第十五章の各勢力について
十五章では、一か月という短期間ですが、各勢力で色々と動きがあったので整理してみました。
各勢力の基本説明は八章の「第八章の各勢力について」をご覧ください。このページでは、十五章での状況を中心に記載してます。まぁ、十四章から一か月の差分なので量は少な目……でもなかったですね。各勢力ともお疲れ様です。
【ミアの財閥】
アキ達の連邦訪問は、帝国訪問があった時点で、いずれは連邦もあるだろうと想定してはいた。ただ、これほど早く行われるとは思ってなかっただけに、更なる事業計画見直しに少し慌てることになった。それでも、帝国に比べれば、国土は豊かではあるものの、人口の少ない連邦ということもあって、商売へのインパクトは対帝国ほどではない。対帝国はそれなりの品質の品を大量に、連邦には質実剛健な良品を少量、と傾向も違うからだ。
マコト文書抜粋版(鬼族語バージョン)の翻訳作業は、鬼族側が国策として本腰を入れてきたこともあって、かなり具体的な形でスタートし、書籍の印刷についても相談が舞い込んできている。鬼族の方は自前で製本するつもりのようで、売り上げをどういった形で還元するか、そのアドバイスをする程度ではあるが。
各種族が集っての登山、竜神子達への支援、玉突き移動した魔獣達の生息域を戻す件などは、財閥からすればいずれも小粒であって、対応にも大して苦慮するものではない。
そんな彼らをして、最大にして緊急課題として急浮上してきたのが依代の君の移住問題だった。何せ存在自体が、アキに準じるレベルで、高魔力耐性を持つ魔導人形でなくては対応が困難ときた。住居はアキも使っていた館でいいとしても、彼をサポートするスタッフを何としても一か月で確保しなくてはならなくなった。アキをサポートするメンバー達とは違った面で長けた者達でなくてはならない。相手は現身を得て生活して僅か一か月の超初心者でありながら、その力は竜族に準じる高位存在なのだから。……いくら本人やアキが、日本での一般人の感性、性格だからそんなに警戒しなくても、と言っても、いきなり消失術式をぶっ放した存在に、はいそうですね、と納得できる訳もない。
それに実力のある者達はもう根こそぎかき集めて、ロングヒルでのアキの活動支援や、ロングヒルの政を支えるために投入しきっていた。だからこそ、家令のマサトや秘書のロゼッタも乏しい手札から何とかしようと苦慮することになるのだった。その辺りは十六章で明らかになるだろう。
【共和国(街エルフの国)】
アキ達の気軽な日帰り連邦訪問の報を受けて、一部の街エルフ達は、共和国と連邦が同列と認識されていることにショックを受けたようだった。高く評価するほどアキは街エルフをよく知らないのだから、それは彼らの思い違いというモノではあるが、しっかり理解したらしたで、やはりショックを受けそうだ。
街エルフが人形遣いの技の全てを結集して創り上げた鬼人形ブセイが、鬼族の達人達と五分に渡り合った件は、大々的に報道されることになった。いずれは対戦記録も提供されることになり、人形遣いや魔導人形達を大いに沸かせることになるだろう。新たな鬼人形を創る方針も示されたのでそちらへの影響もありそうだ。
依代の君が共和国の館に移住してくる件は、元々、ミアの領地ということもあり、大都市からは距離もあるので影響は少ないと考えている。ネックになるのはロングヒルから共和国への移動だが、これはアキに準じて、特別仕様の部屋に入れて帆船で移動させればよいだろう。彼をフォローするスタッフの人選は財閥に一任した。何せ次元門構築に不可欠、最重要と言っても過言ではない存在だ。そんな存在を支えるスタッフの人選に口出ししても、不評を買うだけである。
登山計画に誰を参加させるかという話は、長老達にとっても頭痛の種だった。何せ、ロングヒルにいる多種族からなる検討チームからは、人形遣いとしての技はできるだけ使うな、魔導具も自重しろ、空間鞄に何でも放り込んできたりはしないでくれ、と無理難題を吹っ掛けられてきたからだ。それでは街エルフとして、人形遣いとしての力の殆どを封じられるようなモノではないか、と一時は剣呑な空気にすらなった。
……ただ、それを言うと竜族だって、妖精族だって、鬼族だって、あれも駄目、これも駄目と制限だらけであり、全体像が見えて頭も冷えた頃には、未成年同士の交流教室みたいなモノと意識を切り替えるのだった。
