16-15.「死の大地」攻略とバグラチオン作戦(前編)
前回のあらすじ:集団戦の基礎を知らない紅竜さんに、陣形の基礎のうち横陣について説明しました。一を聞いて、二、三を知るくらい聡いので説明が楽でいいです。(アキ視点)
せっかく会えたのだからと、紅竜さんとも心話を行って、ここ一ヶ月の出来事についてあれこれ教えて貰うことにした。
常に一緒という訳ではないけれど、それでも雲取様と共に行動しているシーンも結構あって、同じ出来事なのに、紅竜さんの乙女フィルターを通って示された記憶の中では、雲取様の恰好いいシーンはより恰好よく、残念なシーンも親しみが持てる、といった具合に変わっているのが興味深かった。
出来事を覚える者の意思が加わる以上、客観的な情報、なんてモノは世の中には存在しないのだろうね。一見、淡々と記録されているだけの資料にしたって、その資料の集め方、編集方法、表現でいくらでも印象は変わってしまうのだから。
まぁ、それでも当事者達の話を突合していけば、何があったのか、凡その事は見えてくる。
雲取様は、良い面に着目して、誠意と沈黙を上手く使うタイプ。紅竜さんは生真面目な委員長、だけど特定の相手には乙女フィルター発動!ってタイプだね。まぁ、どちらも本人視点だから、相手側の竜達から印象を聞けば、また変わってくるのかもしれない。
僕もまぁ、自覚している通り、竜族一推しなところがある。今のところ、物語に出てくるような性悪だったり、残忍だったり、知性が足りないようなタイプの竜族と会ったことが無いから、好印象を抱きやすいってのはあると思うけど。
◇
そして、翌日。
若い雄竜三柱も参加する登山まで日がない、ということで、攻勢作戦編成を用いた、「死の大地」全域への一大攻勢作戦(仮)に絡むお話をすることになった。
話がとても大きいので、誰が参加するのか気になったけど、共和国としてはジョウ大使、人類連合としてはエリー、連邦はセイケン、帝国はガイウスさん、妖精族はお爺ちゃん、竜族からは小型召喚で雲取様と紅竜さんが参加することになった。森エルフというより精霊使いとしてイズレンディアさん、大掛かりな作戦となれば多様な魔導具の大規模運用は不可避ということでドワーフからヨーゲルさんが参加してる。
あと、飯のタネになるかもと師匠が、話が脱線しないようにザッカリーさんも参加だ。
まぁ定番のメンバーとも言える。
僕が連邦大使館の庭先に到着した時には、既にリア姉が今回の趣旨説明や、各勢力の認識の不足部分なんかについては説明を終えてくれていた。昨日、寝る前、通信回線を使わせて貰って、マコト文書に記載されてるバグラチオン作戦の概要をチェックしたり、説明用資料の準備をして貰ったんだよね。時間の無い中、きっちり資料作成をしてくれたケイティさんや女中人形の皆さんにはほんと感謝だ。
小休憩中ということもあったので、ちょっとだけエリーに話を聞くことにした。
「ホワイトボードを見た感じ、概略を話して意見交換を軽くした程度っぽいけど、戦絡みなら、第一王子のエドさんかと思ったけど違うんだね」
そう話を振ると、エリーも苦笑しながらも理由を教えてくれた。
「エド兄さんが扱う戦は、あくまでもロングヒル近辺での防衛戦なのよね。それに比べると今回の話は規模が二桁くらい違うから、悪い影響が出かねないという話になったの。私が選ばれたのは、戦自体じゃなく、作戦全体における各勢力の関わり合い方に着目したからよ」
なるほど。
「エドさんがまず扱うべきは師団級までの戦い方で、その師団級を基本単位として、双方合わせて三百近くぶつけ合う大戦となると、確かに悪い影響がでちゃうかもね。単なるお話として聞くなら男の子なら心が燃える話だろうけど」
