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SS②:小鬼達から見た帝都訪問(前編)

前回のあらすじ:SS①は春先、今後の方針を示した直後に、ユリウス帝と諸王達が行った密談のお話でした。この頃から諸王達も単なる一地方の代表ではなく、皇帝と共に諸勢力を認識し、帝国全体を見据える視点を持ち始めたことになります。それまでも各自、独自の情報網である程度把握はしてましたが、皇帝と諸王が認識を合わせた、という点が重要だったと言えるでしょう。

アキが世界樹との心話を行った事で、精神のバランスを崩し、縁のある者達と話す事で心を癒すことができる事が見込まれた為に、異例の速さで三大勢力の代表達にもロングヒルへの訪問要請が届いた。


そこから、通常であれば、連合との間で、セキュリティを如何に担保するか話し合われる事になるのだが、今回はそのような時間も惜しいと、近隣に住む竜達が物申す事態となった。


代表達のロングヒル行きは、我らの望みでもある、と。


三大勢力が最優先でロングヒル迄の地域に使者を送り、各勢力代表の移動を阻害せぬよう厳命し、対処は十分であることを竜達に示したことで、何とか竜達の過干渉を防いだ。対応が遅れれば、代表達の移動をエスコートしようなどと言いかねない雰囲気だっただけに、各勢力とも迅速な対応を行った。


そんな話もあって、異例の速さで、帝国の皇帝ユリウス、連邦の鬼王レイゼン、連合の大統領ニコラスはロングヒルの地に集う事ができたのだった。


心を癒すと言っても特別に何かを求められる訳ではないので、時間帯を調整しつつ対話を行っただけだが、アキの不安定な様子が、話をしていき、これ迄の思い出話をしていくだけで、目に見えるペースで回復していく様は、安心するのと同時に不安も強める事になった。


代表達が到着したのは最後の方であり、身近な者達から順に話を重ねていき、だいぶマシになったとの事だったが、代表達が会った時点でも、春先に別れを告げた時とは明らかに違いは大きく、一目で危ういと感じた程だった。


だからこそ、代表達は自分の番が終わっても直ぐに帰国はせず、全員が話を終えるまで待ち、アキの様子がまともになったか見極めたのだった。


幸い、アキがこちらで出会った主な面々との会話を終えると、多少、情緒不安定なところはあるものの、普通に生活を送れるまでに回復し、念の為、今回の症状に詳しい黒姫様がアキを診察する事も決まった事から、代表達は帰国を決めたのだった。





この一件は、集った勢力が要であるアキを通じて繋がっており、要が無ければ簡単に瓦解するであろう事を理解させた。


確かに共同研究チームや各勢力関係者を通じた交流が行われているが、アキと言う要が無くとも、それが続く程に強固かと言われれば、そうでは無かった。


元々、呉越同舟な所があり、竜族や妖精族は好き勝手に動きがちで、そんな彼らを上手く抑えて、和やかに振る舞わせているのがアキだった。問題があると思えば、天空竜相手でも、しっかり意見を言い、そして彼らが素直に頷ける落とし所を示して、不満なく納得させる様は、他の種族から見ると、まるで手品のようだった。


その辺りは、竜族の思念波や魔力に触れて感じられる雰囲気等から、アキが心情を的確に把握してるからこそ、行えている対応だったが、それらは他人からは見えるモノではないので、心強くもあり、何とも不思議なモノでもあった。


だからこそ、肝心のアキが心配事の中心となって、心配で神経質に振る舞う竜達の様子は、代表達に危機感を強く抱かせた。アキと同じように竜達と交流できるとされる姉のリアはいるが、本人も認めているように、アキの代わりが務まるとは言い難かった。


親愛の気持ちよりも恐れが先に出てしまい、竜達と話をしていても、常に自身が揺るがぬよう奮い立たせている有様だと、リアは語ったが、それを非難する者はいる筈もなかった。多かれ少なかれ、竜と対峙する者が等しく感じるモノなのだから。


それに本人はそう言うが、表面上だけでも平然と話ができるだけでも十分と言えた。リアなら、何でもできる街エルフの成人でもあり、マコト文書にも精通してきて、竜の話にもある程度は対応できているのだ。これが普通の竜神子達では、そうはいかない。竜を相手にしても話を続けられるだけで、それほど多様なスキルを持ってる筈もない。


かくして、代表達は今後を見据えて、竜神の巫女の後継者か、それに代わる仕組みを用意していく事で合意するに至った。何をどうすればいいかはまるでわからないが、代わりがいないのは不味いとの見解は一致したからだ。


ちなみに、育てて何とかなりそうな候補だけでもいないかとの問いにも、ロングヒルに集ったどの勢力も、条件付きですら候補がいるとは答えられなかった。竜神子達が経験を積んでいけば、有望な者が出てくるかもしれない、という意見が一番マシで、それとて、今はお手上げと言うに等しかった。





