第十四章の各勢力について
十四章では、二か月という短期間ですが、各勢力で色々と動きがあったので整理してみました。
前回お知らせした通り、執筆が間に合ってない為、掲載順をこれまでと異なり、技術→勢力→人物に変更しています。2021年12月22日(水)朝時点でまだ書いたのが四十人、未着手が四十五人。もう、普段のパートの三~四つ分は書いてるんですが。先は長いです。
各勢力の基本説明は八章の「第八章の各勢力について」をご覧ください。このページでは、十四章での状況を中心に記載してます。
【ミアの財閥】
アキ達の帝都訪問は、財閥にとっても全くの想定外だった。これまではロングヒルを窓口に、少しずつ交流を進めていこう、商売をしていこうと考えていたのだから、この件は正に青天の霹靂だった。マコト文書の神官達からは、帝都行きの話が確定する前から、マコト文書抜粋版(小鬼族言語バージョン)の大量生産依頼が舞い込むなど、財閥が後塵を拝するという事態に陥り、関係者達は苦笑いするしかなかった。ただ、転んでもただでは起きないのが商人というモノ。帝国との交易が広がることを前提に、何を売り買いしていくか、などの検討を始めて、出遅れを挽回しようと画策中だ。……実際のところは、どの勢力よりも財閥が先頭をぶっちぎっているのだが、他者から儲け話が舞い込んできた、というのがまぁ、気に入らないのだろう。しっかり検討を終える頃には、少しは頭も冷えているに違いない。
竜神子達が帰国したこともあって、連邦、帝国との書簡のやり取りも増えてきた。昨年まではまともな交流窓口もなかったことを考えると、格段の進歩だ。これを機に郵便制度の共通化も図ろうと、両勢力にも働きかけている。それから暫くして両勢力は街エルフのことを病的なまでの筆まめさ、と認識するようになる。
アキの心が病んだ件は、黒姫の支援が受けられたからこそなんとかなったが、街エルフの知識だけでは、何が問題だったのか、何か問題が残っていないか、などを見極めることはできなかっただろう。そういった意味で、多種族が互いに知識を持ち寄ることの大切さも噛み締めているところだ。勿論、商人らしく、それらを我が物として、飯のタネにしようと言う訳だが。
【共和国(街エルフの国)】
アキ達が帝国の首都に降り立ったことで、共和国へと降り立った件が特別ではなかったとの理解が広がり、これがちょっとした騒ぎへと繋がって、長老達の手を煩わせることとなった。アキのロングヒルでの活動は共和国と財閥の全面支援によって成り立っており、ミア、リアの妹である、ということは街エルフなので、当然、自分達の同胞、仲間意識があるだろう、とまぁ、そう考えている層は多かったのだ。
ところがアキは、諸勢力を横並びに捉えて、たまたま帝国から届いた報告に感銘を受けて、お礼を言う為にひょいと足を延ばして式典開催をした訳だ。
アキの護衛として魔導人形達も同行したものの、合計八柱の竜が参加し、何十人もの妖精達も帝都に行ったとなれば、その影も薄くも感じられるというモノ。
どの勢力、種族にも忖度しない、だからこそ、竜神の巫女は要として認められている……知識としては知っていても、その意味を街エルフ達は真の意味で理解したのはこの時だった。
長老達は、あくまでもアキは提案するだけで、それを政に反映しているのは自分達なのだと、各勢力の為政者達なのだ、採用するか否か決めているのはアキではない、として、アキの特殊な立場と、自分達が政を仕切っている現実を思い出させる為に腐心することになった。
ヤスケが自分ばかり仕事を押し付けられて、とボヤいていたが、彼もまぁ実のところ、本当は本国も大変なことは理解していて、それでも自分に都合のいい方にスポットを当てて話していた訳だ。アキがこの辺りについて知るのは、次のショートウッド行きまでお預けである。
【探索船団】
「死の大地」の探査を行う為に新設された探査船団だが、これまでの共和国単独で行うのとは異なり、連邦や帝国の帆船とも組むことで、「死の大地」の浄化に向けて、手を取り合っていこう、との機運が高まっている。
勿論、大手を振って、これまで詳細が不明だった両勢力の大型帆船の詳細情報を知るチャンスだからという点が大きい。
ファウスト船長もこの辺りまでなら機密に触れずとも開示して貰えるだろう、というラインを狙って、情報提供の依頼を両勢力に送った。……送ったのだが、その反応は芳しくなく、十四章終了時点ではまだ、返事は貰えていない。
