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14-25.帝都訪問(前編)

前回のあらすじ:色々あったけど、帝都訪問の準備もできて、遂に出発です!(アキ視点)

帝国領が視認できる距離までは高高度を巡航して、見えた時点で緩やかに予定高度まで降下し、速度も緩めるといったように、飛び方に緩急を付ける事で時間短縮する事になったんだけど、雲取様が単独で飛んだ時とは随分と勝手が違っていた。


「そろそろ一つ目の都市じゃな。都市の右手にある溜池の上を通過して、そのまま、正面の山を超える辺りで高高度に戻す感じじゃ」


お爺ちゃんが風を操って、先頭を飛ぶ金竜さんに運行指示ナビゲーションを行うと、金竜さんの翼端が了解を示す緑の点灯をして返事を返してくれた。


雲取様と、左右を飛ぶ青竜さん、緑竜さんは、金竜さんの挙動に合わせて、進路を変える。


なんで、こんな事になってるかと言うと、思念波は視認した方向にしか飛ばせなくて、先頭を飛ぶ金竜さんが後方に位置する三柱に向けて思念波を飛ばそうと首を向けるのは姿勢に無理があり、そのような姿は見せる飛び方ではない、と嫌がったからだ。


雌竜さん達も飛行経路は頭に入れてるし、黙々と金竜さんに従って飛んでいけば、フォーメーションも崩れないし問題ないかと思ったんだけど、それがそうでも無かった。


今から降下を開始するとか、減速するとか、飛ぶ方向を少しずつ変えるなんて簡単な意思疎通も、飛行姿勢を綺麗に保ったままだと難しかった。


その為、お爺ちゃんがナビをしつつ、金竜さんの挙動に合わせて、後ろが続くという方法を取ることになったそうだ。


しかも、飛行ルートも高度も速度も決められているから、窮屈に感じてしまい、選ばれた三柱の雌竜も、一緒に飛べて嬉しいどころじゃなかった。


「はいはい、それじゃ、先ずは最初の都市ですけど、溜池もあるように、泥濘んだ地形の為に歩ける道が狭く――」


ガチガチに制限された状態で飛ぶのは楽しくないので、道中、僕が観光案内を買って出る事になった。僕の声はお爺ちゃんが風を操って雌竜さん達に、雲取様には骨伝導式ヘッドホンを通じて伝わる流れだ。


変だなー。


道中、運んで貰えるから、空からのんびり観光気分で帝国領を眺めて楽しむ気でいたのに、なんでこうなったんだか。


小鬼の皆さんから聞いた話と、ケイティさんから聞いた街エルフが調べていた話、それと立体地図を眺めて、経路を頭に入れるついでに、面白そうなところについて質問しまくって、お爺ちゃんにあれこれ話題を振れるように準備しておいて正解だった。


「ほぉ。こうして見ると、城塞都市部分は元の高台だけでは足りず、石を積み上げて拡張しておるのがわかるのぉ」


他の種族の都市を上空から観察するなんてお爺ちゃんも始めてだから、竜の皆さんにも半ば説明するように気付いたことや気になった話をしてくれて、上手く話題を繋げることができた。


やっぱり、小鬼さん達は体が小さいから、大規模土木工事は苦手としていて、その代わり多少の段差は苦にならないから、傾斜をそのまま残した作りが多いのが特徴的で面白い。


……と言うか、良い土地は他の種族が占めてるから、どうしても難のある場所となってしまい、その中で何とかしようとだいぶ苦労してる様子が伺える。


ユリウス様が、帝国は貧しいと話していたのもわかるね。





道中では、ローテーションで位置を変えるなどして、横目で雲取様を眺めるような事もできないハズレな先頭役ばかりで不満が溜まるのを防ぐなんて事もしつつ、大都市群を巡回していった。


首都を周回する雌竜さんの姿は点にしか見えず、高度差もあって、挨拶するような流れにはならず。発光信号からすると、覗きにきちゃった竜を追い払うような事態にはなってないようで一安心。


