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SS④:鬼族から見たアキ達の連邦訪問(後編)

前回のあらすじ:鬼王レイゼンの提案によって、さくさくと決まったアキ達の連邦訪問。それは彼の望んだ通り、連邦を支える諸王達にも強烈なインパクトを与えることになった。ただ衝撃を受けただけでは意味がない。新勢力台頭を念頭に未来を考えよ、と彼は更に檄を飛ばすのであった。


今回も本編ではなく、鬼族連邦視点で三人称描写となります。読まなくても本編理解には何ら問題はありませんが、読むとより一層楽しめることでしょう。

アキの連邦訪問の報告書やいつもの定例報告を携えて、セイケンが連邦へと戻ると、急ぎではない、定例報告の為の帰国だった筈なのに、大勢の人々に囲まれることなり困惑することになった。


武闘派代表のライキと、穏健派代表シセンが間を取り持ってくれたから良かったものの、我も、我もと多くの者達が話を聞きたい、と求めてきて収拾がつかない有様だった。


結果として、いつもの定例報告とは別に、各派閥の集会に参加し、質疑応答を行う流れとなったが、それはちゃんと会場も確保されていて、段取りも調整済みであって、あの騒ぎは何だったのか、とセイケンが訝しく思うことにもなった。

その件を鬼王レイゼンに問うと、それはセイケンの邪推であり、人数を絞った集会に参加できなかった者達が諦めきれず、押し掛けたのだ、と答えを教えられた。

……それならばなぜ、止めなかったのかと問うと、レイゼンは、連邦を駆け巡る熱を肌で感じて貰いたかったからだ、と笑ったのだった。





これまでにも何度も定例報告は行われており、セイケン達が始めてロングヒルを訪れた総武演の際の件もキチンと書に記していたのに、なぜそこまで変わったのか、とセイケンは頭を捻る事になったが、これはセイケンがロングヒルの空気にどっぷり嵌っていたからこそ感じたズレだった。


竜だ、妖精だ、街エルフだ、と報告書に書かれていても、そんな連中は身近なところにはおらず、よほど想像力豊かな者達や、物事を数字で分析することで先入観を排除する兵站担当者でもなければ、それらが巻き起こす変化の兆しを伝えられても、それが先々、何を生んでいくのか想像しにくかったのである。


鬼族連邦と小鬼帝国はこれまでに共同作戦を組んだこともある間柄だが、日常的に交流がある訳ではない。だから、銃弾の雨の時代から、既に小鬼族は六世代を経て、人口は当時を上回るほどに回復したと伝えられても、奴らは気付けばすぐ増えて居るからなぁ、などと軽く捉えられる始末だった。


ちなみに、人族は三世代を経ており、やはりかなりの人口回復を見せている。それに対して鬼族はその頃に生まれた世代はまだ子供であり、成人するのはまだ何十年も先の話である。


鬼王レイゼンが妻を五人も娶っているのも、彼が稀代の英雄であり、それだけの妻を養う器量があるというのもあるが、銃弾の雨で多くの男達が亡くなって、適齢期の男女比に著しく歪みが出ていることも原因だった。一夫多妻制という言葉のイメージとは裏腹に、比率の増えた女衆の発言力は大きく高まっており、もっとしゃんとしなさい、とお尻を叩かれる旦那達が多いのが実情だったりする。


幸い、連邦の地は豊かであり、働き口に困るようなことはない。


だからこそ、次代を担う子供達は手厚い保護と教育の機会を与えられて、大切に育てられてきているのだった。勿論、鬼族なりの育て方なので、人族や小鬼族が混ざれば、早々にリタイアするレベルのハードさではある。


そんな連邦のある種、気長な、悪く言えば危機意識の薄い空気を、セイケンは懐かしいと思うと共に、燃え尽きるように生きる小鬼族の激しさに触れてからは、変わらねば不味いとも思うようになっていた。


それが、前回までの認識だったのに、僅かな間に様相は一変していた。


帰宅して妻に尋ねると、アキ達の訪問は予め降り立つ日時が開示されていたこともあり、洗礼の儀に選ばれなかった多くの者達も、手弁当を持ち寄って、白岩様が飛んでくる経路の近くに出掛けて、その様子を眺めていたのだと言う。

