SS①:ユリウス帝と王達の密談(後編)
前回のあらすじ:この春、ユリウス帝は、幼少期に亡くなりやすいという小鬼族の宿命を変えようと、防疫・医療体制を充実させたモデル都市を建設し、実際にそこで生まれた子供を成人するまで育てることで、成果と問題点を明らかにしていき、最終的には帝国全土で同レベルの体制を構築していくことを宣言した。また、沢山生んで沢山死んで、成人の儀=限定戦争で選別する、という仕組みも縮小していくことを決めた。その裏で、各地を治める諸王達が秘密の会議室に呼ばれた。そこで見せられたのは皇帝など一部の者達しか知らない現状を分析した報告書。そしてユリウス帝は告げた。「其方らは今、この瞬間から秘密を共有する仲間だ」と。
今回も本編ではなく、小鬼帝国視点で三人称描写となります。読まなくても本編理解には何ら問題はありませんが、読むとより一層楽しめることでしょう。
「では、先ずは視点の切り替えだ。次代の皇帝となる者、或いはその者に皇帝の在り方を伝える者は皇帝と同じ視点を持たねばならぬ。皇帝もまた、一つの地方を治める視点は持つが、帝国全域を、帝国を取り巻く他の勢力を見据えねば舵取りはできん」
そう話すと、ユリウスは手元にあったカードを取り出し、話しながら貼り出し始めた。
「昨年の夏までは、諸王は眼前にいる連合だけを注視していれば良かった。それが政の全てだった。皇帝も同じだ。連邦は未だ人員不足を解消できず内に篭もり、連合は戦の時には近隣国と連携はするが、その動きは地方に留まるレベルだった。連合の情報、物流を担う財閥や共和国は裏方に徹し、我らとの接点は僅かだった」
貼られたカードには勢力名が書かれており、それまでは連合と帝国とそれ以外といった程度と書き記した。
そして、触れられていない残りのカードは四枚。
「だが、皆も知る通り、帝国を取り巻く状況は一変した。この冬に帝国、連邦、連合は竜族に対して停戦の誓いを行った。つまり竜族が我々、地の種族と関わり始めた事を意味する。そして財閥が連合の中小国から人材を掻き集め、その人事権を得る事で連合の大統領ニコラスはその影響力を大きく高めた。連合は最早、所属国がバラバラに動く烏合の勢ではなく、我が帝国と同様、一つの纏まった勢力と化したと評価せねばなるまい」
ここで助手が丁寧な手付きでテーブル上に世界儀を置いた。弧状列島の位置はここだ、と自ら説明し、王達に暫く眺めさせると話を再開した。
「そして、その世界儀を造った共和国がこれ迄の引き籠り主義を改め、三大勢力が手を取り合い、弧状列島の統一に向けて動くよう全面的に支援を始めた。そこに描かれている地形や国々は、共和国の船団が探査し、交易を行っている地との事だ。この件は鬼王にも直接伺い、連邦が認識している範囲に付いては地図は正しく、それ以外の多くの地域も、現地で見聞きした情報に沿うそうだ」
ユリウスはわざわざ、弧状列島が小さいのではなく、世界がこれ程までに広いと認識せよ、と話すほど、王達の受けた衝撃は大きいものがあった。共和国や連邦が海外へ探索船を派遣し、探索と交易を行っているとは見聞きしていたが、これほどまでに詳細な地図を目にしたのは初めてだったからだ。そもそも、弧状列島とて、帝国の支配地域とその沿岸は把握しているが、連合や連邦はそれほどでもない。しかし、世界儀には小さいながらも、共和国の島も含めて描かれており、帝国の描かれ方を見ると、全体もまた同レベルの異常な精度で描かれていることが推測できた。
