15-15.登山計画に抜擢された雄若竜達(前編)
前回のあらすじ:レイゼン様に、連邦領を上から眺めて気付いた問題点について、ちょっとだけ伝えました。鬼族の方でもあれこれ考えて、秋に再会したら答え合わせをしようということで、なかなか面白い取り組みになって良かったです。やっぱり自分で限界まで考えてこそ実るモノもありますからね。(アキ視点)
連邦からの帰路も、往路とは違うルートだったのと、日の傾きも違ったから、眺める景色も違った良さがあった。
飛びながら交わした話題では、ブセイさんの手合わせについて、竜族として、妖精族として、それぞれにどんな見応えがあったのか聞いてみると、アプローチは違うのに、同じ結論になっていたのが面白かった。
自重を制御しての省エネ飛行は、速度が遅くなる欠点も解ったけど、選択肢が増えることは良い事と、白岩様は楽しそうだ。まだまだ試し始めたばかりで、あれをやろう、これもやろうと思い浮かぶことが多く、毎日が楽しいのだと。
「毎日が淡々と繰り返される安定した日常も、忙しい日々の疲れを癒やすには良くても、ずっとそれだと刺激に飢えちゃうでしょうね」
<竜族の成竜達はその傾向が強い。世界はこんなにも謎に満ちていると言うのに、勿体ない話だ>
「儂らもあまり人の事は言えんのぉ。魔術で簡単にできて困らぬと、何とかしようとする意気込みが湧いてこない。今が良いなら、それで良いではないかとのぉ」
誰よりもそこから遠いお爺ちゃんが言うと、色々と考えさせられるモノがある。
「誰もがお爺ちゃんのようになったら、国としての落ち着きが無くなっちゃいそう」
「そこはほれ、アイリーンの料理と一緒じゃよ。調味料が多くなると、料理のバランスが崩れてしまう。程良い量を入れて味を整えるんじゃな」
<二人は下手に使うと料理を台無しにしてしまう、加減の難しい調味料という訳だ>
白岩様が楽しそうに指摘してきて、思わず、お爺ちゃんと顔を見合わせて、どちらからともなく笑い出してしまった。
それを言えば、白岩様だって変わり者だとか、ちゃんと良識は弁えておるとか、そんな雑談をしながらも、何処かこのまま帰るのが惜しくなる、そんな時間。
本来なら交わらない三種族がこうして共に空を飛んでいることは、何にも変えられない素敵な宝物なのだと、そう思えた。
◇
白岩様が気を利かせて、少し早めに飛んでくれたので、ロングヒルへの到着時刻は予定通りとなった。
ブセイさんが腕の骨を折る怪我をしていた事に、皆が驚いたけれど、経緯を報告すると、それなら仕方ないと、取り敢えずは納得してくれた。
<次は、登山について、若い雄竜達が顔を見せに来る予定だったか。福慈様の了承を取り付けて、少し気負っているようにも感じた。話は小型召喚体になってから、他の種族達との顔見せも合わせて行うと良いだろう>
ほぉ。
「小さくなった時の視点は、元の体で見た時とは変わる感じですか?」
<竜からすれば皆は等しい小ささで、差を感じにくいのだ。小型召喚体の目線になって、鬼族は大きく、小鬼族は小さいと実感も持てた。彼らは地の種族に慣れておらん。だが、今まではそれで良くとも、これからはそれでは不味かろう>
「なるほど」
<それとな、アキ。彼らはまだ大人になりきれぬ、しかし子供とも言えぬ微妙な時期にある。とかく背伸びしたがり、試したがるモノだ。失敗することもまた糧となる。聡く感じても、判断を支える経験が足りておらん。だが、何もせずとも届く範囲に留まれば小さいままだ。アキも似た年代だから、共感できると思うが、理詰めで塞ぐと反発するだけでな。上手く後押ししてやってくれ>
アキなら安心だ、などと白岩様は何でもないことのように、任せたと言ってきた。
「済まんが、雲取殿や雌竜達のように考えては不味いかのぉ?」
<性根は素直で、未来に夢見る若者達だ。力を持て余していて、窮屈な思いに鬱憤が溜まっているのも竜の一般的な若竜と言える。少し慣れと知識と経験が足りてないと思えばいいだろう>
「念の為、全員で立ち会うかのぉ」
<その方が安心できよう。ところでブセイ。その腕の怪我だが――>
話は終わりとばかりに、ブセイさんに治療の期間について確認し、いつから鬼の武を学ぶ話を再開させるか相談し始めた。
聞きたいことは聞けたし、他に特に思いつくこともないから、この話はここまでかな。
僕は、今回の旅についてお礼を告げると、別邸に向かう為に馬車に乗り込んだ。
◇
帝国の時と同様、僕の気付きについて、同行した白岩様、お爺ちゃんと、日を改めて、連邦領の立体地図を観ながら、口述筆記をしていくそうだ。
話した内容はレイゼン様達も読みたいと言ってたから、少し気を利かせておこう。
