14-19.三大勢力の反応と妖精達の本気
前回のあらすじ:「死の大地」に大量の罠やNBC兵器が残っているかもしれない、そんな話をしたら、ロングヒルに居る主な街エルフの皆さんが全員集まる事態になりました。そこまで急いでなかったんですけどね。ヤスケさん預かりになったので、後はまぁ何とかなるでしょう。(アキ視点)
僕が提案した、帝国に行って宣言する話と、おまけで思いついた、竜の好きな食材の生産拠点が戦火に晒される事を嫌うことによる戦争抑制効果の話あたりが書かれた手紙が、三大勢力の各代表に送られた。
一緒に、各代表に向けて、僕なりに色々と相手の立場を考えて、応援したり、心配するだけじゃなく、必要があったら手を貸す旨も書き足した手紙も送って貰ったりもして、何かリアクションがあるにしても、一週間後とかだろうなぁ、とか思ってたら、三日後には三人から、第一報が戻ってきた。
レイゼン様は、提案への賛同と、どうせなら連邦の首都にも顔を出せ、と提案してきた。僕に対しては、心が消耗していた頃の印象が強いようで、「死の大地」の浄化について、呪いの調査に時間がかかることから、帝都訪問と表明は無理に前倒しにする必要はないから、心身の状態を万全に整えることを優先しろ、と書かれていた。
次に会ったら、俺も言いたいことが山ほどあるから、覚悟しておけ、とも。
ユリウス様は、各勢力からの賛同を得ての訪問となれば、勿論、歓迎するとのこと。また、竜族の代表として雲取様が来訪することから、帝国としても礼を尽くしたいので、以前、連樹の神様から言われていた、小鬼族への便宜を図る権利を行使し、緩和障壁の魔導具一式を借り受けたい、とのこと。この点は僕に手紙が届いた時点で、共和国と財閥の判断として、貸し出す方針で確定した、とケイティさんが教えてくれたから安心だ。
また、訪問時期については竜族の訪問を受けるに当たって万全を期する為、訪問日の前後一週間は、連合、連邦との間で停戦協定を結び、同期間中の軍移動を行わないよう配慮して欲しい、との提案があったそうだ。
まぁ、この話はこれから連合、連邦に書簡が送られて、対応が行われることになるから、少し時間はかかると思うけど、揉めるような話でもないかな。連合が提案に賛同してくれたなら、という注釈は付くけど。
僕宛のページには、帝国にも良いところはあり、本来ならそういったところの紹介もしたいところだけど、雲取様が降り立ってる時間はできるだけ短くせざるを得ないので、次の機会に見送る、と書かれていた。当日の演出を全て妖精族に任せる点もとても楽しみにしているとあって、良い感じ。
まぁ、手紙に書き辛い部分は再会した際に語り合うとしよう、とあったのがちょっと気になるところだけど。
そして、ニコラスさん。提案の趣旨は理解し、自身としては賛同の意を示したいところではあるが、戦時の判断とする状況でもなく、各地の代表達を集めて意見の擦り合わせを行う必要があって、最終的な返事は二週間ほど先になるだろう、と書かれていた。
帝国首都への訪問と、全勢力の合意に基づく謝意を贈ること自体は、多くの効果が見込めることから、良策と考えているともあって、あんまり怒ってなさそうかと思ったら、二枚の写真とメモがついてて、ニコラスさんの胸の内ががっつり伝わってきた。
一枚目の写真は、大きな事務机にうず高く積まれた公式文書の山と、それと格闘しているニコラスさんの激務の様子で、連合所属国への緊急招集の指示書の準備に追われている、とあった。扱いに注意が必要な国には専用の文書も考えねばならず、文書を一通考えて、後は複製してサインするだけ、とは行かず大変だ、とも。
……二枚目は、どれだけ完徹したのかと思うほど、目の下の隈がくっきり出たお疲れな顔の写真で、人が揃って会議を開催できるまで少し間があるから、少し休めそうだ、なんて書かれていた。
健康的で頼れるタフな男、というイメージは崩せないが、そうしていると僕がいくらやっても大丈夫と誤解するのは理解したから、取り繕わない姿も見せることにしたこと、自分が大統領でいる間は、絶対漏らさないように、と注意書きまで赤文字で強調してあった。
僕へのお願いとして、何か起こしたらその影響が行き渡るまで時間もある程度かかるので、立て続けに騒ぎが起きるのは好ましくない、しかし、起こすなと言ってもどうにかなるものではないので、できるだけ速やかに情報を展開してくれ、と書かれていた。
そして、連合は他と違い、大統領権限はそこまで強くなく、即断即決と行かない場合も多い、直通回線の敷設が待ち遠しい、との言葉で終わっていた。
