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第十四章の人物について

今回は、十四章で登場した人物や、活動してても、アキが認識しないせいで登場シーンがなかった人の紹介ページです。十四章に絞った記述にしているので、各人物の一般的な情報(立場や外見、これまでの活動)については、九章の登場人物紹介をご覧ください。

◆主人公


【アキ(マコト)】

十四章でアキにとって最大のイベントは、世界樹との心話を行い精神に大打撃を受けて、皆に助けてもらった件だろう。帝都訪問は対外的には大きなインパクトはあったが、アキ本人からすれば、舞い込んできた呪いの情報を受けて、サービス精神で一手打った程度の話で、色々と楽しい経験も多かったがまぁ、本筋からすれば、余禄といった話である。

心を病んだ際には、こちらの世界に来てから会った多くの人達との傾聴を行って、彼らへの理解は大きく前進した。多くの人に支えられてこそ、今の自分がある。当たり前の話だが、人はそこをつい忘れて、自分だけで生きてる気になったりするので、アキの心を育む良い経験となったに違いない。


他の人たちを大勢巻き込んで、雲取様、翁と一緒に帝都を訪問して式典を執り行ったが、これもまた本人にとっては楽しいイベントだった。 アキとしては小鬼族が戦争を仕掛ける危険性が多少なりとも減って、他種族への理解が進めばいいくらいの感覚である。


それとケイティとの心話はやはり色々と衝撃的だった。 人はそれほど多くのことをいろいろと考えるのかとも思い、多くの感情が荒れる様も感じ取り、人それぞれ考えることは違うことを知った。


そんな訳で、多くのイベントがあったものの、アキが今一番心待ちにしているのは「マコトくん」が依代に降りることだ。何せ、「マコトくん」の側から接触があり、依代を用意する流れなのだから、降りてくれば、研究組にも新たな刺激を与えることにもなり、もしかしたら次元門構築に向けて何か進展があるかもしれない、そう期待に胸を膨らませているのだった。何せ、こちらの世界にきて十五章時点で一年経過となる。匍匐前進のようでなかなか目に見えた進展がないだけに、焦りや寂しさとも付き合わなくてはならない、そんなアキの胸の内も十五章で明らかになるだろう。



◆アキのサポートメンバー



【ケイティ(家政婦長ハウスキーパー)】

ケイティにとって十四章の期間は、関与できないところで、アキが心に大きな打撃を受けてしまったり、雲取様と一緒にフラフラと帝都に飛んでいってしまったりと、自分の手に負えないところが増えてしまったという感覚だった。 ずっと身近なところで支えていける、それだけの探索者としての実力を持っていると自負していただけに、この春の出来事はケイティにとっても衝撃的だった。ただアキがふらふらとあっちに行ったりこっちに行ったりしても、必ずその日の午後、お茶の時間には別邸に帰る、それを温かく迎えてくれるケイティがいるからこそ外に向かう意識にもなるということも理解している。お茶の時間から寝間着に着替えて休む迄の一連の流れはルーティンワークとなっており、その中で思いつくままに言葉を交わすのが何よりの癒やしともなっているからだ。そんなケイティも、さすがに帝都から戻って来れば、暫く、もしかしたら一ヶ月くらいは落ち着くかも、なんて思っているのであった。


【ジョージ(護衛頭)】

この春は、自身の関与できないところ、それもそれまで交流の無かった帝国、それもその首都にアキが訪問する事になり、護衛頭としてはかなり頭を悩ませることになった。とは言え、自身がいなくても安全を確保するのは、護衛として当り前の話であり、直属の部下である護衛人形達も同行しており、本気で安全確保ができない、不安だと言う訳ではなかった。それはアキが少しずつ手を離れつつある事への寂しさかもしれない。アキは実力は伴わないものの、必要な訓練は熱心に取り組むし、一介の護衛としてと言うよりは、兄のように慕ってくるのだから、まぁ可愛くないと言えば嘘になる。ただ、それだけに心配は無くならないのだ。これまで竜と共に、単身で弧状列島を所狭しとあちこちと飛び回る要人なんて存在はいなかったのだから。せめてもう少し普通の要人の範疇でいて欲しい、それが彼の願いだった。


【ウォルコット(相談役&御者&整備係)】

ウォルコットにとって、この二ヶ月間は、家政婦長ハウスキーパーのケイティや、その次席にいるシャンタールを支えつつ、ケイティが心話を、シャンタールが人形遣いを兼任する事になった事から、その分の仕事を割り振られている裏方の魔導人形達の指導やフォローをする事が増えた。元々は女中三姉妹がこれを担う予定だった訳だが、アイリーンも護衛を兼任、ベリルも魔導師を兼任となれば、しわ寄せは来るものだ。

そして、何故か近頃は飲み仲間にヤスケまで増えてしまった。間近な最高の位置で観客として楽しむというウォルコットの姿勢が好ましい、などと、立場や役職を気にせず話す不思議な関係である。まぁ、ウォルコットも自身を周囲の誰よりも一般人と自認してるものの、ヤスケの沼の底のように暗い目に気圧されながらも、それはそれとして貴重な歴史の立会人と話せる機会なのだからと、割り切って穏やかに酒宴を楽しんでいるのだから、良い性格をしてるのは間違い無い。

ヤスケが時間が無いからと、アキに忠告したりと、街エルフの大人らしからぬ「転ばぬ先の杖」的な発言をしてるのも、実はウォルコットからの影響だったりする。何かあっても長い目で見れば良い経験になるとして、放置気味な所の多い街エルフだが、全力疾走しているアキの生き方にそれだと、悪い状態のまま周囲を巻き込んで引きずり倒す事になりかねず、被害が甚大過ぎると諭したのだ。アキが立ち止まるなどあり得ず、その影響力は並の子供と同列に論じて良いものでは無い、と話すと、それにはヤスケも同意するしかなかった。

そんな感じで、実年齢なら年上の連中ばかりなのだが、人族の大人目線での考察ができるウォルコットは今後も何かと頼りにされそうだ。


【翁(子守妖精)】

妖精界では飛行船の建造などにも関わっているなど公私共に大変充実している。またアキと共に帝都行きに同行し、仲間の妖精達を召喚して交流を促進させるなどその役割は大きかった。まだ、雲取様も話していたが、折角の帝都訪問もアキと共に十五分ぐらいでとっとと帰ることにもなってしまい、その点については残念に思っている。こちらの世界に関する執筆もしており、彼の著作は多くのファンが読み漁る程であった。ただ、帝都行きで露呈した事だが、腕の立つ者達をホイホイ引き抜いて、こちらの仕事をさせてるせいで、国政への影響が洒落にならないレベルになってきていた。何せ妖精族は全部で数万人しかいない。なのに飛行船建造に、演出の為に数十人で行う大規模術式、日々の技術交流、文化研究と、難度の高い事に傾注すれば、人手が足りなくなって当然だった。国政は女王陛下や宰相の仕事と言いつつも、異世界熱を煽ってるのも自分だと理解はしているので、バランスを取ろうと考えているところだ。

それと、心話の技術の問題点についても懸念を強めておりなんとかできないものかと考えている。直接的な脅威なら、例え天空竜であっても何とでもする気だが、心話はそう簡単な話ではないからだ。


【トラ吉さん(見守り)】

この二か月は、アキが心を病んだこともあって、トラ吉さんの活躍シーンが増えた。何かしている最中も、足元や、テーブルの上などにトラ吉さんがいて見守っているだけで、アキがホッとする、そんなシーンもちらほら見えて、アキは自覚していないが、ケイティが労うくらいにはトラ吉さんも意識して傍にいて、必要があれば構うように気にかけてくれた。そんな様子なのに、もう回復しました、大丈夫ですっ、と必要だし効果的なタイミングなのもわかるが、ほいほいと帝都行きなど提案したのは、トラ吉さんも思うところが色々あったようだ。傾聴リストに全員の名が埋まるまで、アキの膝上に陣取って逃げられないようにする、なんて力押しをしたくらいだから。トラ吉さんとの追いかけっこで、多少、私怨混じりで手荒になってもまぁ仕方ないところだろう。


【マサト(財閥の家令、財閥双璧の一人)】

マサトは財閥の家令として多くの活動に対して手を伸ばしアキの活動を収益化させるため、ロゼッタと共に画策している。アキの帝国行きについてはこれまでの話の中でも飛びっきりにインパクトのある話であり、財閥の今後の方針も含めて、多くの計画に修正が入ることとなった。アキが持ち込んできた映画化の話についても人選はリアが行なっているが資金、資材提供については財閥が全面的に協力をする予定である。転送→着装する鎧なんぞに大金を注ぎ込むだけあって、エンタメ分野には彼も拘りがあり、公平な審査で監督を選抜する事には賛成しながらも、これまでに無い映画に相応しい=街エルフ基準を満たす質、を当たり前のように求めるつもりだったりする。それに彼は関係者特典で、妖精族の演出する「妖精界の夜空」も鑑賞している。目の肥えた彼をして、妖精族の演出は自分達に並ぶと認めざるを得ず、だからこそ、力も入るというものだった。

アキの事は心配ではあるが、ロゼッタが主であるミアの傍であれこれ支えていたのに対して、彼は裏方で万事、つつが無く執り行う事に徹してきた。それだけに最前線たるロングヒルに本拠地を移す事が最適でない事も理解しており、今のところ、ロングヒルに移ることは考えていない。



◆魔導人形枠



【アイリーン(女中三姉妹の一人、ケイティの部下で料理長)】

アイリーンにとってアキに食事を振る舞うことが大切な仕事であるが、心身の状態を悪くした際の食事についてまだまだ知見が足りないということを認識し、薬膳料理系を学び始めた。幸いにしてロゼッタが手配することで当代一の料理家に学んで、その技量を急速に高めて出した。

アイリーンは、女中人形として高いレベルのスキルを全体的に習得していたものの、初期の頃にはハヤトやアヤから学ぶなど、コックの下で働く立場だった。本人のやる気もあり、途中からアキがロングヒル行きが決まったあたりからは、コックの立場となるよう、一日五食、間食も含めると、朝から晩まで一流の料理人に師事して腕を磨いていったのである。

食材の安定供給、品質の安定化は財閥の力で何とでもなっており、キッチンの環境(室温や湿度)も保たれていることから、細かな調整を必要としない点や、地球こちらのキッチン家電的な魔導具もがっつり導入されているので、決まったレシピを素早く習得していくのに、これ以上ない環境が用意されていたと言えるだろう。

それに共和国の料理人の層は分厚くとも、竜族に頻繁に料理を提供して場数を踏んでいる者は殆どおらず、帝国や連邦から持ち込まれた食材にも馴染みがなく、それらを用いる料理に触れたのもロングヒルの大使館領にいる者達の方が先となった。

なので、アイリーンは料理人としては促成栽培で、きっちりしている条件下で、レシピ限定ならまぁ一流、対竜族、鬼族、小鬼族という点では専門料理人といった立ち位置だ。なお、雲取様に加護を与えられているという一点だけでも、対竜族相手のアドバンテージは他の追随を許さないレベルなのも確かである。


