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16-17.「死の大地」攻略とバグラチオン作戦(後編)

前回のあらすじ:バグラチオン作戦が何故、攻勢の完成形とまで呼ばれたか皆さんに説明しました。ここまで持っていければ、何やっても止めようがないよね、って事を理解して貰えて良かったです。この大方針を理解しないと、具体的な話に入れませんからね。(アキ視点)

さて、バグラチオン作戦の概要は把握して貰えたけど、当時の空爆は、地上軍の侵攻を助けるめの支援攻撃だったから、そのままだと「死の大地」の話には繋がらない。


雲の高さまで呪いの闇に閉ざされている大地に、大軍を上陸させて侵攻作戦をやるなんて、晴れることのない毒ガスに満ちた地にノルマンディー上陸作戦を行うようなモノで現実的じゃない。


となると、海か空から攻める事になるけど、硫黄島みたいな東西八キロ、南北四キロ程度の小さな島でも、上陸作戦前に米軍の大艦隊が島の形が変わるほど念入りな艦砲砲撃と空爆をしまくったけれど、大日本帝国の守備隊の戦力の多くは残り、米軍の上陸部隊は四人に一人が死傷するほどの激戦になった。


こちらの海軍は当時の米軍とは比較にならないほど貧弱で、戦力としては、投入できる大型帆船と同数の天空竜にも届かず、「死の大地」は硫黄島とは比較にならないほど大きい。


つまり、「死の大地」攻略は、天空竜達を主戦力として空から行うしかないって事だ。


「さて、事例に比べれば、「死の大地」は広さにして三パーセント程度ですが、厄介な点があります。それは敵戦力の多さです。バグラチオン作戦での守備戦力は三十八師団で、要衝を押さえて点在しているイメージでした。それに対して「死の大地」は東西五十、南北二十五の面積を埋め尽くしているので、ざっくり換算でも千二百五十師団相当です。しかも地表を占領しているだけでなく、雲の高さまで、呪いの闇は到達しています。いくら戦力として竜と比較すれば弱くとも、相手は生きておらず、地脈から力を得てどんどん勢力を増していく存在です。なので、こちらも砂場を掘り進めるように、呪いの層を削り取ろうというのが僕の試案、攻勢作戦編成ストライクパッケージを用いた侵攻作戦になります」


漂う呪いは、連樹と世界樹が行った「力ある言葉」によって掻き消せる。ならば、共鳴させた思念波でも同様に消せるだろう。拡散型思念波は球状に広がるから、空から思念波を放てば、地上から雲の高さまでの広い範囲に漂う呪いを掻き消せる。遠い位置から放つ思念波より近場から放つ思念波の方が威力は期待できる。だから、範囲は狭いけど、竜のペアが共鳴させて放つ思念波の方が、漂う呪いをより強く消せるだろう。


竜のペアの数を用意すれば範囲の狭さはカバーできる。南北に一列用意して、西端から東端まで移動しながら放てば、「死の大地」の全域に、かなりの強さで漂う呪いを掻き消す思念波を行き渡らせる事もできるだろう。


拡散型思念波を放つペアは三交体制にして、護衛、観察、指揮、残戦力観測役をセットにした攻勢作戦編成ストライクパッケージを組むとすれば、二十柱×五十編成、合計千柱で、窓ガラスの汚れを拭き取るように、呪いの闇の多くを消し取る事で、「死の大地」の今の姿を明らかにできるだろう……と。


「浄化をして、次のエリアに進むというのは、敵前線を潰して、後方にいる部隊を叩きに行くのと同じイメージですね。そして、呪いが空を飛ぶ竜より早く移動するとも思えません。一列に並んだ攻勢作戦編成ストライクパッケージは、自分達の侵攻方向と、浄化後の残存戦力にだけ気をつければ良く、これは横陣の利点と同じです。相手に集結する時間を与えることなく、散らばっている敵を、各個撃破できます。半日程度で、「死の大地」の横断、絨毯浄化を終えられるでしょう」


この広さを、これだけ短時間で侵攻できるのは、地形を無視して高速移動できる航空戦力ならではの話で、漂う呪いを浄化できる程度の弱い力を、広い範囲に届かせればいいので、いちいち巣に戻って魔力回復をしてから再出撃するような真似をしなくても良いのも特筆すべき点だと強調した。


反復攻撃となると、攻撃の間が開くことで相手に戦力の再編成、配置変更、攻撃への対策も取られかねない。でもこの横断浄化なら、各地の呪いが浄化を食らった混乱から回復する頃には、もう攻勢作戦編成ストライクパッケージは飛び去った後。そして、呪いが後を追っても引き離されるだけとも補足した。


……大型幻影にイメージ図も出して、説明したんだけど、聞いたのが二度目となる雲取様、紅竜さんはともかく、それ以外の面々は明らかに納得してない顔、というか腑に落ちない顔をしていた。


