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14-28.帝都訪問を終えて(後編)

前回のあらすじ:帝都訪問時の上空から眺めた感想は、時間の関係で、別途、ベリルさんに纏めて貰うことになりました。一人で延々と話すのも飽きるので、ヒアリングの時にはちっちゃな雲取様とお爺ちゃんにも付き合って貰おうと思います。(アキ視点)

お昼休憩で、他の皆さんは鬼族が料理を振る舞い、それを食する感じだったけど、竜の二柱は飲食しないのと、僕も朝食兼昼食ブランチを食べていてお腹は空いてなかったから、話をしようと歩み寄った。


「退屈な話題が多かったかと思いましたけど、そうでもなかったようですね」


<我々にはない視点はなかなか興味深かった。それに今回は、帝国の民に、我らの姿を魅せる事も目的だった。ならばどう受け止められるか気にもなるものだ>


それもそうか。


<それに、私達、帝都の周回組はゆっくりぐるぐる飛んでるだけで退屈だった。そうして支えた式典がどう催されたのか、興味はあったから、それが聞けてよかった。ところで、妖精界の空を私達が全員観ることはできると思う?>


そう聞く紅竜さんの目は真剣だった。


お爺ちゃんはと言えば、ふむふむと腕組みして考え込んでから答えてくれた。


「安定して召喚する事ができるのは通常換算で五枠。今回の帝国領では女王陛下、賢者、それと一割召喚を三十人、三枠分費やした。会場の広さ的には竜は一柱が限度じゃ。じゃが、ロングヒルで披露するなら、女王陛下と護衛達は省いても良かろう。そうなると二枠は空けられる。二回開催では本体が二、小型召喚が四と少し足りん。三回開催なら全員観る事もできる計算じゃな」


<三回お願い>


「リハーサルでもそれ以上やっておるから、雌竜の皆までは問題ない。ただのぉ……」


お爺ちゃんがふと、表情を曇らせた。


「どうしたの?」


「いや。好評なのは良いんじゃが、今までの感じからして、更に観たいと押しかけてくる竜が出てこないかと気になってな」


あー、なるほど。


どうかと思い、雲取様を伺うと、目を伏せられてしまった。


「雲取様、やっぱり希望者は増えそうですか?」


<増えないとは思えない。何かと条件を付けてでも、ロングヒルに飛んで来れる竜ならば、希望すると思った方がいいだろう>


うむむ。


「雲取様と雌竜の皆さんが箝口令を敷くと言うのは?」


<今回の件は皆の代表として赴いたのだ。何があったか我らは報告する義務がある。それに隠そうとしても、それは叶うまい>


そもそも相手は竜眼を使えるのだから、と同意を求められ、頷くしかなかった。


何を隠してる、ちょっと見せてみい


なーんて感じに福慈様に睨まれたら、隠すのは無理だろう。


なら、プランBだ。


「竜の皆さんが満足するまで開催するのは現実的ではないので、前にドワーフの皆さんが見せてくれたプラネタリウムを参考に、再現するシステムを創ったらどうかな? 星の密度が何桁か違う感じだけど、頑張れば何とかなると思うし、出来上がれば、ロングヒルで常設展示してもお客は集まると思うよ」


僕がこちらの夜空を見たことが無いと知ったヨーゲルさん達が、街エルフから星々の観測データの提供を受けて、街エルフの肉眼で見える七等級まで投影できるプラネタリウムを創って観せてくれたんだよね。あれはほんと嬉しかった。

昨日観た、妖精界の夜空は星雲とか、雲状の天体群まで星の集合でキッチリ再現してる感じだったから、メガスター級の投影能力が必要そうだけど。


「……それしか無さそうじゃのぉ。ただ、星の描き方はこちらのプラネタリウムとは仕組みが違う。ヨーゲル殿と相談してみんと、どれ程の時間がかかるか見当もつかん。暫くは今回の関係者のみの公開、何年か先になるが再現システムを構築して公開するので、待つよう伝えて欲しい。どうじゃろうか?」


<それならば文句も抑えられよう。済まぬが宜しく頼む。その代わり、望まれれば、相応しい対価として力を貸そう>


雲取様もその落とし所には満足してくれた。そもそも竜眼を使えば別だけど、そうでなければ、本物としか思えぬ光景であり、時間がかかるのは当然だと理解も示してくれた。あと、我も、我もと手を挙げるであろう成竜達をどう抑えるか悩んでいたようで、その表情は晴れやかだった。





