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16-8.弧状列島交流祭りとは(後編)

前回のあらすじ:総武演から独立させることになった交流祭りについて、雲取様を呼んで、竜族としての見解を確認しました。やっぱり、興味なさげでしたね。……あと、雲取様が用は済んだとばかりにさっさと消えたことを不満に思ったら、皆さんから生暖かい視線を投げ掛けられました。エリーは嫉妬と言ってたけど、軽い不満、程度のことだと思うんですよね。嫉妬というともっとドロドロした感じがしません?(アキ視点)

さて、それじゃ、残ったメンバーで、諸勢力からの要望を先ずは再確認していこう。


ちなみに親書の内容だけど、ロングヒルにいるメンバーが詳細を調整できるよう、各々に本国から指示は届いているとのことだ。まぁ、そりゃそうだよね。内容も知らずに、頭ごなしに親書が届いて、知らない内容を元に詳細を詰めろ、なんて無理だもん。


「それではシンプルなところで、鬼族連邦から確認していきましょうか。交流祭りの趣旨には賛成、というかこれについてはどの勢力も賛成してくれているので以降省略しますね。それで、鬼族は身体が大きい関係で、一度に参加できる人数を制限せざるを得ない点と、多くの種族との交流を幅広い層に体験させたい趣旨から、交流祭りの開催期間を長く設定して欲しい、とのことでした」


セイケンに補足で何かないか聞いてみた。


「鬼族は身体が大きいことから膂力を単純に体験できる綱引きを行うつもりだ。それと筋肉量の違いだとは思うが、他種族に比べて薄着を好むこと、寒さよりも暑さへの対応に腐心している文化的な面を服飾や家屋の作りから知って貰おうと思っている」


そう言って、大型幻影にラフスケッチを出してくれたけど、演習場内では本当に綱一本と細長い運動エリアを確保するだけとして、演習場外では、鬼族の家屋を一部再現したセットを用意して、人数を絞って、中を歩いたり、家具や食器などを実際に触るなどする案を示してくれた。


「確かに、鬼族の皆さんに合わせた屋敷に行くと、自分が幼子に戻ったような不思議な感覚になりますからね。きっと一般層へのインパクトも強いでしょう。日常的な面が示せているのも親近感を示せて良いと思います」


「そう言って貰えて良かった。前回の総武演では武を前面に押し出したが、そのせいで武人のイメージが強くなり過ぎた。身体は大きいが、暮らしの本質に違いはないことを感じて貰えれば幸いだ」


セイケンも、鬼族の武の鮮烈な印象だけが独り歩きすることの危険性は理解してくれているようで何よりだ。


他の種族の代表の皆さんもちょっとしたコメントを話していたけれど概ね好評価だ。


「次は、共和国にしましょう。成人した街エルフは人形遣いとして傍らに魔導人形を伴うのが常であることから、どうしても一度に参加できる人数が限られてしまう、なのでやはり、交流祭りの開催期間を長くして欲しい、と」


こちらはジョウ大使だね。


「補足すると、街エルフにとって、魔導人形達は同じチームを組む仲間であり、そんな彼らにも他種族との交流を体験させたい思いがある。つまり、街エルフの参加人数を増やしたい趣旨はあるが、街エルフの十倍以上いる魔導人形達の参加人数も増やしたい、ということだ。それと街エルフを知って貰う為の催しとしては、前回も話した通り、魔導人形達に給仕させる喫茶店を出そうと考えている」


そう言って、大型幻影に喫茶店のイメージ写真を出してくれたけど、明らかにこれ、どこか本物の喫茶店の店内そのまんまだ。喫茶店の外のイメージは、街エルフ達の好む植物に覆われた建築様式だね。


「ジョウさん、これ、どこかから移築でもしてくるんですか?」


「運べる茶室をイメージして作られた組み立て式の家屋セットが倉庫に眠ってたから、それを使うことにしたんだ」


 あー、秀吉の黄金の茶室とか、そんな感じね。


「それにしては室内、広くないです?」


「魔導人形達を伴って入店して、給仕役の女中達もいれば、これくらいないと入れないだろう?」


 つまり、十人くらいは入れる店内も、街エルフからすれば最小セットだと。


 本当かとケイティさんに視線を送ると、苦笑しながらも頷いてくれた。


「街エルフも外に出る時には、必ず魔導人形を二人は伴い、傍らには空間鞄も置いているので、どうしても場所を取るのです。ただ、このセットでは、鬼族の方々が利用するには手狭でしょう」