「実務に携わり始めてるのに、単なる物語としてなんて楽しめないわ。あと、アキは師団と軽く言うけど、ウチなら、大隊級の部隊をいくつか連携させる規模、ロングヒルの国全体でやっと師団規模だからね?」
いくつかの城塞都市で構成される国なら、それくらいだろうね。それも常備兵だけじゃなく、予備役とかも含めた規模じゃないかって気がする。
そして、最前線を担う国であるロングヒルは、その規模に比べて、軍事力の占める割合が高い特徴もある。後方国からの支援もあるからこそ維持できている、身の丈より規模の大きな軍事力、ということだ。
全財産を持って賭場に行ったら、有り金が一枚のチップに化けた、そんな感じだろう。
確かに精神を蝕みそうだった。
◇
さて。
小休憩も終わったので、話を始めよう。
「お待たせしました。ホワイトボードに記載されてる感じだと、地の種族は航空戦に疎く、竜族は集団戦に疎く、妖精族は大軍同士の戦いに疎いようですね。今回の話の発端は、「死の大地」を眺めている登山先の成竜達に『悟られず観察して、逃げること優先』って伝えようってだけなんですけど、単に見える範囲で観測するのと、全体像を理解した上で、見える範囲は最前線に過ぎない、と意識して観測するのでは、意味合いが大きく違うだろう、ということで、全体のお話を行うことにしました」
<我らは空を飛び、広い範囲を意識できるが、それでも「死の大地」全体からすれば、地平線までの範囲も、全体からすればほんの一部に過ぎない。この範囲の違いだけでも、世界観が変わる話だろう>
雲取様の言葉に皆も頷いてくれた。
「地平線までの範囲を基本とすると、「死の大地」は東西五十、南北二十五、面積千二百五十ってとこですね。そして、地球の事例として紹介する空前絶後の大規模戦闘、バグラチオン作戦の範囲は東西百七十五、南北二百五十、面積が四万三千七百五十、えっと、面積比で「死の大地」の三十五倍の広さで行われた大戦になります」
一応、大型幻影にエリアを示す図を表示して、弧状列島の全体図と比較することで、その大きさをイメージして貰ったけど、皆から漏れたのは溜息だった。無理もないと思う。日本で言えば、日本列島全域に対して一斉同時侵攻が発生しました、みたいな話だからね。規模がおかし過ぎるよ。
なんか静かになっちゃったから、話を動かそう。
「今の段階では、なんか凄く広いところで、呆れるくらいの軍勢が戦ったんだ、くらいの認識で問題ありません。イメージして欲しいのは、この地域を防衛する側、ドイツの軍は合計三十八の師団で構成された九十万人規模、そして東から侵攻してくる赤軍は合計百九十四の師団で構成された百三十万人規模ということです。師団とは自前で補給も修理もできる、軍として作戦を行える最小単位でしたよね。つまり、防衛側は三十八、侵攻側は百九十四の駒で構成されているということです」
数だけ聞くと多く聞こえるけど、戦域が途方もなく広いから、満遍なく配置したら、ドイツ軍九十万と言ったって、一キロ四方あたり一人、二人って話になるよう話だ。当然、軍として機能させるためにも、重要拠点毎に集中配備せざるをえない。
「兵数差は五割程度なのに、師団数は五倍近い差なのね」
「国によって軍の編成に対する考え方に違いがあるからね。ドイツの方は歩兵主体の師団が多いというのもあるんだ」
そう話すとエリーもそれほど疑問に思わなかったようで、納得してくれた。ネタばらしを後回しにできてセーフだ。
<私達には想像しにくいところだが、地の種族は移動を地形に縛られるが故に、人が集うところ、移動に適した道筋、荷物を運ぶ河川といった要素に制約されて、自然と軍を配備できる地域や侵攻ルートが決まるのだったか。それと軍は集まって数を揃えてこそ力を発揮するのだったな>
紅竜さんが上手く纏めてくれた。というか、いやー、昨日の今日でこれって凄くない?
