表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
431/769

15-25.消失術式、竜爪、空間跳躍の類似性(後編)

前回のあらすじ:依代の君が使った技について様々な角度からの検証を師匠が話してくれました。(アキ視点)

ふわふわタオルは手放せないけれど、話を再開できる状態にまでは落ち着くことができた。そこに、ほぃっとトラ吉さんが飛び上がって、膝の上で座ってきてくれる。


トラ吉さんの温かさが感じられて、更に落ち着くことができた。


「アキもトラ吉にいつまでも頼ってるんじゃないよ? 今はそれでいいが」


師匠も子供だねぇ、なんて呆れた顔をしている。


でも、人ではない何か、なんてモノに変わりたいなんて望みは欠片もないボクからしたら、その可能性を示唆されただけで、心が乱れるのも仕方ないと思う。変身ヒーローは、変身を解除して日常に戻れるからいいのであって、不可逆の変身なんてしたなら、その後数話で御役目終了だ。


<それでアキ、実際に食らってみてどうであった?>


埒が明かないと、黒姫様が話を進めてくれた。


食らった、というのは語弊がある言い回しかな。


『そうですね、ボクが盾をしっかり構えて守りに入ってるとするじゃないですか。で、依代の君は目の前から、野球の硬球、あー、木材のコルクやゴムを材料にした小さな球を芯に、その周りに分厚く綿糸を撒いて握り拳大の大きさにして、表面を革で覆った球技用のボール、つまり、石ほど固くないけど、当たると骨折とかもするそれを、ボクの構えた盾の中心をわざと外した位置、受け流されるようなところをわざわざ狙って、手加減抜きの全力、いっそ当たって死んでしまえって気合を込めて投げつけたってところでしょうか』


例えがわかりにくいだろうからと、日本あちらで触った硬球の重さや反発力、グローブで受けても手が痛くなる感覚なども言葉に乗せて伝えてみた。


「つまり、外さない距離から、確実に逸らせるところ目掛けて、よほど当たり所が悪くなければ死なない遊技用の球を、殺す気で投げつけた、とな?」


シャーリス様が、訓練用の槍をムカついた相手に全力で投げつけるようなものか、と一応納得してくれた。


「ねぇ、アキ。今の説明は万一の事態でも後に傷など残す気はなかった、けれどこの世から消えてしまえ、という自身の意思は曲げる気はない、という二律背反を実現させたという意味では納得できるわ。でも、消失術式は間違いなくアキに直撃した。その周囲の大気や地面が消えたのだからそれは間違いない。なぜ耐えられたのかしら? というか、棒立ちにしか見えなかったけれど、危機意識とか無かったの?」


エリーの疑問も尤もだ。というか当事者にならないとわからない話かも。


「これは感覚的な話だけど、心に働きかける術って、対象がこちらにしっかりと意識を向けて、何か負い目とかがあったりすることで心に隙間が生じていて、そこを抉って入り込んでいくことで効果を発揮する、そんな感じだと思う。依代の君のそれは、確かに全力でボクを嫌ってはいたけれど、ボクは何故かわからなかったし、だから負い目もなくて、放たれた術式が入り込む隙もなく弾かれたってとこかな。それで危機意識の話だけど、わざと外す感があってヤバいって気はしなかった。だから、うわー、なんか怒ってるぞ、とは思ったけど、それくらい」


そう説明すると、師匠は呆れた感情を露わにした。


「まさか、魔術師見習いからそんな視点の意見が出てくるなんて驚きだよ。エリーにはまだ早いが一応覚えておくといい。火球の術式のように見える奴ならわかりやすいが、自身に向かってこない外れ術式だってのは、感覚的にわかるだろう? それと同じで、精神に働きかける術式も、自分に向かってきてるかどうか、受ける側に立てば理解できるんだよ。ただ、真っ直ぐ向かってなくとも当たるなら守るのが自然な反応だ。魔導師も高位となれば、自身の高めた魔力自体が術式への守りとなる。これくらいまでの術式なら、何もせずとも無効化できる、そんな判断もできる訳さ」


<それは竜族も同じだ。低位階の術式は発動される流れを見ただけで害があるかないか判断できる>


ふむふむ。


「妖精族もそれは変わらない。それでも無防備に受けるような真似などはせずに、ちゃんと避けるなり、術式の基点を撃ち抜いて潰すなり、障壁を張って防ぐなりはして見せる、その方が「らしい」だろう?」