「そろそろ首都か。山はないが起伏が多いな。それに水辺の土地がやけに平らだ」


ほぉ。雲取様もなかなか目の付け所がいいね。


「土を運び、水を排して干拓したんでしょう。少しでも平地を増やそうと頑張ってますね。えっと、この後は、首都をゆっくり周回しつつ高度を下げていき、外郭部にある臨時の共和国の大使館領に降りるんでしたね」


「田畑への配水を優先しておるようじゃな。家が崖に追いやられとる。儂らからしたら使いやすい場所だが、小鬼族だと少し大変そうじゃ。それと女王陛下達は大使館領への降下直前に喚ぶから、そのつもりでな」


お爺ちゃんがちょっと補足してくれた。


空を飛ぶと言っても、竜と妖精では巡航速度が違い過ぎるから、妥当な方針だろう。


そんな話をしながら、首都上空をのんびり眺めることに。


「こうして区割りを見ると、貧富の差は少ない感じですね。町中に緑が多いけど、街路樹と言うよりは坪庭をそれぞれが楽しんでる感じかも。あと小鬼族の背に合わせてるから、建物の階層が詰まった感じに見えますね。こちらを眺めてる市民の皆さんはいます?」


僕の目では、屋根の上なんかにそこそこ人がいて見上げてるっぽいのはわかるけど、表情とか、詳しいところまでは解らない。


「老若男女の別なく大勢見上げているな。その割に街の中を出歩く姿は殆どない。表情からは恐れよりは興奮してるように思える。良い傾向だ」


念の為、僕達が降りてくる時間帯の前後は、都市活動を停めて事故を防いでるっぽいね。ショートウッドの教訓をちゃんと取り入れているのは良い事だ。


目的地の大使館領は見えてきたので、同行してきた雌竜さん達に合図を送ると、雲取様だけが降下を始めた。


小さく弧を描くようにいつもよりもゆっくりと。


「あれが今日の会場か。控室シェルター、演壇、椅子ハーネス)着脱場、どれも予定通りの位置と大きさだ。控室シェルター内には既に大勢の小鬼達もいるから、予定の高度まで降りよう」


念入りに大使館領を眺めていた雲取様が、一周した頃に予定通りで問題なしと判断して降下率を少しペースアップ。


あんまりゆっくりにすると、いくら控室シェルターの中にいても負担が増えるだろうからね。


そうして予定高度まで降りると、お爺ちゃんが杖を振って積層型魔法陣を展開して、賢者さんを喚んだ。


「予定通りの時刻か。配慮に感謝を。それでは皆も喚ぼう」


賢者さんも慣れたもので、ゆっくり旋回している雲取様から離れると、バンバンと積層型魔法陣を用いて、シャーリスさんと、一割召喚組の皆さんをえーと、三十人ほど喚び出してきた。


一割召喚組だけど、衣装が全員お揃いの赤や桃系の派手な礼服に変わってて華やか感がアップしてる。


「雲取殿、予定通りだったかぇ?」


<問題は無かった。地面の下も大きさの異なる石を幾層にも重ねる工夫がされていて、土も押し固められていたから、ロングヒルと同様、演習場として使われている場所なのだろう。周辺も警備を固めている者達がいるが、遠巻きに人数を多めに配置して、近場の人数は減らしているな。恐らく我の放つ圧を考慮しているのだろう>


さらりと地中まで竜眼で探査して、周辺地域の確認まで終えていると暴露してくれたけど、言われてみれば、エリア型の緩和障壁の魔導具も貸し出したくらいだから、周辺警戒をする兵士達に護符を持たせるのも大変なんだろうね。近くに配備できないなら隔離エリアを大きく設定して警備を厳重にすれば良し。って言うのは簡単だけど、それを為すのは大変だ。


「シャーリスさん、今日は近衛さんを喚ばないんですか?」


女王陛下の傍には常に近衛ありって感じだから、セットかと思ってた。


「演出に賢者とこれだけの人数が必要でな。妾の隣に賢者がおれば最低限の体裁は保てる。そんな事より、少し急ぐぞ」


シャーリスさんが合図をすると、妖精さん達が一斉に加速しながら降下を始めた。わざわざ、様々な曲線軌道を描いたり、隊列を組んでみたりと、もう、この段階から素敵な演出付きだ!


