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15-22.「マコトくん」、アキ、マコト(後編)

前回のあらすじ:「マコトくん」改め、依代の君との対面も、いろいろありましたが、やっと建設的な会話ができる段階に進むことができました。(アキ視点)

黒姫様も帰っていき、では続きはこうして集まってくれた方々とお話しようということになって、少し揉めた。


というのも、「マコトくん」改め、依代の君は、言葉に意思が勝手に乗ってしまうからだ。

別に乗せるだけなら、僕もやってたことだし、問題ないんじゃないかと思ったけど、僕のソレとは強度が違うとのことだった。


「受け手の資質も影響するんだろうけどね。信仰心の強い神官の方々なら、乗ってる意思の威力も何倍にも跳ね上がるのさ。云わば、信仰する神からの啓示、神託そのモノだろう?」


師匠の説明に僕はなるほどと思ったけど、神官の方々は神託をそのように分析されることにムッとするところもあるようだ。


「竜族の思念波と似た話っぽいですね。それなら緩和障壁を展開すれば多少はマシでしょうか?」


「今はそれしかないね」


そんな話をしていると、依代の君が口を開いた。


『では、緩和障壁を展開するがいい。神官達よ、其方らも好きにせよ』


用意してくれたテーブルセットに子供用の椅子を置いて、彼はそこによじ登った。

僕も同じテーブルについて、他の人達も座り方を変えて、緩和障壁の護りに入る人達と、それを不要と感じる人達の集団に分かれた。


ちなみに神官さん達はと言えば、それを緩和するなんてとんでもない、と皆さん、不要の集まりに。

女中三姉妹の皆さんも不要の方に座っていた。


「皆さんは影響が少ない感じですか?」


「私は雲取様の加護がアリ、ダニエルは信仰が深く、ベリル、シャンタールにはソレらはありまセン。今後、お傍でサポートをする魔導人形を選抜する際の参考としたいと考えまシタ」


アイリーンさんが理由を教えてくれた。


 なるほど。


『神官達も分かれたほうが面白いかと思ったが、それは別の機会としよう。それではボクから話したい件は3つある。そこから片付けようか』


提案のような言い回しだけど、拒む訳無いよね、と疑ってもいない強い意思が感じられた。





『それでは、経典を信仰の拠り所とする神官達よ、其方らに話をしよう。この依代にボクを降ろした集団儀式、難度の高さをこうして乗り越えて成功へと結びつけた尽力に感謝しよう。ボクが降りた、その瞬間だけは「マコトくん」を降ろした事実は揺るぐことはない。其方らの信仰にも寄与する尊い行為だった』


依代の君はお礼を述べたけど、その示している内容に、神官さん達に困惑の表情が広がった。

そんな彼らを見て、そうであろう、そうであろうと彼は満足げに頷いた。


『神官達よ。ボクの声を聞き、心に響く様に何か違和感を覚えないか? 思い描いた姿とボクのソレを見比べて、納得できると思いながらも、自身の思う姿とどこか違うと感じないか? 昨日、降りたその瞬間と今では、その差異が広がっているように感じないか?』


何とも慈愛に満ちた、それでいて実験動物を見るような人形めいた眼差しに、幾人かの神官さんは思い当たるところがあったようだ。


性格悪いなぁ、依代の君。


おや、ダニエルさんが手を挙げた。


「依代の君、と呼ばせていただきマスガ、ソレは心に思い描く姿は一人一人違うというお話でショウカ?」


『それで良い。信仰に支えられた神とは多くの人々の信仰心が集うことで顕れる。教えが同じであっても時代によって、神の在り方は変化していって留まることはない。いつしかその在り方に新たな権能が増減していく。信仰がある限り、神は滅びることはないが、皆が拠り所とする神は移ろう存在なのだ』


降りた神自身が語ってる、というのも凄い光景だよなぁ。

そして、彼は笑みを浮かべて、鋭い問いを投げた。


『信仰を拠り所とする神官達に問おう。其方らが信仰する経典、そこで描かれる「マコトくん」。ボクは降りた、その瞬間だけは、確かに彼と同一の存在だった。しかし、ボクはこうして依代ではあるが現身を得た。この身で経験したことはボクだけのモノだ。皆が信仰し、その集う神たる「マコトくん」には無い経験だ。では神官達。ボクは、区別できるように依代の君と名乗ることにした存在は、其方らが信仰する存在と同一だろうか?』


