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15-4.王妃セシリアとのお茶会(前編)

前回のあらすじ:連邦行きは、一応、必要な支援が整い、実行できそうです。言葉への意思乗せを嘘発見器のように使われる件は、そのように使わない方向でヤスケさんの合意を得ることもできました。ただ、ちょっと揶揄ったらヤスケさんがとっても怒ったので、次は注意しようと思います。(アキ視点)

その日、別邸には珍しい人が訪れていた。ヘンリー王の后セシリア様だ。以前から歓談の場を設けようと話題にはなっていたんだけど、なんだかんだと伸び伸びになってて、今回、連邦行きの準備が始まり、空き時間がちらほら出てきたことから、場を設けることになった。


庭先にテーブルセットを用意して、茶菓子にはずんだ餅、瓦煎餅、羊羹と和系統で、それに濃い目のお茶というラインナップだ。魔導具が陽光と風を制御してくれるから、いつも日差しと風は穏やかで心地良い。


既にセシリア様は席に着いていて、僕がやってくると、立ち上がって出迎えてくれた。


「素敵なお庭ね。アキさん、で宜しいかしら?」


「ご家族の皆さんと同じように、アキとお呼びください」


「ではアキと。今日は私の我儘で、トラ吉さんの同席を遠慮して貰っていてご免なさい」


席に座ると、セシリア様はそう言って軽く頭を下げてくれた。今日は給仕のアイリーンさんとお爺ちゃん、少し離れたところにいるケイティさん以外は同席してないんだよね。


「トラ吉さんは角猫なので、圧が強いと感じるのはわかります。アンディ、エド両王子は平気そうでしたけど」


「あの子達はアキが平然としているのに、自分達が怖がるなんて男が廃ると、痩せ我慢してたんですって」


「堂々と振る舞われていて、リアル王子様は凄いなーって感心しました。先日の発言への意思乗せでは、随分驚かれてましたけど」


あれはちょっと可愛かったと話したら、セシリア様も眉を寄せて困った顔を見せてくれた。


「夫を見習って欲しいところだわ」


「ヘンリー王は貫禄があって、揺るがない安心感がありますよね。でも二人も歳を重ねれば、そうした事にも長けてきますよ、きっと」


「二人もアキから、若いのにしっかりしてて素敵だと言われて、居心地が悪かったそうよ」


なーんて感じに、茶菓子を食べつつ、アンディ、エド両王子の話題に、アイスブレイクの時間を楽しむ事ができた。





さて。セシリア様の目的が僕の事を見極めるとか、親睦を深めるとかなら、こうして雑談をしているだけでも良いだろうけど、公務もあるお后様がそれだけで足を運ぶとは考えにくい。ちょっと、水を向けてみよう。


「エリーはマコト文書抜粋版を読んでいるって話してましたけど、他の皆様はどうですか? 何か気になる点とか、疑問があるなら、僕がフォローできますよ」


そう話すと、良い心遣いと褒めるような眼差しを向けてくれた。


「魔力のない異世界の話、けれど魔術が絡まない分野であれば、こちらと変わらぬ雰囲気もあり、興味深く読み込んでいます。それで、あちらではいくさの世から太平の世へと移り変わり、工業化、物流、情報網の拡充、人の行き来の増加によって、女性の立ち位置も変貌していったようですが、抜粋版にはあまり詳しく記載されておらず、こちらで三大勢力が手を結び、統一国家を樹立した後が上手くイメージできませんでした」


ふむ。ちょい範囲が広過ぎるから絞ろう。


「こちらと地球あちらでは様々な条件が異なるので、そのまま当て嵌めるのは問題があるとご認識下さい。その上で、ちょっと条件を付け加えて、話の方向性と範囲を決めましょう。その方が話が発散するのを防げますから。例えば、三大勢力が手を結び統一国家を樹立すると仮定します。もう国境で互いの軍勢が火花を散らすこともなく、国家間の行き来も安心して行えるようになり、人、鬼、小鬼の間でも物や情報が行き来する、そんな時代とします。今とは暮らし振りも大きく変わると思いますが、セシリア様はそこで何をされたいでしょう? 今はできずとも、そんな世ならできる事は今よりもずっと増える筈です」


今のままで良いなら、マコト文書なんて読む必要はないし、その中で語られる、日本あちらの世を思い描く必要性も薄い。


それでも、より詳しく思い描きたいと、マコト文書の専門家に話を聞こうとするのなら、きっと、今はできない「何か」をやってみようと考えている、とまぁ、そんなところと考えてみた。