なお、外に出ることが許される街エルフは、どんなことでも一通りできる成人ということと同義であり、互いに弱点を補い団結力を高める、という趣旨に一番合わない問題児である、という点を、長老達はそれは都合よくスルーした。何でもできることは、何でも一番であることを意味する訳ではないのだから、と。
【探索船団】
「死の大地」の探査船団だが、帝国と連邦の間でどこまで情報開示をしていくのか相談しているようで、十五章ラスト時点ではまだ、方針を含めて検討中、との報告しか届いていない。ただ、帝国側はアキ達の訪問を受けて、運用面で前向きな調整をしていく気運は高まっているようだ。人類連合と小鬼帝国は長年の争いもあって、小鬼達の乗る帆船が、連合の港を訪れるという流れにはなりそうにない。その逆も然りで、そうなると、それぞれがそれぞれの港を基点に運用していくのだから、海域を分けて分担していくなんて話になっていくだろう。
共和国と帝国の間には確執はないが、共和国の港まで、常に無寄港で小鬼の帆船が訪れるというのも現実的ではない。街エルフ達の大型帆船であれば、その程度は容易いが、帝国の港を急いで訪れる意味は薄いだろう。
連邦もまたアキ達の訪問を受けて、「死の大地」の浄化という話への本気具合についても、認識が大いに改まることとなった。新たに台頭してきた新勢力たる竜族、妖精族、街エルフ族の実力と、全勢力を巻き込む竜神の巫女アキの影響力を考えると、単なる絵空事ではなく、確実に進めていける現実的な計画なのだ、と理解できたからだ。鬼族とて銃弾の雨で多くを亡くした過去は忘れようがなく、連合との確執はまだまだ根強い。ただ、自身の力への自信もあり、海外に渡るのに比べれば、弧状列島周辺の航海なら危険性も低いことから、船乗り達の間でも、船団への協力に前向きな反応が出ているようだ。
【探索者支援機構】
アキの連邦訪問は、帝国のソレと違い、連合や帝国との間に何か新たな取り決めが行われたりする類のモノではなかったので、彼らの樹木の精霊探索は淡々と進むことになった。このペースなら秋には予定を達成することだろう。
【対樹木の精霊交渉機構】
樹木の精霊達との交渉、交流も、見つけた個体に対して、近い地域の連合所属国の者達が個別に対応していくことになるので、ある意味、見つけさえすれば、活動は並行して同時に進めることが可能だ。
国家や組織を持たない樹木の精霊達の思考、反応は置かれている位置や魔獣の種類や数によっても千差万別であり、各国はより良い結果を得ようと、同じように交流を開始している国に対して、互いに情報交換を行うようになってきた。困った時はお互い様、同じ連合に属しているのだから。そんな気運の高まりは、地味ではあるが確実に連合の結束力を高める事にも寄与しているのだった。
精霊使いの活用については、彼らが自然を愛し、精霊と共にある存在であって、人との交流に長けているかはまた別であるという事実を知ることになった。イズレンディアのように対人交渉能力にも長けた精霊使い等と言うのは稀なのだ、と。
ただ、それでもいるといないでは雲泥の差なので、彼らも加えてチーム力で何とか状況を打破していこうと各国の奮闘は今後も続いていくだろう。
【竜神子支援機構】
帝国では式典に参加したことが洗礼の儀の意味も持つことになり、竜神子になりうる人選は進みだしていた。連邦もまた自前で開催する前に、アキ達の緊急訪問で、洗礼の儀を実施したことから、竜神子を選ぶことへの理解も進んで行くだろう。
今年の秋に行われる各地の領主達と若竜の交流と緩やかな取り交わしについては、予定数が合計三十となることが本編でも示されていた。アキは少ないと思っているようだが、為政者達からすれば、これでもかなり頑張ったほうである。単に旅行者を一人持て成すのとは訳が違う。仲立ちをする竜神子とて外交官としての資質を持つ訳ではない為に、それなりに自信を持って任を全うできるよう、促成栽培の教育が行われている。
ロングヒルに居る各種族からの声を受けて、竜神子と若竜達の事前交流活動も行われることになる。いきなり本番で初顔合わせとなるよりはよほどマシと竜神子達も基本的には歓迎の意向を示すとは思うが……。いきなり予定が一か月前倒しになったからね、と言われれば困惑するに違いない。
【ロングヒル王国】
アキが連邦を訪問したり、若い雄竜達が頻繁に訪れたりはしたものの、やっと落ち着いた夏を迎えた、と多くの民は感じていた事だろう。次は秋に三大勢力の代表達もやってくるって話だが、それよりは今年の総武演をどうするかだよな、ってな具合である。