「お見事です。妖精族も馴染みのない話なので補足すると、地の種族が作る大型兵器は、歩兵より大きくて強力ですが、その分、重いんですよね。そして、大きくて重いモノを運ぶとなると、運びやすい道筋は限定されます。広い川なら橋を渡るしかないし、大きくて重い兵器を動かすには沢山の弾薬と燃料も必要です。こちらと違い、あちらには空間鞄がないので、そういった影響を強く受ける訳です。あと水運にも馴染みがないので説明すると、陸上から運搬するより、水上を運搬する方が五倍、十倍と大量に運べるんですよ。浮かべれば軽く動かせるし、川下に運ぶなら河の流れも助けてくれますからね」
って感じに、大きく重いモノを運ぶには、それに耐えられる太くて立派な道路網が必要で、大量物資輸送となると水運の活用も重要になってくる点を説明した。
「儂らなら、敵に向かって真っすぐ飛べば良いが、大勢が大きく重い兵器を用いる地の軍勢はそうはできない。敵も味方もそうであれば、拠点や道路網に沿った戦いが各地で行われることになりそうじゃな」
お爺ちゃんもちゃんと理解してくれているね。
大型幻影に簡略化した都市や道路網を重ねて貰った。
「このように、作戦領域は広大ですが、実際には多くの都市や都市間を結ぶ道路網で盤面は構成されていると思ってください。地上軍は基本的に道路に沿って移動せざるを得ません。そんな訳で防衛側は重要な拠点を中心にあちこちに点在している状況でした。勿論、前線に当たる東側は軍勢が分厚く、その分、西側は疎らになる訳ですね」
防衛側は東側に敵の侵攻を防ぐ防衛ラインを構築し、その後方には支援部隊を適宜配備している様子を示した。
「結構、散らばってるのね」
まぁ、エリーの言う事も分かる。
「東西百七十五、南北二百五十の盤面に、防衛駒が三十八だからね。かなり疎らっぽく見えるかな。ただ、実際には各地の師団は、周囲に監視部隊を配置して、敵を発見したら、そこに部隊を向かわせて撃退するから、横を素通りとかはできないと思って。あと、侵攻側も太い道や河川を使わざるを得ないから、実際にはこれで隙間なく防衛できてるってこと」
「この道路か河川沿いにしか移動できない、というのがミソなのね」
「そういうこと」
ここで、ガイウスさんが手を挙げた。
「アキ様、今回の集まりでは航空戦、つまり空を自在に移動できる兵力もあったと聞いています。それらは道路や河川に制約されることなく自在に動けた。となると、両軍の航空兵力差こそが戦の趨勢に大きく影響したということでしょうか?」
鋭い!
「いいですね。ちなみにあちらの航空兵力、航空機ですけど、竜族が巣に戻って魔力を回復させるように、航空基地から出撃して戻ってくる必要があります。大型帆船が港以外に接岸できないように、航空機も航空基地以外には降りられません。故障したりして基地以外に降りるのは墜落、つまり機体が失われることになります。航空機は空から爆弾を落として地上の部隊を攻撃します。爆弾は大きくて破壊力があるので、小隊、中隊規模の単位で潰していく役割を担う感じです」
大型幻影に航空基地を配置して貰い、そこから同心円に作戦行動半径を示して貰った。
「航空機は飛んでいられる時間も短く、爆弾を落とせば基地に帰るしかありません。ただし、地形に縛られず、素早く移動できて、高い空から一方的に攻撃できるので、大変手強い存在です。航空基地が潰されれば、その基地にいる航空機も戦力外に陥ります。他の航空基地に移動はできますけどね。なので、敵の航空機に好き勝手されないように航空機同士で潰し合い、そして、それらの手を逃れた航空機が地上戦力を叩いていくことになります」
敵も味方も航空機は航空基地から出現して、基地に戻る。そこから逆算すると戦闘できるエリアは結構限定されるし、基地に所属している航空戦力に限りがあるから、敵飛行部隊が侵攻してきたとして、何機を迎撃に回すか、というのは結構悩ましい話になるのだ。
<航空機を我ら竜族とすると、巣で休んでいるところを空から狙われたら勝負にならない。それにこうして基地が点在しているとなれば、一つの基地がカバーする範囲も広い。数が少ない側は気が休まりそうにないな>
「地上に転がってる航空機は竜と違って単なる的ですからね。飛んでる時は航空機は強くても、航空基地に敵地上部隊の攻撃が届くようになったら負けてしまうと思ってください。なので港や道路と同様に航空基地もまた重要な攻略対象となります。それに敵の航空基地を占領すれば、味方の航空機がそこを使えるようになりますからね。占拠できずとも破壊して使えなくするだけでも効果絶大です」
「こちらで言うと、地の種族と竜族が手を取り合って軍勢を形成して、双方が衝突するようなモノか」
セイケンが話を纏めてくれた。まだ話についていけてるぞ、って表情だ。
