15-21.「マコトくん」、アキ、マコト(中編)
前回のあらすじ:依代に降りた「マコトくん」。彼と協力して、日本への次元門構築も研究が進むだろうと嬉しい気持ちになりましたが、降りてくるなり、第三演習場に顔出せや、とお呼ばれすることになって、なんだかなぁって感じです。(アキ視点)
大嫌いだ、お前なんか消えちゃえ!
ぱっと見、お人形のように整った可愛らしい幼女に、力一杯否定されたら、それも何人も殺していそうなヤクザが温厚な態度から一転、冷えた目で睨んできたかのような怖さを伴ってたら、かなり衝撃を受けると思う。
それに「マコトくん」の言葉には意思が乗り、心を激しく叩く痛さがあった。
しかも、僕に周囲から一気に風が吹き込んでくるし、周りの地面もなんか凹んでる、というか抉れてる。
……何処かで見たような。
まるで、初めからそこには何もなかったかのような削れ方。
「あ、黒姫様が爪で斬った柱と同じだ」
服についた土埃を払いながらも、ピッタリの事象に思い当たったのが嬉しくて、つい口に出た。
「マコトくん」が忌々しいモノを見るような眼差しを露骨に向けてきてるけど、驚きはなく、予想通りって表情でもある。
まぁ、それは後回し。
ちょうど、僕の足元だけ周りより高いから、ハンカチを敷いて、そこに座った。
抉れた地面が掘り炬燵代わりだ。
「えっと、向けられた気持ちに向き合えてなくて、僕の心に上手く届かないで逸れちゃった、のかな? なんかキチンと受け止められなかった感じだから、ちょっとお話しようか」
こうして座れば、目線も合うし、小さな子と話すなら、この方がいいだろうからね。
さっきの激しい言葉に、力も随分乗せてたみたいで、感じられる神力も減った気がした。
◇
『ボクの声は届かなかったか』
「マコトくん」は残念さを露骨に乗せてきたけど、思った通りかと安堵する気持ちも少し混ざっているのが面白い。
見た目通りの幼子じゃない、って事だ。
「疑問が先に出たからね。そこまで疎まれている、それは理解できた。でも、何故かはわからない。マコトとして、ミア姉に向ける思いは等しくても、それ以外は違うところが多いと思う。だから、キミの気持ちを、思いを言葉にして欲しい。それとも心話にする?」
相手が犬とかのペットなら、何かに怒ってても、その理由を話して貰うのは無理だけど、「マコトくん」はこうして話せる相手だからね。
彼は、そんな僕の態度自体が不満だ、と言わんばかりに大きく足を開き、腕を組んだ。
『ミア姉の身だからと、そうして姉のように振る舞うのが癪だ。ボクの事を拒む素振りさえ見せない余裕も気に入らない。そうして土埃に塗れても怒りも見せないのもムカつく』
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとでも言いたげだ。
「感情に合わせて周りが荒れるんじゃ生活が大変だろうなぁとは思うよ。そこは抑える魔導具とか用意して貰う相談をしよう。文句を言わないのは、僕も触ると魔導具を壊しちゃう身で、人の事をとやかく言えないなーって」
『そこは機会があれば感謝しておけ。思うだけでは、他人には届かない』
「そうだね」
『姉のように振る舞う理由を聞こうか』
「んー、僕も大人ってことはないけど、ほら、実際、キミは小さいし。竜族と触れ合うと感じるけど、実際に過ごした年月と、精神年齢って比例しないと思うんだ。僕よりずっと長く生きてる雄竜達、この前来た若竜さん達は、精神年齢はどう見ても同年代だったから。それよりは小鬼族のユリウス様の方がずっと大人だよ」
そう話すと、かなり不服そうに口を膨らませて、ムッとされた。
『その言なら、背丈と精神年齢は関係ないと聞こえるぞ』
うん、まぁ、そうなんだけど。
『依代に降りたその姿は、人々が思い描く「マコトくん」なんだよね?」