それと、今回は帝都行きに伴い、トラ吉さんの代わりを務めるために、複数の魔導具を用いた護身術を新たに学び免許を取得した。VIPを護衛するSP達が習得する技法であり、一般の女中人形は習得しない高難度スキルである。ただ、本人はまだまだ料理分野は付け刃なところが多いと感じており、そちらを高めることへの意欲が大きいところである。


【ベリル(女中三姉妹の一人、ケイティの部下でマコト文書主任)】

ベリルにとってこの二ヶ月は、様々な計画や帝都行きの話などもあって激動の時期であった。 マコト文書の知識を基に資料を作る作業も忙しく、またその合間にケイティの代わりに魔導師として力を振るうという、あまりタッチしてこなかった分野にも手を伸ばすに至った。それによって共和国でも魔導人形の中では数少ない魔導師級の役職を持つに至った。ただ、状況特化の現場対応専門といったところであり、ケイティのように研究から実戦まで幅広くとはいかない。

ベリル自身も、マコト文書の知や、共和国以外の諸勢力から得られた膨大な知、それに妖精界の星空など、興味を向ける分野は多く、魔導師のように力を振るうことへの興味は薄いようだ。

あと、ジョージとの物語の執筆は、それをやるだけの時間がないので、何か気がついたことがあればメモを取っておくといったことをするのがせいぜいであった。


【シャンタール(女中三姉妹の一人、ケイティの部下で次席)】

シャンタールにとってこの二ヶ月は、新たに人形遣いとしてのスキルを習得するという、共和国でもほとんど聞くことのない作業に従事することになり、激動の期間であった。そのような中でもケイティを支えるサブリーダーとして意欲的に動きアキの衣装の選定にも携わっていた。部下や同僚に仕事を割り振る能力に関してはもはや別邸随一と言っても過言ではないだろう。

彼女に見出された配下の魔導人形達もメキメキと頭角を現してきているのは嬉しいところだ。

そんな感じで、中間管理を担う部下達に指示をする仕事が主となってはきているものの、シャンタールにとっては別邸でアキのお世話をすること、装いを整えてあげることは一番のお仕事である。そしてその重要性は日々高まってると言わざるを得ない。何せ国家レベルの話にアキがひょいひょいと首を突っ込んでいくのだから。

そんな訳で、シャンタールもまた、人形遣いとして力を振るうことは、役目としては十全にこなすつもりではあるものの、好んで行う仕事とはなっていないようだ。


【ダニエル(ウォルコットの助手)】

ダニエルは「マコトくん」の降臨の話やマコト文書の普及、それに仲間の神官達との交流もあって、なかなか忙しい日々を送っている。 ウォルコットがかなり自由な裁量を任せてくれているのでそれらの活動も順調である。だがこれまでよりも遥かに多く、頻繁に「マコトくん」からの神託が降りるようにもなってきており、何か大きな変化があるのではないかとも考えている。


【護衛人形達(アキの護衛、ジョージの部下)】

ジョージ直属の部下であり、アキの周囲を常に固める彼らだが、今回の帝都行きでは、ジョージ指揮下ではなく、促成栽培のシャンタールの指揮下で動くということにもなり、色々と苦労が絶えなかったようだ。

慣れない指揮官に、まったく交流のなかった帝国、それもその首都の中枢に少人数で親善として赴く。……護衛からすれば悪夢のようなシチュエーションだ。それでもジョージと共に、綿密に漏れなく様々な状況を想定し、準備を行い、訓練を重ねることで、何があっても安全を確保する、と言えるレベルまで突き詰めたのは、見事であった。

シャンタールを不安にさせず、余裕を持って指揮させるよう自然に流れをコントロールする、というのだから、なかなか大変な話だ。それでも彼らがそれをこなしていたのは、軍務の際に、新米指揮官のお守りをさせられてきた下積み時代があったからだ。どんな街エルフの人形遣いとて、始めはお尻に殻を付けた雛状態であって、専任軍曹たる魔導人形達が上手くサポートしてあげるのが定番なのである。

そんな彼らも、帝都に降り立った際には、外見こそ儀礼用の華やかな式典装備をしていたが、その内実は、これまで経験したことのないような重武装を施しており、短時間ならば鬼族相手でも対峙できる、などと軽口を叩けるほどであった。


【農民人形達(別邸所属、ウォルコットの部下)】

この夏を乗り切れば、ロングヒルの一年を経験したことになるカレンダーに目を向けつつ、大使館所属の庭師達ともやり取りを増やしながら、別邸の庭に手を入れる日々である。トラ吉さんが好む場所には不用意に手を入れられないとか、ハヤトやリアの訓練に合わせて場を整えるとか、まるで舞台セットのように庭の模様替えをしなくてはならず、なかなか別邸の庭園が安定することはなく、彼らの苦労は今後も続くことになるだろう。

いくつかの野菜は収穫時期を迎えたりと、アキが食べる食材の一部は彼らが作ったものである。共和国産の食材はいくらでも新鮮で品質の良いものが毎日大量に運び込まれているのに、わざわざ大使館領の一角を確保してまで農地を整備しているのは、実はアキへの教育の為だったりする。実地訓練と言っても座学だけではなく実践を重視するのが街エルフ流。……とはいえ、畑がないなら作ればいいじゃない、なんて真似をするのは、いくら街エルフだって、ここくらいなものだ。


【ロゼッタ(ミアの秘書、財閥双璧の一人)】

ロゼッタにとって十四章の期間は、自分の手の届かない所でアキが心身を疲弊し、特例としてロングヒルに押しかけて介護をするなどショックな出来事が多かった。また帝国にもホイホイ飛んでいってしまうというフットワークの軽さも、ミアやリアにはなかったものであり悩ましいと感じている。だからこそ自分が支えなくてはならない、他人になど任せておけるか、と言うか自分も混ぜろ、という意識が日に日に高まって来ているようだ。

帝都行きについてはアキに付き従う三姉妹に徹底した訓練を施してカバーさせたが、なんとか自分自身も早くロングヒルに居を移したいなどと考えているところである。ただ、財閥の双璧にして、マコト文書の知を財に変える稀代の錬金術師であり、その重要性は下手をすると長老達すら超えかねないだけに、余程の妙案がない限り、その願いが許可される事は無いだろう。


【タロー(小鬼人形の隊長の一人)】

彼にとっては、仮想敵部隊アグレッサーになる前から久しく離れていた、本番配備となった帝都訪問。派遣された小鬼族達の表組、着飾った式典礼装に身を固めての参加となり、これまでと違う役割に僅かな戸惑いと、訪問する魔導人形達の顔とも言える、最前列に並ぶ栄誉を噛み締めることとなった。仮想敵部隊アグレッサーの時と違い、ロングヒルに来ている小鬼達から学んだ振舞いや表情、礼装のセンスなども、小鬼族に好印象を与えるように、共和国の魔導人形に相応しく見えるようにと、気を配っており、参列者達の反応を見る限り、好印象を与えることに成功したようだ。

なお、血の色彩の外套コートを纏い、後詰めとして控えていた裏組の面々からは、遠慮なく文句の嵐を貰い、次の機会には表裏の組を入れ替えることを誓わされたのだった。


仮想敵部隊アグレッサーの小鬼人形達】

仮想敵部隊アグレッサーとして憎まれ役、敵役を担ってきた彼らが、体格差で潜り込ませず対処するには最適だからと、帝都行きに同行する魔導人形達に選抜されたことは驚きであり、時間の無い中、小鬼族らしい儀礼的な立ち振る舞いをするべく、昼夜を問わず、準備に明け暮れることになった。毎年の成人の儀で見かける前線の小鬼族達と、ユリウス帝に同行していた親衛隊の小鬼族達の立ち振る舞いは明らかに違っていたので、それを基準に訓練を重ねたが、結果としてそれは正解だったようだ。

血の色彩の外套コートを纏って待機していた裏組の面々も、もしもの際に望まれた行動をせずに済んだことに安堵していた。ロングヒルで小鬼族の面々と交流を重ねた日々を、血で穢さずに済むのならその方がよいのだから。そんな反動もあってか、彼らは派手にブーイングを奏でて、次は礼服を着て前面に出せ、と笑ったのだった。


仮想敵部隊アグレッサーの鬼人形、改めブセイ】

彼は本文でも語られているように、それまでの振舞いや真摯な姿勢、力量が評価されて、鬼族よりブセイの名が与えられた。鬼族以外に名が与えられるのは初のことであり、この事実は連邦内で大きな話題となった。彼の武術と魔術の併用は、鬼族のソレとは、武術と体に刻まれた呪紋の併用という点に違いがある。そういった違いも含めて、許可されている範囲で、得られた知見を書に記して報告しているのだが、武技を極める、という視点から書かれたソレは、街エルフ達の間では固定のファンがつくほど人気を博している。武術と魔術を同時に行使するというのは、鬼族以外には叶わぬ夢であり、ロマン溢れる話なのだ。


【大使館や別館の女中人形達】

日々、膨大な量の仕事が生まれ、皆で必死に処理していく流れが日常化してきて久しい。昨年までは対連合が主な仕事だったのに、今年はそれに加えて連邦、帝国、妖精の国、竜族と勢力が一気に増えたのだから、量が激増するのまぁ、当たり前といえば当たり前だ。

配備先も多く、やる気のある魔導人形達にとっては、より上へとステップアップしていくルートには事欠かない。かなり手が追い付いてないが、それでも昨日よりは今日、今日よりは明日のほうが、より効率が高まり、仕事の進み具合も改善していくことだろう。

……そんな風に共和国勢がどんどん仕事を片付けていくから、他勢力が自分達の手が遅れている、などと認識してしまい、危機感を募らせて、何とかしようと足掻くことになるのだが、さてさて、一体、どこの勢力が最初に音を上げることになるだろうか?