「それから妖精族。彼らは召喚されてこちらにやってくる妖精界の住人で、一度にやってこれるのは数十人程度だが、実際は数万人を擁する大国らしい。妖精族は自らを竜族に並ぶ存在と認識しており、それを雲取様も認めていた。これまでに無い新たな大勢力の参加だ」
鬼族との試技では、鬼族ですら躱せぬ速度で魔術を放っていた、とも話し、妖精族は空を飛び、竜族のように摩術を瞬間発動する魔導師級の連中だ、と駄目押しした。支配地域は帝都周辺地域全域にも匹敵し、国民全員がそんな者達となれば、大国と評するのが適当だろう、と補足されると、諸王達もやっと納得できた。頭数だけならせいぜい中規模の国といった程度に過ぎないのだから。
「陛下も彼らの技をご覧になったのでしたか」
「余も目の前で見せられたぞ。集束も圧縮も無しに、魔術を放つ様は見事と言う他無かった。アレはそう言う生き物だ。竜族が認めるだけの事はある。文化レベルもかなり高く、我々と同様、魔導具も扱う。我らに並ぶか格上として交流せねばならん」
鬼族、街エルフもそう対応していたと話すと、王達は驚きの声をあげた。
「そもそも召喚自体が伝説の域と聞き及んでおりましたが」
「ロングヒルにいる各勢力合同の研究チームは、妖精だけでなく、竜の召喚や、竜を小さな体躯で召喚する真似まで成している。それに伝説的な存在と言う意味では、新たな勢力として神々も外せない。連樹の神、世界樹、それに「マコトくん」。過去の常識など捨てるしかない」
ユリウスが笑ったが、すぐに表情を改めた。
「竜族もまた、新しい勢力と見做さなければならなくなった。地の種族に対しては不干渉の立場を示してはいるが、軽く訪問する程度なら干渉とは考えないようだ。匙加減を決めるのは彼らである以上、警戒せざるを得まい」
そこまで話して、ユリウスは最後の一枚をトントンと叩いた。
「そして、これら全てよりもある意味、厄介なのが竜神の巫女、アキだ。皆も読んだと思うが、今までに挙げた勢力を、ここ半年で全て巻き込んで、自身の示す道筋へと協力させた街エルフの子供であり、全勢力から、皆の代表、要としての役目を認められている。共和国が後押ししたから、財閥が支えているからでは無いぞ。余も直接の交流が無ければ、そんな者が存在する筈がないと断じた事だろう」
そこで、群砦王が疑問を投げた。
「陛下、為した事はひとまず認めるとしても、その一人の少女が、他のカードに並ぶ勢力なのですか?」
ほぉ、とユリウスは感嘆の声をあげた。
「良い視点だ。確かに如何に優れた人物であれ、個が帝国や連邦、まして竜族に並ぶとは思えまい。実際、アキに権威はあれど、直接的な意味での権力はない。だが、その影響力は絶大だ。どの種族も平等に認識し、偏らずに接する事ができるだけでも稀有な特質だが、マコト文書の専門家として、各勢力の代表達を引き込む魅惑的な提案を行う力がある。弧状列島全域を見据えた未来像を、説得力のある形で示してくるのだ。本人が直接、力を持たずとも、提案して他の勢力の協力を得られるのなら、それはアキ自身の力と同じ事だ」
「マコト文書……百億の民が五千年かけて積み上げた叡智でしたか」
「そうだ。多くの成功と失敗の実例を参考に、こちらに合わせた提案に仕上げる頭もある。単なる机上の空論、理想論では無い。それだけの重みがあると、余も他の代表達も認めている。それにアキには活動を支える専門のスタッフ達が百人規模で仕えている。抱えている専門家達の規模や能力を考慮すれば、それだけでも三大勢力に匹敵すると認めるしかない」
