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SS③:小鬼達から見た帝都訪問の後日談(前編)

前回のあらすじ:SS②後編では、帝都訪問を、諸王達から見た視点を描きました。地図一つで諸王達の戦争意欲を削いだのは半分くらいは共和国の思惑、竜を合計八柱向かわせたのは竜族の思惑、盛大な演出の為に大人数を動員したのは妖精族の思惑、と同床異夢なところはあるんですが、訪問される側からすれば、フルセットで考えざるを得ず、そんな全体プランを纏め上げたアキへの注目、評価は跳ね上がることになりました。


今回も本編ではなく、小鬼帝国視点で三人称描写となります。読まなくても本編理解には何ら問題はありませんが、読むとより一層楽しめることでしょう。

式典への参加者の厳選は勿論、首都でも徹底した綱紀粛正を行った結果、アキ達の帝都訪問に伴う式典は第一部、第二部のどちらも大成功を収めることができた。


第一部は雲取様や首都上空を飛ぶ雌竜達の姿もあって、極度の緊張を強いられるものではあったが、伝えられる内容は小鬼族の決断を賞賛し、その心情に寄り添うものであり、共に未来を歩もうという強いメッセージ性もあった。その為、精神的な高揚も相まって、一人の脱落者を出すこともなく、式典を乗り切ることができた。


そして第二部では竜達が去ったことで圧も無くなり、妖精達との交流の場である、お祭りである、とはっきり示したことで、堅苦しい雰囲気も無くなり、徐々に気分も高揚していき、翌朝まで馬鹿騒ぎをした挙句、帝都の大通りを妖精達が皆で騒ぎながら飛びつつ、派手に魔術を使って華やかな場を演出するに至った。


……結果として、式典の翌日は夜通し騒いだ反動でいつもよりも落ち着いた様相となった。幸い、式典の前後日は祝日扱いとしていたので、市民層への影響は限定的なものに抑えることはできた。


ただ、それはあくまでも社会活動の流れに注目した場合の認識であり、これまで身近な存在ではなかった天空竜が舞い降り、大勢の魔導人形を連れた街エルフや、御伽噺の住人だった妖精達までやってきたインパクトは強烈なものがあった。事前にユリウス帝が、歴史的な出来事に対して、書き記して残そうと話したことから、多くの人々は形式は様々あれど、今回の出来事を書き記し、身近な者達と言葉を交わしたのだった。


そして、今回の出来事にまつりごとに携わっている人々、軍関係者もまた、地元に向けて今回の件について多くを記して、情報を送り伝えていた。あまりに多くの文が送られることになって、帝国の郵便事業が悲鳴を上げる程となった。





そんな大嵐のような騒ぎも、それぞれが話したいことを話し、伝えたいことを伝え、書き記したいことをしたためたことで、三日後、やっとある程度の落ち着きを取り戻すに至った。


いつもの秘密の会議室に、諸王達が集まったのはそんなタイミングだった。


テーブルに紐付きで置かれた報告書は、今回の式典関連の出来事について、皇帝の諮問機関や様々な省庁が分析した内容が記されていた。内容の正確さよりも、この時期に間に合わせるという早さを優先したものなだけに、影響については推測が多く、前提がまだ決められないことから、いくつもの想定を併記した分野も多かった。


ただ、いずれの報告でも語られている事は、情報があまりにも足りず、関係している勢力が多く、変化に体制が追い付いてない、という悲鳴とも取れる嘆願だった。人員が足りない、情報が足りない、資金が足りない、機材が足りない、兵力が足りない、魔導具が足りない等々、それらを何とかしたい、何とかしなければならない、今のままでは対応できない、と。


諸王達は嘆願される側であり、前回の話し合いを経て、皇帝と同じ視点を持とうと努めるに至った。一方面を統括する王としての視点だけであれば、皇帝に対してあれを寄越せ、支援しろ、他の地域も手を貸せ、と言い出していたに違いない。しかし、そんな狭い視野に囚われている者はこの場にはもういない。自分の治める地域を見つつも、帝国全体を、弧状列島全体を捉える視点も常に忘れない、彼らはそんな為政者へと変わっていた。


