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15-9.飛び交う親書(後編)

前回のあらすじ:本国への報告書を出そうと思った矢先、登山の話が出てきたので、セイケン&ガイウスさんが朝から乗り込んできました。日本あちらなら、すぐ連絡を取れる手段がいくつもあるけど、考えてみれば、そんな風に便利になったのって、ここ100年にも満たない話なんですよね。固定電話の設置件数がピークを迎えたのが1997年、それが今ではスマホ(やガラケー)で一人一台以上というのだからびっくりです。今では当たり前のスマホも2010年時点では保有率10%とかですし。こちらだと情報の波に溺れることもないので、こうして一年も離れて、こちらの暮らしに慣れた視点から思い返してみると、アレはアレで異常、というか人の限界を超えちゃってた気はします。(アキ視点)

万一の事態に備えたセキュリティ訓練、僕がやるべき事はアイリーンさんの後ろに隠れ、更に太刀筋から、どれだけ無様でもいいから身を躱す事だけだった。一太刀、それさえ避ければ良しとの事で、勿論、暗殺者役のブセイさんが自由に動ける状況では僕ではどうにもならないけど、幾重もの護りに動きを阻害され、姿勢が制限された状態、ある程度踏み込まないと僕に剣が届かない間合いからなら、躱す事もできるようになった。


ただ、ブセイさんにそこまで不利な条件を課すのは、リア姉の精鋭チームでもかなり手古摺り、僕が参加してない時間も、人よりも長時間動き続けられる魔導人形の特性を生かして訓練と検証を重ね、そうしてやっと、合格ラインに到達したのだった。





そして、日差しにも夏らしい力強さが増してきた頃、僕宛に親書が三通届いた。山登りの提案に対するユリウス様、レイゼン様、ニコラスさんからの返事だ。


ケイティさんに秘密保持機能付きの箱から出して貰い、封蝋の印にも乱れがない事を確認してから、中の手紙を取り出した。


先ずはユリウス様だ。


帝都訪問で、天空竜、人形遣い、妖精の揃う様を見たことで、臣民の皆さんも新時代の到来を強く意識するようになったそうだ。また、弧状列島の中の帝国と言うように、全体の中での立ち位置を意識するようにもなったそうで、対連合という視点から広がった事をユリウス様も喜んでいた。


防疫・医療体制を見直した都市の建設は、完全な新規ではなく、水害の多さに発展を阻まれている都市があるので、鬼族の手を借りて川の流れを変えて、水害低減、農地確保、水運強化、それと街エルフの協力を得て、都市の上下水道の刷新を行うつもりと書かれていた。普段は公園、緊急時には遊水地となる地域の整備や、堤防も作ると言うから、何とも壮大だ。


で、本題の山登りだけど、概ね賛成で、帝国全土から参加者を集めるので、選抜を含めて二週間は欲しいそうだ。人族との無用な衝突を避ける為、小鬼族の合流は、竜の縄張り内としたいともあって、それは良い方針と思う。山は竜と魔獣の住まう領域であって、「死の大地」と海を挟んで対峙している地域でも、大地を覆う呪いを見た事のある者は少なく、許されるならユリウス様自身も観に行きたかったと、ちょっと残念そうだった。





次はレイゼン様。


連邦訪問は、洗礼の儀の後に、ブセイさんの兄弟子にあたる方々との角力(相撲)の場を設けてくれるとの事。また、短いけど、会食する時間も用意してくれるそうで、これは楽しみだ。


飛行ルートは首都までの見処をセイケンに説明させるから、好きに決めてくれていいそうで、大盤振る舞いだ。これは帝国の時のように、行きと帰りでルートを変えるパターンも含めて、白岩様と相談しよう。


それで、山登りの件は、面白い催しだから、鬼族の探索者達を参加させよう、とかなり乗り気だった。レイゼン様も全て陸路での移動は連合、帝国のどちらを通るにせよ負担が大きいので、最寄りまで帆船で移動する案で良いとのこと。鬼族の帆船が必要とする水深を伝えるので、入港可能な港と接岸までのルート、それに水先案内人の手配も欲しいとある。共和国の港にも今後を考えて寄りたいのと、天候悪化を想定して、途中の港についても港付近の水深や岩礁の位置などを開示してくれ、とまぁ、要求が盛り沢山だ。


言ってる事はまともだし、平和の使節でござい、と来るのだから、共和国、連合もそうそう邪険にはできない筈。まぁそのあたりはファウスト船長に任せれば安心だ。


後は、僕を招くと、必ず天空竜の誰かが共に来る、そうなると、僕とだけ話をする訳にも行かず、しかし天空竜が共にあっては会談も短くせざるを得ず、悩ましいとあった。緩和障壁の性能向上に期待している、もっと気軽に話せる世としていこう、と締め括られていた。





最後はニコラスさん。

今回の件について、先ず、代表達に一報を入れた事への感謝と、今後もそうするよう穏便な口調だけど、がっつり要望が書かれていた。


連邦訪問はどうせなら楽しんでくるといい、とあって、帝都訪問時と同様、空から眺めた話も読んでみたい、と興味津々って感じ。何処かのタイミングで連合領も空から眺めて、三勢力を比較した意見も聞いてみたい、ともある。