マコト文書が伝えるのは民草の生活から惑星全域にまで及ぶ膨大な知と歴史の結晶だ。そもそもそれを理解できるだけの人材自体が稀で、全てに目を通してきたアキの家族達でも理解に苦しむハードルの高さがある。それらを超えても、マコト文書の情報をこちらに合わせてカスタマイズできる力量も無くては、伝える事すらできない。そして、アキの活動を支える専門家集団はそれを可能とする逸材ばかりなのだ。
マコト文書の知識を広く取り入れてきた共和国と言う受け皿があるからこそ、高度な専門家達を揃える事ができた訳だが、それを指摘できる者はこの場にはいなかった。
「目の前の連合だけを見ていれば良かった時代は終わり、これだけの勢力がそれぞれの思惑で動き、どれも軽視できない時代が始まった。そう心得よ。皇帝はこれらを見据えて政をせねばならず、王達もまた同じ視点を持ち、狭い地方に固執せず大局を捉えねばならん。皇帝の目が行き届かぬ時には、諫言するのもまた王達の努めだ」
ユリウスは皆に期待している、と笑いかけた。
王達はそれに対して静かに頷いたものの、その重みに胃の腑が沈むのを感じずにはおれなかった。彼らとて野心がない訳ではない。でなければ地方とはいえ、それを束ねる王の地位に登り詰めることなどできる筈も無い。
多くの中小国を束ねて、連合に対抗してきた自負もある。銃弾の雨の時代に大きく押し込まれて、種族存亡の危機に遭った苦難を乗り越えた誇りもある。
だが、だからこそ、扱う規模の違いも理解できてしまった。これまでが千人規模の企業なら、求められるのは万人規模の大企業としての視点だ。どこかの下請けではなく、隙間産業でもなく、肩を並べる大企業との争いを勝ち抜き、新たな道を切り開いて行かなくてはならない。しかも、新たな勢力はどれもこれも難敵揃いだ。
貼られたカードは「小鬼帝国」「鬼族連邦」「人類連合」「財閥」「共和国」「妖精族」「神々」「竜族」「竜神の巫女」。
彼らは、ユリウス帝が、秘密を共有する仲間だ、と告げた意味を理解し、軽口を叩く事すらできなかった。
◇
「皇帝の代替わりがどのような流れとなろうとも、帝国に比肩するこれらの勢力への理解を支える専門家達や蓄積した情報は損なわぬよう、注意せねばならん。我ら小鬼族の強みであり弱みともなるのが、知の引継ぎだ。うまく引き継げば、新たな活力を得てさらなる飛躍を齎すが、引継ぎを誤れば、その歩みは止まり、他勢力にも後れを取る。今、見せている資料もそうだが、余の治世でのこれまでとこれからの事の多くを書として書き遺すつもりだ。それらは次代皇帝の支えともなろう」
だから、皇帝を挿げ替えるにせよ、無血で短期間に行うのが最上だ、我らが混乱している間も他の勢力は待ってはくれんぞ、とユリウスが告げると、鋭河王が口を開いた。
「それが、②時間感覚の切替えと知の引継ぎへと繫がるのですな」
「そうだ。我らは小鬼族の生を短いとは思わないが、他の種族から見ると、燃え尽きるような生き方らしい。激しく短く、そして次代へと受け継ぐ事で、他の種族にも負けぬ速さを手にした。長い寿命を費やして研鑽を極めた技には敵わずとも、我らは手数と常に全力で走る勢いと、それまでを踏み台に次代が突き進む事で対抗してきた。それが我々、小鬼族だ」
それには王達も深く頷いた。
「だが、代替わりの早さは、多くを時の彼方に溢れ落としていく事も意味する。我々にとって二百年の年月は、歴史書を紐解かねば解らぬ遠い過去だ」
これにも異論はない。
「だが、他勢力は寿命が我らに近い人族でも我らの倍は生きる。我らからすれば祖父母の代は知らぬ事ばかりだが、彼らからすれば同じ期間は親の代であり見聞きした事も多い。そして鬼族や街エルフとなれば、二百年は子が成人を迎える程度の年月に過ぎない。我らには遠い過去でも、彼らからすれば、それは自らが経験してきた身近な話なのだ」
