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15-3.鬼王からの親書(後編)

前回のあらすじ:連邦行きですが、白岩様が快諾してくれたので第一条件はクリアとなりました。心の一部を隠して言葉に意識を乗せる小技も、ちょっとした思い付きだったけど、それなりに効果があったようです。(アキ視点)

翌日、連邦大使館にはロングヒルにいる主立った勢力の代表の皆さんや、研究組、調整組の面々まで集まっていた。


小型召喚された白岩様は、雲取様よりも一回り大きく、普段よりも庭のスペースを専有していた。ちっちゃい体の目線が面白いようで、あちこちきょろきょろと眺めたりしてて、なかなか可愛い。


今回はセイケンが発起人だけど、連邦に行くのは僕、お爺ちゃん、白岩様だから、この四者は演壇近くに陣取ってる。


おや、ロングヒル王家は今回もフルメンバーか。毎回来てくれるのは嬉しいけれど、まつりごとが平気なのか気になるところだね。


後は、街エルフもうちの家族に長老のヤスケさん、ロングヒル大使のジョウさんと揃い踏みだ。


と言うか、別室まで含めると、来てない人のほうが少ない気がしてきた。


妖精族はお爺ちゃんだけ、竜族は白岩様だけ、と言うのはあるけれど、これだけ集まるって事は、それだけ興味を集めているって事だろうね。実質半日の日帰り出張、帝都訪問と違って勢力同士の合意とかそういう動きもないのに、うーん、何でだろ。大して時間も取られないし、ロングヒルの中だから集まる手間もかからないから、ちょっと参加しておくか、くらいの話かも。


サポートメンバーの皆さんは僕達の隣に。前回と同様、魔導人形の皆さんには、空間鞄に入って同行して貰うので、やはり近くにいて、他の人に対応内容を説明する側だ。


「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今回は鬼王レイゼン様からの提案で、できるだけ早いタイミングに、天空竜、巫女、妖精の三者を連邦の都に招きたい、との事です。訪問は共和国訪問と同様、私的なモノとなります。あとは、現地で、洗礼の儀の開催も求められている程度でしょうか。それと今回は白岩様のご好意で、一緒に行っていただける事になりました。全体としては、これまでと同様、当日朝にロングヒルを出発、連邦の首都で色々やって、お茶の時間迄にはロングヒルに戻るイメージです。滞在時間は三時間くらいあるので、のんびりした行程になると思います。それでは、セイケン、提案内容の説明をお願いします」


ケイティさん達が予め用意してくれた絵を示しながら、共和国、帝国、連邦それぞれの飛行ルートを比較して、その違いを話してみた。距離が伸びてるのと、雲取様が白岩様に変わってるのを除けば、共和国と連邦の移動はそっくりだ。それに比べると帝国の方は主要都市を網羅するようにウネウネと進路を変えて移動してるから、趣旨の違いは明白だった。


「それでは我らの王レイゼンからの親書の内容を掻い摘んで話すが――」


それからセイケンは、三者が訪問するのが目的である事、規模を絞る事、何よりも早さを優先したい事、洗礼の儀も秋まで待たず実施したい事、それ以外の要望はできるだけ叶えるよう配慮する、と示してくれた。鬼族らしく懸案事項が何か明確にして、さっさと決めようと胸襟を開いてくれているのは大変好ましい。


実際には、鬼族が許容できる範囲の中で、って注釈付きではあるけれど、必須条件が少ないのは朗報だ。


ざっと見回した感じだと、思ったよりも緩い条件だからか、驚きや戸惑いは少ない感じだ。


「それでは、次に制約事項に絡む話です。白岩様は僕達と共に飛ぶ事、洗礼の儀を行う事は問題なし、ご要望は、レイハさんの兄弟子さん達との歓談でしょうか?」


<我が期待するのは、レイハとは異なる鬼の武術を観る事だ。それと空間鞄は魔導人形ならば入るのだろう? それならブセイも同行させたい。兄弟子達との手合わせは、ブセイの武への良い刺激となる。それと洗礼の儀だが、緩和障壁の魔導具はどうするのだ?>


ふむふむ、白岩様らしい要望だね。それに緩和障壁の方は確かに気になる。


「レイハの武門には彼とは得意とする得物の異なる兄弟子達もいるので、ご期待に沿う事は可能でしょう。ブセイ殿が同行されるなら手合わせする事も問題はなく、こちらからそれを望む者も多いと思います。手合わせの結果、双方、怪我を負う可能性については、事前に合意しておけば良いでしょう。最後の緩和障壁は、集団術式で代用しようと考えています」


