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15-10.連邦への日帰り旅行(往路)

前回のあらすじ:鍛えたプロレスラー相手に中学一年生が束になって抗う、しかもそこに小学一年生の自分がいて、なんて感じだったので、対鬼族のセキュリティ訓練は大変でした。でも鬼人形のブセイさんの手加減がとても上手で、他の魔導人形さん達も吹っ飛んだり、転がされたりはしてたけど、怪我はしないあたり、熟練の技って感じでした。三大勢力の代表の皆さんからの返書も届き、福慈様との調整も終わって一安心。一年前、こちらにやってきたばかりの頃は、こちらの家族とサポーターの皆さんだけの小さく閉じた世界だったけど、長老のヤスケさんにも指摘された通り、繋がりも随分増えました。(アキ視点)


あと、次回投稿日、カレンダーを見間違えてました。

誤:二月二日(日)

正:一月三十日(日)

連邦との調整もサクサク終わり、あっと言う間に訪問日に。

帝国へ出かけた際と同じように、魔導人形の皆さんには空間鞄に入って貰い、白岩様用にセッティングした座席ハーネスも取り付けていざ出発となった。


眼下にあるのは、どこまでも続く山脈の峰々。連邦の地は平地が少なく、山が多い地形ばかりだ。それに、帝国と違って特徴的なのは、都市間を繋ぐ太い道路網が整備されていること。ロングヒルで雪が積もった時にも、セイケン達が道路の除雪をしてくれたけど、そんな感じに大柄な鬼族の体躯でも、冬の行き来に困らないよう、国造りがなされていた。


「白岩様、あの道路、渓谷を超える橋の先を観てください。連邦屈指の長さを誇るトンネルがあるそうです」


<ほぉ、どれどれ。いや、これは凄い! よくこんな岩山に穴を通したな!>


鬼族の力は、地球(あちら)に近い発想を可能とするようで、険しい山を越えていく閉ざされた地や、深い渓谷に阻まれて移動が大変な地には、大きな橋をかけたり、トンネルを通したりして、人々の行き来を可能としていた。


軽い身のこなしで、困難な地形を自力で超える小鬼族や、小鬼族並みに身軽な運送人達に物流を頼みつつ、各地域で独立性を高めている人族ともまた違う国の造りで、日本あちらの地形を観ているようでなかなか楽しい。


「儂ら、空を飛んでいく者達にはできぬ発想じゃ。これに空間鞄と鬼族の身体能力を合わせれば、連邦内のどの場所にも速やかに人や物を集めることもできるじゃろう」


お爺ちゃんも、眼下の巨大インフラがどれだけの恩恵を齎すのか理解して驚きの声をあげた。


「自分達の方が確実に強い、そして十分な数を必要な地点に必要な時に集めれば絶対負けない。だからこそ、鬼の巨躯にも十分に耐える立派な道路網を作ったんだろうね。白岩様なら視えますよね? 道路もそれ自体がかなり手間がかかっているって」


<……岩や砂利、突き固めた土、表面を覆う石畳。かなりの深さまで掘って手を加えておるぞ。こんなことを道路の全てにやっているのか>


白岩様が驚くのも当然だよね。日本あちらだって、戦前の道路は未舗装が多く、或いは砂利道程度で、自動車も少なくて、工場から試作機を飛行場に運ぶのに、揺れが少ないからと牛車を使ってたくらいだし。


「鬼族の巨体で走り回っても、それを十分に支えられる頑丈な地盤と、雨水を効率よく排する仕組みがないと道路はすぐ傷んでしまいますから」


これだけの力を投入できる鬼族はやはり凄い。生きた重機と言っても過言じゃないと思う。


おっ。


「今度は大規模治水ですね。山の地形から見ても不自然に川の流れが曲がってる。曲げてるところには巨岩とコンクリートブロックで流れを受け止めてて、広めの遊水地も確保できてる。堤防の造りも見事だね」


「アキ、川の両側に延々と続く堤、アレも鬼族の手による物なのか!?」


「そうだよ。だから、堤防の裏手には広大な田畑があるけど、水害で実りが台無しなんてことも防げるんだ」


「こうして見える川の果てまで堤が続いておる……。驚きの景色じゃ」


人の手はちっちゃいけど、皆で力を束ねて、そしてそれを長い時間続ければ、これほど大規模にだって世界を変えられる。やってることは川を堰き止めてるビーバーの凄いバージョンみたいな話だけどね。


<竜や妖精とは違う、種としての力か。漫然と飛んでるだけでは気付かぬモノよな>


白岩様もふむふむ、と頷きご機嫌だ。


竜族は最強だから自然に手を加える必要がない、妖精族は小さいから今ある自然に寄り添う感じになる。


あの山から良質の石が採れるんだ、などといってどんどん削って谷にしちゃったりはしない。そんな真似をするのは地の種族だけだ。その傾向が突き抜けると、生活の拠点を岩山の中に移したドワーフ族みたいになるんだろうね。そんな彼らも生活が岩の中で完結することはないけれど。


……って、あ、不味かったかも。


「どうしたんじゃ?」


「ドワーフ族の皆さんって、岩山をくり抜いて、石や金属を取り出したりしつつ、外から太陽の光も導いて、生活してるよね」


「うむ、そう聞いておる」


「マコト文書の知識を用いて、岩山に大きな生簀を作って海の魚を育てたり、作物を育てる試みが始まってるけど、中だけで快適に暮らせるようになったりしたら、種として変わっていっちゃいそうだなーって」