式典の第一部、第二部を通じて衝撃を受けたのは彼らとて同じことであり、こんな相手と皇帝やその側近達は対峙してきたのか、と尊敬の念が強まる程だった。そして、第二部で人員を入れ替えてリストの全員が参加するに至り、帝都の大勢の民も、地に降り立った天空竜や自在に空を飛び回る妖精達の姿を見たことで、新しい時代を知る仲間となった。そのことを頼もしくも感じていたのだった。





実は、この招集の少し前に、ユリウス帝が式典に参列した人々を集めて演説をしていた。


「此度の式典に参加した多くの臣民達に余は感謝の言葉を贈ろう。天空竜と対面しても恐怖に心を囚われることなく、整然とした態度を崩すことなく式典を乗り切った姿に、余は誇らしさ、頼もしさを強く感じるに至った。そのような臣民と同じ時代を歩んでいる事は正に天の采配と言えよう」


その言葉を聞いて、会場からはユリウス帝を称える歓喜の歓声が上がった。


「ここ半年の間に、連合の北端、ロングヒルの地で余は、連邦や連合の代表達とも多くの言葉を交わした。遠い空を飛ぶ姿しか知らなかった天空竜の間近に立ち、皆で停戦の誓いも行った。御伽噺の中でしか見聞きしたことのなかった妖精達とも交流し、歴史書の中でしか見たことのなかった街エルフや魔導人形達とも席を並べて、多くの議論を戦わせてきたものだった」


ユリウス帝は、式典でそれらを知った者達が、彼の触れたいことに気付いたのを待ってから、話を続けた。


「しかし、余は不安を感じずにはいられなかった。これまでとあまりに違う出来事、新たな勢力、種族達との交流を、それを知らない者達に正しく伝えることができるだろうか、と。事実、報告書はこれまでにない頻度で各地に送ったが、その反応は求めるソレには遠く及ばなかった」


そこで言葉を区切り、臣民達にも思い当たることがあるだろう、と訳知り顔で眺め、誰もが地元にどう伝えるか苦慮したようで、その苦労はわかる、と頷くのを確認した。


「そして、今回、期せずして、新たな時代の象徴たる竜、妖精、街エルフが並び立つ姿を見ることができた。余が受けた衝撃と、知らぬ者にそれを伝える困難さも、ここにいる皆と共有することができた。皆は新時代に触れ、帝国を未来へと導く旗振り役であり、余と共に歩む仲間なのだ」


ユリウス帝の言葉は、臣民達に強く響いた。この衝撃は独りで抱えていてどうにかなるものではない。何をすればいいのか、どこに向かえばいいのか、それすらわからぬ不安もある。しかし、これだけ多くの仲間がいる、そう皇帝が告げたのだ。命じられたことをこなす手足としてではなく、共に歩む仲間だと。


誰もが心高まるのを感じていた。


「皆も見た通り、天空竜とは生ける天災、我らの力を束ねてどうにかなる、そんな希望を打ち砕く絶対の死だった。竜神の巫女と彼女を取り巻く魔導人形達はまるで宝物庫から着飾って出てきたように頭から爪先まで魔導具で身を固めていた。そして、妖精達は鳥とはまるで違う自由さで空を舞い、呼吸をするように尽きることなく魔術を使い続けていた。彼らが新たな隣人、帝国、連邦、連合に並ぶ新勢力だ」


アレらがこれからは三大勢力に並ぶのだ、と示したことで人々の表情が曇った。人族なら何とかなる、鬼族は強いが数が少ない、だが、竜族は一柱が一軍に相当し、街エルフと魔導人形達もまた鬼族に匹敵する強さを歴史書は語っている、そして妖精族は、小鬼族の魔導師達が子供の児戯に見えるような別次元の力量を示してきた。あまりに差があり過ぎて、どうにかできる、という空元気すら出てこなかった。


