15-2.鬼王からの親書(中編)
前回のあらすじ:帝都訪問の際、空から眺めて気付いたことの口述筆記をして貰いました。結局、一週間もかかり大変でした。それと暫くのんびりできるかと思ったら、セイケンが鬼王レイゼン様からの親書を持ってきました。竜と巫女と妖精でなるべく早い時期に連邦も訪問してくれ、という内容です。ただ、ロングヒルに頻繁に来ている竜族や妖精族の皆さんが忙しくて、顔を出さない状況なので、さてどーしようかと悩む状況です。(アキ視点)
新年あけましておめでとうございます。今年も週二回投稿(水、日)していきますので、のんびりお付き合いください。
別室の心話魔法陣に移動して、白岩様の所縁の品をセットして貰い、早速、心話スタート。
<白岩様、突然済みません、ちょっと相談したい事が出てきまして>
<――心話とは珍しいがどうした?>
伝わってきた感触からすると、ちょっと驚いたものの、落ちついてて、大人の余裕って感じだ。
<レイゼン様から親書が届いたんですけど――>
手紙の内容も伝えたけど、それとは別に僕の見解もついでに伝えてみた。セイケンの表情や仕草、声の調子とかからして、この件について全件を与えられているとは話していたけど、必ず合意を勝ち取って来いと言われている感じもしたんだよね。
セイケンにしては気負いがあると言うか、僕が行くと即答しなかった事への驚きと焦りが見えたから間違いないと思う。
<それなら、我と飛んでいくか。連邦にいるレイハの兄弟子達も見てみたいと思っていたのだ>
<ありがとうございます。どうも急ぎたいようで、雲取様や雌竜の皆さんが戻るまでは待てない感じだったので助かりました。会議ですけど、小型召喚で参加されます?>
伝わってきた感じだと、近所に連れて行くおじさんみたいな軽いノリだ。
<何事も経験だ、参加しよう。日時が決まったら教えてくれ。第二演習場に行けば良いな?>
<はい。常設の魔法陣があるので、そちらを利用します。ありがとうございました>
快諾して貰えて助かった。心話を終えて庭先に戻り、相談結果を話すと、セイケンも深く息を吐いて、表情を和らげた。
「白岩様が来てくださるなら安心だ。椅子は雲取様に合わせていると思うが、調整すれば対応可能だろうか?」
おや、前のめりなセイケンなんて珍しいね。
「その辺りも含めて、後は日時を決めて相談の場を設けましょう。白岩様も小型召喚で来てくれるので、そこであらかたの方針は決められると思います。お爺ちゃんもそれでいい?」
「構わんぞ。それまでに我らもどの程度なら対応できるか確認しておこう」
ん、お爺ちゃんも協力してくれるなら何とかなるかな。
ジョージさんに視線を送ると、わかってると頷いてくれた。
「こちらも、魔導人形達の人選は進めておこう。帝都行きの半分程度の人数になると思って欲しい」
「宜しく頼む」
セイケンも深く頭を下げた。
◇
さてさて。
ケイティさん、ジョージさんは関係者に連絡をする為に席を外し、お爺ちゃんも、独立稼働状態だけど、妖精界の本体に連絡してて、アイリーンさんとベリルさんが控えているだけと言う状態だから、会議で的確にフォローできるように時間を有効活用しよう。
おっと、足元にいたトラ吉さんが僕の膝を経由して、テーブルの上に乗ってきた。
「にゃ」
自分はいるぞ、ってアピールだ。忘れてないよ、と背を撫でて許して貰い、セイケンに向き直った。
「それじゃ、セイケン。もう少し詳しく教えて下さい。レイゼン様が後押ししようと考えたくらいだから、長命種らしく、内容を吟味する方を優先して、動きながら考える小鬼族みたいな速さが無いとか、危機意識が薄いと感じられる何かがあったのでしょう?」
アイリーンさんがお茶を注いでくれたので、一口飲んで、反応を伺った。
「探りを入れられずとも話しておくつもりだったが、そう促して貰えると話しやすい。アキが連邦行きを推してくれれば、皆も手を貸してくれるだろう。時系列に沿って話すと、私が帝都訪問の報告書を持参したのだが――」
元々、セイケンもじっくり話してくれる気だったようで、報告書が届いてから、レイゼン様やその幕僚の皆さん、レイキ様を筆頭とした武闘派、シセン様の率いる穏健派、それに特定の派閥に付いてないその他の層のそれぞれの動きについて教えてくれた。
それにレイゼン様が伝えた考えについても。
全てを伝えてくれたとは思わないけど、まぁ、聞いた感じだと、確かにレイゼン様が活を入れたくなるのもわかった。
「聞いた感じだと、個としては安心の強さだけど、層の薄さが見え隠れしてますね。それに外への興味が薄いと言うか腰が重いかな? 街エルフのように魔導人形達で頭数を増やしたりできる方がレアかもしれませんけど」
総括すると、セイケンも苦笑いを浮かべるしかなかった。
「話した内容も簡単に言えばそう言う事だ。レイゼン様も走りながら考える小鬼族の歩みの速さには、脅威と危機意識を持たれている。昨年までの考えで無為に時を過ごしていては、出遅れてしまうだろうと、な」
ふむ。