そして、僕の予想は当たりで、セシリア様は話しやすくて助かるわ、と微笑んでくれた。


「アキは連合の国々で人々がどう暮らしているか、王族や貴族の女達がどう暮らしているか知っているかしら?」


「連合は都市国家の集まりであり、都市国家はそれぞれが独立した存在として活動の多くはその中で完結しており、他の都市国家とは物や情報のやり取りはあるものの、人の行き来は少ないと学びました。男は外を、女は内を分担し、家内を纏めあげて、差配するのが女主人の大切な仕事だと。それと多才な方だと、領内の事業や教育、文化的な活動を推進されるなど、組織の代表的な仕事もされていると聞いてます」


僕の説明に、セシリア様はその通りと頷いた。


「王族や貴族の女達は、その居城内を取り仕切る主であり、それを仕切る手腕があるからこそ、非常時には当主代行として、皆を導く事ができるのよね。だからそれなりに腕に覚えもあるし、殿方の様に武勇で名の売れている者もいる。ただ、その活動はあくまでも領内だけで閉じている場合が殆どで、他国の后や姫との交流も、近隣と細々と行う程度なのです」


「ケイティさんのような家政婦長ハウスキーパーを置いて、家内を纏めるだけでも、企業の社長さん並みに大変ですから、やり甲斐とかもあるとは思いますけど、セシリア様は、活動範囲の狭さ、横の繋がりの弱さを見直したいと」


「そう。ロングヒルの今の立ち位置であれば、そういった部分にも踏み込めるのではないか、踏み込むべきではないか、そう思えるの」


ほぉ。やっぱり、この人はエリーのお母さんだ。立ち振る舞いは穏やかだけど、内に秘めた激しさ、熱量はかなりのモノがありそう。


いいね。


「あら、随分楽しそうなのね?」


なんて目を細める仕草も絵になる。うーん、これが王族パワーか。気品があって、仕草にも嫌味がない。


「前向きで、新しい事に取り組もうとする人は好きです。今なら先手も打てるから、少し内からも蹴飛ばして行きましょうか」


「あら、蹴飛ばすなんて荒々しい。小さな力も束ねれば、大きな力へと変えられる。とかく後回しにされがちな分野に光を当ててみてはどうか、と言う、ささやかな一歩ね。あまり前に出過ぎて、殿方の面子を潰してはいけないわ」


「張りたい見栄を張らせてあげてこそ内助の功、って感じですか?」


男は威張ってるけど繊細な所もあるからね。


「頼りにしてますと、皆から慕われれば、奮起するのが男気というモノ。そして、妻の前でだけは、弱音を吐いても、それを包み込むのが女気というモノ。強引に踏み潰してしまうと、殿方も立つ瀬が無いでしょう?」


あっ、はい。思わず、そう頷いてしまうくらい説得力があって、セシリア様の前でだけ、膝枕をされて、だらけてるヘンリー王を幻視してしまった。


「その辺りの手練手管はエリーにも教えてる感じですか?」


「それを教えるのは母親の努めよ。街エルフだと違うのかしら?」


話を振られたケイティさんは、言葉を選んで教えてくれた。


「街エルフは全員が人形遣いですから、女が支え男を育てる傾向は薄いのが実情です」


「恋の熱病など、すぐ冷めるでしょうに、それでは愛を育む間もなく別れてしまいそうね。それで何だったかしら。そう、都市国家内で閉じてる声も広く繋がるようになれば、伝統や風習の見直しへの梃子入れになると考えたのです」


なるほど。


あ、一応、確認しておこう。


「お爺ちゃん、これから、かなり、日本あちらの話をしちゃうけど大丈夫?」


「気にせんでいいぞ。内と外、男と女の話は儂らも無関係ではないからのぉ。セシリア殿、理解しにくいところがあったら、割り込んでも構わんじゃろうか?」


「遠慮なさらず、その時は疑問を口にしてくださって構いませんわ。妖精族の視点が加わる事で、より理解も深まるでしょう」


セシリア様も了承してくれたし、それじゃ、ちょっと想像の翼を広げてみよう。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

これまで登場はしていたけど、アキと直接の絡みがなかったヘンリー王の御后のセシリア様も、やっとお茶会をすることになりました。両王子の話題をネタに話が弾み、相談ごとについても聞くことができました。アキの性格とか考え方とか色々と把握しつつ、何か相談ごとへの助力となるネタの一つ、二つ得られれば……っていうのがセシリア様の考えですが、さて、どうなることやら。

次回の投稿は、一月十二日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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