【館(本国)のマコト文書の司書達】

司書達の仕事は、いつまでも終わることがなく、日々、質問内容もレベルが上がっていくという、嬉しい悲鳴を上げている状態だ。高度な問いにきっちり答え、その出来に満足される、というのは司書達にとっても、遣り甲斐を感じる瞬間ではあるのだが、それを得た研究者達が更に先に進めば、また新たな請求がやってくることになるだけに、もっと増員が欲しい、と申請を出すことが続くことだろう。

一応、財閥の方でも一般からの問い合わせへの窓口は作り、そちらで処理できる分は通さないようにはしているのだが、何せ総量が目に見えるペースでどんどん増えていく有様だ。いずれは回らなくなる日が来てしまうことだろう。


【研究組専属の魔導人形達】

研究組を支える仕事も、事務的な面が重視されてきていることから、この二か月間でそれなりに安定し始めてきた。予想外だったのは、鬼族、小鬼族担当の魔導人形達で、本来は両種族の側の担当者が慣れたら引き継いで終了、というつもりだったのに、その前提が崩れたことにあった。

鬼族の方は人手が足りず、トウセイに新たに付けられた部下達だけでは仕事が回らず、魔導人形達が鬼族大使館所属を兼任して、業務を正式に担う流れとなっていった。それはトウセイが一人で仕事を細々と続けていた為に、多人数で仕事を行うことに不慣れだったり、追加の部下達がトウセイの研究を理解して何とか重荷にならない程度に仕事を回すので精一杯だったりしたためだ。事務作業をするところまで手が足りない、鬼族は体格が大きいので、そうそう増員をほいほい追加ともいかない。恒常的に人手が足りなくなる訳である。

小鬼族の方は、引き継ぎ自体はさくさく進んだのだが、チームで取り組んでいる研究メンバー達が元々、頭数が多いこともあって、他研究者とのやり取りの量も、分野の広さも、全種族の中でもダントツに多く、結果として、その仲介を担う事務職が欠かせない、ということになったのだ。



◆家族枠



【ハヤト(アキの父、共和国議員)】

ハヤトにとって三女アキは非常に頭が痛い。なぜなら一般的な意味での街エルフの子育てに関する知識がほとんど役に立っていないからだ。長女ミア、次女リアの時の経験も役立っているとは言い難い。

ちゃんと自分達を親と認めて、話も聞いてくれて、誰かと険悪な仲になったりする訳でも無く、暴力沙汰を起こす事も無いし、我儘を言って困らせるような事も無く、一見すると物分かりの良い子だが、そうでない事は十分理解した。

次元門構築と同じで、現状が駄目なら、相手が素直に頷けるよう、他の道筋を考え、足りなければ伝手を頼って手を増やし、手持ちで駄目なら伝手も増やして、と何とかしてしまう、できてしまうだけなのだ。

我を通すと言う意味では、ミアに勝るとも劣らず、ミアを知る者ならば、あの姉にして、この子ありと納得するに違いない。

親としてできる事は、実地訓練を通じて世界を感じること、自身の感覚を鋭く研ぎ澄ませること、自分一人で生きてるのではなく世界の中にあって共に生きていると言う視点を持たせること、ぐらいとも感じている。傾聴の話が出た時には、周囲への理解と繋がりをアキに学ばせる良い経験になると考え、無制限解放を言い出したがそれは良い判断だったと考えている。


【アヤ(アキの母、共和国議員)】

アヤにとってアキは世界樹との心話で心身を疲弊して半月ほど皆に支えられて、回復して少しは大人しくなったかと思えば、雲取様とともに帝都に飛んで行ってお礼を言ってくるなど、その行動は先が読めず、既存の枠を超えることばかりで頭が痛い。長女ミア、次女リアとはまた別の意味で手のかかる子供だと感じている。だが手のかかる子供ほど可愛いという話もある通り、悩み事が多いアキのことを可愛く思うのも確かである。白竜がアキのことを幼竜相当と考えていて、自分の認識に共感してくれることに気がついてからは、何かと仲間として動いてもらおうと果敢にアタックする日々だ。


【リア(アキの姉、研究組所属、リア研究所代表)】

リアにとってこの時期は魔術式のコンピューター開発や浄化杭の投下実験など、裏方で頑張る作業が多かった。またアキが心身を疲弊している間は、リアが精力的に関係している竜族などに心話を行って繋ぎをつけるなど活躍もしていた。アキと共に行う作業や訓練を増やす事で、ケイティの次くらいには親しい関係になれたかな、とも思っているところだ。

アキと翁が映画を作ろうなどと言い出した時は驚いたものの、自分の伝手が役立つのはやはり嬉しかった。金持ちの道楽とか、変人達の集まりだとか、陰口を叩く輩もいて、居心地の悪さを感じる事もあったが、ミアと同じかそれ以上に我を通すアキの振る舞いを見て、少し考えを改めたのだった。

周りに遠慮したり、評価を気にする位なら、周りを変えてしまえばいいんじゃないか、と。姉のミアを思い返してみても、実は自分はかなり常識人であって、気を使い過ぎてたんじゃないか、と。

エリーあたりが聞けば、間違いなく、んな訳ない、と断言しただろうが、幸か不幸か、リアの周りに彼女を止められるだけのブレーキ役はいなかった。

リアの吹っ切れてしまった振る舞いの影響をアキが知るのは暫く先の話となる。


リアもそうだが、現時点での最大の懸念事項は、アキが心話を行うことによって、何かを介することなく、対象と接触してしまう点で、これには関係者の誰もが何とかならないかと頭を悩ませていた。街エルフの持つスキルの中には、相手に心を読ませない、心の強さを高めるなどもあるので、それらをアキに学ばせてはどうかとも考えている。ただ、これまでにそれを言い出さなかったのには理由がある。それらは通常状態、体という鎧があって役立つスキルであって、心を直接触れ合わせる心話に応用できるスキルでは無かったからだ。とはいえ、無策と言う訳にはいかない。その為、十五章では、この件が研究組の取り組む優先課題に挙げられることになる。


【ミア(アキ、リアの姉、財閥当主、マコト文書研究第一人者)】

ミアの残した膨大な量の手紙も、想定した状況から乖離していくことで、読まれる機会が減ってきている。ただ、それならば、ミアの影が薄くなるかと言えば、そんな事は無く、特に街エルフの古い世代はミアのことを思い出す事が増えていた。と言うのも、十年間も毎日、話をして影響を与えた事もあって、アキの基本的な考えが、ミアの愛弟子と言えるほど酷似しているからだ。違いがあるとすれば、ミアはまだ街エルフとしての教育を一通り受けた成人であって、その振る舞いの基本は、街エルフの常識の範疇内にあった事くらいだろうか。

きっと、ミアなら、アキの為した事を聞いて、自分は何て常識人だったのか、なんて言う事だろう。

周りの人は、お前が言うな、と突っ込む事間違い無しだ。



◆妖精枠



【シャーリス(妖精女王)】

妖精達にとって、この二ヶ月間は大きな変化を感じさせる期間だった。要であるアキの心の不調と、それに伴う竜族の神経質な行動や黒姫の診察、治療に妖精族の知が役立たない事への苛立ち、そして帝都訪問では、式典全体を妖精族が演出する事になり、大々的に自分達の文化や感性をアピールする初めての経験をする事にもなった。これまでは森の奥にいて、なかなか姿を表さない、小さくてカワイイ妖精さん、なーんてイメージを崩さないのが美徳とされ、妖精界でも、周辺諸国への干渉は最小限に抑えてきた。しかし、それが徹底された事で、妖精の国は、他国と国同士の付き合いを殆ど経験しない国になってしまった。多くの勢力が集い、交流することで刺激し合う荒波を経験したことで、妖精達の中にも、このままでは不味いと言う意識が芽生えたようだ。

民がそんな意識を自然と持つよう、シャーリスも事あるごとに民をこちらに連れてきたり、新たな試みをしてみたりと忙しい。

帝都の二次会ではっちゃけてしまったのは、予想以上に大成功した事で、気が緩んでしまったのもあるだろう。もう、帝国では、妖精を語る際に、明るく陽気な、という形容詞が付くのは確実だ。


【賢者】

彼にとって、この二ヶ月間、特に帝都での式典演出は、多くの驚きと、新たな分野に関わる事の楽しさを思い出させる事となった。堅苦しい超音速飛行に関する防風対応の可変障壁の改良や、地道な召喚術式の改良、浄化杭投下試験の着弾地点調査支援は、これ迄の延長線上の取り組みだった。

しかし、大規模な集団術式や、風とパイプ群を組み合わせた演奏を組み合わせて、「これぞ妖精らしい演出、式典としたい」、それも第一部は会場への出入りを含めても合計十分程度で収めたい、などと制限も付いた話は前代未聞だった。

そもそも妖精らしさとは何か、術としての難度を見せつけるだけでは嫌味になる、そもそも、地の種族達の式典の流れも知らないぞ、とまぁ、蓋を開けてみれば大変な事に気付いた訳で。

これまであまり縁のなかったエンタメ系の人々とも検討会を重ねたり、こちらでも一般的な式典の流れを確認しつつ、移動時間抜きで正味五分程度にしても、慌ただしく感じさせない為にはどうするか、なんて事に頭を悩ませることになった。

だが、そんな嵐のような時間も終わってしまえば、楽しく感じるもので、こうした取り組みも偶になら、弟子達にも良い刺激となるだろう、などと語る程であった。


【宰相】

彼にとって、この二ヶ月、特に帝都訪問関連は頭の痛いモノとなった。こちらで何かある度に、腕利きが必要だ、柔軟な対応ができる奴が欲しい、集団術式の経験もある連中集まれ、等と言って、女王や賢者が人材を奪っていくのだから、国家運営をする側からすればたまったものではない。頭数を揃えるだけなら大した影響は出ないが、各組織の屋台骨を支えるような実力ある連中ばかりの引き抜きだ。洒落にならない。

それでも、先を見据えた対応として、国家戦略として必要だからと、何とか減った頭数で回していたところに、徹夜で遊んで楽しかったぞ、などと朝帰りされれば、ちょいと話しようか、と女王に説教したくもなると言うモノだ。華々しい表舞台も、裏を支えるスタッフがいなければ成功させる事などできない。彼は久しぶりに翁と組んで、女王に国を導く者の心得を叩き込むのだった。


【彫刻家】

彫刻家にとっては、多くの仕事を抱える彼の工房にとっても挑戦の期間となった。挑戦とは、妖精達の演奏を支える、妖精の国最大のパイプ群の楽器を、こちらの世界で再現すると言う難事に取り組んだからだ。何せ現物が持ち込めない。パイプの金属組成や太さ、パイプの厚み、長さ、切り口の角度、などなど、設計図面から改変されている箇所も多く、彼らの苦労は現物の正確な計測とモデルデータの作成から始まった。一品モノであり、調律師がパイプを一つずつ微調整して、狙った音色を出すようにしており、メンテでオリジナルと異なる部品が足されたり、妖精達の流行りに合わせて、拡張されたりと、現物にしかない情報が多かった。巨大楽器の対応が難航し、一時期は抱えている仕事を全てストップして、全員を投入する程の苦戦ぶりだった。

しかも、データを渡せば、後はドワーフ達が作って、はい、完成などとなる訳もなし。音色が違う、響きが違う、演奏しにくい、などなど演奏者も最高を目指すと妥協しなかったし、調律師達もそれに全力で応えた。

最終的には、演奏者達も納得の出来となったが、ドワーフ達も、暫く楽器は見たくないと言う程の苦労があったそうだ。


【近衛】

近衛にとって、帝都行きとそれに伴う式典の開催は、多くの苦労があった。と云うのも、単なる護衛ならまだしも、求められたのは最高の護衛と、最高の演出を両立する事だったからだ。軍務についている者達に、祭り事を生業とする演者達のように、伸びやかで見ているだけで楽しくなってくる動きや表情をして見せろ、と言うのだ。しかも、演目の関係で、賢者の弟子達も大勢参加すると言う。護衛と集団魔術と演技のできる人材を、などと言って、ポンと集まる訳もなし。

結果として、各分野の専門家を集めて、参加者達に兼任する仕事を割り振り、不得手な部分を本番までに満足の行く域にまで高める、と言う無茶が押し通り、道理が跳ね飛ばされることとなった。

なので、実は式典の第一部、第二部、それぞれで、目立つ部分は本職が対応し、それ以外は兼任者達が担うと言う妥協が行われていた。全てを最高に、と言うのはやはり無理だった。