両勢力からの返答は十五章で明らかになるだろう。人は敵を表現する時に自身がイメージする悪を投影して語ってしまうが、その実情が実体と大きく異なることも多い。今回もその例に倣うことになるだろう。
【探索者支援機構】
紫竜の使い魔探しに伴う魔獣玉突き移動事件は、七チーム中、二チームが魔獣達への交渉や、情報収集、場合によっては追い立てなどの作業を継続中だ。そうなると本業の方は残り五チームが担うことになるのだが、アキ達の帝都訪問に伴う軍移動禁止措置のおかげで、樹木の精霊探索は思いのほか、順調に推移することになった。これは各国の軍が居留地付近に留まっているのに対して、樹木の精霊達は街から離れた地にいることが理由だ。おかげで当初予定もほぼ順調にクリアしていけている。
【対樹木の精霊交渉機構】
探索チームが探り当てた樹木の精霊に対して、その後の交渉、交流を担う為の機構作りも少しずつ始まった。探索チームが弧状列島の広い地域を担当して点々と移動していくのに対して、交渉チームは各国に属して、その周囲の樹木の精霊達と交流を深めていく点に違いがある。未知の地域を探索していく訳でもないので、戦闘力はさほど必要とされず、森エルフ達が得意とする森林踏破能力や、生き方の大きく異なる種族への深い理解と粘り強い交渉、誠実さが重視されている。人との交流に長けた個体であればよいのだが、そうでない場合、森エルフの精霊使いに頼るところが大きく、そこがネックとなっている。幸い、連合内の他の種族でも精霊使いは多少はいるので、彼らの参加に期待が集まっているところだ。
【竜神子支援機構】
本編では触れられていないが、アキが治療に専念している間も第二陣、第三陣の選抜は進んでおり、そちらについては、リアがフォローしている。また、本国に戻った第一陣メンバー達も、財閥が構築している情報網を活用することで、それなりに情報交換をしつつ足場固めをしているところだ。アキが心を病んだ時期には、アキと交流のある竜達が神経質に飛び回る様も確認されており、竜神子達も、地の種族の国レベルの視点ではなく、弧状列島全域の視点と、竜族と交流のある者達に起きた出来事にこそ注目すべしとの認識を持つに至った。連邦、帝国側での洗礼の儀についても、開催時期の調整段階にまで入ってきた。それぞれ、全国民を調べ上げる勢いで竜神子候補を選抜しているようである。竜との窓口の数に直結するのだから、三大勢力のいずれも、何とか増やそうとしているが、さてどうなることやら。
各地に戻った竜神子達も、自身が秋に交流を行うことになる天空竜が誰になりそうなのか、アキ経由で候補を聞いて、その情報収集を始めている。どこを縄張りとしているのか、どのあたりを飛んでいるのか、これまでのエピソードを領内から集めるなど、これもまた地道だが重要な作業である。
【ロングヒル王国】
宰相のザッカリーがその地位を降りて、研究組のマネジメントに専念するようになると、すぐに効果は表れて、研究組の活動の透明性確保、先々の予定見通しの明確化、必要な資材、人員などの勢力間競合の事前調整など、多くの恩恵を得られるようになった。その為、三大勢力からも高い評価を得られている状況だ。
アキが心を病んだ頃には頻繁に竜達が降り立っていたものの、それも一時期のこと。帝国での式典開催に向けた準備もひっそりと第二演習場だけで行われていたため、ロングヒル全体としてはやっと例年に近い穏やかな日々に戻った状況だ。
昨年まではいなかった他種族達の大使館などの確保も一通り終わって、今後は規模を抑えて安定させていく方針でもあることから、現在の光景が日常化していくのもそう遠いことではないだろう。
【人類連合】
この時期、連合は帝国が秋に行うとした成人の儀への対応に頭を悩ませていた。何せ、彼我損害比率では帝国に圧されてきている状況であり、ロングヒルのように国民気質がぶっ飛んだ地域ではまだ多少の悪化傾向程度で済んでいるが、連合全域で見ると、楽観視できない状況だったりする。それに派手にやり過ぎれば竜族の介入を招きかねない、と危惧する向きもある。そして、小鬼族滅ぶべし、と復讐に燃える人々の熱量も軽視できない。帝国が国境線への圧力を維持する方針を示していることが、彼らへの抑止ともなっているのは悩ましいところだ。
