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14-27.帝都訪問を終えて(前編)

前回のあらすじ:飛行服フライトスーツを着ての長時間飛行はやはり疲れました。特別な服装をしないで空を飛べる現代旅客機って素敵でしたね。帝国訪問について報告しろ、と場が設けられることになったのは面倒だけど、自費の旅行じゃないんだから、仕方ない義務と思うことにしました。(アキ視点)


連邦大使館の庭先に行くと、ちっちゃな雲取様、紅竜さんも喚ばれており、ロングヒルにいる主要な面々が勢揃いって感じだった。


何とも壮観な眺めだね。街エルフ組も全員参加とは思わなかった。人工衛星からの探査で詳細な地図を作ってるくらいだから、そこまで興味を持つ事も無いかと思ったけど、そうでもなかったか。


「お待たせしました。帝都訪問と式典の実施も予定通り終える事ができました。ご支援ありがとうございました」


そう告げると、皆さんも拍手で応えてくれた。


「それで、本日の話ですけど、①編隊飛行を試した結果、②帝国の大都市を巡ってみた件、③式典第一部の結果、の順でお話して行きますね」


特に異論はなし。


では、話をしていこう。


「まず、竜族の皆さんが行った編隊飛行ですけど、あちらの航空機が行うそれと同様、かなりの練度が必要であり、こちらについては先頭を飛ぶ竜の挙動に合わせる事、次の挙動をナビ役が事前に伝える事で上手くいきました」


<翁が風を操って、次はどちらに飛ぶ、どの程度、高度を下げると示してくれたのは飛びやすく助かった。風の操作も結構な難度と見たがどうだろう?>


「うむ。指摘の通り、同時に三方向、それも遠方に声を届けるのはかなりの難度じゃった。儂では四方向は難しく、賢者でも五方向程度が限度じゃろう」


ほぉ。


ん、師匠が手を挙げた。


「以前、翁から聞いた話では、妖精族が大勢で空を舞う際には、管制役が全体を俯瞰して指示することで統制しているとの事だったが、管制役は特別な訓練でも積んでいるのかい?」


そこは気になるところだよね。


「そこはな、経路パスを予め繋いでおき、術式で適宜切り替えて、伝話を行うんじゃよ。管制官は全体を把握しつつ、必要な者に指示を伝えたり、特定の者達だけに話したりと、話す範囲はその都度切り替えとる。管制官が管理する範囲と人数には限りがあるから、あまりに多い場合は管制官を束ねる指揮役を更に立てる事もあるんじゃよ」


経路パスを使うとなると、互いに良く知る必要があるから、臨時編成は難しいかね。それでも、召喚主と召喚対象との意思疎通と同じで、その仕組みなら長距離でも安定した通信ができそうだ」


師匠は魔術視点で満足した表情だけど、ヘンリー王は少し思うところがあるようだ。


「その話からすると、異なる指揮役に繋がる者達の横の繋がりは工夫が必要と思える。「死の大地」の作戦となれば、数百という群れが多数動くことにもなり、その作戦領域も被ることはあるだろう」


ほぉ。


<竜族の歴史でも無かった規模の試みだが、皆はそのような時はどうしておるのだ? 万単位の兵達を束ねて、いくさをする事もあるが、考えてみれば、どうやってそのような人数が意思疎通してあるのか皆目見当がつかん>


あー、そこは認識違いだ。


「雲取様、そこはちょっとした認識違いです。地の種族を軍勢として見た場合、個人の力は小さ過ぎてその単位で扱う意味はありません。数十人集めた小隊を最小単位にして扱います。だから万単位と言っても、実際には数百程度の集まりです」


<そういうものか。だが、それでも妖精族の例で行けば、管制官の上に指揮役を置く規模なのだろう?>


「ですね。だから、そんな師団規模になると、全体を束ねる指揮官も状況を把握して指示する為に、補助してくれる参謀達を束ねて集団体制で動くようになります。では師団同士の意思疎通はどうするかと言えば、上層部同士が連絡し合う形となり、下位に属する人達は上に報告して指示に従う形になります。迂遠なやり方ですが、これは仕方ありません」