お昼休みが終わり、お爺ちゃんが念の為、同期率を下げて妖精界側の様子を見に行き、参加できることを確認してから、シャーリスさんを喚び出した。


「シャーリス様、徹夜明けです?」


「そこはちゃんと仮眠を取ったから大丈夫じゃ。第二部に参加した者達は、話を忘れぬうちに記録を残す作業をさせておる故、暫くはこちらには顔を出せぬ。その代わり、妾が大筋で何があったか話すとしよう」


朝帰りしたのがバレていた事に顔を顰めながらも、シャーリスさんは第二部で何があったのか、どうして朝帰りになったのかを話してくれた。


第二部は、術式を用いて自動演奏しつつ、テーブルに飲食物を置いて、和やかな雰囲気で始まったそうだ。妖精さんサイズのハンググライダーを出して、空を飛んで見せると、風を掴んで魔術無しで空を舞う姿に大いに盛り上がり、数えるのを途中で諦めるほど延々と、会場の一角を使って飛ばし続けたそうだ。


何せ、今回の妖精達の訪問は突然の事であり、次があるのか、あるとしてもいつになるのかわからず、自分が生きている間に観ることはもう無いかもしれない、と観るのを望む者達が後を絶たず、そこまで乞われば、悪い気もせず、朝まで付き合う事にしたとのこと。


ハンググライダーの作りにも注目が集まり、賢者さんと入れ替わりで彫刻家さんを喚び、ロングヒルでもドワーフ技師さん達に見せた、3D製造の賽子サイコロを作って見せたそうだ。シャーリスさんが大型幻影で会場全体から見えるようにしてあげて、これもまた大いに盛り上がったという。


勿論、催し物はそれだけでは無く、小鬼族の魔導師が展開した障壁を、投槍で穴だらけにしてみたり、撃ち出された魔術を、即興で撃ち落としてみせたりという大道芸モドキをしてみたり、怪我をしないなら体験したいという者達に付き合って、訓練用の投槍を望むままに撃ち出してあげたりと、そういった一角もまた熱気冷めやらぬ様相だったそうだ。


それ以外の多くのテーブルでは、互いに興味を持った話題を語り合い、疲れた者は小鬼も妖精もメンバーを入れ替えて、飽きることなく交流が続いたそうだ。


結局、多人数召喚できる賢者さんが寝落ちしそうになり、朝方に最後の一割召喚をして、彼は退場したそうで、その後、互いに代表だからと残っていたユリウス様とシャーリスさんも、果てがないからと相談して、何とか場を収めたそうだ。


最後は数え切れぬほどの小鬼さん達が並んで、声を揃えて友情を称える歌を合唱して別れを惜しみ、大歓声の中、送還していったとのこと。


「そんな訳で、アキには何年かしたらまた帝都を訪問して欲しい。無論、その時は妾達も最大限協力しよう」


なんと。


でもまぁ、そんな状況じゃ、今回限りなんて言えなかっただろうね。いくらユリウス様が皆に慕われる皇帝だって、手を取り合っていこう、共に歩もうと話したのに、次はわからない、なんて話して、場を収めるのは至難だった事だろう。


僕はいいけど、どうかと視線を向けると、任せておけ、と雲取様も頷いてくれた。


<互いに手を取り合う機運が保たれていれば、我もアキと共に訪れても良い。その時は竜族の代表として訪れるのでは無いから、編隊を組む必要も無かろう>


ただ、降りてすぐ帰らねばならんのは何とかしたい、とも。


実は妖精さん達だけが訪問するのなら、小型召喚の竜の誰かと、他の仲間を喚べる妖精さんが妖精さんサイズの椅子ハーネス)を付けて飛んでけば、それで要望は達成できるんだけどね。