共和国、財閥、連邦のいずれも戦の拡大は望んでおらず、戦力的な意味では当てにできない。連邦も長年の人手不足の痛手は解消できておらず、帝国と手を組んで攻めてくる流れにはなりそうにないのは幸いだ。
アキ達が帝都を訪問したことは、連合内にも衝撃を与えることとなった。遠い地の出来事と思っていたのが、朝に出発すれば昼には空から降りてくる、というのだから、距離や時間に対する感覚も大きく揺さぶられることとなった。
アキの動きが、連合や共和国寄りではない、という認識が広がり始めたこともある。これまではアキは街エルフであって共和国の民であって、財閥に支えられて活動しているとの認識から、連合や共和国の味方だ、という意識があった。しかし、今回の帝都訪問とその際の発言や振舞いをみると、関係する諸勢力に優劣はなく等しく扱う、という意図が明確であった為だ。
マコト文書の信者もじりじりと増えていっているのも気になるところだ。
【鬼族連邦】
アキ達の電撃的な帝都訪問は、連邦の上層部に少なからぬ衝撃を与えることとなった。ロングヒルに派遣している人員も少なく、多くの人材をロングヒルに集めて、着実に交流を増やしている連合や帝国に比べると、少ない中ではうまくやっている方ではあるのだが、やはり出遅れ感は否めなかった。そこにきて、帝国領の帝都周辺にある主な大都市も含めて、竜達が編隊を組んで飛行し、帝都に降りて式典を開催して、妖精達との交流も大きく盛り上がったなどと連絡がくれば、大きなリードを許すことになったと認めるしかなかった。一応、必要があれば大規模土木工事で手を貸す、とも伝えてはいるが、連邦としてもこの遅れは何とか挽回したいところだ。
ちなみに、鬼族の帆船を「死の大地」の探査に向ける件は、船員達の反応もそう悪くはない状態だ。少なくとも海外に行くよりはマシだろうと。ただ、十五章で明らかになるが、共和国や帝国とも、連邦の帆船は設計思想が異なるので、こちらも同じ船団を組むことは難しいとの結論になるだろう。
【小鬼帝国】
防疫・医療体制見直しを行うモデル都市建設、秋には方針を変えた成人の儀の開催、アキ達の帝都訪問を受けて、その情報を国内全域に展開しての臣民の意識改革など、やることが目白押しだ。そして、追い詰められた時こそ国民性が出やすいとも言うが、小鬼族の場合、諸勢力との大きな差を理解したことが、逆にやる気を掻き立てる結果となったようで、その熱量たるや、共和国の比ではなかった。
小鬼族の帆船は、「死の大地」の探査船団に所属することにはなるが、共和国の帆船との共同作戦は行わず、独自の作戦を担うことになりそうだ。それでも運用ノウハウを含めて、共に未来を勝ち取ろう、と善意を前面に押し出して、貪欲に共和国から学び取っていこうとする流れは変わらないだろう。
竜神子達を帝国でも選定しようという流れは、アキ達の訪問を受けて一気に加速しそうだ。圧倒的強者の側から、わざわざ手を差し出してくれているのに、応える者がいなくては意味がないのだから。
秋の成人の儀まで時間がないが、戦を行うのか、という根本的な部分まで含めて、まだ流動的で先は見えない。帝国の動向には今後も注目が集まるだろう。
【森エルフの国】
浄化杭投下実験や、樹木の精霊探索&交流と、森エルフの精霊使いへのニーズは高まる一方であり、これまで神秘のベールに包まれてきた精霊使い達の在り方にも理解が広まり、やっぱり意味不明だ、と匙を投げられる事態となった。妖精達も根本的に理が違う、と諦めたくらいだから仕方ないことだろう。それでも実績を出しているので、各勢力ともその実力を認めてはいるのだ。
「死の大地」の緑化に向けた帝国との共同事業もそっとスタートしている。人数は多くないが、森エルフ達の活躍は今後も続くだろう。
【ドワーフの国】
多くの機器の製造など、モノ作りあるところ、ドワーフの影ありといったところであり、ロングヒルで行われている目新しい事業には、必ずといっていいほどドワーフ達が招かれて、共同参画している状況だ。ロングヒルの常駐人数はとうに上限を迎えており、財閥の協力も得て、本国側との分業を進めることで、大量のニーズに応えている有様で、好景気に沸いている状況だ。