<やはり限度はあるか。あちらではどうしているのだ?>


地球あちらだと、大量の情報を処理してくれるコンピュータと、膨大な情報のやり取りが可能な通信網があるので、意思のすれ違いはだいぶ減ってます。それでも戦場の混乱は避けられず、同士討ちをしてしまったり、包囲するつもりが、連携が取れず逃げられたりと、人形遣いが指揮するレベルを師団規模で行えるようになるのは、もう少し先の話でしょう」


そう話すと、皆さん、納得してくれたけど、街エルフのテーブルは、なんか嫌そうな空気が漂っていた。


「どうかしました?」


「コンピュータの凄さ、あちらの基礎技術の高さに唖然としたんだよ。こっちはやっと試作機を動かしてるのに、今の話だと、あちらでは末端の兵士までコンピュータと高速通信網を利用してるんだろう?」


実際に試作したリア姉には、どれだけ先の話か分かるだけに、気が滅入るんだろうね。


「まぁ、それはそうだけど、あちらだって八十年くらい前には、コンピュータは大部屋サイズだったし、通信網だって音声通話かモールス信号を使う程度だった訳だから。こちらだって慣れてくれば、似たようなペースで整備できると思うよ」


そう話すと、長命種の皆さんはやはり驚いた顔をして、小鬼族の皆さんは四世代も先の話だからか、相対的には驚きも少ない感じだった。


「脇道に逸れているから、話を戻そう」


ザッカリーさんに促され、確かにその通りなので、戻す事にした。





「話を元に戻すと、渡り鳥の飛行と同じで、前を飛ぶ竜との位置関係を上手く調整すれば、より少ない力で飛べると思いますけど、それはどうでしょう?」


<気流を上手く使えば、多少は効率も良いだろうが、我らの飛行速度では、それ程近くを飛ぶのは危うい。それよりは白岩殿が試している鬼族の技を活かす方が効果を望めるだろう>


ほぉ。


「雲取様も、飛行技術のさらなる発展に向けて取り組もうとしてるとか?」


<まだ触りと言った処だが、伸び代は大きいとみている。それに「死の大地」の浄化作戦を行うのであれば、我のように竜の飛び方を突き詰めるだけでなく、鬼の技も併用せねば、現地での滞空時間を十分には確保できない恐れがある>


「飛行機みたいに空中給油って訳にも行かないですからね。最寄りの陸地から飛び立つとしても、今度はそこが混雑しちゃうし、悩ましい話です」


っと、ザッカリーさんが戻せ、戻せと、ジェスチャーしてきたので、この話題はここまで。


「思念波が届かない遠距離でも、発光信号を使った連絡は上手く行きましたね」


<相手が点にしか見えない超遠距離でも意思疎通できるのは便利だった。ただ、こちらも一対一でのやり取り以上は難しいと思う>


紅竜さんの言う通り、そこは厳しいだろうね。


「予め決めておいた簡単な符丁のやり取り以上は難しいのと、途中に遮るものがあると見えないこと、荒天時にも視認距離が大きく損なわれる、とまぁそんなところでしょう。一方的に伝えるだけなら、一対多も簡単なんですけど」


飛行に関してはこれくらい、としたけど、雲取様、紅竜さんからも異論なし。


では、次の話題に移ろう。





「次は、②帝国の大都市を巡ってみた件ですね。では、実際の経路に沿って順に話していきます。先ずは――」


ショートウッドやロングヒルと違って地形を活用した堀や水路、沼地などを重視していて高い城壁は築いてないのが特徴的。建物は小鬼族の背丈に合わせて階層が作られているので人族が入るのは大変、鬼族が入るのは無理。できるだけ農地を広く確保する関係か、住居は高層化されている感じ。でも階層間が狭いので、その分、耐震性は良さそう。水路は円筒分水が設置されていたりして、水配分はやはり苦労がありそう。水源から上水道が整備されていて、土地の勾配をうまく利用してるし、谷超えも水道橋で上を繋ぐだけで無く、サイフォンの原理で落とした水を上げるパターンもあって見事。


