15-11.連邦での洗礼の儀
前回のあらすじ:白岩様に連れられて、連邦まで飛んでいきました。帝国行きの際と同じように、目につくランドマーク的なものについて、観光案内しながらの飛行でしたが、白岩様、お爺ちゃんもよく興味を示してくれて、話していて楽しかったです。(アキ視点)
白岩様が皆の前に、僕がその隣にいて、女中三姉妹が僕の後ろに、護衛人形さん達が周囲に。
これまでの洗礼の儀と違うのは、更に式典装備のブセイさんが控えていることかな。でもまぁ、白岩様が遥かに大きいから、ブセイさんの巨躯であっても、参加してる人達からすれば、天空竜とその他、って感じだと思う。
洗礼の儀に参加している鬼族の皆さんとこちらの境には、リア姉麾下の護衛人形さん達が二列に並んで、その煌びやかな装いを見せつけていた。
そして、参加者の鬼族の皆さんが三メートル間隔くらいの千鳥配置で奥までずらりと並んでて、全部で百人程度だけど迫力が半端ない。何せ演壇に登ってる僕より、彼らのほうが頭の位置がずっと上だからね。今は距離が結構あるけど、間近で見たら、また違った印象になると思う。
今日の僕は、ロングヒルで行った洗礼の儀の時と同様、白岩様の鱗の色に合わせた、赤銅色と白を組み合わせたお洒落なワンピースに、雲取様の鱗を用いた装身具を付けていた装いだ。
三姉妹の皆さんもフル装備って感じだけど、お洒落な印象が前面に出てるから、そう悪い印象にはなってないと思う。
いつものように、妖精さん達は識別用の宝珠が入った鞄を背負って、会場の左右を空から見守ってくれている。
今回は、試験を兼ねるとかで、近衛さんはいない。彼の副官さん達が左右、それぞれを統制するとのこと。
「こうして並ぶと壮観じゃのぉ」
横に浮かんでいるお爺ちゃんも、面白いものをみたわい、なんて感じで楽しそう。
さて。
ざっと、並んでる鬼族の皆さんを観た感じだと、最前列中央付近に竜神子の二人が配されていることからして、竜神子と一般人の違いを示す意図もあるんだろう。侮ってるような連中はいない、怯えが表情に現れてる人もいないのは良い傾向だね。さっぱりとした夏用の礼服を着て、腰に短剣を佩いてるだけではあるんだけど、鍛え上げた身体があれば、余計な装飾など不要と言わんばかりで、いやー、きっと筋肉好きには堪らない光景だろう。
ちなみに、レイゼン様を含めてお偉方は同席していない。あくまでも天空竜と竜神の巫女が仕切る儀式、という体だ。
白岩様を見ると、始めていいぞ、と絞った思念波が送られてきた。含まれた感情からして、不心得者はおらず、白岩様も好印象を持ってる、ってとこだ。よし、よし。
それじゃ、始めよう。
◇
『皆さん、始めまして。こちらが天空竜の白岩様、僕は竜神の巫女、アキです。皆さんからみて左右に並んで飛んでいるのは妖精族の皆さんで、この場での争いが起きぬよう、中立的な立場で同席してくれています。前列に並んでいるのは街エルフの代名詞ともなっている魔導人形の皆さんです。式典を彩る儀仗兵とお考えください』
声に意思を乗せて、あくまでも僕は司会者であり、仲介者ですよ、肩の力を抜いていきましょう、と親しみを込めて話してみた。こうして意思を乗せると、離れた最後尾までも声を張り上げなくてもちゃんと、声が届くから便利、便利。
動揺する雰囲気もないし、腕に覚えありって感じかな? ぱっと見、一般人枠じゃない人が大半だもんね。
『今回行う洗礼の儀は、天空竜の前に立ち、話を交わすに足る力があるか試す儀式です。無理と感じたらすぐ手を挙げて、医療スタッフのサポートを受けてください。無理をしてまで行うモノではありません。ただ、せっかくこうした場に参加されているのですから、自らの限界のギリギリ、その少し手前までは頑張ってみてください。きっとそうして前を向き続けた行いは、自身を支える礎となっていくでしょう』
頑張れ、応援してるよ、皆さんならできる! ……とまぁ、そんな意思を込めて、でも穏やかな口調で語り掛けた。
場の空気はいい感じかな。では、白岩様より言葉を貰おう。
『それでは、白岩様。皆さんへの言葉をお願いします』
白岩様は、ゆっくりと一人ずつに視線を向けて、目があった際の反応を楽しむ、なんて真似をしたけど、それから拡散型の思念波で語り出した。
<こうして、我の前に立ち、毅然とした態度を崩さぬ様に、賞賛の言葉を贈ろう。自らを奮い立たせても良し、受け流しても良し。自身の心を揺るがすことなく保つこと、それが重要だ。武の教えにも繋がるところがあるのかもしれん。その身に狂気を宿すというロングヒルの民とは違っているが、興味深いものだ>
なるほど、武は体だけでなく心も鍛えるって奴か。っと、感心してる場合じゃない。
ハンドサインで白岩様に行ってもいいか確認したら、絞り込んだ思念波で許可が貰えたから、ちょっとフレンドリーなところを見せよう。
シャンタールさんにも合図を送り、予定の行動を取ることにした。
『それでは、天空竜との対面と言っても、それなりにお話をするくらいの時間はないと意味がありませんから、ちょっと演壇を離れて、皆さんと同じ地に立って少しお話しましょう。リラックスしてくれていて構いません。今、白岩様は通常の半分にまで圧を抑えた状態でいるので、この状態を暫く体感して貰い、慣れたら、希望者限定ですが、圧を抑えていない通常の状態を体験しましょう。おー、こうして同じ地に立つと、ほんと皆さん、大きいですねー。自分が幼子に戻ったような気がしてきます』