愛でるような視線と、戸惑いを浮かべる神官さん達の反応を喜ぶ稚気、それが感じられた。


ソレはアレだ、テセウスの船って奴だね。


「依代の君、ソレって、船を修理していったら、どこまでが同じ船かって話だよね? 元の部品があれば同一? それとも比率が逆転したら別の船? それとも設計が同じなら同一? でもそれなら同型船も同一? みたいな哲学的な話」


パラドックス問題の一つだ。意地悪だね。


『ボクは単に悩ませようとしているのでは無い。其方らは強い信仰を持つからこそ、自らが信仰する神からの言葉、神託を聞くことができる。恐らく、まだ今は、殆ど差がない故に、ボクからの神託も聞くことはできるだろう。ただ、それが一か月ならどうか。一年後ならどうか。変わることのない「マコトくん」と、日々、経験を積み重ねていくボクを同一と思えなくなった時、違う存在だと心が認めた時、其方らはボクの声に耳を傾けなくなるだろう』


んー、まぁそうなんだろうけど、神事を達成して栄誉に満ちた信者達に、次の日にぶつける話かな。


「楽しそうだね、依代の君」


『変化せず揺るぎない存在は神だけでいい。信仰する者は日々、自らの心に問い掛け、悩み、変わらねばならない。誰もが無しえない神事を為した、それは賞賛に値しよう。だが、そこに浸って、そのままで良いと考えるのは堕落だ。自らが変わることのない絶対の信仰、そのものを体現した存在なのだ、などと歪んだ意識を持てば、いずれ、その者は神からの声すら聞こえなくなる』


達成感に酔っていた、そう気付かされた神官達が目を見開いた。


『ボクはこれから、ミア姉を助ける為に必要と思う行動を積み重ねていく。多くの経験を経たボクは、マコト文書が示す向きから外れることはないが、皆が思い描く姿、在り方からは乖離していくだろう。実際、こうして現身を得たことで、ボクは自身と、信仰が形作る、移ろう存在である「マコトくん」は違う存在と感じている。当然だ。ボクには「マコトくん」にはない経験がある。あちらには無い。元が同じ水源であろうと分かれた川が注ぐ海は別であり、二度と交わることはない』


そんな、戸惑いを見せる神官達を愛おしそうに見なくてもいいだろうに。


『其方らはよく説法を行う。信者達の悩みを払い、良き営みを行えるよう導く神官達無くしては、信仰とは存在しえない。其方らが拠り所とする経典だけがあっても、その意味するところを、信者が理解できるよう伝える、深く識る者が無くては、信仰が育まれることはない。ボクが経典を(そら)んじる、それはできる。だが、信者達の心によく響くのは其方ら、神官達の言葉なのだ。信者達を、共に生きるこの世を知り、悩み、藻掻(あが)く者の言葉だからこそ、信者達は耳を傾け、心にその思いを刻む、それを忘れぬことだ』


マコト文書だと顕著に出てくる問題だね。文書が描かれているのは日本あちらの暮らし、文化であって、こちらとは異なるところも多い。それをこちらの暮らしに、生き方に、悩みへの指針に役立てようとするなら、翻訳する存在が欠かせない。


こちらのことを何も知らない「マコトくん」が、日本あちらの感性で、話を聞いて答えても、それはきっとズレた内容になってしまい、絵空事と思われるのがオチだろう。


『ここまで言えばわかるだろう。其方らがこれから行うべきは、これまでのように信者の元に行き、経典と日々の暮らしに目を向けて、自らが正しいと思うところへと歩み続けることだ。ボクが何か必要とするかもしれない。その時に、その声に応えるのが良いと思ったなら手を貸せばよい、だがそれは今ではない』


うわー、せっかく集まってくれた信者にそんな事言う?


「ねぇ、依代の君。それって、居る必要がないよって聞こえるけど?」


『アキ、人を惑わす言葉を口にしてはいけない。ボクはただ問うただけだ。自身で考えよ、と』


依代の君は、こうせよ、何が欲しい、などとは口にしなかった。



暫く、痛い沈黙が続いた後、一部の神官達は、自らの行くべきところへ行く、とこの場を去って行った。



そして、ダニエルさんも含めて残った神官達もいた。






『予想より多く残ったが、それぞれが何を思うて残ったか今は問うまい。今なら、其方らも、なぜ、秘密厳守の為に契約術式で心を縛ったか理解しているだろう。信仰する神が命じたなら秘密は決して漏らすまい。だが、そもそも、目の前にいる存在は、本当に己が神なのか? そう心が揺らげば、ボクが発した言葉は制約足りえなくなる』


