15-18.登山計画、必要なステップは三つ
前回のあらすじ:雄竜達が興味の赴くままに思考があちこちに寄り道するのを相手するのはかなり大変ですね。保育園や幼稚園の先生達ってほんと凄いです。(アキ視点)
さてさて、やっと、やっと! 本題だ。
「ちょうど三柱いるので、順に質問しながら、登山計画について、認識を合わせていきましょう」
<認識と言うが、我らが目的とする山を縄張りとする成竜の許可を貰い、登る日を決めて、山の裾野で合流し、山頂で「死の大地」を眺めるだけだろう?>
炎竜さんが予想通りの認識を示してくれた。
「お二人も同じ認識ですか?」
<そうだが、何か足らぬと言いたげだな>
<その顔は要注意だ>
おや、人の表情をそこまで読み解くとは、順応性が高いなぁ。更に評価アップだ。
「想像通りだったので、つい思わず顔に出てしまいました。えっとですね、最初の許可を得ること、それが高難度だと認識を改めて貰わなくてはなりません。福慈様も認めている話なのだから、簡単なお使いイベントだと思ってるなら、それは大間違いですよ?」
そう切り込むと、三柱は言葉に詰まった。やっぱり図星か。甘い、甘い。福慈様がそんなぬるま湯な試練を用意する訳がない。
「福慈様は今回の件を試練に丁度よいとお考えのようでした。つまり、許可を得るなんてのは最低ライン、其処から上積みする努力目標があると考えないと。ちなみに僕でも二つ、数え方によっては三つか四つは思い付きましたよ?」
今日の会話と、皆さんの胸の内にヒントがある、と話して、考えが纏まるまで待った。
<午前中の話を聞いて気が付いたのは、縄張りの主に、今回の件の意義を理解して貰いながらも、敢えて地の種族の流儀は伝えない事で、狩人としての意識に至らせない、それをして始めて交渉は成功したと言えるという事だ>
炎竜さんが考えを披露してくれた。良いね。後の二柱にも話す内容を残してくれている。
「良いですね。氷竜さんはどうですか?」
<登る山付近に住む魔獣や、地の種族が難儀しそうな地形があれば話を聞いておくというのも必要だろう。小型召喚体の身では、獣避けの効果もあるまい>
「共に登る仲間への配慮、魔力が無色透明である事への理解、素敵です。鋼竜さんはどうですか?」
<アキが我らの胸の内と告げたので判った。我らは交渉において、成竜に感銘を与えねばならん。ただ決められた話を取り纏めるだけでなく、あの若者達も見所がある、そう思わせたい!>
うん、うん、良いね。
「皆さんが立候補した事の発端、突き動かす源泉ですからね。自分を認めて欲しい、どうだ!って思わせたいですよね。僕も似た年代なので、とても親近感が持てます」
そう同意してみたものの、鋼竜さんが疑問を指摘してきた。
<アキは先程、数え方によっては四つとも言った。だが、我らの答えは三つ。足りぬ一つは何だ?>
他のニ柱も同意見らしい。
「それは交渉のリハーサルを行うことです。やはりこの手のことは、実際にやってみないと問題点や注意点が見えてきません。地球の話ですけど、僅か5分の新製品のプレゼンテーションの為に、一ヶ月も準備をした社長もいたくらいです。皆さん、苦手な成竜を思い浮かべてみてください。一柱くらいいるでしょう? その方に趣旨を説明して、交渉を試してみてください。それと、残り二柱も何も言わず、その場に同席すること。見ることもまた勉強です」
そう提案すると、露骨に顔を顰めて、物凄く嫌そうな視線を向けられた。
それでも否と言わず、やるしかないか、なんて顔をしてるのは、ポイント高いね。
「リハーサルの必要性、意味を理解して頂けて、ちょっと嬉しいです。それを行うことの意味ですけど、相手の成竜に感銘を与えられる可能性を上げられるという対外的な話とは別に、必要とあれば身内に頭を下げて協力を願い出る柔軟性、身内相手なら失敗してもよしと理解していること、力の入れどころを理解していること、と言う内向けのアピールも兼ねてると言ったところです。皆さんはまだ、ちょっと大人には足りない、そんな事は誰もが理解してます。足りないなら足りないなりに、どう成功率を高めるか、そのために足掻くか、それこそが重要です」