幸い、こちらの参加者達は妖精達に対してそこまで目が肥えている訳ではないので、妖精達が思うほどには、妥協部分が目立つ事はなかった。

そんな彼も、第二部が夜を通して行われて、翌朝に、帝都の大通りを皆で飛び回る事にしたぞ、地の種族の都市の視察を兼ねている、などと喚ばれた際には、この女王はいきなり何言い出してるのか、と耳を疑った。

いきなり即興で護衛体制を考えて、陣頭指揮する羽目に陥った彼は、流石に思うところがあったようだ。女王から口止め発言が出る前に、そっと部下を一名、宰相の元に報告させる為に戻したのだった。


【賢者の弟子達】

賢者の弟子達は、超音速巡航試験に立ち会ったり、いきなり呼ばれて、浄化杭の着弾した脆くて深い竪穴を調べれるように皆で支えてみたり、集団術式で、妖精界の夜空を描ききるなど、大活躍だった。ただ、喚ばれるたびに、同僚や上司、部下達にフォローをお願いしたりと、色々と苦労も多かったようだ。自分達ばかり喚ばれないよう、求められる内容によっては別の者達を向かわせるなど、工夫もするようになったりしている。

ただ、妖精界でも初の試み、なんて話も多く、結局、彼らが出張る事も多い。悩ましい話である。


【一割召喚された一般妖精達】

帝都訪問時、二次会に追加でやってきた多くの妖精達にとって、初めはある程度の人選が行われていたものの、時間が経つにつれて、より見栄えのいい隠し芸ができる奴とか、場を盛り上げる話術を得意とする奴とか、楽しい演奏ができる奴とか、求められる層が変わっていき、お祭り騒ぎになったのは予想外だった。一応、妖精の品位を損なわない基準で召喚リストにエントリーしていた者達ではあったのだが、まだ当分先と思っていたところに、いきなりの召喚の誘い、それも深夜や早朝ときた。交代で帰ってきた者達も何があったか吹聴する事で、我も我もと、リストに乗る者達が王宮に殺到する騒ぎとなった。

そんな飛び込み依頼ではあったが、彼らは一応、彼らなりに妖精という存在をアピールしてきた、と満足げだった。

彼らがあまりに不用意に情報を垂れ流していた事が判明するのは、小鬼族の纏めた資料を閲覧する機会となるが、それは統一国家樹立後の話だった。



◆鬼族枠



【セイケン(調整組所属、鬼族大使館代表)】

セイケンが本国に戻って感じたのは、人々の漠然とした焦りだった。ロングヒルにいて、日々、様々な種族と交流していると忘れがちだが、鬼族は個としては、地の種族に敵はなく、戦と言っても、当たるを幸い、薙ぎ払って蹂躪していくのが定番だからだ。それたけに鬼王レイゼンが意識を切り替えねばならないと話しても、なかなかその意識の根底まで変わったとは言い難かった。そんな意識が変わったのは、アキ達の帝都訪問だった。前線から距離を離しても、後背地に敵戦力が直接降りてきてしまえば、防衛線の意味が無くなる。しかし、領土の何処に敵が来ても対応できるよう分散配置すれば、薄い前線は食い破られる事だろう。これはわかり易い危機だった。

どれだけ穏やかな訪問だろうと、それができるというだけで、警戒心を煽るのには十分過ぎた。

ロングヒル住まいも長いセイケンの元には、元々、異文化に興味を持っていた者達だけで無く、武闘派の面々も話を聞きにやってくる変わりようだった。

そんな人々に、平和な世にあって、国同士が武を用いずに交流するようになれば、武を用いぬ競争へと発展していくだろう、と知を高める事の重要性を説くのだった。


【レイハ(セイケンの付き人)】

レイハにとって、この二ヶ月は新鮮な出来事が多かった。まさか竜族に対して、頻繁に演舞を見せて、武術談義に華咲かせる等とは夢にも思っていなかったし、魔導人形に対して、その武と心を認めて、名を贈る事になると考えた事は無かった。

それに本人は精々、型通りに武器を振り回す程度のアキが、それなりに武術に詳しく、角力(相撲)にも興味を示したのは意外だった。と言うか、アレで健康的でバランスの取れた体躯だ、と言うのは本人から聞き、肌艶の良さを確認しても、納得し難いモノがあった。

彼は剣術を得意とするが、他の武器も使えない訳ではない。ブセイは前線で遭遇した際の鬼達を参考に作られていた為、大盾と鉄棍を得物としているが、武術を教えてみると、他の得物にも才がありそうだった。鬼の魔導人形が何処までの武を極めるのかは、本国からも見極めを指示されているので、当面はブセイの腕を磨く為に手を貸すことになるだろう。


【トウセイ(研究組所属、変化の術開発者)】

トウセイにとって、この二ヶ月は自身の変化の術の改良に繋げる、大鬼化した際の情報集めに専念した時期だった。勿論、他の研究にも関与しており、幅広い活動は、狭い分野だけでは得られない、様々な気付きを彼に齎した。

彼が得た大鬼化に関する気付きは、度を超えた力は、バランスを失い、結果として有用性を失うと言う事実だった。竜族もそうだが、全力で動く為の魔力を集めるのに時間がかかり過ぎて、全力で動ける時間が短過ぎるのだ。攻撃力と防御力に偏重した重戦車が足回りの不具合に悩み、補給が追い付かず、超重量に耐える橋の少なさ故に進行ルートも限られて、防衛戦でしか強味を発揮できず、後の時代には消えていったのに似た話だ。

運用まで含めて、攻撃、防御、機動力のバランスが取れたモノこそが戦力足り得るのだと。

アキには男の浪漫を語ったものの、鬼よりも鬼人の方がこれからは活躍できるだろう事も理解していた。それでも語りたいのだから、彼もまた鬼族の男と言う事だろう。


【レイゼン(鬼王)】

レイゼンにとって、ここ二ヶ月は激動の時期だった。要であるアキが心を病んだ際の竜族の振る舞いは、アキが彼らをお友達と呼んでいたことを裏付ける結果になったと認識していた。どうでもいい相手なら、手を貸そう等と竜族が言い出す筈もないからだ。

それに連合と帝国が争い、連邦は若干帝国寄りの中立と言った立ち位置だったが、帝都訪問で、新勢力たる竜族、妖精族、街エルフ族が、三大勢力が手を結んで統一国家樹立をする方向で強く関与してきた事で、勢力間の関係が様変わりする事になった。

竜と妖精と街エルフが共に降り立った事で、共和国と帝国は、一部の為政者達だけで無く、幅広い層の意識を変えるに至った。連合は多くの文官達を派遣する事で、他勢力のかなりの情報を得て、国内へと伝えている。それに比べると、連邦は得ている情報の質こそ高いが、量はかなり不足している有様だった。

まだ大差はついてないが、今のうちに手を打たねば、諸勢力の事に疎く、常に二番手、三番手に甘んじる事にもなりかねない。その為、かれもまた十五章で大きく動く事にしたのだった。


【ライキ(武闘派の代表)】

ライキにとって、この二ヶ月は自らが代表を務める武闘派の存在意味を問うモノとなった。アキ達が共和国の都市ショートウッドに降り立った際も、目鼻の効く者達は驚いていたが、今回の帝都訪問では、天空竜八柱、妖精三十人、魔導人形三十人が降り立つ事になり、より軍事的な意味での衝撃が強かった。やれる可能性があるのと、実際にやって見せたのでは意味がまるで違う。

一部、実際に体験しなければ理解できない連中を除くと、昨年までとまるで違う世となってきた事を悟ったのだ。

高空を飛ぶ天空竜は、これまでは縁のない存在だった。それが、すぐ身近に降りてくるかもしれないとなれば、意識は変わってくる。

その為、ロングヒルから戻ってきた数少ない鬼族の竜神子達と、秋から竜とどう向き合っていくか話し合う事も増えてきたのだった。


【シセン(穏健派の代表)】

シセンにとって、ここ二ヶ月は、穏健派への風向きが大きく変わる期間となった。他の地の種族に対して、圧倒的とも言える武を持つだけに、その行使を控えていくべき、との穏健派を軟弱と見る者達は決して少なくは無かったからだ。まぁ、穏健と言っても初手で自分達から殴らないだけで、その本質は鬼族らしく武人気質な者が多いのだが。これまでのように、現在の領土を維持し、此方からは仕掛けず年齢構成の歪みを解消していく、という方針では、この激しい自体の流れに適応していけないのではないか、と疑念が生じた為だ。武闘派は新勢力(竜、妖精、街エルフ)を武力から捉えて、その潜在的な力に危機感を募らせているが、穏健派内では、各勢力を比べると、人口の少なさ、伸びの悪さを考慮すると、鬼族の伸び代が一番短いのではないか、と考えだしたからだ。

そして、どちらの懸念も恐らくは正しい。

すぐにどうにかなる話ではないが、差が開いてくるのを見越して、今から鬼人化の術式研究を進めなくては、差を取り戻せなくなるだろう、とも思う程だ。ただ、種族としての生き方を変える、と言うのはそう簡単に決められるものでは無い。

これからも当面は少ないカードをできるだけ効率良く出し続けるしかなさそうとも考えていた。

そんな思考自体が長命種としての腰の重さ、鈍さなのだと、彼も十五章で知る事になる。


【鬼族の女衆(王妃達)】

彼女達のロングヒル滞在は、結局、延長されることになった。元々、王妃が五人もいても、公務がそれ程ある訳でもなし、子育ても終わって暇と言ってたのもあるし、ロングヒルに信頼できる者を派遣しておきたいとの思惑もあった為だ。

多種族の打ち合わせ場所として、連邦大使館が使われる事も増えて、国同士のやり取りにも王妃ならば深い理解があるので、その点でも安心だ。

アキが心を病んだ時には、彼女達も親身に話をして、アキとの交流も深まった。アキが鬼族の子育てや家庭の在り方等に興味を示した際には、色々と紹介したものだった。

同行していたケイティが街エルフを、王妃達が鬼を、アキが日本あちらの話をする事で、比較文化学の考えを試す感じにもなり、その意味でも盛り上がった。

王妃達は、比較文化学こそが勝ち筋とみて、国元には、単なる文官の増員ではなく、一つの出来事を多面的な視点で捉えられる人材こそが必要、と求めたのだった。


【セイケンの妻、娘】

この二ヶ月は、セイケンが毎週のように帰国していた事もあって、娘も最近は少しグズるものの、大泣きする事はなくなってきた。次にいつ会えるかわからないのではなく、週一回は会えるとわかれば、不安も少しは和らぐと言うモノだからだ。

アキが心を病んで、治療の為に関係者が集められたり、治ったかと思えば、帝国の首都に飛んでいくなどと、夫が語る話に、妻も大いに驚いたものの、そんな激動の地だからこそ、国からも多くを期待されてセイケンが赴いている事は誇りでもあり、父の姿が無くとも、その行いを、頑張る姿を、それを支える自身の姿を娘に伝えようと、娘にはそれとなく話すのだった。


