15-16.登山計画に抜擢された雄若竜達(中編)
前回のあらすじ:連邦訪問も終わり、白岩様は、登山計画への参加に抜擢された若い雄竜達についてあれこれ教えてくれました。聞いてる限りでは普通の若者っぽい感じで、年代的には親近感を覚えるんですが、雲取様や雌竜さん達はどうもかなり当たりの方っぽい空気を感じるのが、ちょっと不安ですね。(アキ視点)
約束の日に第二演習場で待っていると、彼ら、雄の若竜達が連なってやってきた。
事前に連絡があった通り、三柱。紅竜さんより更に明るく煌めく鱗、炎竜さんってところかな。それと、透き通った青白さ、それに輝きがある氷竜、そして金属光沢はあるけど黒よりも濃い灰色、鋼色って感じの竜だった。
体格は雌竜さん達と似た程度、まぁ雌雄の違いもあってか、ちょっとだけ格好良さに寄った印象だ。鱗の色や筋肉の付き方も健康的で、飛び方も最初に現れた時の雌竜さん達よりは上手なくらい。福慈様が許可する若手ホープというのも納得だ。
いずれも魔力を抑えてくれているのも好印象。
ただ、炎竜、氷竜と違って鋼竜さんは、よく言えば力強い、悪く言えば雑な着地をしてきた。
土煙が舞い、ケイティさんがすかさず風の壁を作って、皆が埃だらけになるのを防いでくれる。
やれやれ。
『皆さんの訪問をお待ちしていました。魔力を抑える配慮ありがとうございます。ところで、鋼色の鱗を持つ竜、鋼竜様と呼びますが、今の着地は何のつもりだったか教えてください』
前半は三柱それぞれに対して偽りない歓迎の気持ちを、後半は下手をすれば全身土煙塗れだった、と恨みたっぷりの意思を乗せて鋼竜さんだけに向けて話し掛けた。
<竜らしく映えるよう考えてみたのだが……済まん>
おや。思ったよりすっきりした性格のようで、想定外の結果だったと詫びる気持ちが思念波から感じられた。
なら、事を荒立てても仕方ないし、ここは軽く咎める程度としよう。経験不足を責めるのは酷だ。
『竜族の皆さんはそこにいるだけで、威風堂々、誰もその強さに異を唱えることはありません。ですから演出は抑え気味にしないと、余計な付け足しになってしまいます。火のように赤く明るい鱗のそちらは炎竜様、青白く澄んだ鱗のそちらは氷竜様とお呼びしても宜しいですか?』
せっかく立派なのだから、余計なものは足さないほうが映える、と意思を乗せて話すと、鋼竜さんは、わかってるじゃないか、と満更でもなさげな様子。
<その呼び名で構わない。其方らが区別できればいいのだ>
炎竜さんは鱗の色の割には穏やかそう。
<竜神の巫女アキ、其方は本当に我らが好きなのだな。我らを前にそのように落ち着いて……は居らぬが、楽しげに笑みを見せる地の種族を見るのは初めてだ>
氷竜さんは、どこか呆れ気味に話してくれた。
『許されるなら、皆さんの姿を満足行くまで眺めさせて欲しいところですが、時も限られているので、用事を済ませましょう。先ずは今回、立ち会ってくれる妖精族の皆さんです』
「妖精の女王シャーリスじゃ。妾達が立ちあうは其方らを知らず、いらぬ争いとならぬか見極める為。時がない故、我らとアキを竜眼で眺めて見よ」
今回は、シャーリスさん、近衛さん、賢者さんが追加で来てくれていた。シャーリスさん曰く、若竜なら一人ずつ付けばいいだろうとのこと。何もわからなかった頃、雲取様と初顔合わせをした時とは雲泥の差だね。
促されて、三柱がそれぞれ竜眼で無遠慮にまじまじとこちらを視てきたけど、こちらでもはっきりわかるくらい驚愕の表情を浮かべてきた。
<予め聞かされてはいたがこれほどとは……>
<これが召喚体、仮初の存在か>
<アキの隣の妖精は同じ召喚体でも作りが別格だな>
まぁ、取り敢えずは視て、理解はしてくれたようなので話を先に進めよう。
というか、やっぱり竜三柱が前にいると圧が凄い。竜特有の圧は別にしても、それぞれが武装ヘリみたいなサイズだから、間合いも遠くせざるを得ないし、身体を起こしてる状態だから、顔を見上げていると首が痛くなってくる。
『そうして身を起こされていると、首が疲れるので休みの姿勢をお願いします。はい、それで助かります。では今日の話の手順ですが――』
身体に沿わせた尻尾の上に頭を乗せてくれて、やっと見上げなくても済むようになった。
それからは、ケイティさんにホワイトボードを持ってきて貰い、地形図なども見ながら、話も長くなること、他の種族とも合わせる都合もあるので、小型召喚を行う旨の話をした。
また、小型召喚への段取りとして、召喚陣を使うことや、本体の視界を完全に封じる闇の術式を使うことやその意味、小型召喚体になったら識別用の宝珠鞄を身に付けることなど、説明を一通り行った。
ふぅ、ここまででも結構な手間だ。
それから、実際に使う魔方陣や、闇の術式を竜眼で観て、問題がないことを実際に確認して貰い、一柱ずつ、小型召喚を実施して、それぞれの本体は、闇の術式によって完全に視界を閉ざされた状態となって貰った。
◇
<おぉ、身体が小さいぞ>
<随分懐かしい視点だ>
<召喚体というが、なかなかの感覚ではないか>
などと、この雄竜達は落ち着きなく、羽をばたつかせたり、身体を動かしたりとせわしない。