娘も、ロングヒルで他の様々な種族を観てきたということで、一躍、時の人のようになって、近所の子供達から、あれこれ聞かれたりもしていると話していた。


丁寧に保管されていた、来訪の翌日に配られたという号外の新聞も見せられたが、戦勝記念のパレードであったとしても、ここまでの特集とはならないだろうという、膨大な量の記事が記されていた。


「随分と手回しのいい話だが、近所の奥方達とも話題に?」


「ええ。とても分かりやすく記された記事だと好評ですわ」


準備にはさぞかし時間がかかっただろう、と妻は微笑んだ。彼女の指摘通り、号外新聞と言いながら、そこに記載されている記事の質や量は、かなり前から作り込んでいなければ到底間に合うモノではなかった。アキ達の訪問が決まった時点で、関係者に入念な指示が行われていた証左であろう。


ちなみに、彼女もセイケンの妻であり、父の不在を嘆く娘の事も思ってロングヒル行きが決まった……それは確かに一面では事実なのだが、そもそも鬼王レイゼンの后達にも近い才女でもあり、后達からも、ロングヒルの様子を観てくるよう言われるような間柄でもある。だから、帰国して親子揃って水入らずと言いながらも、妻の言葉に助けられることも多かった。





帰国中のスケジュールは朝から晩までぎっちり予定が埋められており、翌日は朝から、武闘派の面々に呼ばれて、彼らの集会に顔を出すことになった。


と言っても、代表であるライキが仕切ってくれるので、セイケンは彼らの求めに応じて、説明を行い、質疑応答を行うだけで良かった。


「つまり、街エルフ、人形遣いが入ることで、魔導人形達は言葉を交わさずとも情報をやり取りし、死角を補い、攻防のタイミングを計れるのか」


「仰る通り、此度の訪問では、鬼人形のブセイ殿が同行していましたが、竜神の巫女アキを護る護衛人形達は、鬼の暴徒対策の訓練を綿密に行っていました。その様子を見学する機会を得たのですが――」


武闘派の王の一人の問いに、セイケンは個の戦闘力に劣る彼らが、如何に群れの力を発揮して、暴漢の力を絡めとって無力化していったか、その手際を語った。


彼ら、魔導人形達は、街エルフ特有の過剰とも言える多くの魔導具を装備しており、魔刃に対して対抗する障壁展開機能を持つ盾があったり、吹き飛ばされるのを防ぐ緊急杭打アンカーの術式があることを先ずは伝えた。それらは単純な力押しで押し破るのには手古摺るレベルではあるものの、それだけで対抗できるモノでもないと話すと、僅かに安堵の空気が流れた。


しかし、攻撃を受ける者がいれば、攻撃を逸らし、邪魔をする者、次の動きを牽制する者、全体を俯瞰して指揮を手助けする者が力を合わせてくる為、万全の状態から技を出すことはできず、結果として先ほど示した装備でも鬼の力を防ぎきった事を示すと、どうも想像しにくいのか反応が鈍かった。


そこで、セイケンは実際に鉄棍を用いて突きを行う仕草を見せつつ、棍を障壁と盾で受ける者、棍を下から弾き上げる者、半身になった状態の前後から攻撃して姿勢を崩す者、棍を引く腕の位置目掛けて攻撃を行う者、といったように多くの者が一切のズレなく、定められた役目を担って、突きの威力を減らし、次の動きを邪魔し、力を発揮できぬ状況へと追い込んでいくのだ、と話すと唸り声が上がった。


「総武演で実際に観た際には――」


手練れの小鬼達の部隊を相手に、少人数の護衛がいる状態から始めた模擬戦は、中央に位置する街エルフにあらゆる攻撃が届かず、襲撃してきた小鬼人形達の急所をわざわざ外して撃退する余力を見せるほどであった、と話すと、その異質さに皆の目の色が変わった。

