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16-9.雲取様との穏やかな一時(前編)

前回のあらすじ:交流祭りについて、各勢力から要望が戻ってきましたが、いずれもざっくり言えば「期間延長して」でした。参加したい人が多いというのは良い傾向ですよね。ただ、雲取様曰く「地の種族に近くから観られる為にポーズを決めるような竜はいない」って事でした。いずれは竜族も参加をする工夫が必要そうです。(アキ視点)

交流祭りは、マコト文書に記載されている日本あちらの大規模イベントに関する様々な情報、ノウハウを提供することで、初っ端から単なる大規模イベントではなく、本質的に格の違いを見せつけ……じゃなく、質の高さ、安心、安全、満足度向上を目指すこととなった。


例えば、会場内には絵文字ピクトグラムの表示をして種族に関わらず理解しやすいよう配慮してみたり、入場チケットを兼ねた交流祭りのカタログを事前販売して、会場の見取り図や、イベントの開催時間帯、注意事項、トイレや医療施設の場所などを予め、把握しておいて貰うこととした。

会場の内外で守るべきルールや、当日楽しめる内容と、業者枠の契約交渉などの話もどこで行うのか説明している丁寧っぷりだ。会場内の動線もしっかり考えられていて、逆走が発生しないようにしてあったり、スタッフは全員が揃いの制服を着ていて、その姿も描かれているから、当日、困った時にもすぐ声を掛けることができることだろう。


入場チケットの印刷、術式付与は街エルフが紙幣級の品質で行うことで偽造を防止する念の入れようだ。転売も防止する為に、一枚毎にシリアルナンバーが付与され、どこの誰に発行したのか管理しているのだと言う。これはセキュリティ対策の一環でもあり、予定外の人員が紛れ込むのを防ぐ意図があるそうだ。


会場内に人々が密集する事による熱気や空気の悪化については、街エルフが魔導具を惜しみなく投入することで、これを防ぐこととなった。もちろん、宣伝を兼ねて、カタログには魔導具の外見や、お触り厳禁なことなど注意事項と共に、興味がある方への連絡方法の提示も行われている。


カタログ全体にしても、挿絵や図を多用し、多色刷りを惜しげもなく採用することで、祭りに相応しい華やかな印象で纏められる予定だ。財閥が把握している絵師達にも発注が行われ、噂を聞きつけた他の絵師達が自分達も参加したいと訴える騒ぎとなって、急遽、会場内のあちこちに絵を追加で展示することにした、なんて話も出たそうだ。イベントを盛り上げる為、隣国も含めた宿泊施設には、交流祭りの宣伝用ポスターも配布するなど、気分を盛り上げるのに手は抜かないそうだ。


ロングヒル内の宿は先々まで予約で埋め尽くされ、それだけでは足りない事から、各勢力の大使館の空き部屋も宿泊施設として開放することになりそう、とのことだ。下手をすると、そこらにテントを設営して泊まりかねない熱気が感じられた為、周辺諸国にも協力を仰ぎ、ロングヒルへの人の流れを周辺諸国の段階でコントロールする事となった。連邦、帝国についてもそれぞれの領内の最寄りの都市で一旦、宿泊して、ロングヒルにいる人々と交代する形で入国することで、ロングヒル領内の人数を保つ、という訳である。


開催の地元であるロングヒルの民については格安で、それ以外については国家に類する組織が購入する事が前提なので、来年の開催ができる程度の利益率を確保する程度の金額でチケットやカタログは販売されることとなった。ケイティさんに聞いたところ、投入している技術が高度なこともあって、ぎりぎり赤字にならないレベルとのこと。利益は業者との契約や魔導具販売などで稼いでいくそうだ。慈善事業ではないのだから、良い品には相応しい対価を払うべき、というのが街エルフの流儀と強弁していた。


まぁ、相手の国の事業を潰して先々、不満が溜まるようなヘマはしないだろうし、ここは財閥の手腕に期待しよう。







若い雄竜達は意気揚々とロングヒルの地に帰ってきた。予め想定していた範疇での問答が殆どだったそうで、落ち着いて自信に満ちた対応を行うことができ、縄張りの主からも、多種族が集って山に登ることの許可を得られたそうだ。若い世代の中でも見所があるなどと褒められたりもしたらしい。


大成功した喜びを話したくて仕方なかったようで、登山計画に関わった人々を前に、どんな話し合いが行われたのか、それはもう丁寧に話してくれた。ザッカリーさんが話のループを止めてくれなければ、三柱の若者が互いに話題をパスし合って、いつまでも話し続ける勢いだった。


スタートラインに立っただけ、勝って兜の緒を締めよ、と言いたいところだけど、彼らもそれくらい理解しているのが思念波から感じ取れたので、口にはしなかった。


そして、三柱とも背負い鞄から預かってきた品だと、色の違う綺麗な鱗を差し出した。所縁ゆかりの品として使えるモノで、縄張りの主達はいずれも、これを僕に渡して、心話をしたいと言付けをしてきた。


何か言ってなかったかと聞いたら、概ね、どの主からも、今後の付き合いが長くなるだろうから、互いにもっと深く知るべき、という趣旨のことを言われたそうだ。雲取様達が地方を回った際に間接的には話を聞いてはいるが、やはり直接話をしたい、と。


