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14-22.傾聴を終えて

前回のあらすじ:傾聴も折り返しを過ぎてきました。あと、帝都訪問に向けた護衛の皆さんとの訓練はかなり大変だったけど何とかなりました(アキ視点)

護衛の皆さんとの訓練で心身共に疲弊する中、落ち着いた場所で、静かに誰かの言葉に耳を傾ける傾聴の集まりは癒やしだった。


というのも、皆さん、不平不満があると言っても、僕に対する苛立ちとか怒りじゃなく、理詰めでは理解できても、感情的には割り切れない、という思いを共有して、といったスタンスだったからだ。


例えば、セイケンは家族と離れ離れの単身赴任状態で、毎回、帰宅すると、家を出る時に娘が泣きそうになって苦労してると話してくれたけど、それなら、今の仕事を選ばなければ良かったかと言えば、そうでは無いと断言してくれた。

勤務地が日帰り距離とは限らないし、家族を連れてくれば、今度はせっかく築いた地域の人達との結び付きが失われる事になる。短い期間で出会いと別れを繰り返すような幼少期は、鬼族では避けるべきと考えられているそうだ。


人は群れの生き物だから、他人との関わり方を成長していくそれぞれの段階でちゃんと学んでいかないと、歪な性格になってしまう。

勿論、人付き合いが苦手だったり、精神的な負担になる人もいるけど、それでも、精神を病んだりしていて治療を優先すべき人でもなければ、何処かで折り合いを付けるしかないのだから。


前に白岩様の前で激しい演舞を披露してくれたレイハさんとは、体術談義で盛り上がった。リア姉との訓練で、五感を最大限活用する事の大切さや、錯視を誘う体捌きなどを教わってるので、それらを話すと、驚かれた。

鬼族の感覚から見ても、それらは応用枠であり、基礎的な体捌きを学び、身体をしっかりと鍛えてからでないと、迷いが出て変な癖が付くので好ましくない、と。

ただ、僕の今の身体付きは少し運動不足ではあるけれど標準的な範囲で、柔軟性もあるし、有酸素運動ですぐ息が上がるような事もない、と話したら、目を丸くされた。


「いや、どう見ても体重が足りないだろう?」


「何、言ってるんですか。ほら、肌艶を見ても健康的でしょ? 街エルフはコレで健康的な範囲ですよ。体を動かすのが好きな人でも父さんやリア姉くらいですからね?」


なんて感じで、鬼族目線からすると、他の種族できっちり筋肉が付いてると感じられるのはドワーフだけで、他はヒョロっとしてて、もっと食べればいいのに、と感じてしまうそうだ。


他には、鬼族と言うと鉄棍を振り回して薙ぎ払うイメージが強いけど、鬼族同士では娯楽を兼ねて、角力(相撲)で競うのが一般的とのこと。

日本あちらと違うのは、地面に手を着いたり、転がっても終わりにならないこと。行司が勝負ありと宣言したら終わるそうだ。体重の乗ってない当身とか、ただ転がすだけ、しがみつくだけ、なんてのは技とは看做されず、観客からも容赦ないヤジが飛ぶと言う。そして習いたての頃は、徹底的に受け身の訓練をして、大怪我を防いでいるそうだ。

でも、それは教育的配慮とはちょっと違っていて、継戦能力を失わず、反撃に繋げる為の技の一環なんだそうで、集団角力だと、対個人技では有効でも、動きが止まるような技を使うと、他の相手から手酷い割込みを受けてしまうそうだ。だから、関節技や絞め技より、打撃技や足払いで転倒させるのが好まれるとのこと。ピンとこなかったんだけど、鬼族が十人くらいで乱戦している中、地に転がることを想像してみろ、と言われて、大勢に踏まれ、蹴られて、ボロ雑巾になる様が想像できて青くなった。


「重戦士達は突き飛ばしや、押し倒しを好むんだが――」


巨大な盾を活かした突進攻撃チャージや、相手の体勢を浮かせる突上げなど、相手の体勢を崩すのが基本であり、芯が揺らげば踏み倒すのも容易いと、身振りも交えて熱心に教えてくれた。


そして、皆がそうして熱心なら、角力が強いと異性にもモテたりするのかと聞いたら、男気を見せるチャンスだからな、と鬼族が好感を持つ男性像についても色々と教えてくれた。