なるほど。


代用すると言われれば、はい、どうぞと言えばいい話だけど、耐えられなくて脱落者続出とかだと困る。さて、その辺りはどうかな? 師匠に意見を伺ってみた。


「ロングヒルに来ている鬼族達が、雲取様達の協力を得て、何度か第二演習場で試しているが、既存の障壁に比べれば、良好な結果が出ていたよ。それに鬼族だけで試す事にも意味があるんだろうさ」


師匠の指摘にセイケンは頷いた。


「此度の訪問は、我ら鬼族が自らの力量と、新たに加わった勢力を識る事が目的だ。力不足もまた意味がある。これまでにロングヒルを訪れた者達と同様、自らの限界を見極めて無様は晒さない事を約束しよう」


ん、ならいいね。


「空間鞄の方はどうですか? ブセイさんも入るでしょうか?」


「念の為、始めからどの魔導人形でも入る設計にしてあるから心配はない」


ヤスケさんが教えてくれた。なるほど、それは先見の明がある話だ。





次は妖精さんの方かな。


「お爺ちゃん、妖精さんの方はどう?」


「儂らの方は帝都訪問でちと頑張り過ぎてな。あまり人数は出せん。と言っても、ロングヒルで開催した洗礼の儀と同じ規模は何とかしよう。ただし、洗礼の儀の時間以外は人数を絞る感じじゃ。四、五名程度になるじゃろう。それと帰り際に一般枠を三十人喚んで置いていく事は可能じゃ。双方、市民同士の草の根交流という体にはなるが、それもまた乙なもんじゃろ」


ん、厳しいと言いつつも、十分な合格ラインだ。


「十分な対応に感謝する。それに民との交流への気遣いも大変有難い。街への訪問も含めて、会場だけに囚われない豊かな交流をしていこう」


「うむ、それは楽しみじゃ」


これで妖精さんの方も良し。


後は同行する魔導人形さん達だね。ジョージさんが説明してくれた。


「同行するメンバーだが、女中三姉妹とブセイ、それとリア様麾下のチームが参加する事となった。合計三十人と考えて欲しい。警護の分担は帝都訪問に準拠すれば良いだろう」


ほぉ。連携の取れる魔導人形さんとなると、街エルフの誰かが率いるチームになるとは思ってはいたけど、母さんじゃなくリア姉の方か。


「私もアキと同じで指揮用の魔導具に触ると壊してしまうから、暫く人形遣いの方は開店休業状態なんだ。連携訓練は必要だろうけど、皆もやる気を見せているから、何とかなると思うよ」


リア姉もそう話してくれた。


「リア姉、魔導人形さんの方は僕が触れても大丈夫?」


「そっちは装備の方で対応しておくよ」


ん、なら問題なしと。


あ、念の為、確認しておこう。


「ヨーゲルさん、座席ハーネスに取り付ける荷箱トランクの高魔力耐性付与機構ですけど、雲取様から白岩様に変わっても対応はできそうですか?」


「魔力消費は多くなるが対応できるじゃろう。座席ハーネスの方も体格に合わせた調整がいるが、そこは柔軟な仕様にしておるから心配はいらん」


ふむふむ。これで全要素クリアだ。


「今の感じであれば、帝国と違って魔導具の貸し借りもありませんし、連邦でも大使館領を確保して貰う程度で、後は実務レベルで調整していけば平気そうですね」


そう話すと、ヤスケさんが少し不満そうな顔をしたけど、概ね問題なし。全員集まっておいて、揉める事もなくサクサク話が決まるのは拍子抜けとも思うけど揉めるよりはマシとも思う。


まぁ、実際、今回の訪問が意味するところって、帝都訪問の大幅縮小版って感じだし、聞かれたら話す程度のつもりでいたから、皆も敢えて聞こうとはしてないし、話さなくていいか。


