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16-14.祟り神の蝗害戦略、その可能性(後編)

前回のあらすじ:雲取様と一緒に、登山先の主達に、注意事項を伝えるための足場固め、理解して貰うべき概念、知識について洗い出し作業を行いました。(アキ視点)

翌日、第二演習場に行くと紅竜さんは先に来て、リア姉と何やら話し込んでいた。


「お待たせしました。二人でお話とは珍しいですね」


<呪いの研究と、思念波の共鳴の件で相談していたのだ>


「昨日、雲取様と「死の大地」の呪いについてあれこれ話してただろう? それで、普段、ロングヒルに来ている雌竜の方々は、今抱えている案件で手一杯だろうから、やる気のある他の竜を小型召喚で派遣しようとか、共鳴の件も街エルフが計測用機器を提供することで、訓練の効率を引き上げられないかとね」


 ふむふむ。


<生半可な呪いでは、竜族が近付くだけでも消え兼ねない。その点、小型召喚体なら影響は少ない。必要なのは竜眼を用いた観察なのだから研究にも支障はないだろう>


「なるほど。それはいいですね。召喚術式の起動と維持に必要な魔力量さえ調整すれば、大丈夫そう。だんだん第二演習場が手狭になってきた感はあるけど、僕とリア姉から供給できる魔力量にも限りがあるし、必要なのは施設の拡張ではなく、用いる術式の効率改善とかでしょう」


「共鳴の方だけど、練習と計測は連邦の方でできないか、って案が出てるよ。帝国、連合、共和国のいずれも混み合ってて、拡散型の思念波を広範囲にばら撒いてもいい場所がないんだ。あまり西側だと「死の大地」に近い問題というのもある。その点、連邦領は人口密度が低いから、練習場付近の竜達さえ協力してくれるなら、何か所か良さそうな候補地もある」


 ほぉ。


「竜なら空を飛べるのだから、海の上で行うなら影響は少なくないです?」


<それだと、共鳴状況を計測する機器を運用する街エルフ達の負担が大きいらしい>


「できれば複数個所に機器を設置して計測したいところだけど、海上となると帆船を出さないといけない。それを複数というのは、ちょっとハードルが高いんだ。沿岸沿いには街があるのが基本だから、陸が見える範囲の海上だと、計測機器設置の点はいいけど、影響を受ける人口が多いのでそれも避けたい、とまぁそんな話さ」


 なるほど。


「んー、そうすると、呪いと共鳴、そのどちらも新たな若竜の参加が発生、共鳴の方は登山の件と同様、やる気のある若竜に候補地の主達の説得を頑張って貰う感じですか」


<そうなる。ただ、登山の件は数日で終わるが、共鳴の練習は期間も長く、練習中は耳障りの悪い思念波を聞かされることにもなるから揉めそうだ>


 んー。


「竜族って、基本、離れて暮らしてるから歌う習慣ってないんでしたっけ? あ、でも、子育て期間には幼竜をあやす為に子守歌を聞かせるって聞いた気もしますね」


<歌うこともあるが囁くように小声で行うのが常だ>


 ふむふむ。


「なら、共鳴するのが主目的ですから、あまり大きくない思念波で子守唄を歌うのはどうです? それなら聞こえる範囲も狭いから、そもそも巣にいる縄張りの主まで思念波が届くこともないでしょう」


<子守唄を二頭で揃えて歌う、というか思念波でか?>


 おや。思念波からすると、そもそも幼竜に聞かせるから普通に声を使う感じで、遠距離向けの思念波は使って無さそう。それに子守歌が必要な幼竜となると、母竜が個別に育てていて、他の母竜が近場にいることもないっぽい。


「歌詞と音程を揃えて、同じテンポで共鳴させるように歌うんです。なんか楽しそうですね。思念波に合った言い回しとか、曲調とかもありそう。こちらは将来の事を考えると、他の雌竜の方々の方が合っているかも。思念波を共鳴させて広い範囲に「力ある声」を届けるのが趣旨だから、雄竜ペアが力強く歌うのもありかも――」


「アキ、その辺りで。歌声を揃えることで声を遠くに届かせる唱法なら、歌い手を集めて聞いて貰うだけでも、参考になると思う。小型召喚体にすれば、圧も無くせるから、人選も多少はマシになるかな」