どれが優れていると決着は付いていないとしながらも、相手を技で制するセイケンのようなタイプと、力で制するタイプ、そして力と技を高いレベルで備えたタイプがあり、やはり理想は力と技を兼ね備える事であり恵まれた体格も備えて無くてはその域には達しないそうだ。

こちらに来た事がある中ならレイゼン様はそうかと聞いたら、あれだけの体格でも少し足りないらしい。ただ、それを補って余りある覇気があり、だからこそ、皆が鬼王と称えるのだと熱く語ってくれた。

男も惚れる兄貴肌、覇者って感じだもんね。



そんな武の世界からは距離を置くトウセイさんは、魔力を供給する魔法陣を利用する事で、大鬼化していられる時間の制限も大幅に緩和され、存分に体を動かして、大鬼の持つ可能性を調べ尽くそうとしている、と教えてくれた。基礎的な鍛錬から始まり、術式を併用した武術も、大鬼では異なる気付きも多く、限界はまだまだ見えないと、それはもう楽しそうだ。


「トウセイさんは、魔術の研究が好きな学者さんタイプかと思ってました」


「魔術に深い興味を持つのは確かだ。ただ、私はこの通り、体格には恵まれず、身体を動かすのも苦手だった。それでも私も鬼族の男だ。武の力には憧れたし、技の鋭さに心も踊る。だからかもしれない――」


などと、手が届かないからこそ、憧れ、焦がれ、そして諦めざるを得なかった挫折も味わった、と話してくれた。そして、それだけに大鬼となって思うがままに体を動かすのが楽しくて仕方がない、と話す目はキラキラ輝いていた。


日本あちらの変身ヒーローみたいだと、紹介してみたら、なんと素晴らしい文化だと感動してくれて、能力を落とす代わりに高魔力を必要としない鬼人も良いが、武勇に優れた姿に変身するのも面白そうだ、などと熱く語りだした。


「えっと、トウセイさん? 鬼族は十分過ぎるほど強いのだから、そっちを目指すより、外の世界に乗り出す冒険心の方を満たしましょう?」


なんて、引き戻しにかかったら、苦笑された。


「勿論、鬼族に必要なのは鬼人だと理解しているよ。だがね、アキなら身に覚えもあると思うが、男なら、やれるなら上を目指してみたい、と思うじゃないか」


なんて感じに、否定しにくい流れで逆襲される始末だった。


それにしても、軽く二メートルを超える巨体なのに、この通り体格が残念で、と言われても同意しにくかった。その点については、いずれ、連邦の国を訪問することがあれば、ライキさんが、セイケンの事を、線が細くてこれ以上の伸び代がないのが残念、と評していたのも理解できるだろう、と確約してくれた。ロングヒルに派遣されている鬼族の皆さんは、どちらかと言うと線の細い文官タイプなんだそうで、バリバリの武官タイプの迫力は段違いだ、と。


プロレスラー達と並ぶと、一般人は体の細い中学生くらいにしか見えないけど、そんな感じだろうか。……鬼族の皆さんがズラリと並んだら、凄い絵面になりそうだった。





森エルフのイズレンディアさん、ドワーフのヨーゲルさんからは、雲取様と多くの話をする機会を設けることができて、身近に感じるようになり、尊敬の念も強くなった、なんて話を教えて貰った。近付き過ぎれば負担になるからと、少ない時間と口数で話をするのに気を配ってくれたり、上空から人々の暮らしを眺めて知識を深めたりと、さり気無い気遣いに感激したそうだ。それで、今は心話よりも、緩和障壁を改良して、雲取様と対面できる時間を伸ばそうと画策している、なんて話も教えてくれた。秋には森エルフとドワーフが共同で、雲取様に料理を振る舞う事も決まり、料理人の皆さんもアイリーンさん主催の研究会に参加して、腕を磨いている、なんて話も。


大使のジョウさんは、僕が心の治療を必要とした時期の裏話を教えてくれた。各勢力の要としての役割を担う僕が安定を欠けば、弧状列島の統一に向けた流れも瓦解しかねない。それだけに三大勢力の代表をどう招くか、帰国する際にも、どんな情報を持ち帰れば混乱を防げるか、かなり熱い議論が交わされたそうだ。結局、黒姫様が診察し、その結果を伝える事で事態は沈静化したものの、十重二十重の護りを敷いても、本人に直通されては意味がないと、心話の運用は慎重に行うよう、厳重な要請が届いた、との事だった。