……なんて感じに、地形や建造物、水の利用とか、港湾施設なら、造船ドックの大きさや数から、どの程度の艦隊を運用してそうとか、港湾内の海水の色合いから海底の浚渫具合と大型艦の運用なんて具合に話していったんだけど。


皆さんの反応を見ながら、途中を端折りつつ話していたら、待ったが掛かった。


「時間を気にしてかなり端折られているようですし、上空から眺めて気付いたことについては、別途、話を纏めて貰い、その資料を配布して戴くのは如何でしょうか?」


ガイウスさんがそう申し出ると、皆さんもそれに頷いた。


<我も今聞いた話が多かったな>


「飛んでる時は、眼下の面白そうなポイントを紹介して、反応を伺って、とやってる間に通り過ぎて、気付いたけど話題にしなかった事も多かったですから。今も水害の跡地とか、建物の色彩とか、農地に植えられている作物の種類とか、育ち具合なんて話は優先度を下げましたから」


僕の話を受けて、エリーがため息混じりに強引に話を纏めてきた。


「専門家は僅かな情報からも多くを知ると言うけれど、アキはその専門家だったわね。ベリル、聞き取りと資料の取り纏め、大変と思うけれどお願いするわ」


「お任せくだサイ」


「それと翁の方もお願い。翁もロングヒルと帝国の地を比較して眺めた事で、気付いたこともあるでしょう? 私達には何でもない事でも、妖精視点だと興味深い話があるかもしれないわ」


「うむ。儂らの普段飛ぶ高さと、竜の飛ぶ高さが違うことで気付いた話もある。それも忘れぬうちに書き残すとしよう」


儂の著作もまた増えるわい、とお爺ちゃんもご満悦だった。





さて、気を取り直して。


「次は、③式典第一部の結果ですね。こちらは――」


上空から眺めた際の帝都の人々の反応、都市活動を停止する慎重さ、控室シェルターを間近に用意した事で、参加者全員が見た感じ、体調を崩した様子も無く式典を無事終えたことを話した。

他にも妖精さん達のパイプオルガン式演奏の素晴らしさや、全天を覆って見せてくれた妖精界の夜空の光景、空で月明かりに照らされる浮島の神秘さなんかを話して、それはもう見事なものだったと力説すると、皆からも是非見たいと要望が出てきた。


<リハーサルには雲取様しか参加されてない。そんな光景なら私達も是非見せて欲しい>


紅竜さんはここに居ない他の六柱の雌竜達の意見も代弁して、お爺ちゃんに思念波を放ってきた。


リハーサルも現地に行く魔導人形さん達や、演奏用のパイプ群を作ったドワーフ技師達など人員を絞っていたので、観ていない人が多く、特に興味はないなんて態度の人は一人も居なかった。それどころか、何度も観たであろうジョージさんも観たいと話していた。


「ジョージさんはリハで何回も観てたのでは?」


「護衛としての目線で、全体の流れに目を配りながらだ。ただの観客として眺めるのとはまるで違う。仕事抜きで楽しめるのなら、こんな機会は早々ない。だから俺も参加させてくれ」


