反って気もしますけど。んー、まぁ、なんか皆さん、楽しそうだなーとは思ってました。シャーリスさんが話に付き合ってくれて嬉しかったです」


 うん。


さっきまでの話も、シャーリスさんの疑問解消、新たな知見を深めた、というよりは、摘まみだされた僕の不満、愚痴を聞いて慰める比率の方が高かったからね。トラ吉さんも、新しい部屋を確認するといったポーズを取りながら、あちこちに飛び乗ったり、歩いたりと僕の意識を自分に向けさせて、心が内に向かないように気を配ってくれてたし。





それからは、シャーリスさんの多忙な日々とか、妖精界での飛行船の建造状況を教えて貰ったりして、ある意味、のんびりした時間を過ごすことができた。


飛行船だけど、内部に骨組みを持つ硬式飛行船タイプであり、中空の建造物としては妖精界でも前例のない規模となったそうだ。以前教わった家の作りからすると、中央に自由に飛んで移動できる大きな吹き抜け構造があって、そこに部屋が繋がっている感じだったけど、妖精さん達の感性からすると、羽を広げた状態がパーソナルスペースとのことで、羽を出さず、人のように室内に並んで座る、なんてのはストレス過多で好まれないそうだ。なので大勢集まる場合には、森の中に設けた開けたスペースを使うといった具合で、巨大な建物を作るということがなかったそうだ。


一応、王城にはある程度の人数が集まれる室内スペースも用意はされてるそうだけど、それでも飛行船の船体骨格はそれより遥かに大きく、妖精族特有の継ぎ目がない単一立体製造された骨格は、軽量でありながら強靭であり、強風や荒天にもある程度は耐える設計らしい。


外皮に熱光学迷彩ステルス機能と装甲、陽光からの魔力を取り込む機能を持たせ、内部に分割設置された気嚢が軽い気体を閉じ込める構造とのこと。全体が難燃性素材でできているそうだけど、軽い気体は不燃性ということだから、順当にいけばヘリウム式かと思ったけど、ちょっと違うそうだ。


なんでも、妖精の国ではヘリウムは結局見つからず、近い性質の気体に対して永続的な変質術式を用いることで強引に生成したそうだ。なので創り出した気体はとても高価であり、気嚢は縫い目なしの妖精仕様で、更に呪紋を用いることで、気体が布地を透過することも防ぐ念の入れようだと力説していた。外皮と気嚢を分けたのも、高価な気体を漏らすことなく圧力を維持することを優先したからだそうだ。外皮が多少壊れようと大した話ではないけれど、気嚢に一つでも穴があけば、同じように財務大臣の胃に穴が開くレベルというから、財政的にも随分とまぁ無茶をしたっぽい。


マコト文書に記載されていたヒンデンブルグ号爆発事故の件を参考に、静電気、落雷対策もきっちり考慮しており、聞いてる限りでは発火対策はかなり入念に行われているようである。


下部に設置されるキャビンは、妖精さんが八人乗れる広さで、流石に羽は出せない狭さとのこと。魔導推進器を搭載していて、晴れた日なら妖精さんの全速力よりずっと速く進むことができるそうだ。


荷物はこちらに倣って空間鞄に詰め込む仕様なので、地球(あちら)より重量制限が遥かに緩いのは羨ましい。


全体としてはバスくらいの大きさだけど、人間換算なら全長五十メートル級といったところで、一番艦としてはかなり意欲的な規模と言えそうだ。


水素式と違って炎上する要素がないし、乗員も自前で飛べる妖精さん達ということで、その運用に心配は殆どなさそう。試験運用を終えたら、地上から視認が困難な高高度まで上げて、緩衝地帯をぐるりと周回しつつ、周辺地域の地理観測をしてみるそうだ。