シャーリスさんと賢者さんは、僕の手元に降り立った。服にしがみ付く妖精さんが三人もいるって、なんかちょっと特別な気分。


「では我も降りるとしよう」


胸元に話しかけるのは難しいから、雲取様もマイク経由で話すと、妖精さん達に合わせるように、ゆっくりと指定位置ぴったりに降り立った。





着陸予定地点には、既に作業台も置かれていて、護衛のルキウスさんだけ連れて、ユリウス様が足早にやってきてくれた。


「雲取様、シャーリス様、それにアキ。予定通りの到着を歓迎しよう。本来ならゆるりと話したいところだが、今回はそうも行かぬ。予定外の事が起きた場合は、妖精を誰か連絡に寄越してくれ」


などと手短に話すと、ユリウス様は挨拶もそこそこに控室シェルターの方へと去っていった。


「今回は時間がないからのぉ。どれ、儂も皆を喚ぶとしよう」


お爺ちゃんが鍵を開け、シャーリス様が荷箱トランクの蓋を開け、賢者さんが空間鞄をふわりと取り出した。


そして、お爺ちゃんが杖を一振りすると、地面に召喚陣が描かれて、シャンタールさんが現れた。


「翁、予定通りデスカ?」


「うむ、予定通りじゃ。皆も喚んで、準備を急ごう」


お爺ちゃんの返事を受けて、シャンタールさんが指揮杖を振るうと、二十近い召喚陣が描かれて、作業服を着たメンバー十四名、護衛人形さん達四名、それとアイリーンさん、ベリルさんを喚びだした。


「全て予定通りデス。作業者は椅子ハーネスの取り外しと、着替えスペースの設営を」


シャンタールさんの指示で、八名が作業台を雲取様に寄せて取り外し作業を開始。六名は柱を立ててそこに幕を張って着替えスペースを作り出した。


更にシャンタールさんが追加で、式典装備の小鬼人形さん達を八名喚んで、警備員のように周辺警戒を指示した。


遠くでは、演壇の近くに置かれていた空間鞄から、妖精さん用の宝珠入りのちっちゃな背負い鞄を取り出して、妖精さん達が手慣れた手付で身に付けていってる。あと、近くに馬車くらい大きな設備っぽい何かがあって布に覆われているけど、妖精さんが何人かその中に入り込んでいった。


「アキ、儂らも早く着替えるぞ」


ほれほれ、とお爺ちゃんに促されて、着替えスペースの中へ。ここはいつものようにシャンタールさんが手慣れた手付で補助してくれたおかげで、手早く着替えることができた。そうしている間にも、シャーリスさんの指示する声が聞こえたり、雲取様から椅子ハーネスを取り外している音が聞こえたりと、かなり慌ただしい感じだけど、七分くらいで準備を整えることができた。最速記録更新だ。





着替えスペースから出ると、雲取様も椅子ハーネスを外して体を伸ばしたりしてて、その脇では、邪魔にならないように大勢の作業員さん達が作業台や椅子ハーネスを移動させていたりしてるけど、それらより目を惹いたのは、演壇の隣に置かれた無数のパイプを束ねた不思議なオブジェだった。


「お待たせしました。えっとシャーリスさん、ソレは何ですか?」


単なる飾りかとも思ったけど、三人も妖精さんが近くに浮かんでいて、いくつもの魔方陣を展開しているから、何かの仕掛けなのは間違いなさそう。


「すぐわかる。準備は整った。では、入場開始じゃ」


控室シェルターまで飛んで行ってた妖精さんが合図をすると、扉が開き、正装をした小鬼さん達が慌ててはいないけれど、少し急ぐ感じで、会場スペースへと歩き始めた。誘導役の妖精さん達がふわふわと飛びながら、複数の列を案内していくことで、思った以上に早く並び終えそうだ。会場スペースの四隅に設置された緩和障壁の魔導具もちゃんと機能しているっぽい。小鬼の技師さん達も緊張した面持ちで魔導具の動作を見守っていた。