っと思ったら、エリーが手を挙げた。


「今の話しぶりからだいたい予想は付くけど、念の為、今回の訪問が何を意味すると思うか、アキの考えを聞いておきたいわ」


ふむ。それじゃ話しておこう。


「竜と人形遣いと妖精が、対象国の首都に直接降り立つことのインパクトは帝国と同様なので割愛、訪問を受ける帝国、連邦への意味合いも同様なのでそれも割愛、となると、そうですね、直接訪問できる勢力という意味では、今回の連邦行きで、連合、共和国、帝国、連邦と四勢力のコンプリートということになります。なので、竜神の巫女はどの勢力にも等しく手を差し伸べる、フットワークが軽いという認識は定着する、と思います。あと、僕が訪問するには、竜族、妖精族、街エルフ族(共和国、財閥)の賛同、支援が不可欠で、これに招待側の勢力の協力も含めると、こうして訪問する事は、諸勢力の大半が協力体制にある、と示す意味もあるでしょうか。あとは弧状列島の全勢力が、列島全体を意識し、協力していく未来像を思い描くに至った、という点では意義もあるかも。んー、そうなると、秋に各地で行われる天空竜と現地の民の交流も、違った意味合いが出てくる……かな?」


軽くしか考えてなかったので、思いついたところをちょいちょい補足しながら話してみたけど、話してる内容自体は現状の再確認ってところで特に目新しい話題ではなかったと思う。


でも、何かまつりごと関係者の皆さんは、表情が硬い。


おや、そんな雰囲気を弾き飛ばすように、エリーがパンッと手を叩いて明るい声で話し出した。


「春先には、これまで接点の無かった竜族と地の民のゆるやかな交流から始めて、息の長い信頼関係構築を各勢力で進めていきましょう、って話だったのに、どうしたら夏の時点でそんな話になってるのか頭が痛いわね。師匠も話してましたが、皆さん、記録は事実をそのまま残しましょう。余計な脚色や誇張なんて不要です。こうして直接、触れている私達ですら訳がわからない話ですから、後世の歴史家達はきっと頭を悩ませるでしょう」


エリーが冗談交じりにそう提案すると、そいつはいい、と誰からともなく笑い出して、淀んだ空気は消え失せていった。やっぱり、エリーは華があってこういうところは上手いなーと思った。





それで、次は、せっかく主な面々が集まっているのだからと、僕が言葉への意思乗せを嘘発見器のように使われる事に、ちょっと対策をしてみた件について、話し合われることになった。


セイケンが昨日、確認した内容をざっと話し、心に響く思いは感じられたのに、偽りありなチグハグさで大変驚いた、なんて語った。


「それなら、皆も体験した方が話が早いだろう。アキ、何かやってみてくれ」


ヤスケさんがそう切り出してきた。


「またまた、面倒臭いオーダーですね。本心でないと皆さんがハッキリわかる内容で、言葉に意思を乗せてって話でしょう? んー、あ、丁度いいのを思い付きました」


いきなり振られて、何を話せばいいか迷ったけれど、ベリルさんを見てて、誰もが話を聞けばなるほど、と小技を理解できるネタがある事に気付いた。


では、ちょいと面倒臭さを心の棚に放り込んで鍵を閉めて、と。


『帝都訪問の際、空から眺めた事で多くの気付きがありました。素晴らしい経験を書に残す事ができて大変有意義でした。それとベリルさんを始め、口述筆記に携わった皆さんも尽力ありがとうございました』


っと、嬉しかった、有意義だった、ありがとう、そんな気持ち()()を言葉に込めて、満面の笑みを浮かべてみた。


さて、皆の反応は――。


実際に携わった面々は、僕が隠した感情が解ったようで苦笑していた。間接的に知った面々もまぁ同様だ。他の事で忙しかった皆さんはピンとこない感じだね。


なら、しまい込んだ感情を取り出して、それを前面に押し出してみよう。


『でも延々と思い出して、話してと一週間も続いたのは疲れました。早急な改善を希望します』


もう暫くはやりたくなーいって気持ちを前面に押し出して、言葉に意思を乗せてみた。


ん、両者の違いを体感して貰えて、納得して貰えたようだ。ヤスケさんは案の定、渋い顔をした。


他の人はどうかと見回してみると、帝都訪問の際に、僕の発言を嘘発見器代わりにしていたであろう面々は、その意味に気付いて少し表情が固くなった感じかな。


アンディ、エド両王子は何か、信じられないって顔をしてて、ちょっと可愛い。と言うか、まつりごとに携わる王族がそれでいいのかなーと心配になるくらいだ。連合なら演技力高めな為政者とか多そうな気がするし。