総武演の担当者達は、帝国が秋に成人の儀として戦争を行う旨を示していることから、例年通り、対帝国向けの備えを民に示す方針でプログラムを検討している。ただ、今後の融和に向けた流れもあることから、あまり小鬼族を悪者のように扱う訳にも行かず、どうしたらいいか頭を悩ませているところだ。一応、鬼族の担当者からは鬼族同士の試合を行うのはどうかと打診はされている。話を聞いた感じではかなり見応えがありそうと考えていたが、連邦訪問から帰ってきたアキからの情報で、鬼族の武が極めて高度な域にあり、素人が観てもなんか凄い、としか理解できそうにないことが解って慌てている。鬼人形ブセイと動甲冑の兵士達の試合のように説明すると、全編をそのノリで紹介することになってダレそうだ。鬼族の例えばセイケンあたりに解説をお願いするか、それとも小型召喚をした白岩様とアキに依頼するか、など選択肢はあるが悩ましいところである。
そして王族達にとって、喫緊の課題は依代の君だ。降臨した現身を持つ神などという存在は歴史書にもない、前代未聞の事態だからだ。ある程度、自らの力を制することができるようになった段階で、共和国の方に居を移すと聞いて、内心、胸を撫で下ろしていたりする。誰も国内に起爆条件の判らない爆弾なんぞ置きたくはないものだからだ。
また、秋の各地で行われる若竜との交流に向けて、連合内だけでなく帝国や連邦からも、為政者達からロングヒル王家に対して、どう振る舞うべきか、注意すべき点は何かなど、アドバイスを求める書簡が続々と舞い込んできていた。何せここ一年、頻繁に竜の訪問を受け入れてきた唯一無二の国家なのだ。その経験は値千金である。
今、王家が総出で頭を悩ませているのは、そんな各国への返答に忙殺されていることではなく、貴重な情報を得たことへのお礼を各国から何にしたらいいか、それとなく聞かれた担当者達にどんな方針を示すか、という話だった。近隣数か国と交流していれば良かった昨年から、いきなり今年は最低でも三十か国追加、翌年以降も増加していくことが確定しているのである。ロングヒル王家にそんな外交力なんぞある訳がない。そして下手に振る舞って関係悪化させても不味いし、ニコラス大統領に頼るのも何か違う。彼と行うべきは対応方針の相談までであって、お礼として何を受け取るかなんてのは、聞かれた側とて困るに違いない。
……贅沢な話だが、王家の悩みは深刻だった。
【人類連合】
アキの連邦訪問は僅か半日程度、帝国の時と違い、ふらりと立ち寄った感はあったが、それに衝撃を受けた領主達も多かった。これまで、彼らの常識からすれば、北の地に籠っていて出てこない謎の強国、銃弾の雨以降は無駄に刺激しないことが基本方針となっており、縁遠い国との意識が広がっていた。これは銃弾の雨の時代から既に三世代を経ていることも大きい。銃弾の雨の時代を覚えている者もまだ生きてはいるが少数で、社会の大半を占めるのは、鬼族を見た事もない者達になっていたのだ。
そこに来て、まるで近所に遊びに出掛けるような軽さで、アキは彼の地に降り立った。鬼族の求めに応じて、ロングヒルで行っているのと同じ洗礼の儀も開催するサービスの良さだ。現地では、共に赴いた鬼人形と鬼族の武人の角力(相撲)を、鬼王達と共に観戦したとの話で、手に汗握る激戦だった、などと楽しげに語っていたという。
白岩様もロングヒルに赴任してきている鬼族の若者と、鬼人形の手合わせを熱心に観るなどしており、彼らの関心が小鬼族や鬼族へと移っていくのではないか? などと不安げに語る者達まで出てきていた。
そんな最中の全種族が集っての登山の誘いであり、これにはロングヒルだけでなく、自分達でももっと積極的に関わっていくべきではないか、との意見も出始めて、ニコラス大統領の仲裁により、派遣する人選は彼に一任されることとなった。
【鬼族連邦】
帝国に遅れるなとばかりに、鬼王レイゼンの鶴の一声で決まった、アキ達の連邦訪問は、僅か半日程度の旅程ではあったが、連邦を構成する各国にも、時代の移り変わりを強く意識させる強烈なインパクトを与えることに成功した。
竜族、妖精族、街エルフ族が連邦にも匹敵する勢力であり、それらを含めた全勢力が要と認める存在である竜神の巫女アキの存在も目の当たりにすることになったのは大きかった。
何だ、アレは?
