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2-34.新生活八日目①

前話のあらすじ:魔術の教師探しや、神への祈りなどのお話でした。

今朝、取り出された服はワインレッドの気品溢れる色遣いが目を引くワンピース。レース生地たっぷりなペチコートと合わせると、色のコントラストがとっても素敵だ。胸元は白生地のフリルとギャザーで装飾されたレースアップがアクセントになっている。ふんわりパフ袖と合わせてシンプルだけどゴージャスな感じだ。

ここまでなら、まぁ、豪華だけどまぁ、普通の範疇のワンピースだと思う。


「ケイティさん、このケープは……」


 同じワインレッドの生地と白いレースを縁取りやフード部分にもたっぷりつかわれているフード付きのケープ!


「そろそろ、ミア様が外で着ることのなかった服にも挑戦しておくべきだ、との意見がでまして、選択してみました。なんでも赤い頭巾を愛用していた森娘がコンセプトの服装だとのことですね」


「……僕はミア姉と同じ外見なので、合わないと思うのですが」


 無駄ではあるけど、抵抗してみる。


「そんなことはありません。ほら、鏡を見てみてください。想像以上にお似合いですよ」


 ケイティさんに肩を掴まれて、鏡台に向かい合ってみる。

 そこに映る銀髪の少女は、きょとんとした表情といい、緊張感に欠ける耳といい、確かに、確かに違和感どこ行った、という感じだ。


 顔の作りは同じはずなのに、ミア姉のお姉さんな空気はどこに行ってしまったんだろう?


 むむむ。原作を知ってるだけにコスプレ感が半端ない。


「ケープは外出の時に着けてください。今日は日差しが強いので丁度良いです」


「……わかりました」


 せっかく用意してくれているのだし、我儘を言うつもりはないけど、流石にロリータ系が出てきたら拒否しよう。うん、それはいくら僕が中身で、大人っぽさがなくなっていると言っても無理がある。