前列の護衛人形さん達のすぐ後ろ付近まで、ぞろぞろと引き連れる感じにはなるけど、前列付近の鬼族の人を見上げながら、端から端まで、その様子を眺めながら話して歩いてみた。寺の入り口を守る仁王像を見上げるような気分だ。自分よりずっと小さい僕を見る、彼らの目にあるのは戸惑いの感情かな? こちらの笑みに合わせて、笑顔を返してくれたのは竜神子の二人だけか。残念。
離れた位置から白岩様を観ると、やはり陽光を浴びて輝く赤銅色の鱗が美しいね。
『やっぱり、陽光を浴びた鱗の輝きや、しっかりした体つきが格好いいですね。そうそう、白岩様は成竜の中でもしっかりとした体つきの方で、素早く飛ぶことに長けた雲取様とはまた違った印象なんですよ。皆さんも今後は様々な天空竜と対面すると思うので、その違いを観るのも良いでしょう』
シャンタールさんにそろそろ時間だと促されたので、リラックスするように、親しみを込めて話しながら演壇に戻った。
<我らを飽きずにいつまでも観ていたいなどと言うのはアキぐらいなものだ。さて、そろそろ良さそうだ。ここまでと思う者は立ち去るがいい。無理をせずとも、今後はアキの話したように竜と対面する機会は何度でもある。今が無理なら、次にまた挑めば良いのだ>
白岩様の言葉が響き、次は今の倍ですからね、と促すと、あちこちからここまでと辞する旨の発言があり、それを切っ掛けに半分ほどの人達が会場を後にした。
でも、半分残ってるんだから凄いよね。竜神子の二人も残ってるし、まだまだ余裕がありそうだ。
『では、白岩様。普段の状態に戻してください』
そう促すと、白岩様は抑えていた圧を開放してくれた。伝わってくる感じもリラックスしてて開放されたって意識が伝わってくる。
<やはり抑えていると、縮こまっているようで窮屈だ。どれ……ほぉ、自ら残っただけあって、皆、良い顔をしておる>
なんて、白岩様は嬉しそうだけど、僕が見た限りだと緊張感高めな感じの人も結構多めに見える。
『種族の違いなのか、武を鍛えているからなのか、良いですね。さて、始めの時と違って、白岩様から感じられる圧、そこに含まれる感情、感覚の違いにも意識を向けてみましょう。やはりのびのびとした解放感、リラックスした穏やかな意識が感じられるかと思います。これに慣れて、次も行けそうであれば、今、展開している障壁を取っ払って、素の状態で触れてみましょう。それまでが、曇りガラス越しに観ていた景色だったと思えること請け合いです。障壁も悪くはないんですが――』
そこから、やはり普通に話をする程度の時間を稼ぐ為のトークを行って、さぁ、次へと思ったんだけど、ここでドクターストップ。
洗礼の儀はそこで終了となった。障壁なしだと、更に倍って感じだから、まぁ無理をしないのがいいとは思う。
『皆さん、お疲れ様でした。洗礼の儀はこれにて終了です。あ、竜神子の二人はちょっと残ってください』
竜神子の二人はまだ平気そうなので残って貰い、久しぶりの出会いということで軽く挨拶をしてから、秋に若竜の訪問を控えている事もあるので、せっかくの機会だから、僕や白岩様に聞きたいことや相談したいことがあれば、話をしましょうと振ってみた。
白岩様も完全リラックス状態じゃないけど、話を聞く姿勢になってくれて、そんな僕達の圧に負けたのか、二人も座って僕の目線に合わせると、あれこれ、話し始めてくれた。
うん、うん、やっぱりこういう地道な交流って大切だよね。
そんな事をしてる僕達を横目に、シャンタールさんが儀式の終了と、次の催しに向けて指示を行い、立ち会ってくれていた妖精さん達も大半が還っていった。ブセイさんも角力(相撲)に参加するから、鎧を脱いで準備しないと。
残念な人とか、無理する人とかもいなかったし、最後のドクターストップも少し早めに切り上げる感じだったし、市民層って感じでもなかったから、悪影響が出ない程度で抑えたのかもしれない。
まぁ、何にせよ、洗礼の儀も無事に終わって、後はブセイさんと兄弟子の皆さん達による角力(相撲)だ。
連邦での洗礼の儀でした。通算三回目ですが、前2回は後から白岩様がやってきたのに対して、今回はアキと一緒の登場なので、色々と端折ってます。時間をかける訳にもいきませんからね。あと、短時間でフレンドリーさを演出する為、演壇から降りて近づいて話をする、なんてことも行いました。アキの発案ですが、相談されたセキュリティチームが顔を顰めたのは確実で、実はなかなか緊張するシチュエーションでした。まぁ何事も無かったので、終わりよければ全て良しです。
次回はブセイと兄弟子達の手合わせ、その次は鬼王レイゼンとの会談って流れです。
次回の投稿は、二月六日(日)二十一時五分です。
<活動報告に以下の話を書きました>
・石原慎太郎氏死去
・教導隊のF15DJ消息を絶つ
・ロシア、ウクライナ国境沿いに十万の兵力の配備を完了
<2022年2月3日(木)追記>
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