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2-33.新生活七日目④

前話のあらすじ:鬼族向け決戦兵器『投槍』に関する説明の話でした。まぁ、使い勝手がいい武器ではないんですけどね。


ちょっと用事があり、予定より早い投稿になりました。すみません。

 お茶の時間、やはり父さん、母さんは不在だ。


 砂糖醤油で味付けされた『おから餅』を食べて、濃いめの緑茶を飲み、ゆっくり休む。

 簡単お茶請けシリーズということで、やはりアイリーンさんのお手製だ。

 こういう餅々した食べ物は、スナック系菓子やケーキとかのふんわりさとは違った良さがあるよね。


「結構、揉めているんでしょうか?」


「大方、小鬼達の帆船のタイプと用途辺りで、説明を求められているんだろうさ」


「街エルフの皆さんなら、普通に教育済みな分野の話ではないんですか?」


「いくらなんでも、そう何でも義務教育化はしてないよ。だいたい我々が運用している帆船の種類自体、多くはない。あちらでの多様な帆のタイプや用途に応じた船種なんてものが語れるほど、一般化している技術でもないんだ」


「まぁ、安定した運用ができる場がなければ、船の改良がそれほど進むわけもなしと。それだと、僕が語った帆船の秘密シリーズ辺りの本が教材でしょうか」


「そうなる。二人ともミア姉が書いた本は一通り読んでいるから、説明役に駆り出されているんだろう」


「それは何ともお疲れ様なことで。人材探索の方も話が進んでいるといいですね」


「実際、人材が見つかったとしても、アキが学ぶ場合、二つの条件のどちらかを満たす必要がある。だから、そちらから絞り込めば、明日には結果が出ているだろう」


 リア姉が指を二本立てて、どちらかと強調する。


「条件? 人柄とか?」


「アキは能力さえあれば人柄や性格は気にしないと言ったじゃないか。二つの条件とは、教師として我が国に来ることができるか、またはアキがその人物の元まで行って学ぶか、という話だ」


「来てもらうのは大変そうですね」


「大変だとも。簡単に出国を許可されるような人物なら、そもそも能力は期待できそうにないからな」


 同感。移動が大変な世界で、行ってもいいよと放り出される人が、高い能力を持つとは思えない。


「後は、こちらから出掛けていくことになると。遠いと大変ですね」


「アキ、まず、成人してないと出国許可は出ないぞ」


「えぇ!?」


 それだと、選択肢は事実上ないってことになっちゃう。


「やっぱり落ち込むか」


「それはそうですよ。教育課程の終了まで百年とか言われているのに」


「実は裏技が一つある。国外で一ヶ所だけ、我が国の大使館があって、その敷地の中は、我が国の領土扱いされるんだ」


「それって、先生が大使館まで来てくれれば、国外でも学べるということですか?」


「そうなる。我が国に招聘するだけ、よりは多少はマシだろう?」


「はい。今はそれ以上は望みようがないですし、どちらかを満たす人が現れることを祈ることにします」


「アキはどの神を信仰しているんだ?」


 リア姉がおや、と表情を変えた。


「特定の誰かではなく、人事を尽くしたので、人事の及ばないところを司る神様に祈る感じですね」


「何とも漠然とした祈り方だね」


「僕もそう思います」


「一応、神に祈るのなら、願いが成就して暁には何をするかきちんと言葉にしておくように注意したほうがいい。自分ができる範囲であるように、あまり無理のないように注意するんだ」


 リア姉が神妙な顔をして言うので、僕もちょっと認識がズレていたことを自覚した。そうだった、こっちでは神様が実在しているんだった。


「……それって、実際、助力してくれた神様への礼を失すると、天罰が下るとか?」


「そうなる。もっとも神もいきなり罰を与えたりはせず、催促をする程度のようだが」


「うーん、どんな神様がいるかも知らないので、ちょっと、今回は祈るのはやめておこうと思います」


「それがいい。こちらでは、神に誓って、あるいは願ってというのは、リスクを伴う行為だ。軽々しく行うものじゃない。よく覚えておいてくれ」


「はい」


 注意しないと。下手をすると頼んでもいないのに、神が助力したぞ、とか言い出してくるような事態もあるかもしれないんだから。





今日はちょっと時間があるので、髪を洗って、お風呂でのんびり。肩が楽になるからお風呂はほんと心地いい。ただ、寝ないように注意しないと、またケイティさんに助けて貰うことになるから、それだけは注意する。