浮島に行くのかと思ったけど、周囲に何もない高空であれば、突風があった時の姿勢制御もしやすいから、運用が慣れるまでは、安全寄りに行くとのこと。


 夢があっていいね。


きっと、飛行船が空に浮いたなら、妖精さんの国はお祭り騒ぎになることだろう。地球(あちら)でだって、世界一周を行った大型飛行船が各地を立ち寄った際には熱狂的に歓迎された、というくらいだから。





シャーリスさんから観た依代の君は、妖精さん大好きっ子といったところだけど、話好きな僕と違って、彼は妖精さんと一緒に遠出をして、野山を探索するのを楽しんでいるそうだ。知識として知っている事と、実際に体験した事では、その記憶の彩りは雲泥の差なんだそうで、草木の香り、雨が近付いた時のじめっとした雰囲気、じりじりと焼かれるような暑い日差しなど、どれもこれも面白がってるとのこと。


実際、彼が丁寧に毎日描いている絵日記でも、そういった光景がよく伝わってくる感じで、彼の感性を邪魔しないように、自分もやってみたかったけど、結局、出かける機会がなくてできなかった事なんかを伝えたりするのに留めている。


失敗することもまた大切な経験、そこに至るまで悩み、考え、試す過程もまた大切だと今ならわかる。


……そう考えると、庭先で議論を戦わせている皆さんが暗中模索している時間もまた大切だと思うことにした。


「にゃ」


トラ吉さんが気付いて声を掛けてくれたけど、議論もある程度終わったようで、ケイティさんに連絡が届いたっぽい。


「アキ様、参加するよう連絡が届きました」


「妾も行くとしよう。近々の話ではあるが、その示す先には興味がある」


ふわりとシャーリスさんが先導してくれた。テーブルから音もなく降りたトラ吉さんも、こちらを見上げて、ついてこいよー、って感じに声を掛けるとのしのしと歩き出す。


「さて、どんな話になったのやら」


「きっと、直近の案件に絞った話とされたかと思います。他の話は仮定の連鎖が多く、どのみちすぐには決まりませんから」


ケイティさんの言う通り、大筋としては間違ってないとは思うけど、それを確定させるには多くの検証作業が必要だから、今は何か意見が出ても全部、要検証マークが付くだけだ。





庭先に戻ると、皆さん、ちゃんと小休憩を終えたようで、ある程度、議論を尽くした、とやりきった感のある顔をしている感じになっていた。


 良し、良し。


ホワイトボードはと言えば、枚数が増えてて、意見が結構な量書かれてて、更に追記と、そこからの派生の線が伸びて、そこに別の意見が追記されてる、なんて具合でなかなかカオスな状況だ。


と言っても、ちゃんと赤ペンで丸く囲われた意見があり、それが直近、方針を決めておくべき内容ということのようだ。


 ふむふむ。


「えっと、①登山先の主達への説明のうち、他種族関連は登山を終えた雄竜達に一任すべし、ですか。地の種族や妖精との交流を経た若竜の言であれば、自身の経験ベースで直接語れる分、確かに理解も深まって良さそうですね。主達から求められている心話は、急ぎという訳でもないので、順番も問題ないと思います。それで、次は②「死の大地」への視界が通る縄張りを持つ竜達への情報隠蔽依頼、それを登山先の主達の主導で達成すべし、ですか。注釈は、伝言ゲームで歪まないよう、説明用の補足資料を活用する、と」


<アキは登山先の主達が監視役を兼ねている、と見抜いたが、「死の大地」を視界に臨む縄張りは、やはり監視の任を担っているのだ。形骸化して久しい役目ではあるが、情報は一番脆いところから漏れると言う話だ。ならば、後回しにせず引き締めを行いたい>


雲取様が補足してくれた。なるほど。そして登山先の主達はそんな沿岸部の他の竜達から一目置かれる存在ってことだね。思念波から伝わってきた感触でも、そんな主達が主導すれば安心、って認識が見て取れた。