何度でも挑戦できる試験と、外向けで成功が求められる交渉事は、意識の持ち方を変えないといけないですよ、と補足した。
失敗するの格好悪いなんて意識と、うまく行かなくても努力を続けて成功して褒められた、そんな経験が混ぜこぜになってるのか、三柱とも自身の内面に問い掛けるように目を閉じて沈黙を守り、暫くして口を開いた。
<確かに認識が甘かったようだ。考えてみれば、あの福慈様なのだ。もっと深く考えるべきだった>
炎竜さんが代表で思いを語ってくれた。残りニ柱も同じ思いのようで、これなら一安心だ。
◇
<交渉が無事成功し、登山チームは現地で合流し、山頂を目指す訳だが、魔獣や配慮すべき地形を知らせるだけでは足りないようだな?>
氷竜さんが突っ込んできた。
「これは皆さんに馴染みのない件なので話すと、白岩様が参加されている洗礼の儀、そこで白岩様は周辺警戒だけでなく、会場の地中深くや、参加者一人一人の持ち物などまで竜眼で確認されてました。登山ですが、竜の縄張りと言うこともあり、真っ当な登山ルートは存在しないと思われます。そうなると、落石、地崩れ、滑落などの問題も出てくるでしょう。幸い、山野に詳しい森エルフ、地質などに詳しいドワーフもいます。竜族、妖精族は何かあれば空に避難できますが、地の種族はそうはいきません。現地の立体地図は街エルフが用意できますので、登山ルートを予め想定して、現地での交渉の帰りに、竜眼でルートの事前確認をお願いしたいです」
おや、これまで沈黙を守っていた大使のジョウさんが手を挙げた。
「そこまでせずとも、今回の登山では街エルフの人形遣いも同行するのだ。必要に応じて地中探査の術式を使えば、不安は取り除けるだろう」
ジョウさんの意見に、そんなもんかと納得したのは竜族、妖精族。はぁ?と呆れた顔をしたのが鬼族、小鬼族、人族だ。エリー、王女様スマイルが崩れてるよ。
「街エルフの人形達をどこまで許可するかは、要相談ですね。これは三柱も注目していなかった部分なんですけど」
<多くの種族が共に登る初めての機会なのだから、安全寄りに話を進めるのは妥当ではないか?>
炎竜さんも、問題発生のリスクは理解してくれてるね。でも、それじゃイベント主催者としては失格だ。
「この登山を幼竜達を連れた遠足と考えてみてください。あれも駄目、これも駄目と縛ったら、幼竜達がつまらないと文句を言う。けれど幼竜達の手に余る事態を招けば、親竜達の怒り爆発です。街エルフの人形は居ても一名、鳥人形くらいは居てもいいでしょうけど、魔術行使制限、空間鞄内に完成品の食事を入れて持っていくなんてのも駄目です。これは登山であり、キャンプであり、共に登る各種族の代表達のレクリエーションの場なんですから。あ、答えを言っちゃいましたね。三柱に足りなかった視点は、合流してから山頂に到着するまでに、メンバー間の親睦を深めて一体感を醸成することです。皆は同じ一つのチームであり仲間。そんなチームが共に対処すべき難敵として、「死の大地」を目にする、だからこそ意味があるんです」
緊張感なし、至れり尽くせりなお客様扱いじゃ、全然ダメです、と伝えると、その加減の難しさに気付いてくれた。
<それは難度が高いな。そもそも我らは地の種族をよく知らんのだから>
「そこは、ここに各種族を集めたので、彼らと一緒に悩んでください。どうせ登るのはここには居ないメンバーです。交渉のリハーサルと同じで、ここにいるのは身内です。本番を成功させる為にも知恵を絞りましょう。まぁ皆で少なくとも一泊するのは必須かと思いますよ。竜族の魔力の威圧が無ければ、夜も少しはスリリングなモノになるでしょうから、いい緊張感も得られるでしょう。エリー、その辺り、軍の遠征訓練とかでノウハウはあるよね?」
「同じ人族の部隊ならね。でも多種族混成チームなんてノウハウはないわよ。ケイティ、ジョージ、二人ならどうかしら? 探索者なら多様な人達でチームも組んで旅していた筈だわ」
「ご期待には添えそうにありません。船団が派遣する探索者チームにも鬼族、小鬼族、竜族、妖精族はいません」
エリーが話を振ったけど、ケイティさんの答えは満額回答には程遠かった。