【鬼族のロングヒル大使館メンバー】

彼らにとって、この二ヶ月は鬼族としての集団術式を求められる機会は無かったものの、あちこちの研究に参加し、交流会を大使館で開き、ザッカリーが導入した計画管理手法を学び、激変する出来事をつぶさに観察して国元にはせっせと報告書を送るなど、その活躍は長い年月で研鑽を積んだだけの事はあった。

女衆も一日に五回、十回と飲食を提供し、給仕をしつつ、話し合いにも首を突っ込んだ事で、その技も大いに洗練された。

例えば、料理は五割の手間で八割の美味しさを得ると言った具合であり、しかも毎日食べても飽きないように、味付けも控えめにするなど、なかなかの手際だ。

ただ、如何せん、頭数が足りない。質でカバーと言っても、限度がある。魔導人形の事務要員達が追加された事で何とかなっているが、もうリミットぎりぎりだ。施設の建設、改修も終わり、職人達と入れ代わりに派遣される文官達が最後の伸び代である。冬には、現状の体制で出来ること、諦めざるを得ないことを決めていくしか無いだろう。


【鬼族の職人達】

ロングヒルの都市計画に鬼族の視点を取り入れる件は、隔週程度で話し合いの場を設ければ十分との合意を得られたことで、職人達の殆どは連邦へと帰った。何かあった際には即応できるよう腕利きの職人が一人残って、暇な時は庭の手入れしている。空いた枠は文官達が新たに派遣されてきて、追いつかない業務と戦い始めたのだ。

まぁ、鬼族は長命種なので、街エルフほど極端ではないにせよ、大概の事は自分でできる。なので、今いる文官達だけでも、大使館の運用に支障はないだろう。



◆ドワーフ族枠



【ヨーゲル(調整組所属、ロングヒルのドワーフ技術団代表】

技術面の万能技術顧問アドバイザーとして、専門外の話にも呼ばれる事が増えており、打ち合わせの場に他の専門家を伴う事も増えてきた。この二ヶ月間でも極めつけは、やはり、妖精達から依頼されたパイプ群で構成された巨大楽器だった。

彼もパイプオルガンの仕組みは知ってはいたが、同じようにパイプの共鳴を使っていても、風の術式で風を吹き込むせいか、形状や作りにかなりの違いがあった。幸い、ドワーフの国は近場なので、管楽器の専門家を呼び、基本的な演奏方法から初めて、パイプの本数や太さ、角度、長さ、材質や厚みなど、多くを学ぶ事になった。分かったのは、息を吹き込んで演奏するような強弱の多彩な操作と、風を術式で送ることにより、人を遥かに超える吹き込む強さや、いつまでも続く無限の肺活量も併せ持つ、と言う事だった。

妖精達の望む水準で創る事には成功し、お礼として聞かされた演奏もまた見事なものであったが、自分達の魔術操作精度では妖精のように演奏はできず、妖精族専用楽器となるのは少し残念だった。最高の剣は創れても、最高の剣の使い手には成れない、それならまだいい。この場合、型通りに剣を振ることすらできない、という事なのだから、まぁ、ヨーゲルが内に燻る思いを抱いたのも仕方のないところだろう。


【常駐するドワーフ技術者達(アキの使う馬車の開発者達)】

アキの乗る椅子ハーネス)に、空間鞄を収納できる荷箱トランクを取り付ける改修作業は彼らが担当した。馬車に使っている魔力耐性を高める機構は毎日の運用実績もあって自信があったのだが、竜と共に空を飛ぶことによる気温、気圧、重力変化にも耐えるかと言えばそれは未知数であり、試作を幾度も重ねて実用には成功したものの、かなりの苦労があった。

例えば、荷箱トランクに空間鞄を出し入れするにしても、アキが触れば壊れ兼ねないので、翁か他の妖精達が魔術で行うしかないが、そうなると、魔術でも作業しやすく、それでいて意図しない形では開かないロック機構も欲しい、と言った具合である。ベルト留めのようにバックルに、剣先(ベルトの先端)を通して、ピンを小穴に差し込んで閉める、なんて作りを、物体移動サイコキネシス系の術式で行うのは、いくら妖精族でも無茶だった。やってやれなくは無いけれど、力加減が難しく、左右の手を使うように、短時間で正しく留めるのは厳しかった。なので、留め具一つから見直すことになり、これにはロングヒルに滞在している他の職人達にも知恵を出す事となった。


【施設建設で派遣されてきた百人のドワーフ技術者達】

様々な工作機械や設備も揃い、試作だけならドワーフの技の多くをロングヒルでこなせるようになった。その為、設備の建設や設置に携わっていた技師達は帰国し、代わりにやってきたのは様々な分野の専門家達だった。それに複数分野の手を組ませる企画立案者プランナーもやってきて、さながら異業種交流会&万能試作工房と言った位置付けになってきた。彼らは多くの企業から派遣されてきており、引き受けた仕事の大半は本国で生産される流れとなってきた。


【ドワーフの職人さん達】

ドワーフらしい滞在施設の設計、建設は続いているが、その顔触れも随分変わってきた。小鬼族に刺激されて、ロングヒルでは組み立て調整だけに留めて、それまでの製造作業は国元で行い、後は空間鞄に入れて運搬すると言う具合だ。そんな話になってきたのも、滞在人数枠には限りがあり、こちらに材料を運んで、職人達があれこれ考えながら仕事をする余裕が無くなった為である。

背は低くともガッシリした体格のドワーフ達は、小鬼族のように二人で一人分などとカウントされず、普通に一人とカウントされるので、手広く仕事をすると、やはり人手が足りなくなるのだ。

それを言うと、鬼族は一人が人族四人換算とされているのだから、それに比べればだいぶマシだ。

因みに、鬼族は百人力だから、などと戦闘力から枠を絞る案も出たものの、これには、鬼族も「鬼族なら誰でも百人力ではない」と強く主張し、結局、体重換算で落ち着いたのだった。

鬼族一人は小鬼族八人というレートなのだから、鬼王レイゼンが危機感を持つのも当然だろう。



◆森エルフ族枠



【イズレンディア(調整組所属、ロングヒルの森エルフ護衛団代表)】

イズレンディアにとって、この二ヶ月は精霊使いの特殊性と、他種族の橋渡しに苦慮する日々だった。アキは思いの外、理解があったが、普通の人々は結果は出すが胡散臭い、理解できない輩と言う意識を持つ事が多かった。

配下の精霊使い達も、自身の精霊がヘソを曲げたりとだいぶ苦労していた。と云うのも、精霊は独占欲が強く、精霊使いが誰かと話をしたり、共に何かに取り組むという事は、その分、精霊に向ける意識、思い、語り掛けが減るからだ。

しかし、なら構えばいいかと言えば、程々を超えると、今度はウザがられるのだから大変だ。

それに精霊使い自身が、あまり社交的ではなく、自然の中にある事を好むのだから悩ましい。

彼は森エルフの代表をしてるだけあって、かなり社交性があり、他種族への理解も深い。森エルフの中ではかなりマシな方なのだ。

樹木の精霊(ドライアド)への対応で多くの精霊使い達が、他種族と交流の場を経験し始めており、早く使える人材が増えて欲しい、と願う日々である。


【森エルフの文官、職人さん達】

他種族との交流や、農業指導、料理人の活動を担う為、常設滞在拠点は着々と建設が始まった。仮設の住居を利用しつつ、少しずつ作り替えていくという手間のかかる方法を取っているが、それは、これだけ多様な人々が集う施設となると、どう作るのがベストか方針を決めかねていたからだ。なので、本式に作っている部分も、後から移設できることを考慮した造りとしている。

森エルフの料理人達も、これまで手に入らなかった連邦や帝国の産物を手にして、どう料理するかと試行錯誤する日々である。いつのまにか定期開催するようになった料理人達の交流会でも、これまで知られてなかった調理法や食材を目にすることが多く、互いに得るものが大きい集まりだ。

文官達も、精霊と共にあることが基本の森エルフの生き方に興味を示す者達が多いので、正しい理解が広まるよう頑張っている。とはいえ、頭数が少ないのでその歩みはゆっくりしたものだ。


【ロングヒルに常駐している森エルフ狙撃部隊の皆さん】

射手として優れた森エルフは第二演習場での仕事が多い関係で、そちらにあった仮設住居を正式な住居にアップデートする作業が始まった。何せ、ほぼ毎日、第二演習場には天空竜が飛来し、そうでなくとも、研究組の面々が試験を行ったりする関係で、周辺警戒に駆り出されることが多かった。そして、大した距離ではないとはいえ、毎日、移動をしているとそれを無駄と感じる者も増えたこと、それと、ロングヒルの居留地よりも、第二演習場周辺の方が自然が多く、精霊使いである彼らにとっては心地よかったことが大きかった。そこで、主に外回りを担う森エルフは第二演習場付属住居で、文官や料理人など対外交流を担う者達はロングヒルに確保している敷地に滞在施設を作って住み分けを行うこととなった。狙撃部隊の者達は、訪問者が来ないことを前提に、制限が少ないことを活かして、より森エルフ好みの住居を作ることにしたようだ。


【森エルフ&ドワーフの心話研究者達】

ケイティとアキの二回目の心話も成功し、彼らの用意した新型魔方陣の目指す方向性は正しいと手応えも持てた。小型召喚された雲取様と話をする機会も得られるようになったことで、森エルフ、ドワーフのどちらも、心話に対する熱意は当初に比べると大きく減少することになった。ただ、アキが心を病んだことに伴い、俄かにその熱意が再燃することとなった。ただ、強まったのは雲取様との心話ではなく、心話という技法そのものへの熱意だった。

自分達も、相性の問題もあって、大々的には行っていないものの、ある程度は取り扱っている技法であり、何ら目新しいことはない……そう思っていた。しかし、アキが多様な種族と心話を行い、その結果を明らかにしていったことで、大きな疑問が生じたのだ。


自分達は、心話について、心について、理解したつもりでいただけだったのではないか? と。


人だって、その瞬間には良いと思った判断も、ほんの少し間を置いて考え直してみると全然駄目だった、なんてパターンもあるように、移ろいやすく、様々な思いが同時に浮かび、相反することも多く、自身すらはっきり意識してない思いすらある。

自分達はもっと、心話について、心について知るべきではないか、そう考えるようになったのだ。この疑問は、十五章で研究組にも研究課題の一つとして提案されていくことになる。



◆天空竜枠



【雲取様(森エルフ、ドワーフを庇護する縄張り持ちの若竜)】

この二ヶ月は、雲取様も人生初と言っていい忙しさで、全ての部族を訪問して意見を纏めるという大仕事を担ったのは、多くの成竜族の助けも得られたが並々ならぬ苦労だった。苦楽を共にした雌竜達とも、悩みを語り合い、創意工夫を提案し合うなど、絆が強まることとなった。アキが心を病んだ時に、自身が何もできぬと悟った時に無力感に苛まれるなど、深く考えさせられる事も多かった。

それに比べれば、帝都訪問とそれに付随する諸々の話など、余録であり心癒される時間ですらあった。一通りの話も終わり、福慈様や各地の部族への報告も残っているが、ひとまず、肩の荷が下りた、とホッとしたのだった。