「なら、鬼族の皆さん用にはテラス席を別途用意するか」


「そうですね――すみません、細かい話はまた後に」


ケイティさんの提案にジョウさんも頷いてくれた。


他の皆さんからもあれこれ質問は飛んだけれど、やはり陽光と風を制御する魔導具で仕切って、会場内に静かで落ち着いた空間を演出する、というのは、一般層へのインパクトは十分なものだろう、とのことだった。





小休憩を挟んで、さて次は小鬼族からにしよう。


「小鬼帝国、小鬼族の皆さんですが、三大勢力でも最大の人口を擁することもあり、各勢力から人数を絞って参加させても、全体としては結構な人数となるので、交流祭りの開催期間はやはり長くして欲しい、とのことです」


続きはガイウスさんが引き継いで話してくれた。


「小鬼族が小さいと言っても、立って占める広さは人族と大差がなく、会場に入れる人数は制限を受けることになります。座席も同様です。また、会場内に小鬼族ばかりでは多種族の集う趣旨に合わなくなるので、その意味でも一度に入場できる人数に占める小鬼族の比率はあまり増やせないでしょう。その為、我々も交流祭りの開催期間は長くして頂きたいと考えています。催しについては、演習場内に傾斜地を模した施設を用意し、そこに草木を植えて緑化していく作業を体験して貰い、小鬼族の身軽さを理解して貰うつもりです」


やはり、大型幻影にイメージ図を出してくれたけど、ロッククライミングやボルダリングに近いアトラクションといった雰囲気だね。安全性を考慮して伸縮性のあるロープを装備することで万一の転落に備えておき、背負い籠に入れた苗ポットを模した品を指定した位置に植えていく、というゲーム感覚でプレイできる催しのようだ。


「体の大きさが違う人族や鬼族向けの調整は必要と思いますけど、これはなかなか面白そうですね。内容が「死の大地」の浄化に関する作業のプレゼンになってるのも良いところでしょう」


侵入とか、戦場における小鬼族のイメージを直接感じさせない配慮も良い点だ。


セイケンからは、鬼族は小鬼族の身軽さを直接理解している者が多いので、鬼族が体験することは前提とせずに施設を作った方が良い、と提案があった。鬼族の背丈に合わせると設備が大きく、頑丈に作らなくてはいけなくなるから、この申し出はありがたい話だね。


さて、残りは妖精族と人族。やっぱり簡単な方から片付けよう。


「それじゃ、次は妖精の国で、こちらは妖精さん達とお話できる食事処を提供する形として、給仕の方はロングヒルの市民に協力して貰う形ですね。軽食を提供する程度として、あくまでも妖精と触れ合うことを前面に押し出す形とするのと、テーブル数をあまり増やさず、一度に召喚する妖精の人数は絞る。その代わり、三十分程度で入れ替えを行う形にして、回数を多く回して交流できる人数を稼ぐとのことです。他と違って一度に召喚する人数を抑える点を重視してる感じですね」


こちらはお爺ちゃんがフォローしてくれる。


「儂らの方も、色々と手を広げ過ぎて、自分達の国の方に手が取られている状況なんじゃよ。溜まっている仕事も誰かが片付けねば終わらんからのぉ。ただ、こちらの幅広い層と触れ合うことも大切じゃと思っておる。じゃから、一度に召喚する人数は絞るが、人員は適宜入れ替えることで、元気で可愛い妖精さんのアピールはばっちり行うつもりじゃ」


お道化たポーズを取って、殊更可愛いを強調したことで全体に笑いが広がった。


この場にいる面々は、妖精さん達の実体をよーく知っている。それでも御伽噺に語られるだけだった妖精達が実際に目の前に現れ、触れ合い、話もできるとなれば、その衝撃は計り知れないことも理解していた。普段通りに振る舞うなら、空を自在に飛び、呼吸するように魔術も使う訳で、妖精達の凄さを伝えるのに、派手な演出など不要ということだろう。


森エルフ、ドワーフは規模が小さいので別枠とすると、残りは人類連合だ。ある意味、ここが一番面倒臭いんだよなぁ……。ボヤいても仕方ないので話を進めよう。


「さて、大きな勢力として最後は人類連合ですね。こちらは帝国ほどではありませんが人口も多く、多くの国に分かれており、それぞれにお国柄もあり、気風も違うという特徴があります。その為、各国から少しずつ参加するとしても、ある程度、開催期間を伸ばさないと一巡しないそうで、交流祭りの期間延長をやはり求めています」


