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15-23.依代の君が示した方針

前回のあらすじ:依代の君(降臨した「マコトくん」)が、自身の在り方について信者の皆さんに説いたお話でした。丁寧に説明してあげてるのは優しさだと思うけど、苦悩する信者さん達を見て楽しそうに見てるのは間違いなく性格悪って感じでした。(アキ視点)

それじゃ、先ずは彼の要望を聞こう。


「それじゃ、依代の君。話したいことが三つと言ってたから、残り二つ、触りだけでも話してくれる?」


『二つ目はこの身に宿る神力、その抑制或いは隠蔽する術が欲しい。ボクに必要なのは心の歪さの解消だ。日本あちらに通じる心話を行うためには、日本あちらとの縁が深いアキが欠かせない。だが、魔法陣にコレを補助で組み込むにせよ、ボク自身が脆いままでは、試すのも危うい。そして足りない心を補うためにも、非公開のマコト文書の知や、ミア姉と縁の深い者達との交流が必要だ。アキにも指摘されたが、軽い意識の変化だけで周りに影響が出ては、こちらでの活動も制約が多くなるだろう。研究組の力を借りたい』


うん、言ってることは判る。ただ、研究して貰えて当たり前、優先して対応して貰えて当然、財閥が活動を支えるのは義務って意識が伝わってきたのはどうかと思う。


まぁ、そこは後で必要があれば指摘しよう。有用なら財閥は支えるのを否とは言わないし、次元門構築に他より優先すべきなら取り組む話だからね。


ベリルさんが箇条書きにしてくれたので次に行こう。


「三つ目は?」


『衣食住を今後どうするか決めたい。私見だが、国外への持ち出しに難があるマコト文書の非公開部分を読むこと、ボクの存在の秘匿性を考慮すると、アキが昨年の夏に過ごした共和国の館が良いと思う。そこなら、ボクの神力で魔導具が壊れる心配もないだろう?』


ほぉ。


一応、考えてる感じだ。


それに僕も彼が心の深み、厚みを増して強靭さを備えると言う方向性に異論はない。


さて、さて。


「それじゃ、この二つを叩き台に忌憚のない意見を集めて、彼の当面の身の振り方を考えていきましょう。えっと、それじゃ、エリー、どうぞ」


エリーが率先して手を挙げてくれた。


「昨日、挨拶は済ませてるので本題に入りますが、先程、アキに放たれた術式、適切な言い回しが無いので術式としますが、ソレに耐えられる環境、人員に限定し、アキに準じる隔離をせざるを得ません。何もせずとも溢れてる神力だけでも、多くの者には過ぎた代物、害となります」


エリーもかなり緊張しているね。それでも言いたいことをちゃんと主張できるのは偉い。


「僕やリア姉と違って、直接触れなくても神力が溢れ出てるから、生活の場が全て祝福の品になりそう、と。身の回りの世話なら、神官や信者の方なら、同じ加護を得てるから影響は少ないとか無いでしょうか?」


「加護は人の身には過剰なモノ。身体強化の術式と同様、間を空けて心身を休ませねば、病む事になりマス。神官であっても休みは必要デス」


ダニエルさんがそう言うなら、そうなんだろう。


あれ?


「アイリーンさんは雲取様からの加護があるけど、何か影響が出てたりするんですか?」


「竜族の加護は、同じ竜に対する警告、猫の匂い付けのようなモノで、術式に影響を与える程の強度はありまセン。ですから影響は無いと考えて良いでショウ」


ふむふむ、そんなもんなのか。


おや、師匠が手を挙げた。


「アキはよく知らない話だから補足しておくと、今、アイリーンが話した内容は、前提として、術者なら、それも高位の術者かそれに準ずる者ならば問題ないって話だから、勘違いするんじゃないよ。それとシャーリス様、この場の中立と争いの抑止をお願いできるでしょうか?」