なるほど。


お爺ちゃんはと言えば、皆から熱望されて、感無量と言った面持ちだ。


「皆の希望は良く分かった。大掛かりな仕掛け故、そう何度も行う事はできぬが、何回かは披露する場を設けよう。女王陛下もこれ程の反響を受けて否とは言うまい」


なんて、杖を振り回しながら、熱く語るものだから、皆も悪ノリして囃し立てたり、大きく手を打ち鳴らしたりとバカ騒ぎにまでなってしまった。


だけど、異世界の夜空となれば観てみたいと思うのは誰でも同じなようで、ヤスケさんやザッカリーさんですら、観賞機会を得たことを喜んでる有様だった。





あまりの騒ぎに、外を警備していた人達が様子を窺いに来る始末で、それには皆も素直に詫びるしかなかった。


「後は、雲取様がいた事もあって、僕も含めて、魔導人形の皆さんも、オマケくらいの驚きで捉えられていた感じだったと思います。僕やシャーリス様の話もちゃんと真剣に聞いてくれていて、弱々しそうとか、小さいとか、そんな違いを気にしてる方がいなかったのも高ポイントでした」


雲取様が来るなら、他に何人同行しても同じとガイウスさんが話していた通りだった、と伝えると、それはそうか、と納得して貰えた。


何せ、ロングヒルで一般枠を集めた洗礼の儀では、対峙した段階で脱落者が九割に達した程だった。それに比べれば、改善点はあったとしても、称賛に値する成果だったのは間違いない。雲取様がいる時点で他は誤差に過ぎない。


「人類連合が僅差で賛同した件への反応はどうだったのかしら?」


母さんが話を振ってきた。


「連合も帝国も互いに複雑な過去と感情を抱えていることを忘れないと、ユリウス様も約束してくれたし、その言に不満を示している人もいなかったよ」


「それは幸いだったわ」


やはり連合や共和国の関係者はそこが一番気になってたようで、安堵のため息が溢れた。


「他には、各種族の得意分野は違うのだから、それぞれが得意とする分野で頑張ればいい、緑化事業では小鬼族に期待しているって雲取様が話したら、かなり盛り上がってました」


小鬼の皆さんが自信に満ちた目をしてたのが印象的でした、と話すと、竜神に認められ期待されれば、そうもなろう、も頷く人が多かった。


ヤスケさんは不満そうだけど、皆の反応に水を指すつもりはなく、ボリボリと茶菓子を食べて、鼻を鳴らす程度だった。


そんな話をしている内にお昼の時間になったので、一旦、お昼休憩をしてから、妖精さん達がメインの第二部について話を聞くことになった。

ブックマーク、評価ありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。

あちこちの作品を見てみると、評価人数/ブックマークの比率が二~三倍くらい違うので、本作は評価をしにくい「何か」があるのかもしれないと思う今日この頃です。皆さんからの反響(感想、評価、ブックマーク)はマラソン中の水分補給みたいなものなので、やはり嬉しいものですね。


誤字、脱字の指摘ありがとうございます。自分では何度読み返しても気付かないので助かります。


帝国訪問について、アキ視点からの報告がまず終わりました。終わったと言っても、上空から眺めた気付きは量が多過ぎるので、別途、ベリルがヒアリングを行い、関係者に後で配る形とはなりますが、仕方のないところでしょう。アキが今回、多くの事に気付けたのは、小鬼族が魔力の乏しい地で生活をしている関係上、地球こちらに近い技術を多く導入していて目につきやすいから、というのがあります。その辺りは報告書を読むことで、各勢力の分析も進むことでしょう。

地上を移動しての旅人目線であれば、もっと細かいところに目を奪われがちになるので、上空からの俯瞰というのは、アキとの相性が良かったというのもあるのは確かです。

次パートは、妖精さん視点の第二部に関する報告で、十四章の本編は終了です。

SS3部作は、本編と異なり、第三者視点の書き方になりますのでご注意ください。読まなくても別に本作を楽しむのに支障はありませんのでご安心を。


<今後の掲載予定(修正)>

11月24日(水) 14-28.帝都訪問を終えて(後編)

11月28日(日) SS:ユリウス帝と王達の密談

12月01日(水) SS:小鬼達から見た帝都訪問(前編)

12月05日(日) SS:小鬼達から見た帝都訪問(後編)

12月08日(水) 第十四章の登場人物

12月12日(日) 第十四章の施設、道具、魔術

12月15日(水) 第十四章の各勢力について

12月19日(日) 15章開始

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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