それでもイズレンディアさんが発言してくれた。


「平面と立体の違いなどはあるが、相手からの反撃がない距離から、軽騎兵達が歩兵に対して射ながら駆け抜けるような策だな」


ん、いい例えだ。


「こちらの夜襲に気付かず、襲撃を予想した陣も敷かずに、野営地を隅から隅まで襲われるってオマケ付きですね」


時間的な余裕の無さ、走り抜けるイメージは例えとしては解りやすいだろう。


お、ヨーゲルさんが手を上げた。


「連樹と世界樹の語り掛けだが、帝国が示した百箇所の呪われた地は消えることなく残った。それに各勢力の魔導具も影響はあったが、耐えたものも多い。今の策は漂う呪いは消えても、呪いの本体、基点は残るだろう。アキも話した通り、作戦は大掛かりだが、あくまでも目的は呪いの闇を払い、「死の大地」に無数に存在する呪いの範囲、基点を明らかにすることだな? そうなると、浄化後の地上観測を同行している竜達の目視と記憶だけに頼るよりは、観測と記録を行う魔導具の活用すべきだろう」


ほぉ。さすが魔導具の専門家。


「おっしゃる通りで、これは本格的な浄化作戦を行う前の露払い、敵の戦力、配置を明らかにするのが目的です」


<浄化担当が一割で、残りが守りと観測、確認役なのは其のためか>


紅竜さんも、攻撃担当の比率の少なさには疑問があったようだけど、納得して貰えて何より。


「浄化チームが作戦を終えて魔力を回復している間に、次の攻撃目標を定めて、次は東から西へと駆け抜けて行く感じかなーと思ってます。なので、始めの絨毯浄化作戦は、休めば回復する疲労程度、丁寧に攻撃を防いで、怪我をせず、再出撃できる状態で終える点も重要です」


<何とも忙しい話だ>


「死傷者は可能な限り避けたいし、避けられると思ってますから。十分に対策できたなら、焚き火に水を掛けて消すように、作戦を終えられますよ、きっと」


ん、エリーが手を上げた。


「呪いの本体や基点への攻撃って、簡単に言うけど、いくら天空竜でも竜の吐息(ドラゴンブレス)をそれほど多くの地点に放つのは難儀じゃないかしら?」


竜も竜の吐息(ドラゴンブレス)を使えば疲弊するからね。そうそう連発できるものじゃない。


「それは、参考例のバグラチオン作戦で航空基地や港、要衝を叩いたように、「死の大地」の外に向けて、力を束ねてきそうな手強い呪いとか、物理的な力や移動する能力を持つ不死者アンデッドだけを叩いて貰う感じかな。あと、いきなり竜の吐息(ドラゴンブレス)じゃなく、絞った指向性の思念波を叩きつけて、機能不全に陥れるとかでもいいと思う」


すると、雲取様が理解したと頷いた。


<思念波の強度を徐々に上げていくのは、散らばったままでは浄化される、それを防ぐにはもっと集まり密度を高めて対抗せねばならない、そう行動させる為だな>


「はい。そうして分断された各地で、呪いが集まって密度を増して小さく纏まってから、竜の吐息(ドラゴンブレス)で消し飛ばせば、呪いの浄化も捗りますからね。そして、外に向かうだけの力がなく、その場に存在するだけとなったなら、呪われていない面積の方が多くなり、呪われた地が数は多くとも点在する状況となったなら、地の種族の出番です。活動拠点を設営して、一箇所ずつ丁寧に浄化しつつ緑化していきましょう。遠い地にある動かない戦力は脅威足りえません」


と、準備さえできれば、体制さえ整えば、「死の大地」の浄化はできるのだと締め括った。





お、ザッカリーさんが手を上げた。


「色々と解決すべき課題は多いが、解決しさえすれば、確かに「死の大地」の浄化もできそうに思える。そして、今のストーリーでは、()()()()()()()()()、そこは何度強調してもし足りない、か」


「呪いの浄化に適した思念波の研究、拡散型思念波のペア育成、攻勢作戦編成ストライクパッケージ運用のできるチーム育成、などなど、必要な要素を揃えるのはこれからですからね。祟り神が蝗害戦術を取る可能性は低いけど、やられたら必敗。だからこそ、これ以上、祟り神に何も与えず、浄化作戦を行うその時まで、現状維持したいんですね」


そこまで話して、蝗害について知らない人もいたので概要を説明して、食物連鎖の基盤を破壊されれば生き残れず、生きていない呪いは基盤が壊れても困らない点を説明した。


おや、エリーがなんか疲れた顔で手を上げた。


「いつ滅亡するやもしれない、その事実を抱えながら、各勢力の為政者達は、浄化作戦の目処が立つその時まで、まるで平和な世の中がいつまでも続くかのように、まつりごとをしないといけないのね」