「それでは、登山先の御三方と心話を行って、依頼事項の説明資料に御三方の意見を反映したものを用意したら、横展開をお願いする方針で行きましょう。情報の劣化があると困るのと、「死の大地」を含む沿岸地域全体の俯瞰イメージとかは持ちにくいでしょうから、所縁ゆかりの品を送って貰って、僕かリア姉のほうでフォローする感じにしましょうか。リア姉もそれでいい?」


「構わない。ただ、「死の大地」の浄化計画はアキの発案ではあるけれど、「死の大地」を臨む地の天空竜の方々が監視しながらも、その意識を悟らせず、普段通りの振舞いを続ける、この監視と情報漏洩防止の作戦は、登山先の御三方主導とするようにね」


「現場にいる人が一番詳しいんだから、元からお任せする気だったよ。いずれ、「死の大地」浄化の統合本部が設立されたとしても、最前線の監視業務にまでいちいち本部が指示を出すなんてやってられないと思うからね。結構、ストレスのかかる役目となるし、精神的なケアの体制も確立して欲しいかな」


程よく息を抜きつつ、常に意識の片隅に相手を捉えて、その挙動を見守る。性格的に合ってる竜なら気長にやっていけるんだろうけど、心配性な子とかいないか、ちょっとだけ気になるところだ。


<成竜なら、自らの心を律して、狩人の意識を悟らせぬことは容易い。だが、それと心を病むことがないか、というのは別だ。竜同士の交流はそれほど密ではなく、他の竜が気を病んでも気付きにくい。時折、アキやリアが心話で接触して、確認してくれた方がよいと思う>


紅竜さんがそう言うなら、そんなところなんだろう。紅竜さんが雲取様の事をよく見ているのも、恋する相手だから、という部分が大きいんだろうね。一ヶ月くらい会わなくても気にならない、なんて頻度じゃ、気付いたら、相手が病んでたってことも普通に起こるだろう。


「では、気付きの部分はこちらで。実際のケアは黒姫様や他の方にお願いします。んー、残りは③福慈様に、今回話した作戦概要を理解して貰い、チーム行動への参加者を集う、ですか? これ、雲取様の方で説明、お願いできません?」


話を振ってみたけど、口を開く前に、無茶言うな、と思念波を飛ばされた。やりたくない、気が乗らない、じゃなく無理ってところなのが興味深い。


<アキのほうで、先ずは心話をしてくれ。その後で我が補足する形としたい。今回の大型幻影で示した多くの図もそうだが、これらを手持ち資料として持参したとしても、それを福慈様と共に見ながら、というのは難しいのだ>


思念波からすると、いくら大判印刷した資料でも、老竜と共に見るのには小さ過ぎるってとこか。あと、視力もどうも老竜と若手では違いがありそう、というか焦点距離の差、老眼が入ってる感じだね。小さな身体の方が近場を見やすい、というのはわかる話だし、そもそも文字をマーキング程度にしか使わない竜族からすれば、間近なところをまじまじと眺める必要性も少なそうだ。


<では、それは都合がつき次第、僕の方でやっておきます。目指すところは攻勢作戦編成ストライクパッケージだけど、いきなりそこに手を付けるんじゃなく、ペア行動辺りからとする感じですよね? あと、性格的なところで役割分担を決める、とかも必要そうですけど、そこは若手同士で自主的に決めるとか、実際に連携行動を試して、向き不向きを洗い出すとか、そういった方向で行こう、って提案でいいですか?>


<十分だ>


雲取様も納得してくれたし、沢山出てたけど、近々はこの三つに対処すれば良し、ってとこか。


お、ザッカリーさんが手を上げた。


「多くの意見、疑問、要検証事項が出たが、ここにいる者達はあくまでも各勢力の一時窓口であって、これらを専門に扱う全種族合同の検討チームを立ち上げるべき、との見解で揃った。様々な要素が絡み合い、それらを検証していくチームは勿論必要だが、それらを統括した本部のような牽引役がいなければ、足並みを揃えることなどできないだろう。今回の話はそれぞれが報告書を纏めて本国へと連絡し、秋に代表の方々が集った際に、具体的な話を決めていただくのだ」