ちなみに、どの勢力も、竜神の巫女としての僕の事は認めつつも、換えのきかない現状は問題視しており、後任の育成について常設の検討組織の設立を決めたそうだ。今のところ、竜神子の皆さんの中から、有望そうな人を選んで教育していく案くらいしかないけれど、僕の代わりにすげ替えたら、ストレスで潰れるのは確実、なんて言われているらしい。


師匠は、さて何を話そうかねぇ、などと言いながらも、ザッカリーさんの主導で、研究に関する管理や説明資料の作成をしてくれる魔導人形さん達を派遣して貰えたのは助かった、と話してくれた。


「これに慣れちゃ、元には戻れないね。研究に専念できるのがこれほど快適とは思わなかったよ。細々とした余計な手間に時間を取られちゃ、老い先短い身には厳しいってモンで――」


なんて感じに、大まかな指示さえ出せば、必要なところだけ意見を求められる程度で、後はきっちり手続きも、資料作成も片付けられる事の素晴らしさを語ってくれた。以前は研究をする為に、半分は時間を食われていた、そのせいで研究の時間の確保にも苦労したもんだ、と。


ザッカリーさんから聞いた様々なやり取りについても「そいつは誤解ってもんだよ。いいかい?」なんて感じで、師匠の視点から見れば、それは必要で仕方ないところで、限られた予算がみんな悪いんだ、なーんて話になっていた。


ザッカリーさんは、今の研究組が、師匠にすら並ぶ精鋭揃いであり、師匠が皆を牽引して引きずり倒すような惨状にはならず、それどころか互いに刺激し合う事で、チームとしての連携も上手くなってきた、と嬉しそうに語ってくれた。彼らの言うところの「余計な雑事」に煩わされず、研究に没入していく様は頼もしくもあり、熱中し過ぎるのを抑えるなどと言う真似をさせられると、こいつら子供か、と呆れもする、とも。


ただ、そんな精鋭達を十全に働かせる環境を用意する事の難しさも痛感した、と教えてくれた。研究組の語る内容を理解して資料化できる事務方とは、一流の研究者で有りながら事務にも優れる人材である事を意味し、研究者達がストレスに感じない程度の少ないやり取りから、残りを推測して埋めていける力が必要らしい。事務方の皆さんも頻繁に勉強会を開き、彼らを支援する要員も確保して、何とか回していると聞いて驚いた。


でも、その事に驚いた僕に、ザッカリーさんは何とも面白いものを見た、と笑いだした。


「自覚が無いようだが、活動を支える最も多くの裾野を必要としているのは、間違いなくアキだ。直接、面識のあるサポートメンバーしか念頭にないようだが――」


そう言って、楽しそうにホワイトボードに僕を中心とした関係図を書いてくれた。


マコト文書だけでも、本国のマコト文書の専用図書室の司書さん達、ケイティさんやアイリーンさん達の必要とする資料の用意をしている侍女さん達、他言語への翻訳チーム、抜粋版以外の情報の公開範囲を検討するチーム、ロゼッタさんの率いる特許関連の知的財産管理チームと言った具合に、ちょっとした企業並みの体制になっている有様で、聞いてて頭が痛くなってくるレベルだった。





そんな感じで傾聴も一通り終わり、後はヤスケさんの話を聞いて終わりとなった。


以前の勢いからして、嵐のような物言いとなる事も覚悟したんだけど、別邸の居間で、ベリルさんが支援で立ち会っているだけで、リラックスした雰囲気から始まった。


「ケイティに確認したところ、アキは我が国の政治体制について殆ど知らないとの事だったので、それらについて、まずは説明する事にした。そもそも長老とは――」


なんて感じで、以前、教師役をやってくれた時と同じように、手慣れた感じに共和国の政治体制とその中での長老の立場を教えてくれた。


なんか偉い人くらいにしか認識してなかったんだけど、長老はある程度の期間、議員として活動を行い、その実績が認められた者だけが選ばれる少数精鋭の集団であり、国家代表の任と、議会の決議を最終審議する役目を持つそうだ。任期制で、一定期間務めたらメンバーを入れ替える事で、組織の硬直化や権力の過剰な集中を抑えているとのこと。