<新たな試みだが、興味を示す若竜は探してみよう。昨日、聞いた話でも呪いと共鳴の件は急ぐべきと感じた。それに動くのが他の竜となれば、声を掛けるのは早い方がいい>


趣旨を理解して貰って人選に入れば、後はそちらにお任せできるからね。案件はどんどん他の人に振って、自分の手を空けるようにしないと。


 あ。


「えっと、思念波が優しい音色だとして、届く範囲にいる魔獣とか動物は慌てたりしません?」


<声が近付いてくる訳でもなく、刺々しさもないとなれば、警戒はしても逃げたりはしないだろう>


「そこは人語を介する魔獣が慌てずにいてくれれば、玉突き移動は避けられると思う。ただ、懸念はあるから、そこは注意しておくよ」


なら、大丈夫そう。


しっかし、思念波ではあるけど、戦場に響く歌声かぁ。まさか現実リアルにそんな話題が出てくるとは思ってなかった。





それから、昨日書いた大きな紙を取り出して、僕が伝えたいことと、そこから波及する概念、知識に関する検討作業を進めていくことになった。いくつか質疑応答はあったものの、大きな抜けはなく、一通りの確認は終えることができた。


ただ、全てを確認し終えた紅竜さんもやっぱり渋い顔をした。


<アキ。私もやはり同意見だ。ただ、この表がなければ全体を意識するのも難しいと思うが、あったからと言って、数日で理解が追い付くとも思えない。登山先の主達は確かに賢さ、慎重さに定評はある方々だが、それでも、聞いてすぐ理解とはいかないだろう>


思念波からすると、話を咀嚼する時間を十分に与え、相手のプライドを損ねないよう配慮すべし、ただ小手先の態度など見透かされる、なんて話っぽい。というか成竜相手だとだいたいそうなるよね。


「始めは全体を軽く把握して印象だけ捉えるだけでもいいんじゃないでしょうか。別に心話も今回だけって話でもありませんし、時間を置けば何か思いついたり、疑問も湧いてくるでしょう。あちらからも、付き合いは長くなるだろうから、って言われてますからね。腰を据えていきましょう」


言いたいことは、相手に悟られるな、何かあれば逃げ優先、ってだけだからね。


<自分の手に余る事態にも、解決策の模索を他の者に任せて、淡々と観察せよ、か>


紅竜さんは、どうもそういう、ひたすら待ちに徹するような状況は性に合わないっぽい。思念波からも、自分には無理だーって感情がちらほら垣間見えた。


「地の種族でも、狙撃や観測を行う人は選抜試験を潜り抜けた精鋭ですからね。性格的にも向き、不向きがはっきり出る分野です。雲取様や紅竜様が行ってる話し合いや調整の活動だってそうです。合わない人なら、揉め事があると知っただけで胃が痛くなって逃げたくなるでしょう」


何事も適材適所ですよ、と纏めると、紅竜さんはふと、思いを口にした。


<アキが以前話した、竜同士の関係を決める力比べとは別の尺度も生まれてくる、という話を思い出した。その流れはきっと止まらないだろう。自身の心を律し、馴染みのない地の種族の流儀に理解を示し、弧状列島全体を俯瞰したような意識を持つ。どれもこれまでにはあまり重きを置かれてこなかった話だ>


 ふむ。


「わかりやすい強さじゃないですからね。でもまぁ、竜族が集団としての力を手にするなら必要なステップです。ちょっと大変と思いますけど、楽しんでください」


<ちょっと、か>


「後に控えた話に比べれば、今の話って前提条件ですからね。だから、全体から見ればちょっとです」


紅竜さんも、色々思うところはあるようだけど、一応納得してくたようだった。





さて、それじゃ、攻勢作戦編成ストライクパッケージとかの話に入ろうとしたところで、リア姉から待ったが入った。


「アキ、昨日の「死の大地」への攻勢に関する戦略だけど、そもそも竜族の方々は個対個の力比べあたりまでしか馴染みがなく、相手を滅ぼすような戦いは、街エルフと協定を結ぶに至った大昔の時しかないそうだよ。だから、戦技、戦術、戦略で言えば、竜族の方々が必要としてこなかった戦術を伝えないと、その先の戦略の理解は難しいと思う」