云わんとするところはわかる。僕も、自分の考えを多彩な種族の異なる視点からチェックして欲しい、説明すれば理解してくれると確信しているから、こうして説明の場を設けているのだし。


「確かに、片手間でやる仕事でもないから、それが良さそうですね。本格的に動き出せば、餅は餅屋、専門家の方々にお任せできるでしょう。代表の皆さんに、軍団規模、二~四個の師団を束ねた経験者を回して貰えるようにお願いしておくといい感じでしょうか?」


そう問うと、全員から、無いわー、って視線をぶつけられた。


「規模だけならまぁ経験者も探せばいるかもしれないわね。特に長命種の方々なら。でも、アキが求める司令部は、あちらベース、「死の大地」を含む弧状列島西部全体をカバーするような通信網を駆使して、全軍の把握と指揮を密に行うんでしょう? 街エルフなら全軍把握と指揮はできる方もいそうだけど、それと弧状列島レベルの広さを両立で、となると、無いものねだりよ」


エリーがばっさり切り捨ててくれた。


集ってる皆さんをざっと眺めて考えてみれば、そもそも師団級を束ねる、と言った時点で、三大勢力以外は候補から外れるのは間違いない。連邦は戦力的には師団級でも頭数はかなり少なくて指揮命令系統はシンプルそう。連合と帝国は、銃弾の雨の時代に多くの城塞都市諸共、万単位の軍勢を消し飛ばされてるから、そもそも経験者が残ってない。


 陸、海、空の戦力を束ねた統合本部の設立をゼロベースからスタートか。


そもそも、竜族達が、恐らくは他の種族主体となるだろう統合本部の指示に大人しく従ってくれるか、ってとこもあるし、いやー、なんか波乱の展開が待ってそう。


「……まぁ、揉めたら、ここにいる皆さんと一緒に仲裁していきましょう。息の長い活動ですから、まぁ、そこは気長に頑張るってことで」


そう纏めると、皆からも特に反対意見はでなかった。消極的賛成ってとこだろうけど、代替案が思い浮かばないし仕方ない。


先はちょい雲行きが怪しい気もするけど、登山前後の調整と相談は一応終わったし、良しとしよう。ごちゃごちゃしている時は、堅実にできるところから進むのも良策だ。進んでみれば、案外、良いアイデアが出る事だって多いのだ。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


アキは窓越しに、音声カット状態で、皆が激しく議論している様を「楽しそう」と称した訳ですが、これこそ、まさに本パートの題名「隣の芝生は青く見える」そのものですね。


①敵戦力は弧状列島全体規模に匹敵

②いずれは攻略方法も編み出せるとは思うけど今は無策

③呪いのことはよくわからない

④今、蝗害作戦をやられたら滅亡ルート確定

⑤攻略方法を編み出して準備を終えるのは何年後になることやら

⑥でも民に、いつ滅びても不思議じゃない、なんて言えるか?

⑦って訳でいまが一番ヤバい。

⑧以上を踏まえて、「祟り神に悟らせず、観察宜しく」と伝えたい


って感じの話を明らかにされて、皆が楽しく議論してるかって言うと……。熱くは語ってると思いますけどね。音声カットの効果は偉大です。


で、数珠のように仮定が連鎖しまくって導かれたシナリオなので、ケイティの言う通り、近々の対応部分だけ示されることになりました。この後は皆さん、本国への報告書纏めで頭を悩ませることになるでしょう。


次回の投稿は、六月十九日(日)二十一時五分です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
評価・ブックマーク・レビュー・感想・いいねなどいただけたら、執筆意欲Upにもなり幸いです。

他の人も読んで欲しいと思えたらクリック投票(MAX 1日1回)お願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