ふむ。まるで禁断の知識に触れてしまい、正気度(SAN値)チェックをさせられたような物言いだ。


地球あちらでの話だけど、惑星中の都市を全て壊滅させる何万発もの兵器を、互いに抱えたまま睨み合い続けた冷戦と呼ばれた時代もあったけど、人々はそんな危うい時代も逞しく生き抜いてたよ。だから、別に為政者だけの秘密にしなくても大丈夫」


実際のところ、終末思想に囚われて精神を病んでしまった人達も結構出たりしてたようだけど、そこは触れないでおく。全体としては嘘は言ってないからね。


だけど、そう話すと、まるで異質なものを見た、と言わんばかりの顔をされてしまった。


「……そう言えば、アキはあちら育ちだったのよね。いつ終わるかもしれないのに、精神を病んだりしないの? あちらの人間が異様にストレスに強いだけとかじゃなく?」


 んー。


「例えば、目の前に、今にも暴れだしそうな大男がいたならかなり怖いよね。でもそれが望遠鏡で眺めるくらい遠い位置にいたなら、落ち着く余裕も生まれるでしょう? そして姿が見えず、そんな奴が居ると話だけ聞いたなら、もっと危機意識は薄れるよね。そして相手が遥か彼方、海の向こうにいると言われたなら、それはいつ起こるかも解らない津波を恐れるようなモノ。それより気にしないといけない話の方がずっと多いから、そんな事に気を病む人はほんの少ししかいないってこと」


そう話すと、一応納得してくれた。


「なるほどね。そして、為政者であっても、他に頭を悩ませる問題はいくらでもある。対策は進めるとしても、それだけを考えてなんていられない、か」


「そういうこと。ただ、自分達の世代ではすぐに破滅にならないからと、問題を先送りする流れが生まれかねないから、そこは注意だね。まぁ、こちらなら、次の世代なんて言ってられない長命種も多いから、そうはならないとは思うけど」


<特に竜族は、祟り神を「死の大地」に閉じ込める任を担う位置にいる。私も、子供達の世代には、そんな呪われた地もあったが、今は希望の地となったと語りたいモノだ>


紅竜さんの言う通り、そうなれば幸いだね。


「話は長くなりましたが、「死の大地」に関する現状認識と、「死の大地」浄化シナリオ、それらを踏まえると()()()()()()()、という点は納得していただけたようで何よりです。竜族は集団戦を、妖精族は大軍との戦いを、地の種族は空の戦い方を知る事にもなりました。大きなミスの指摘は無かったので、纏めた資料ベースで、登山に向かう雄竜達と、登山先の主に説明をして、お願いしておきます。登山先の主様達も漫然と眺めるのでなくなれば、新たな気付きもあるかもしれませんね」


ざっと話した感じでは、伝えたい事と、関連する概念、知識を示した表があれば、ぼやーっとしたレベルで把握する分には、何とかなりそうと思った。


……んだけど、残念。そんな訳あるか、無茶言うな、数珠繋ぎになった仮定の連鎖が長過ぎる、と全員から、問題だらけだ、と止められることになった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないので助かります。


基本=バグラチオン作戦、第一攻勢=攻勢作戦編成ストライクパッケージによる絨毯浄化攻撃、それだけ大掛かりな真似をして、狙いは実態調査だよ、というお話でした。


 アキは光の珠を使った!

 珠は一段と明るく輝く!

 光の糸が祟り神に絡みつき、闇の衣を剥ぎ取った!


……はい、ちょっと言ってみたかっただけです。「死の大地」を覆い隠している、漂う呪いを削りとることで、「死の大地」の呪い、祟り神の正体=呪いの分布や強度が露わになる、という流れを考えたら、あ、これ、大魔王ゾーマ様みたいだなー、と。


光の珠=五十チームの攻勢作戦編成ストライクパッケージ、総勢千柱の成竜達による絨毯浄化攻勢、なので、随分、物騒な話に変わってはいますね。


まぁ、似てるって思っただけで、元ネタという訳でもなし、漂う呪いを削る=弱体化か、というと……って話もあるので、一部似てるかなーってだけではあるんですが。


 さて。


アキは通しで話して、その流れはおかしい、と指摘もされなかったからOKとか思ったようですが、皆には、色々と納得できない、というか消火不十分なところが出る結果となりました。「ちょっと待て、まぁ、待て。とにかく止まれ」と言いたくもなるでしょうね。


次回の投稿は、六月十五日(水)二十一時五分です。


<補足>

さらりと、アキが祟り神の戦力=千二百五十師団とか言ってますが、一師団=万単位の戦力=千二百五十万人の守備兵力相当=弧状列島全域の人口(非戦闘員含む)にも匹敵する規模、ということで、そういう意味でも、皆が「まぁ、待て」と言う要因となりました。以前「互いに争ってる場合じゃないと思うんですよ」と言ってた言葉が刺さってる訳ですが、アキはさほど気にしてないので、本編では軽く流してます。まぁこの点は、三大勢力の代表達が秋に集結した際にでも指摘があるでしょう。

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