仲間の背後から僅かな隙間を通して放たれた矢が、小鬼達の射手を射落とす様や、多人数の同時攻撃を少人数で防ぎきる連携の妙技などについて説明していくと、ただ手練れが数多くいるのとは訳が違うとの認識も広がったようだ。


「セイケン殿なら、その人形遣いに勝てるか?」


さすが武闘派、なかなか挑発的な物言いだが、セイケンは厳しいと断言した。


「彼らの装備はその全てが魔導具であり、総武演では呪紋の併用は行われてはいなかったものの、攻め切るのは困難と感じました。模擬戦の後に空間鞄から控えが出てきましたが、半分近くを残して小鬼族の部隊相手に無傷。相手に刃を突いた分だけ、自身も斬られる、そういう相手です」


セイケンの武は彼らとてよく理解している。その技の冴えは見事な域にあり、半端な連中であれば、束になっても敵わない達人だ。その彼をして、相打ちは避けられないと言うのだから、その意味は重かった。


その後も、妖精達の放つ術式について語ったり、実際に受けてみての感想を伝えたりと、話を進めていくと、次第に普段の軋轢も薄まっていった。セイケンが望んで、という訳ではないのだが、身を張って実際に技を受けたりしてきた経験は、武闘派の心に響くモノがあったようだ。


特に、竜神の巫女アキが、鬼族はとっても強い、百人力だ、などと事あるごとに褒めるので、過剰に膨れる期待を抑えるのに苦労していると話すと、一部は強く思われるのは良いではないか、などと甘い認識を口にした。


そこで、それだけ力量があるならば、弧状列島の全国にいる魔獣達の争いを静めて、縄張りの混乱を治めるのも簡単ですよね、などと百人、千人と派遣を求められますぞ、と言うと、相手の表情が固まった。アキの発案で、諸勢力が合意して帝国に対して、多くの竜と妖精達、それに魔導人形達が赴いたのもほんの少し前の話だ。アキはできる相手には、それに相応しい仕事を遠慮なく吹っかけてくる性格だと覚えておいて欲しい、と切々と話すと、苦労しているのだな、と同情される程だった。


「セイケンが話した通り、アキにはマコト文書の知と、多くの種族に提案を検討させるだけの影響力がある。セイケンや私が鬼族なら誰でも百人力ではない、と話しても、研究者のトウセイに対して、身体が大きくて長生きな鬼族なのだから十人力は軽いでしょう? などと言いだすくらいだ。我らは強い。だが必要以上に強さを顕示するのは危険なのだ。あの竜族ですら、誰でも聡明で魔導師より魔術が得意だ、とアキに期待混じりに問われた時には、誰もがそうではない、と誤解を解くのに懸命だったと聞く。皆もよく覚えておくことだ」


ライキが自身の経験を元に、アキは選ばれた者達が集うロングヒルで見聞きした事を元に判断する癖があり、実際、ロングヒルに赴いている者達に限定すれば正しいだけに、誤解を解くのに苦労していると話すと、他の者達も薄々、その危険性に気付いたようだった。


いくら鬼族と言っても、研究者のトウセイが完全武装の人族戦士十人相手に戦えるかと言えば、それが無茶振りだとは誰でもわかる。雑兵相手なら何とかなるかもしれないが、アキのイメージする鬼族と言えば、セイケンや鬼人形のブセイだ。となれば相手も精鋭、それも数を沢山用意してやっと釣り合う、という意識にもなるのだろう。


今も紫竜が起こした魔獣達の生息域が玉突き移動して大混乱している件は、選抜された実力ある者達が鬼族からも参加して、何とか元の生息域に戻そうと苦労しているとの報告も届いている。アキは最初、事の発端は紫竜にあるのだから、本人に対応させればいい、と言って皆が止めさせたくらいだった。同じような話が起きた時に、鬼族は実力もあるから対応できますよね、と話を振ってくるのは火を見るよりも明らかだった。