そんな彼らにとってこの二か月で一番大きな話は、妖精達から発注された大量のパイプで構成された巨大楽器の製造だった。人が手に持って演奏するのと違い、術式で風を操作してパイプに吹き込むことで音を奏でる、という仕組みは、これまでにないモノだった。パイプオルガンならあるが動力式で風を送り込む機構はON/OFF制御しかできず、パイプの作り方や配置も考え方がまるで違っていたのだ。設計から製造まで多くの技術者が集められて、分担して製造、組み立ててみては微調整を繰り返して、と厳しい作業が続いた。ドワーフ達の最高レベルの微細加工を標準ラインとして求められるのだから、その制作は彼らからしても大きな挑戦だった。そして多くの努力が実り、妖精達からも見事な再現、流石ドワーフだ、と賞賛を得るに至った。ロングヒルに居るドワーフ達が集められて特別に演奏会が開かれたほどで、この経験はドワーフ達の音楽文化に大きな影響を与えることとなった。
【妖精の国】
十四章の二か月間は、妖精の国にとって、これまでとは違う意味でお祭り騒ぎとなった。これまでは、こちらの世界の情報に触れて、それを妖精の国に持ち帰って利用することがメインだった。ところがアキ達の帝都訪問では、妖精達がプロデュースして、人々の印象に残る式典としよう、というのだからベクトルが逆だ。
それに、妖精達とて、人はたまに見かける程度でどう暮らしているのか、彼らの街すら見たことがない有様なので、自分達の演出が地の種族に対して、どんな効果があるのか、やらない方がいい演出はあるのか、などなど多くが手探り状態だった。第二演習場で一部の人々に限定して、何度もリハーサルしていたのも、そのあたりの擦り合わせを行う、という意味も大きかった。
妖精の演出を誰に見せるのか、と言った時に、妖精達は話の発端となったアキの名誉市民の件がまず念頭にあったので、こっそりケイティやリア達、マコト文書に詳しい面々に、地球の世界の演出やそのレベルについて確認を行い、その多様さ、文化層の厚みに唖然としたのだった。片や百億の民が惑星規模で五千年培った歴史があるのだから、量も質も半端ないものがあった。
……そこで、地球にはなくて、こちらにはあるもの、妖精らしさとは何か、などなど、国が暫くお休みするレベルで議論を重ねて、その良さを伝えようと奮闘していたのだ。それだけ独自性、良さをアピールできれば、当然、小鬼族へのインパクトも十分ある筈、という訳である。
結果として、自分達が当たり前と思って眺めている美しい星空や、空にある浮島、心に響き、余計な邪魔にならない音楽、といったところに注力することに決めて、それが大絶賛へと繋がったのだった。
【竜族達】
ここ二か月は竜達にとっても、色々と考えさせられるイベントが続いた。これまであれこれと話の中心となってきたアキが心を病んでしまい、単なる怪我や病気ではなく、自身の安定性を失う、という竜族でも殆ど経験のないモノだったからだ。地の種族はこれまでは、沢山いるけれど、近付くと怖がるし、不干渉と決めたから意識しては交流する対象ではなかった。けれど、アキというイレギュラーが生じたことで、竜と交流しても平気な者達もいるとわかり、そして話を聞いてみればなかなかに面白い、料理も旨いとなれば、興味を持つ者も増えるというものだった。
それに、十重二十重と厳重に守られた地にいて、周囲の竜達もそれとなく気を使っているとなれば、不安要素などないと思っていたが、そこに一つ例外があった。直接、心を触れ合わせる技術「心話」だ。アキの事例を元に思い返してみると、確かに親竜達は幼竜達と心話を行う際も、負担にならないよう話題を選ぶし、適切でないと思った記憶への接触はさせないよう配慮していた。それに空間跳躍については、自力で跳べるくらいにならなければ、そもそも世界の外を認識できないので、まさか心話経由で直接、触れて認識してしまうとは想定外だった。
アキと心話を行ってきた竜達も、アキの心を操る技は自分達に勝るとも劣らないと認識していただけに、この件は大いに考えさせられることとなった。以降、竜神子達との交流も想定して、何を話すのか、何は触れないべきか、など竜族の間でも議論が深まっていくことになった。
それとは別に、雲取様や雌竜達の報告にあった「妖精界の夜空や独特の見事な演奏」についての話題も一気に広がり、そちらもまた、大いに盛り上がることになった。竜眼で夜空を観て、一部を切り取ったように幻術で再現しようと挑戦してみて、その雑さを指摘されてボコボコになったりと、暫くは話のネタとなったくらいである。雲取様の予想した通り、そういった困難さも確認されたことで、再現には何年か時間がかかる、と言われて、他の竜達も大人しく待つことにしたのだった。まぁ、竜達にとって数年なんて、大した時間でもないので、ちょっと待つ程度の意識である。