うわ、そんな話か。


「ソフィア殿の懸念も理解できる。どの程度の意識で、術式相当の影響がでるか見極めができるまでは、妾達が間に立とう。依代の君、構わぬな?」


『手間を掛ける。ボクも徒に害するつもりはないが、在り方を曲げるような振る舞いはできぬ。ソレは自身の神性を曲げる行いだからだ』


そうあれと望まれて存在するからこそ、それに反する行動はそもそもしないし、したくもない、無理にすれば歪むと。


「キミのベースは、日本あちらの一般市民の子供だから、そうそう在り方に影響を与える決断なんて無さそうだけど」


「アキ様、一発でチャラにすると、消失術式相当の攻撃を、瞬間発動で叩き込まれたばかりで、そうそう暴発はしないと言われても安心するのは無理です」


ケイティさんの主張も当然だね。


「ところで、先程、神力を減らす意図もあったと話されてましたが、その身に宿る神力は減る一方なのですか?」


埒が明かないと、師匠が話題を変えてくれた。


『僕と「マコトくん」の間にある経路パスを通じて、こうしている間にも神力は流れ込んできている。深き信仰を持つ神官達のようなモノだ。流れ込む量は違うが』


うげ。


「それって、定期的に鬱憤を晴らさないと暴発するとか言わない?」


あー、神官さん達の目が怖い。過剰充電した電池が爆発するような例えだけど、許して欲しい。


『毎日、宝珠に注ぎ込めば問題ないだろう』


捨てるのも勿体ない、なんて意識が感じられる辺り、市民的な感覚もあるんだね。


「師匠、神力を注いだ宝珠って、僕が注いだ宝珠みたいに他の方でも利用できます?」


「アキやリアの魔力は完全無色透明だから、癖がなく誰でも使える。だが、それは例外なんだよ。依代の君が注いだ神力は、マコト文書の神官でなければ、使うのは難しいだろうさ。勿論、信仰してたって一般信者には扱いきれず害になるだけだと思うね」


なるほど。


「概ね、ソフィア殿の話された通りです。ただ、神官であっても、神力を宿した品、つまり神器を扱うことは容易ではないのです。竜や妖精、鬼の方々と話していると感覚が麻痺してくるが、自身より大きな力を扱う事は、慎重でなくてはなりません」


神官の一人が教えてくれた。


「となると、依代の君の神力を隠蔽する方法と、溢れる神力を処理する方法が必要ですね。前者は魔力を抑えるのに長けた白岩様に聞けば、何か解決策を思い付くかも。後者は集団術式にして負担を減らすなり、制御用の魔導具を作って術者以外に負荷を移すってとこでしょうか」


「そんなところかね」


師匠も頷いてくれたし、他の方も異論はないようだ。





「依代の君が心話のために心を豊かにして、強靭さを備える件だけど、非公開のマコト文書を読むより、感覚質クオリアを育むのが先かなと思うけどどうでしょう?」


これには父さんが手を挙げてくれた。


「マコト文書が語るエピソードを、依代の君の経験へと変えるのか。確かに座学ばかりより実際にやってみたほうが活きた知識となるだろう」


うん、街エルフならそう考えると思う。


『同じ経験をなぞるようにもう一度やるということか?』


依代の君はピンと来ないようだ。


「例えば、落ち葉を集めて、自分達で掘ってきた芋を焼いて食べたエピソードがあるよね? ざっと話せる?」


『容易いことだ。あれは――』


彼は立て板に水を流すように、概要と強く残った記憶、それと、その経験をミア姉に話した時に交わした言葉なども話してくれた。


人に聴かせる話し方じゃないけど、聞きやすいし、要点も抑えている感じだった。


まぁ、予想通り。


「読み物としてはそれでいいけど、体験とするには感覚の記憶が薄過ぎると思うんだ。畑のむせ返るような土の香り、掘り起こした芋の重さや手触り、土の湿り気。焼けた芋の食欲をそそる匂いや、食べた時のネットリとした食感や熱さ。齧りついてもまだまだ残っている大きさ。五感や一緒にいた人達とワクワクした場の雰囲気、帰り道での疲労感、そんな感覚質クオリア。こればっかりは実際にやってみないとね」


書物に書き記さない部分、言葉にしきれない感覚、でも、それらが積み重なってこそ、意味のある経験、生きた証だと思う。


『僕の知は畳水練か』


そう悔しそうな顔をしなくてもいいのに。でも手を握りしめたりしてて、現身のある意味はちゃんと理解してるようだ。


「ダニエルさんも信者の方に説法をする時、文書が語るエピソードと、信者の方の経験を擦り合わせて、相手が想像できるように、伝えたい内容を共感して貰えるように配慮するでしょう?」


「はい。少し想像を広げれば、或いは似た経験があれば思い描けるエピソードを選び、相手に合わせて説話を伝えマス」


うん、そうだよね。


『……だが、言わんとするところは判った。今朝もアイリーンが用意してくれた料理を食してみた。見知った料理だが、この身で食する経験は新鮮なものであった。布団で寝るのも面白かったな。畳の匂いがまた――』


「依代の君、アキ、興味深い話題ではあるが、話を戻そう。衣食住、衣類、食事はマコト文書に記載されたモノを優先、住居は周りへの影響を考慮すると、共和国の館か、大使館領の別邸が望ましい。身近で世話をする者の人選は神力への耐性持ちを優先。神力の隠蔽や溢れる分の活用は別途研究する。他に何かありますかな?」


