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14-21.帝都訪問までの穏やかな日々(後編)

前回のあらすじ:本来、ロングヒルに来たら行う予定だった、教育過程をこなしつつ、合間に傾聴も行い、リア姉と一緒に久しぶりに魔術の訓練も行いました。そこで僕の魔術発動時のイメージが、こちらのソレとはかなり違っていることが、白竜さんの詳細調査で判明しました。空間固定だとか、意識の加速とか、超技の話がぽんぽん出てきて竜族の凄さを再認識。でも、一番印象的だったのは、疲れた目元を指圧してる白竜さんの仕草ですね。とっても可愛くかったです。(アキ視点)

傾聴も半ばを過ぎて、皆さんの話す傾向が少し見えてきた。自身の歩みや興味を向けるところ、仕事など、語る内容は多様だけど、語る内容について自身が何を思うのか、単なる仕事上の関係とか、役職とかではなく、仮面の下の素顔を見せる、そんなスタンスを外さない感じ。


ニコラスさんは一番顕著かな。品のいい服をスマートに着こなして、胡散臭い雰囲気はあるにせよ、お洒落で格好いい、タフで頼れる男、そんなイメージを常に崩さないところがあった。でも、今回は仕事に悪戦苦闘してたり、とてもお疲れで、椅子にそのまま沈んでいきそうな表情まで見せてくれた。舞台から眺める観客視点だけで無く、舞台袖の奥でスタッフにだけ見せる等身大の姿を垣間見たようで、嬉しかった。

そもそも大統領だよ、と言われても、凄いねーで終わりだけど、ニコラスと言う、大国の後ろ盾なしにその地位に登り詰めた男なら、その生き様を知りたい、と思えてくるからね。


歴史の勉強に似てるかな。年号と名前とイベント名の羅列を眺めるだけじゃ、記憶に残らないけど、その人が置かれた頃の世相とか、家庭環境とか、人生の歩みなどを知って、イメージできるようになると、情報量としては増えるんだけど、しっかり心に残るようになるから。

世界史も、日本の歴史だけ眺めるんじゃなく、同時代の関係する国々の置かれた状況までセットで捉えて、今の感覚で見るのではなく、当時の人の思想とか、関係を意識すると、活き活きと流れが捉えられるようになって、途端に面白くなってくる。


そうなってくると、好きなコミックの細かいシーンまで覚えているのと同じで、全体の流れから、細かい部分も芋蔓式に思い出せたりもして、楽しく感じられたものだった。





小鬼族のガイウスさんは、今回の件について、本国に報告書を送ったところ、僕達の訪問に備えて、調整を担う特使が来たそうだ。ロングヒルでは当たり前となりつつある多様な種族の話をあれこれ聞かれて、新鮮な気付きを得る事もあると教えてくれた。特に、雲取様は単なる天空竜の一柱では無く、竜族の代表として訪れる事がほぼ確定しているだけに、受け入れ担当達も命懸けで挑んでいる有様だと。

慶事なので、何か問題が生じたとしても、気に病まないように、担当の方々がストレスに潰されないように、と重ねてお願いした。

天空竜の前に、立てるだけで、彼らは敬意を示してくれるのだから、そう深刻に考える必要はないですよ、と話すと、そう伝えておきましょう、と優しい笑顔で請け負ってくれた。


小鬼研究者達の紅一点、ユスタさんは、他の種族の竜神子さん達から、あれこれ相談される事が増えてきたそうだ。基礎的なところは学んだものの、いざ、帰国してみれば、自身が担当する事になるだろう天空竜について、殆ど情報がない事に気付いて愕然としたとか、普段、高空を飛んでいる竜にも、以前と違って、誰だろうか、どこに向かってあるのか、何が目的か、と意識するようになったとか、ちょっと混乱しつつも、前向きに取り組む様子が伺えた。なぜ、ユスタさんに問い合わせが集まるのか疑問に思ったんだけど、彼女自身の分析では、一番小さくて力が無いから、天空竜への怖れに共感を示してくれそう、と思えるからではないか、との事だった。

実際は、共同合宿で学ぶ姿を見て、信頼できる、決して相手を嗤ったりはしない、と思えるから、というのが大きそうだけど、何にせよ、竜神子同士の交流が活発なのは良い事だと思う。


