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15-8.飛び交う親書(前編)

前回のあらすじ:鬼人形のブセイさんや、魔導人形の弘さん率いるリア姉麾下のチームと一緒に鬼族の暗殺者を想定したセキュリティ訓練を始めましたが、体格差で行くと、大柄なプロレスラーと普通の小学生だから、魔導人形さん達もとても真剣に取り組んでました。その比較でいけば僕なんて小学一年生って感じなので、せめて気合だけでも負けないように頑張りました。(アキ視点)

ブセイさんが見せてくれた鬼の武技、例えば、セイケンが何度も実演している、武器に風を纏わせる術式「辻風」だけど、それを組み込んだ連携技が猛威を振るった。


短剣に纏わせた辻風で、姿勢の崩しと、体を浮かせるのを同時に行い、そこに当て身を叩き込む事で、相手を押し飛ばして、眼前の相手だけで無く、その後方の控え諸共崩したのだ。


まるでボーリングのピンのように派手に巻き込まれて陣形が乱れる事となり、護衛チームが騒然となった。


また、やはり、セイケンが総武演で見せてくれた術式「大盾」も厄介極まりなかった。横に展開すれば壁となり、前衛達に向けて倒せば、安全なスロープへと早変わり。それに、前方に僅かな時間出して、視界を塞ぐだけでも、ブセイさんの次の動きが読めなくなり、対応が一手遅れる事となった。


総武演では見てないけど、同じ創造術式で繰り出された長槍も、洒落にならなかった。護衛達の間に拳一つ程度の隙間が生じた瞬間、裂帛の気合と共に踏み込みつつ、手元から長槍を創造して、六メートルほど後方にあった的人形がぶち抜かれたのだ。


「私の場合、呪紋を用いた紛い物デスガ、辻風、大盾、武器創造、魔刃を使えマス。これに身体強化と、重量操作を組み合わせるのが、鬼族の上級武技デス」


知識として知ってても、それが何を意味するのか正確に思い描けなければ意味がないと、理解させられた思いだった。


総武演でセイケンは、小鬼人形達の小隊を軽く蹴散らし、突破して魅せたけど、それを阻もうとする側からすれば、頭を抱えたくなるレベルの難敵だった。


ジョージさんや護衛チームの面々も、無双系ゲームのように吹き飛ばされる様に、目の色が変わってきた。ただ、それは驚きではあるけれど、自分達への挑戦と捉えて嗤うようで心強かった。


「鬼族の代名詞でもある術式「神鳴」は対象外ですか?」


一定範囲を殲滅する大技と聞いているけど。


「アレは使うのに一呼吸の貯めを要するノト、訓練の域を超えている為、実演はできますが訓練には用いまセン」


さっきから見せて貰ってる技はどれも、当たるを幸い、敵を屠る必殺技クラスでは?