まつりごとの扱う内容は多岐に渡る為、長老達はそれぞれ専門分野を持ち、仕事を分担する仕組みにする事で、負荷を分散しているそうだ。それでも、他の分野への理解もしておかねばならないと言うから、内閣制度の各大臣が国家元首も兼任するような仕組みっぽい。


「そして、儂は共和国の代表であり、アキの対応を専任している、という事だ。そもそも――」


そして、そこから落ち着いた口調で淡々と話してくれたのは、要約すれば、盛大な愚痴だった。本来は持ち回りの筈なのに、ロングヒルにいるからと代表として常に働く事になり、代わりの者を寄越せと言っても、国内の統制で手一杯だと断られ、議員を二人派遣しているのだから仕事を回せばいいなどと簡単に言い、竜族の相手なんぞをしてストレスで胃に穴が空きそうだと話したら、翌日には胃薬の大箱が届き、殺意が湧いた、とかとか。


歳を重ねただけで、何でも深く理解できてる訳がなく、日々の仕事をしながらも、新しい分野の勉強も欠かせず、派閥の議員達との交流や後進の育成も考え、内心がどうだろうと、落ち着いた態度で最終決定を下し、何か起これば矢面に立つ。


任期が終わると、誰一人、長老の立場に固執せず去っていくのは何故か。名誉と報酬はあっても、重圧と分刻みのスケジュールに忙殺される日々は、まるで割が合わないからだと聞かされた。


「なんか、夢も希望もないですね」


「長老の地位を打診されるとな、これが最後の国への奉公となるだろうと、覚悟を決めるものだ。薄っぺらな権力欲や義務感だけでは到底やりきれん。そもそも我々、街エルフは――」


人形達に支えられて、衣食住に困る事はなく、好きな仕事だけやっていても充実した人生を楽しめる。だが、誰かが全体を見なくてはならない、まつりごとを担わなくてはならない、企業がバラバラの方向に好きに動くと齟齬が出る部分を何とかせねばならない、より良い未来へ、何かあっても乗り越えられる体制へと進めなくてはならないのだ、と。


「ヤスケさんも、誰か代わりがいたら喜んで代わってあげる感じですか? これまで接点の無かった他種族と手を取り合って、国内を統一して皆で新たな枠組みを創り出していくのってワクワクしてきません? お爺ちゃんなんて、毎日が最高だーって感じですけど」


「うむ、儂はこれ以上無い程幸せじゃ」


お爺ちゃんがくるりと回って、全身で楽しさを表現すると、ヤスケさんは、眩しそうに目を細めた。


「翁のような変わり者は妖精の国とて、そうそう居ないだろう。若さか、或いは探索者のような資質か。未知に向けて皆を引き連れていくような者に任せられるのは、せいぜい探索チームまでよ。未知への挑戦と安定はなかなか両立はしないものだ」


ロングヒルで他種族と交流する事を楽しむ気持ちはある、としながらも、それだけに専念してればいい気楽さと、国の代表としての立場を兼ねるのは大変だ、と話してくれた。




そうして、リストに載っていた人達への濃密な傾聴も終わり、ヤスケさんが話を切り出した。


「それではアキ、最後に聞こう。今回、多くの人々と傾聴を行って何を感じたか。取り繕う必要はない。……が、念の為、意思を乗せて話すのだ」


あー、なんか、最近、意思乗せが嘘発見器代わりに使われてる感じだ。相手に求められて、それを拒むと、本心を隠していると勘繰られかねないから、今回は無理だけど、ちょっと対策を考えよう。


『そうですね。以前よりその人のイメージがよりしっかりして、深みを増した感じでしょうか。単に役職として、立場として僕と向き合っている部分だけじゃなく、他の面や、それについて何を考えているのか、どう見ているのか、そんな内心を話してくれたので。状況を設定したら、その人がどう振る舞いそうか、想像しやすくなった感じです』


そう話すと、ヤスケさんは少し考えてから、口を開いた。


「今回の傾聴の技能は十分高く、アキの心を育てる切っ掛けとなったと認め、単位を認定しよう」


おー。


でも、まだ言いたいことがあるっぽい。


「だが、儂は立場上、敢えて聞かざるをえない。話をした多くの者達と、何かを比べた時の天秤の傾きは変わったか、と」


ヤスケさんが、じろりと薄暗い闇のような目を僕に向けた。


前にケイティさんが言ってた、様々な事が僕の心の中で、重みが変わらないように思える、という話だね。


『そう言われた時も、国と御菓子を同程度に看做していた訳ではないですけど、当時よりは何かを考える時、その影響を受けるであろう人達の事が心に浮かぶようになったのは確かです』