 ふむふむ。


「確かに、竜同士の戦いは一対一、互いに相手を見据えて、どう出し抜くか駆け引きは研鑽していても、複数相手の戦いはしてない、と」


<複数同士の争いも無い訳ではないが、結局、一対一が複数個所で行われるだけなのは確かだ>


空戦は、互いに移動を繰り返して位置関係が刻々と変化するから、密接な連携をするにしても難度は陸戦の比じゃないんだよね。だから文化的にそれがないとしても不思議じゃない。


「それじゃ、横陣あたりから説明した方がいいかな?」


「そうだね。逆に遠距離からの支援砲撃みたいな陸戦固有の話は省いていいと思うよ。あと、攻勢作戦編成ストライクパッケージや戦略爆撃みたいな話は、紅竜様が戦術の基礎を知った上で、関係者を集めて全体に話をしよう」


「全体?」


「三大勢力+共和国、妖精、竜族辺りかな。ロングヒル王家、森エルフ、ドワーフはまぁ興味があれば」


「妖精さん達は、広い緩衝地帯を周回警備してたりするから、戦略も大丈夫かなーって思うけど」


「アキは、「死の大地」攻略の話を、地球(あちら)の戦史のどこをベースに話すつもりだい?」


「それは勿論、ドイツ中央軍集団を壊滅させた、バグラチオン作戦しかないかなーって」


リア姉と話してたら、お爺ちゃんが割り込んできた。


「アキ、その作戦はどんな話なんじゃ? 「死の大地」を対象とするほど大きな作戦だというのは予想できるが」


「万単位の戦力である師団、それを二百近く投入した、地球(あちら)でも多分、空前絶後な陸上戦闘だよ。弧状列島くらいの地域に対して、一斉に攻勢をかけて一ヶ月程度で、そこに存在していた敵戦力九十万を壊滅させたんだ。今回の例でいけば、「死の大地」の呪いを、大地全域に配備されている敵戦力に見立てて、その全てを叩き潰す感じだから、ぴったりな話だと思うよ」


「いやいや、色々と話がおかしいじゃろ」


「まぁ、そう思うよねぇ。僕も調べた時、色々と単位がおかしいと思ったもん。ただ、今回の相手は「死の大地」全域だからね。敵戦力が膨大なら、こちらの戦力も膨大にならざるを得ないってこと」


そこまで聞いた紅竜さんが、口を挟んだ。


<アキ……それは浄化に絡む者は全員が理解すべき事なのか?>


ごちゃごちゃした話のようで面倒臭い、そんな感情がちらちらしてるね。この手の話は興味のない人はさっぱりだし、竜に応じて話の深さは考えたほうがいいかも。


「さっきの表と同じで、全体像くらいは把握しておいた方がいいですね。意識してないと自分がどこを担当してるか見失う規模ですから。でも大丈夫、そう複雑な話じゃありません」


そう話したけど、紅竜さんの疑うような眼差しは晴れなかった。






それじゃ、入門編だ。


「紅竜様、それでは戦術の基本となる横陣についてお話しますね。地形にそった移動に適した縦陣は、空戦には馴染まないので省きます。竜同士の戦いですけど、一対一で互いに注目しながら戦技を繰り出し合う訳ですが、位置関係は変化しても互いに正面に相手を捉えていると看做すことはできます」


ケイティさんに説明用の大きなマスと駒を置いて貰った。敵と味方が一駒ずつ隣接して置かれている状態だ。


<うむ>


「先ほどの話では竜同士でも複数同士の争いはあるそうですが、それぞれが正面の相手と戦うことに専念していると考えると、一対一を三つ並べた形、これが横陣です」


互いに三つの駒を一列に並べて、各駒は正面の敵駒だけを見てればいい。一対一の関係が横に増えただけだ。


<特に違いはないが>


「数が同数で、互いに正面から衝突するなら確かに両者に違いはないですね。では質問ですが、互いに等しい力量の竜同士が対峙しているところに、横から邪魔が入ったら、邪魔された方はかなり不利になりますよね? 何かしようとするたびに、無視できない程度の位階の熱線術式を撃たれるだけでも、かなり厳しいでしょう?」