「私が持つ呪紋併用の技は、どれも当てる際の加減が可能なのデス」


「なるほど」


仮想敵部隊アグレッサー所属なのだから、そう言った配慮はされていて当然なんだね。


「昔の人達は、よくこんな達人達相手に戦ってましたね」


「同感だ。先人達の血で書かれた教本に感謝しよう。上空監視の鳥人形も三機は欲しいな。中和術式付与をした剣も試してみよう。登攀用の緊急杭打アンカーもイケるか?」


ジョージさんが指示を飛ばし、それに合わせて装備の見直しと準備が行われ、僕が時間切れで立ち去る事になった後も、対策の実地確認を納得するまで続けそうな熱気だった。





僕が提案した、山に登って皆で「死の大地」を眺めようって話は夜のうちに、他の勢力にも展開されたようで、翌朝、セイケンとガイウスさんが別邸に押しかけてきた。


とにかく急ぎとの事で、起きた途端に、着替えを準備され、身支度を整えてる間に、二人の目的を聞き、共和国、ロングヒル王家のスタンスまで把握させられる事になった。


軽食を取りながらでいいから、話を聞いておきたい、と言うんだから、慌ただしいね。


庭先に行くと、鬼族対応のテーブルが用意されていたので、先に座っていたガイウスさんと同様、子供用の椅子みたいによじ登って席に着いた。


「二人共おはようございます。お急ぎのようなので、訪問された目的を聞かせて貰えますか?」


無作法だけど、アイリーンさんが用意してくれたサンドイッチを頬張り、紅茶を飲んで、頭をスタートさせる。


「アキが提案したと言う登山計画だが、何故このタイミングなのか、我々、連邦や鬼族への助言があるなら聞いておきたい」


ふむふむ。セイケンの方は、発案者の声を直接聞いておきたい、昨日の話では連合や共和国視点の考えしか話してないから、その辺りも聞いておきたいってところか。まぁ、連邦行きの合意書を送ろうという矢先に来た話だから、今回の件も纏めて手紙を記して送りたいと焦る気持ちもわかる。


「私は、連邦行きの前でもありますので、アキ様が連邦、帝国に対して、どのような考えにあるのか、伺っておこうと考えました」


ガイウスさんはそんなところか。セイケンより落ちついた感じなのは、期限付きの話を抱えてないからか、心身を制するのに長けているのか。


では、時間も無いので手短に。


「何故このタイミングかと言えば、セシリア様に相談されたのが昨日だったからですね。連邦への助言ですか。んー、そうですね、登山参加者をずっと陸路で現地に向かわせるのは調整に時間が掛かるので、本島の北岸経由で、最寄りの港に帆船で乗り付けるのが良いかと思います。連合の港湾設備の確認もできるので、ファウスト船長との協力にも繋がるでしょう。連合の二大国の西側、ラージヒルより更に西の地域となれば、連邦との接点はほぼ無いので、互いを知るのにも良い機会です。それに大手を振って連合内を歩けるのですから、存分に鬼族の姿を見せ付ければ良いと思います」


用意して貰っていた地図から、海路と良さげな港と現地までの移動ルートを示してみた。セイケンは地図を睨んで、少し考えているようなので、次はガイウスさんだ。


「地域からして、小鬼族の皆さんは、竜族の縄張り内で、人族、鬼族と合流する流れになるかと思います。小鬼帝国は地域毎に王が統治されているとの事なので、連合と同様、広い地域から参加者を集って、「死の大地」を眺めるのがお勧めです。あと、帝国は前回、連邦は今回の訪問で、まつりごとへの意識に変化が生じると思いますけど、「死の大地」を皆で眺める事で、帝国、連邦、連合という枠を超えた認識を持つ切っ掛けとして貰えると幸いですね」


「統一国家に向けた布石ですね。小型召喚の竜族と妖精族の方も、現地集合でしょうか?」


ふむ。


「共に登る事にも意味はあるので、竜族の縄張りの入口で、皆が集うのが良いと思ってます。それに縄張りの主にも挨拶が必要ですからね。あと現地に直接なのか、途中、何箇所か経由していくかは、調整次第でしょう」


「ありがとうございました」


ガイウスさんは取り敢えず納得してくれたっぽい。そんな話をしている間にセイケンも考えを纏めたようだ。


「南回りとしないのは、「死の大地」の呪いに察知されるのを防ぐ為か?」


「そうです。間に山々を挟んだ方が、探知される確率を減らせると考えました。それと共和国の島の近くも通るので、街エルフに水先案内人を頼んでも良し、何処まで近い航路を許可されるか測るだけでも価値はあるんじゃないでしょうか?」


チラリとケイティさんを見たけど、特に反応はなし。


「無寄港と考えていたが、外に向けて開かれている港町ショートウッドに寄って、ファウスト殿と話す場を設ける手もあるか……」


それも有りだと思う。


「理想を言えば、共和国、連邦、帝国の帆船が同じ港に集えると、情報交換や船乗り同士の交流が進められて良いと思うんですけど、帝国の帆船を北回りで派遣して貰うのは、ちょっと時期尚早にも思えます。ガイウスさん、その辺りはどうです?」