そして、鬼族も武に覚えがある者は多いが、人口も少ない中、そうそう手が空いている者がいる訳でもない。そう何十人、何百人と派遣できる筈もないのだ。





次は、シセンが音頭を取って集めた穏健派の集会だった。


彼らは、新たな勢力として台頭してきた竜族、妖精族、街エルフ達の共和国への興味と、それらも含めて、個人で影響力を行使している竜神の巫女アキに対しての疑問をぶつけてきた。


竜族の暮らしや部族の形態、妖精族の国としての規模や在り方、膨大な数の魔導人形達を駆使し、溢れるほどの魔導具を使う街エルフ達、それらへの質問も、直接接点を持つセイケンへの問いとしては、それなりに興味深いモノはあった。


だが、竜神の巫女アキとなると、彼らの困惑の度は深まるばかりのようだった。


実際、洗礼の儀でアキの振舞いを観た者も多い。白岩様の隣にあって、大勢の鬼族を前にしても、落ち着いて語り掛ける様は、あまりにも地の種族のソレからはかけ離れていた。竜を前にして平静を保っていられるなど、在り得ないからだ。


そして、そんなアキの為した事について、情報は確かにどんどん届いてきたが、到底、一人の人物が為したとは思えないことばかりであり、しかし、実際、訪問する様を観てしまえば、存在を認めざるを得ず、疑問が膨らむばかりなのだと。


 アレは何なのか?


おおよそ、他種族の子供相手に発する言葉としては不適切なその問いにも、セイケンは咎めることなく、共感の意を示した。


「マコト文書を理解する多くの専門スタッフを抱え、財閥の全力支援を受け、共和国議員である父母もいて、本人もマコト文書の専門家として自他共に認める実力がある。竜神子支援機構の代表を務め、次元門を研究する専門チームにも所属している。そして表舞台に出てから一年と短く、まだ成人式も迎えていない子供です。こうして列挙してみても、そんな者などいる訳がない、という疑念は私も拭えないものです」


「だが、竜神の巫女アキはいる。実際、連邦の地にも降り立った。アレを替え玉であるとか、単なるお飾りなどと考えるほどの暗愚はここにはいない」


シセンが皆の総意を言葉にした。


「仰る通りで、アキは各種族の代表達から、皆を纏める要としての立ち位置を認められています。容易には替えの効かない要であることは、皆さんも実際に御覧になって理解された事でしょう。我が国にも竜神子となった者はいますが、どうかアキと比べるのだけは避けていただきたい。他の者に同じことを求めてはその者が潰れるだけです」


セイケンの言葉に、皆も頷くしかなかった。


多少、竜族の圧に耐えられるからと言って、アキのように傍らに立ってリラックスして雑談できるか、と言われれば、そんなことできる訳ないだろ、と百人に聞けば百人とも答える話だ。聞けば、アキは重度の竜愛好家でもあり、眺めているだけで幸せ、などとも口にしていると言うから理解し難い。


恐怖という感情をどこかに捨ててきたんじゃないか、とも思われるほどだったが、これは福慈様や世界樹とのやり取りの中で、かなり怖い思いをして周囲に助けられた逸話もあることから、そうした壊れた者ではないようではあるが。


それからも、実際にロングヒルに居る者として、アキが各勢力の上層部と簡単に接触できる理由や、様々な働きかけを行えた理由、その時期になった原因などをあれこれ聞かれることになった。


話をしていて皆が感じたのは、アキは別に未来が予知できる訳ではないし、こちらの事情に合わせた完全な回答を示せる訳でもない、という事だった。ある程度の方針や注意点は示せるが、それをこちらの実情に合わせて運用していくのには、各勢力の尽力が不可欠なのだと。


また、最善よりは最速を良しとする傾向もあり、それが実行しながら考える小鬼族のスタイルとの相性が良いのかもしれない、などという考察も出てくるのだった。





事前に小鬼帝国訪問の報告書が届いていたこともあって、セイケンが携えてきた連邦訪問の報告書の内容が開示されても、それほど大きな衝撃とはならなかった。小鬼帝国の報告書が正しいこと、アキが上空から眺めるだけで多くのことに気付く知を持つのだ、ということが追認できたという意味で。


ただ、自分達の手の内がそこまで見透かされること、異様な精度の地図を共和国が用意できていることなど、半信半疑だった部分が確定したことで、関係者達の意識の持ちようが変わったのも確かだった。