<それは確かに厳しいだろう。力比べでそのような真似はしないが>


そう言いながらも、遠い過去、共存を否と言った荒い竜達を滅ぼした時の話は聞かされているようで、文化的に拒む程ではないようだ。


「この盤面では、三対三ですが、こちらにもう一つ駒があればどうでしょう? こうして、端のところに配置すれば、端の敵は正面と側面に対して同時に戦わなくてはならなくなります。数に勝る側が相手を戦闘不能にできれば、空いた駒でまた同じように側面から叩くのを繰り返して、敵を倒せる訳です」


暴論ではあるけれど、四対三にしただけで、局所的には二対一の状況が生じて敵は耐えられず撃破される。その戦いで多少戦力は減るとしても次は三対二。端ではやはり二対一の状況となってゲームエンドだ。


<概念としては解る。だが、数に劣る側が素直に戦いに応じるのか?」


「地の種族ならば城塞都市、竜族ならば縄張りや巣といったように、どうしても譲れない場所はあるでしょう? そういった場所を選んで、数が不利でも戦わざるを得ない状況に相手を追い込むんです。普通、数が少ない側は勝てません。多くの戦いでは数が多い方が順当に勝ちます。少数側が勝利したいくさが歴史書に書き記されるのはそれが珍しい事例だからです」


そう話すと、紅竜さんはふと思いついたようで、力術をひょいと使って、駒の配置を変えてきた。敵に対して、こちらが一つずつ横にズレた陣形だ。


<先ほどの三対三の件だが、このように一つずらせば同じ状況を作れるのではないか?>


「横にずれた分、こちらは端で二対一の有利な状況を作れるわけですね。その代わり、逆の端ではこちらが一対二の状況になるので、どちらが先に端を潰すか、という争いになります」


そう話すと、紅竜さんはあれこれ駒を動かしていたけれど、すぐ諦めた。


<同じ数ではどう動かしても、結局は上手く戦った方が勝つとしかならないか>


 ん。隣接してる状況ならそうだろうね。


「こうする手はありますよ。三対一を三回やるんです。こちらは駒が集まっているけど、相手はまだ集まってない。バラバラの状況の敵を順番に撃破するんです。がっつり組む役が敵を抑えている間に、残りの二駒が左右から叩いで撃破、次の戦いまで少し間も空くなら休憩もできるし、駒がばらけている敵に勝機はないでしょう」


 こちらは三駒で、敵の一駒を正面と左右から包囲して叩く。まぁこれを破れるのは強力な個だけだ。


<その場にいない者は戦力ではない、ということだな。その場にいない理由は色々と考えられる>


「後は敵より多い戦力ですが、別の使い方もあります。三対三で戦っているとして、こちらにあと三つの駒があるとします。三対三で守り重視でこちらは戦って相手を疲弊させます。墜とせなくても構いません。そして、相手が追撃できないくらい疲れた時点で、予備の三駒と交代します。こちらは元気な三駒、相手は疲弊した三駒。これなら簡単に勝てるでしょう」


<竜で言えば、魔力切れを狙う訳か>


「ですね。互いに戦技を出せば魔力を失う。そして乏しい魔力で、元気な相手と戦うのは厳しいでしょう。それにこちらの予備が更に三駒あるなら、交代しつつ下がった駒は休憩して、再投入を待つ、なんて話もできます」


そこまで話すと、紅竜さんは余ってる駒をずらりと方陣のように並べた。


<今の話からすると、「死の大地」はこのように縦横、隙間なく敵が並んだ陣形であって、下手に突入すれば、多方向から攻撃されて危うい。そして一か所危うくなれば、それが次々に連鎖して全体が破綻しかねない、ということか>


 ほぉ。


「お見事です。大軍同士の戦いとなると、正面の相手だけ気にしてると危うい状態に陥ります。そして複数方向から攻撃されると、それへの対処は例え相手が格下でも手間取るものです。という訳で、集団同士の戦いは、個の戦いとは違います。そして「死の大地」全体、祟り神は呪いの集合であって、個にして集団と看做せる存在です。だから、視野も広く持たなくてはいけません」


ちょっと配置を変えて、相手の数を倍に増やして、それを少し離して置いてみた。


「こうして盤面全体が見えているなら、こちらが数的有利になるように移動しつつ撃破を繰り返して、数に勝るものの、点在している敵を屠ることもできるでしょう。ですが、もし、味方駒の視野が隣接一マスしかなかったら? 相手がどこにいるかわからないまま動いていたら、気付いたら敵に囲まれて進退窮まる、なんてことにもなるでしょう」