「可能であれば、陛下よりお話があるかと思います。先日、「死の大地」の探査船団結成に向けた返書にそれらに関する内容も記されることでしょう」


ふむふむ。


「後はそうですね、連邦内の飛行コース、高度の情報とは別に、風光明媚な場所や、彩りが綺麗な田畑、鬼族の大きな力を活用して建設した施設など、飛行経路に近いところにあるようでしたら、教えて下さい。雲取様達やお爺ちゃんにもそうしたところの案内は好評だったので、今回もやれたらやろうかと考えてます」


「……解った。では、それらについても伺いを立てておこう。ついでだ、何か話しておきたい事はあるか?」


んー、さてさて。


「そうですね、昨日から、万一に備えてブセイさんと護衛訓練をしてるんですけど、これが思ってた以上に大変で――」


鬼の武術の無双っぷりと、対策を試しては問題点が噴出してと苦労している様を話して、それなら鬼族は例えばレイゼン様の身辺警護とかどうしてあるのか気になった、と聞いてみた。


ガイウスさんがかなり興味を示したので、総武演の時のセイケンの見事な技の冴えなんかも交えつつ、あれだけ膂力が違うと小鬼でも人でも関係なく宙に舞うんですよ、と説明すると、とっても感心してくれた。


そして、そんな話を聞いておるセイケンは、誇らしさと困惑を混ぜたような顔をしていた。


「そうして鬼の武を認められている事は嬉しいが、始めにアキが万一の事態と話していたように、不心得者の数は横に置くとしても、鬼族でも私やレイハは腕の立つ方と思って欲しい。ロングヒルに来ている方々は重鎮ばかりだから、自然と腕の立つ者が多くなる。アキが接している鬼族は、鬼族の中のほんの一握り、武の頂上に近い側の集団だ」


まぁ、それはそうか。


「一般に近い鬼族の市民とは、今回の訪問の最後に置いていく儂ら、妖精族の市民達が交流する予定じゃ。後で話を纏めるから、本になったら読むといいじゃろう」


「それじゃ、その時は宜しくね」


「先行組の本を読んで備えておる連中じゃから、期待してくれて構わんぞ」


自身も編集に関わってるからか、お爺ちゃんも自信満々だ。


そんな感じで、手短だけど対談も終わり、セイケンとガイウスさんは立ち去っていった。余程急いでいるのか、セイケンはひょいとガイウスさんを肩に載せて、体をほとんど揺らさない独特の歩法で走っていった。あれはなかなか楽しそうだし、機会があれば僕もお願いしてみよう。

評価、ブックマークありがとうございます。執筆意欲が大幅チャージされました。


まるで無双系ゲームのように、重装備に身を固めた魔導人形達が飛ばされる様は、アキにもかなり衝撃を与えました。似た話をセイケンが小鬼人形相手に派手にやってるんですけどね。

章のおまけの技術ページでも書きますが、最大出力なら巻き込んだ相手を捩じ切る武技「辻風」も、師匠のソフィアが見切っていたように、多彩な力加減ができることこそ、技の真髄があります。今回のように相手の姿勢を崩す程度に軽く、僅かな時間だけ用いて、次の当て身にすぐ繋げる、という多彩な連携が肝です。


それと、本編ではアキが気にしないので描写されてませんが、鬼人形は街エルフに魔導人形は数あれど、一体しか創られていません。量産を前提とした試作品ではなく、持てる魔導技術を集めて鬼の武を再現しようと、採算度外視で創られた一品モノだったりします。いくら街エルフ達が金持ちでもこんなのをぽんぽん作れはしません。

ただ、見ることも稀と言われていた魔導人形達がロングヒルで溢れかえっているのを知っている鬼族からすれば、ブセイがどう見えるかというと……。

その辺りは、14章の時と同様、連邦視点のSSで補完していこうと思います。


次回の投稿は、一月二十六日(水)二十一時五分です。

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