「それではアキ様、今回は爪のケアをしてみましょう」


「爪?」


 確かにコート剤もそろそろ塗り直したりするんだろうなぁ、とは思ってたけど。


「まず、現在ついているコート剤を除去して、こちらの爪やすりで伸びた爪の長さを整えてください」


 そういって渡された小瓶と、表面がでこぼこしている靴ベラみたいな何か。


「これが爪やすり?」


「熱帯地方に住む巨大魚の鱗で、爪やすりにちょうどいいんですよ」


 言われてみれば、確かに鱗っぽいけど、かなり大きい。


 最初の指だけはケイティさんが手本ということで、除去剤を塗ってコートを剥がして、それから鱗のやすりで綺麗に爪を整えてくれた。


「ありがとうございます」


「どういたしまして。では、残りをやってみてください」


 除去剤を塗って剥がして、やすりをかけてと繰り返していたら結構、時間がかかってしまった。


「コート剤は数分あれば十分乾きますので、塗ってみてください」


 やはり最初の指はケイティさんが手本ということで塗ってくれた。厚塗りはしなくていいっぽい。透明なこともあって、そこまで注意して塗らなくて問題なさそうで良かった。


 手の指を塗り終えたら、次に足の指も塗ってと。


「はい、よくできました」


 ケイティさんのお墨付きを得て、やっとケア終了、女の子も大変だ。





「遅かったが、何かあったのかい?」


 食堂に行くと皆が紅茶を飲みながら、待っていてくれた。


「ちょっと爪の手入れをしていたんですが、思ったより手間取ってしまいました」


「爪? そんなの爪切りを使えばすぐ終わるだろう?」


 父さんが、男らしい感覚で発言する。


「そうそう、深爪だけ気をつければ、すぐだよ」


 リア姉も我が意を得たりと同意する。


「二人とも。リアはもう少し気を使いなさい」


 母さんがこめかみに手を当てて、窘める。


「コート剤を除去して、爪を削って整えて、その後、コート剤を塗り直したんだけど、リア姉はしないの?」


 姉妹なのだから、体質も似てると思うんだけど。爪が割れやすいとか、傷つきやすいとかあるから、コート剤をつけているんじゃないんだろうか。


「実験で、微量な有機物を抽出したりする時に邪魔になるから、そういうのはしないんだよ」


「なるほど」


 僕が納得しかけたところに、母さんが割って入った。


「そういいながら、リアは実験がない時も面倒臭がってやらないでしょう。貴女も少しは――」


 母さんが溜息をつきながら、これ幸いと話を始める。


「母さん、その話はまた今度。せっかく揃ったんだから、早く食べよう。お腹が空いてたんだ」


 リア姉がほらほら、と僕のほうを見て応援を求めるので、頷いて同意する。


「では、話は一旦終わりにして食事にしよう」


 父さんも、僕達の連携に微笑ましいものを見た、と笑いながら、母さんの話を制止する。よくあることなのか、母さんもそれ以上、追撃することはなかった。


 今朝の朝食は、一夜干しの魚に大根おろしが添えてあり、トマトの赤、豆腐の白、バジルの緑が生えるサラダ、ご飯と味噌汁という和風テイストなメニューだ。魚は骨が予め取ってあって、しかも一口大に切り揃えてあり、大根おろしの白さと、ちょっと垂らした醤油の赤さもあって、ちょっとお洒落な感じだ。サラダのほうは、塩糀とオリーブオイルベースの調味料がかけてあって、和風な感じで美味しく食べられた。一夜干しの魚とご飯、それに味噌汁がやっぱり合う。


ほうじ茶を飲んで、のんびりする。こういう雰囲気もいいなぁ。


「さて、アキ。魔力感知の先生だが、候補が見つかった」


「それは良かったです」


 前提条件が厳しかっただけあって、まさか見つかるなんて、幸先がいい。


「だが、我が国に招聘することはできない人物なので、こちらから学びに行く必要がある。つまり、他国にある大使館に行き、そこで学ぶということだ。それでもいいか?」


 それがとても大変なことというような表情をしている。街エルフは引き篭もり体質だと言うから、そのせいかな? 隣に座る母さんも、心配そうな顔をしている。


「もちろんです。よろしくお願いします」


「やけにあっさり承諾したが、不安はないのか?」


 考えなしでないか注意深く見極めるように。うーん、なんでそこまで慎重なのか。


「そこは皆さんを信頼しているので。それに僕は、地球あちらからこちらに自分の意思で来たんです。多少の移動で躊躇することはありません」


「そうか。……そうだったな」


 事実を再確認するように、父さんは告げた。


「他国ということもあり、例外である大使館領以外での活動は許可できない。窮屈な思いをすることになると思うが、そこは覚悟しておくように」


「はい。ところで、その先生ですけど、身体を傷つけたりするような訓練とか、技法とかは選択しない方と考えていいでしょうか?」


 この身体はミア姉から預かっているのだから、怪我とかはしないように注意しないと。


「それはない。というか、こちらではそんな危険で意味のないことはしない。……あちらではそんな無謀なことをするのかい?」


 父さんは目を丸くして驚いている。よほど普通は考えつかない発想だったみたいだ。


「いえ、地球あちらの娯楽作品で、身体に紋様を刻むことで、魔術効果を高めるようなものがあったものですから」


「体表は動き、変形するものだから、魔法陣を刻むのには全く適していない。戦の前に身体を鮮やかな色彩で飾る風習は聞いたことがあるが、あくまでも戦意高揚の意味からに過ぎない。安心したかな?」


「はい。変な事を考えていたようですね」


 なるほど。こちらの文化だと入れ墨に魔術効果付与とかそんな話はないのか。良かった。


「アキ、身体に魔法陣を刻むというのは、生物限定であれば無意味というのは正しい。だが、当て嵌まらない存在を忘れてはいけないよ」


 リア姉が要注意だ、と告げる。


「当て嵌まらない、魔導人形ですか?」


「そう。大半の魔導人形は、硬い部品を組み合わせて作るものだ。だから、変形しない部分に魔法陣を刻んで、様々な効果を発動させるのは普通の話なんだ」


「例えば、近接戦闘をしながら、魔術を発動して同時攻撃をするとか?」


「そんな感じだ。後は体表に耐弾障壁を展開しておくとかは定番だね」


「護符の広い範囲を覆うタイプに比べて、かなり手間をかける感じですけど、それは障壁の持続時間を高めるためでしょうか?」


「その通り。自分に当たらない攻撃まで、障壁を展開していたら、魔力がいくらあっても足りない。だから、確実に当たる場合だけ防ぐ訳だ。おかげで魔導人形の戦闘可能時間が随分伸びた。紙一重で避ければいいから、回避しつつ間合いを詰めるようなこともできるようになって、戦い方の幅も広がったんだよ」


