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SS④:鬼族から見たアキ達の連邦訪問(前編)

前回のあらすじ:若い雄竜達と一緒に登山計画を検討して振り回された皆さんから、この夏にでも若竜と竜神子達の交流を前倒しする提案をすべし、と話が捻じ込まれました。ボクは提案を受けて動く、という体裁なので、ボクから言い出したとするよりは傷は浅く済むでしょう。済むといいなぁ……。(アキ視点)


今回は本編ではなく、鬼族連邦視点で三人称描写となります。読まなくても本編理解には何ら問題はありませんが、読むとより一層楽しめることでしょう。

鬼王レイゼンは、セイケンから届いた、アキ達の連邦訪問受諾の報に安堵した。竜は白岩様に変わり、空間鞄に入ってくる魔導人形達が小鬼ベースから人に変わったこと、妖精族も人数を減らし、帰り際に市民を三十人ほど喚んで市民層の交流に留めるとあるが、急ぎで頼んだことを考えれば、満額回答と言って良かった。


彼は武闘派代表ライキ、穏健派代表シセンに洗礼の儀に参加する者の選抜指示、自らも中道派に働き掛けて、これと思う者達を選びだしたのだった。


連邦は弧状列島の本島の北に位置しており、南端で帝国の皇帝領、連合のロングヒルと接している。その為、細長い連合や帝国と異なり、首都の周囲に諸王の領地が存在するというシンプルな構成となっていた。


それなら、諸王達の間で国力に差があって、それが発言力の差に繋がるかといえばあらず。


全員が等しい発言権を持ち、鬼王はそれに対して許認可を行う権力を持っているのだ。彼が拒否権を発動するのはよほどの場合のみである。


こんな統治方法であれば、連合であれば国力のある国の王が納得しないだろうし、帝国であれば、領土が細長い為に、ある程度の国々を束ねた地域毎のブロック制にしなければ、運用が破綻するだろう。


では、なぜ、連邦ではこれほどシンプルなやり方で問題が起きないのかといえば、それはひとえに、鬼王レイゼンが稀代の若き英雄であり、銃弾の雨の時代に国を纏め上げ、圧されていた戦線を立て直して、元の国境まで押し返すことに成功した、万人が認める王だからだった。


それに、緊急時でなければ、彼は諸王の意見をよく聞き、それを採用する度量の広さと、失敗したとしても鬼王の責である、として後から咎めるような真似をしない性格も、国民だけでなく諸王からも敬愛されていたからに他ならない。


何か文句があるなら文句は俺に言え、だが鬼同士で争ったりはするな、と言った具合である。

彼一人の強烈なカリスマによって支えられており先々を考えると危ういところもあるのだが、長命種である鬼族からすれば、百年、二百年程度は大した話ではない。それより銃弾の雨によって傷ついた国力はまだまだ癒えておらず、今は偉大なる王の元で一致団結すべし、と意思統一ができていたのだ。


だから、今回の洗礼の儀における人選も、鬼王レイゼンが必要なことと諸王達を集めて大方針を話して、後は各派閥に人選は任せると言うだけで事足りたのだった。中道派は場合によっては武闘派寄りになったり、穏健派になったりと事案によって態度を変える者達で、他の派閥と違って方針が明確でない分、代表もいない不安定さはあったが、これも王自ら声を掛けて、人選しようぜ、と集めてしまえば、後は彼らの間で人選が進むので、手間はかからなかった。



連邦領を多少、蛇行する程度で、白岩様、アキ、お付きの魔導人形達、大勢の妖精族が首都に一時的に用意された共和国の大使館領に降り立った。


神話の世界のような非現実的な情景ではあったが、集団術式による耐性強化と、何より、あの小鬼族達ですら、粗相をすることなく、彼らの訪問を乗り切ったことを皆は知っており、洗礼の儀に参加した者達もまた、堂々とした態度を崩すことなく、儀式を乗り切ってみせた。


訪問の前に、あくまでも洗礼の儀を執り行うのは、竜族と竜神の巫女であることから、鬼王レイゼンやライキ、シセンは参加しないことを伝え、鬼王自ら、皆ならば竜を相手としても、鬼族の姿をしっかりと見せつけると判ってるぞ、などと激励してたのも功を奏したのかもしれない。


或いは、各派閥からも自他共に認める力量を持つ者達が集められたからかもしれない。


いずれにせよ、洗礼の儀は表向きには淡々と五分程度の短い時間で平穏のうちに終わることになった。



鬼人形ブセイに兄弟子達が手合わせを行う件では、鬼王レイゼンは何人が手合わせをするのかも含めて、全てを彼ら一門の判断に一任した。余すことなく力量を見極めること、戦い終えた後でその内容の仔細を伝えることだけを命じて。


一門は、それに対して、力に優れたフザン、技に優れたシフウ、そして一門の中で誰もが認める手練れであるシホウの三名を擁立することで応えた。


彼らとブセイの戦いは、魔導具によって克明に記録され、その情報は実際に手を合わせた三人の言も含めて、彼ら一門によって仔細に分析されることとなった。特に魔導人形としての技は、戦場において魔導人形が姿を見せた例も殆どなかったことから、術式を得意とする他流派の力まで借りる異例の対応となった。