ザッカリーさんが纏めてくれた。失敗、失敗。つい、興味深い内容が出ると聞きたくなっちゃう。


『マコト文書を信仰する者達を通じて、文書に書かれていない事も多少は知っているが、ここにいる多くの種族とは縁を結んでいきたい。どのような生き方をしているのか、住む土地はどんなところか、文化や風習の違いも気になるところだ。竜族も――』


あー、何か果てがなさそうなので割り込もう。


「知識欲を少しは隠したら?」


『ふん。見聞きするだけでなく、こうして触れ合える稀有な機会なのだぞ!? 遠慮などしてどーする?』 


体験こそ重要ではないか、と自己肯定感マシマシだ。


「あー、うん、気持ちは解るけどね」


ふと気付くと、皆が見覚えのある視線を向けていることに気付いた。


「えっと?」


「根が一緒だと理解できたなーって」


エリーが皆を代表して、心情を吐露してくれた。


「どれだけ研究しても、こうして訪問して触れ合える経験は格別じゃからのぉ。アレもしたい、コレもしたいと悩み、好物を噛み締めるように、吟味を重ねて、その日の行いを決める。先々の計画を立てるのも面白い」


『流石、翁。己が欲の為に異界を訪れている者の言葉は重みがある。この貪欲さは見習わねば』


うわ、本気で感心してるよ、この子。


「あまりのめり込みすぎないようにね。取り敢えず、今、話す内容はだいたい詰められたと思うけど、解散する前に何かあれば一言話して」


そう話を振ると、彼は椅子から降りた。


『こうして現身を得て、皆と同じ時を歩めることに感謝したい。良きことも悪しきこともあるだろうが、この身が朽ちるその時まで、この生を楽しみ、そして、最後は良き時を歩んだと言えるよう励んでいく事をここに誓う。それと、アキの我儘に振り回されながらも、こうして付き合ってくれていることに称賛の言葉を贈ろう。こいつも残念ながら僕よりは年上ではあるが、まだまだ子供だ。足りないところもある。道を違えることもあろう。その時は叱ってやってくれ。少しでも寂しさが紛れるように』


どこか人形のように生気が薄い仕草だけど、彼の紡いだ言葉は、心に直接響き、嬉しさ、温かさ、そしていずれ死してく定めにある者達への眩しさすら覚える慈愛が感じられた。


誰からともなく拍手が広がっていき、会場中に響き渡った。


依代の君の顔見世としては、なかなかの好スタートを切った、そう思える光景だった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

少し波乱の気配はあったものの、依代の君の当面の身の振り方について、集まった方々との調整(拒否権はありません)が終わりました。周りに置いておくだけでどんどん祝福の品が増えていくとか、溢れた神力をどう処分しようとか、もう普通の感性でいたら意味わかんない話ばかりでしたね。

そんなのでも、それはそれとして、どうすべきか考えられる一同も、この一年で色々と学んだんでしょう。

次パートは、久しぶりに魔術談義。依代の君が放った「世界からの根絶」、魔術で言うところの消失術式について師匠ソフィアからエリーと一緒にあれこれ教わることになります。

ケイティも話していたくらいなので、術式として知られていない訳ではないんですが、黒夜の術式と同様、世界に介入する高等術式であって、術式が決まれば、対象はこの世界から消えて(といっても世界の外に飛ばしたりする訳でもなく)しまいます。

次回の投稿は、三月二十日(日)二十一時五分です。


<雑記1>

フロムソフトウェア社のゲーム「エルデンリング」、PC版だけで2000万本販売達成という圧倒的な作品で、元々、フロムのゲームはどれも好きだったり、本屋でも紹介本が平置きで一角を占領していたりと、やりたい欲がどーんと増えてきたんですが……PS5って未だに品切れで買えず、値段も60,000円近く。

ソフトと合わせて約7万円は流石に高過ぎ、しかも買えない。

ならばPC版なら、と思ったんですが、快適に遊べる推奨性能が高過ぎて、私のノートPCではまるで足りてないことがわかりました。遊ぶ為にゲーミングPC購入じゃPS5どころの額じゃ済まないんで×。

ベスト盤が販売される頃になればPS5も買えるようになってるといいなぁ……。


<雑記2(連投中は宣伝継続)>

新作の短期集中連載始めてます。


作品名:ゲームに侵食された世界で、今日も俺は空を飛ぶ


現代社会+ゲーム+サラリーマン+空を飛ぶ+変身+アクション(戦闘)+恋愛って感じの作品です。ジャンル「アクション」ってことで、サクサク読めると思います。


2022年2月16日から毎朝7:05に投稿してます。


32話(3月19日投稿分)まではストックしてあり、39話くらいで終わる予定です。上手くいけばラストまで連投できるでしょう。

興味がありましたら、ぜひ読んでみてください。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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