雄竜達の思念波からすると、どの主も思慮深い成竜といった感じだったようだ。ただ、彼らも薄々気付いていたように、表面的には温和で理解ある態度を示していたものの、心の奥底で何を考えているのか見通せない深みのようなモノがあるようだ。雄竜達に理解ある対応をしたのも、その話を伝えられる僕に対しての第一印象を良くしておこう、という配慮がありそう。


年代的には黒姫様や白岩様あたりに並ぶ方々となれば、腹芸の一つや二つは軽くこなすに違いない。雲取様のように、地の種族を庇護していたりはしないようだから、こちらの流儀への理解はさほどではないとは思うけど、まぁ高く見積もっておくのが無難だろう。





各勢力に送った、各地の若竜と竜神子の交流前倒しの件は、交流祭りの書簡からさほど遅れず返事が届いた。いずれも前倒しには好意的であり、特にユリウス様は連合と近い地域から早めに実施して欲しい、と帝国内での交流に関する前倒しの優先順位リストまで付けてきてくれた。ケイティさん達がピンを刺してくれた弧状列島立体図と照らし合わせてみると、リスト上位はいずれも秋の成人の儀でドンパチやりそうな地域ばかりであり、天空竜が降り立つことの意義をユリウス様も高く評価している証左と言えた。


全三十柱の若竜について、既に所縁ゆかりの品は入手してあるので、帝国、連合、連邦、共和国くらいの順番で順次、心話を行うことにした。登山を行う地の成竜三柱も登山前には心話をした方がいいだろうから、そちらも予定に組み込むことに。


心話を使えば一柱ニ十分もあれば十分だけど、彼らが住む地域の立体地図を僕が頭に入れておかないと、秋に向けた事前説明としては不十分なので、そちらの完成を待ってから、という流れだ。財閥の伝手を頼って、並行で制作してくれているそうだから、登山の地も含めて職人の皆さんの頑張りを待つとしよう。





そんな感じで、何気に竜族絡みの話もあれこれあったりしたけど、やっと、予定していた雲取様との交流の日を迎えることができた。今日も第三演習場では依代の君が紅竜さんと一緒に色々と活動しているそうで、衝突しないようにと、僕と雲取様は第二演習場の方で会うことになった。こちらは心話も行うからね。心話用魔方陣がある第二演習場でないと困るんだ。


 ふんふんふーん


ちょっと鼻歌を歌ったりしながら、シャンタールさんの用意してくれた夏向けのワンピを着て、雲取様の鱗を用いた装身具ブローチを付けて、鏡に姿を映して問題ないか確認してみる。


「ご機嫌じゃのぉ」


お爺ちゃんに指摘されるまでもなく、僕も浮かれている気分でいることは理解していた。


「久しぶりに雲取様とのんびりお話できるからね。一応、交流祭り絡みでちょっとした相談はあるけど、あの感じだと、あんまり乗り気じゃなさそうだから、そっちの話はすぐ終わると思う」


「冬に代表達と立ち会う際には、雌竜の皆様は幻影のポーズを決めるのに拘ってましたが」


ケイティさんの言う通り、確かにあの時は見える角度だとか動きだとか、あれこれ決めるのに手間取った。


「んー、それは立ち合いを行う竜族としての見栄えとか、印象とかを気にしてたからですよ。今回の場合、一般層向けに姿を見せる趣旨で、自身が庇護する民という訳でもないから、気合も入らないでしょう」


「なら、幻影の記録も嫌がるじゃろうか?」


「趣旨は理解してくれてるから協力はしてくれると思うよ? それに身近な距離で天空竜を観ること自体が稀な話だから、ポーズとかも無難な線でさらりと纏める感じに落ち着くかな。身を起こした姿で、羽を広げて、尻尾を伸ばした状態ならぐるっと回ってみるだけでも、大きさや角度を変えた時の鱗の輝きとか見応えは十分だよ」


「他の種族と同様、あまり派手な演出はする必要はないでしょう。至近距離で天空竜の姿を観て生き残っただけで、歴史書に記載される出来事なのですから」


「にゃー」


お、トラ吉さんがそろそろ行こうぜ、と声を掛けてきた。


「ん、出発だね」


馬車に乗り込むと、膝の上には当然とばかりにトラ吉さんが座ってきた。前にはケイティさん、隣にはお爺ちゃん。御者台にはウォルコットさんとジョージさん、という定番の組み合わせだ。


「それでは参りますぞ」


ウォルコットさんが声を掛けると、いつも通り振動を感じさせないスムーズさで馬車が走り始める。


夏本番といった感じの強い日差しを受けても、しっかりと手入れされた庭の草木は元気そうだ。遠方の水田はもうちょっと雨が欲しいって感じかな。麦わら帽子を被った農家の方々も暑さで少しお疲れな感じに見えた。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


大規模イベントの方は、日本こちらのノウハウがガッツリあるので、開催は問題なく行われる事にはなりそうですが、いきなり洗練された姿を体験することになる人々からすれば、それ自体がインパクトのある体験となるでしょう。

勿論、この流れは大勢が絡んでいて、ロングヒルに大勢の神官を投入しているマコト文書の関係者達も把握することになるので、彼らもここぞとばかりに、マコト文書の教えを広めようとするに違いありません。ロングヒル市街での説法は禁じられてはいませんから。


まぁ、そんな事より、アキは雲取様と久しぶりにのんびりお話できることが楽しみのようです。何せ、ロングヒルに来てからあまり日を置かずに雲取様と縁ができて、それからは結構な頻度で会ってましたからね。


次回の投稿は、五月十八日(水)二十一時五分です。

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