今日は試しに水気を飛ばすのを魔術でやってみるというので、お願いしてみたけど、呆気なく魔術が無効化されてしまって、全然効果なし。仕方ないので、先日と同様、タオルで水気を取っていくんだけど、用意されたタオルの吸水性が異様に高くて、そっと押し当てただけで、あっという間に水気がほとんど取れてしまう。前回は慌ただしかったこともあって注意して見てなかったから気付かなかった。


「ケイティさん、そのタオル、なんかとっても凄いですね。高付加価値製品なんでしょうか」


 僕の驚きに、ケイティさんはちょっと自慢げに微笑んだ。


「これは、特殊繊維では定評のある森エルフが作り上げたタオルなんですよ。肌や髪に優しいので、街エルフの間で人気の定番商品なんです」


 そういって、取り換えながら僕の濡れた髪からしっかり水気と取ってくれた。少ししっとりしている程度で、後はドライヤーを軽くあてるだけでいい。前回は復習の時間を考えると厳しいということで、タオルで念入りに水気を取っただけだったとのこと。


 そう、ドライヤー。普通にありました。地球あちらのと違うことと言えば、電源ケーブルがない程度。


 根元から毛先に向けて温風をあてるとか、髪からある程度離してつかうとか、最後に送風機能で髪を冷やすとか、いろいろ教わった。


「そのドライヤーもやはり魔導具ですか?」


「そうですね。一般的な魔導具ですので、アキ様は触れないようにご注意ください」


「すみません。よろしくお願いします」


 そうなると、髪の量も多いし、乾かすのに時間がかかるからドライヤーは必要だけど、僕は使えないからお願いするしかないと。なんだかほんと、やって貰ってばかりで子供みたいだ。


「はい、お終いです」


 髪を見てみると、サラサラで、艶々で素敵な感じだ。銀色なこともあって、光を反射してキラキラしてる。


「ありがとうございました」


「いえいえ、どういたしまして」


 ケイティさんが後片付けしている間に、今日会ったことを思い出してみる。

 魔術の先生はお願いしたからOK、講義は気になった小鬼の帆船についてはお願いしたからOK、ベリルさんには今度、お話を聞く約束をしたからOK、ジョージさんとの子供向け読み物も結構話せたからOKってことで、今日は珍しく復習で特に書きたい話がない。


「ケイティさん、今日は特に復習でノートに書いておくような課題も残っていないので、ちょっとだけお話しましょう。以前、約束していた『はやぶさの書』の話」


 僕の提案に、ちょっと考えたケイティさんだったけど、了承してくれた。ただし、僕がベットの近くにいること、という条件で。


「本で読んでいるくらいなので、はやぶさ自身については良く知っていると思うんですが、実ははやぶさには、その次の二号機もあるって知ってました?」


 ちょっと聞いてみる。


「二号機ですか? いえ、知りませんが、やはり遠い小惑星まで行く任務を行ったのでしょうか?」


「やっぱり、興味があります?」


「はい、もちろんです」


「僕がこちらに来る一カ月前、二〇一八年六月に小惑星リュウグウに到着して詳細な観測を開始したんですよね。それまでの工程でトラブルも特になし。それも、すべて先代のはやぶさで多くの知見を得られたからだったんですよ」


「そのリュウグウというのは、イトカワとはどう違うんですか?」


 うん、ケイティさんの興味はひけたようだ。いつのまにかメモ帳を取り出して、書く準備までしてる。


「リュウグウというのは、イトカワのような岩石型小惑星と違って、有機物や水を多く含んでいて――」


 僕は一カ月前に聞いていたおかげで覚えていたことを、眠くなるまで話し続けた。

 もう、眠くなったのでお終い、といった時のケイティさんの名残惜しそうな表情が見れただけでも大満足だ。


 またお話する機会を設ける約束をして目を閉じる。ケイティさんのおやすみなさい、という声が良い子守唄になった。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

長かった二章も七日目が終わり残り一日になりました。書くことは絞っているはずなんですが、あらすじだけ考えた骨格版から、肉付けをしてみたら随分とボリュームが増えてしまいました。プロの方々の力量の高さはこういうところからもわかりますね。


次回の投稿は、七月二十五日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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