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1-4.状況把握②

誤字を修正しました。(2018/04/16)

「改めて、姉の我儘に付き合ってくれて感謝してる。私は君のことを姉から良く聞いて知っているけど、君はどう?」


 席に座ったリアさんは、砕けた表情でそう切り出した。


「鬼ごっこが得意な妹だって聞いてました。自慢の妹だと」


 小さい頃、ミア姉さんからは、ことあるごとに、妹の可愛らしさを教えられたものだった。姉の贔屓目ということはあったとは思うけど、様々なエピソードを聞いている限りでは、かなりの努力家らしい。


「鬼ごっこ!? それはまた随分と昔の話だね。まったく姉さんたら何を話してるんだか」


 そういいつつ、頬が緩んでるあたり、かなり嬉しそう。お互い、たっぷり十年近く、ミア姉さん経由とはいえ、多くのエピソードを聞いているせいか、初対面な気がしない。


「リアさんから、僕がこちらに喚ばれた理由や、僕でなくてはならなかった理由を教えて貰えるとのことでしたが」


「そう。マコトくんは知っておくべきことだね。まぁ簡単に言うと、喚んだ理由は、八方塞がりな状況下で、元手をかけずに、状況を打破しうる技術の基礎研究に役立ちそうだから。マコトくんでなくてはならない理由は、その技術に必要な魔力の属性を、たまたま、君が備えていたから、だね」


 かなり、ざっくりと告げられた気がする。それに随分と省略された気がする。


「リア様、それではあまりに説明が不足しています。私のほうから説明してもよろしいでしょうか?」


「任せる。話の進行役はよろしく。適当にフォローするから」


 さっさと横に席を動かして、僕の隣に移ってくるあたり、イメージしていたリアさん通りの行動だ。

 本筋から外れて話が脱線しがちなこともあってか、こうすることが多いと聞いた覚えがある。

 ちょっとケイティさんがジト目になった。


「教員免許はお持ちだったのでは?」


「初等学校向けの限定資格しか取ってないんだ」


 子供からは大人気だけど、カリキュラム通りのペースで教育を進めていくのが苦手な教師って感じかな。

  

 ケイティさんは、ホワイトボードを持ってきて、さっそく書き始めた。

 結構、本格的な話のようだ。腰を据えて聞かないと。

 自然に読めているけど、書かれている文字は日本語じゃない。


「ああ、文字ですね。問題なく読めるでしょうか?」


「はい。全然見覚えのない文字なんですが、意味も普通にわかります」


 うーん、不思議だ。


「魂の定着術式の効果で、身体記憶の比率が高い技能ほど使いやすくなります。例えば会話は見て、聞いて、話してと多くの身体能力を使うため、身体記憶の割合が多く、このように問題なく会話を行えます」


「読み書きも、手で書いて覚えるから、やはり身体記憶の割合が高いと?」


「その通りです。逆に身体の動きを伴わない学術的な記憶や知識はどうでしょう? 先ほど私が使った灯火の術式ですが、あれの位階はいくつかわかりますか?」


「えっと、そもそも魔術が何かわからないし、位階と言われても何のことやら」


「そうですね。あちらの生活では魔術はないと伺っているので、わからないのも当然です」


「なるほど」


 いきなり意思疎通困難な状況からスタートだったら、会話ができるようになるだけで半年、一年とかかるだろうから助かった。


「では話を戻します。まず、初めに断っておきますが、これから話す内容は、リア様達、街エルフの方々の考えであって、一般的とは言い難いものですがご了承ください」


「ケイティさんは街エルフじゃないんですか?」


 背丈は違うが、どちらも人と違う長い耳をしてるし、同じ種族だと思ってた。


「それは、同じ柑橘系だからと言って、蜜柑と檸檬(レモン)を一緒にするような乱暴な話ですよ。といってもマコトさんはまだ、私達しか見ていませんし、仕方ないかもしれませんね」


「マコトは、エルフって奴らは人よりちょい細くて美形で魔力があって、精霊と仲良しとか思ってる口だろ?」


「日本ではそういう小説とかアニメとか漫画が多かったので。違うんですか?」


「かなり違う。自然を愛し、精霊を友とするというのは間違ってないが、彼ら、森エルフは生粋のレンジャーだ。森に溶け込み、気配を消して獲物に忍び寄って、急所を一発で撃ち抜く猟兵って奴さ。サバイバル技術に長けていて、トラップ作りもお手の物、彼らの管理する森に侵入することは死を意味するんだ。彼らの領域さえ侵さなければ、まぁ、いい奴らだよ」


 こちらの森エルフの皆さんは、どうも特殊部隊にそのまま採用されそうな精鋭っぷりだ。顔を迷彩色で塗ってたりするのかなぁ。たしかにイメージがだいぶ違うことは理解した。先入観を持ってはいけない。要注意だ。


「私達は、他の種族から、街エルフと呼ばれている。自分達の街を作って引き篭もって出てこない、国は魔導人形だらけで、住人の姿を見かけることすら稀だとか言われているが、概ね、その通り。森エルフと区別するためにつけられた呼称だが、私達は結構悪くないと思っているんだ」