その解けることのない疑問は、世界が大きく変化しているのに、それを知ることなく取り残されつつある、という危機意識を彼らに強く持たせるのに十分だったと言えよう。
人口が少ないという根本的な問題は当面解決できないが、少数でも存在感を強く打ち出せる強みを活かして、彼らはこれからはあらゆる機会を逃さず進んで行くことだろう。
【小鬼帝国】
防疫・医療体制の見直しを行う都市の選定だが、都市は決めたものの、どう見直しを行うかについては意見が割れた。そこでユリウス帝が打ち出した方針は、都市改善計画の検討段階から各種族の専門家を招いて共同設計体制を敷くという前代未聞の話だった。鬼族からは、この冬にも土木工事の専門家を派遣し、地質調査から共同で行おう、という積極的な提案まで届いてきた事もこの件を後押しすることになった。既に各勢力に対しては検討を打診しているのだが、まだ検討中の為、アキにはその話は届いていなかった。
ただ、これも少人数を派遣すれば始められる共同計画なので、十六章の時点で全容が明らかになっていくだろう。
並行して、呪いの解析チームの結成と調査候補の選定、調査の開始についての話も行われることになる。
最大の人口と、高度な組織力を持つ帝国の強みを活かし、実行しながら考える小鬼族らしさも加わった全施策同時並行実施であり、この話は秋に三大勢力代表が集う際の主要テーマとなる事だろう。
そんな中、アキから全種族参加の登山計画が持ち掛けられた件では、派遣人数はともかく、該当地域周辺での軍活動の抑制と連合への牽制の両立が求められる為、各地の王を集めた緊急会合も行われていた。
そして、彼らも検討も終わったし地元に帰るか、といったタイミングで、ロングヒルで「マコトくん」が世界樹から創り出した依代に降りることに成功した、との報がガイウスより届いた。降りることは計画段階から関わっていたので想定通りではあったが、実際に信仰により形作られる神が降りたというのは、どこか現実味が無かった。竜族と妖精族が一か月程度、交代で対応に当たるという異例の措置も伝えられており、依代の君と名乗る現身を得た神が、何万といる竜神のような神が一柱増えただけ、と軽く認識するのは誤りだと強い警戒心を持つことにもなった。
……ただ、神に対して何かできる訳でもなく、聞けば、依代の君がこちらでの暮らしを行えるようになった時点で、共和国へと移住するとのことだ。三大勢力の代表達とロングヒルでご対面、という話だけは避けられそうで、彼らは大いに安堵していた。これ以上厄介事は増えて欲しくない、それが彼らの偽ることなき心境だったのだろう。
【森エルフの国】
森エルフの精霊使いは、出せる連中は全員出払っているという有様だった。そもそもさほど人口も多くはなく、雲取様の縄張り内で、ドワーフ達も含めて住んでる時点で、彼らの総人口が少ないことは明らかだった。樹木の精霊の探索は予定通りに終わり、その後の交流についても、初期のやり取りさえ乗り切れば、後は精霊使いが間に立たなくても何とかなりそう、というケースも出てきた。他種族の精霊使いも数は少ないがいるので、そんな彼らと交流しつつ、今は他勢力の求めに応じている有様である。
帝国との「死の大地」の緑化に向けた事業も、森エルフはオブザーバーとして参加はするが、実務は小鬼達が行うのでそれほど負担増とはなっていない。
そんな彼らだが、今、一番頭を悩ませているのは、多種族が集っての登山の話だった。……そこに森エルフも出ろ、と求められたのだ。人類連合から人を出すというなら、人族でいいじゃないか、と粘ったが、そこはそれ、精霊使いのニーズが高まる中、顔を出さないのは受けが悪い、と押し切られた。精霊使いとしての力もあまり出すな、と言う。力を行使すると登山が簡単になり過ぎるからだと言う。僅か数日程度の短日程で、仲良く一体感を醸成して、皆で「死の大地」を眺めよう、などと言われても、そんな短期間では互いに名乗って多少言葉を交わす程度で終わってしまうではないか、と思うのは彼らが長命種だからでもある。小鬼族ならそれだけ時間があれば、相手の性格や考え方、何より交流しようという意欲があるかなどを理解するには十分、と言うだろうから。