『そうだ。ミア姉が成長していく姿を世に広め無かったから、克明に描かれている信者が思い描く姿は幼少期のモノばかりだ。しかも想像の余地を残して、カワイイ、カワイイと愛でる言葉ばかり書いたせいでコレだ』
高校生の誠としてのエピソードも多くあるだろうに、姿がそれじゃ不満もあるか。……と言うか、あちらに居る神官さん達がショックを受けてるようだけど。
「えっと、その辺り、バラしてもいいの?」
『今後の為にも彼らは知るべきなのだ。それより、何故、姉なのか話せ』
見たいモノだけ見てるんじゃない、そんな気持ちが駄々漏れだ。
「それじゃ、キミが誠だと思うから、誤解されないようにはっきり言うね。その目、眼差しがとても若々しく感じられる。元気と言うよりは幼い、経験の無さ、薄さ、純粋さだと思う。ユリウス様が教えてくれたんだけど、人は大人になると目が濁るそうだよ」
うん、改めて見ても、確かに時折、見た目の割には深い知性を持つような、疲れさえ感じさせる目も見せるけど、基本は若い。
『目か。何とも抽象的でケチのつけようがない物言いだ』
「拒む気がないのは、キミが始めに話してくれた通り、ミア姉救出という点では協力できる仲間、それも僕、リア姉の次にミア姉に近しい相手となれば、親交を深めようという気はあっても拒む気なんてないね。感情的な部分さえ横に置けば、お互い理解できる部分も多いだろうし」
だよね、と同意を求めると、「マコトくん」もそれには頷いてくれた。
『目的の為なら、そんなのは些細なことだ』
うん、うん。
『それとアキ、其方との心話はしない。お前はボクがどう見える? 確固たる自我があるように見えるか? 粘り強さや強靭さを感じるか?』
やっぱり自覚あり、と。
「自覚しているようだから話すけど、堅くて柔軟性が乏しくて脆そう。受け止める厚みというか深さがないように感じられるね」
他の相手にならここまでは言わないんだけど、どうも彼は他人の評価を確認したがってるようだから。
『その通り。そしてアキ、お前は怒れる老竜の激流のような心に触れても己を失わない強さがある。だから、そんな相手と心を触れ合わせるのは百害あって一利なしだ』
ふむ。
言われてみれば、ケイティさん相手でも距離感に苦労したのに、更に繊細で脆い相手となると、互いに加減を間違えて事故が起こりそうだ。
「確かに危ない感じだから、それじゃ心話は止めておこう。それで、キミの心の在り方は、信仰によって形作られる神様だから? あ、ごめんね。ほら、神様ってこれまで連樹の神様や竜、世界樹と実体のある方々ばかりだったから、その辺り違いはあるのかとか、気になることが多くて」
協力するには互いの理解が必要だ、という意識を前面に出してみたけど呆れられた。
『知識欲を少しは隠せ、恥ずかしい奴だ』
そう言いながらも、身内、少なくとも仲間として捉える意識が伝わってきた。それに刺々しさも随分収まったかな? サッパリした空気すら混ざってるね。
「ん、ごめん。ちょっと露骨だった。それで、話を戻すけど、僕に消えて欲しい、存在しなかった状態が望ましい、というのは、マコトは一人いればいい、みたいな話?」
死んでくれ、じゃない点は注目ポイントだと思う。
『……そうだ。お前はボクがどんな気持ちでいるかわかるか? 「マコトくん」はミア姉と誰よりも親しいとされる存在だ。実際、親しさを感じさせるエピソードは事欠かない。だが、実際はどうだ? ミア姉はボクを認識した後も、一度とて接触してくることはなかった。ミア姉が視線を向ける先にいるのは、常に日本にいるマコトだけだった。虚しいと思わないか? 悲しいと思わないか?』
それは確かに悲しいなぁ。
「他の万人が見てくれようと、本当に見て欲しい人が振り向いてくれない、それはとっても悲しいね」
というか、今の僕の状況はソレだ。
ミア姉が日本に行ってしまって、もう1年も心話を行えていない。確かに大勢の人が支えてくれて、こうして見守ってくれているのは有難いし嬉しい。……でも、だからソレで満足しよう、なんてことにはならない。