【雲取様に想いを寄せる雌竜達】

雌竜たちにとってこの二か月は、の雲取様と共に、あちこちの部族に対して、アキの提案を伝えて周り、意見を取り纏める、という困難への取り組みもあって、大変なものがあった。

そもそも竜の社会において、若竜はまともな発言権を得られることはない。それだけに他の部族の若竜が、代表の元を訪れて説き伏せるなどということは、竜の社会においてもそうそうあることではなかった。心話を通じて、幅広い世代の新しいモノ好きな竜達にアキの存在や振舞いへの認識が広がっていたこと、事の発端がアキの提案だったというのも、聞く耳を持たせる上で後押しする効果はあっただろう。

雌竜達もまさか、自分達が話を伝え回る役になるとは思ってなかった。部族の総意を決めさせる、そんな提案は普通なら部族を取り纏める老竜の役目だからだ。しかし、今回、福慈様は、この件を雲取様や雌竜達に任せる、としたのだった。これに不満を持つ成竜もいたが、提案を持ってきて妥当なら任せる、と言われれば黙るしかなかった。

今回の働きは、縄張りを持てず燻っている若竜達に対しても大いに刺激を与えることとなった。


【福慈様(他より頭一つ抜けた実力を持つ老竜)】

福慈様にとっては、アキの伝えた提案は納得のいくものであり、それに対して認めることに異論はなかった。ただ、せっかく若い竜達が基点となって動いている話でもあるので、それならば大人の竜達がしゃしゃり出ることなく、敢えて若竜達が主体となって動く話とするよう指示した。それは福慈様の深謀遠慮であった。若い世代が成人を迎えるにあたって、何らかのの試練を乗り越えることが妥当であり、今回の件はそれに該当すると考えたからである。福慈様の目論見通り、様々な部族の老竜や成竜を相手に、雲取様や雌竜達は提案の妥当性、合意を示すことの意を説いて、合意を引き出す為に、随分と苦労させられた。ただ、それでも何とかして、場合によっては仕切り直してでも達成した姿は、竜族の若竜から老竜までに鮮烈な印象を残すこととなった。


【白岩様(雲取様の近所に縄張りを持つ成竜)】

鬼属の身体操作の術は、竜族が取り入れる事によって、これまでにない新たな知見を得るに至ったと感じていた。小さな種族達が育んだ技ではあるが、その有用性は認めるべきであって、閉塞感もある竜の社会に新たな変革を生むだろうとも期待している。


【黒姫様(雲取様の姉)】

雲取様がずっと関与していたアキと、やっと接点を持てて退屈な日々もこれで紛れるだろうと楽しんでいるところである。また竜の医術がアキに心の治療に役立ったことにも満足していた。 竜は貰うばかりで与えることが少ないと感じていたからだ。それと幼竜を育てていた経験から、アキは目を離すとどこに行ってしまうかわからない幼竜のようだ、とも感じている。 一つの所にじっとしていて変化のない時を生きる、などという生き方とは真逆の性格であり、どこまで飛んでも誰かの縄張りであり、閉塞感を感じている若竜達に似ているとも思うのだった。


【アキと心話をしている竜達】

アキが心を病んだことは彼らにとっても衝撃の出来事であった。心話限定とはいえ、自分達に匹敵する相手と認識していたのと、世界樹が危険のある存在とは思わなかったからだ。 自分達にとって当たり前のことであっても他の種族には危険なこともある、そういったことに配慮しなければいけない、と考えるようになった。また、アキが心を病んだ時に彼らの慌てぶりはなかなかのものがあった。自分達の力ではどうしようもないということが分かっているだけに、いつものように自信満々とはいかなかったのである。



◆人類連合枠



【ニコラス(人類連合の大統領)】

本編でも語られているように、外面を繕って余裕がある大人を演じていると、アキはいくらでも仕事を放り投げてくるということが分かったので、彼も他の人には内緒だぞと言いながら、自分の弱みともなる疲れた姿を見せる事にしたのだった。取り繕った姿よりもそう言って心の内を見せてくれた方が、アキにとっては親しみの持てる人物となるので、これは良い選択だった。この秋の成人の儀に向けて、連合の舵取りも難しさを増していくのは間違いない。それでも去年の今頃は自分に力がなくやれることも無く、不貞腐れていたことを思えば贅沢な悩みだろうとも思っているところである。


【トレバー(南西端の国ディアーランドのエージェント)】

樹木の精霊(ドライアド)達への探索や調整は、彼の祖国がある西端の地には今年は届かない見込みだ。他の地域で起きた出来事を参考に、来年はより効果的な施策を選択できるのでそれで良いと考えている。彼が今、懸念しているのは、やはり秋の成人の儀だ。西端の地でも、毎年のように血で血を洗う戦いが繰り広げられており、だからこそ、恨み晴らすべし、と血気盛んな者達も多いのだ。しかし、ロングヒルでの交流の日々は、昨年までとは明らかに様相が異なる為、国元にこの雰囲気を、潮流を、どう伝えるか苦心している。


【二大国の一つラージヒルのエージェント)】

例年のように、南の山地から、帝国軍が攻めてくるのだろうと考え、如何にそれを撃退するか、国内では論争が巻き起こっていた。ただこれまでにはない提案を帝国がしてきているので話半分と思い、どちらに転んでも良いよう両面の作戦を練っているところである。二大国が 建造を決めた帆船だが、実のところノウハウを持ってるわけではないので、まずは共和国の伝手を頼って設計を行うところから始めている。なので帆船が実際にお見えするのはまだまだ先の話になるだろう。


【ナタリー(二大国の一つテイルペーストのエージェント)】

テイルペーストの辺りまでは、紫竜による魔獣達の生息域の玉突き事件の影響が出ていた。その対応で国中が準戦闘体制に陥っており、ナタリーにも、各地の探索者達の行動を逐一伝えるよう厳命が下っていた。また国内に樹木の精霊(ドライアド)探索をする探索者達が入るなど、これまでにない流れにどう対応していくか議論が伯仲している。テイルペーストという二大国としての視点だけでなく、連合としての視点や、諸勢力を纏めた場合の視点についても考慮して報告せねばならず、ロングヒルでの諜報活動は重要性を日々増している。

テイルペーストも帆船の建造ノウハウが無いので、共和国の伝手を頼ってまず建造ドックの用意から始めているそうだ。そんな話を聞いた彼女が思ったのは「そもそも外洋に乗り出せる船乗りがいないわ」って話。引退した探索者や、共和国の船団に所属していた者達に声を掛けて、育成組織から用意するとなると、五年、十年先の話よね、などと思うところだ。


【エリー(ロングヒルの王女)】

エリーは、この二ヶ月でアキが諸勢力の要であること、そしてそれが不在となれば一気に現在の体制は瓦解する、という実情を把握するに至った。これまでの様々な出来事を通じて、エリーがアキの姉弟子として、話がわかる王女であり、他の種族にも理解がある王女であるとの認識が広まったために、何かあれば彼女に声をかけてくるという流れが出来上がってきていた。

それ自体は嬉しいのだが、対応して少しは収まってきたかと思えば、新たにまたでかい話をぶち込んでくるといった具合で、アキの行動を重荷に感じて来てるのも確かである。

だからといってアキが話した内容自体を、ならば辞めるかと言うとやめるにはあまりにも惜しい提案であり、結果としてて、やらざるを得ない。

それが本編でも盛大な不満となって噴出してきたのであった。 本人は気が付いていないが、竜でも妖精でも筋が通らなければ、物申すというその姿勢自体がまさに女傑と言った名声を高めていくのに役立ってしまっており、殿方が及び腰になってしまうという悪循環を生んでいるのだが、本人が気がつくのはもう少し先の話になる。


【ヘンリー(ロングヒルの王様)】

ヘンリー王は、今回の一連の出来事を通じて、王子達が与えられた仕事をこなすというだけでなく、多くの勢力が絡んでいるという現状を認識する高い視点を持つに至ったことを好ましく思っていた。そして鬼が強い、竜が怖いなどと言って、エリーに頼る官僚達には失望し、何とかならないかと頭を悩ませているところでもあった。今回の出来事が、ロングヒルのまつりごとに直接、何か影響を与えるということはないと思われるが、多くの種族が同じ都市で交流しながら、諍いを起こすことなく共に暮らせるのはなぜかといった意味で、鬼族や小鬼族からの視察問い合わせも届いており、まつりごとや経済の中心ではなく、文化の中心となる、というアキの示した道筋に手応えを感じるのだった。


【ロングヒルの御妃様】

ロングヒルの王妃様だが、アキが帝都訪問をぶち上げ、皆の反応を見てもショックを受けることなく観察する落ち着き思ったりしたこと、エリーを振り回すところなどに、とても興味を持ち話をする場を設けようと考えている。

こちらでの国のあり方は戦国時代のようなものであり、太平の世と違い、他国の王妃や王女といった王族同士が交流の場を持つなどということは殆どなく、せいぜい手紙を通じて意識を確認し合う程度の仲であった。しかし帝国との関係が改善し、国との間を移動することへの敷居が低くなれば、今後は交流も増えていくことが予想される。

そうなれば第二王子アンディの文化活動もさらに活発化することになり、これまでは王の視点だけであったまつりごとに后や姫などの絡むシーンも増えてくると思われる。

そこでロングヒルの地位を確かなものとする為にも、通信・物流網を通じてロングヒルのことを広報発信していこうなどとお妃様は考えている。


【エドワード、アンディ(ロングヒルの王子様達)】

エドワード第一王子がこの二ヶ月間で経験したことはそれまでの常識を覆すものだった。なにせ地上世界のことには首を突っ込まない、気にもしないと言うはずの竜達が、アキの事となれば仕方がないなぁと、近所のおじちゃん、おばちゃんレベルで首を突っ込んでくるのだから驚く他ない。また遥か遠い地にいきなり直接降り立つという行動、それ自体が軍事的な視点から見るとまさに驚天動地の出来事であった。竜が降り立ってくるのは天災であり、追い払うのすら困難で、考えても仕方ないことだった。そこにきて天空竜と共に空を駆けて、空間鞄を携えた街エルフが一人降り立てば、空間鞄から喚んだ数十人の魔導人形を戦線に投入できることを意味する訳で、意味するところは非常に大きいと言わざるを得なかった。

ただ、彼のその発想はアキも指摘してる通り、些か時代を先取りし過ぎている。竜が抱えて飛んであげてもいいと思うような地上の民は、今のところまだアキ一人しかいないのだから。リアもまぁいいかと思われてはいるのだが、リア本人が空を飛ぶことに及び腰なのだから仕方ない。

それでも、国を司る為政者として、彼の認識意識は大いに高まったといえよう。

アンドリュー第二王子は、今回のアキの帝都訪問やそれに伴う妖精達の音楽演出などに大いに感銘を受けた。それらは 類似した技法、演出は存在したものの、妖精達のソレはレベルがあまりにも違っており、それらにインスピレーションを得た芸術家や演奏家達が今後多く排出されるであろうことは間違いなかった。