小鬼帝国は杜撰だったが連邦なら大丈夫、などという意見はあっけなくその支持を失った。マコト文書が示す日本の光景と、連邦のそれは似ている部分も多いことから、アキの分析能力もかなりの域にあると認めざるを得なくもなった。


白岩様の竜眼も、鬼の武のベールを剥ぐ力を見せつけることとなり、そんな竜族が頻繁に出入りし、研究に力を貸しているという事実は、やはり危機意識を強く持たせることとなった。


妖精族も、彼らの国や文化は異世界の話なのでさほど影響はないとしても、彼らの卓越した魔術の技は疑いようがなく、そんな彼らがやはり、ロングヒルで研究に手を貸しているのだから、恐ろしささえ覚えた。


鬼族からも研究者としてトウセイが参加しているのだが、そんな卓越した者達が集って行われる研究とは何なのか、漏れ聞こえてくる成果も、もっと真剣に吟味すべきではないか、となどなど。


そんな風にこれまでとは、同じ議論をするにしても姿勢が変わったのは確かだった。遠い地で行われる、あまり馴染みのない話ではなく、近々に差し迫った身近な問題として、どうすべきか、そう考えるようになったのだった。



ちなみに、婚活の方はあまり議論は盛り上がらなかった。人口減少や男女比の悪化などもあって、そもそも日本あちらと違って、いくさが身近にあって、危機意識もある鬼族で、結婚適齢期なのに余ってます、まだ独身でいたい、などという連中が見過ごされている訳がなかったからである。そんな中でも余っている者は、そもそも結婚に向いていないのだから、婚活を促しても効果は薄いのはわかりきっていた。

一応、子供を産むことを奨励する施策なども出るには出たが、子供が増えればその分、負担も増えるし、一人に割ける資源リソースも減ってしまうから、無計画に増やす訳にもいかない。


それと、財閥が意欲的に示してきている商品リストなども元に、魔導具の活用なども議論しつつ、何をすべきか、人々の検討は突き進んでいったのだった。





そして、各派閥で行われた議論もネタも出尽くした段階で、再び、鬼王レイゼンの元にライキ、シセンが各派閥から出た意見を持ち寄った。


「実際に彼らと対面し、ロングヒルで多くの種族と交流を続けているセイケンの言を持って、やっと危機意識も広まったな」


レイゼンの言に、二人もその通りと頷いた。


「セイケンに確認したところ、総武演での各種族が行った模擬戦について、光景を撮影した記録の提供についても、必要とあれば行う旨の提案があったとのことです」


百聞は一見に如かず、との言葉もある通り、今回のアキ達の訪問では、天空竜と直接対面したこと、鬼人形ブセイが兄弟子達と手合わせを行ったこと、妖精の市民達との交流が行われた事、洗礼の儀を取り仕切るアキや魔導人形達の姿を観たインパクトがやはり大きかった。


報告書や、口頭での報告では到底伝わらない生々しい感覚、明らかにこれまでの常識から逸脱した勢力、それも連邦に匹敵すると言っても過言でない者達がぞろぞろとやってきたのだ。


「人形遣いの連携技は確かに俺も観てみたいところだが。しかし良く許可したものだ」


「それだけ自信があるか、或いは危機意識の表れとも思えます」


「昔の感覚のまま、静観などされては奴らとて困るということでしょう」


ライキとシセンの意見は方向性は少し違うが、指摘する内容は同じと言えた。貧しくとも強さを増していく帝国に対して、連合は拮抗状態の維持にも苦労し始めている。連邦とて百戦百勝ではあっても、少しずつ削られていく事を防げてはいない。妖精族は中立の立ち位置だが、共和国と財閥は戦争回避を望み、竜族は不介入を標榜しているが、いつ風向きが変わって不思議ではない。