他の研究組の小鬼の皆さんは、帝国における研究者達の日常について、色々と話してくれた。紙と鉛筆があれば仕事ができると思われがちな理論魔法学も、実は理論だけ捏ねくり回している訳ではなく、製造現場に呼ばれたり、実験に立ち会ったりと、他分野との交流も多く、そうしたところから閃きを得る事も多いそうだ。

予算が乏しく、技術的にも伸び悩むところも多いけれど、それだけに何とか抜け道を探そう、より容易な案を考えようとする意識は常にあり、一見すると突飛と思える話にも耳を傾ける土壌はあるそうだ。

僕も地球あちらのソ連を例に、経済力では大きく差が付けられながらも、先進的な理論を発見し、無理のない技術で使い勝手のいい武器を産み出した話などをすると、結構、興味を持ってくれた。彼らは経済的に優れた米国の失敗事例にも興味津々だったので、先進的機能山盛りの挙げ句、失敗した偵察ヘリとか、お前のような駆逐艦がいるか、と突っ込まれたズムウォルト級駆逐艦とか、色々と披露した。

何でもできるのは、何をやらせても中途半端となりがちだとか、そもそも発注側が何が欲しいか考えが纏まってないとか、そういう話は小鬼族の皆さんも思い当たる事があるようだった。





帝国への初訪問なのと、護衛役が新米のシャンタールさんと言う事もあり、本番時の護衛や、もしもの際の対応について、確認作業を行う事になった。


で、ロングヒルや共和国の時とは違うので、念の為、護身用として、乱戦時に取り回しのいいショートソードを渡されたんだけど、刃引きされている訓練用だと解っていても、誰かに向けて振り降ろすのが……どうにも駄目だった。


これまでは、護衛人形さん達の動きを邪魔しないようにジョージさんの後ろに立ち位置を変えれば良かったんだけど。


護衛人形さん達の護りを抜けてきた時に、自分でも身を守れるようにしろと、渡されたショートソードがやけに重く感じて、全然、まともに使えなかった。


小鬼人形のタローさんに、武器を構えるよう言われて、振り方でも見てくれるのかと構えたら、そこに向けて真っ直ぐ距離を詰めて来たから、慌てて構えを解いて怒った。


「タローさん、剣の間合いに入ったら怪我しちゃうから駄目じゃないですか! いくら腕に自信があっても、ちょっとした不注意で怪我しちゃうんですよ!」


刃引きの訓練用であっても、取り扱い注意だと、常日頃から言われていたので、気が緩んだのかと怒ったのだけど、タローさんは、何とも困った表情を浮かべ、まぁ落ち着け、と手を振った。


何か思ってた反応と違うので、怒りがちょっと静まり、そのおかげか、やっぱりなぁといった感じに皆さんが肩を落とした様子が見えた。


「え?」


勢いが削がれたのを見て、これ幸いと、タローさんが、先程の訳を話してくれた。


「アキ様、本番を想定した訓練なんで、俺らには遠慮なく、武器を振るってくれないと。俺達は丈夫なんで、訓練用の武器程度で怪我したりはしませんぜ?」


そう言って、持っていた短剣ダガーを無造作に、自身の腕に振り下ろし、鈍い打撃音がしただけで、何ともないと、実演してくれた。


だけど。


刃が刺さりそうと思っただけで、声を上げてしまい、そんな僕の様子に、タローさんの方が驚いた程だった。


「薄々、解ってはいたが、まぁ、今回は諦めて、プランBにしよう。小鬼人形の敵役は赤、味方役は青の服に着替えて仕切り直すぞ。アキの得物は短杖ワンドに変更。陣形は護衛人形達の間を、小鬼人形がカバーする八方位、但し、小鬼人形は異変に気付いてからの緊急召喚だ。シャンタールは、喚ぶ際に即応指示を忘れるな」


ジョージさんが仕切り直しを宣言し、他の皆さんは直ぐに準備に取り掛かっていくけど、僕は謎だらけだったので聞いてみた。


「ジョージさん、少し説明して貰っていいですか? それにプランBって?」


「アキが、身を護る為に武器を振るえるなら、周囲にいる護衛達の邪魔をしない、効果的な使い方をレクチャーする、それがプランA。総武演で小鬼人形達が傷付いたのを見てタオルを絞れるほど泣いたお嬢さんだと、いざという時、体がまともに動かないかもしれんから、その場合は本人には体に刃が当たるのだけは防げるように棒でも持たせて、迎撃担当の難度は跳ね上がり、陣形の密度が上がる分、指揮も苦労が増えるが、空間鞄から後詰めを喚んで、耐えようというのがプランBだ」