三者三様、皆さん会った時に言いたいことが積もってそうだから、それは覚悟するとして、わかりやすく写真を二枚付けてくれたニコラスさんの心遣いと、負担の多さが際立ったように思えた。写真は大切なモノをしまう箱に入れておくとしても、綺麗に収納できるようフォトアルバムが欲しいところだね。
人類連合の寄り合い所帯なところが、やっぱり何かする際の初動の遅さになるのは、ちょっと注意した方が良さそう。場合によってはまず連合に探りを入れて、それからというステップを踏む必要もあるかも。
あと、三人とも、竜の好む食材の生産拠点の脆弱性と、戦火に晒される危険性については、竜に提供する料理を用意する検討だけで手一杯だったので、指摘してくれたことには感謝すると返事をしてくれていた。ただ、そこまで原木の調査などもしたことはなく、対応が難しいともあって、影響範囲がどれだけ広がるか未知数っぽかった。
◇
で、三大勢力からの一報を聞いて、竹案までは確定した訳だけど。
「ならば、後は宣言文に人類連合が加わるか否かだけで、帝国に赴くことは決まりよな。これから暫くは多人数召喚は控える故、そのつもりでおるのじゃぞ」
などと、シャーリスさんが大張り切り。
雲取様や、小鬼族の大勢の参加者達が揃うこともあって、会場は外になるのは確定だけど、敷地面積をどれくらいにするか、なんてレベルから、帝国と密に調整をやり出した。
なんで、そうだ、なんて言い方かというと、当日の演出は、僕も含めて小鬼族の皆さんに見せるまでは秘密とされて、詳しくは教えて貰えなかったからだ。雲取様やお爺ちゃん、同行する魔導人形の皆さんなどは警備の関係もあるので、事前リハーサルにも参加して貰うけど、それも僕はシャットアウトされる徹底ぶりだ。
「シャーリスさん、気合入ってますね」
「こちらでの妾達による初の催しじゃ。熱気の高まりは止められぬわ」
連日の多人数召喚枠すら絞って、妖精の国で準備を進めてるくらいだから、気合の入り方が違う。きっと、楽しい催しとなることだろう。お爺ちゃんも、何でも術式で創造とは行かないからと、ヨーゲルさんに道具作りを依頼したりもしているらしい。モノ作りなら彫刻家さんにお任せかとも思ったけど、祭りを他人任せなんてあり得ん、と笑っていた。
雲取様とお爺ちゃんと三人でちょっと訪問して、各勢力からの言葉を伝えるだけ、と思っていたけど、想像以上に大掛かりなことになりそうだった。
◇
探索者支援組織の方からも、紫竜さんの尻拭いで、魔獣達を元の生息域に戻す作戦について、三大勢力が協力して事に当たる必要があるとして、それぞれに協力要請の依頼が飛んだ。
趣旨としては、問題を他勢力に押し付けるのではなく、協力して被害を最小限に抑えようとする点にあって、この点に異を唱える勢力はなかった。事の発端が紫竜さんな事もあって、話が拗れると、竜が出てきて更にややこしいことになるという危機意識もあったっぽい。
というか、この件だけ別口でやっぱり僕宛に三人から手紙が届いたんだけど、問題を起こした人が罪を償うのは当然だよね、という僕の案について、余計に混乱するだけだから、頼むのは簡単かもしれないが、竜に最初に頼もうとするのは絶対止めろ、と意見が揃った。
鬼族は何かあった場合の後詰めとして控える形で、小鬼族は連邦領と帝国領での情報収集を担う形で、連合は樹木の精霊探索チームとは別に確保する、魔獣対応チームへの専門家派遣とその活動支援を行うそうだ。
いずれにせよ、魔獣への対応に長けた専門家集団同士の共同作業となるので、一般兵同士よりはスムーズに共同作戦を遂行できるだろう、とのこと。
まぁ、この件は専門家チームが結成されれば、後はお任せするしかないから、作戦が成功するのを祈るしかなかった。
ちなみに、活動内容の記録を元に、ドキュメンタリー映画を作る件については、各勢力から監修に携わる専門家を派遣することと、彼らからの指摘に沿って作品が完成しても、まずメンバーを絞った試写会を行い、大きな問題となる内容がないことを確認してからでないと、一般公開は許可できない、との見解も添えられていた。
人族からは問題がない描写も、小鬼族から見れば酷い描写となる、なんてこともありそうだから、これくらい慎重に進めるのが良いのだろうね。
魔獣対応チームに撮影者が同行する訳にはいかないから、俳優さん達とか、魔獣の姿を創り出す幻術使いさんとかがいないといけないし、小鬼族や鬼族役はやっぱり本物に頼まないとリアリティに欠けるし、竜の飛行の方と違って、同じドキュメンタリー作品と言っても、かなりの資金とかも必要になりそうだ。
「と言う訳だから、リア姉、適任の監督さんとか、必要な資金確保とかなんとかなりそう? こっちの作品なら、僕とお爺ちゃんの連名で群衆的資金調達で稼ぐのも手だと思うんだよね。僕の立場にも沿うし、妖精さん達の協力が得られれば、空撮の手間もだいぶ楽になるでしょ?」