「信頼できる仲間であれば、相手が鬼だろうと竜だろうと、力強さと安心が感じられるところですけど、そうなるには、まだ暫くは時が必要でしょう。鬼族が小鬼族のマネをしても人数差は如何ともし難いとは思いますが、マコト文書に触れたタイミングはほぼ同時です。長い年月で培った知性、集団術式を得意とすること、魔力を高めて行使する独自性、など、勝ち筋は十分あると思います」
鬼が小鬼の真似をしても仕方ないのと同様、その逆も無理があり過ぎる。まぁ、それはどの種族にも言えることだけど。
セイケンは溜息をついて、笑みを浮かべた。
「どの種族にも得手、不得手がある、アキがよく話している事だったな。しかし、どちらに進むのが正解かわからない中では、悩みが尽きん」
「上手く行かない事を探していくつもりで頑張って下さい。こればかりは、人族しかいない世界の知であるマコト文書は直接的には役立ちませんから」
そう。いつも、ゴールまでの最短ルートを示す、と言われてたりしてるけど、種族特性まではカバーしてないから。
「こうして幾多の種族が集い、その中で自らの立ち位置を何処に見出していくのか。何が最善なのか、それは誰にもわからない。ソレが当たり前の事なのに、先の見通しが立たない事を、ふと、不安に思ってしまった。アキに振り回されたせいで変な癖がついたようだ」
そう話して、セイケンはちょっと意地悪そうに目を細めた。
あー、まぁ、揶揄いたくなる気持ちは解るけどね。ならば受けて立とう。
『イズレンディアさんが言ってましたね。あまりマコト文書に頼ると、自ら考え、生き抜く力を失う事になり危険だと。なので必要が無ければ僕も控えます。日本でも、「用法用量を守って正しくお使いください」って言うくらいですから。長命種らしく長い年月で蓄積した経験の老獪さ、頼りにしてますよ』
僕も精一杯、人の良さそうな笑顔を浮かべて、期待してますって好意五割増しにして、そんな意思だけを乗せて言葉を伝えた。
当然、わざとらしさに違和感を覚えたセイケンが眉を顰めた。
「……今のは?」
「最近、言葉への意思乗せを嘘発見器のように使われていたので、ちょっと、誤魔化してみました。その感じだと、上手く行ったようですね」
「いや、確かに心に響く誠実な思いを感じたが……酷い詐欺だ。どうやったんだ?」
「心に棚を設けて、余計なモノや出したくないモノは放り込んで蓋をして、すっぱり意識から外す感じですね。ミア姉にも僕が何か隠した事は解っても、その中身まではバレ無かったから、やれるかなとは思ったんですけど――」
セイケンが強く興味を示したので、求めれれるままに、あれこれ説明してみたり、実演もしてみたりと、随分と盛り上がった。
……で、言葉への意思乗せが嘘発見器扱いされる件への対処案も、全員集めて相談する案件に追加される事になった。
評価、ブックマークありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。
誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分ではなかなか気付けないので助かります。
今回は短いですけど、キリがいいのでここまでです。
連邦行きの件は、白岩様が手を挙げてくれたおかげで、移動はなんとかなりそうです。妖精達も単なる立ち合いのみであれば、ある程度は交渉の余地もあるでしょう。街エルフの魔導人形達はごっそり入れ替えなのでどうするか、ですが、そっちは何とでもなりそうでしょうか。
次パートでは関係者を集めて、その辺りを詰めていきます。
……が、アキは大した話と思ってませんが、セイケンに披露した隠し芸がまた波紋を生むことになりました。嘘は言わない、けれど全てを伝える訳でもない。政に携わる面々にとっては基本スキルとも言えるモノですが、ソレを心を触れ合わせた上でやってのける、言葉にすれば簡単ですが、その意味するところを全員が再度問い直す事になります。
次回の投稿は、一月五日(水)二十一時五分です。
<雑記>
元日は、澄み切った青空となり、雪化粧をした富士山もしっかり拝むことができました。近所の神社も今年は開かれており、深夜にお参りしてきました。例年と違って、井桁に組んだ焚火がなく、スカウト活動の少年/少女達の整理要員の皆さんも居らず、甘酒が振る舞われることもなく、参道には一メートル間隔で白線が引かれていて、参拝者はそこに距離を置いて並んで、お参りする感じでした。一応、お囃子の音楽が流れていたり、普段は開いてない神社の扉も開いてて、神主さんなどの関係者の方々が座っていたりはしてたんですけど、ちょっと寂しい感じでした。まぁそれでも、開いてくれただけ良かったです。日常が戻りつつある、と実感できましたから。あと、参拝している人は全員がマスクをしていて、その様子も心強く感じました。海外でオミクロン株蔓延とか映像が出ると、誰もマスクなんてしなくて、感染症対策なんてしてる様子が見られなかったのとは雲泥の差と思いました。