互いに駒を動かせるとなれば、視野の狭さはかなりの枷になる。そして、戦場がこれだけ広大なら、地平線までの索敵範囲というのは、敵の最前線以外見えてないのと同義となる。


<……いくら強い個でも、あと何回戦うかもわからなくては、力の配分にも困るだろう。これが戦術か>


「何とか生き抜こうと、敵を屠ろうと研鑽してきた知の結晶です。そして、味方の損失を極小に、敵の損失を極大に。鍛えた技を駆使するのが戦技であるなら、与えられた駒を効果的に動かすのが戦術、そしてそもそも駒をいくつ用意して、どこで戦うか、何を目的にするのか、といったレベルで考えるのが戦略です。戦略のミスを戦術で挽回するのは困難であり、それは戦術のミスを戦技で挽回するのと同様です」


同等の相手と戦うならどう工夫しても無傷はありえず、そして頭数が相手より多いなら、それを覆すのは至難と、紅竜さんも理解してくれていた。強い個たる老竜が数の劣勢を覆せるとしても、相手が同じ老竜を倍揃えてきたなら、それを覆すのは容易ではないだろう。


「紅竜様が戦術を理解されたから、日を改めて、今度は皆で戦略や航空戦の概念を学ぶとしましょう。紅竜様が地の種族の戦い方に疎いのと同様、我々も空の戦いには疎いのです」


リア姉の言葉に、紅竜さんも少しだけほっとした表情を見せた。自分達だけが疎い訳ではない、とわかって余裕が生まれた感じだ。


「空で集団戦を行うところまでは儂らも理解しているが、これほど広大な地域と数え切れぬ大軍との戦いを想定したことは無いからのぉ。戦略じゃったか。儂らも学ばせて貰うとしよう」


お爺ちゃんも神妙な面持ちで、妖精族の認識を明らかにしてくれた。


 んー、ちょい空気が重い。


「まぁ僕達は概要まで把握しておけば十分ですよ。続きは専門家にお任せして、素人は口を出さないのが吉です。進むべき方向性と考え方さえ把握すれば後は応用ですから」


そういって和ませようとしてみたけど、返ってきたのは呆れるような視線ばかりだった。紅竜さんなんて「うわ、こいつ、本気で言ってる」なんて驚きが思念波から伝わってくるほどだ。


 うーん。


素人が軍事に口を出すと碌な事にならないんだけどね。第二次世界大戦末期のヒトラーは師団クラスの軍の動きにまであれこれ口を出して、それで現場の手足が縛られて混乱することになって、敗北への進みに拍車がかかったし、対照的に赤軍のスターリンは、大方針までは意見をしても、実行は将軍達に一任してたからね。結果として初期には素人集団だった赤軍も、末期には戦略、戦術の両面でナチスドイツを圧倒するに至ったのだから。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないので助かります。


今回は雲取様と洗い出したリストに抜けがないかクロスチェックをした回でした。紅竜は戦術レベルの知識が疎かったけれど、竜族の歴史上、それが必要とされてきた事なんて無かったですからね。本文でも触れていた、共存を選ばなかった竜達の粛清も、数で潰しただけです。まぁ大軍に兵法なしとも言うように、大軍を集める=戦略であり、それが成立した時点で、数的不利な状況をひっくり返すのは、戦略を戦術で覆す話に外ならず、かなりの無理筋です。

これで、関係者が陸上戦の戦術までは概略を理解した訳ですが、それで理解できるのは第一次世界大戦前まで。航空兵器がばんばん飛び始めた第二次世界大戦から、精密誘導兵器乱舞な現代に至るまでの話についていけるか、というとまぁ大変です。


そんな訳で、次はロングヒルに居る主な関係者を集めた勉強会です。バグラチオン作戦を題材に「死の大地」の敵戦力(=呪い)殲滅シナリオをお話することになります。


……登山先の主達に、ちょっと注意をお願いする「だけ」の筈なんですけどね。なかなか、ハイ、ワカリマシタとはなりません。


次回の投稿は、六月五日(日)二十一時五分です。

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