前提が覆れば、順守せずとも信仰は崩れない。


『ここに良い例がいる。ここにいるアキは、マコト文書の専門家であり、ミア姉が公開対象から外した部分にも精通しており、ここにいる誰よりも日本あちら寄りの感性を持っているのは間違いない。だが、ならこいつは「マコトくん」と同一の存在だろうか? ……そうではあるまい。こいつはボクの辿る未来の成れの果てだ』


うわー、すっごく雑な扱いをしてきやがった。


「辿る道筋が違えば、異なる地へと辿り着くってだけだよね?」


『そうではない。口を開かずとも彼らの目が語ってるだろう?』


そう言われて見てみると、神官さん達も悪い感情は持ってないようだけど、明らかに信仰対象や、同じ神官に向ける目線じゃないね。現時点で大きく違うし、元が一緒でもないと。


「アキ様はアキ様ですカラ」


ダニエルさん、ありがとう。


『其方らに予め言っておく。これからここにいる者達、研究を共にする者、アキを支える者、まつりごとを担う者と言葉を交わしていく。その際に彼らが語るのは、依代の君であって、「マコトくん」ではない。信仰を穢されたなどと殺気立たぬようにせよ。浮かんだ思いは後で書に纏めて渡すがよい。その思いを知ることはボクの権利であり義務だ』


あー、なるほど。


というか、彼も自らが歪で足りないと自認しているから、ソレをいちいち、問題視されても話が進まない、と考えてる訳だね。


「思い描いた数字と、記した数字は同じじゃない、けれどいちいちそんなことを気にしてたら生活が成り立たないって奴だ」


概念としての数字に実体はない。文字として記しても、何か物を集めて表現しても、それはもう概念じゃない。


神官さん達は意に従う、と頭を下げてくれた。


『これで話を聞く姿勢は整った。では……ベリル、板書をせよ。己が欲することを語るが、それは狭い了見から出た誤った答えかもしれない。今は届かぬところに手を伸ばそうと言うのだから、多くの視点が必要だ。それとアキ、お前が司会だ。話を取り仕切れ。得意だろ?』


うわー、何、このガキんちょ、して貰えることを当たり前と思ってて、断られるなんて思ってもいない。

……ってそうか、自身の声を聞くのは、自身を信仰する者達であって、そんな彼らが断る訳なかったからか。


「はいはい、それじゃ、スタッフさん、ホワイトボードを出して貰えます? 君も何かして貰えたら、ありがとうって言わないと駄目だよ?」


『いちいち、礼をしてては話が進まない。最後に礼は述べる。後、姉ぶるのは止めろ』


 あー、もう反抗期だなぁ。


スタッフさん達が空間鞄からホワイトボードを取り出して設置してくれた。ちょっと人数からすると遠くにいる人は見えにくいだろうけど、まあそこは口頭でフォローすればいいか。


それじゃ、調整をして上手い落としどころを探っていくか。彼の生活基盤を決める辺り詰めていこう。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

信仰の対象である「マコトくん」と依代の君、それにアキがどんな関係にあるのか、それを神官達に理解して貰ったお話でした。神官さん達も衝撃を受けてましたが、そりゃそうでしょう。現世に降臨した己が神、となれば、神が命じる何かを行うこともまた崇高なる使命、とか考えていたでしょうから。

そして彼らが己が神に「マコトくん」であること、変わらぬことを求めても、ソレは依代の君の望みではない。だからこそ、予め、釘を刺しておく必要がありました。

キリがいいので今回はここまで。

次パートで、依代の君の身の振り方や希望などについて関係者と調整(拒否権はないです)していきます。

次回の投稿は、三月十六日(水)二十一時五分です。


<雑記1>

新型コロナの第六波が高止まりをしている中、集団献血(学校とか献血バスとか)の注視が相次ぎ、輸血用血液の安定供給が危ぶまれている事態に陥ってます。3月7日からは「かぐや様は告らせたい」とのコラボで、クリアファイルのプレゼントも行われています。可能な方はぜひ献血にご協力ください。


<雑記2(連投中は宣伝継続)>

新作の短期集中連載始めてます。


作品名:ゲームに侵食された世界で、今日も俺は空を飛ぶ


現代社会+ゲーム+サラリーマン+空を飛ぶ+変身+アクション(戦闘)+恋愛って感じの作品です。ジャンル「アクション」ってことで、サクサク読めると思います。


2022年2月16日から毎朝7:05に投稿してます。


30話(3月17日投稿分)まではストックしてあり、39話くらいで終わる予定です。上手くいけばラストまで連投できるでしょう。

興味がありましたら、ぜひ読んでみてください。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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