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16-7.弧状列島交流祭りとは(中編)

前回のあらすじ:総武演から分離した交流祭りについてロングヒルにいる各種族の皆さんと相談して叩き台を作りました。(アキ視点)

登山計画の件だけど、雄竜達も交渉を行う為に小型召喚体となって飛んでいったそうだ。程よく気負いも無くなっていい面構えになってたから、それなりの結果は勝ち取ってくると思う。もし、想定外のミスがあっても、きっと後から振り返れば笑い話の一つになる程度だ。


研究組の神力の抑制や漏洩防止の研究は、一応、神力の出力を計測できるようになり、毎日の変化を把握できるようにはなったそうだけど、まだあれこれ議論を重ねているところで、僕が混ざれる段階には無いとのこと。


依代の君は、律儀にその日の出来事を日記に記してくれて、僕もそれに返事を書くルーティンが成立していた。凄い経験をしたなら、それを誰かに話したい、情報を共有したい、というのは誰しも思うところであり、緊急対応の為とは言え、地球(あちら)には存在しない竜や妖精が常に傍にいてくれるというのは、嬉しくて堪らないようだ。


ケイティさん経由で伝わってきた話だと、ハイな意識でごり押しできる現身なのに比べて、竜も妖精も実体がある分、いくら精神的影響が強いと言っても、依代の君の全力に付き合い続けるのは骨が折れる状況だったらしい。それとなく落ち着くように、ペース配分を変えるように、僕からも伝えて欲しい、と要望が届いたくらいだった。


あまり露骨に諭すと、お姉さん風を吹かせやがって、と反発されるのは目に見えているので、彼の感覚質クオリアを育てる行動に絡めつつ、自身の内にある感覚に意識を向けさせることで、傍らにいるであろう竜や妖精の負担を軽減するよう促してみた。後でお礼を言われたので目に見える効果があったようで良かった。


……そんな感じに過ごしながら、関係勢力からの返事を待っていると、三日後、恐らくは最優先で対応したであろう分量の親書がどさどさと舞い戻ってきた。どの封書も分厚くて、追認する、といったペラペラな感じじゃない。


ロングヒル王家と竜神の巫女の連名だったこともあって、エリーや他の王家の皆さんと一緒に親書を確認したんだけど、内容はある意味シンプルで、そして即決できるものではなかった。竜族にも話を持っていく件も含めて、どう対応していくか、関係者を集めて方針を策定することになった。





それで、前回と同様、鬼族大使館の庭先に皆が集まり、今回は僕も最初から参加することになった。実のところ、大勢としてはあらかたの勢力の求めは同じだったからね。そう長く揉める話じゃない。あと、前回との違いとしては、小型召喚で雲取様も参加しているところだ。


「雲取様、お久しぶりです。積もる話もありますが、そちらはまた別の機会に。今日の話は、立会人オブザーバーとして、後でご意見を伺わせてください」


<昨年行った演習のうち、人目をひくための行為(パフォーマンス)部分だけ別日程の催しとするのだったな。いいだろう>


いつもと違って、こっそり、雲取様から見た意見を聞かせて、と言われた意味をちゃんと理解してくれていてありがたい。


「では、エリー、叩き台の案について概要説明を宜しく」


「それでは――」


スタッフさん達が、大型幻影に第三演習場の図面と、そこに交流祭りの会場を設営した場合のイメージ図を表示させた。動きがあるような催し、広さを必要とする催しは演習場内で行い、食事処などは演習場の外に確保していくことで、住み分けを行う方針だ。


エリーが先日話し合って決めた案をざっと説明してくれたけど、昨年のように巨大な光の花を描くようなこともないし、大勢の魔導人形達の集団戦や、鬼族の武技を魅せるような事もなく、市民が体験できるという視点で演目が考えられていることもあって、あまり雲取様の興味を惹くことは無い感じだった。


<今の話では、アキの提案で、竜族を通常召喚することで圧を無くし、負担の無い状態で人々に姿を見せて理解を深めて貰うと言う話だったか>


「はい。そもそも圧のせいで落ち着いて観ることもできず、近寄るのも難しくては理解も進みにくいと考えました。小型召喚体にしないのは、言葉を交わすことが趣旨ではない為です」


あと、小さくて圧がないと、軽く見る馬鹿も出てくるかもしれないから、それは避けたい。何せ、小型召喚体の背後には、本体の天空竜がいるのだから。果てしない馬鹿というのはどの種族にだっているだろうし、事前に選別してもそれで完璧とできるかというと、無いとは言い切れないと思うんだ。特に参加人数が多くなる祭りともなれば、ね。


<ただ、我らが羽ばたくだけでも地の種族は飛ばされてしまう。手足にしても軽く触れるだけでも危ういだろう。圧がないからといって危険がない訳ではないのだ。姿を観るだけであれば、休戦の際に用いた幻影で我らの姿を示した方が良いな。それに、殆ど動くこともなく、普段行わないような低い場所に浮いて姿を見せるような真似を日に何回も、それを何日も行うことに興味は持つ竜はいないだろう>


 ふむ、ある意味、予想通り。


「以前の風洞実験でも、同じ場所に浮遊するのはストレスが半端なさそうでしたね。それでは竜族の皆さんには、本物と見紛うレベルの幻影創りに協力して貰うことで、他種族との交流としましょう。ちなみに、今回はその程度としても、次回以降、いずれは竜族の方々にも興味を持って貰える内容にしていきたいところですけど、雲取様はこんなのがいい、とか意見はありますか?」