【ザッカリー(研究組所属、元ロングヒル国宰相)】

苦労は多かったものの、研究組に対する事務員達の派遣と、それに伴うプロジェクト管理手法の導入によって、全体像が見えにくい、成果がわかりにくい、影響を受ける分野、企業群、国がわかりにくい、と言われていた不満の多くを解消することに成功した。

アキにも語ったが、行った改善策の多くは、ロングヒル単独では到底不可能なレベルの話であり、潤沢な資金、豊富な人材、活動を支える数多くの魔導具があればこその成功だった。

ソフィアと頻繁に衝突していたのも、対半は予算不足故の事だった、そうソフィアが吹聴しているのもあながち詭弁ではない、と思う今日この頃だ。

ただ、彼の力量によって、本来の力を最大限に引き出すことに成功した研究組の躍進、というか、暴走というか、常識の踏破が更に加速することにもなった。



◆小鬼帝国枠



【ユリウス(小鬼帝国皇帝)】

ユリウス帝は、春先に今後の方針を臣民に示してから、さして間をおかず、アキが心を患い、治療の為にロングヒルに舞い戻る事になった事に頭を痛めていた。しかも、アキは癒えた後、直ぐに帝都に訪問して、お礼を伝えたいと言い出した。そのあまりの展開の早さに、まさか自分まで人族のヘンリー王のように、変化が早すぎると愚痴る事になろうとは思ってもみなかった。

勿論、事態を最大限、有効利用し、臣民の意識を変えることに役立てはしたが、アキの話す視点についていける者など、そう多くないのだと、多くの民が変化についてこれなくなれば、変革の流れは、これまでの暮らしを続けたいという反発に繋がると伝えなくてはならないと考え始めていた。

ただ、秋に三大勢力が集うまでにはまだ時間がある。きっとあと何回か大事があるだろうとも悟っていた。無いと考える方が有り得ないと確信していた。

そして、そんな彼の直感は大概の場合、よく当たるのだった。


【ルキウス(護衛隊長)】

ルキウスは、妖精達との濃い交流となった第二部の騒ぎで、人々の意識が変わるのを感じていた。これまではどれだけユリウス帝が話そうと、心底、それを理解し、時代の激動に乗り出そうとする者は僅かだった。それだけ変化が急で想像しにくい、現実味が薄く感じられていたのだろう。それだけに、今回の式典の第一部、第二部に参加した者達の意識が、心構えが、一体感が、仲間意識が大きく変わった事に胸の奥から震えが来るのを感じていた。激しい変化を起こしたアキと、それを見事に捉え、人々の心を変えることに活かした賢帝。そんな生ける英雄に仕える事ができることに感動すら覚えていた。


春先の演説を受けて、暴発する好戦派を如何に潰すか考えていたが、ユリウス帝はそんな連中の頭を大きく揺さぶり、目を見開かせたのだ。


戦わずして勝てば、国力、戦力を減らさずに次へと繋げられるからだ。何と素晴らしいことか!


……ただ、そんな尊敬する偉大な賢帝ですら、アキから届いた帝都訪問と式典開催の申し出を目にして、暫くの間考え込み、何度も読み返しては溜息をつく有様だった。あまりの様子に声を掛け、手紙の内容を伝えられて、ルキウスもまた、何を言ってるのか理解が追いつかなかった。


結果、アキ達の訪問や妖精達との交流は成功したが、それはユリウス帝の采配あればこそ。秋に再会する際には傾聴の時間を設けて貰おうと考えていた。その話をしたところ、ユリウスも大いに賛成し、少し露骨過ぎるかと思うくらいハッキリ言ってやれ、と背を押す程だったのだから。


【速記係の人達=ユリウス帝の幕僚達】

彼らにとって、国をこれからどう纏めていくかといったことを考えていた最中、いきなりアキ達が訪問してくるに至り、その対応でてんやわんやの大騒ぎとなった。あらゆる官僚達が今回の事に慌てふためき、そんな者達を落ち着かせて現実を理解させ、困難さを認めた上で抗い、先に進めというのだから大変だった。 しかし旗頭として、明確に先を示してくれるユリウス帝がいれば幕僚達もそれに従って話を進めていける、それは彼らの得意とするところだった。そのため今回の件では省庁の枠を越えて、手を取り合い、案を出し合おうという流れも生まれた。そんな心強い幕僚達ではあったが、彼らも無理そうとは思いながらもユリウス帝に対して、アキをもう少し御して欲しいと思うのであった。


【ガイウス(研究組所属、小鬼チーム代表)】

ガイウスは、ロングヒルに常駐している研究組の代表としてだけではなく、帝国からやってくる担当者達とアキの間を取り持ち、或いは窓口役となって働くようになっていた。何せアキとの会談となれば高い確率で天空竜の誰かも同席してくる事になり、そうなれば思念波や竜眼に曝されながら話をせねばならず、それは経験のない者には重荷となっていたからだ。それに国政レベルの話すらポンポンと決めていく早さには、いくら選抜された担当者達であっても荷が重かった。

それはガイウスとて似たようなモノではあるが、扱いづらい研究者達を束ね、為政者達とやり合ってきた経験もあり、一日の長があった。

また、ユリウス帝から、話し合う際の大きな方針と、幅広い裁量も渡されており、故に自信を持って話し合いに挑めているのだった。


そんな彼でも、雲取様、アキ、翁が帝都を訪問すると言い出したのには、かなり驚いていた。しかも軽く考えた程度と言いながら、多岐に渡って影響があると予想し、それでもユリウス帝なら安全を確保してくれるから訪問しても問題なし、と言い切るアキの姿勢に眩しさすら覚えたのだった。


自分なら、いくら雲取様が守ると約束しても、翁が同行してくれるとしても、決死の覚悟なくして、人類連合の首都に降り立つなどできそうにない。その前に、椅子ハーネスに乗って、空を飛ぶ事自体、ハードルが高過ぎた。

アキの姿勢は本人も言う通り、竜神の巫女は小鬼族を信頼している、という強いメッセージを伝える事になったと感じていた。

同時に、ユリウス帝も話していたように、アキの本質は探索者寄りであり、平穏より未知を求める者なのだと理解するに至った。



【ユスタ(小鬼研究チームの紅一点)】

ユスタも、各種族の竜神子達との交流を通じて、物事への基本的な姿勢、資質に大きな違いがある事を感じていた。平穏を求める者、未知を求める者、変化を好ましく思う者、疎ましく思う者、人の上に立つ者、誰かに従うことで強みを発揮する者など、など。


その中でもアキはかなりの変わり者だと理解するに至った。竜神子達とアキの帝都訪問について意見交換をしても、自分も是非、竜と空を飛びたいとか、交流も無い国を訪れてみたいとか、各勢力に声を掛けて手伝って貰おうとか、そんな事を考える者なんて、一人もいなかったのだから。


結果は大変ではあるけど理解はできた。でも、手持ちのカードで手が届くからと、躊躇なく選べる感性が、神経の図太さが、どうにも共感できなかった。ただ、幾度か接点のあった探索者達なら、共感しそうとも思ってはいた。妖精達の投槍に撃たれて、避けられねーと笑い倒す連中だ。きっとアキもまた本質はあの人々と同じなのだろうと考えていた。


【小鬼の研究者達(小鬼研究チーム所属)】

小鬼族の研究者達にとってこの二か月は、帝国にいた頃よりもはるかに充実している体制を用意して貰い、そしてそれに相応しいだけの高度な研究を行うことを求められると言う苦しくとも嬉しい状況だった。帝国にいれば、魔力が足りない、機材が足りない、分野についての知識が足りない、などと言って進めることができなかった研究も、街エルフ達に頼り、妖精族に相談し、竜族に力を貸して貰えば、大概のことはなんとか試せてしまうものだ。そのため大変ではあるが夢のような研究が行えていると彼らもまた満足そうである。



◆街エルフ枠



【ジョウ(ロングヒル常駐大使)】

大使ジョウとってこの二ヶ月は激動の日々であった。 なにせ、去って行ったと思ったらまたすぐに三大勢力の代表達がロングヒルに慌ててやってくるなどという事態になったのだ。しかもその話には精神的にカリカリしている近隣の竜達の催促というおまけ付きである。表面上は何でもない大丈夫だという顔をしながらも内心は気が気でなかった。 またロングヒルで各国とやり取りをすることは考えていても、まさかアキがちょいと帝都に訪れるなどというのは想像の範疇外だった。 何せ連邦や帝国に大使を派遣するというだけでもこれまでにはなかった話なのだ。 そのような段階をいくつもすっ飛ばして帝都に直接降り立ったその流れの速さには驚愕を覚えることとなった。


【ヤスケ(ロングヒル駐在の長老)】

長老のヤスケにとって、この二か月はあまりにも変化が多く頭の痛い日々の連続であった。

忌々しい竜達が、街エルフの子供のためにわざわざ、三大勢力代表達の移動についてエスコートしてやろうなどと詰め寄ってくるとは夢想だにしたことがなかった。

それにまともな国交とてないような隣国に、それも窓口となる都市ではなく、いきなり首都中枢に降り立つ、そんな初めての訪問をする街エルフの子供が出るなどというのも、当然だが想像の範疇を超えていた。

前例となるような話もなく対応するような法律があるわけでもなく、しかしその政治的効果は認めざるを得なく、本土にいる長老達はこれ幸いと仕事を全て丸投げしてきやがってと、ヤスケのストレスメーターは上昇することストップ高である。だがそんな頭の痛い日々ではあるが、嫌な気持ちと同じぐらいそれを楽しんでしまう自分にも呆れていた。何せ長女ミアや次女リアに散々、手を焼かされてきたのだ。それが三女アキだからといって、大人しくなってくれるはずもなかった。自分の話をある程度聞いて従ってくれるだけでも、まだマシな方だと思う日々である。


【街エルフの長老達(本土にいる面々)】

本土にいる長老たちにとって、この二ヶ月はあまりにも出来事が早く変化を繰り返しており、国内統制だけで精一杯といった有様であった。アキの活躍を聞いて、ならば自分もなどと考える血気盛んな街エルフとていない訳ではない。だが誰もがアキのように十重、二十重の護りをして政治的にもセキュリティ的にも安全を確保して関わって行ける訳ではない。そして争いごとが起きてしまえばそれは無用な火種となってしまうだけに、長老達とでそう簡単に許可を出す訳にはいかなかった。

これまでは対半が空間鞄の中に眠っていた魔導人形達だったが、今ではその多くが外で活動をしており、新たな製造の申請も次々に舞い込んできていた。ただアキの近くで働くためには高魔力域への耐性を高めるなど特別仕様でなくてはならず、その意味でも数を揃えればいいというものでないところが、これまでと違う流れと言えよう。


【ファウスト(船団の提督、探索者支援機構の代表)】

ファウスト船長にとってこの二ヶ月は、探索者達を使った樹木の精霊(ドライアド)達の探索や魔獣への対応といったところで、多少手を取らされることにはなったがその程度。

それよりは連邦、帝国の帆船と共に「死の大地」の探査を行うための艦隊を構成して、どう運用していくか、その方法を決めることの方が頭を悩ませる案件だった。どこまで情報を開示するのか、相手にはどこまで求めるのか、補給はどうするのか、人材の交流はどうするのか、帆船同士の連絡の取り方はどうするのか、など決めることはあまりにも多かった。 ただし複数の帆船を同時に運用をしているのは共和国だけであることからノウハウを共和国側から提供するということで方針は決まった。