そこまで語ると、ユリウスの語る意味に皆が気付いた。西海王が口を開いた。
「先程挙げた勢力は何れも我らから見れば長命種であり、帝国の代表として赴く者は、彼らの時間感覚を理解し、過去を軽んじてはならぬ。そう思われると」
「そうだ。卿らとて、年寄りは頭が固いとか、近頃の若い者はなっとらん、などと思った事はあろう。そんな時、離れた世代に歩み寄り、理解を見せる姿勢を持てば、好感も与えられる。残念ながら、我らは先程の勢力の中では永遠の若輩だ。ならば、年輩には気を使わねばならん」
「この年で若いなどと言われると不思議な気持ちですな」
西砦王はこの中ではユリウスに次ぐ年代だが、それでも二十代であり、小鬼族の中ではもう壮年期だ。
「我らは老練さでは勝てまい。だが、新たな世への対応ならば、どの種族よりも早く成し遂げる強みがある。それが③新たな戦い方、に繋がるのだ」
◇
ユリウスはホワイトボードを回転させて、裏側に書かれた年表を皆に見せた。それは過去ではなく、ここから先、二百年程の予定を示していた。
「現時点で見えている規模の大きな計画は大別すれば、①次元門構築、②「死の大地」浄化、③竜族への文化導入、④弧状列島統一国家樹立となる」
諸王達は、事前に報告書にも目を通しており、それらの内容も理解したつもりでいたが、どれもが単独勢力では成し遂げられぬ難事であり、歴史に長く刻まれる事になる偉業となること、そして、そのどれもがユリウス帝の治世では終わらず、何世代にも渡る息の長い話であると実感し、深い溜息をつくしかなかった。
ユリウス帝がこの春から始めることを宣言した、防疫・医療体制を拡充したモデル都市の運用と、その結果を踏まえての小鬼族の死生観、文化の見直しは、大計画の中に含まれる一部に過ぎないというのだから、そのスケール感の差が実感できるだろう。
「どれもこれも夢物語としか思えませぬが、何れも実現に向けて、多くの動きが始まっている、と記されていましたな」
群砦王は、あまりの現実感の無さに目眩がする思いだった。どれもが話を聞けば、子供の夢想と笑い飛ばす戯言としか思えなかった。そんな事より、今年秋の成人の儀における侵攻作戦を練りたい、そんな思いすらある。だが、それは目の前の敵を倒せばいいという一兵卒の如き意識だった。
連合の二大国相手の戦すら、帝国が取り組む難事と比較すれば、単なる一地方の局地戦に過ぎず、大局的に見れば戦術レベルの話なのだと理解せざるを得なかった。
鋭河王がそこで、新たな視点を放り込む。
「ただ、これらのうち、最も優先すべきは①次元門構築であり、他は余録とも聞き及んでおります。相違ありませぬか?」
彼の言葉に、ユリウスは喜び、目を細めた。
「良き耳をもっているな。信じられぬかもしれぬが、その認識で合っている。帝国を含めた全勢力がそれに同意し、竜神の巫女と財閥はそれこそが目的であって、他は助力を得る為の先行投資、好意の先払いに過ぎん」
その言に、諸王達は衝撃を受けた。四つの大計画のうち、最も現実味が薄く、利が薄いと感じたからだ。
「報告書では、まだ理論すら見通しが立たないとありましたが」
西砦王が、正に雲を掴むような話だ、という思いを隠さず問うた。
「その通りだ。そして、だからこそ、帝国は存在価値を示せているとも言えるのだ。ガイウス達、理論魔法学の専門家達を送り出して、他勢力の精鋭達と共同研究をさせているが、彼らは共に研究するに足る実力を持つと認められている。神に等しい力を持つ竜族も、異界の知を携え、魔術に長けた妖精族も、現代魔術の基礎を作り、今尚、他を大きく引き離す街エルフ達であっても手の届かぬ未知への挑戦。それに我ら小鬼族の専門家達は紙と鉛筆を武器に五分に戦っているのだ。彼らこそ帝国の命綱であり、それ以外は残念だが当てにはされていない。そう理解せよ」