連合、共和国のどちらも連邦の意欲的な活動を求めているということだ。


そして、諸王達による大検討会も終わった事を受けて、レイゼンは事前に記しておいた腹案を二人に開示した。暫くして二人も目を通し終え、それぞれが考えを述べる。


「要約すれば、交流機会を逃さず、我らは求められて外へと向かい、得られた知と富を国に齎す、とのことですか」


「それと、窓口となる都市を連邦側でも設ける、とありますが、これは?」


「ロングヒルは全ての種族が集う交流都市として今後も不動の地位を築いていくだろう。だが、我ら鬼族は個の力が強いが故に、滞在できる人数制限が他種族よりもかなり厳しい。人族が街を開くなら、鬼族も開けばいい、そんな案だ。でなければロングヒルとの間に密な連絡網を構築した支援都市を設けるという話でもいい。恐らく後者の方が現実的だろう。何をするにも頭数を揃えねば勝負にならん」


レイゼンもすぐに方針を確定したい訳ではなく、実質的にロングヒルにおける鬼族の活動規模を増やせればそれでいい、というスタンスだった。


「幸い、我らが参加している活動も増えてきました。求められて参加する分、我らの負担も多少は軽減できましょう。帝国の治水事業には冬季派遣も行われるおつもりですか?」


「帝国は冬でも積雪のない地域、期間が多いと聞く。ならば少しでも出向いて手を貸そう。それと、例の呪いの研究にも率先して派遣するぞ。積雪前に研究拠点確保と人員派遣までは済ませる」


彼の言葉に、ライキ、シセンの二人も驚きながらも、納得して頷いた。


治水事業も、呪いの共同研究もどちらも大手を振って、鬼族の力を求められたところに提供しにいけば、交流ができて、現地での衣食住の多くはあちら持ち、更に協力することで感謝もされる、と良い事尽くめなのだ。それに派遣する人数はさほど多くなくていい。小さな力を沢山投入してなんとかなる話なら小鬼族が自前で何とかできる。それが厳しい難事業だからこそ鬼族の力が求められているのだ。


――こうして、鬼王レイゼンの鶴の一声で始まった、アキ達を連邦に招く催しは、僅か一日だけの訪問ではあったが、連邦中に大きな衝撃を与え、新たな時代の到来を市民達まで意識する、そんな転換点となった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございます。なかなか自分では気付けないので助かります。


本編補足の鬼族視点SS④後編終了です。


小鬼族の場合と違い、ちょっとおいで、来たよ、ってだけの軽い訪問なので、小鬼族のSS①~③よりも小粒になりました。鬼族側の雰囲気もこれである程度補完できたかなと思います。


セイケンも体を張って、竜族や妖精族の技を経験させられているので、そんな稀有な経験をしていて、対外折衝を任されるだけの若手のホープとくれば、打ち解け合うのも早かったようです。

鬼族の武を示せばいい、などと考える脳筋連中も、示した分だけ仕事が降ってくるぞ、と実例を示した上で脅されれば、肝も冷えるというものでしょう。

彼らの中での、竜神の巫女アキの姿がどんどん強大化していきそうですけど。


帝国がユリウス帝の元で即断即決できるのは高度な組織力と権力の集中が行われているからですが、連邦において鬼王レイゼンが思いついたら吉日とばかりに動けるのは彼の稀有なカリスマ性と、人口減に伴う層の薄さからくる、という点で両者には結構違いがあります。


まぁ、きっとこれからも連邦は少ないカードを最大限活かす活動を続けることでしょう。

蓋を開けてみたら、こんなにギリギリだったのか、と後世の歴史家達は驚くこと請け合いです。


さて、今回で十五章の補足は終わりで、定番の纏め3点を行ってから、十六章開始です。

あ、SS④の時点では、①マコト君降臨の顛末、②若竜と竜神子の交流前倒しの件はレイゼン達、一部上層部までにしか届いてません。どちらも大勢に伝えたからどうにかなるってもんでもありませんからね。


次回からの投稿予定は以下の通りです。

第十五章の人物について           四月六日(水) 二十一時五分

第十五章の施設、道具、魔術         四月十日(日) 二十一時五分

第十五章の各勢力について          四月十三日(水)二十一時五分

第十六章スタート              四月十七日(日)二十一時五分

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