追加の話はエリーから。


「連合については、ロングヒルは主催として、皆が集う地となったロングヒルについて紹介するエリアを確保します。そして連合としてはそれとは別のエリアを用意して、そこを連合の所属国が入れ替わりで催しを行う方針で考えています。まだ内容は検討が始まったばかりですが、連合の多様さを示していく流れとなるでしょう」


なるほど。


「催しが時期によって異なる、というのは、新鮮さ、多様さをアピールできて良さそうですね。レベルを揃える配慮さえできれば、他の日が良かった、といった不評も減らせるから、調整の手間がかかるのと、入替作業がかなり慌ただしくなりそうだけど、そこはまぁ頑張るって事で」


ファイトっと応援する気持ちを示したけど、ロングヒル王家テーブルの方々は、ニコラス大統領がそこは調整してくるから問題ない、と遠い眼差しで答えてくれた。まぁ、確かにロングヒル王家が出張っても仕方ないところだった。


「それと、共和国、連邦、帝国と接している地としてのロングヒルをアピールできる点も良いと思います。訪れた多くの種族の方々も、ロングヒルが色々な意味で特別な地であることを理解して貰えるでしょう」


「そこは、我が国としても、他に容易に替えの効かない地である点はアピールしたいから。それに弧状列島全体の地図と、ロングヒルの領土を示すだけでも、きっと話題になるわ」


エリーの言う通り、一般に出回っている地図は概略的なモノが多くて、街エルフが出している弧状列島の地図とかは、それらとはあまりにレベルが違う。会場内で目視することしかできなくても、市民層への衝撃はかなりのモノになるだろう。





お、ケイティさんが手を挙げた。


「まだ触れてない大きな勢力として、天空竜の実物大幻影の展示と解説があります。こちらは演習場内で催すことになり、あまり長々と観続けることもないので、比較的、短時間で会場内の入れ替えを行う形となります。それと、竜族の方々が実演するのであればアキ様がいた方が良いと考えていましたが、幻影であれば、開催期間、拘束時間の長さもあるので、説明役は本職に任せた方が良いでしょう。アキ様は監修の対応をお願いします」


 ふむ。


「確かに、僕が解説しようにも、時間帯も一部しか対応できないから、その方が良さそうですね。誰の幻影を出すか、ポーズはどうするか、何を解説するか、決めることは沢山ありますからね」


竜族の意向も聞いてみないとわからないし、精巧な幻影を用意するのも結構手間がかかる。そう考えると段取り良く進めていく必要はありそうだ。


「それと、先ほどまでの話とは別に、秋に集う代表の方々や、共和国の長老といった皆様から、昨年、総武演で行った演目を観たい、といった要望が出ています。昨年の反省を踏まえて、傷付かないよう、模擬戦としての体裁を強めた形での実施となるでしょう」


「魔導甲冑、鬼族の武、街エルフの集団戦ですね。対戦相手は昨年と同じ、小鬼人形の仮想敵部隊アグレッサーチームで良いんでしたっけ?」


「はい。模擬戦ができるだけの小鬼族の兵士を招くのは国家間のパワーバランス的に問題があるのと、事故が起きた場合の心象悪化を避ける意味で、小鬼族の方々の参加はなしとのことです」


小鬼人形の皆さんに匹敵するとなると手練れってことになるからね。いくらユリウス様が大丈夫と言っても、はいそうですか、と納得するのは難しいところだろう。


その後は、期間延長を支える会場の設営、運用といった点や、多くの人々を招くことに伴うセキュリティ面での懸念事項などについても話し合いが行われて、大まかな方針はある程度決めることができた。


こうして、総武演は国民を招いて半日程度のイベントで終わるのに対して、交流祭りの方は準備期間を含めると一ヶ月程度は開催し続ける巨大イベントと化すことが確定したのだった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないので助かります。


各勢力の要望は、細かい部分は違えども、要約すれば「大勢参加させたいから、期間延長してくれ」でした。規模拡大は無茶なので、まぁ順当な要望だったと言えるでしょう。各代表が昨年の公開演技エキシビジョンを観たいと要望を出してきたのも、順当な範囲だったのではないでしょうか。

ただ、これまでに例のない一か月という長期間開催イベントとなり、収穫時期や、その後の小鬼族による成人の儀という名の限定戦争にも期間が被るだけに、影響は結構大きめです。


次回の投稿は、五月十五日(日)二十一時五分です。


<おまけ>

活動記録を更新しました。以下の内容を記載してます。

・連投の祭り状態からやっと日常へ

・活動量計を新調しました

・歯ブラシが折れました

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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