色々話を聞いたから、何が誰に、あるいはどの国や組織に関係するかも、理解が進んだからね。ただ、ヤスケさんは、更に一歩踏み込んできた。


「他の何よりミアの事は重きを置く、それはどうか」


『ミア姉の悲しむような選択はしない。ケイティさんに聞かれた時と答えは変わりません。でも、それを聞きたいんじゃないですよね?』


「そうだ」


なら、僕の思いを、決意を語ろう。


『世がそれを拒むなら、世の方を変える。(ことわり)がそれを拒むなら、(ことわり)を曲げる。この世界の力を集めても手が届かないなら、他の世界の力を持ってきてでも届かせます』


天秤にミア姉を乗せるなら、他の何を乗せようと、どれだけ乗せようと、必ずミア姉の方を重くする。そうならないなら、他の何かを、或いは全てを変えてでも、そうしてやる、と。


諦めることだけは絶対しない、その思いを強く言葉に込めた。


「そこは変わらぬか。いや、そこが変わらぬからこそ、か」


良いとも悪いとも言わず、ヤスケさんはそう話して頷いた。


あー、でも、ちょっとフォローしておこう。


『ただ、僕にできる事は殆どないので、これまでのように、皆さんにお願いして力を貸して貰わないと、何もできないんですけどね。これからも進んで手を貸して貰えるように頑張りますよ』


全員、笑顔でハッピーエンドが理想ですから、と話を纏めると、ヤスケさんは顔を顰めた。


あれぇ?


「本心からそう言ってるのは伝わってきたが、謙遜も過ぎると嫌味になるぞ。半年前の自分を思い返してみろ。三大勢力の代表達の名すら知らず、彼らと話をする伝手も無かった。つまり、今、それができるということは、それもまたアキの持つ力だ。力を持っているのに、持ってないなどとアキが言えば、他の者達への邪推を招くが、それは望んではおらんだろう?」


なるほど。伝手を得るのだって普通は大変だもんね。直接話をしたい、と言ったって、どこの誰とも知らない相手と話をしてくれる筈もない。


『すみません、ちょっと権力者的なイメージで話しちゃってました。気を付けます』


そう謝ると、ヤスケさんは色々と言いたいことが他にもあったようだけど、今回はここまでにしよう、と終わりを宣言してくれた。





さて、話も終わりかな、と思ったら、ヤスケさんがそういえば、と話を持ち出してきた。


「ケイティとの心話はまだだったか?」


う、それか。


『思ったより帝都行きのための訓練が進まなくて、後回しになってます』


「義務感から心を触れ合わせ続けようとはせぬようにな。受け止めきれないと感じたら、距離を置け。下がることは不実ではない。覚えておけ」


ヤスケさんの助言はいつになく具体的だった。


……つまり。


『あの、もしかして、かなり不味いです?』


恐る恐る聞いてみると、ヤスケさんは悟ったような眼差しをした。


「好いた女子に男は勝てず、権力も金も名声も何の足しにもならん。そしてな、女子の中には、過去の不実は決して消えず積もっておるのだ」


う、なんか、怖くなってきた。


けれど、ふわりと飛んできたお爺ちゃんに逃げ道を塞いでくれた。


「これもまた経験じゃよ。骨は拾ってやるからのぉ」


どうも、お爺ちゃんの中では、既に勝敗は決しているようだった。

ブックマーク、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

傾聴もやっと終わりました。アキの心の中でのこちらの人達の重さも少し変わったようです。

ミア第一主義は一切揺らぐことなし。ただ、穏便な選択肢を探す努力は以前よりもうちょっとだけ頑張るようになりそうですね。それをこちらの人々が穏便と感じてくれるかどうかはわかりませんけど。


そして、ケイティが「重いですよ」と宣言した心話に、ヤスケがいつになく丁寧な助言をしてくれました。街エルフの主義から行けば、助言なしでやらせるところですが、帝国訪問まで日があまりないので、そういう訳にも行きません。悩ましいところです。


次回の投稿は、十一月七日(日)二十一時五分です。

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