そんな騒ぎも冷めやらぬ中、ロングヒルから届いた一報が帝国を揺るがす事になった。呪いについて深く知る為に、帝国にある呪われた地を提供する旨の意見表明と、呪われた地のリストを関係国に渡したのだが、それに対して、アキが甚く感動し、感謝と哀悼の意を皆で示そう、その思いを帝国に直接届けよう、と言い出したからだ。


報告には、ロングヒルに駐留している各勢力の関係者が集い、アキの提案に対して意見交換を行ったとあり、王女エリーが旗振り役となって、勢力間の意見調整を行った結果と、アキが語ったと言う、帝都訪問が齎す影響に関する語録と、ガイウスの見解、それとアキ自身の手紙まで添えられていた。


皇帝の私室に集う三人。家族団欒の様子とも言えるが、三頭政治を担うユリウス帝と先帝、先皇后が同じテーブルを囲み、報告書を読んで意見交換を行っていた。


「信頼されているわね」


先皇后は家族だけがいる時にしか見せない、揶揄うような目を見せた。彼女の言う信頼とは、事態を大きく動かしても、ユリウスならば、それを良い方向に上手く活用すると確信している、という意味でのソレだ。


「報告書にある梅案。伝手に声を掛けるだけで、単身、帝都訪問に手を届かせるとは。頭の痛い話です」


ユリウスも、困った顔を隠そうとはしなかった。手に負えないとは言わない。しかし、余裕を持って対応できるなどとは言い難い話だ。信頼されているのは嬉しいが、次に会った時には釘を刺しておこうと思うくらいには、疲れる話だった。


「だが、竜神達の代表が来るのであれば、受ける以外は無し。面白い時代となったではないか」


先皇もまた、帝位を譲って良かったなどと笑った。もうすっかり髪も真っ白で杖も手放せないなどと言ってるが、実はまだ足腰はしっかりしていて、杖無しでも普通に歩けたりする。既に帝位を譲った身というイメージをわかりやすく示すためのポーズだったりする。


「お二人には万一に備えて、離宮に控えていただく。式典には私と主だった王達を臨席させれば、この件を十分、活かせましょう」


ユリウスは、もしもの時は頼む、と言外に頼んだ。


「老い先短い我が身だ。天空竜とお会いできる機会を楽しみたかったが皇帝の命とあらば仕方なかろう」


「いずれ、話してみたいわ。面白い娘だもの」


などと、二人はユリウスの意見に異は唱えなかった。三頭体制と言われてはいるが、あくまでも先帝夫妻は決定権は皇帝ユリウスが持つものとして、補佐役に回っているのだった。





訪問を歓迎する旨を返答し、細かい話は事務次官級に詰めさせるとした。そして、連合以外が賛同する竹案までは確実であることから、日程も決めてしまい、帝国各地から式典に参列するよう、王達を集める事としたのだった。


停戦協定を締結してから動くのでは、期間に余裕が持てず、集めた王達が影響を考察し、意見交換する場を事前に設けるのが難しい、と判断したからであった。勿論、竜の全ての部族が絡む話となれば、それにケチをつける事は、竜族の面子を潰す事になる為、連邦、連合の何れも迂闊な真似はしないだろうとの読みもあった。


そして、王達が集う頃には、アキと担当者、それに妖精達が決めた訪問から式典に至る一連の計画書も、帝国へと届けられたのだった。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

さて、SS②ということで、帝都訪問の前日譚になります。今回はキリがいいのでちょっと短めです。

帝国のこれまでの通例であれば、諸王達が帝都に集うのは数年に一度、毎年のように会うようになったのはユリウス帝に代替わりしてからだったりします。彼の代になってから変化が早いので、地方に籠ってると情報に疎くなってしまう問題があるので、そうなりました。

で、春先に諸勢力は増えたが要もいるし、暫くはこの体制が続くぞ、なんて話をしていた矢先に、いきなりアキが心を病んで、代表達がロングヒルに駆けつける事態となり、近隣の竜達が神経質に飛び回り、そんな時からさほど間を置かずに、雲取様&アキ&翁が帝都に訪問してお礼を言うから、などと話をぶっこまれれば、まぁ、諸王達とて急ぎ足で帝都に再集結したことでしょう。

後編は、アキの帝都訪問を帝国の観点から捉えたお話になります。平面世界が基本だったところに、いきなりヘリボーン作戦相当ですから、そりゃーもう大変です。まぁ彼らが驚いたのは軍事的観点は半分くらいで、残り半分はアキの影響力そのものだったりします。


<今後の掲載予定>

12月08日(水) SS②:小鬼達から見た帝都訪問(後編)

12月12日(日) SS③:小鬼達から見た帝都訪問の後日談(前編)

12月15日(水) SS③:小鬼達から見た帝都訪問の後日談(後編)

12月19日(日) 第十四章の登場人物

12月22日(水) 第十四章の施設、道具、魔術

12月26日(日) 第十四章の各勢力について

12月29日(水) 15章開始

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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