そして、先ほどのオブジェの正体がわかった。


三人の妖精さんが魔方陣を操作すると、複雑な風の流れが起こって、無数のパイプを吹き鳴らして、素敵な音楽を奏で始めたからだ。低音から高音までを三人の演者が分担することで、まるでオーケストラのように多くの音が響いて、一気に会場の雰囲気を塗り替えていった。


妖精さんが演奏ってどうやるのか気にはなってたけど、考えてみれば、身体の大きさ的に打楽器や弦楽器は厳しい。となれば管楽器となる訳だけど、風の力を借りることで体の小ささをカバーして、十分な音量も確保している。つまり、パイプオルガン的な仕組みってことだね。


入場するのに合わせた軽快なリズムと多くの和音が奏でる音階が楽し気で、ふわふわ飛ぶ妖精さん達の踊るような飛び方も相まって、特別な時間が始まった、と強く印象付けられることとなった。


小鬼さん達も驚いた顔をしながらも、緊張が解れたようで、少し肩の力も抜けてきた感じ。


僕も、いつものように、四人の護衛人形さんを四方に、僕の近くにはシャンタールさん達三人が並ぶ形で、演壇脇で控えた。雲取様は、ショートウッドの時と同じで、威風堂々とした姿勢で小鬼さん達が歩く様子を眺めている。陽光を浴びえて輝く黒い姿がまた恰好いい。雲取様も横目で僕を見て、少し嬉しそうな笑みを浮かべてくれた。小鬼さん達のスペースと、こちら側を区切る形で式典装備の小鬼人形さん達が等間隔で並んでいるけど、背が小さいから圧迫感はさほどないと思う。何にせよ、僕達の配置はバッチリだ。





会場のすぐ傍に控室シェルターが設置されていたこともあって、小鬼さん達の行進も一分程度で終わったんだけど、その間に、半分以上の妖精さん達が会場全体を包み込むような位置へと飛んでいった。小鬼さん達も気にはなるようで、ちらちらと上空へと視線を向けていたけど、慌ててる感じはない。演出の一部と理解してくれているんだろう。


シャーリスさんが杖を振るうと、小さな魔方陣が浮かび上がった。風を操り、声を隅々まで届ける魔方陣だね。


「皆も揃ったところで、式典を始めるとしよう。妾は妖精の国の女王シャーリスじゃ。そして、皆も知っているとは思うが、そこにいるは天空竜の雲取殿、それと竜神の巫女のアキ。本日は妾達も含めて、多くの国々から帝国への言葉を携えてきた。その言葉をアキと、そして妾と雲取殿からも伝えよう。そして、妾達から皆に言祝ぐ場として心に残る贈り物を用意した。それを見せよう」


シャーリスさんが合図を送ると、隣にいた賢者さんが多層構造の魔法陣を展開し、それに呼応するように上空で待機していた妖精さん達も魔方陣を描いた。両者が呼応することで、蜂の巣状の枠が空に描かれていき、あっという間に会場全体を覆うドームを形成した。


そして、ぽつり、ぽつりと枠の中が漆黒のパネル状の障壁に変化し始めて、覆う面積が広がるにつれて、どんどん薄暗くなっていく。暗さに合わせて妖精さん達の姿も闇に溶け込んでいくように消えていった。


何とも目を惹く演出で、あっという間に暗くなる様に少しだけ不安になったけど、シャンタールさんが手を握ってくれたので安心できた。


すぐに、全ての空が闇に覆われて真っ暗になってしまったけれど、そんな中でも妖精さん達の演奏は静かに続いていて、これが演出だと理解できてわくわくしてきた。というかさっきとまた曲調が違うし、僅かな時間に合わせた曲を用意してるなんて凄い。