空を鳥のように自由に飛びたい、それは人の長年の夢だからね。この感じだと、ニコラスさんは空を飛ぶ事に興味を持ってそうだから、次に会った時にでも、機会が整ったら飛んでみないか誘ってみよう。


それで、山登りについて、拒む理由は無いけど、調整と人選、それに参加者の移動に三週間は欲しいとあった。


鬼族用の宿泊施設は無いけれど、高い天井の客室を備えた旅館はいくつかあるので、場合によってはそこを提供できるそうだ。地域柄、鬼族との間にはさほど確執は無いので受け入れは可能だろう、ともある。小鬼族の方は、竜族の縄張り内での集合と、その時点での小型召喚竜と妖精、人形遣いの同席が欠かせないとの見解だ。





特に私信は含まれてなかったので、ケイティさんやお爺ちゃんにも読んでもらい、今後の方針を相談する事にした。


「皆さん、賛同してくれて幸いでした。この後、福慈様に相談して、要望を聞けたら、後は実務者協議で進めて貰うって感じで良いですか?」


そこまでやれば、バトンタッチして後はお任せ、と言う気分で話すと、お爺ちゃんが解っておる、と深く頷いた。


「参加者には、体験した事、感じた事、思った事を手記に纏めるよう依頼しておけば良いのじゃな」


「そうそう、参加要請が届いた辺りから書いてほしいね。鬼族なら、帆船での移動とか、連合の港に寄る船員目線の話も読んでみたい」


「はいはい、二人とも、個人的趣向丸出しですね。記録として有用ではありますので、依頼は出しますが、検閲される事はご了承下さい」


ケイティさんも少し呆れた顔をしてる。


「うむ。何が書かれていないか、それもまた重要じゃ」


おや。


「街エルフの流儀でも学んだの?」


「ヤスケ殿から、色々と話を聞かせて貰っておるのじゃが、情報とは得られる事だけでなく、得られない事もまた意味があると教えて貰ってのぉ。奥の深さに驚く事ばかりじゃわい」


「相手によって見せる面が違う、見せたくない面もある。人相手と似たところはあるけどね。帝国はユリウス様による中央集権化が進んでいるから、その意図はある意味読みやすい。対極は連合だね。いくつもの頭があるから、矛盾するような話も出たりして、混乱するかも」


「そのお話はまたの機会にしましょう。翁、あまり見透かすような姿を見せつけると、小さくかわいい、引っ込み思案な妖精さんのイメージに傷が付きますよ」


「うむ、夢は大切じゃ」


自分で夢とか言ってるんだから、いい性格してるよね。体格と腕力では勝負にならない分、如何に自分達の得意領域で勝負をするか、相手が侮り、誤解し、自らの力を縛るよう導くか、そんな事を考えて、最小の力で最大の成果を得る、特殊部隊のような思考を旨としてる妖精さん達が、甘い性格な訳がない。


「それでは、アキ様は念の為、「死の大地」周辺の地理を再確認して頂いてから、福慈様との心話をお願いします」


「立体地図があって助かります」


用意して貰った立体地図で、ロングヒルや、福慈様の縄張りの位置、途中にある目立つ地形とかをチェックして準備完了だ。





心話魔法陣のある部屋に移動して、福慈様の所縁(ゆかり)の品をセットして貰い、早速、心話スタート。


今日は温かい天気だからか、すぐ気付いてくれた。


<福慈様、お久しぶりです。帝都訪問では同行していただきありがとうございました。雲取様達は忙しいようで――>


って感じに、挨拶と近況の話題を交わしてから、山登りの件を相談してみた。


<海を挟んだ山々に住む竜達は、さほど気にせず「死の大地」を眺めているが、地の種族と共に山に降りて、其処から眺めるのかい? それも小さな姿になって、覗き見る真似までして>


そんな振る舞いは竜族らしくない、と不満を表したけど、本心から不満に思う感じじゃなく、そうする理由を話せ、と催促する思いが強い。


<呪いに、新たな刺激を与えたくない事が一つ。同じ地に住む種族が集い、観た経験を共有する事での気付き、意識の変化を期待している事が一つ。単なる自然、気にならない景色ではなく、何とか処する対象として観た場合の驚きを、小型召喚体とする事で魔力を無色透明として、目立たぬようにする事が一つ。それと地の種族同士の無駄な争いを抑える事を期待してます>


自身の縄張り全てが呪いに覆われた、そんな視点に立ったなら、きっと強く驚く。そうなると「死の大地」の呪いの気を引きかねないので、それを回避したい、と。


そんなイメージも合わせて送ったら、福慈様も納得してくれた。


<関係のない景色と、自分の縄張りでは、それは意識も大きく変わるだろうね。――登る山の選択と、その地を縄張りとする竜との交渉、それと山登りへの同行はやらせてもいい。ただ、いつもの面子ではなく、別の若竜達に任せたいが構わないかい?>