<これは、白岩殿も話していたようだが、竜族にとっては、この距離感はかなり近く落ち着かないモノだ。それに人数の多さも、慣れが必要だろう。集団で生きる皆とは違うのだ>


一応、庭の広さを活かして、小型召喚一体分程度の距離は離しているんだけど、それでもまだ近いか。


「言われてみれば確かに。それに竜族の皆さんは集まるだけでとても広い場所が必要になるから、根本的に何か別の方策を考えないと、三万柱の皆さんに楽しんで貰うのは難しそうですね」


<そもそも、大勢が集う、ということが殆ど無いことなのだ。皆に混ざって、というのであれば、遠隔操作する依代や、異種族召喚によって、地の種族の姿を模すしかないだろう>


まだ、どちらも実現できない夢の技術。早く手が届いて欲しいものだ。


「この夏に行う登山も、一グループに竜族は一柱だけの参加ですからね。ご意見ありがとうございました。今後の参考にさせていただきます。それと、秋の総武演や交流祭りの期間について、第二演習場での普段通りの交流を希望されますか?」


<手が足りぬのでなければ、普段通りとして欲しい。我らにとっては冬の積雪は大した話ではないが、皆にはそうではないだろう?>


「そうですね。では、第二演習場の方はセキュリティとの兼ね合いになりますが、通常運行の方向で。他には何かありますか?」


<各勢力の意向はあまり気にならんが、依代の君の要望はできれば叶えてやりたいモノだ>


雲取様も何回か、彼の面倒をみていたせいか、情が移ってる感じだ。彼が書いている絵日記でも、リアル怪獣と言える竜族との交流は大興奮な出来事のようで、好意マシマシで接していたりする。そして、恐れることなく、親しみを前面に押し出して寄ってくる小さな生き物となれば、やはり庇護欲を刺激されるらしい。彼の面倒を見たどの竜も、終わる頃にはすっかり保護者な意識になっていたそうだ。


「大勢が集う祭りならぜひ参加したい、でしたね。幸い、交流祭りの開催までにはまだ日があるので、上手く行けば彼も、自身の力を制することができるようになり、参加も現実的な話になってくると思います。他の勢力から返ってきた親書でも、細く長く祭りを開催して、参加できる人数を増やして欲しい、とあったので、彼が参加するタイミングを後ろに回せば、何とかなるでしょう」


<うむ。では、そのように話しておこう>


それから、念の為、ざっと他の勢力から届いた親書の内容の概要を説明したけど、やはり雲取様、というか竜族が興味を示すような内容では無かったので、立会人オブザーバーとしての役目は終わりとなった。


雲取様は皆に別れを告げると小型召喚を解除して消えていった。ちなみに、なんでそんな急ぎな感じだったかというと、第二演習場に依代の君がいて、スポット参加をして貰っていたからだったりする。用事は無いのだから、留まる必要はないんだけど、こちらより、依代の君の方を優先してる、とも取れる……なんて思考が心を過って、なんか、胸の奥に燻るモノがあった。


「にゃー」


トラ吉さんが体を摺り寄せて、落ち着けって言ってきた。ふと見ると、エリーが弄り甲斐のある玩具を見つけた、みたいな顔をして僕に視線を向けている。


「……何か?」


「アキも嫉妬とかするのか、ってちょっと驚いただけよ。雲取様もモテモテで大変ね」


 むー。


「ここ一ヶ月くらい会えなくて、雲取様成分が足りないだけ。ちゃんとお話できる予定は組んでるから問題ないよ」


「はいはい、せいぜい重いと思われない程度に親睦を深めて頂戴」


「自分の方を見て!って迫る雌竜が七柱もいるんだから、無理は言わないって」


 ……なんて言っては見たものの、モヤっとした感情があるのも確か。


依代の君と雲取様が仲良くしている様子に、不満を抱いてないと自分を誤魔化すのもストレスになるし、そこは面倒臭く思われない程度に、ちょっとブランクを埋めていこう。心話をするのがいいかな。あー、でも、竜族からすれば一か月なんてちょっとした時間に過ぎないし、寂しかったと伝え過ぎるのも微妙かも。


「アキ、今は交流祭りの話よ」


「あ、ごめんなさい」


思った以上にショックだったようで、思考がぐるぐると回って、周りへの意識がすっかり抜け落ちてしまっていた。エリーが指摘してくれた通り、皆さん、時間の無い中、集まっていてくれているのだから、今はそちらに集中だ。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないので助かります。


交流祭りの案を各勢力に送った結果、各勢力の代表からずしりと重みのある親書が戻ってきました。それでいいぞ、と諸手で賛成とはどこもなりませんでしたが、まぁ、それぞれに思惑がありますからね。


要としての役に適任と言われている立場からすると、誰か、或いはどこかの種族に思い入れが強くなるのは好ましいことではありませんが、皆は、アキの見せた可愛い嫉妬を、好ましい変化と捉えています。それだけアキの心の中に雲取様への思いがある、ということですから。まぁ、暫くは揶揄われるネタとなるでしょう。


次回の投稿は、五月十一日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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