「はい。単純な比較はできませんが、空を自在に飛び、地上に対して部隊単位で潰すような大火力を行使してくる航空機は、こちらでの竜族に近いでしょう。それと地上部隊ですが歩兵とは別に戦車がいます。戦車は歩兵を薙ぎ払い、頑丈な装甲で守りも堅い、という意味ではこちらだと鬼族の重歩兵が該当するでしょうか。地上部隊もまた、双方が戦車を運用してる感じです。それと砲兵。大砲はこちらにもあるのでイメージしやすいでしょう」
竜族、妖精族には大砲は馴染みがないので、地平線より何倍も遠い地点まで榴弾を撃ちこんで部隊単位で吹っ飛ばす兵種だとして、概要をざっと説明した。大きく、重く、動きも鈍いけれど、見えない位置から雨霰と榴弾を撃ち込んでくる、地上部隊からすれば真っ先に潰したい相手となると。
<砲兵がそれほど遠くから攻撃できるとなると、通常の軍が入り込めない険しい地形にいたら厄介そうだ。そして、航空兵力ならば地形を気にせず攻撃できる。航空機の主な仕事は砲兵潰しか?>
さすが雲取様。
「その通りで、砲兵は一方的に遠距離から攻撃できるけれど、守勢に回ると簡単に蹴散らされる弱い存在です。だからこそ、簡単に接近されないよう険地や、山の尾根を越えた先といったように、地上部隊が襲いにくい場所に陣取る訳です。でも航空兵力なら地形は関係ないので、上から爆弾を落とせば簡単に撃破できます。そして、自分達には砲兵がいて、相手側には砲兵がいないなら、地上部隊はかなり優勢に戦えます。相手はいつ降ってくるかもわからない榴弾を考えるだけでも、おちおち夜も眠れなくなるでしょう」
ん、ジョウ大使が手を挙げた。
「これまでの話を聞くと、地上部隊同士の戦いでも数が倍も違えば絶望的だが、こちらで言う竜、鬼、砲兵といった存在の数の差も大きく響きそうだ。もし敵の数が自軍の倍いたとしても、敵よりも多くの竜、鬼、砲兵を揃えられるなら互角に戦えるかもしれない」
おー、いいね。
「当たりです。指摘の通り、一般の歩兵に対して、竜、鬼、砲兵は部隊相当の戦力です。しかも得意分野であれば、敵を簡単に蹴散らす強さもあります。あー、ところで、遅滞戦術とか、機動防御とかの話は皆さん、ご存じですか?」
「具体的にはどんな策なんじゃ?」
言葉からして、皆さん、多少はイメージできてる感じかな。
「どちらも、攻撃側は自由に戦力を集中して好きなタイミングで、好きな位置を攻撃できるの対して、防衛側はどうしても攻撃されてから対処せざるを得ないことから生まれた策だね。遅滞戦術は、んー、籠城戦をイメージするとわかりやすいかな。攻撃してくる側を堅牢な地で迎え撃って足止め、或いはその侵攻を鈍らせる。その間にこちらも軍勢を整えて敵部隊を叩く感じ。機動防御は前線を突破してきた敵に対して、後方に控えていた機動力のある部隊を向かわせて叩く感じだね。前線は広くて、そこのどこでも攻撃できるのに、こちらがどこでも突破されないように守りを固めるのは現実的じゃないから、突破されるのは前提で敵軍を叩く感じ」
ここは図を併用して、軍に対しては軍をぶつけて潰すしかない、ただ、防御側は後から動くから、軍を集めて叩くまでの時間をどう稼ぐのか、といった観点で説明をしてみた。
千キロの防衛線として、歩兵を二メートル間隔で一人ずつ配置したなら守備隊は五十万人必要だけど、そんな疎らなラインなんて、十人くらいが集団を組めば軽く突破できちゃうからね。攻撃側は有利ってことだ。
「今、その話をするってことは、今回の事例では攻撃側が五割近く多いから、防御側は遅滞戦術や、機動防御を駆使して戦った、みたいな話なのかしら?」
ん、残念、外れだ。
「防衛側ならまぁそうして守り切りたいところだよね。ただ、今回の主題はあくまでも「死の大地」の在り方とその攻略イメージだから、防衛側が蹴散らされた事例になるんだ」
ここで大型幻影に、双方の兵力の内訳を出して貰った。兵士の数はドイツ九十万vs赤軍百三十万なんだけど、戦車の数はドイツ五百vs赤軍四千、航空機はドイツ八百vs赤軍五千、火砲がドイツ一万vs赤軍二万五千だ。
双方の師団数の差が大きくなった理由がこれだったりする。国や時代によっても違うけど、例えば歩兵大隊なら千~三千人程度の規模だけど、戦車大隊だと戦車四十両で一両に五名としても二百人規模になる。ドイツが師団数の割に人数が多いのは編成の主体が歩兵だったからだ。
皆がちょっとぽかんとした表情を浮かべた。
「……アキ、私も戦には詳しくないけど、いくら防御側が有利と言っても、勝負にならないんじゃないかしら? 陣地や要塞があってもこれだけ航空戦力や火砲の数に差があったら好き放題、攻撃されるのでしょう? とても耐えきれないと思うわ」
エリーのコメントに皆もその通りと頷いた。