シャーリスさんがぶっちゃけ話を教えてくれた。確かに食らって無傷なのと、懸命に被弾しないように手を打つなら、華奢で可愛い妖精さんらしいのは後者だ。


「つまり、アキ様にとっては、あの消失術式は自身の纏う魔力で弾ける程度であったと」


ケイティさんもなんか達観したような遠い眼差しを向けてきた。


「そもそも、ケイティが放つ魔力撃すら通じない時点で、常識枠から逸脱してると言えるがね。さて、アキ。依代の君の放ったあの術式だが、瞬間発動できる竜族や妖精族、それに直撃する前に術式を展開できる程度の力がある魔導師なら、何とかできるが、アレを並の術者や、魔導師でない人が食らえばどうなるか想像してごらん」


ちょっとイメージしてみたけど、碌な結果にはなりそうにない。


「その表情ならわかったようだが、護符程度じゃ気休めレベル、耐えられずに周りの地面なんかと同様、すっぱり消えちまってただろうねぇ。つまり、依代の君は、手加減する気がない竜族や妖精族みたいなものなのさ。一般人からすれば放たれる術式が熱線だろうと、投槍だろうと、消失だろうと変わらない。アレはそういう存在だ。しかも魔力を抑えていない竜族と同様、溢れ出ている神力だけでも、人にとっては祝福どころか害になるレベル。薬も多過ぎれば毒になる。害する気がなく、理性的な振舞いをしてくれてるからまだいいが、あの神力は早急に何とかしないと不味いのさ」


瞬間発動された術式なんて、一般人からすればいきなりぶっ放された銃弾みたいなモノだ。何か考える間もなく撃ち抜かれて、当たり所が悪ければ即死するだろう。





「さて、それじゃ、議題の③、依代の君の取り扱いだ。一応、過去の遺恨はなし、と本人も言っているが、アキと依代の君は水と油、ミア救出という共通目標が無ければ、決して相いれない関係にあると言っても過言じゃない。彼にはアキと活動時間帯をズラすことで、自身の力がコントロールできるようになるまでは、偶然にでも出会うことがないよう過ごして貰うことにしたよ」


「あの感じならいきなり暴発はもう無さそうでしたけど?」


「暴発せずとも不満が積もり積もって爆発ならありうるってことだよ。それに経験がない依代の君にとっては、思い通りにならない事だらけでストレスは溜まる一方で、ガス抜きの方法も知らない。だからとりあえず一か月。竜族と妖精族が常に誰か一人はローテーション体制で身近にいるようにして、それで様々な経験を積んで貰う。あとね、依代の君には毎日、手紙を書いて貰うことにした。アキ宛の手紙だ。アキはそれに対して返事を書くこと。検閲はするがよほどの内容でなければ手は出さないからね」


改めて説明されると、依代の君も大変な状況だ。ミア姉がこちらの世界にいないこと、ミア姉が自身を見てくれないこと、この2つは、どうにもならない巨大なストレス源だ。それに比べて、彼には今、ボクと違って支えてくれる人達も家族もいない。神官さん達は望めば喜んで協力するだろうけれど、それで育まれる関係はあまり心の成長には寄与しそうにないね。


「手紙、ですか。絵日記とか?」


「「マコトくん」は見た風景や物を素早く描くのを得意としているから、まぁ絵を描くのも良い経験になるだろうね。アキはあまり上から目線にならないように、アキの感覚質クオリアについて伝えておやり。自身のそれとの違いを知ることもまた、依代の君の心を育むことになるだろうさ」


ふむふむ。


畳水練な知に経験を足すことで、しっかりとした心を育てる。となると、彼が今後一か月、経験するであろうことの多くは、過去にボクが経験した内容と同じか近いってことだ。なら、確かに感覚質クオリアに該当することも伝えられるだろう。


「わかりました。ケイティさん、時間調整お願いします。あまり慌てて書くのも悪いですから」


「午後のお茶の時間を少し伸ばすことにしましょう。手紙も量を求めている訳ではありませんから、それくらいで十分と思います」


ケイティさんの言う通り、目的は彼とボクの交流を通じて反発を減らすこと、互いの理解を深めることにある。彼がある程度、自身をコントロールできるようになったなら、直接対面した方が効率もいいからね。