そうして、目が暗さに慣れてくると、漆黒のドームには数えきれない小さな輝きがあるのに気付いた。


それは、人工的な明かりが一切ない、満天の星空だった。空気の薄い高山から見上げた空のように、余りに多くの星々が煌めいていて、圧倒される静かな美しさがあった。


「妾達が用意した贈り物、それは妖精界の星空じゃ。そして、こちらの夜空にはないモノが、妖精界では浮かんでおる」


シャーリスさんの言葉を受けて、賢者さんが魔方陣を操作すると、星空に三日月といくつもの雲……ではなく、豊かな緑に覆われた巨大な岩塊、浮島の姿が現れた。


直径何キロにもなる巨大な島は、なんで浮いてるのか、なんて疑問も出てこないくらい、あるのが当然って感じに浮かんでいて、月明かりに照らされた姿はまさに幻想的だった。


『こんな星空、初めて観ました。なんて美しい……素敵な贈り物をありがとうございます』


って、あまりに感動しちゃって、つい言葉に意識を乗せちゃった。


そんな僕の姿を見て、ユリウス様も楽しそうに笑みを浮かべた。


「シャーリス殿、まさに夢のような贈り物だ。ただ、いつまでも眺めて居たいところではあるが、そうも行かぬ。アキ、式典を続けよう」


ユリウス様に促されて、演壇に登ると、シャーリスさんが杖を振って、僕を浮かび上がらせるように、スポットライトを当ててくれた。月明かりが集まって照らしているかのような素敵な演出だ。


衣装の金属糸が明かりを受けてキラキラ輝いて、夜の闇に映える感じ。多分、この演出に合わせた衣装だったんだろう。素敵だ。それに参加者の皆さん達の少し上に浮いてる残りの妖精さん達が淡い光を纏ってくれたおかげで、薄暗いけれど、小鬼さん達の表情も見えるようになった。


『先ほど紹介のありました竜神の巫女のアキです。先日、ユリウス様より、帝国領各地にある呪われた地について、呪いの研究を行う対象として提供して頂けるとの言葉をいただきました。きたる「死の大地」浄化に向けて大変有意義な申し出ではありますが、複雑な心情を抱える場でもあることから、感謝と哀悼の意を直接届けたいと考えました。そして関係各国に呼び掛けたところ、その全てより賛同の意を得ることができました』


ここで言葉を一旦切って、小鬼さん達の反応を伺ってみた。少なくとも、誰こいつ、みたいな侮ってる雰囲気は欠片も無くて、ちゃんとこちらに意識を向けてくれていて、とても好感が持てる雰囲気だ。今回は時間も短いから、全ての発言に意思を乗せてるけど、それも少し驚かせた程度。ロングヒルに来た人達並みに度胸が据わってるように見える。


では、続けよう。


『鬼族連邦、共和国、財閥、妖精の国、竜の全部族、そして人類連合が賛同の意を示してくれました。皆さんの協力によって、呪いへの理解が大きく進むことになり、それは「死の大地」の浄化の先陣を切る何万という竜の皆さんや、その後に続く人、鬼、小鬼の全ての皆さんを護ることへと繋がります。「死の大地」の浄化は帝国の、小鬼族が第一歩を刻むことになりました。功績は弧状列島に住まう全ての者達が後世へと語り継いでいく事でしょう。この記念すべき出来事を形とする為、宣言書を持参しました。どうぞお納めください』


各勢力のサインが入った宣言書を妖精さん達が支えながら飛んでいき、ユリウス様へと手渡した。


「各勢力からの宣言、確かに受け取った。帝国の民も多くの種族からの思いを知り、その心も癒されることだろう」


妖精さん達の演奏がここで入り、壇上に居た僕達が拍手をすると、それに合わせて小鬼さん達も皆で拍手をしてくれた。その表情からは誇らしげに思う意思が感じられた。





『それでは、各勢力からの発言を携えているのでそちらをお伝えします。先ずは鬼族連邦ですが「因縁の地を提供する申し出に敬意を表する」とあり、必要があれば大規模土木工事への助力を行うそうです。共和国からは「勇気ある決断に相応しい対価を贈り称える」とのことで、防疫・医療技術、物資の提供を前倒しするそうです。財閥は「呪いの分析に必要となる計測機器の無償提供を行う」とのことです。竜族については雲取様から、妖精族についてはシャーリス様から直接お話して頂くので、残りの人類連合の言葉をお話します』