【ドワーフの国】
帝国訪問の時と違い、連邦訪問では白岩様に合わせて座席の取り付けを調整する程度の手間だったので、彼らの力が緊急で必要となるような事態とはならなかった。相変わらず、物作りあるところ、ドワーフの影ありといった具合で、八面六臂の活躍をしている状況である。
急ぎといえば1件だけ、鬼族の攻撃を防ぐ盾役が履くブーツに、緊急杭打の機能を持たせて、その場で踏ん張る力を強力にするのはどうかと相談され、試作品製作まで済ませた話はあった。結論としては、跳ね飛ばされるような衝撃に対して、その場に留まれば、その力の全てを受け止めることになり、足を折ることなく、姿勢を崩すこともなく耐えるのは無茶だろう、ということが明白になり、試作ブーツはお蔵入りとなった。そんなブーツを使うくらいなら、鬼族の姿勢を崩す役を増やして、放たれる力を弱めるべきだ、という当たり前の結論にもなった。
山登りの件は、ドワーフ達も参加するよう打診された。歩くペースは小鬼族やドワーフ達に合わせるとの話もあるので、彼らは喜んで参加するつもりだ。手を挙げる者達は多く、人選に苦慮する程度だろう。そんな彼らから逆提案もあった。ドワーフが地形や地質的におや?と思うところがあったなら、参加している他種族の見解もそれぞれ聞きたいと。自分達に無い視点を得られることこそが重要だ、と言われ、登山検討チームもその考えを採用することとなった。
【妖精の国】
帝国訪問に全力を傾け過ぎたせいで、色々と国の運営にまで悪影響が出てしまって、こちらにくる妖精達の姿が減る様子が観られる有様だ。それでもアキの連邦訪問や、全種族が集って「死の大地」を眺める登山、それに依代の君が降りてきた件では、彼らは積極的に手を貸してくれている。国としての対応は必要な分だけしっかり行っていると言えるだろう。そして一部の妖精達に対して彼らの女王陛下は難題を押し付けてきた。
依代の君への対応で、国の中枢を担う面々が手を煩わされてはいるが、ロングヒルで毎年行われている総合武力演習、総武演に今年も参加されますか? と問われ、勿論出ると答えていたからだ。……人手は全然足りないが、昨年と比べて劣らない演技を行いたい、昨年と同じでは芸がないから他のネタを用意せよ、というのだ。
今回はアキに魅せるのが主目的ではなく、観客はロングヒルの市民達だ。となれば、彼らの心に響く演出はまた違ったモノとなるだろう。かくして、女王の命を受けた一部の妖精達、つまり演出家の面々は知恵を絞ることとなるのだった。
【竜族達】
ここ一か月は、雲取様や雌竜達の部族巡りが一通り終わり、話題の若手達に触れたことで、それなら自分達のとこの若手はどーだ、などという話になって、あれこれ盛り上がった。特に秋に地の種族と緩い取り決めを行う予定の若竜とは積極的に交流の機会を持ち、相手の方も全くの手探りで本番を迎えるよりはいいか、とロングヒルでの出来事を話題に話をしたのだった。
この夏に各種族が集って行う登山については、「死の大地」周辺の竜達の目の色が変わると不味いということで、一部の信頼できる者達にだけ話が回ってる状態なので、全体の話題にはなっていない。また、アキも竜ならできると言った通り、話を通した竜は、幼竜に配慮する時と同様、心を意図的に制することで、狩人としての意識が悟られぬよう、上手く隠しているようだ。