僅か十人程度の理論魔法学の専門家を輩出したからこそ、帝国には価値がある。……その言葉の意味を知り、諸王達は、深い怒りと、それを軽く埋め尽くす諦観の念が心を覆い尽くした。
戦力では竜族には誰も勝てず、高魔力域の魔術では妖精族が他の追随を許さない。武力や集団魔術では鬼族が圧勝し、現代魔術の精緻さでは街エルフには到底及ばない。小鬼族の道具は質が悪く、能力も劣る。それに貧しい。覆せない現実があった。
だが、そんな彼らの心を見透かして、ユリウスは不敵な笑みを浮かべた。
「何を浮かぬ顔をしているのだ? 我らには必要とされるだけの力があり、無駄な争いを避けて手を取り合おうと、他の勢力はわざわざ自らの強み、戦という手段を封じようとしているのだ。――これは唯一無二、千載一遇のチャンスと理解せよ。幸い、今の竜神の巫女は信じられん程、我ら小鬼族に好意的だ。これを活かさぬ手はない」
報告書によると、竜神の巫女曰く、小鬼族は身の丈にあった現実的な策を選ぶ聡さがあり、後追いではあるが耐弾障壁を解析して量産するだけの力もある。人口の多さが多様性を生むのか理論面では目を惹く逸材も多く、手を取り合う理性的な選択もできる。他種族との交流にも積極的であり、寸暇を惜しんで燃えるように激しく生きる様は眩しさすら覚える。弧状列島の統一を支える三大勢力の一つとして、手を取り合える事を言祝ぎたい、との事だ。
「余りに我らに対して好意的な記述であり、恣意的過ぎて報告者の資質、姿勢を疑いたくなりますが……」
とは言うものの、ロングヒルに送り込んだ老若男女、交流の為に選抜された良識ある者達からの報告でも、竜神の巫女アキの小鬼族贔屓は頻繁に出てくる有様で、確かにそうなのだろうと認めざるを得なかった。
「アキは半日と起きていられず、同じ街エルフとすら交流が殆どなく、それだけに他種族への認識も、ロングヒルに来てからの半年に見聞きした内容が基となっている。だからこその高評価なのだろう。選抜メンバーを投入した甲斐があったと言うモノだ」
だが、とユリウスは表情を変えた。
「それは、アキにとっては、戦で力を無駄にすること無く、次元門構築に手を貸してくれさえすれば、どの種族も好意的に捉えようと言ってるだけでもある。アレは、争い事を無くしたい等という平和主義者では無く、叡智を人々の為に使う事に使命感を持つ賢人でも無い。必要とあれば全てを巻き込んで目的へと手を伸ばす探索者、平穏よりも未知を求める者だ。為政者でもない。もっと俗な存在だ」
だからこそ信頼できるんだが、とユリウスが話すと、諸王達はその意図を計りかねた。
「そもそもアキは、強過ぎる魔力のせいで魔導具すら使えず、貨幣も触れば壊す有様だ。だからか金は別に欲しがらんし、今の地位とて後任が来れば交代したい、面倒だと公言して憚らない。美食も嫌いはせぬが、素朴な味付けを家庭的と喜んでもいる。弧状列島の全てに絡む大計画も、竜と共に空を飛ぶ事も、三大勢力が停戦する事も、どれも同じと並べて話す有様だ。これで世のため人のためなどと囀るようなら、気持ち悪い事この上なく、信じるどころでは無い異質な化け物としか思えなかっただろう」
そこで、ユリウスはニヤリと笑った。
「だからこそ、絶対に揺るがぬ一つ、何よりも求める次元門構築、それこそが望みだと明かす姿勢は信頼するに値するのだ。今のままでは不可能な難事、それを可能とする為ならば、皆が望む事に手を貸そう、他は全てが些事に過ぎない。だから助けてください、とな。解りやすい話だろう?」