心にはいつも大きな穴が空いたままだ。
『そして、違う世界にいるからどうにもならなかった奴が、のこのこ目の前に現れたなら、こいつさえいなければ、とついカッとなって手が出てしまっても仕方ないだろう?』
彼は腕をぶんっと音が出るような勢いで振り回した。
「まぁ、それはそうかも。でも仮に僕がいなくなったとして、キミがマコトです、とミア姉の前に出て、ミア姉は接してくれると思う? それはないと思うよ。話していてわかったけど、キミ、黒さ、陰みたいなところが薄いよね? 公開されてる範囲から外されてるせいか、バランスが悪い印象があるよ」
まるで、外向けの取り繕った顔って感じ。
そして、「マコトくん」もソレを理解していた。
『お前の指摘した通り、ボクではマコトの代わりは務まらない。ミア姉が外に出すのはどうかと思った部分をばっさり削られてて歪だ。それに非公開のマコト文書で語られる多くの知もボクにはない。きっと話し相手としても、力不足だろう』
皆が願い、そうして在る姿だからこそ、皆が望まない、知らない部分が抜け落ちてる、か。
「あと、さっきの力を乗せた言葉、わざと使って神力を減らす意図もあったとか?」
『できるだけ抑えたが日々増大する信仰のせいで、一番出来の良い依代でも負担が大きい状態だった。収まるように余計な神力を捨てる意図があった事を認めよう』
ふむふむ。
「じゃ、もうさっきみたいに拒んだりしない?」
『しない。そもそもお前がいなければ日本に繋ぐ策が破綻する。それに、その身はミア姉のモノなのに傷などつけてどーする? 先ほどのはアレだ、一発殴ってチャラにしてやる、って奴だ』
万一にも後に残らぬように、それでいて気が済むように渾身の加減をした一撃だった、と満足そう。
「まぁ、チャラにして貰えたなら良しとするね」
軽く聞きたいところも聞けたかな、と思ったところに、黒姫様が割り込んできた。
<争いの種が消えたのなら、今後の話はあちらにいる者達とするがいい。それと、其方をこれからは何と呼べばよい? これと思う名はあるか?>
まぁ、「マコトくん」じゃ不味いか。
『ボクを示す名としては、依代の君、で良い。対面しているなら其方で事足る』
<では、今後はそう呼ぼう、依代の君。住処や話をする算段などが決まった後で知らせよ>
『助力に感謝する、黒姫殿』
<貸し一つだ>
そう告げると、黒姫様はふわりと浮かんで飛び去って行く。
思念波から伝わってきた感覚からすると、荒れずに収まって良かったとホッとしてる感じと、あまり手を焼かせるな、という呆れた気持ち、それと、えっと、何か感じ取っても胸にしまっておけ、と。
去り際にちらりと僕を見た黒姫様の眼差しはとても優しげだった。
評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。
初手、神の一撃「世界からの根絶」は、実は極限まで絶妙な手加減をしたものであった、という話でした。黒姫様も姉(兄)弟喧嘩に何故か巻き込まれて困惑してる感じでしたね。
次パートでは、「マコトくん」降臨の為に尽力した神官達との話や、依代の君の今後の過ごし方などについて、せっかく集まっている関係者達と調整(拒否権ないけど)をしていくことになります。
次回の投稿は、三月十三日(日)二十一時五分です。
<雑記(連投中は宣伝継続)>
新作の短期集中連載始めてます。
作品名:ゲームに侵食された世界で、今日も俺は空を飛ぶ
現代社会+ゲーム+サラリーマン+空を飛ぶ+変身+アクション(戦闘)+恋愛って感じの作品です。ジャンル「アクション」ってことで、サクサク読めると思います。
2022年2月16日から毎朝7:05に投稿してます。
26話(3月13日投稿分)まではストックしてあり、35話くらいで終わる予定です。上手くいけばラストまで連投できるでしょう。
興味がありましたら、ぜひ読んでみてください。