太陽光を中に導いてるから、目が退化したり、肌が青白くなったりはしないだろうけど、何世代も天候に左右されない生活を続けていたら、色々と考え方とか文化とかが変わりそう。


<外に出れば、広大な世界に対して、自身が小さいと感じられる。他の種族や遠い地との交わりを続ければ、そうそう変わらんとは思うが。それで、そんな手間を掛けてなぜ、海の魚を山で育てるのだ?>


白岩様の言う通り、こうして大空を舞えば、人間なんてちっぽけな存在だと、世界は広大なのだと理解できると思う。ただ、人の基本能力は狩猟時代と変わらない。だから、広大な世界に対して自身の活動なんて大した話じゃないと思っちゃう。実際には鹿や熊にも劣る力しかない人間だって、束ねて集めて、それを続けた力は桁違いだ。自身にできない事も道具を作り、機械を作り、巨大な力と為すこともできる。


僅か三人を月へと運んだサターンVロケットなんて、その力は、一億六千万馬力だからね。


っと思考が逸れた。


「えっとですね、海は広大で豊かな漁場もあるけれど、魚は自由に泳ぐから――」


そこからは、目ぼしい地形の解説をしつつ、野生の生き物を狩るのではなく、養殖することで、安定して食料を得ることができること、備蓄した飼料を用いることでその年の収穫量に左右されにくくなること、更に岩山の中であれば、大半の天災を免れることができることなどを説明することになった。


そこから、白岩様は、同じように大地の恵みを受けても、種族によって生き方が大きく異なることに興味を向けてきた。


竜族は広大な地に点在することで持続性を維持し、妖精族は小さい為にさほど気にせずともやはり問題はなく、地の種族だけは自分達が生きやすいように、より豊かな恵みを得られるように自然そのものに手を加えてきた。


この違いは面白い、と。


……この感じだと、白岩様が比較文化学の牽引役になりそうだった。





いくつかの城塞都市を経由して、眼下にそこそこ大きな都市、今回の目的地である連邦の首都が見えてきた。小鬼族の建物と違い、こちらは階層毎の高さがあるけど、大半が平屋造りだ。それに都市全体が地盤改良と嵩上げを行っていて、水害への備えと、周辺の地より高台に位置することによる防御面の優位性も確保してるって感じだ。


それに、帝国と違って土が豊かなようで、田畑も青々と茂っていて、秋の収穫時期が楽しみ。


予め聞いていた場所に、予定通りの形で敷地が整備されていて、着陸地点もわかりやすく円が描かれている。


雲取様と同じように、高空から大きく旋回しつつ高度を下げながら、竜眼でかなり念入りに確認をしてからの着陸となった。洗礼の儀の会場付近には、大勢の人達が待っているようだった。


「やっぱり皆さん大きいですね。ここからでも良く見えます。小鬼さん達と違って控えは外ですけど、集団術式で工夫とかしてる感じですか?」


<囲うように、護りの陣が敷かれているようだ>


そう言いながらも、別に白岩様は警戒するそぶりとかは見せてないから、まぁ普通の護りなんだろう。


帝国の時と同様、上空で妖精さん達を召喚してから降りて、それからシャンタールさん、他の魔導人形の皆さんの順に喚んで、とやっているうちに、レイゼン様、シセンさん、ライキさんの三人が出迎えてくれた。三人とも夏に合わせて軽装の礼服で、春先の時より涼し気な印象を受ける。こうして見ると、レイゼン様はがっちりとした立派な体格、シセンさんは年を重ねて少し絞った無駄のない体格、そしてライキさんは大迫力のナイスバディに武人っぽい凛々しさもあって、姉御って雰囲気マシマシだね。

でも、粗野な印象はなくて、育ちの良さが感じられる。うん、やっぱり素敵なお姉さんだ。


「白岩様、翁、それとアキ、よく来てくれた。連邦一同で歓迎しよう。白岩様、先ずは洗礼の儀から宜しくお願いします」


三人が深く礼をすると、白岩様も静かに頷いた。


<勇気ある者達と会えるのはいつであっても楽しいものだ。準備ができ次第始めよう>


「それじゃ、白岩様は椅子ハーネスを外してる間に、僕は着替えますね」


<慌てぬようにな>


送られた思念波は、見守る大人って感じだけど、向けてる温かさは明らかに幼児へのソレなのが、ちょい残念。でもまぁ、白竜さんからはペット枠、白岩様からは幼児枠でも、大切にしてくれてるのには違いないからね。


さて、ちゃっちゃと着替えて、先ずは洗礼の儀を片付けよう。

感想、ブックマークありがとうございます。執筆意欲が大幅チャージされました。

遠い異国の地への日帰り旅行ですが、基本的にやることは帝国の時と変わらないので、サクサクと話を進めてみました。連邦の国造りは日本あちらに結構近い、大規模土木工事を行って自然を制する方向です。地図を書き換えるレベルの事業を行える、これが連邦(鬼族)の強みですね。この辺りの話は、洗礼の儀→ブセイと兄弟子達の手合わせ→鬼王レイゼンとの会談なので、3パート先あたりで語ります。

次回の投稿は、二月二日(水)二十一時五分です。


<活動報告に以下の話を書きました>

・ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、L2地点に到着

・人の営みの影響についてちょっとあれこれ

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