<参考にはなるが、これほど多様な種族が集うのは初めてと言う話だな。だが、関係する種族がこうして集っているのだ。意見を集めれば形にもなるだろう>
お、炎竜さんが前向きに纏めてくれた。
「妖精族がこちらで一夜を明かすのも初の試み。我らは召喚体故に、飲食は不要だが、此度の登山では、こちらで装備を整えて、普通の妖精族のように参加させようとは思っていたところよ」
ほぉ。シャーリスさんも単なる様子見から一歩踏み込んできたか。
シャンタールさんを見ると、頷いてくれたから、妖精サイズの旅行道具セットも鋭意制作中なんだろう。
<色々と意見は出たが、これらをやれば立派な成果が期待できそうだ。アキはまだ意見があるか?>
氷竜さんはそう言いながらも、あると確信してる顔だ。
「地の種族に疎いと言いながら、僕の表情を読むのは上手いですね。それはそれとして、大切なことがごっそり抜けてます」
そう言うと、お爺ちゃんはピンときたようだ。
「アキ、それは記録じゃな?」
流石、お爺ちゃん。打てば響くとはこのことだ。
「そう。記念すべき始めの一歩なのだから、参加者には手記を纏めてもらうのは必須として、皆が集った時点、山頂から死の大地を眺めた時点、最後に解散する前で最低でも三枚は記念撮影して欲しいです。山頂での撮影時には魔導人形の人にカメラマンをしてもらえば、全員を写せるでしょう」
これこそが大切と力説すると、三柱がざわついた。
<写真は何枚まで焼増しできるのだ!?>
<我らに合わせた大きなサイズであろうな?>
<手記とやらも欲しいぞ>
自分達の活躍の結果が形となって残るとなれば、これがその時の写真だよ、なんて感じに雌竜達にもアピールできるだろうね。
<そうなると構図も考えねば>
<撮影する時間帯も重要ではないか?>
<天候も忘れてはならん>
もう、男の子だなぁ。好きだけどね、こういうノリも。
「はいはい、その辺りで。撮影については後でリア姉も混ぜて決めましょう。どうです? 大変だけど、ヤル気が出るイベントでしょう? どうせやるなら最高を、やれることを総取りする気合いで行きましょう!」
ジェスチャーを交えて、テーブルの上にある宝は全部貰うぜって感じのアクションをして鼓舞したら、何か三柱以外の全員がまたかよって表情を見せたけど、何でだろね。
皆さん淡白だなぁ。遊びは全力でやるから楽しいのに。
ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
登山計画の持つ意味を理解して貰うこと、そこまでやっと辿り着けました。アキも雄竜達が把握しておくべきこと、努力目標の範囲を理解して貰えてホクホクです。
次パートでは、雄竜に伝えてない目論見を吐け、と関係者達に詰め寄られる定番の流れとなり、大したことないですけど、とアキが語ります。それと準備も終わり、「マコトくん」を依代に降ろす件も始まります。
次回の投稿は、三月二日(水)二十一時五分です。
<活動報告>
以下の内容を記載してます。
・ロシア、ウクライナに侵攻
<雑記(連投中は宣伝継続)>
新作の短期集中連載始めてます。
作品名:ゲームに侵食された世界で、今日も俺は空を飛ぶ
現代社会+ゲーム+サラリーマン+空を飛ぶ+変身+アクション(戦闘)+恋愛って感じの作品です。ジャンル「アクション」ってことで、サクサク読めると思います。
2022年2月16日から毎朝7:05に投稿してます。
17話まではストックしてあり、30話くらいで終わる予定です。上手くいけばラストまで連投できるでしょう。
興味がありましたら、ぜひ読んでみてください。
<おまけ>
新機能「いいねボタン」が2022年2月1日に実装されました。認知度が低い気がするので、二月中の投稿はこの紹介を書いておくことにします。良かったら気軽にクリックしてくださいませ。貰えると執筆意欲がチャージされます。広告下に出るので気付きにくい位置なのと、ログインしないと押せないのがネックでしょうか。デフォルト状態がOFFなので、作者が意図的にONにしないと有効にならず、定期更新してる作品でもOFFのままのものも多い感じです。