【樹木の精霊達】
紫竜のせいでおきた魔獣玉突き移動事件で混乱中の地域はともかく、他の地域の樹木の精霊達は、どんどん探索チームと接触し、彼らと接触した樹木の精霊同士の情報交換も進むことで、交流チームとの話に耳を傾ける個体も増えてきた。彼らも始めは理解不足だったものの、ある程度話し合うことで、樹木の精霊達と会話ができる者はそう多くなく、樹木の精霊側から人にわかる形で話し掛けるか、或いは相手に精霊使いがいて、話を理解できるか、といったことが必要との認識も広がった。疑問があれば、周囲の他の樹木の精霊に聞けばいいとなれば話も早い。その為、樹木の精霊と探索チームの交流ペースも加速していったのだ。
今は、支援チームにバトンタッチしている地域も増えてきた。ただ、十人十色、十万体いれば十万通りあると言われた樹木の精霊達なだけあって、支援チームの苦労は並大抵のことではないようだ。それでも植物という括りで見れば同じなので、要望はある程度グルーピングできるまでにはなってきた。
はっきりしているのは、彼らとの交流は息の長いものとなるだろうということ。何十年、下手をすれば何百年と続くだけに、支援チームも代替わりを前提とした体制作りをしようと画策しているところである。
【「マコトくん」の信者達】
三大勢力のリーダー達も帰国していき、やっと入れ食い状態の大騒ぎも落ち着いてきた。とはいえ、それは嵐の前の静けさ、一時の静寂に過ぎなかった。次なる大波はアキ達の帝都訪問。それは帝国の臣民層にマコト文書の存在が知れ渡ることとなり、アキの活躍も相まって、その活動の基盤であるマコト文書を読みたい、との要望が殺到することになった。粗悪なコピー品が出回ることは看過できぬと、帝国と入念な交渉を行った結果、マコト文書抜粋版など原本については、翻訳部分には小鬼族メンバーが入ることを条件に、帝国側でのコピーを禁ずることに合意させた。勿論、彼らが欲する量の小鬼族の言葉に翻訳した書籍を提供することが条件だ。
おかげで、神官達から依頼を受けた財閥系の出版社は、帝国でも気軽に手に取って貰えることを念頭に、妥協できる範囲の質で可能な限り安価に、でも見栄えは良く大切にして貰える外装として、などという無茶振りに応えた書籍の大量生産を始めた。それらはできた傍から出荷され、帝都訪問に伴う停戦協定が明ける頃には第一便が到着するという素早い対応だった。更に続便がいつ届くのか、どの程度届くのかといった予定表まで予め配布することで、街エルフお得意の「待てば必ず手に入る、手の届く良品」というイメージ戦略を定着させることにも成功した。おかげで、マコト文書抜粋版(小鬼族言語対応バージョン)の流通に伴う混乱も起きていない。
解釈本など、派生本については神官達に出版前に査読させることで合意している。あまりにも教義から外れた解釈、認識が広がることは避けねばならないからだ。とはいえ、こちらとはあまりに違う、マコト文書に描かれた地球の生活。小鬼族達の視点から捉えた解釈もまた、神官達に新たな刺激を与えることにも繋がるのであった。
それと、神官達の間では、「マコトくん」を降ろす為の集団儀式の準備も着々と進行中だ。「マコトくん」自身からも、時折、参加予定者に神託が降りるなど、その力の入れ様は、前代未聞であった。「マコトくん」を降ろす依代創りのほうはそろそろ終わるので、十五章か十六章あたりで、神降しの儀式が行われることになるだろう。
誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。
こうして各勢力視点で書いてみると、様々な話が並行で進められていて、アキもあちこち関与してるんですが、見ているのは極一部って感じですね。アキからすれば、本来進めたいところがやっと動き出した程度、ミアとの日課となっていた心話も十一か月も途絶えたまま、と辛い部分もあります。
アキが起きていられる時間が短いのは、多分、救いとなっているところも多いことでしょう。
答えのでない心の内に意識を向けずに済んでいるのだから……。
<今後の予定>
12月26日(日) 第十四章の登場人物
12月29日(水) 十五章開始、十四章纏め(人物、技術、勢力のページ順を整理)