ここで、一旦切って、小鬼さん達の表情を見た。大判振る舞いと言っていい話が続いたことへの驚きや困惑といった感じがあったけど、人類連合の名が出たことで、表情が引き締まった。やはり、殺し、殺されの因縁深い勢力となれば、思うところはあるのだろう。


さて。


『人類連合は賛同の意を示した。ただ、その内訳は賛成三十一、反対二十三、棄権四十七であり、諸手を挙げて賛同したのではないことは理解して欲しい、とのことです』


献体にも等しい行為を認める思い、これまでの争いの歴史が、失われた命が、拭い去りようのない憎しみが拒ませる思い、そしてそれらの間を揺り動き、明確に定まらない思い、そんな入り乱れた思いがあり、それでも全体としては賛同の意を認めた、他勢力と歩調を合わせた、そんな彼らの姿勢を、葛藤する心を言葉に乗せた。


そんな思いに、ユリウス様は応えてくれた。


「帝国にも多くの思いがあるが、今回の共同宣言に人類連合が賛同したことを大いに驚いている。互いに複雑な感情を持つ、そのことを忘れぬことを誓おう」


小鬼さん達もまた、ユリウス様の言葉に頷き、きちんとこちらの言葉を受け止めてくれた。


なら、これ以上重ねる言葉はいらない。


『それでは、雲取様、シャーリス様の順で発言をお願いします』


そう促すと、雲取様が静かに語り出した。


<我の前にあって、毅然とした態度を保つ皆の姿勢にまずは賞賛の言葉を贈ろう。そして、竜の全ての部族が、帝国が示した、呪いへの調査協力に感銘を受けた。我らが「死の大地」に赴く時も、大地を覆い尽くす無尽蔵の呪いについて、予め知っていることの意味を、如何に強い力を持とうとも無策では危うかった事を忘れぬことを約束する。種族は違って当たり前、己が得意とする分野で働けばよい。緑化事業では我らは力になれぬ。その時は皆の活躍に期待するとしよう>


穏やかな語り口に、小鬼さん達も衝撃を受けたようで、ぽつりぽつりと起きた拍手が最後には、自分達を鼓舞するように全員が打ち鳴らし賑やかな雰囲気へと変わった。


雲取様もそんな彼らの力強さに笑みを浮かべた。





そして、最後はシャーリスさん。ふわりと飛んで皆の意識を集めると語り始めた。


「妾達は、こことは違う世界に住まう者じゃ。それが、我らの小さな帽子一つが縁となって、こうして語り合うまでの関係となった。冬の宣言では、弧状列島が統一された暁には、我が国も国交を正式に結ぶことを表明した。しかし、それが為されるまでは何もしないことは意味しない。今回の帝国の決定と、多くの国がその行動に対して声を揃えた、その行いは賛辞を贈るに相応しい。そこで妾達からは、此度の演出と第二部の交流の場を設けることを持って、それに応えることとした。第二部ではゆるりと語り合うとしよう」


風を操った声は会場の隅々まで届き、シャーリスさんはちっちゃいけど、それを軽んじる空気は微塵もなかった。竜神と異界の女王からの賞賛も相まって、小鬼さん達の表情もだいぶ変わってきた。誇りを持つ力強さが増したようだった。


ん、では、これで式典は終了だ。


『それでは式典第一部はこれにて終了とします。長時間の参加ありがとうございました。休憩を挟んで第二部の開催となります。シャーリス様、後は頼みます』


「任せるがよい。では、会場のセッティングを変える故、暫しの別れじゃ」


シャーリスさんが合図をすると、会場を覆っていた夜空のドームが蜂の巣状に少しずつ開放されていき、最後には全てが夢だったかのように、初夏の日差しが明るい広場の景色が戻った。そして夜空の障壁群を制御していた妖精さん達も姿を現して降りてゆき、ふわふわと大勢が躍るように飛びながら、小鬼さん達を控室シェルターへと導き始めた。勿論、楽し気な妖精さんの演奏付きだ。