「小鬼族や鬼族とも協力して撮影する、という話なら儂らも協力しても良いと思っとるんじゃよ。無論、国としてではなく、儂のポケットマネーでの出資となるが。給料の支払いができれば、撮影に協力したいという妖精達もすぐ集まるじゃろう」
……って、リア姉に掛け合ってみたんだけど、それはいいね、とはならなかった。
「はいはい、二人とも先ずは落ち着こうか。竜の飛行のほうは、協力してくれる竜を二柱確保して、並んで飛行して撮影できる小型召喚竜が何柱かと、撮影機材を動かす妖精達が確保できれば、後は編集を頑張るだけで何とかなるけど、今回の話は人族系、小鬼族、鬼族の魔獣担当チーム役を確保したり、現地での撮影をしたり、生息地の移動を行う魔獣を本物並みに再現できる幻術使いを確保したりと、とにかく大掛かりになる。文化的な側面も大きいし、本物をそのまま撮影すればいいってもんでもない。機密に触れる内容を回避するといった配慮も必要になってくるんだ。きっと、冒頭ではアキも含めて、各勢力の代表達のコメントも流す必要が出てくると思う。紫竜様の使い魔探しの件もどう表現するかだけで、結構頭が痛いよ。紫竜様に後で知られるくらいなら、先に説明しておく配慮もいるだろう」
お、おぅ。
「なんか面倒臭そうだね」
「竜と撮影機材だけで済む話とはずいぶん違うのぉ」
「何分の作品に仕上げるのか、作戦内容をどこまで情報公開して貰えるのか、各勢力からどの程度、撮影に協力して貰えるのか、現地での撮影時の注意点は何か、それに作戦の成否にもよるけど、公開するのに適切な事例とはならないかもしれない。初の共同作戦となるから、情報を残すのは良いことだけど、専門家による作戦結果の評価を終えてからでないと、撮影できるか判断は難しいってところだと思うよ」
「うーん。その調整をする人も専任で設けないと大変そうだね」
「アキが声掛けをするとしても、実務を担える逸材がいないと揉めそうじゃ」
僕達が状況を理解したのをみて、リア姉も表情を和らげた。
「とは言っても、初の共同作戦な訳だし、映画を作るのに相応しい内容なのも確かだ。誰が出資者となるにせよ、監督が誰になるにせよ、面白い試みになるのは間違いない。案外、小鬼族や鬼族の監督にお願いする話になったりするかもしれない。必要なのはこの作品をきっちり仕上げられるだけの実力であって、種族が何かは問題じゃないんだから。勿論、我々だって負ける気はないから、一応、構想を監督の何人かに持ち掛けては見るよ」
リア姉もそう言ってくれたので、僕とお爺ちゃんは是非宜しくとお願いした。
こちらの映画撮影は、それ自体が映画となるドラマチックな内容になりそうだった。
現代のように、地球の裏側でもすぐに連絡が届く、とはならないので、三大勢力の代表達に書簡が届くのも、それから折り返しで第一報が届くのも結構時間がかかります。とはいえ、アキも驚いてましたが、三日後で返事が来るというのは、驚きの速さでした。
ニコラスですが、代表としては本来なら出しにくいカードを切ってきました。アキのところから他に漏れることはないと確信してなければ取れない選択でしたね。
アキも心話や思念波から相手の心を推測するのには長けてますが、一般人相手の観察眼に優れているかといえば、並くらいでしかなく、代表達の取り繕った外見の奥を見透かすだけの力はありません。そこをしっかり見切って、弱った姿、苦労する姿を見せたのは良い判断だったと言えるでしょう。
妖精達も、データで持ち込めない分の道具類はこちらで作らせるなど、演出にはかなり気合が入っています。妖精界で流しで演出をやってみて、次にこちらに持ち込んで同様に演出ができるよう調整する、なんて感じですから。この辺りの苦労話も終わった後に翁が色々と語ってくれるでしょう。
映画製作の件ですが、これって冷戦時にアメリカ、ソ連が共同作戦を実施して、その結果をドキュメンタリー映画にして放映しようってくらいの試みなので、制作にかかる手間や調整の大変さもあるでしょうけど、そのインパクトは絶大です。「死の大地」の浄化も共同作戦なんですが、規模が大き過ぎるのと期間が長すぎるので、全ての結果を見ようとすると、短く見積もっても小鬼族なら祖父の代から三世代なんてスパンです。それに比べてこちらはせいぜい数か月。それに身近な土地ですからね。
話を持ち込まれて、監修付き、事前上映会でチェックすること必須と条件を付けたとはいえ、許可を出した代表達の英断はなかなかできるものではないでしょう。
次回の投稿は、十月二十七日(水)二十一時五分です。