 なるほど。確かに重要そうな技術だ。


「定番というと、他国の魔導人形も普通に装備しているんでしょうか?」


「あぁ、そう勘違いするのも無理はないか。アキ、魔導人形はほぼ全てが街エルフの手によるものだ。鬼族も含めて、他国では試作されている程度で、量産はされていない」


「とても有益だと思うんですけど、違うんですか?」


 水も食料も必要とせず疲労もしない兵士というのは、とても便利だと思うけど、なんでだろう?


「鬼族や森エルフは嗜好に合わないらしい。ドワーフ達は採掘用のゴーレムを運用している程度で、人は、そんなものを作るくらいなら、雇うほうがいいそうだ」


「小鬼族は?」


「まず、通常装備を充実するのが優先で、高価な魔導人形の開発には手を付けていないな」


「何でも模倣しているわけではないんですね。魔導人形、いいと思うんですけどね」


「アキの感性が我々に近くて良かったよ」


 確かに。僕がもし人形というかロボットが嫌いだったりしたら、随分、生きるのに難儀しそうだ。


「それで、他国という話ですけど、確かここは島で回りを海に囲まれているんでしたよね」


「そうだ。だから、港までは馬車、港からは船旅だ。午後の訓練は生存技術を中心に行うことになる。最低ラインをクリアするまでは移動は許可しないからそのつもりで」


「人の基準ですよね?」


「不本意だが仕方ない。そうだ。人の基準で、しかも護衛が同行する事を前提とした本当に最低限の技能習得までしか求めない」


「助かります」


 ここまで『最低限』というくらいだから、本当に最低限なんだろう。時短を考慮してくれているのは本当に嬉しい。


「午後のお茶の時間に、少し状況を整理しよう。短期間で、あまりにも想定と違う状況に変化し過ぎた。互いの認識を合わせる意味でも、そうした場を設けたほうがいいだろう。それと、予め言っておくが気を悪くしないように。我々の想定した内容ではアキは、庇護されるべき幼子といった認識だった」


「幼子というと、人族でいうと初等教育を受けているくらいの、日本あちらでいう小学生くらいですか」


「そうだ。二十歳にも満たない子だから、どうしてもこちらの感覚では、まだ卵の殻を尻に付けたヒヨコといった認識でいたんだ」


 十代はヒヨコ扱いかぁ。


「あれ? 街エルフは成長が遅いんですか? 長い寿命に合わせて幼い時期も長いというように」


「いえ、アキ様。青年期まではどの種族も成長速度はさほど違いはありません。其の後、人以外はかなり成長がゆっくりになりますが。ヒヨコというのは技能や人生経験の少なさを指したものです。街エルフの基準は、人族と比べると求めると、かなり高いものなのです」


「なるほど」


 父さんが何か言いたそうだったけど、早めに返事をして発言を封じた。父さんは教育分野に携わっているんだろうか。どうも、そのあたりの話題になると、言いたいことが多そうだ。


「アキ様、そろそろ講義の時間です」


「はい、それじゃ、また後で」


 ケイティさんがすかさずアシストしてくれたので、挨拶も手短に食堂を後にした。それにしても状況整理か。時間がかかったと言うべきか、思ったより早かったと思うべきか。悩ましいところだ。

そんな訳で、なんとか魔術の先生が見つかりました。ただ学ぶためには海を渡って、先生の住む国へ行かなくてはなりません。他にもいろいろと必要なことが山盛りで……。


次回の投稿は、七月二十九日(日)二十一時五分です。


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