新たなお祭りの始まりといった感じで楽しそう。


小鬼さん達も穏やかな表情すら見せながら去っていった。





ユリウス様が僕達に近づいてくると一礼してくれた。


「雲取様、シャーリス殿、それにアキ。生涯忘れぬであろう心に残る式典となった。此度の事は帝国の歩む道筋も変えていくこととなるだろう。それと雲取様、申し訳ないが、帝国の民への直接の語り掛けは此度は遠慮していただけないだろうか? 帝都上空に到着してから降りてきた時点で多くの民がその姿を目にし、天空竜の訪問を知ることとなった。ただ、医師達への連絡も増えてきている。これ以上は過剰となってしまう」


<ならば、語り掛けは控えよう。負担を強いることは本意ではない>


ショートウッドの時よりも、注目してる民も大勢目にしたからか、雲取様も不快感は示さなかった。


「それでは皆様、撤収準備を始めまショウ。雲取様は着脱場へ、アキ様と翁は着替えスペースへの移動をお願いシマス」


シャンタールさんに促されて、別れの挨拶もそこそこ、撤収準備が始まった。作業者さん達が座席ハーネスを取り付けようと作業台を動かし始めて、僕も着替えようと移動しようとしたんだけど、ユリウス様にちょっと呼び止められた。


「ユリウス様?」


ちょいちょいと屈むようにと、ジェスチャーされたので膝をつくと、ユリウス様は僕に目線を合わせて語り掛けた。


「アキには多くの感謝と、それなりの不満があるが、それを語り合う時間がないのが残念だ。直通回線ホットラインがあればとも思うが、まだ時間がかかる。秋にはまたロングヒルに皆が集うこととなろう。その時はゆるりと話すとしよう。――元気そうで安心した。あまり心配させるな」


そう言って、そっと抱きしめてくれた。


色々と言いたいこともあったけど、短く伝える言葉が思いつかず、静かに頷くことにした。


ぽんぽんと頭を撫でてくれたユリウス様は、護符が警告を発する前に抱擁を終えると「無粋な音が鳴る頃合いもわかるようになった」なんて笑ってくれた。


短い時間ではあったけど、語らいの時も設けることできて色々と胸が一杯になった。


それからは慌ただしく、椅子ハーネスを取り付けて、飛行服フライトスーツに着替え、魔導人形さん達を空間鞄へと送還して、空間鞄も荷箱トランクに入れて、と帰りの準備を行い、妖精さん達とユリウス様が見守る中、僕達は帝都を後にしたのだった。

ブックマーク、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございます。自分では気付かないので助かります。

帝都での式典も無事終えることができました。今回は妖精さん達もその技を全力に振るった演出ができて満足したことでしょう。彼らが演奏に使ったパイプ群はドワーフ達の力作であり、その音色の調整には随分苦労させられたようです。

夜空のドームは、星空の障壁や浮島、三日月の演出と多岐に渡り、賢者とその弟子達による超難度の集団術式だったりするんですけど、アキはすっごく綺麗だった、程度にしか思ってないので、詳細は鬼族視点のショートストーリーや、用語解説のほうで補足します。

次パートで訪問のエピローグを語って十四章は終了です。

次回の投稿は、十一月十七日(水)二十一時五分です。


<今後の掲載予定>

11月17日(水) 14-26.帝都訪問(後編)

11月21日(日) SS:ユリウス帝と王達の密談

11月24日(水) SS:小鬼達から見た帝都訪問(前編)

11月28日(日) SS:小鬼達から見た帝都訪問(後編)

12月01日(水) 第十四章の登場人物

12月05日(日) 第十四章の施設、道具、魔術

12月08日(水) 第十四章の各勢力について

12月12日(日) 15章開始


<雑記>

献血ですが、2021年11月30日まで、魔女の旅々とのコラボを開催中です。

以下のクリアファイルが貰えるようです。必要で急(貯蓄できないので)、健康なら誰でもできるボランティア活動ですので、ぜひご参加ください。


挿絵(By みてみん)

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