そして、短い時間ではあったが、訪問した者達とレイゼン、ライキ、シセンの三名が行った歓談の際に交わされた言葉を元に、今後の連邦は、鬼族はどうあるべきか、何をすべきか、既存の派閥を超えた横断的な大検討会が開かれることにもなった。


アキ達が去る際に、召喚した市民層の妖精達三十人とは、これもまた予め選抜しておいた鬼族の市民達との交流会も開催され、多くの語らいと、妖精達、鬼族達双方の隠し芸披露などもあって、大盛況だったという。これは白岩様からの魔力圧がなく、落ち着いて対応できたことが大きかった。

妖精達が背負っていた識別用の宝珠入り鞄を降ろして、送還されていき、幻のように消え去った様は、歌に詠まれ、絵心のある者が筆を取り、新聞の速報が連邦中を賑わすことともなった。





風通しの良い庭に面した広間で、鬼王レイゼン、武闘派代表ライキ、穏健派代表シセンが会談の場を設けていた。


畳敷きの部屋であり、深い軒先の造りであり、地面に反射した陽光が間接的に照らすことで、室内は程良い明るさと涼しさが得られている。


三人は挨拶もそこそこ、本題に入ることにした。


「二人共、よく来た。それで、狙いは当たったか?」


レイゼンが切り出すと、ライキがまずは応えた。


「レイゼン様の狙い通り、竜、街エルフ、妖精、それと竜神の巫女を目の当たりにしたことで、多くの者達が時代の変化を感じ取りました」


「我らも同様で、与し易しなどと侮る者は皆無でした」


シセンの答えも期待通りだった事にレイゼンも安堵した。


「あれらを目の当たりにしても尚、重い腰を上げねば、手の打ちようが無かったが、これで未来を憂う思いは皆が等しく持てたか」


レイゼンの言葉に二人も頭を下げて賛同の意を示した。





「白岩様の威に対して対抗心を燃やす奴はいないだろうが、他の連中に対してはどんな意見が出た?」


腕に自信有りの武闘派の見解を問うた。


「街エルフの魔導人形達は、評判通り、彼らの部隊と我らの手練で同等との評でした。彼らの精妙なる連携を加味すれば今少し高くなるかもしれませぬ。妖精族はあまりに在り方が違い過ぎて比較は困難、されど争う相手ではないとの結論は揺るぎませんでした」


「まぁ、奴らは竜族に並び立つと自負している連中だ。それくらいの判断で妥当だろう。穏健派もそこは大差ないか?」


「はい」


「中道派も意識に多少の差はあるが同様だった。それで竜神の巫女、アキについてはどんな意見が出た?」


レイゼンはそれこそが聞きたいとばかりに、目を細めた。


「天空竜の傍らにあって自然体を崩さず、我々、鬼族に対しても童のように親しみを示し、それでいながら、その声は心に強く響き、何とも判断に迷う存在と言ったところでしょうか」


「天空竜、魔導人形、妖精に囲まれ、今回の訪問では、存在感で言えば白岩様が突き抜けているが、アキの立ち位置は明らかに中心にあった。魔力は感じられず、立ち振る舞いも武人としては稚拙。その揃わぬ様をどう捉えた?」


今度は穏健派の意見が聞きたいと話をシセンに振る。


「あの振る舞いを見て、誰かに命じられたお飾り等と申す阿呆はおらず、己が意志であの場に立ち、意を通す様には恐れすら覚えたとの意見も出ておりました」


その答えにレイゼンは満足そうに頷いた。


「それでいい。見た目詐欺なのは妖精族と同じだ。妖精族と違い、どう見ても手強さとは無縁だが、アキを取り巻く者達が進んで手を貸す、その様こそがアキの力だ」


「皆が進んで手を貸すと言う意味では、レイゼン様に似てるところもありますか」


「俺と? 俺の場合は、先陣をきれば、他の者が続くいくさ場での力だが、アキのそれは、そうではない。だいたい、アキが前に出ようとしたら皆が止めるからな」


無論、俺だって止める、と彼は笑った。





「鬼人形ブセイ、その実力を見事に示したが、報告書は読んだか?」


「自身より大きな背丈の者と戦い慣れておらぬ事から、共和国でも鬼人形は量産されていない、と考えられること。その力量は達人の域にありとのことでした」


「幻影と目潰しの組み合わせは正に初見殺し。間合いが離れれば効果を減ずるとの見立てですが、街エルフの魔導人形達の誰もが使ってくる技となれば気休めでしょう」


シセンの話した通り、呪紋があれば発動できると言うのはかなりの強みだった。


「ブセイ達、魔導人形も我らと同様、それぞれが研鑽を積んで力量を高めると確認できただけでも良しと考えよう。それで、いい刺激にはなったか?」


「世界は広く、鬼の強さに慢心してはならないと、多くの者が意識を改めました」


「全員じゃないのか」


「研鑽を積んでもあの域までは届かない、と心が折れた者もいくらか出ていましたな」


武闘派はまだしも、穏健派の方は、個で抗うのも至難、まして相手は集団戦こそが真骨頂と言うのだから、意欲が萎えるのも、一概には責められないだろう。


「そこは各流派に、人や小鬼相手に危ない橋を渡らず制する集団での戦い方を研究させていくか。群れに個で抗えば、無傷では済まないからな」


「仰せのとおりに」


そして、三人とも前提から自然と妖精族は外していた。彼らもまた個としての戦闘力に優れながら、群れの強さも併せ持ち、空を自在に飛び、姿を隠し、瞬時に呪文を放ってきて、その魔力も尽きないと言うのだから、チート過ぎる。