ヘンリー王は表情に変化なし、エリーやお后様は二人の王子に呆れた眼差しを向けている。


おや、お后のセシリア様が手を挙げた。エリーに似た目を惹く容姿だけど、ヘンリー王を立ててか、率先して話をされることが少ない印象があったんだよね。


「この件ですが、さほど気にするお話ではないかと思いますわ。アキさんも、こういった事には興味は無く、少し不快に思ったのでチクリとやってみただけなのでしょう?」


そう聞いてきたけど、確信があるって顔をしてる。エリーもそんなところって表情だ。


「んー、そうですね。急ぎで必要な事とは思いましたけど、疑われる事に思うところも少しあったので、揶揄ってみました。ところで興味が無いとどうして思われたんでしょう?」


「心の一部を隠す、そのような行為は、ミア様との心話以外ではしてこなかった、だから、表情や振る舞い、声まで演じ方が行き届いていない。そして、不徹底に気付いても見直す気はないという事は、それに対して興味がない。どうでしょう?」


セシリア様は、モノを手放せば下に落ちるくらい当然のこと、といった感じにさらりと教えてくれた。よく見てるなぁ……。エリーの相手を見る目って母親譲りなのかも。


チラリとヘンリー王を見ると、目を逸らされた。


なるほど。


「ご推察の通りで、必要があれば仕方ないけど、不快な気持ちもあると忘れないで欲しいなってところです。あとまぁ、そもそも、意思乗せが無くても、僕の振る舞いはわかり易いと思いますけどね。表情がわかりやすいとよく言われますから」


そんな風に、主にヤスケさんに対して話を振ると、ヤスケさんも額に手を当てながらも、僕の気持ちに応えてくれた。


「今後は余程の事がない限り、真意を確認するような目的で、言葉に意思を乗せるよう求めない事を約束しよう。それで良いな?」


ん、まぁヤスケさんからその言葉を得られれば、良い落とし所だろう。


『ブラフを掛けるような真似は、ゲームで遊んでいる時くらいにしないと疲れちゃいますからね。何事も誠意が一番ですよ』


こうしたやり取りもちょっと楽しくて、弾むような思いが、つい、言葉に乗って出てしまった。


「にゃー」


トラ吉さんが、そこで踏み込むなよ〜って感じにも鳴いて教えてくれたけど、後の祭り。


解散した後、まつりごととして、帝都訪問が如何に大変な出来事だったのか、繊細な舵取りを必要としたのか、僅かでも成功確率を上げようと胃の痛む思いで奮闘してたか、なんて話をヤスケさんから延々と聞かされる事になった。あまり良い選択ではないと思いながらも選ばざるを得ない立場にいる者の苦悩にも目を向けよとか、そもそも敬老の精神に欠けるとか、途中からだんだん愚痴が多くなっていった気がしたけど、仕方なし。


何か、一を得て、十を失った感じだ。どこでミスしたかなぁ……次はもっと上手くやろう。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


セシリア后が見切ってたように、アキが心話以外で、心の棚を用いたのは今回が初でした。なので、セイケンも言ってたように、心に響くのに妙に違和感がある、という整合性の無さとなりました。アキもこんな些末な事に手間を掛けるつもりはないので、今回の小技はお蔵入り決定です。


アキもヤスケが手打ちとした時点で止めればいいものを、更に一歩踏み込んで弄る誘惑を我慢することができず、痛い目に遭いました。子供も泣き出す長老相手でもやっちゃうあたり、良い性格してますよね。お爺ちゃんと孫のじゃれ合いみたいなモノで、ヤスケ相手なら必要以上に悪化しないと思うからこその悪戯心ですけど、きっと周りも、よく手を出すなぁ、と呆れてる事でしょう。


あと、アキは意識してませんが、今回の訪問について「アキが深く考えてなかった」ことの意味を、まつりごとの関係者達は理解したことでしょう。弧状列島全体の意識変革となる最後の1ピース、連邦全体への影響といった話も、そう深く考える程の話ではない、とアキは認識してた訳です。

今回の会議に参加していた面々は、アキの視点の高さ、広さと、些細な事とされるレベルを認識したことで、改めて気を引き締めたのは間違いありません。些細な事と連邦レベルですら看做される、それならもっと小さな国なら、路傍の石のように、認識すらされないかも、と。

実際は、連合の中にある国々でも縁のあったところならちゃんと覚えているので、そこまで酷くはないんですけど、まつりごとをしている人達からすれば、それは気休めにしかならない話です。


次回の投稿は、一月九日(日)二十一時五分です。

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