 確かに、リアさんを見ても、自然を愛するとか、精霊と友達といった雰囲気は感じられない。

 機械いじりとか、薬品調合とか、どちらかと言えばインドア系だろう。


「人やドワーフも街はもちろん作りますが、街エルフの皆さんほど極端ではないでしょう。ちょっと話が横に逸れましたね。街エルフの方々の考え方について簡単に説明します」


 ケイティさんがホワイトボードに簡単に絵を描いていく。


「街エルフの方々は、人口の数十倍にも及ぶ魔導人形を活用して、国を作って引き篭もってます。国外に出ることは稀で、出るのは外交官や商人くらいなものでしょうか。長命種であり、建国以来、老衰で死んだ者はいない、なんて言われたりもしてますね」


「ということは、国の危機って、どこか外国と戦争をしているとか?」


「いえ、隣接している国はいずれも同じ陣営に所属しているので、国境は静かなものです」


「空を我が物顔で飛び回る天空竜達は怖いし、雲霞の如く押し寄せてくる小鬼共の浸透戦術は悪夢だ。単騎で戦線をこじ開けてくる大鬼の化け物っぷりも随分苦しんだ。それでも人類連合は、我々は決して諦めることなく抗い、僅かだが平和な時を勝ち取った」


 身振り手振りを交えて、リアさんがなんとも物騒な話をしてくれる。平和は殴って奪い取る物らしい。


「我々も昔は随分とやんちゃをしたものだったが、おかげで天空竜達とも相互不干渉の約定を取り付けたんだ」


「やんちゃ?」


「西のほうに、死の島と呼ばれる荒れ果てた土地がある。街エルフが忘れてはいけない歴史の一つだ。いずれ教えて貰うといい」


「歴史、随分長そうですね」


 暗記科目は大嫌いだ。もっとも単に事実の羅列をしていると捉えるから面白くないだけで、当時の人の視点に立って考えてみると、面白いのも確かだったりする。ミア姉さんには随分と鍛えられたものだ。


「忘れてると、本当に街エルフかと疑問を持たれるから、3つは覚えておくといい。①死の島、②銃弾の雨、③魔術革命、これだけ覚えておけば問題ない。年表は必要な時に眺めれば十分だ」


 あぁ、なんて物騒な。必須項目三つのうち二つは随分、血生臭い。ミア姉さんと話していた限りでは、もっと、こう『毎日が日曜日!』って感じに、日常を繰り返す人達って印象を持っていたんだけど。まぁ、日本人が昔は首狩り族だったのと同じようなものかもしれない。


「リア様、話が横道に逸れてます。そのあたりは日を改めてお話しますね」


「ぜひ、お願いします」


 歴史とは先人たちの生きた証。ミア姉さん達、街エルフは引き篭もりのインドア派って気がしてたけど、どう歩めばそうなるのか。これはぜひ、聞いておこう。


「そんな訳で、それなりに自分達の強さにも自信があった訳だったが、それが砂上の楼閣だったと思い知らされた。今の私達では太刀打ちできない危機、それが迫っていた、と。まぁそういう訳さ」


 へなへなと崩れ落ちる仕草までして、リアさんはショックだった、と教えてくれた。

 聞いている限り、かなりの困難にもへこたれない、辛抱強い種族って感じがするだけに、彼らをして太刀打ちできない、という危機が聞きたくなってきた。


 魔王が誕生する、とか邪神が目覚める、とか? なんだろう?


 あれこれ考える僕を見て、満足そうに頷いたリアさんは、少しだけ勿体つけた後、答えを教えてくれた。


「私達が恐れる危機、それは――」


「それは?」


「未曽有の危機、巨大災害(メガディザスター)だ」


 リアさんが告げた単語には聞き覚えがあった。TV番組で何回か特集を組んで、これまでにない規模の災害について紹介していた奴だ。


「台風とか地震のような?」


「山の形を変えるほどの巨大噴火、街を押し流す大津波、全てを焼き尽くす火災旋風、多くの国を瓦礫の山に変える巨大地震、風と水の荒れ狂う巨大台風、それに竜巻も。空から落ちてくる巨大隕石の話は極めつけだった。裏付け調査をしてみて、こちらでも起こることがわかって、それはもう大変な騒ぎになった」


 ケイティさんがぺたぺたとホワイトボードに、雑誌の記事の切り抜きっぽいメモを貼っていく。『首都壊滅、その時あなたはどうする』とか、『あなたの家、そのままでも大丈夫ですか』とか。ミア姉さんに頼まれて一生懸命覚えて、記憶を頼りに書いた奴だ。なんとも申し訳ない気分になってくる。


「あの、その話ってもしかして――」


 もしかしなくてもきっと、情報源は僕だ。


「有益な情報提供に感謝するよ」


 あぁ、やっぱり。


「知らないほうが良かった、なんて輩もいたが、結局、皆、腹を括った。いつかはわからないが、必ず自分達が被害に遭うんだ。無理のない範囲で考えうるかぎりの対策を取ろうと、まぁそういう話になったのさ」


「人ならば、生きてる間に被災することはないだろう、と楽観視もできますが、街エルフの皆さんは長命であるために被災は避けられず、狭い地域に住んでいるために、巨大災害で全滅する可能性が常にあると。そう考えたようです」


「それで、巨大災害対策だとして、僕が喚ばれた理由にどう繋がるんでしょうか?」


 あなたは勇者様なのです、その無敵のパワーで民草をお守りください、って感じではなさそうだ。

次話は4月4日に掲載します。

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