「正解。敵に勝る軍勢、兵力を揃えて自軍有利な状況から戦端を開く、これが戦略ってこと。今回の事例だと防御側は戦略をミスったってことになる。そしてこれだけの大軍同士が戦うとなると、上手く戦う個人がいても、部隊を巧みに動かせる指揮官がいようと、戦術をもって戦略を覆す、つまり防衛を成功させるのは至難なんだ。雲取様、若竜が五百柱いたとして、相手が四千柱で衝突したとしたら、幾人かは数の劣勢にも五分に戦える猛者もいるかもしれないけど、全体としては負けますよね?」
<いくら相手が遠出をしてきて魔力が多少減っていようと、これほどの差では先制で五百を叩けたとしても勝てまい。同数の戦いならそれを八回か。そこまで条件を落としても、こちらは相手よりずっと早く負傷し、疲弊していくのだ。勝ち目はないだろう>
火を見るよりも明らか、ってとこだね。
「実際、今回の事例、バグラチオン作戦では、赤軍の進撃は一ヶ月続き、ドイツの守備戦力は三十八の師団のうち二十八を失って、壊滅的な被害を受けました。戦には目的がありますが、この作戦での赤軍の目的は領土奪還、占領地拡大ではなく、ドイツ守備兵力の壊滅でした。「死の大地」の攻略も同様です。我々が行うべきは「死の大地」を占有している呪い、祟り神の殲滅であって、「死の大地」の一部を切り取って領土を拡張することではないってことですね。では、以上を踏まえて、今回の事例から学ぶべき点を洗い出して、最後に「死の大地」の攻略にどう活かすか、討論してみましょう」
これでとりあえず、議論のスタートラインに立ったね。
……なんか皆さん、お疲れな感じなので、ここで一旦休憩を入れてから再開する流れとなった。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないので助かります。
心話は心を触れ合わせることで感情なども伝わるのが利点ですが、今回明らかになったように、相手の意識にそもそもフィルターが掛かってれば、得られる情報もそれに影響されたモノになります。まぁ、アキも多少は自覚してるようですが、アキだって明らかに竜族大好きフィルター装備ですからね。アキが心話で竜族を伝えても、ケイティのように一般寄りの感性を持つ者なら、呆れるに違いありません。一般常識とはその字の通り、多数派論理ですから。アキに賛同する感性を備えた者は永遠の少数派でしょう。
せっかく多種族が集うロングヒルなのだから、各種族に足りない視点を埋めることで、アキの話す地球ベースの思考、遥かに広大な範囲をターゲットとした大戦略を皆で考えられるようにしよう、という、云わば土壌作りが始まりました。
単なる説明会じゃなく、云わば、現代知識無双といった活躍シーン(笑)……なんですけど、絵面が地味ですね。アキの強みは、二十一世紀の日本人が持つ惑星規模の視点、大戦略、膨大な歴史ベースの指針提示といった隠者の助言なので、どうしてもこんな感じになります。
今回から三回に渡って紹介していく事例、バグラチオン作戦は空前絶後の大規模陸戦であって、一冊の書籍として語られるほどの規模、内容を含み、戦後の東西陣営の戦いの方向性すら決定付けた、ぶっとんだ戦いです。もし機会があればぜひ読んでみてください。興味があるならお勧めです。
まぁ、ドイツやロシアから言わせれば、両国の全海軍艦艇をかき集めたような大規模海戦を何度もドンパチやってる日本、アメリカだって十分、イカれてるレベルではあるんですけどね。
本文内での事例紹介ですが、知ってる方はわかる通り、アキはこちらの人々向けにかなり簡略化し、ざっくりとした説明をしています。事例の詳細紹介じゃなく、それを例として「死の大地」攻略を語ろう、というのだからまぁ、粒度としてはこんなものです。
<補足>
師団:歩兵、工兵、砲兵などの戦闘兵科と兵站など後方支援部隊がセットになった諸兵科連合であり、独力で一定期間、作戦行動を行うことができる最小の戦略単位。全体を指揮する司令部が置かれるのはこの辺りから。六千~二万程度で構成されている軍勢なんですが、陸上戦だと、この規模がないと戦略級の働きはできません。
大隊:単一の兵科で構成される最小の戦術単位。歩兵大隊とか、戦車大隊みたいに同じ兵科で纏まってて戦術レベルの戦いができるけれど、補給や修理といった機能はないし、司令部機能もない。
本文中、エリーがロングヒルの兵力を指して、大隊レベルがいくつかと評しているのは、アキがくる前にリアが事前説明を終えて、アキが語る現代知識とその基準を把握しているからです。こちら基準で言えば、ロングヒルは連邦、帝国との国境を維持している立派な軍事国家であって、寡兵という訳じゃありません。
次回の投稿は、六月八日(水)二十一時五分です。