血気盛んで敵に突っ込んで行かれても、それはそれで困るが、まさか説教し始めるとは思わなかった、と笑われてしまった。


そもそも、今日の訓練だって、小鬼人形さん達は敵役で、刃引きの武器だから遠慮せず振り回せ、彼らもプロだから、怪我するようなヘマはしない、と始めに説明はされていたんだよね。


されてはいたんだ。


でも、構えた剣に誰かが当たりそうと思った時点で、もう、危ないって思いしかなくて、それ以外の話が頭から飛んでいた。


代わりに渡されたワンドなら取り回しはいいし、全力で振り回しても、凄く痛い、程度で済むから、まぁ、これなら遠慮なく振り下ろせそう。


「生き物相手に武器を振るうのは、慣れも必要だからな。遠距離の敵に射撃するのだって、新兵は躊躇し、慌てるせいでまともに当らないなんてのもよくある話だ。だから、今はそれでいいさ」


ジョージさんは、時間もないし、無理をさせてどうにかなるもんでもない、と理解ある態度を示してくれた。


ただ、そこから、目を細めてきた。


「だが、そのせいで、空間鞄内から、短い指示だけを頼りに、いきなり至近距離に敵が迫った状態からの迎撃をさせられる小鬼人形達の大変さは、知って貰わないと、な。アキも将来は人形遣いになるのだから、理解は大切だ」


そう言って、指揮役のシャンタールさん、護衛人形さん達、空間鞄から喚ばれて前衛を任される小鬼人形さん達それぞれから、それはもう懇切丁寧に、誤解の余地なく理解するまで、きっちり説明された。


実際の動きも魔導具で記録した護衛側の視点を、幻影で見せて貰ったんだけど、酷かった。

空間鞄から喚ばれ、魔法陣から外に出た時点で、目と鼻の先には、殺意に満ちた暗殺者役の赤い衣を着た小鬼人形さん達が走り込んできてる、という極限状態から始まっていたからだ。

護衛役は抜き打ちで何とかするしかなく、抜くのも間に合わなければ、鞘ごと相手に叩きつける有様で、ジョージさんが、難度が跳ね上がると言ったのも当然と理解させられた。


母さんが総武演で後詰めを喚んでた際は必ず、前衛が前に出てスペースを確保してから喚んでいた。だけど、プランBでは護衛人形さんの間、前方に出ることで、敵を止めるか、勢いを弱めて護衛人形さんの側に流して処理させるという先鋒役だ。


危険性も難度も跳ね上がる。


それでも護衛人形さん達を前に出して召喚スペースを確保するのは、今回の場合は厳しい。総武演の時と違って、上空で全体を監視する鳥人形も飛んでないし、陣形中心にいるのは、自前でも戦える人形遣いだけではなく、その傍らには戦力外の護衛対象もいるのだから。初手で護りの隙間を広げるのは無茶だ。


繰り返される訓練でも、敵の動きが読みきれず、指示に問題があって、小鬼人形さんが吹き飛ばされたり、体勢を崩されたりと、大苦戦。


僕も位置取りをミスって、シャンタールさんとぶつかったりして、頭数を増やせば安心って訳じゃないと痛感させられた。


それでも、二日、三日と訓練していく内に何とか形になり、トラ吉さん代理のアイリーンさん、ケイティさん代理のベリルさんも参加したパターンも追加していった。最終的には、ジョージさんにも、最低ラインはクリアしたと認めて貰うことができた。


ちなみに、僕の傍らには常にお爺ちゃんがいて、危ない時には障壁で割り込んでくれた。


僕の振り回した短杖ワンドは、どちらかと言うと味方を叩いた事のほうが多くて、自分の脚にも何度も当たり、相手の刃を短杖ワンドで防ぐのも、勢いを殺しきれず、滑ってきた刃に握っている指を斬られる流れもあったり。