その言には、諸王達も共感を覚えた。欲するものが明らかならば、それが満たされる限りは、その者は裏切らず協力を惜しまないだろう。それは取引であり、互いに欲するものを差し出す対等な関係であり健全な間柄だ。
「しかし、街エルフの技で足りぬからと、地の種族に飽き足らず、竜や妖精、連樹や世界樹、そして「マコトくん」でしたか。よくもこれだけの勢力を巻き込めたモノですな。神話の時代とて、これ程、多くの勢力が集った事など無く、これから先とて起こりうるかどうか……」
しかもそれが、僅か半年に為した事だ。
「そして、陛下は、要たる巫女、アキ殿が当面、その地位にあると予想されているのですな?」
鋭河王がユリウスの発言を促した。
「竜の傍らにあって普通に話し合える人材というだけで同じ重さの金より価値がある。まして、各勢力を束ねた国家の大計を語り、どの種族にも忖度せず、公平に接するのだぞ? そんな人材の代わりがそうそういると思うか?」
「賭けが成立しませんな」
「そうだ。だからこそ、アキが要として皆に担がれている間に、我らは統一国家の一翼を担う、他種族からも欠かせぬ存在と認められねばならんのだ。余の治世でできるだけ推し進めるが、盤石とする迄には至るまい。五代、十代先へと繫がる国家の大計だ。力を貸して貰うぞ」
ユリウスが告げると、諸王達は居住まいを正した。
「「「「全ては帝国の未来の為に!」」」」
彼らは、帝国の民が成人の際に口にする誓いの言葉をもって、それに応えた。
小鬼族の生は短い。だからこそ、自身が例え礎となろうとも、全力を尽くそうという生き様を示す言葉だった。
SS①ということで、この春の出来事を小鬼族の視点から見たお話でした。
ユリウス帝がこの春に示した大方針は二つありましたが、秋の成人の儀については今回は深く触れていません。それは、まだ戦争規模を限定するといった方針しか示されていない為で、具体的な話が出てくれば、もっと踏み込んだ議論が戦わされることになるだろう……とユリウス帝も諸王もこの時点では考えてます。
ただ、本編を読まれているとご存じの通り、梅雨の頃に、アキが「呪いを深く知る為に、呪われた地を研究の為に提供することを決めてくれた小鬼族の皆さんに直接、皆でお礼を伝えよう」と言い出した事から、話の前提が粉微塵になってしまいます。ご愁傷様です。
次回からの前後編は、アキ達が帝都に行くよ、と告げてから訪問する前までを描いた話になります。
<今後の掲載予定>
12月05日(日) SS②:小鬼達から見た帝都訪問(前編)
12月08日(水) SS②:小鬼達から見た帝都訪問(後編)
12月12日(日) SS③:小鬼達から見た帝都訪問の後日談(前編)
12月15日(水) SS③:小鬼達から見た帝都訪問の後日談(後編)
12月19日(日) 第十四章の登場人物
12月22日(水) 第十四章の施設、道具、魔術
12月26日(日) 第十四章の各勢力について
12月29日(水) 15章開始
<雑記>
新型コロナでお店が閉まってから控えていたボーリングを久しぶりにやってみました。投げ方もすっかり忘れてる感じなのと、靴のグリップ力が効き過ぎて、つんのめるような投げ方になってしまいました。まぁそれでも最高スコア213といい感じだったんですが、僅か8ゲームで指が痛くなったり、握力的に無理っぽくなったりして、そこで終わりとしました。翌日には体のあちこちが筋肉痛にもなったりして、やはり1年半も投げてないと体も衰えてしまうと実感しました。