ただ、見逃した一人の人形遣いに縄張りを台無しにされる、とも言われるように、「死の大地」の周囲を飛ぶ竜が誰かミスをしただけでも、相手の警戒レベルを跳ね上げると考えられるだけに、どうしたらいいか、竜の長達の間でも極秘に検討作業が始まっているらしい。狩りは捉えるその時まで覚らせぬモノ、なんて考え方もあるので、アキが「死の大地」を獲物に例えたのは功を奏したようである。
【樹木の精霊達】
ここ一か月は、樹木の精霊達はそれまでに無かった行動を取るようになってきた。それは近隣にいる樹木の精霊達との意見交換である。交流を始めた地の種族の者達の話を聞けば、各地の樹木の精霊達も同じように縁を結ぼうとしているとのこと。ならば今は自身は困っていないことでも先々、同じ問題に遭うかもしれない。彼らは動けないが、ならば周囲に興味がないかといえばそんなことはないし、何かあった時に共存している虫や獣、魔獣などに助けを求めることもあるからだ。地の種族はそんな共存相手が一つ増えた、そんな認識なのだろう。
そして、そんな風に熱心に情報交換をする個体がいれば、困りごとの解決に獣よりも役立ちそうなどと噂になれば、あまり興味を示してこなかった個体も、それならちょっと話を聞いてみるか、なんて流れにもなっているようだ。
【「マコトくん」の信仰者達】
信者の皆さんは、数は絞られているものの、待てば必ず手に入る小鬼語翻訳版のマコト文書が出回ってきたこともあって、ぐんぐん増員中だ。何せ、マコト文書の信仰は他との掛け持ちも認める度量の広さがあるし、マコト文書抜粋版こそが信仰の拠り所であって、豪華な社を建立するような事にも意味がない。マコト文書が記している、あちらの世界の話は突飛過ぎて真似た建築としよう、という流れも起きてないのだ。お金もかからないし、神官達の説法も一段とキレを増して、信者達も頼りにする機会も増えているようである。
鬼語版の翻訳作業も急ピッチで進みだした。鬼王レイゼン肝入りとのことで、国の後押しを受けているだけに担当者達の鼻息は荒い。鬼族は人口こそ少ないものの、小鬼族と違って長い寿命もあって、全員が高度な教育を受け識字率は常に100%で意味がない。手隙の時間を使って翻訳作業を分担している事もあって、訳者の違いによるニュアンスのブレはあるものの、全体を網羅する作業はそう時間をかけずに終わることだろう。アキ達の連邦訪問はかなりの起爆剤となったようで、熱の入り方がそれまでとはまるで違う。異質なことこの上ない竜神の巫女アキへの疑問を解く鍵として、マコト文書にも注目が集まってきているのだ。神官達は大らかなので、興味の入り口は人それぞれ、学んだ上で生きるための何かの役に立てばよいのです、と鬼族達の担当者を快く迎い入れたりもしている。
……素朴なところのある鬼族が、他の実体のある神々も数多い中、経典だけを信仰の拠り所として着実に信仰層を厚くしている、そんなマコト文書神官達の手練手管の強かさに気付くのはもうしばらく先のことになりそうだ。
ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。
十四章に続いて技術→勢力→人物の順で投稿してますが、やってみると全体把握をし直した上で、個別人物視点の記述をしていった方が楽な事に気付きました。
各パートの時間経過を日付に変換しておかしなことになってないか確認してみたり、多くのイベントが並行実施中なので、それぞれの進みがどうかと確認したり……。
なので十六章からはこの順番を定番にしようと思います。
次回からの投稿予定は以下の通りです。
第十五章の人物について 四月十三日(水)二十一時五分
第十六章スタート 四月十七日(日)二十一時五分
<雑記>
人物ページ、あと残り六十九名、一名に十分程度だから、残り六百九十分=十一時間半かぁ……。頑張らないと水曜日に間に合わない! 基本的に登場人物って減らない上に、何かと話に絡んできますからね。(アキが気付くかどうかは別として)