実際は、どの場合もお爺ちゃんが障壁で割り込んで、薄皮一枚で防いでくれて、誰も怪我をすることはなかったんだけど、凄く怖かった。


刀なら鍔があるけど、杖にはそんなのは無いから、刃物相手に組んで力で押し勝とうとするのは悪手。刀使いの方はとにかくどこでも斬れば有利に繋がる。刃に毒を塗っていればそれまでだし、そうでなくても出血すれば、力は大きく削がれてしまうのだから。


ミア姉の経験のおかげで、経験のない僕でも杖術の動きはそれなりなんだけど、敵に対する振る舞いは単なる運動じゃないから、全然思ったようにはいかなかった。いくら体格差があっても、身体ごと突っ込んでくる敵役の小鬼人形さんに、腕の力だけで振り回す程度では、短杖ワンドを弾かれたり、そのまま押し切られたりして、まるで駄目。


「アキ、短杖ワンドは警棒じゃないぞ。その細腕で叩いてどうにかしようと思うな。体術を併用して、全身の力を叩きこめ!」


ジョージさんにも、そうやって、何度も指示が飛び、少し涙目になりながらも頑張った。


一回の訓練での戦闘は僅か十秒程度何だけど、訓練終わり、死体は動いてよし、と掛け声がかかるたびに、酷い疲労で崩れ落ちそうになるくらい。


ジョージさんの演出がまた上手く、演壇に立って話をしている状況ということで、実際に僕が本番を想定した台詞を話していると、遠くで爆発音がしたかと思ったら、参加者達の一部がいきなり全力で襲い掛かってくる、みたいに本番に即した状況を用意してくれた。

更に、同じことの繰り返しにせず、タイミングも襲ってくる相手の人数も、敵の武器も違う、といったように、常に心を研ぎ澄ますことを強いられた。


しかも、襲撃を念頭に置き過ぎると「アキ、それじゃ平和の使者になってないぞ」などと野次られたりもして。


エリーやケイティさんもたまに様子見に来てくれて、凹んでいる僕を励ましてくれたのが癒しだった。


始めは少人数と思ってたのに、最終的には小鬼人形さん達も小隊規模で参加してきて、訓練も大掛かりなものに。後で聞いたら、小鬼人形さん達は小さいので、空間鞄に入るだけ連れて行くことにした、とのことだった。


「アキ様、これで万一の事態への備えは安心デス。訪問時の初夏向けの衣装合わせもそろそろ始めまショウ」


シャンタールさんもそう褒めてくれた。指揮をしている時の凛々しい顔もいいけれど、やっぱりシャンタールさんは衣装の話をする時の笑みが似合っていると感じた。




帝国訪問を思いついた時は、雲取様とお爺ちゃんと僕だけでこじんまりと行くイメージだったけど、護衛の皆さんを含めてチームで行くのだと、意識が改まった。皆が支えてくれるなら、後は、僕は僕にしかできない本業に専念すればいい。きっと、小鬼族の皆さんの心に残る思いを届けよう。

ブックマーク、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

駆け足気味ですが、傾聴の方もやっと半ばを過ぎてきました。紙面が限られる媒体なら、一部の人の話だけピックアップする感じになるところですけど、アキが自身の周りで支えてくれている人達に目を向ける大切なシーンなので、あまり削る訳にもいかないかな、と。

とは言え、ちゃんとした会話形式にしたらそれぞれに1パートずつ使うような話になりかねないので、そのあたりの匙加減が悩ましいところです。


自身が同行できないこと、指揮役が促成栽培のシャンタールということもあって、ジョージの護衛訓練の指導も結構熱が入りました。アキが人に刃を突き立てることに躊躇する性格だと予想もされていたので、大穴のプランAはやはり当たりませんでした。

アキは訓練も大変だったけど頑張ったと自画自賛してますが、会場全体に目を光らせる妖精達もいない、護衛人形達も呪紋を用いず、魔導具も使わず、といったように、アキが最低限押さえておかないといけない範囲だけの限定訓練でした。

シャンタールは、長距離狙撃や爆破、魔術等も含めた攻撃に対する護衛チームの検討会議にも参加してて、畑違いなこともあって苦労してます。それでも何とか時間を確保して、アキの装いの準備にも手を抜かないあたりから、彼女の矜持が伺えます。


持ってく戦力も装備も過剰なことこの上ないんですが、アキが弱っちいので、万に一つの危険に備える護衛チームの苦労はなかなか減りませんね。


次回の投稿は、十一月三日(水)二十一時五分です。

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