だが、そんな反応もまたユリウス帝の想定通りだった。彼は人々に笑いかけた。


「彼我の実力差を肌で感じて、絶望感を拭えない気持ちはわかる。公平に比較すれば、我ら小鬼族が彼らに武力で対抗することは難しいだろう。だが、式典で彼らが語ったことを思い出して欲しい。彼らが何を語っただろうか? 共に手を取り合おう、「死の大地」の浄化を皆で行おう、弧状列島を統一していく仲間となろう、そう語っていたのだ。武力をもって覇を争っていこう、とは言っておらぬ。確かに竜族は強いだけでなくその知性も極めて高い。だが、彼らが武ではなく、知を持って働くなら、我ら小鬼族に比べてどれだけの力を発揮できるだろうか。十人前くらいには匹敵するかもしれない。だが、百人には対抗できないだろう。街エルフや鬼族もそうだが、長命種は頭数が少ない。そして我らには他の種族には真似のできない力、人数の多さと常に全力で取り組み、その成果を次の世代に受け継がせる組織力があるのだ。長命種は百年経っても数は殆ど変わらぬが、我ら小鬼族であれば、その間に五回は世代を経ることになる。延べ人数で考えれば十倍、百倍の力を投じることができるのだ」


人々はユリウス帝の指摘の意味に気付いた。竜は強いがあの手では算盤一つまともには扱えない。あれだけの大きさなら小鬼族なら数百人相当だろうが、数百人分の事務作業は決してできない。現役時代を燃え尽きるように生きて、その成果を次代へと繋いでいけば、長命種が明日もある全力、という制限された状態で継続した結果を凌ぐ可能性は十分にあるのだと。


「我々、小鬼帝国は、三大勢力間の武力バランスを維持しつつ、統一国家を支える仲間として確固たる地位を築ける事を、余は確信している。平和の世で最も多くの果実を得るのは我々、小鬼帝国なのだ!」


ユリウス帝の言葉に、人々は感動し、口々に皇帝を称え、帝国の団結と繁栄を思い描き、臣民達は現実を直視しつつも、未来への大きな希望を得るに至ったのだった。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

SS②帝都訪問の後日談(前編)でした。ちょっと短いですが切りがいいので今回はここまで。

これまではロングヒルを訪問したユリウス帝や幕僚達、或いは常駐している派遣者、研究者達からの報告の手紙という形で、間接的に知るしかなかった帝国の多くの臣民達。そうなると、いくら想像力豊かな者達でも、どうしても危機意識は薄く、話半分で聞いておこう、といったくらいの鈍い反応でした。

しかし、決まった時刻に竜達が編隊を組んで、大都市近傍を低空飛行してその姿を見せつけて、選ばれた式典参加者達の前には、天空竜の雲取様、その傍らには竜神の巫女、周囲には大勢の魔導人形達、それに式場全体を飛び回る多くの妖精達を実際に見ることになり、その圧を経験し、言葉に乗せられた思いが心に響き、翌朝まで妖精達と体験型イベント風に大騒ぎしたとなれば、彼らの意識を変えるのに十分過ぎる衝撃でした。

臣民達もユリウス帝の演説を聞き、実際に誰かに驚天動地の経験を伝えようと苦労し、同じ思いの仲間達がいると意識したことで、これから大いに帝国の歩みを確かなものにしてくれるでしょう。


後編は、偉大な英雄が仲間と認めた諸王達との密会、諸王達が地方に帰る前の最後の意見交換の話になります。


<今後の掲載予定>

12月15日(水) SS③:小鬼達から見た帝都訪問の後日談(後編)

12月19日(日) 第十四章の登場人物

12月22日(水) 第十四章の施設、道具、魔術

12月26日(日) 第十四章の各勢力について

12月29日(水) 15章開始


<おまけ>

活動報告に以下の雑記を書きました。

・日経トレンディで紹介されていた2030年頃までに有望な技術

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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