「ケイティさん、連邦への報告書ですけど、挨拶部分、目次、それと項目について個別に封をして出して貰えますか?」
「それは構いませんが何故でしょうか?」
「レイゼン様に、連邦はこれから何をするべきか聞かれて話した際に、詳しい話は敢えてしなかったんですよ。鬼族も自分達で考えて、秋に再会した時に答え合わせをしようって。なので不用意に目に入らないくらいの配慮はしてあげたほうがいいかなって考えました」
「――趣旨は理解しました。それは考える鬼族に、レイゼン様も含めるのですね」
「知ってるのに話さないってストレスですから。あと、皆と同じ目線で共に知恵を絞った方が、仲間意識が育つでしょう?」
そう話すと、御者台から、ジョージさんが割り込んできた。
「王と臣下達を分けず、か」
「地球でも、決まりだからと、末端の兵達と同じようにアイスを受け取る列に並んで、フレンドリーさで愛された司令官とかいましたから。レイゼン様の性格なら、きっと共に考える方を選びますよ」
「確かにそうだろうな」
部下が意見を献上し、皇帝はそれを採用する。失敗すれば部下のせい、成功すれば皇帝の成果なんて統治のやり方もあるけど、レイゼン様のように兄貴肌な英雄なら、失敗しようと、民と共にあると示した方がいい。きっと民とて、何か問題があっても、皆でレイゼン様を支えるだろう。よい関係だ。
「それと、白岩様の提案もありましたので、若い雄竜達とのお話は、小型召喚体ベースで用意をお願いします。性格とかは解らないから、万一に備えて、妖精さん達の立会いも宜しくね」
「うむ。本体を休ませて、小型召喚体にするなら、さほど時間もかかるまい。そちらは調整しておこう」
お爺ちゃんも快諾してくれたから、そっちは良し。
「迎える際には、ロングヒル周辺から、死の大地に至る立体地図も用意しないといけませんね。他に何を用意しましょう?」
「ロングヒルで把握している竜達の関係図も用意をお願いします。位置を変えられるように磁石て貼り付ける方がいいかも。雄竜達がそれぞれ、誰を狙っているのか、雲取様をどう思っているのか、それらを聞いてから、グルーピングをその場で見直すこともあると思います。書き直すより、位置を直すほうが手早くできて、話もサクサク進められると思います」
「では、それらも用意しておきましょう」
そんな感じで、馬車の中での内緒話も終わり、別邸に戻ったら、窮屈な飛行服も脱ぐことができた。
血の巡りも悪くなるし、気を付けていても、同じような姿勢で座ってる時間が長いから、どうしても体のあちこちが歪んでしまう。
それらをケイティさんにも手伝って貰って解して、伸ばして、お風呂に入って血の巡りを良くしてと、一通りやってくだけでも手間だった。
「にゃー」
髪も乾かし始めると、トラ吉さんも様子を見に現れて、撫でれとばかりに催促してきた。
置いてけぼりだったから、心配を掛けちゃったよね。
「ただいま、トラ吉さん」
どこに居たのか、少しひんやりするトラ吉さんの毛触りが心地良くて、ゆっくり撫でながら、今日あった事を掻い摘んで話す。
そうして静かな時間を過ごしていると、帰ってきたと思えて嬉しかった。
ブックマーク、いいねありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
誤字、脱字の指摘ありがとうございます。なかなか自分では気付けないので助かります。
準備段階では色々ありましたが、結果としては問題も特に起こらず、連邦訪問は大成功で終わりました。まぁ、魔導人形でも最強クラスのブセイが腕を折ってるのを見たら、何事かと騒然とするのは仕方ないところでしょう。白岩様もいて誤解されることなく、報告できたので荒れずに済みました。
ケイティやトラ吉さんとのんびりしてリフレッシュ。アキにとって別邸は我が家同然寛げる場所となっていて、にゃーにゃーと返事をするトラ吉さん相手に律儀に旅の報告をしてるアキの姿は、皆から見てもホッとできる光景でしょう。
次の中、後編パートは、段取りもちゃんと踏まれているので、雌竜達と違い、物々しい警戒などはされることなく、雄の若竜達との交流になります。
次回の投稿は、二月二十日(日)二十一時五分です。
<雑記>
活動報告にも書いてますが、新作の短期集中連載始めました。
作品名:ゲームに侵食された世界で、今日も俺は空を飛ぶ
現代社会+ゲーム+サラリーマン+空を飛ぶ+変身+アクション(戦闘)+恋愛って感じの作品です。ジャンル「アクション」ってことで、サクサク読めると思います。
今日(2022年2月16日)から毎朝7:05していきます。
10話まではストックしてあり、15話くらいで終わる予定です。上手くいけばラストまで連投できるでしょう。
興味がありましたら、ぜひ読んでみてください。