『後で好きなだけ飛ぶ時間を設けますので、こちらの地形図を見て、交流会場の別邸の位置を把握してください。近い距離なので妖精さん達の先導に従ってゆっくり飛行をお願いします。身に付けている宝珠鞄がないと召喚体は無色透明の魔力で構成されているので、簡単に行方を見失ってしまいます。窮屈と思いますがご協力お願いします』
<あぁ、確かに魔力は感知できんな。了解した。アキはどうするのだ?>
この中だと炎竜さんが纏め役っぽい。
「僕はこの後、馬車で別邸まで移動するので、ちょっと後になります。会場にはスタッフの人達がいます。それと他の種族の人達も集まっているので、手隙であれば、挨拶を交わしておくのも良いでしょう」
<では、そうしておこう>
挨拶もそこそこに、三柱は一応、気を使ってはくれたものの、慌ただしく飛び上がって、くるりと一周して周囲を確認すると、さっさと別邸に向かって飛んで行った。飛んで行っちゃった。
あー、もう。
ちょっとがっくりしていると、シャーリスさんがぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「地の種族との交流に疎い竜なら、あんなものであろう。こちらの段取りに耳を傾けて聞いてるだけでも、妖精界の竜を思えば、驚くべき光景よ。妾達も此度は終わりまで付き合うつもりじゃ。本人達に害する気は無くとも、アレは見ておかないとちと危うい」
「お願いします」
そうして、シャーリスさん達も全速力で別邸へと追いかけて行った。雄竜達も飛ぶ感触を確かめるように、ふわふわと飛んでるからすぐ追い付くと思う。
「アキ様、私達も戻りましょう」
「ですね。それにしても最初に会ったのが雲取様でほんと幸いでした」
「雲取様は地の種族との交流にも慣れており、紳士じゃからのぉ」
お爺ちゃんも、気を引き締めていこうか、なんて話して杖を振った。
ウォルコットさんも馬車を回してくれたので、急いで乗り込んで走り出して貰う。
「事前情報では福慈様も認める、将来性十分な竜族若手期待のホープという事だったが、秋に行う竜との対面、少し慎重に進めないと不味いかもしれないな」
ジョージさんも頭が痛い、なんて感情を滲ませていた。
ロングヒルに来ている竜達がいずれも、地の種族との対応に慣れていたせいで、ちょっと認識が甘かったかもしれない。アレで真面な方なら、ちょっとヤンチャな、なんて形容詞が付く個体はどんなのになっちゃうやら。
いつもよりも気持ち、速めなペースで別邸へと馬車を走らせている間、御者台にいるウォルコットさんも含めて、今日の段取りを列挙して、注意した方が良さそうな意見をできるだけ出して貰った。
心話で圧縮教育するにしても、どう話を進めていくか。
思ったよりも、若い雄竜達との会談は手間取ることになりそうだった。
評価、ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
若い雄竜達との交流が始まりました。
ちょっと短いですけど、キリがいいので今回はここまでです。
アキの思い付きに福慈様が乗ってきて実現した単発イベントですけど、いざ雄竜達を登場させてみると、全然思った感じに動かなくて、なんか作者なのに笑ってる状態です。検討時点では立候補した若い竜にアキがちょっとアドバイスする、くらいでさらりと流す予定だったんですが……。
雌竜達が実はしっかり学んでる良家のお嬢様達だった、とアキも思い知ったことでしょう。
シャーリスの言う、妖精界の竜達となると、会話が通じる連中で、札付きのワルってとこですから、ウマが合えば会話可能という難度です。
妖精達は相手にヤル気なら実力行使も辞さないんで、妖精達と接点のある竜達はだいたい過去に一当てしちゃってて、その経験もあって、シャーリス女王の治世では会話モードから入るようになってます。平和とは代償無しには築かれないのです。
雄竜達との話はあと2回くらい続きます。
次回の投稿は、二月二十三日(水)二十一時五分です。
<雑記>
新作の短期集中連載始めてます。
作品名:ゲームに侵食された世界で、今日も俺は空を飛ぶ
現代社会+ゲーム+サラリーマン+空を飛ぶ+変身+アクション(戦闘)+恋愛って感じの作品です。ジャンル「アクション」ってことで、サクサク読めると思います。
2022年2月16日から毎朝7:05投稿してます。
13話まではストックしてあり、19話くらいで終わる予定です。上手くいけばラストまで連投できるでしょう。
興味がありましたら、ぜひ読んでみてください。
<おまけ>
新機能「いいねボタン」が2022年2月1日に実装されました。認知度が低い気がするので、二月中の投稿はこの紹介を書いておくことにします。良かったら気軽にクリックしてくださいませ。貰えると執筆意欲がチャージされます。広告下に出るので気付きにくい位置なのと、ログインしないと押せないのがネックでしょうか。デフォルト状態がOFFなので、作者が意図的にONにしないと有効にならず、定期更新してる作品でもOFFのままのものも多い感じです。