一応、聞いてくれてるけど、返事はイエス以外有り得ない。まぁ誰が担当してくれても構わないから、それは良いんだけど、変えてきた理由や、既にメンバーの目星も着けている点が気になる。


んー。


<点数稼ぎをしたいと相談してきた雄の若竜達がいたとかですか?>


そう聞いてみると、少し嬉しそうに笑いながら、答えを教えてくれた。


<雲取達が他の部族に話を通したり、協力を取り付けただろう? 若竜達はそうした場に出る事は少なかったからね。刺激を受けて、ならば自分達も、と奮起した若竜達が出てきたのさ>


率先して面倒事を引き受ける姿勢は好ましい、とも話してくれたけど、背伸びする男の子がカワイイ、なんてお婆ちゃん目線が殆どだね。それでも僅かだけど、羨ましさが妬ましさに変わる前に手を打ちたい、なんて計算も感じられた。


まぁ、何にせよ、賛同してくれるなら有り難い。


<やる気溢れる方々なら大歓迎です。それでは、若竜の方々には最大三箇所の山登りについて、現地の成竜さんの合意を取り付けてもらい、僕は小型召喚や地の種族との交流についてフォローしていくって事でどうでしょう? 山登りの準備に三週間ほど必要なので、僕が連邦から戻ってきてからの対応でも十分間に合うと思います>


<今回は一部の竜同士の話だ。若竜達に任せるから、上手く手を貸しておくれ>


そんな感じでサクサクと話は決まり、担当する若竜達について教えて貰って、山登りの件はお終い。その後は、雲取様や雌竜の皆が帝都訪問の話を報告した件について、成竜や老竜達の反応とか、部族に与えた影響について、あれこれ話を聞くことができた。お気に入りの孫の話をするお婆ちゃんって感じで楽しく聞けたけど、ちらちらと群れを束ねる長として、育てる視点も感じられて、興味深い内容だった。時間感覚の違いも面白かった。それと、ロングヒルで観るのは無理だろうからと、妖精界の夜空に関する記憶を開示する流れになり、これも好評だった。





心話を終えて、福慈様と調整した内容について、ケイティさん、お爺ちゃんに報告した。


()()()、相談した時点で決定事項になりましたね。では、関係各所には竜族が賛同した事、縄張りの竜との交渉は若竜に任される事、山登りの候補地は最大三箇所、山登りにはロングヒルから飛び立った小型召喚竜と妖精が同行すると、関係各所には伝えておきます。翁もそれで良いですか?」


ケイティさんの指摘通り、竜に相談して、良し行こうとなったら、他の種族は、ハイソウデスネと言うしかない訳で、最初に相談しないで正解だった。


「現地で椅子ハーネス)の取り外しが必要になるが、それは誰かに頼めば良いじゃろう。儂らも参加者の選定は済ませておこう」


お爺ちゃんも快諾してくれたので、これで山登りの件は取り敢えず、手を離れたね。


しかし、雄の若竜かぁ。福慈様から観た印象では問題なさげ、やる気に満ちた若者って感じだけど、雲取様と違って、縄張りを持たず、地の種族との交流経験も無いってのが、ちょっと懸念事項ありだね。


と言うか、圧を抑えたり、洗練された飛び方とかできるのか聞いてなかった。まぁ、黒姫様も白岩様もマスターしていたし、そこは大丈夫と思おう。駄目でも習得するつもりがあれば良し。


……今度、白岩様にこっそり聞いておこう。福慈様とは違う視点で役立つ話が聞けるかもしれないから。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

登山に関する三大勢力代表達からの返事も届き、福慈様に相談→実施確定、ともなりました。アキもやっと、竜族に相談する=決まる=追認するしかない、のコンボに気付きました。今後は少しは自重していくことでしょう。

調整や準備も終わったので、次パートからは連邦への訪問、これまでと違い、白岩様との外遊です。

次回の投稿は、二月二日(日)二十一時五分です。


<雑記>

新型コロナの影響で「過去に例がないほど」献血する人が減り、輸血に必要な血液が不足しており、このままでは手術ができなくなる恐れもある、と報道されています。(2022年01月19日時点)

企業やイベントに献血バスが出せないことの影響のようです。献血の直接的な意味とは別に、以下、②+③の自身への恩恵もかなりのモノがあります。私の友人も献血に行って、鉄分不足で献血はできませんでしたが、それを契機に自身の健康状態を見直すようにもなりました。そんな訳で、献血可能な方は協力していきましょう。


①献血は短時間でできるボランティア活動

②ボランティア活動は大きなのを1回(例えば大金を提供するとか)するより、小さな活動を時折行った方が幸福度が上がる

③献血できる=一定以上の健康状態にある事も意味する

④雑誌を読んだり、フリードリンクがあったり、お菓子も食べられたりとお得な事もある


あと、都内では2月1日からは、山梨県内では3月1日からゆるキャンΔとのコラボも始まり、特性クリアファイルのプレゼントが行われるようです。

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