そんな連中が同じ世界に居ない事に感謝したい気持ちだった。





「市民同士の交流も紙面を賑わせていたな」


「誰もが当たり前のように呪文を無詠唱で使い、それも我らが手足を振り回すように、生活の中で普段使いしているのが何より目を惹いたようです」


「住まう環境の違いがなく、皆が同じところに住んでいるようともあり、予め聞いていた話とも符合します」


「アキの見立てでは、彼らも竜族並みに住む場所に拘りがあるようだ。皆が空を飛び、頻繁に行き来するなら、範囲は広くとも、風習に差は生まれないだろう」


妖精界に住む種族が皆、妖精という訳では無さそうなのは、安堵できる材料だ。


ここまで一通り確認した限りでは、安定しながらも腰が重い鬼族の在り方に強い衝撃を与えるのに成功したのは間違いなかった。


ただ、それだけでは足りない。


大きな時代の変化が訪れた、そう認識したのであれば、その次が重要なのだ。


ならば、連邦は、鬼族は次にどう動くべきか、いつ動くべきか、どれほどの力を投入すべきか。

鬼王レイゼンにも腹案はあるが、皆が危機意識を持ち、一人一人が我が事として動かねば到底勝てぬ。


そして、彼が皆を集めてこう語ったのだ。


「良きものは残し、改めるべき事は改めていく。新勢力の台頭は銃弾の雨に匹敵する国難だ。内に籠っていては流れに取り残されて、相対的には衰退の道を辿ろう。そうならない為にも皆の力が必要だ。忌憚なき意見を出していくのだ。ロングヒルに出向いている者達が伝える情報をよく吟味せよ」


アキ達の連邦訪問の報告書が届く時期も示し、それを見る前に先ず自分達だけで限界まで考えろ、と方針を示した。


そして、報告書と共に、ロングヒルに出向しているセイケン達も一時帰国するので、彼らと報告書を元に、更に考えを研ぎ澄ませるのだ、と。


この檄に、諸王やその参謀達も含めて大いに奮起することとなった。妖精達との交流を担った市民達まで巻き込んでの大検討会は国のまつりごとを滞らせるほどであったが、レイゼンはそれを是とした。今、何よりも重要なのは、皆で今を見つめ、未来を考えることにあるのだ、と。

評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないので助かります。


さて、本編補足ということで、アキ達の訪問を迎える鬼族側視点のSS④スタートです。


……ただ、置かれた状況を元に連邦に即した形で書いたのに、いざ書き終えて、帝国側と見比べてみると、体制の薄さ、社会的システムの簡素さが目立つ内容となりました。まぁ、そもそも頭数が小鬼>>人>>鬼なのと、領土的にも連邦は半島的に纏まっているので、シンプルな仕組みで十分なのも確かです。

後は長命種なんで、人口減のダメージはやはり小鬼族より遥かに大きかったりします。

百戦百勝ではあるんですけどね。少しずつ衰退してはいくとしても。


それと帝国の場合は諸勢力代表としての訪問+妖精族の一大演出&交流会、と大規模化してたのに対して、今回の連邦訪問は、お呼ばれしたアキ(+竜、街エルフ、妖精)が個人的に訪問します、おまけで洗礼の儀もやりますってだけなので、単純比較するのもどうかって話はあります。


インフラ面では太い幹線道路を整備し、大きな河川には堤防や遊水地を整備するなど、風水害に対する強靭さや物流網などでは三大勢力の中では断トツトップです。何せ鬼族は正面から戦えば圧勝しちゃいますから。となれば、迅速に戦力を集めて敵を叩くのに注力するのがベストとなります。


次回後編では、新たな諸勢力の台頭を受けて鬼族の諸王達があれこれ考え、そして追加でアキ達からの報告書やセイケンとの問答を受けて、あれこれ悩む話になります。少ない手札と、個として強いが故に受け入れ人数を制限される縛りがある中で、どうにかしていこうと足掻きます。


次回からの投稿予定は以下の通りです。


SS④:鬼族から見たアキ達の連邦訪問(後編)四月三日(日) 二十一時五分

第十五章の人物について           四月六日(水) 二十一時五分

第十五章の施設、道具、魔術         四月十日(日) 二十一時五分

第十五章の各勢力について          四月十三日(水)二十一時五分

第十六章スタート              四月十七日(日)二十一時五分


<雑記>

四日前から花粉症の症状(くしゃみ、鼻水、目の痒み)が悪化して大変だったんですが、今日は辛かったのは朝だけ。結構波があるんで、病院に行こうか悩ましいところです。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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