「最後は、研究組の最優先課題だ。昨日も話に出たように、依代の君の神力をどうにかして弱めるか、抑えるかして、漏れ出す神力を可能ならゼロにする、その魔導具なり術式なりの開発を行う方針だよ。全員参加、依代の君にも適宜、参加して貰うつもりだ。何せ神力の使い手なんて、ウォルコットの助手のダニエルくらいしか宛がないからね」


「全員というと、白竜さんも?」


「勿論そうさ。黒姫様や白岩様にも手を貸していただいて、今それぞれが抱えている案件を後回しにしてでも、何とかする。そう考えておくれ」


「雲取様や他の雌竜さん達は忙しそうですけど、あ、だから白竜さんだけ、と」


「術式の研究に熱心で、技に長けている方だからね」


<私も直接、対面してみて理解したが、アレは連樹や世界樹とも違う、移ろいやすい存在だ。依代で現身を得はしたが、まだ己が定まっておらぬ。「死の大地」の呪いとも相性が悪い。アキの例えでいうと、彼は強いが隙だらけで脆いのだ。この目で見ても、消失術式に手が届くにも関わらず、あれほど安定性を欠いているとは驚きだった>


「信念、在り方は柔軟性を欠いていると思いますけれど、柔軟性と安定性は別ですか?」


<別だ。堅いが脆い。突き立てた棒のようなものだ。山と違ってぽっきり折れる>


「妾達も早急に神術への理解を深めて、対抗術式を召喚体に組み込むつもりじゃ。経路(パス)を通じて繋がっていることの危険性が改めて浮き彫りになった格好よな。ただ、いずれは強大な呪いとも対峙せねばならなかったところ。良い機会とも思っている」


シャーリスさんも、世界の(ことわり)に沿った術式とは違うから、かなり危機意識を持ったようだ。


「国の方は平気ですか?」


「……そちらは、何とかする。何とかならずとも一か月ズレただけなら、後から何とか挽回しよう」


重鎮の誰か一人がこちらに常に来てる程度なら何とかなる、と。

お爺ちゃんがフォローするかと思ったら、その気はないみたい。


「儂は済まぬが、今回はできるだけ、関係は持たぬつもりじゃ。何せ、この身は妖精界とこちらを繋ぐ重要な意味も持っていそうじゃからな。下手に召喚体が消されて、再召喚に支障が出たりでもしたら全てが御破算、それは避けたいんじゃよ。勿論、彼が自身をコントロールできるようになったなら、信仰によって成立する神とはいかなる存在か、色々と話はしたいがのぉ」


なるほど。


「となると、ボクは本国にいるマサトさんやロゼッタさんと相談もしておいた方が良さそうですね」


「非公開のマコト文書を読むために館で過ごす件ですね」


ケイティさんの言う通り。


「高魔力耐性があって、ミア姉、リア姉、それとボクとも近くて、マコト文書にも精通しているロゼッタさんとの交流はきっと彼にとっても色々と得るものがあるだろうから。ただ、忙しいのと、安全第一でないと不味い立場の方でもあるから、その辺りは色々と要相談かなって」


「確かに。では調整の場は設けることにします」


これで、一応、段取りは良し。早ければ一か月後には、海を渡ってあちらに行くのか。


「そもそも共和国で、依代の君の入国を認めるかどうか、という話もあるから、そこはヤスケ殿に相談しておくんだね。財閥は彼の参加を諸手で賛成するだろうが、アキが一人増えるようなもんだ。犬猫を飼うのとは訳が違う。ミア殿が集めたアキの為のスタッフは全員、こちらに引き連れてきてるんだろう? きっとこの一か月は準備と調整で大忙しだ」


師匠は所詮他人事と、意地の悪い顔で笑った。


「彼の近くにあるだけで自然と量産されてしまう神器についてはどう考えてます?」


気になったので、質問をぶつけてみた。


「神器なんてもんは、自身の魔力属性と相性が悪い魔力ががっつり込められた魔導具みたいなもんだ。たまたま込められた神力と繋がりの深い神がいる、だからこそ、その繋がりを通じて、神の力を借りる触媒として用いられるだけで、元となる品の種類も千差万別ってもんだ。扱いに困るから量産はしたくないんだが、一つにすると手に負えない代物になっちまう。まぁそこはおいおい考えるよ。研究組も頭数は多いんだ。皆で相談すれば何かいい案もでるだろうさ」