シャーリスさんが敢えて、僕にも行く事を求めたのは何か意味があるんだろう。


その後は、妖精さん達が纏めた情報を関係者に展開する事を条件に、時期は未定だけど、再訪問する事をヤスケさんも了承してくれた。





ところで、とお爺ちゃんが張り付いた笑顔で語り出した。


「女王陛下、話された内容に、ちと抜けがあったと思うんじゃが?」


「一通り話したであろう?」


そうは言うものの、目が泳いでる。あー、まだなんかやらかしてたのか。


「賢者が送還された後に、近衛を喚んでおったじゃろう?」


「あー、それはじゃな……ほれ、ロングヒルの市街地の視察がなんだかんだと延期されておったじゃろう? ユリウス殿にそれを話したら、安全を完全には保証できないが、帝都の大通りを皆で飛んでも良いと言うではないか。妾達は召喚体であって、リスクなどあって無いようなモノ。となれば、貴重な視察機会を逃す訳もあるまい」


話しているうちに、正当性を上手く押し出せたと思ったのか、表情にも余裕が出てきた。けれどまぁ、こういったやり取りはお爺ちゃんのほうが何枚も上手だった。


「近頃は、皆で大合唱しながら、好き勝手に派手な魔術を乱発してバカ騒ぎをしながら飛び回ることを視察と呼びましたかのぉ?」


「ちっ、近衛め、黙っておれと言うたのに」


「口止めをするなら、パレードの参加者全員を言い含めるべきでしたのぉ。――皆には済まないが、これから我らが女王陛下はちと、過去を振り返り、未来への糧とせねばならん。ほれ、話はここまで。帰りますぞ」


お爺ちゃんににじり寄られて、シャーリスさんも天を仰いで覚悟を決めるしかなかった。


「纏めた情報は後で渡すとしよう。では、さらばだ」


シャーリスさんが送還されていき、お爺ちゃんも一瞬だけ落ちかけたけどすぐ復活した。久しぶりの独立動作スタンドアロンモードだ。


「あの感じでは、あちらの儂は今日は戻ってはこんじゃろう。まぁ、女王陛下にも偶には良い薬じゃよ」


なーんて、言ってるけど、なんとも力関係がわかるやり取りだった。きっとシャーリスさんも今日は宰相とお爺ちゃんから二人がかりでこってり絞られることだろう。ご愁傷様。


そんな感じで、まぁ、色々あったけど、こうして帝都訪問の騒動は終わりを告げたのだった。

誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分では何回読んでも気付かないので助かります。

妖精さん達が演出した「妖精界の夜空」はぜひ見たいと紅竜さんもおねだりするくらいの人気っぷりでしたね。本文中で語ってる「ドワーフの皆さんが見せてくれたプラネタリウム」は、SSのネタの一つです。いずれ書こうと思ってます。

光学式プラネタリウムはドイツで1923年に発明され、百七十万個の恒星を投影するに至ったメガスター(当時はアストロライナー2)が1998年ですから、技術の進歩って凄いですよね。メガスター発表時も一般的なプラネタリウムは数千、最新鋭でも数万の星の投影だったのだから、本物の星空だ、と皆が驚愕したのも当然でしょう。


妖精さん達も帝都訪問では随分とはっちゃけました。妖精達との交流も、これまでの積み重ねを一気に巻き返す勢いで、一般層に与えたインパクトを考慮すると、妖精への認識は、帝国>連合>>連邦、といった感じに順位が入れ替わったと言えるでしょう。


万一の事態も起こらず、帝都訪問はお祭り騒ぎの大イベントとして歴史に記されることにもなりました。

裏で、為政者達が何を考え、悩んでいたのかは、SS①~③で振れていこうと思います。


<今後の掲載予定(再修正)>

あとすみません、SS①ですけど、書いてみたら前後編に分ける分量になりました。多分、SS②と③も同様なので、掲載予定は更に三つズレる感じになります。ぎりぎりで15章も2021年内のスタートです。


11月28日(日) SS①:ユリウス帝と王達の密談(前編)

12月01日(水) SS①:ユリウス帝と王達の密談(後編)

12月05日(日) SS②:小鬼達から見た帝都訪問(前編)

12月08日(水) SS②:小鬼達から見た帝都訪問(後編)

12月12日(日) SS③:小鬼達から見た帝都訪問の後日談(前編)

12月15日(水) SS③:小鬼達から見た帝都訪問の後日談(後編)

12月19日(日) 第十四章の登場人物

12月22日(水) 第十四章の施設、道具、魔術

12月26日(日) 第十四章の各勢力について

12月29日(水) 15章開始

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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