【船団の皆さん】

ロングヒルに派遣されてきた船団のメンバー達は、連邦や帝国との情報交換を行い、共同運用することの難しさを痛感していた。なぜなら、活動の基本となる安全の基準作りや設計思想自体が違っていたからだ。共和国からの依頼に対する返書が連邦、帝国から届いた時点で、共に船団を組むことは無理と諦めて、大局的な目的をいかに果たすか、そのためにどう連携していくかといった視点で、物事を考えるようになったのだが、その詳細は十五章で語られることになるだろう。



◆その他



【ソフィア(アキの師匠、研究組所属)】

アキの魔術行使は一見するとうまくいっていっていただけに、その実態を知り、師としてもそれをどう導いていくか頭を悩めているところだ。リアの場合も普通の術者の話は通用しなかったが、それでもまだこちらの常識に沿うところが多かった。しかしアキの場合にはそもそも基本となる世界の認識、物事への見方などが大きく異なっている。そして古典魔術はイメージこそが全て。なのでしばらくは暗中模索といった日々が続くだろう。


【街エルフの人形遣い達(大使館領勤務)】

大使館寮にいる人形遣い達は、それぞれが本拠地にも負けないような工房を構えるに至り、人形遣い達の工房は不夜城のごとく日々、人形等のメンテナンス作業に従事している。

これほどまでに高稼働率で働く人形達が集うことはなく、そのために必要な部品など関連製品の製造も本国で急ピッチで行われている。また三大勢力との交流もある程度の落ち着きを見せたところだ。その為、人形遣い達も少しずつローテーションで本国に戻り始めているようだ。ただ彼らが疲れたから戻ったというよりは慌ててきたので本腰を入れる体勢になっていなかったことから、本国に戻って態勢を立て直してもっとしっかりとした状況で工房を再開するつもりのようだ。


【連樹の神様】

同じように樹木の精霊ということで、巨大な存在ではあると認識していたが本質的な部分で自分と異なるといった認識は流石に持つことはできなかったようだ。連樹の神様にとって、この世界の外側というのは理解の範疇外、力の及ばぬ領域である。膨大な集合知と計算能力を持つ身であっても、そもそもあちら側に対しての情報がなければ考えようが無い。ただアキの例を見ると自分自身がそちらに対して世界樹に情報を求めるのは避けるべきとも本能的に悟っていた。準備が整ってからでなくては触れてはいけない知識、見てはならない領域そういったものなのだろうと。


【ヴィオ(連樹の巫女)】

同じように樹木の神であり連樹の神とも交流を持たれていたことから、アキが世界樹と心話を行うことによって、心を病んでしまうというのは予想していなかった。アキのいる別邸に駆けつけて、求められるままに二人の間であった出来事について思い出を語り合い、そうすることで、アキの心が落ち着きを取り戻していくのをみて、改めて神々との交流の怖さを知った思いだった。自身に連樹の神を降ろす場合はその時の記憶はなく、連樹の樹々に囲まれた状態で伝えたい事を話し、連樹の神からは神託が齎される、というようにあくまでも、言葉を介した交流しか経験がなかった。幸い、彼女が仕える連樹の神は、地の種族への理解が深く、「マコトくん」ほどには伝える言葉への制限もない。その為、何を気を付けていくべきか、何を行うべきでないか、それらを見極めていこうと考えていた。


【連樹の神官達】

彼らにとってアキはなんだかんだと常識をぶっ飛ばしていき、自分達には恐れ多い神々とすら交流を重ねていく、そんな存在だろうとある意味楽観視していただけに、世界樹と心を触れることで病んでしまったことは予想外であった。そしてロングヒルに駆けつけて、訪問をした彼らを歓迎して、決して楽しかったとばかり言えない共通の思いでを語り合い、そんな話にも、嬉しそうに耳を傾けて、そうすることで揺らぐ様子が収まっていったアキを見て、彼らは自分達が勝手な思い込みでイメージを変えていたことに気付いた。

自分達よりも小さく華奢な体躯の少女であったと再認識し、自分達は何を観ていたのか、と愕然としたのだった。そして、普段、神官として物事の真髄を見通せと語り、上辺に騙されてはならぬ、と言ってたのは誰だったか、と自戒するのだった。


【連樹の民の若者達】

ロングヒルも、三大勢力の代表達が帰国したことで落ち着きをみせて、多くの種族が同じ家に集って生活するという光景も、まるで以前からそうであったかのように思えてしまうほどである。そして、これまではあまり意識してこなかった街エルフや森エルフ、ドワーフ達など、目を向ければ知ることもできたであろう人々に対しても、自分達は興味を示してこなかったことを彼らは恥ていた。視点を変えれば、いくらでも取り巻く環境を変える糸口はあったのに、いつまでも続く変化のない暮らし、そう思っていた自分達は、自ら目を閉ざしていたのだと気付いたのだった。


【世界樹の精霊】

アキとの心話は、なんか接触してきたなーぐらいのところであり、記憶の一部に触れたことで大きくその在り方を乱したことからとりあえず遠ざけてみた、なぜそうなったのかどうすべきだったかなどといったところまではあまり想像が及んでいなかった。ただ、その後で入れ替わり立ち代わり訪れた、竜達や連樹、それに森エルフの精霊使い達の話ぶりからすると、どうもあちら側のことは触れさせない方が良さそうだというところまでは思い至った。とりあえず次から接触してきたら、世界の外側に関する記憶には触れさせないようにしよう、とは考えるようになってくれた。ここまで考えを持つに至ったのは、黒姫様の地道な語り掛けと交流の積み重ねがあればこそなのだが、それも十五章で明らかになるだろう。


樹木の精霊(ドライアド)達】

紫竜が使い魔探しで魔獣を追い掛け回した件は、魔獣の生息域の玉突き移動の事態を引き起こし、結果として大勢の樹木の精霊(ドライアド)達が等しく被災し、それに対応可能な地の種族の集団、探索者チームがいる、という話が舞い込んだことで、樹木の精霊(ドライアド)間でこれまでになく早い速度で、探索者チームに関する情報がバケツリレーされることになった。何せ自分達からは動けず、探索者チームは会いに来るとなれば、早く来い来い、と気も早るというモノだろう。探索者チームの二つが、玉突き移動問題に専門で対応しているが、それによって魔獣にも動きが生じることになり、その話もまた樹木の精霊(ドライアド)達に広がっていく、という好循環が生まれてきている。そんな話もあってか、探索チームから話を引き継いだ交渉チームとの話し合いも予想していたよりは順調に推移しているのだった。


【マコトくん(マコト文書信仰により生まれた神)】

信者達の活躍もあり、そろそろ依代の製造と、神降しのための集団儀式の準備も終わりそうだ。ただ、神官達に対して、帝都訪問から暫くして、儀式を急ぐよう神託が行われるなど、順風満帆とは言い難い状況のようだ。信仰が増えることは本来ならば、信仰に支えられた神ならば喜ぶことなのだが、今回に限ってはそうではないところが厄介である。

急激に増やしても、中身が伴わないなどと、神託で諫めても、ペースダウンするのではなく、増加ペースに合わせて体制も強化しよう、といった感じに神官達が動いているのも、悩ましいところだろう。


【樹木の精霊ドライアド探索チームの探索者達】

樹木の精霊(ドライアド)探索チームの活躍により、多くの樹木の精霊(ドライアド)が発見され、順次、支援チームへとバトンタッチも進みだした。夏までには連合の二大国周辺地域あたりまでは探索を終え、秋のいくさ前までには二大国の西部方面も踏査し終えそうだ。ペースは順調なのだが、このままだと妖精族が同行する必要なく本島(の連合領)の探査を終えそうで、妖精族の恨み節が聞こえそうではある。まぁ西端の地の探査はまるまる残っているので、妖精族もそこまで文句は言わないだろう。それにペースが順調過ぎて、探索者日記の執筆が追い付いてない。嬉しい悲鳴だが、冬の間は動きが止まるので、その間に巻き返しを図ることだろう。


【邪神、祟り神(「死の大地」の呪いに対する呼称)】

「死の大地」の呪いについて、その循環経路や、北東方面を厚くした動きの詳細を知るための探査計画が立案されたものの、アキから「呪いについてよく知らない。もしかして想定高度だと発見されちゃわない?」との問いに、誰も、問題ない、とは答えられなかったことから、暫く、探査の為の準備は行われるものの、それ以外は超遠距離からの観測に留めることになりそうだ。幸い、帝国には百程度の呪われた地が現存していることから、それらを詳細に調べ尽くすことで、呪いについての理解も大きく進み、アキの問いにも、答えが出るに違いない。

感想、評価、ブックマークありがとうございました。執筆意欲が大幅にチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。自分では気付けないことが多く助かります。


書いても書いても終わらないと思ったら合計35k文字になりました。通常の1パートが4k前後なので7~9パート前後の分量。そりゃ、執筆に手間取る筈でした。


ユリウス帝も気付いてますが、やるのは簡単でも、その意味を為政者達が理解するのと、専門家達が理解するのと、民が理解するのでは、やはり違いがあり、前提となる知識がなければ、いくら良いこと、正しいこと、さして手間をかけずに為せることであっても、それに拒否反応が生まれてしまう、という部分は注意していかなくてはならないでしょう。

アキはその辺り無頓着ですが、各勢力の為政者達はそれらを理解しているので、大事には至らない……筈です。というか、もうあちこちで無理が生じてきてますからね。

明治維新直後、欧米に派遣された岩倉使節団も総勢百七名でした。総人口約三千万の日本ですらこの程度の規模が限界だったことを考えれば、総人口数万人程度の妖精族がどれだけ優秀で頑張ったとしても、到底、他勢力(連合、連邦、帝国、共和国、財閥、竜族、アキ)との交流に十分に手が回る筈もありません。毎日、数十人を派遣しているだけでも、かなり頑張ってるほうです。

同じことは、他勢力にも言えることで、交流相手が七倍に増えました、だから担当者も七倍に~などとできる筈もなく、それでも、先を制することは、それだけ統一国家内での優勢を確保できることを意味することから手も抜けず……。

十五章では、秋の収穫シーズンを迎え、一旦区切りとなる冬も迫ることから、国家レベルでの「持続性のある交流ペース」も議題として挙げられてくることでしょう。幸い、要のアキはまつりごとの力学なんて気にしない性格であり、代表達の関係も良好なことから、自分達の余力の無さ、民への啓蒙の遅さ、なんてのも正直に話し合えるんじゃないでしょうか。アキも研究組への協力さえ確保できれば、そっちは別に急いでる訳でも、本腰を入れる話でもありませんからね。


何にせよ、やっと十四章も書き終えました。次回からは十五章開始です。


<今後の予定>

12月29日(水) 十五章開始、十四章纏め(人物、技術、勢力のページ順を整理)

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