師匠もそこは現時点ではノープランか。

お、もう話はないかと思ったらエリーが手を挙げた。


「黒姫様には始めて話すことですが、扱う内容が並みの術者の手に余る高難度なものであり、かなりの危険性もあります。皆の生活を支える民が不安に思うことが無いよう、何か行う場合には必ず調整組の誰かに声を掛けてください」


<例の風洞実験の顛末じゃな。心得た。そこは注意しよう>


黒姫様も、不安に思うのも当然と頷いてくれて、一応、これで挙げられていた項目を一通り相談することはできた。依代の君がいる前ではさらりとしか話せなかった内容だけど、改めて列挙してみると、取り扱い注意、火気厳禁の爆弾みたいな話だ。


同じマコトだからと、少し甘い認識だったかもしれない。

ただ、良いこともある。


「アキ様、今、考えられたこともお話ください」


う、ケイティさんが何故かボクの心を読んできた。


「アキ、ほら、話なさい」


エリーまで、国民に人気の王女が見せちゃいけない笑顔を浮かべて迫ってきた。


「そんな警戒されるような話じゃないですよ? ただ、一か月後にはこの世界でもダントツの力量を持つ神術の使い手が仲間になって、世界の外にも行ける黒姫様、世界の外に根を張ってるっぽい世界樹の神様と、既存の枠を超えた部分に手が届く方々が増えてきて、次元門構築に向けて体制が整ってきたなーって感じただけ」


<アキ?>


黒姫様が、わかってるよなぁ?と思念波で念押ししてきた。


「僕のような魔術師見習いじゃなく、実力のある方に専門分野をお任せできる、そっちの意味だけですよ。ボクは必要もないのに危ないとこには手は出しません」


というか、雲取様や黒姫様の診立てでも、ボクの魂の不安定さが解消されるのは当面先のようだし、それが原因で、短い時間しか起きていられない状況が改善されてからでないと、とてもじゃないけど、手を出す気にはなれなかった。


「アキはアキにしかできないところを担えばいい。これだけその道に長けた者達が集っておるのじゃ。妾もそうじゃが、集わなければきっと思いつきもしなかった、手が届かなかったであろうことも多い。安心して任せることじゃ」


シャーリスさんがふわりと飛んできて、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。

少し、気が急いていたかもしれないね。


「にゃ」


トラ吉さんも、慌てるなよー、って感じだ。


 ふぅ。


「直接会うのも禁じられて、手紙を送り合うだけだから大丈夫ですよ。それに一か月後と言えば、秋の収穫までもう少し。全国で竜達と竜神子が出会い、緩い提携を約束する儀式を執り行うことになりますからね。そっちの準備の方で頑張ります」


一応、ボクも全国の竜神子を支援する立場だからね。ぼーっとしてたらすぐ本番を迎えちゃう。

そうアピールすると、一応、皆さんもそれもそうかと納得してくれたのだった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないので助かります。

あれ、書いてたら、彼の神術の限界とかに触れる流れにならなかった。

まぁ、そちらは今後行われるだろう研究組との活動の際にでも触れることにします。

何にせよ、魔術の師や、竜族、妖精族の使い手を交えての意見交換も終わりました。

本編で書かれているように、暫く、依代の君は隠れキャラ状態です。

ちらちらと様子は描写しますけどね。

次回の投稿は、三月二十七日(日)二十一時五分です。


<雑記(連投中は宣伝継続)>

新作の短期集中連載始めてます。……短期の筈が全37話。なぜそうなったんだか。


作品名:ゲームに侵食された世界で、今日も俺は空を飛ぶ


現代社会+ゲーム+サラリーマン+空を飛ぶ+変身+アクション(戦闘)+恋愛って感じの作品です。ジャンル「アクション」ってことで、サクサク読めると思います。


2022年2月16日から毎朝7:05に投稿してます。


明日、2022年3月24日に投稿する37話で完結です。

興味がありましたら、ぜひ読んでみてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
評価・ブックマーク・レビュー・感想・いいねなどいただけたら、執筆意欲Upにもなり幸いです。

他の人も読んで欲しいと思えたらクリック投票(MAX 1日1回)お願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